( ^ω^)ブーンの手に雀牌が馴染んでいくようです 2話
105 :第2話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/02(日) 20:55:09 ID:iN94.SDg0
【第2話:広がりゆく一歩目】
 
 
 県大会当日。
 時計が先ほど7時を示したばかりで、朝の光は微弱だった。
 試合会場である県民会館の前に、まだ人はほとんど集まっていない。
 
(´・ω・`)「あ、来たね」
 
 初本が指差した先に、銀色の光を放つジャガー・X351が颯爽と現れた。
 停車してすぐ、助手席から伊藤が降りてくる。
 次いで、後部座席から内藤がゆっくりと姿を現した。
 
(´・ω・`)「おはよう」
 
('、`*川「おはようございまーす」
 
( っω-)「おはようございますお、むにゃむにゃ」
 
 内藤は寝ぼけ眼を擦っていた。
 夜行バスで地元に帰ってきたものの、車中であまり眠れなかったためだ。
 
(*゚ー゚)「内藤くんおはよー。眠そうだね」
 
(;^ω^)「椎名さん、おはようだお。夜行バスで寝るのって難しいお」




106 :第2話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/02(日) 20:57:44 ID:iN94.SDg0
(*゚ー゚)「あ、私のことは『しぃ』でいいよ。もちろん呼び捨てで!」
 
( ^ω^)「分かったお、しぃ」
 
(*゚ー゚)「うん。私は『ブーンくん』って呼ぶから」
 
(;^ω^)「その仇名はどこから出てきたんだお?」
 
(*゚ー゚)「内藤くんの名前って『文和』でしょ? 『文』から取ったの」
 
( ^ω^)「なるほどだお。僕はどう呼ばれてもOKだお」
 
(*゚ー゚)「やった。じゃあそう呼ぶね」
 
 椎名の朗らかな笑顔に癒され、内藤は眠気が薄れつつあった。
 その後、改めて周りを見回して、まだ二人来ていないことに気づく。
 
( ^ω^)「笑野さんと毒島は?」
 
(´・ω・`)「ちょっと遅れてるみたいだね。とはいえ、開会式は8時からだから、まだいいんだけど」
 
(*゚ー゚)「ドっくんにさっきメールしたら、どうも起きたばっかりだったみたいで、『すぐ行きます!』って返ってきましたよ。何故か敬語で」
 
(´・ω・`)「ははは。毒島は家が近いはずだから、あと10分くらいで来るかな」
 
('、`*川「笑野さんは、あぁ見えて結構きっちりしてるから、間に合いそうですね」
 
(´・ω・`)「そうだね。元々笑野には『できれば7時、遅くとも8時までに』としか言ってないし」




107 :第2話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/02(日) 21:01:26 ID:iN94.SDg0
(*゚ー゚)「初本さん、開会式までまだ時間あるなら、あそこのガスト入りませんか? ゆっくりしたいです」
 
(´・ω・`)「うん、いいね。コーヒー飲みたい気分だし」
 
 試合会場から徒歩一分ほどの場所にあるガストに四人が入った。
 それぞれ自分の飲み物を注文し、程なくして毒島が到着する。
 
('A`;)「遅れてすみません」
 
(´・ω・`)「いや、いいよ。ガストにいるっていうのは椎名から聞いたの?」
 
('A`;)「あ、メールしていただいたんで、はい」
 
(;゚ー゚)「そんなよそよそしい言い方しなくても」
 
 毒島が追加でコーヒーを頼んで、すぐに五人の飲み物が揃った。
 内藤はすぐにオレンジジュースを飲み干してドリンクバーへと向かい、再びオレンジジュースでコップを満たして席に戻った。
 
(´・ω・`)「内藤、ルールはどれくらい覚えられた?」
 
(;^ω^)「あ、えーっと」
 
(´・ω・`)「あんまり覚える時間なかった、って感じかな」
 
(;´ω`)「すみませんお。実は、そうなんですお」
 
 実家の祖父母が、家を新築するにあたって一時的にアパートへ引っ越すことになった。
 その引越しを二日間手伝った内藤は、就寝前しか本を読む時間がなく、まだほとんど知識を蓄えられていない状態だ。
 尤も、それは初本が予想していたことでもあった。




111 :第2話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/02(日) 21:05:44 ID:iN94.SDg0
(´・ω・`)「無理を言ってるのはこっちだからね、しょうがないんだけど」
 
(*゚ー゚)「でも、まだ時間はあります! ウチは二回戦からですし!」
 
(´・ω・`)「そうだね。その間に少しでも教えたいところだ」
 
( ^ω^)「二回戦から? どういうことですお?」
 
(´・ω・`)「最初に大会のルールについて説明しようか」
 
 初本が鞄から大会についての資料を取り出した。
 五枚くらいの紙の左端がホッチキスで留められている程度の簡素なものだ。
 
 机を軽くナプキンで拭いた初本が資料を机に置くのとほぼ同時に、笑野が到着した。
 
( ^Д^)「おはようございます」
 
(´・ω・`)「おはよう」
 
( ^Д^)「あ、大会の資料ですね。そういや今年のルール、まだ確認してませんでした」
 
(´・ω・`)「そうなのかい? まぁ、ちょうどいいや」
 
 笑野が朝食としてモーニングセットを頼み、それから初本が資料を開く。
 最初のページには組み合わせが書かれていた。




112 :第2話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/02(日) 21:08:18 ID:iN94.SDg0
(´・ω・`)「まず、一回戦は十二校が出場する。ウチはシード校だから一回戦は免除」
 
( ^ω^)「なんでシードなんですお?」
 
( ^Д^)「去年の県大会で優勝したからな」
 
( ^ω^)「おぉ! ウチは強豪校ってことですかお?」
 
(´・ω・`)「まぁね。一応、県大会は三連覇中だし。ただ今年は一年生が三人だからね」
 
( ^Д^)「毒島も椎名も実力つけてきてるけど、さすがに去年の三年生にはまだ及ばない」
 
(´・ω・`)「まぁ、それはしょうがない。最初から強い人なんていないし」
 
( ^Д^)「ともかく去年の成績のおかげでウチは二回戦からだ」
 
(´・ω・`)「一回戦を勝ち上がった六校と、去年の県大会の優勝校と準優勝校、併せて八校が二回戦を戦う」
 
( ^Д^)「二回戦は半荘戦ですか。ここは去年と変わりませんね」
 
(´・ω・`)「そうだね。この二回戦で半分が削られて、勝ち残った四校が決勝を戦う」
 
( ^Д^)「決勝で一位になった高校が優勝、晴れて全国への切符を掴むってわけだ」
 
(´・ω・`)「まぁ、厳密に言うと二位はプレーオフに回るから、二位でも可能性はあるんだけど」
 
( ^Д^)「ただ、プレーオフを勝ち抜いて全国へ進出するのは相当厳しい。是が非でも優勝したいところだ」




115 :第2話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/02(日) 21:10:53 ID:iN94.SDg0
( ^ω^)「なるほどですお。って、あれ? 決勝は明日やるんですかお?」
 
(´・ω・`)「うん。今日一日で決勝までやるのは時間的に無理だからね。決勝は一荘戦だし」
 
( ^Д^)「決勝は朝から夜までやるぞー。毎年だいたい10時間くらいかかってるからなー」
 
(;^ω^)「そんなに時間かかるんですかお」
 
(´・ω・`)「まぁ、ひとりひとりが打つのは二時間くらいだよ。とはいえ、終盤は精神的な疲れもあるけど」
 
 笑野の注文したモーニングセットが運ばれてきた。
 黄身が二つの目玉焼きとソーセージ、グリーンサラダが小さなプレートに載っている。
 笑野は資料を覗き込みながら、ソーセージを齧った。
 
( ^Д^)「先鋒、次鋒、中堅、副将、大将の五人を選出して戦う。これはまぁ、いつもどおりですね」
 
( ^Д^)「って、あれ? 得点のルールが変わってますね」
 
(´・ω・`)「うん。今回それが大きな変更点だよ」
 
(*゚ー゚)「あ、昨日ネットで確認しました。割合計算するんですよね」
 
('A`)「どういうことですか?」
 
(´・ω・`)「半荘戦は各自が25000点、一荘戦は各自が50000点を持つ。ここは去年と変わってない」
 
(´・ω・`)「で、終局したら一位が100ポイントを貰う。これは固定なんだけど、二位以下が変動する」
 
(´・ω・`)「一位の得点との割合を計算して、小数点以下を切り捨てた値がそのままポイントになるんだ」




116 :第2話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/02(日) 21:13:11 ID:iN94.SDg0
('A`;)「えーっと? つまり一位が50000点で、二位が40000点だったら、二位は80ポイントですか?」
 
(´・ω・`)「うん。ただし順位によって少し変わる」
 
(*゚ー゚)「二位はそのままだけど、三位はそこから5ポイント、四位は10ポイント引かれちゃうみたい」
 
(´・ω・`)「一位が50000点で三位が25000点だったら、割合計算上は50ポイントだけど、5ポイント引いて45ポイントってわけだね」
 
('A`)「なるほどです」
 
(´・ω・`)「あと、0点になった人が出たら、その戦いはそこで終わりなんだけど、もちろん0点は0ポイントだよ」
 
( ^Д^)「で、最終的に五人のポイントを合計して、その合計ポイントで順位を決めるってわけですか」
 
(*゚ー゚)「大将戦の前に一位と二位に100ポイント以上の差がついてたら、そこで打ち切りなんですよね」
 
(´・ω・`)「うん、そこで順位が確定する。だから、ウチとしては副将戦までに決着をつけたいところだ」
 
( ^Д^)「そうすれば内藤は打たなくて済みますね」
 
(;^ω^)「それは助かりますお。というか、僕が打つ展開になったらヤバイですお」
 
( ^Д^)「県大会レベルなら何とかなるさ。手強い高校もチラホラいるが」
 
(´・ω・`)「うん、何とかしないとね」
 
 笑野がモーニングセットを平らげ、フォークを置いた。
 そしてすぐ、乾いた喉を潤すために、コーラを一気に飲み干す。




117 :第2話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/02(日) 21:15:37 ID:iN94.SDg0
( ^Д^)「ぷはー。じゃあ次は競技ルール確認しときましょうか」
 
(´・ω・`)「そうだね。とはいえ、競技ルールは大きな変更点はないよ」
 
( ^Д^)「符計算は? 今年もなしですか?」
 
(´・ω・`)「うん。符計算なしルールは今後も続くだろうね」
 
( ^Д^)「内藤に教えるのが楽でいいですね」
 
(´・ω・`)「ははは、そうだね」
 
(;^ω^)(婦警さん?)
 
('A`)「他のルールは、えーっと。後付けありとか喰い断ありとかは、まぁ当然ですよね」
 
(*゚ー゚)「赤ドラはないんですね」
 
(´・ω・`)「去年はあったんだけどね。逆に、去年はなかった数え役満が今年はあるよ」
 
( ^Д^)「他は昨年と同じですか。よし、あとは全部薙ぎ倒すだけですね」
 
(´・ω・`)「頼もしいね。期待してるよ、エース」
 
( ^Д^)「あ、俺は副将でいいんですか?」
 
(´・ω・`)「うん。実質的に大将だけどね」
 
( ^Д^)「じゃあ初本さんが中堅ってことですか。毒島と椎名は?」




121 :第2話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/02(日) 21:21:05 ID:iN94.SDg0
(´・ω・`)「毒島が先鋒、椎名が次鋒。無事決勝に進めたら、またオーダーは変えるかもしれないけど」
 
(*゚ー゚)「私は次鋒なんですね、頑張ります!」
 
('A`;)「不安のほうが大きいですけど、最善を尽くします」
 
(´・ω・`)「うん、二人ともよろしく頼んだよ。じゃあそろそろ会場に向かおうか」
 
 それぞれが自分の朝食代とドリンク代を初本に渡し、会計を済ませて店を出た。
 太陽は角度をつけ始めて、朝の白さは薄れつつあった。
 
 六人揃って、会場である県民会館に向かう。
 開会式まで、あと15分ほど。既に参加校は集結し、館内は人の声が蠢いていた。
 
(´・ω・`)「大広間で開会式があるからね。まぁすぐ済むんだけど」
 
('、`*川「試合開始は8時30分からですね」
 
(´・ω・`)「そうだね。ただ、僕らはシードで二回戦からだよ。昼過ぎまでは待機だ」
 
(*゚ー゚)「いよいよ始まるんですね。わくわくです」
 
( ^Д^)「よっしゃ、大広間に行こうぜ」
 
 笑野が先陣きって中に入り、他の五人が後をついていく形で大広間へと向かう。
 その途中、初本に向かって手を挙げる男がいた。
 
(‘_L’)「おはようございます」
 
(´・ω・`)「久しぶりだね、水戸くん」
 
 差し出された右手を初本が握った。
 肯綮高校の水戸蓮人。県内屈指の実力者だ。




122 :第2話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/02(日) 21:23:54 ID:iN94.SDg0
(‘_L’)「今年も芽院高校が強いことは分かっていますが、我が校も昨年と同じではありませんよ」
 
(´・ω・`)「だろうね。一番警戒してるよ」
 
(‘_L’)「決勝で当たるのを楽しみにしています。それでは、また」
 
 水戸が軽く頭を下げ、芽院高校の生徒を先に通した。
 彼なりに、昨年の優勝校に敬意を表したのだ。
 
 大広間には既に参加校が集まっていた。
 
(;^ω^)「おぉっ、けっこうたくさん居ますお」
 
(´・ω・`)「麻雀部がある高校はそれほど多くない、とはいえ全部で14校いるからね」
 
('、`*川「100人くらい居ますかね?」
 
(´・ω・`)「選手としては70人。あとはメンバーから漏れた部員とかマネージャーとかもいるから、だいたい100人くらいかな」
 
( ^Д^)「始まりますね。着席しましょう」
 
 芽院高校の六人が着席するのとほぼ同時に、県大会の主催者が登壇した。
 白髪で恰幅のいい老人が、淡々と紙を読み上げる。
 
 初本は、あまりその声を聞かずに、周囲を見回していた。
 既に二度出場した大会で、見知った顔も多い。
 しかし当然、各校の一年生のことは分からない。




125 :第2話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/02(日) 21:26:03 ID:iN94.SDg0
(´・ω・`)(一年生に思わぬ実力者がいるかもしれない。まぁ、そんなこと考えても分からないんだけど)
 
(´・ω・`)(とりあえず手強いのは肯綮高校、これは間違いない)
 
(´・ω・`)(一昨年、昨年と連続で準優勝。今年はかなり優勝に燃えているはずだ)
 
(´・ω・`)(あとは麦秀高校の伊要、陶冶高校の杉浦も去年手強かったし、今年も勝ちあがってきたら厄介だ)
 
(´・ω・`)(ウチは四人目までに決着をつけないといけない。苦しい戦いになるのは間違いないな)
 
 初本が思考を巡らせているうちに、主催者の挨拶が終わっていた。
 次いでルールが説明されるが、これは事前に配布された資料と全く同じ説明だった。
 
(´・ω・`)(開会式が終わったら、とにかく内藤にルールを教えないと)
 
(´・ω・`)(ただ、各校の新入生の実力もチェックしておきたい。ルールを教えるのは他の部員に任せたほうがいいかな)
 
(´・ω・`)(新戦力の実力次第では、ノーマークの高校の台頭もありうる。怖いところだ)
 
 常に思考を続けるところは、日常生活でも麻雀でも変わらない。
 初本は、そんな自分の特徴をよく分かっていた。
 
 ただ、今年は去年までとは違う。
 最高学年となり、皆を引っ張らなければならない立場となった。
 思考だけを続けているわけにもいかなくなった。
 
(´・ω・`)(改めて思い返してみると、不安ばっかり抱えてるなぁ、僕は)
 
 思考の果てにそう思い、自嘲的な笑みが軽く漏れる。
 初本は、いかに去年までの自分が先輩に頼っていたのかを、改めて自覚したのだ。




127 :第2話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/02(日) 21:29:15 ID:iN94.SDg0
 初本自身、県大会では上位レベルの実力がある。
 ただし、昨年は全国大会ではほとんど通用しなかった。
 その自分の実力から生じる不安が、まず大きいのだ。
 
 全国区の打ち手である笑野に関しては、初本はほとんど心配していなかった。
 県大会レベルでは敵がいない。今年もやってくれるだろう、と期待を込めていた。
 しかし、一年生たちの実力がどこまで通じるのかは、やってみなければ分からない部分が大きい。
 
 昨年までは、自分の麻雀にだけ集中していればよかった。
 部長となった今年は、皆を牽引していく必要がある。
 果たして自分に務まるだろうか。初本の不安は、誰にも言えないまま低回している。
 
 やがて、開会式が終わった。
 
( ^Д^)「ふー、終わった終わった。一回戦から戦う高校はすぐ試合なんてキツイですね」
 
(´・ω・`)「そうだね。笑野もそうだけど、僕も二回戦からの県大会しか経験してないし」
 
( ^Д^)「よーし、二回戦まで内藤をビシバシ鍛えるぞ!」
 
(;^ω^)「お、お願いしますお」
 
(´・ω・`)「いや、待ってくれ笑野」
 
( ^Д^)「え?」




128 :第2話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/02(日) 21:31:26 ID:iN94.SDg0
(´・ω・`)「内藤の指導は毒島と椎名に任せよう。僕たちは他校の試合を見ておくべきだ」
 
( ^Д^)「肯綮高校だけ注意しとけばいいんじゃないですか?」
 
(´・ω・`)「慢心は敵だよ、笑野」
 
(;^Д^)「うぐ、そうですね。侮っちゃいけませんね」
 
(*゚ー゚)「じゃあ私たちでブーンくんにルール教えますね。観戦のほう、よろしくお願いします」
 
(´・ω・`)「うん、そっちもよろしく」
 
 それから、初本は皆と一緒に控え室へと向かおうとした。
 しかし、初本の視界に、再び肯綮高校の水戸が入った。
 水戸の視線は初本に向いており、開会式の前と同じように歩み寄ってくる。
 
(´・ω・`)「あぁ、みんなは先に控え室に行ってていいよ」
 
 そう言って、初本は部員を控え室へ向かわせた。
 水戸が、先ほどとは違った空気を醸し出していたためだ。
 
(´・ω・`)「随分な表情じゃないか」
 
(‘_L’)「開会式の前は時間がなくて聞けなかったことを、聞いておこうと思いまして」
 
(´・ω・`)「何だい?」
 
(‘_L’)「"ネット界最強雀士の『ホライゾン』が芽院高校にいる"」
 
(´・ω・`)「!」
 
(‘_L’)「真の話ですか?」




132 :第2話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/02(日) 21:33:51 ID:iN94.SDg0
 笑野は、ネットで噂を聞いたと言った。
 ならば水戸が知っているのも不思議ではない、と初本はすぐに理解できた。
 それでも動揺したのは、他校に質問された際の応答を考えていなかったためだ。
 
(´・ω・`)「ネットで聞いたのかい?」
 
(‘_L’)「えぇ」
 
(´・ω・`)「かなり広まった噂のようだね」
 
(‘_L’)「最近、頻りに噂されていますよ。三日前の出来事が、それに拍車をかけているのですが」
 
(´・ω・`)「どういうことだい?」
 
(‘_L’)「メンバー変更ですよ。噂が広まりだしたときに、誂えたようなタイミングでしたからね」
 
(´・ω・`)「なるほどね」
 
 ネット上では、芽院高校に『ホライゾン』がいるという噂が広まりだしていた。
 そこにちょうど、芽院高校が締め切り直前にメンバーを変更するという出来事があった。
 どうやら、『ホライゾン』を見つけてメンバー変更を実施した、という風に勘違いされたらしい、と初本は思った。
 
(´・ω・`)(まぁ、流れとしては間違っちゃいないんだけど)
 
(‘_L’)「正直、半信半疑でしたが、先ほどの反応を見る限りでは、ただの噂ではなさそうですね」
 
(‘_L’)「内藤という一年生、存分に警戒させていただきますよ」
 
(´・ω・`)「まぁ、対局を楽しみにしてるといいよ」
 
(‘_L’)「えぇ、そうさせていただきます」




134 :第2話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/02(日) 21:36:06 ID:iN94.SDg0
 肯綮高校の控え室へと向かう水戸の背中を見送ってから、初本も控え室に向かった。
 参加校すべてに個別の控え室が用意されており、気兼ねなく作戦を練ることができる。
 二年前までは控え室の数が少なく、他校と同じ部屋で余計な気苦労をさせられることがあったのだ。
 
 控え室に向かう途中で初本はペットボトルの緑茶を買い、観客席にも寄った。
 一般開放されており、疎らながら観客が既に入っていた。
 直接試合を見るのではなく、大型のテレビに映し出される映像を観るための部屋だ。
 
 観客の年齢層は様々だが、性別としては男のほうが多い。
 家族連れも居て、徐々に賑わいだしているところだった。
 
(´・ω・`)(さてと、どうするかな)
 
 寄り道を終えた初本は再び控え室へ向かう。
 思考を巡らせながら。
 
(´・ω・`)(水戸くんは『ホライゾン』のことを知っていた。多分、他の高校も同じだろう)
 
(´・ω・`)(最大限、警戒される。それはまぁ、別にいいんだけど)
 
 曲がり角を曲がって、控え室が立ち並ぶ通路を進んだ。
 何人かの生徒が廊下で立ち話をしている程度で、それほど騒がしくはない。
 
(´・ω・`)(芽院高校としては、真実を言うべきか、否か?)
 
(´・ω・`)(とはいえ、真実を言ったところで今更遅いか。僕が『内藤はホライゾンじゃない』と言っても疑われるに決まってる)
 
(´・ω・`)(だったらいっそ、思い切った作戦に出たほうが良さそうかな)




136 :第2話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/02(日) 21:38:27 ID:iN94.SDg0
 頭のなかに思考を漂わせたまま、初本が芽院高校の控え室に入る。
 八畳程度の広さで、テレビと机と椅子があるだけの簡素な部屋だ。
 既に机の上には雀牌が散らばっていた。
 
('A`)「で、牌を切って、また自分の番が来たら山から一枚取る」
 
( ^ω^)「こんな感じかお?」
 
(*゚ー゚)「うん、そうそう」
 
 内藤には毒島と椎名がついていた。
 笑野と伊藤はテレビの前に座っている。
 試合は、地上波や衛星回線での放送はないものの、会場内ではリアルタイムで映像を見ることができるのだ。
 
(´・ω・`)「とりあえず、順調そうだね」
 
(*゚ー゚)「はい。まだ基本的なところですけど」
 
(´・ω・`)「とにかく試合で変なミスが出ない状態になってさえいれば、今のところはいいかな」
 
('A`)「ミスが出たら、そのときはしょうがないですよね」
 
(´・ω・`)「そうなんだけど、ちょっと考えがあってね。繰り返しになるけど、ミスが出ないようにしたいんだ」
 
(*゚ー゚)「どういうことですか?」




137 :第2話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/02(日) 21:40:25 ID:iN94.SDg0
(´・ω・`)「さっき水戸くんに聞かれたんだよ。『ホライゾン』がいるらしいねって」
 
(;^ω^)「おっ?」
 
(*゚ー゚)「もうそんなに広まってるんですか?」
 
(´・ω・`)「そうみたいだ。恐らく、どの高校も内藤のことを『ホライゾン』だと思ってるだろうね」
 
(;^ω^)「おっおっ」
 
(´・ω・`)「厄介な状況だけど、逆に利用するのも手だと思うんだ」
 
(*゚ー゚)「?」
 
('A`)「利用するってことは、『内藤はホライゾンだ』という嘘をつくってことですか?」
 
(´・ω・`)「いや、嘘はつかない。肯定も否定もしない。そのほうが効果的だと思うからね」
 
 肯定、否定、どちらもあまり意味を為さないだろうと初本は考えていた。
 いずれにせよ、かなり広まっている噂に対しては火に油を注ぐようなものだ。
 
(´・ω・`)「内藤を『ホライゾン』だと勘違いしてくれたままなら、相手はほぼ確実にエースを大将に起用する」
 
(´・ω・`)「だが、ウチはエースに副将を務めてもらって、副将戦で試合を終わらせる。相手のエースを封じ込められるんだ」
 
(*゚ー゚)「おー! 本当ですね!」




140 :第2話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/02(日) 21:42:45 ID:iN94.SDg0
(´・ω・`)「これが最大のメリットだけど、他にもメリットはある。万が一、内藤にまで回ってしまった場合だ」
 
(;^ω^)「起きて欲しくはない事態ですお」
 
(´・ω・`)「普通にやれば勝てるはずがない。相手は経験豊富な各校のエースだからね」
 
(´・ω・`)「だけど、『ホライゾン』だと思い込んで対局すると、恐らく打ち筋が変わる」
 
(´・ω・`)「あまり強気に打てなくなるはずだ」
 
('A`)「確かに、自分だったらそうなります。警戒してしまいますね」
 
(´・ω・`)「いずれはバレるかもしれないことだけど、序盤だけでも怯えてくれていれば、ウチにとっては有利だ」
 
(*゚ー゚)「なるほどです。そのために、ミスが出ないようにしたいってことなんですね」
 
(´・ω・`)「うん。バレないに越したことはないからね」
 
(;^ω^)「どこまでやれるか不安ですお」
 
(´・ω・`)「内藤は気負わなくていい、失敗しても君のせいじゃない。もし出番が来たら、そのときは気楽に打ってくれればいいんだ」
 
(*゚ー゚)「うん、そうだよ。巻き込んだのはこっちだから、何が起きてもブーンくんは悪くないもん」
 
 初本と椎名が、優しげな笑みを浮かべていた。
 不安を取り除くためにそうしてくれたのだ、と内藤には分かった。




141 :第2話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/02(日) 21:44:56 ID:iN94.SDg0
( ^ω^)「了解ですお。でも精一杯頑張ってみますお」
 
(´・ω・`)「ありがとう。じゃあ、毒島と椎名は引き続きよろしく。僕は他校の試合を見ておくから」
 
(*゚ー゚)「はーい」
 
('A`)「分かりました」
 
 テレビの前の椅子に向かった初本の背中を見てから、三人は再び雀牌に触れる。
 内藤はまだ基本中の基本を覚えた程度だ。
 
('A`)「自分の手牌に同じ牌が二つあって、それを他の誰かが切ったときは『ポン』ができる。その牌を自分が貰えて、対子が刻子になる」
 
( ^ω^)「ふむふむ」
 
('A`)「同じように塔子が順子になるように牌を貰うのが『チー』で、これは自分の左側の人が捨てたとき限定だ」
 
(;^ω^)「おっおっ」
 
('A`)「自分の手牌に刻子があって更にまた同じ牌が切られたとき、今度は『カン』ができて、そんで」
 
(;^ω^)「おっ? うーん?」
 
(;゚ー゚)「ちょ、ちょっと待ってドっくん。説明が性急な感じだよ」
 
('A`;)「あっ、ご、ごめん」




144 :第2話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/02(日) 21:46:53 ID:iN94.SDg0
(*゚ー゚)「それと、カンの説明は後回しにしたほうがいいかも。実際の対局でも、まだカンはやらないほうが無難だと思うし」
 
(*゚ー゚)「初本さんも『ミスが出ないように』って言ってたし、覚えてないと危ないところから説明したほうが良さそうだよ」
 
('A`;)「そ、そうだね。もっと基本的なところから説明していこうか」
 
 二人の一年生が初心者の一年生に対し、熱心にルールを教える声が初本たちの背に届く。
 笑野は始まってしばらく経った試合に目を向けながら、三人の声を聞いて軽い笑みを浮かべていた。
 
( ^Д^)「なかなかルール教えるのって難しいっすよね」
 
(´・ω・`)「そうだね」
 
 第一回戦は、早い試合では既に先鋒の南場に突入している。
 今のところ、初本と笑野が気にかかる高校はなかった。
 
(´・ω・`)「麻雀のルールは分かりにくいからね」
 
('、`*川「本当、そのとおりです。私も未だに全然分かんないですし」
 
(;^Д^)「伊藤の場合、麻雀にあんまり興味ないってとこが妨げになってるんだと思うけどな」
 
(´・ω・`)「内藤も一緒だよ。巻き込まれたから仕方なく覚えてるだけで、『麻雀への興味』という下地がない」
 
( ^Д^)「そうっすね、確かに。興味あることはすぐ覚えられますけど、興味ないとなると厳しいかもしれないっすね」
 
(´・ω・`)「うん。専門用語は多いし、三十以上ある役も覚えないといけないしね」
 
( ^Д^)「しかも中国語っすからね」




147 :第2話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/02(日) 21:48:54 ID:iN94.SDg0
(´・ω・`)「まぁ、去年から導入された完全自動雀卓のおかげで、点数は覚えてなくても何とかなるっていうのが救いだね」
 
( ^Д^)「あれ本当に助かりますね。牌を倒すだけで勝手に役を判定して、点数まで計算してくれるなんて」
 
(´・ω・`)「完全自動雀卓がなかったら、内藤を試合に出すのは完全に諦めるべきだっただろうね」
 
( ^Д^)「あの雀卓ってどういう仕組みになってるんすかね?」
 
(´・ω・`)「雀牌ひとつひとつにICチップが埋め込まれてて、それを雀卓が読み取って判定してるらしいよ」
 
( ^Д^)「それだけで牌を倒す動きとかも分かるんすか?」
 
(´・ω・`)「六軸ジャイロセンサーも搭載してるらしいからね。別に加速度は分からなくても良さそうなんだけど」
 
( ^Д^)「よく分かんないっすけど、大したもんっすねー」
 
 初本が注視している第一回戦の第一試合は、南場二局に差し掛かっていた。
 陶冶高校の江楠が跳満を和了。トップを直撃し、順位が入れ替わった。
 
( ^Д^)「舐めてるわけじゃないっすけど、さすがに全国大会に比べるとレベルは落ちるっすね」
 
(´・ω・`)「まぁ、そりゃそうさ」
 
( ^Д^)「第一試合はどこが勝ちそうっすか?」
 
(´・ω・`)「一位通過は陶冶高校だろうね。ここは大将の杉浦くんが強い」
 
( ^Д^)「杉浦は覚えてますよ、去年戦った相手っすから」




150 :第2話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/02(日) 21:52:29 ID:iN94.SDg0
(´・ω・`)「そっちの第二試合はどうだい?」
 
( ^Д^)「順当に麦秀高校じゃないっすかね、トップ通過は。大将の伊要まで回らないかもしれないっす」
 
(´・ω・`)「伊要くんが出るまでもない、か。それは手強いかもしれないね」
 
 その後、二人が予想したとおりに展開は進んでいった。
 先鋒が得たリードを次鋒と中堅が守る、理想的な流れ。
 陶冶高校と麦秀高校の一回戦通過はほぼ確実となっていた。
 
 第三試合も凌雲高校が順調にリードを築き、他校の逆転は厳しい点差となっている。
 初本は腕時計で時間を確認した。
 
(´・ω・`)「11時か。ちょっと早いけど、昼御飯を食べておいたほうがいいかもしれないね」
 
( ^Д^)「そうっすね。三試合とも大将戦まで回らなさそうっす」
 
(´・ω・`)「まぁ、僕と笑野の出番はまだまだ先だから、急ぐ必要があるのは毒島と椎名だけどね」
 
('、`*川「買い出しはアタシが行ってきます。コンビニでいいですよね」
 
(´・ω・`)「うん。僕はおにぎり三つとメロンパンね。おにぎりの具は何でもいいや」
 
( ^Д^)「俺はチキンカツ弁当。もしなかったらハンバーグ弁当を頼む」
 
('、`*川「はーい」
 
(´・ω・`)「一人で大丈夫かい?」
 
('、`*川「さすが初本さん、優しいです! でも大丈夫です!」
 
(´・ω・`)「大丈夫ならいいんだけど、気をつけてね」
 
('、`*川「はーい♪」




154 :第2話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/02(日) 21:56:34 ID:iN94.SDg0
 伊藤が立ち上がって、内藤たちの希望を聞くべく雀卓に近寄る。
 レクチャーを始めてから既に三時間以上。内藤の顔にははっきりとした疲労が浮かんでいた。
 
('、`;川「ぐったりしてんね、内藤」
 
( ´ω`)「なんで麻雀のルールってこんなに難しいんだお、意味不明だお」
 
 内藤が雀牌の海に頭を突っ込ませる。
 慰めるようにして椎名が内藤の頭を撫でた。
 
(;゚ー゚)「突然だもんね、すぐには覚えられないよね」
 
('A`;)「とはいえ、もうあんまり時間がないなぁ」
 
( ´ω`)「一度覚えたこともしばらく経つと忘れちゃうんだお」
 
('A`;)「そこは反復していくしかないだろうけど」
 
('、`*川「とにかく、昼御飯買ってくるから、何が食べたいか教えて。内藤は?」
 
( ´ω`)「ツナのおにぎりと卵のサンドイッチとチョコロールパンとリンゴのデニッシュとヨーグルトとシュークリームとポテチとコーラ」
 
('、`;川「注文多いわねアンタ!」
 
('A`;)「ぼ、僕は適当にパンを三つくらい。クリームパンがひとつあれば、後は本当に何でもいいです」
 
('、`;川「何で敬語なのよ。まぁいいけど」
 
(*゚ー゚)「私は一緒に行くよ、ペニちゃん。試合の前にリラックスしたいし」
 
('、`*川「そう? じゃあ一緒に行こっか」




156 :第2話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/02(日) 21:58:47 ID:iN94.SDg0
 椅子から立ち上がって体の筋を伸ばした椎名が、伊藤と共に控え室から出て行き、コンビニへ向かった。
 毒島はぐったりしたままの内藤に嘆息を吐く。
 
('A`;)「いきなり覚えろって言われても、そりゃキツイだろうけどさ。頑張ってくれよ、内藤」
 
( ´ω`)「頭の中がゴチャゴチャで、しっちゃかめっちゃかだお」
 
(´・ω・`)「迷惑かけてしまって本当に申し訳ない、内藤」
 
('A`)「初本さん」
 
(´・ω・`)「毒島は少し休んでくれ。一時間くらいで試合だからね」
 
('A`)「そうですね、ありがとうございます」
 
 毒島は二回戦の先鋒として起用されることが決まっている。
 内藤ほどではないものの、必死でルールを説明しつづけたことによる疲労は多少なりともあった。
 試合には万全の状態で臨むべき、と考える初本の計らいだ。
 
(´・ω・`)「ルールはどれぐらい把握できてる?」
 
( ´ω`)「正直、どこまで理解しているのかさえ分かりませんお」
 
(´・ω・`)「ゲームのだいたいの流れは?」
 
( ´ω`)「何となく、程度には」
 
(´・ω・`)「最低限、それさえ分かってれば何とかなるよ。勝とうとしなくていい、ただゲームを流していってくれればいいんだ」
 
(´・ω・`)「仮に内藤まで回ることがあったとしても、それまでに僕らはリードを築いているはずだからね」
 
(´・ω・`)「それに、前も言ったけど、仮に負けても君のせいじゃない。気楽に臨んでくれればいいんだ」




158 :第2話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/02(日) 22:00:55 ID:iN94.SDg0
 初本の言葉は、内藤を安心させるためのものであり、本心でもあった。
 内藤に回してしまった時点で、敗北は覚悟しておくべきだと考えているからだ。
 
 そして内藤は、心に羽根がついたような軽さを覚えていた。
 
( ^ω^)「少し、気が楽になりましたお」
 
(´・ω・`)「うん。ルールはゆっくり覚えていってくれればいいから。焦らなくていいから」
 
( ^ω^)「はいですお」
 
(´・ω・`)「雀卓から離れて、少し休もうか」
 
 二人揃って立ち上がり、笑野と毒島が座っているテレビ前の長椅子に腰掛けた。
 長椅子の前には小さなテーブルがあり、そこに置かれた御欠を内藤が口にする。
 
(´・ω・`)「今ちょうど一回戦の副将戦をやってる。試合を見るのも勉強になるはずだよ」
 
( ^ω^)「実はちょっと見てみたかったんですお」
 
 一回戦の三試合は並行して実施されているが、進行度合いは試合によって違った。
 第一試合は早くも南場に突入しているが、第二試合は東三局、第三試合は東二局の一本場だ。
 
( ^Д^)「やっぱ大将戦には回りそうもないっすよ、初本さん」
 
('A`)「あと30分くらいで決着しそうですね」
 
(´・ω・`)「うん。大将たちが去年とどう違うのか見ておきたかったけど、こればっかりはしょうがないね」




159 :第2話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/02(日) 22:03:32 ID:iN94.SDg0
 やがて第一試合が終わった。
 一位は麦秀高校、二位が万斛高校。ここまでが二回戦に進出する。
 三位と四位は一回戦敗退となった。
 
('、`*川「お昼ですよーっと」
 
(*゚ー゚)「ドっくん早く食べなきゃだね、試合始まっちゃう」
 
('A`;)「あ、ありがとうございます」
 
 買出しから戻ってきた二人が袋を机に置き、毒島は何度も頭を下げてからパンを受け取る。
 要望していたクリームパンと、後はショコラデニッシュ、ベーコンマヨネーズパンだ。
 代金として400円を支払ってから袋を開いて食べ始めた。
 
('、`*川「笑野さん、チキンカツ弁当はなかったです。チーズハンバーグ弁当ですけどいいですか?」
 
( ^Д^)「サンキュー」
 
(*゚ー゚)「初本さんはおにぎり三つとメロンパンですよね。チョコチップメロンパンしかなかったですけど」
 
(´・ω・`)「あぁ、構わないよ。ありがとう」
 
(*゚ー゚)「あとこの袋に入ってるのは全部ブーンくんのだから。はい、どうぞ」
 
( ^ω^)「おぉ、ありがとだお。あ、代金、お札しかなくてゴメンだお。お釣りあるかお?」
 
('、`*川「大丈夫、内藤はジャスト1000円だから」
 
 初本と笑野も伊藤に代金を払ってから食べ始めた。
 伊藤が買ったのはチョコクロワッサンとクイニーアマン、袋から香ばしい匂いを漂わせているホットスナックのチキンだ。
 椎名は控え室に備え付けられたポットで湯を沸かし、スープ春雨のカップに注いだ。




160 :第2話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/02(日) 22:05:46 ID:iN94.SDg0
(;^Д^)「しくじった、俺もチキン頼めばよかった」
 
('、`*川「食べます? 一口だけならいいですよ」
 
( ^Д^)「マジ? サンキュー」
 
(´・ω・`)「あ、第二試合が終わったね」
 
(*゚ー゚)「後は第三試合だけですね」
 
 第二試合は陶冶高校と豊稔農林高校が上位となり、二回戦進出を決めた。
 残る第三試合もオーラスに突入している。
 
 そして最後は一位の凌雲高校が安目の手を和了って終局。
 凌雲高校と和煦高校が二回戦へと駒を進めた。
 
(´・ω・`)「決まったね」
 
( ^Д^)「ウチは確か、第一試合の一位と、第二試合の二位と、第三試合の一位が相手ですよね」
 
(´・ω・`)「うん。だから麦秀高校と豊稔農林高校と凌雲高校だね」
 
(*゚ー゚)「どこが強いですか?」
 
(´・ω・`)「麦秀。椎名の相手は恐らく簿留っていう三年生だと思うけど、少し手強いかもしれないね」
 
(*゚ー゚)「楽しみです!」
 
('A`)「麦秀の先鋒は松中ですよね」
 
(´・ω・`)「ん? そうだけど、もしかして知り合い?」




162 :第2話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/02(日) 22:08:49 ID:iN94.SDg0
('A`)「同じ中学だったんですよ。接点は全くなかったですし、麻雀やってるとは知らなかったですけど」
 
(´・ω・`)「へぇ。奇妙な縁もあるもんだね」
 
( ^Д^)「麦秀の副将の名織ってやつはパっとしないっすね。打牌がめちゃくちゃ早いっすけど、ミスが多いっすよ」
 
(´・ω・`)「あぁ、僕も見てたけど、そんな感じだったね。ただ、自分のペースに持ち込んだときは強いタイプかもしれない」
 
( ^Д^)「そうっすね、警戒しときます」
 
 一回戦の三試合が全て終わったあと、テレビには第二回戦の組み合わせが表示されていた。
 同時に試合開始時間も示されている。12時30分から開始だ。
 時計の短針は真上を向き、長針はそこからやや進んだところにいた。
 
(´・ω・`)「試合開始は12時30分だけど、一応10分前には対局室に入っておいたほうがいいよ、毒島」
 
('A`)「分かりました」
 
 三つのパンを全て食べ終え、喉を鳴らして緑茶を飲む。
 対局室に持ち込むためのペットボトルを抱え、立ち上がって軽く体を動かした。
 
 内藤まで回さずに二回戦を終わらせるためには、先鋒戦で躓くことは許されない。
 毒島は、それを充分に理解していた。
 
 初めての公式戦にかかる重圧としては、非常に大きい。
 しかし、表情に出すことのないまま、毒島は制服のブレザーを羽織った。




163 :第2話 ◆azwd/t2EpE:2012/09/02(日) 22:11:17 ID:iN94.SDg0
('A`)「行ってきます」
 
(´・ω・`)「頼んだよ」
 
( ^Д^)「ぶちかましてこい!」
 
(*゚ー゚)「頑張ってね!」
 
('、`*川「行ってらっしゃーい」
 
( ^ω^)「頑張ってだお!」
 
 麻雀部の面々に見送られ、控え室の扉の取っ手を捻る。
 一回戦を通過した高校が集う対局室へと、毒島が歩を進めた。
 
 第三十八回、全国高校麻雀選手権、三重県大会。
 昨年の優勝校、芽院高校が初陣へと臨む。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
  第2話 終わり
 
     〜to be continued


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