トラツグミは知りたいようです 一話
- 1 :名も無きAAのようです:2012/09/15(土) 00:17:19 ID:c4YsDqOAO
-
―――とある大陸の、とある森の中。
―――そこには白く四角い研究所が佇む。
―――その研究の内容は、誰も知らない。
―――ただ、噂もある。
―――合成生物、つまりは『キマイラ』の研究をしている、と。
- 2 :名も無きAAのようです:2012/09/15(土) 00:18:07 ID:c4YsDqOAO
-
トラツグミは知りたいようです
.
- 3 :名も無きAAのようです:2012/09/15(土) 00:19:16 ID:c4YsDqOAO
-
第1話『いくつかの命』
('A`)
物心がついた頃から、ドクオと呼ばれる彼は小さな部屋の中にいた。
他人と違うのは知っている。
よく来る研究者達は、普通の人間。
彼は異常な人間もどき。
『蜥蜴』の遺伝子が組み込まれ、そのおかげで週一で手足を刻まれる羽目になっている。
体の形に異常はないが、ただ皮膚が妙だ。
手足が茶色だか何だか分からない色で、手触りも違う。
- 4 :名も無きAAのようです:2012/09/15(土) 00:20:08 ID:c4YsDqOAO
-
川 ゚ -゚)「うー」
同じ部屋に、女の子がいる。
これは何と合成されているのか知らない。
ただ、一度だけ聞いた。
明らかな失敗作だ、と。
川 ゚ -゚)「うーん?」
('A`)「…」
歳で言えば、二人とも18。
ただ、クーと呼ばれる女の子の振る舞いはとてもそうは見えない。
抱き着いてみたり、叩いてみたり、時に粗相をしたり。
その都度研究者を呼び、始末をしてもらっている。
川;゚ -゚)「むむっ」
('A`)「…またかよ、お前…」
クーの足元に水溜まりがある。
ため息をつきながら呼び出しボタンを押した。
- 5 :名も無きAAのようです:2012/09/15(土) 00:20:52 ID:c4YsDqOAO
-
すぐに白い服の人間が飛んできて、雑巾を使いはじめる。
慣れたものだ。
( ・∀・)「…いい加減クーもトイレぐらいは覚えて欲しいね」
('A`)「全くだな」
( ・∀・)「ああ、そうだ。ドクオに連絡があったんだ」
( ・∀・)「明日、違う部屋に移ってもらうよ」
('A`)「……何で?」
( ・∀・)「さあね?ただ色々と変わり時らしいよ」
('A`)「クーは?」
( ・∀・)「ここ」
そう言って足元に手を向ける。
何となく妙な気持ちになった。
- 6 :名も無きAAのようです:2012/09/15(土) 00:22:00 ID:c4YsDqOAO
-
( ・∀・)「初めての引っ越しだね、ただ向こうにも同居人はいるから」
('A`)「またクーみたいな?」
( ・∀・)「いいや、正常さ」
俺だって異常だ、という言葉は胸に仕舞っておいた。
細かい連絡をして、研究者は出ていった。
川 ゚ -゚)「んっ」
クーが自分の服の裾を掴んでいるのに気づいた。
('A`)「何だよ」
川 ゚ -゚)「…」
('A`)「明日で離れ離れだぞ」
川;゚ -゚)「…うああ」
- 7 :名も無きAAのようです:2012/09/15(土) 00:22:55 ID:c4YsDqOAO
-
運ばれてきた食事を食べる。
ドクオは米を主食とした料理だが、クーにはまた別のメニューがある。
どろりとした白い塊をクーの口元に持っていく。
この作業にもまた、慣れた。
('A`)「慣れた、かぁ」
('A`)「何年も一緒だもんな」
川 ゚ -゚)「んー」
('A`)「こんな事しなくて済むんだぜ、羨ましいだろ」
川 ゚ -゚)「ん?」
まるで分かっていない。
食事を終えてしばらくすると就寝のベルが鳴った。
- 9 :名も無きAAのようです:2012/09/15(土) 00:24:07 ID:c4YsDqOAO
-
部屋を暗くし、固いベッドに横になる。
明日で、クーとお別れ。
そう思うと、何か嫌だった。
理由は分からない。
('A`)「迷惑かけられっ放しなんだがなぁ…」
ごそごそと音がし、腹に体重を感じた。
クーが乗っている。
川 ゚ -゚)「うっ」
('A`)「重いよ」
そのままクーが倒れ込んできた。
ベッドで抱き合う形となる。
('A`)「何だ、こんな時に」
川 ゚ -゚)「やっ」
('A`)「や?」
川 ゚ -゚)「いーやー」
- 10 :名も無きAAのようです:2012/09/15(土) 00:24:55 ID:c4YsDqOAO
-
('A`)「嫌?」
別れを拒んでいるのか。
そんな筈はない。
クーにはっきりした自我などないのだから。
それなのに。
それなのに。
川;゚ -゚)「いや!」
(;'A`)「お、おい」
ばちばちと顔を叩いてくる。
痛い。
(;'A`)「落ち着けっ」
両手を抑える。
今度は頭突きを繰り出してきた。
(;'A`)「仕方ないだろ、決まったんだよ!」
強く言うと、すごすごと引き下がった。
川 - _-)「んっ」
(;'A`)「何だってんだ…」
よく分からないまま、眠りに落ちた。
- 11 :名も無きAAのようです:2012/09/15(土) 00:26:04 ID:c4YsDqOAO
-
翌朝。
研究者が二人来た。
もう部屋の移動を始めるらしい。
一人がドクオの腕を縛った。
もう一人はクーの方に構っている。
('A`)「逃げやしないよ」
( ・∀・)「ふふ、知ってるよ」
突然叫び声が聞こえた。
クーだ。
川;゚ -゚)「いや!やー!んっ!」
(;-_-)「あぁこら、落ち着いてよー」
( ・∀・)「ドクオ、クーを落ち着かせてくれ」
('A`)「ああ、うん」
クーに近づき、縄を解かれた腕で頭を撫でる。
- 12 :名も無きAAのようです:2012/09/15(土) 00:27:49 ID:c4YsDqOAO
-
ドクオが触れている間は、何があろうと大人しい。
そのせいで検査の際も何度か鎮静剤代わりに呼ばれた。
('A`)「仕方ない、引っ越しなんだから」
川;゚ -゚)「んっ…」
('A`)「……まあ、あれだ」
('A`)「しっかり、な」
川;゚ -゚)「…」
手を放す。
クーは騒がない。
歩き出す。
重い音を上げて無機質な扉が閉まっても、クーの声は聞こえなかった。
- 13 :名も無きAAのようです:2012/09/15(土) 00:29:36 ID:c4YsDqOAO
-
研究者に連れられ、歩く。
一つ上の階に移動らしい。
これまでは地階だった為、覚えている限り初めての地上暮らしとなる。
('A`)「広いのか?」
( ・∀・)「一部屋に四人だからね、広いよー」
('A`)「四人も」
( ・∀・)「ん、まあ…」
少し口調を曇らせる。
一呼吸の後、静かに言った。
( ・∀・)「共食い、しないだろ?」
('A`)「する訳ないだろ」
言ってから気付いた。
共食いする奴らもいるのか。
('A`)「じゃ、クーは?共食いなんかしないぞ」
(;・∀・)「あれはかなり特殊だからねぇ…」
('A`)「……まあ、そうか」
- 14 :名も無きAAのようです:2012/09/15(土) 00:30:57 ID:c4YsDqOAO
-
部屋の前で拘束を解かれ、研究者と別れて部屋に入る。
中に居たのは、三人。
つまりドクオで最後だ。
从 ゚∀从「うーっす」
ぼさぼさとした黒髪の女。
ξ゚听)ξ「あんたで最後ね?」
金髪でツインテールの女。
( ^ω^)「おっお、よろしくだおー」
見た感じ太った男。
一見する限り、大体年齢は変わらないように思える。
- 15 :名も無きAAのようです:2012/09/15(土) 00:32:02 ID:c4YsDqOAO
-
('A`)「よろしくな」
从 ゚∀从「揃ったところで自己紹介といくか。付き合いも長くなるしな」
言うと、女の子は両腕を広げた。
いや正確には、大きな黒い翼を。
从 ゚∀从「識別名はハイン。烏との合成だ」
( ^ω^)「おっ、鳥人間だおね」
この烏のハインは、検査の際に何回か目にした。
だから特別驚きもしない。
ξ゚听)ξ「私はツン。蛇キマイラね」
徐に服をたくしあげる。
下半身がこれまた大きな蛇になっているようだ。
- 16 :名も無きAAのようです:2012/09/15(土) 00:33:09 ID:c4YsDqOAO
-
( ^ω^)「僕はブーンだお!豚との混合らしいお」
道理で毛深い。
腕などを見せてくれたが、全身を桃色の毛に覆われていて、鼻も変な形だ。
( ^ω^)「ちなみにツンとは前の部屋で一緒だったお」
ξ゚听)ξ「こいつは豚野郎でいいわ」
( ^ω^)「否定はしないお」
('A`)「俺はドクオ。蜥蜴との合成だな」
腕をまくって見せる。
奇妙な色合いだが、少々気に入っている。
从 ゚∀从「すげー色だな」
('A`)「擬態で肌色も可能っちゃ可能だけど、面倒だしな」
- 17 :名も無きAAのようです:2012/09/15(土) 00:34:06 ID:c4YsDqOAO
-
从 ゚∀从「前の部屋に同居人とかいなかったんだよなー、変な感じだ」
ξ゚听)ξ「何か交流を通しての心身の変化が、とか言ってたわ」
('A`)「まぁ研究の一環じゃなきゃこんな事しないだろうしな」
( ^ω^)「そういえば、二人の『特殊技能』は何だお?」
基本的に、自分達にはその『元の動物』の特徴が備わっている。
元より拡大されていることがしばしばだ。
が、むろんデメリットも多い。
主に外見上の意味で。
- 18 :名も無きAAのようです:2012/09/15(土) 00:35:39 ID:c4YsDqOAO
-
('A`)「俺はさっきチラッと言ったけど、擬態。あと再生」
从 ゚∀从「ちぎれても生え変わるのか」
('A`)「腕ぐらいなら二日で生える。痛いから嫌だけど」
( ^ω^)「尻尾はないのかお」
('A`)「ないな。残念ながら」
从 ゚∀从「俺はほら、見ての通り、飛べるよ」
ハインが腕を振り、ばさばさと風を起こす。
数枚の羽根が舞った。
从 ゚∀从「ものが掴めない上に鳥目だけどな」
( ^ω^)「飛んでみたいおー」
ξ゚听)ξ「飛べない豚はただの豚よ」
- 19 :名も無きAAのようです:2012/09/15(土) 00:36:58 ID:c4YsDqOAO
-
ξ゚听)ξ「私はまぁ、牙とか粘液にある毒かな」
('A`)「蛇だしな」
ξ゚听)ξ「ああ、あと丸呑みとか得意」
(;'A`)「蛇だしな…」
ξ゚听)ξ「足がないから移動に不便なのよね…」
鱗つきの尻尾を振る。
光が反射して少し綺麗だ。
( ^ω^)「僕は嗅覚だお、一度嗅いだら絶対忘れないお!」
从 ゚∀从「流石は豚野郎だな」
( ^ω^)「褒め言葉として受け取っておくお」
- 20 :名も無きAAのようです:2012/09/15(土) 00:38:00 ID:c4YsDqOAO
-
そのほか他愛のない話をしていると、昼食が運ばれてきた。
( ・∀・)「担当は変わらず、この僕モララーだからね」
('A`)「担当ったって基本的に食事の配膳だけだろ?」
( ・∀・)「配膳と引率だね、たまに研究」
自らの仕事が研究者らしくないのを知っているのか、自嘲的に笑った。
从 ゚∀从「あ、俺どうすんの?」
ハインが翼を広げてアピールする。
食事できないということか。
( ・∀・)「今日からはそこのドクオに食べさせて貰ってくれ」
(;'A`)「え」
( ・∀・)「慣れてるだろ?」
(;'A`)「まあ…」
- 21 :名も無きAAのようです:2012/09/15(土) 00:39:08 ID:c4YsDqOAO
-
モララーが皿を残して去っていった。
('A`)「お前これまでどうしてたの?食事」
从 ゚∀从「モララーに食わされてた」
('A`)「同居人を連れてくりゃ良かったのに…」
从 ゚∀从「いいのが居なかったらしいな」
('A`)「口開けて」
从 ゚∀从「あー」
(*^ω^)「アツいおねー!」
('A`)「肉食ってろ、豚野郎」
( ^ω^)「知らないようなら言うけど僕の体脂肪率8パーセント切ってるお」
从;゚∀从「え、じゃあその体は」
( ^ω^)「筋肉」
('A`)「とんだ詐欺じゃねーか」
- 22 :名も無きAAのようです:2012/09/15(土) 00:40:26 ID:c4YsDqOAO
-
ξ゚听)ξ「慣れてる、ってのは?」
(;'A`)「えー…」
返事に窮する。
一体どう言えばいいだろう。
('A`)「前の同居人も食事できない奴だったんだ」
ξ゚听)ξ「ふうん」
从 ゚∀从「零れてるぞー」
慌てて視線をスプーンに向ける。
野菜を拾って皿に戻した。
( ^ω^)「多分同居人の組み合わせも実験のはずだお」
('A`)「なるほど…」
ξ゚听)ξ「まあいいじゃない、気楽に行きましょう」
从 ゚∀从「だなあ」
これから、少し新しい生活が始まる。
……しかし、介護とも言えるあの行動が役に立つとは思ってもいなかった。
-
-
【戻る】 / 【次へ】