( ^ω^)ブーンはムゲンと戦うようです
1 :  ◆eWZ4SQG3kA   : 2012/08/16(木) 21:25:11.92 ID:2UXYrw2y0 





序 [Fate] 




────Start. 







2 :  ◆eWZ4SQG3kA   : 2012/08/16(木) 21:27:50.64 ID:2UXYrw2y0

空が高い。 
どこまでも高く、青が続いている。 
いくつもの大きな雲が浮かび、それらが夏空を描いていた。 

眼下。 

空に比べるとちっぽけな、人と比べるとだだ広い演習場がある。 
その中で、幾つもの長方形を形作る黒い点が、時折停止し、時折動いていた。 

( ФωФ)「さぼりか? 内藤」 

煙草をふかしながらその様子を見つめる自分に、杉浦ロマネスクがそう声をかけてきた。 

( ^ω^)「僕がさぼりなら、お前もさぼりってことだおね、杉浦」 

( ФωФ)「吾輩はついさっき夏期休暇をいただいたのである」 

( ^ω^)「なんだお。僕と同じじゃないかお」 

( ФωФ)「そういうことである」 

杉浦は後方から並び、自分のとなりに腰掛けた。 
夏の陽を受け敷き詰められた緑の絨毯は、なかなかの座り心地だ。 
ここは、ヴィップ陸軍第八部隊基地を見下ろせる、丘の中腹だった。 




4 :  ◆eWZ4SQG3kA   : 2012/08/16(木) 21:30:07.19 ID:2UXYrw2y0

( ФωФ)「一等兵の隊列訓練か」 

( ^ω^)「だお。まだまだ動きが固いおね」 

( ФωФ)「彼らが入隊してまだ三ヶ月。無理もないのである」 

( ^ω^)「一年経つ頃には何人抜けてるか……」 

( ФωФ)「三分の一、は居ないであろうな」 

( ^ω^)「いい読みだお。僕もそう思うお」 

悪友は口の端を僅かに釣り上げた。 
微笑の時も大笑いの時も、杉浦は昔からこの程度にしか表情を崩さなかった。 
今の笑みは表情通り、キザったらしく、ふっと笑ったのだろう。 

( ФωФ)「そういえば」 

( ^ω^)「お?」 

( ФωФ)「伍長への昇級試験に受かったそうであるな」 

( ^ω^)「だお。やっとお前に追いついたお」 

( ФωФ)「遅いのである。内藤なら、とっくに吾輩を抜いていてもおかしくないのである」 





6 :  ◆eWZ4SQG3kA   : 2012/08/16(木) 21:32:24.79 ID:2UXYrw2y0

( ^ω^)「馬鹿言うなお。杉浦には剣道でも柔道でも、基礎体力測定だって勝ったことないお」 

( ФωФ)「体力だけでは、この先上に上がるのは難しいのである」 

( ФωФ)「内藤には吾輩にないものを持っている。それに気がつけば、すぐに追い抜ける」 

( ^ω^)「……昔っからわけわかんないこと言う奴だお……」 

今から五年前。 
自分と杉浦はヴィップ国軍に入軍した。 
出会ったのはもっと前だ。中学時代に出会い、その頃から共に国軍を目指した。 

この国、ヴィップは世界的に見ても大きな面積を持ち、それに恥じぬ軍事力を所持している。 
重火器、戦車、戦闘機、戦艦たちをただ並べて誇示しているのではなく、文字通り実力で世界に名を轟かせていた。 
今は各国と休戦協定が結ばれているが、自分が生まれる以前は戦争で連戦連勝を重ねていたと聞いている。 

その為に、軍には国中のエリートたちが集う。 
休戦中に更なる軍事力の強化を目論んでいる、と各国の首脳は警戒しているという話をよく耳にするが、 
実際には噂だけ。確たる証拠はどこにも存在しなかった。 

それもそうだ。 
パッシングしようものなら、即座に協定は破棄されヴィップに蹂躙されてしまうからだ。 
世界中の国々が恐れている軍事国家が、自分が生まれたヴィップだった。 

だが、国内は平和そのものであった。 



7 :  ◆eWZ4SQG3kA   : 2012/08/16(木) 21:34:43.02 ID:2UXYrw2y0 

衣食住は当然のこと、教育も、医療も、先進国筆頭と言われるほどに安定している。 
戦時中ですら、本国は一度も攻め込まれることもなく、平和そのものだったという。 
これは紛れもなくヴィップ国軍が他の追随を許さない、圧倒的に突出した実力を誇っていたからだ。 

という説が、もっとも流布されているものだった。 

自分は、どうでもよかった。 
自分が住む周囲が平和であれば、そんなことはどうでもよかった。 

ただ、この国でもっとも誇らしく、安定した将来を約束される職業が軍人だったのだ。 
だから目指した。栄光よりも、名誉よりも、安定を求めて、ヴィップ国軍を。 

杉浦は違った。 
昔からやや右寄りの思想を持っていたと感じていたが、彼の真意は謎のままだ。 
自分と違い、確たる熱意をもってヴィップ軍を目指していた彼と、なぜだか意気投合した。 

競い合う者がいれば、自身の向上をより促進させてくれる。 

杉浦がそう言っていた。 
それに倣い、自分も杉浦と競うように国軍を目指し、二人で現役入軍を果たしたのだった。 

( ФωФ)「それにしても、いい加減煙草はやめろ」 

( ^ω^)「楽しみがなくなっちゃうお」 

( ФωФ)「訓練を楽しめばいいのである」 





9 :  ◆eWZ4SQG3kA   : 2012/08/16(木) 21:37:01.47 ID:2UXYrw2y0 

(;^ω^)「あんなきっつい訓練なんか楽しめないお……」 

( ФωФ)「何を言う。日々肉体が強化されていき……神経が研ぎ澄まされていく興奮……」 

( ФωФ)「そして、周囲の人間を置いて行く優越感。たまらないものがあるではないか」 

(;^ω^)「生憎、僕にそんな性癖はないお」 

( ФωФ)「……情けない」 

これはいけない兆候だ。 
このままでは、杉浦の一時間に及ぶ説教が始まってしまう。 
杉浦が続けようとした矢先、咄嗟に思いついた単語を、 

(;^ω^)「そ、そう! 昇級試験と言えば!」 

(;^ω^)「適性検査はどうだったんだお?」 

言った。 

先日、軍内部で受けた検査のことだ。 
受検者はヴィップ国軍に所属している全ての人間だった。 
特に難しいものではなく、体力測定と健康診断を受けただけだ。 

咄嗟に出た割には、話題の切り替えに妥当な選択だったと、今になってから思う。 

( ФωФ)「あれか」 





12 :  ◆eWZ4SQG3kA   : 2012/08/16(木) 21:40:07.95 ID:2UXYrw2y0 

( ФωФ)「全くもって問題ない」 

そして、目論見は成功した。 
検査結果はまだ出ていないが、体力自慢の杉浦は体力測定で手応えを感じたのだろう。 

( ФωФ)「まず、握力。135kgだった」 

(;^ω^)「バケモンが……」 

( ФωФ)「垂直跳び。109cmだった」 

(;^ω^)「……」 

化け物は次々と記録を述べていく。 
返事をしなくてはならない説教と違い、こちらは聞きに徹すれば済むことなので、苦痛ではなかった。 

杉浦に比べると、自分の記録は実に平凡なものだ。 
覚えている限り、全てが平均的な数値、だったと思う。 
平均値とはいっても、ヴィップ軍の中での平均なので、一般人とは比べるまでもないが。 

杉浦の記録は全てがトップアスリートの水準に達しており、この男の優秀さが嫌というほどよくわかる。 
適当にリアクションをしつつ、自分は違うことを考えていた。 

適性検査の意味をだ。 

疑問を抱いたのが、全ての軍人が受けたという点だ。 
自分たちのような現地組や、一等、二等兵たちならわかるというか当然だが、中年に達した上官たちも受けている。 
通信兵、衛兵、事務員も、雲の上の存在である大佐以上の高階級の人間も、全て。 




16 :  ◆eWZ4SQG3kA   : 2012/08/16(木) 21:45:03.27 ID:2UXYrw2y0 

当然、体力はあるに越したことはない。 
健康診断も当たり前だ。これこそ定期的に行われるべきである。 

では、適正未満であった場合、除隊処分となるのだろうか。 

自分たち程度なら代わりはいくらでもいるだろう。 
だが、高い階級の代わりは、そうそう見つからないはずだ。 
彼らに求められていることは、体力よりも経験や頭脳なのだから。 

だから、体力測定など無意味ではないか。 

そこまで考えた時、再び疑問が浮かび上がった。 

そもそも、何に対しての適正を測っているのか。 

普通に考えれば、ヴィップ軍に相応しい体力、体を有しているかどうか。 
上官たちは口を揃えてそんな言い回しをしていた。 
自分も当初はそうだと考えていた。 

本当にそうなのか。 

もっと、別のナニカに対する適正を──── 

( ^ω^)「…………お?」 

不意に、後頭部にちりちりと、火が燻るような感覚が生まれた。 
直後には、その違和感に、五感全てを奪われていた。 




18 :  ◆eWZ4SQG3kA   : 2012/08/16(木) 21:47:29.88 ID:2UXYrw2y0 

( ФωФ)「内藤? ちゃんと聞いているのであるか?」 

( ^ω^)「いや、え……なんだお……これ」 

細い、耳鳴り。 
遠くのものが遠くへ動くような、聞こえていると確信することすら危うい、耳鳴りがしていた。 

( ФωФ)「……っ」 

( ^ω^)「杉浦? 聞こえるのかお?」 

( ФωФ)「む……耳鳴り……か?」 

( ^ω^)「だおだお」 

( ФωФ)「今、している。内藤もか?」 

( ^ω^)「してるお」 

どうやら杉浦も聞こえているらしい。 
実際、耳鳴り程度は日常的に起こっている。 
重火器を扱っている時などは常だ。職業病の一種だとも思っていた。 

それが何故か、今この時の耳鳴りに、自分は猛烈な違和を感じている。 

(;^ω^)「耳鳴り……みたいだけど……これは違うお」 

(;^ω^)「【音】……?」 



21 :  ◆eWZ4SQG3kA   : 2012/08/16(木) 21:50:31.25 ID:2UXYrw2y0 

( ФωФ)「演習場の方から……?」 

(;^ω^)「そうだお、あそこから────」 

自分と杉浦の視線が演習場に定まった、瞬間。 
隊列を組んでいた黒の長方形が、乱れた。 

(;^ω^)「なっ!?」 

この位置と演習場は、人の形が目視できないほどまで、離れていない。 
しっかりと、見えた。 

人が、次々に倒れていくさまが。 

( ФωФ)「内藤!」 

自分の名を叫んだ時にはもう、杉浦は駆け出していた。 
勿論、演習場に向かってだ。 

すぐに立ち上がり、自分も杉浦の後を追う。 
明らかな異常事態だ。 
今年入った一等兵たちが、次々に倒れていく。 

兵たちが描いていた長方形は4つ。 
一つが200名で構成された隊で、既にもう、その全てが決壊している。 
800名は仰向けに、うつ伏せに、横向きに、全ての人間が、倒れている。 

離れた場所で指揮していた指揮官も、漏れることなくだ。 


22 :  ◆eWZ4SQG3kA   : 2012/08/16(木) 21:52:54.09 ID:2UXYrw2y0 

異変を察知し、基地内から人が飛び出してくる。 
だが、その者たちも同じ運命をたどった。 

死んでいるのか、気絶しているのか、それは近づかなければわからない、が、 

(;^ω^)「杉浦! まずい! 近づくのは危険だお!!」 

襟首を鷲掴みにされたように、体がその場所に近づくことを拒否した。 

居る。 

ナニカが、居る。 

(;ФωФ)「今助けるのである!!」 

しかし、杉浦は止まらない。自分には、止められない。 
正義感か、使命感か、立ち昇る熱き思いが、杉浦から冷静さを奪っている。 

(;゚ω゚)「だ……だめだ!! 杉浦!!」 

確実に杉浦の背が小さくなっていく。 
自分の足は、既に演習場に踏み込んでいた。 
杉浦は更にその先、中央付近に差し掛かっている。 

足が、動かない。動けない。動こうと、しない。 

時間がゆっくりと流れている気がした。 





24 :  ◆eWZ4SQG3kA   : 2012/08/16(木) 21:57:17.13 ID:2UXYrw2y0 

さなか。 

ある言葉が、脳を支配する。 

(;゚ω゚)「まさか……!」 


(;゚ω゚)「【ムゲン】の……発生……!?」 


何故、軍事国家ヴィップは他国と休戦条約を結んでいるのか。 
軍事力の強化と噂されているが、実際には違っていた。 

この国は平和だ。それは自分も昔から良く知っている。 
ただひとつ、例外があった。 

休戦の理由は、決して他国に漏らしてはならない。 
内部事情の問題を解決するまで、戦争を行う余裕などヴィップにはないということを。 

内戦、ではない。 

全ては、いつの頃かヴィップに出現する不可視の存在、【ムゲン】の発生にあった。 

見えないのに出現とは、おかしな話ではある。 
【夢幻】とでも書くのだろうか、今、この瞬間に立ち会った自分なら、合点がいく。 

この現象は明らかに、夢か、幻のようだった。 


25 :  ◆eWZ4SQG3kA   : 2012/08/16(木) 22:00:05.11 ID:2UXYrw2y0 

他国の新兵器。テロリスト。未知のウィルス。果ては天変地異。 
【ムゲン】について、軍内で様々な憶測が飛び交っている。 
そのどれもが、信憑性のないものだった。 

遺体を調べても、すべての死因が心肺停止。 
手がかりなど、掴みようがない。 
漫画やゲームの世界に飛び込んだような現実感の無さだけしか感じられない。 

(;゚ω゚)「ッ!! 杉浦!!」 

駆けていた杉浦のシルエットが、低く、低く、地面に近づいて。 

(;゚ω゚)「────!!」 

倒れた瞬間、自分の足がやっと前に出た。 
心のどこかで憧れていた、嫉妬していた、切磋琢磨した、親友の元へ。 

この場に【ムゲン】が留まっているのかはわからない。 
そもそもこの表現が正しいのかすらもわからない。 

死ぬかもしれない。 

それでも、杉浦の元へと駆けていた。 

(;゚ω゚)(杉浦が……こんなとこで死ぬわけないお!!) 

(;゚ω゚)(お前は……お前は!! ヴィップ国軍を率いるんじゃなかったのかお!!) 


26 :  ◆eWZ4SQG3kA   : 2012/08/16(木) 22:01:28.39 ID:2UXYrw2y0 

こんな終わりが、別れが、あってたまるか。 

あまりにも、理不尽すぎる。 

戦場で死ぬなら、きっと杉浦は本望だろう。 
自分は納得しなくてもだ。 

こんな、何に襲われたかもわからないまま、お前が、終わるわけなど、ない。 


(;゚ω゚)「ロマネスク!!」 


抱き起こした。 
瞳は、開いていた。 


(;ФωФ)「……ホライゾン……」 

(;゚ω゚)「ロマネスク!! 早くここから離れるお!」 

立ち上がろうと、足に力を込めた。 

はずなのに。 

足が、動かなかった。 



27 :  ◆eWZ4SQG3kA   : 2012/08/16(木) 22:03:16.43 ID:2UXYrw2y0

(;ФωФ)「……これが、【ムゲン】か……」 

(;゚ω゚)「知るかお!! 生きてるなら立てお!! お前は、まだ……」 

(;ФωФ)「……わかるのである。自分の、最期というものは」 

(;゚ω゚)「馬鹿言ってんじゃねーお!!」 

(;ФωФ)「ホライゾン……」 

(;゚ω゚)「あ!?」 


(;ФωФ)「……煙草、やめるのであるぞ……」 


(;゚ω゚)「……」 

腕に、重みが増した。 
杉浦の体のどこからも、あの力強さが感じられない。 

(;゚ω゚)「ロマ……ネスク……?」 

軍に入れば、いつかは経験すると思っていた。 

人の、死。 

その、最初が、親友だった。 




29 :  ◆eWZ4SQG3kA   : 2012/08/16(木) 22:03:47.36 ID:2UXYrw2y0









(;゚ω゚)「うわあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」 












30 :  ◆eWZ4SQG3kA   : 2012/08/16(木) 22:05:34.98 ID:2UXYrw2y0 






────────────────………… 









33 :  ◆eWZ4SQG3kA   : 2012/08/16(木) 22:07:44.19 ID:2UXYrw2y0

◇ 

「……そいつは大変だったな」 

( ^ω^)「……昔の話さ」 

「と言っても、そう昔じゃない。第八部隊全滅事件はたったの二年前じゃないか」 

( ^ω^)「昔は、昔だよ」 

「……そうだな」 

自分の昔話を、男は正面をじっと見つめて聞いていた。 
当然だ。彼は運転手なのだから。 

車は闇の中を突き進む。 
都会から逃げる道は、深夜ということもあり並走する車も、すれ違う車も少ない。 

この男とは、今夜が初対面だった。 
と言っても、乗車する時も、今も、顔を見ることをしなかった。 
おそらく、もう会うこともないだろう。 

新たな配属先に自分を送り届ける任務を受けているだけなのだから。 

そんな一期一会が、昔話を自分の口から引き出した。 
もっとも、きっかけを作ったのは男の方だったのだが。 

景色の変化も然程なく、軍用車にはオーディオ機器もなく。 
その中で長時間、無言を貫いて運転し続けることは、意外な程に難しい。 



35 :  ◆eWZ4SQG3kA   : 2012/08/16(木) 22:10:30.02 ID:2UXYrw2y0

出発して二時間ほど経過した時のことだ。 

「なぁ、あんた、第八部隊唯一の生き残りなんだってな?」 

男は、二年の間に自分が何度も聞かれた質問をしてきた。 

これまでの質問者たちは、口調に皮肉や嫌味を滲ませたものばかりだった。 
もしこの男がそうだったとしたら、無言を貫いていたところだ。 
だが、彼の質問にそんなものは含まれていなかったと感じた。 

恐らくは、純粋な興味があったのだろう。 
自分も退屈していたところだったから、久しぶりに昔話を聞かせたということだ。 

「それで……、仇討ち、でも考えているのか?」 

( ^ω^)「できるものならそうしたい。けど、【ムゲン】と戦う……いや、アレと戦えるかどうかもわからない。 
       生物なら殺すことができる。けど、アレに殺すって表現が当てはまるのかどうかも怪しい」 

「なるほどなぁ……」 

男は、やや間を置き、 

「それでも、可能性がある道を往く、ってことか」 

( ^ω^)「……そう、かな。でも、転属は志願したものじゃない。一週間前に突然決まったんだ」 

「ああ。それは私も知っている。例の適性検査の結果、だろう?」 




37 :  ◆eWZ4SQG3kA   : 2012/08/16(木) 22:14:56.19 ID:2UXYrw2y0

( ^ω^)「そう。二年越しで結果がくるなんて思ってもみなかったけど……」 

「私も当然受けたが、【ムゲン】との戦闘適正を調べるものだったとは……な」 

適正検査で、自分は【有リ】という検査結果を受けた。 
そこからは早かった。 
すぐに転属先が決定し、資料も配布され、手続きがあっという間に済んだ。 

対ムゲン特殊部隊。 

それが、自分がこれから配属される部隊の名だ。 
隊の任務は【ムゲン】との交戦、及び殲滅だという。 
一体、アレとどうやって戦うのか、自分には皆目見当もつかない。 

「しかし、第八部隊唯一の生き残りが抜擢されるとは、浅からぬ因縁を感じるな」 

( ^ω^)「……どうかな」 

「実際、涼しい顔をしているが、心の内は燃えているんじゃないのか?」 

( ^ω^)「わからない」 

「気づかないふりをしている、ようにも見えるけどな」 

( ^ω^)「…………」 

それは、自分にもわからなかった。 
沈黙したことが、男に機嫌を悪くしたと感じさせたらしい。 


38 :  ◆eWZ4SQG3kA   : 2012/08/16(木) 22:16:04.59 ID:2UXYrw2y0 


「……すまなかったな」 

言い、胸元に手をやり、 

「煙草、吸うか?」 

二年前まで、一日たりとも見なかった日がなかった煙草を、差し出してきた。 

( ^ω^)「…………」 

「……やれやれ。そんなつもりじゃなかったんだが────」 

( ^ω^)「……だ」 

「ん?」 



( ^ω^)「煙草は、やめたんだ」 







41 :  ◆eWZ4SQG3kA   : 2012/08/16(木) 22:19:08.09 ID:2UXYrw2y0 

死に際の約束。 

軍を、国を第一に考えていた杉浦が、最期に残した言葉だった。 
自分の為を想い、最期の力を使い切って、残した。 

あの後は不思議と煙草に手が伸びなかった。 
気がつけば、煙草を必要としない体に戻っていた。 
杉浦がやめさせてくれたと考えている。 

根拠はなく、なんとなく、そう思うだけだ。 

「そうだったのか。すまなかったな」 

( ^ω^)「気にしないでくれ」 

「ありがとう」 

( ^ω^)「あんたは、吸えばいい」 

「……いいのか?」 

( ^ω^)「ああ。気にならないから」 

「重ねて感謝する」 

男はまた胸元に手をやり、ZIPPOを取り出すと慣れた手つきで火をつける。 
少しの懐かしさに触れ、男の手と、煙草と、そして初めて顔を見た。 





43 :  ◆eWZ4SQG3kA   : 2012/08/16(木) 22:20:44.24 ID:2UXYrw2y0

( ゚д゚)「ふーっ…………生き返るな」 

その言葉は理解できた。 

男は彫りの深い顔で、自分よりも年齢が上だと感じた。 
渋みがあり、癖がある。軍人らしい顔つきは、すぐに自分の脳に記憶されてしまった。 
軍人の顔を覚えることは、できれば最小限に留めておきたかったのだが。 

( ゚д゚)「そういえば」 

今日、この男から何度質問されたのだろうか。 
そんなことを考えながら、次の言葉を待つ。 

( ゚д゚)「俺は河内[こうち]ミルナと言う。言いたくなければ言わなくていいが、お前の名は?」 

答える気はなかった。 
少なくとも、十数分前までは。 
具体的に言うと、河内との会話前までは、だ。 

( ^ω^)「内藤ホライゾン」 

( ゚д゚)「ホライゾン……地平線、か。良い名だな」 

( ^ω^)「……というか、資料に書いてあるだろう?」 

( ゚д゚)「あぁ。バレたか」 



44 :  ◆eWZ4SQG3kA   : 2012/08/16(木) 22:22:49.67 ID:2UXYrw2y0 

間違った人間を乗せたら大事だ。 
河内は予め自分の資料を受け取っているはずだった。 
案の定、そうだったらしい。 

( ゚д゚)「お前の口から聞きたかったんだ、内藤」 

前を向いたまま、河内は美味そうに煙草を吸った。 

( ゚д゚)「向こうに着くのは朝だ。少し眠ったほうがいい」 

( ^ω^)「……そうさせてもらうお」 

( ゚д゚)「……お?」 

(;^ω^)「……よ、って言ったんだ」 

( ゚д゚)「そうか」 

昔の癖が出てしまった。 
杉浦のことを思い出したからだろうか。 
それとも、懐かしい匂いを身近で感じたからだろうか。 

焦りを隠して、座席を倒し目を閉じた。 





46 :  ◆eWZ4SQG3kA   : 2012/08/16(木) 22:24:18.70 ID:2UXYrw2y0 

闇が、一層深まった。 

朝が来れば、河内の言う通り転属先に着いているだろう。 

そこから、新たな戦いが始まる。 
杉浦を、第八部隊を壊滅させた、【ムゲン】との戦いが。 

姿形もわからない。 
目的もわからない。 
どこから来て、どこに帰るのかもわからない、敵。 


ただひとつ、間違いないと思っていることがある。 


今、瞳を閉じて視えているこの暗闇のように。 
きっと、どす黒い色をしているに違いない。 


そして、自分の意識も、闇に溶け込んでいった。 





48 :  ◆eWZ4SQG3kA   : 2012/08/16(木) 22:25:40.70 ID:2UXYrw2y0




序 [Fate] 




────END. 





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