トラツグミは知りたいようです 二話
31 :名も無きAAのようです:2012/09/16(日) 23:31:57 ID:eAmVdhN2O

第2話『鵺が鳴く』


四人での生活が始まってから一月。
その内容はほとんど変わらないと言っても良かった。
いつものように暇を持て余し、検査や実験台にされ、また眠る。

从 ゚∀从「…だからな、ドクオの腕は非常食になるって」

検査から帰ってくると、何とも物騒な話をしていた。

(;'A`)「…」

ξ゚听)ξ「無理よ、骨張ってるし」

( ^ω^)「あ、お帰りだおー」

('A`)「食物連鎖上位のお前らに言われたら洒落にならんのだが」

从 ゚∀从「冗談冗談」




32 :名も無きAAのようです:2012/09/16(日) 23:32:40 ID:eAmVdhN2O

('A`)「全く…」

どかりと座って、そのままの勢いで寝転がる。
再生の実験には体力を使う。

( ^ω^)「聞いてくれお、また僕の体脂肪率下がったんだお」

ξ゚听)ξ「化け物じゃないの」

从 ゚∀从「…」

ハインがツンとドクオを交互に見ている。

ξ゚听)ξ「ん?」

从 ゚∀从「いや、眼がさぁ」




33 :名も無きAAのようです:2012/09/16(日) 23:35:57 ID:eAmVdhN2O

从 ゚∀从「ツンの眼は爬虫類っぽくないんだなぁ、って」

ξ゚听)ξ「そうね、上半身は人間だからかな」

('A`)「たまに鏡見ても怖いんだよな、自分…」

( ^ω^)「ツンは上下で分かれてるけど、ドクオは手足なんだおね」

('A`)「眼とかの器官の機能は一切変わらんらしいがな」

从 ゚∀从「で、ツンって卵生?胎生?」

ξ゚听)ξ

ξ;゚听)ξ「さあ…?」

( ^ω^)「ハインもどうなのか気になるお」

从 ゚∀从「いやー、俺は胎生じゃないかな。翼だけだし」

从 ゚∀从「何より卵なんざ出るほど尻の穴でかくねーし」

ξ゚听)ξ「ハイン、喧嘩でも売ってんの?」




34 :名も無きAAのようです:2012/09/16(日) 23:37:18 ID:eAmVdhN2O

('A`)「ツンも胸があるってことは使うんじゃないか…?」

( ^ω^)「でも絶賛退化中にしか見えないお」

ξ#゚听)ξ「食らえ、蛇絞め!」

(;^ω^)「あがっ、やめて、首絞めないで!」

がたがたと音を上げて騒いでいると、ノックの音が響いた。

( ・∀・)「随分打ち解けたようで何よりだよ」

从 ゚∀从「おう、何?」

('A`)「飯には早くないか」

( ・∀・)「んー…ちょっとね」




35 :名も無きAAのようです:2012/09/16(日) 23:38:52 ID:eAmVdhN2O

( ・∀・)「君達に羽を伸ばしてもらいたくて」

从 ゚∀从「もう伸びてるよ」

(;・∀・)「いや、違う違う。実はね、えー…」

なんとも歯切れが悪い。
その台詞を妨害するように、声が響いた。

(,,゚Д゚)「何をしている」

大柄な男だ。
白衣を着ている辺り、研究者だろうか。

( ・∀・)「…いたのか、ギコ。こいつらには干渉しないと言ったろう」

(,,゚Д゚)「ふふん、『特異』を盗られたからって拗ねんなよ」

( ・∀・)「こいつらの前でそういう話をしないで頂きたいね」

(,,゚Д゚)「知ってるよ。大事な大事な験体だもんなぁ?」




36 :名も無きAAのようです:2012/09/16(日) 23:40:09 ID:eAmVdhN2O

( ・∀・)「君こそ、何を?」

(,,゚Д゚)「ただの連絡だ。至急会議室に集まれ」

( ・∀・)「分かった。…だが少し遅れると伝えてくれ」

(,,゚Д゚)「ふん、言っといてやるよ。…ただな、モララー」

(,,゚Д゚)「験体に中途半端な思いを入れるのは、タブーだぜ?」

( ・∀・)「知ってるよ。君は早く行くんだね」

(,,゚Д゚)「チッ…」

ギコと呼ばれた研究者はずかずかと大股で去って行った。
煙草の臭いが漂っている。

ξ゚听)ξ「…何よ、今の」

( ・∀・)「同じ研究者だよ。僕とは馬が合わないがね」




37 :名も無きAAのようです:2012/09/16(日) 23:40:59 ID:eAmVdhN2O

( ^ω^)「何で?」

( ・∀・)「彼は、君らは飽くまで実験材料として扱われるべきだ、と考えているようだ」

( ・∀・)「だからかな」

('A`)「それって、あんたは…」

(;・∀・)「ほ、ほら、さあ!時間が無い、来るんだ!」

勢いに押され、モララーについて行く。
どこに行くのか、とブーンが問うと、彼は少し笑って答えた。

( ・∀・)「何、久しぶりの外出をね」




38 :名も無きAAのようです:2012/09/16(日) 23:42:21 ID:eAmVdhN2O

(*^ω^)「外とか数年振りだお!」

よく分からないままにモララーについて外に出た。
拘束はない。

从*゚∀从「おぉ」

眼前に広がるのは、鬱蒼たる森。
何となく心が踊る。
こちらに背中を向けたモララーが言った。

( ・∀・)「機材の搬入らしくてね、夕暮れまで入れないよ。じゃ、僕はこれで」

('A`)「夕暮れね、把握した」

ξ゚听)ξ「あー野生が踊るわー」

ツンがするすると木に巻き付いて登っていく。

( ^ω^)「キメェ」

ξ゚听)ξ「聞こえてるわよ、豚」




40 :名も無きAAのようです:2012/09/16(日) 23:43:40 ID:eAmVdhN2O

从 ゚∀从「じゃ、俺もっ」

ばさりと翼を広げ、ハインも飛び立った。
風に落ち葉が舞う。

('A`)「レッツ木登りぃ」

負けじとひょいひょいと木の枝に手をかけ、登る。

( ^ω^)「…」

ブーンが不満げな顔をしている。
ドクオの横の枝に留まったハインが笑った。

从*゚∀从「ははっ、登れねーのかよ!」

(;^ω^)「うっせーお!」

ξ゚听)ξ「おだてたら登るんじゃない?」

(♯^ω^)「豚を馬鹿にすんなお!そこで指くわえて待ってろお!!」

('A`)「首を洗って、な」




41 :名も無きAAのようです:2012/09/16(日) 23:44:51 ID:eAmVdhN2O

木の幹を掴んだブーンが力任せに登ってくる。

(♯゚ω゚)「ふおぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」

从;゚∀从「うお、マジで登った!恐っ!」

枝を揺らしてハインが飛び上がる。
ドクオとツンも慌てて違う木に避難した。

( ^ω^)「どーだお!登ってやったお!」

自慢気に枝の上に立ち朗々と宣言して、

(;^ω^)「おぉぉっっ!?」

木の折れる乾いた音と共に墜落した。

ξ;゚听)ξ「大丈夫!?」

('A`)「逃げといてよく言うわ」




42 :名も無きAAのようです:2012/09/16(日) 23:46:39 ID:eAmVdhN2O

結局へとへとになるまで外出を満喫し、やがて日暮れの時間になった。
橙の光が木の隙間から伸びている。

从 ゚∀从「もういい時間だな、帰るか」

( ^ω^)「お!」

各々歩いて帰路につく。 研究所の扉を押し開け、入った。

…何かがおかしい。
誰も居ない。

ξ゚听)ξ「静かね……」

('A`)「あれ、何でだ?」

( ^ω^)「おーーーい!研究対象のお帰りだおーっっ!!」

返事も反応もない。




43 :名も無きAAのようです:2012/09/16(日) 23:47:51 ID:eAmVdhN2O

(;'A`)「……」

えもいわれぬ不安が頭を支配する。

('A`)「皆、一旦解散しよう。一段落ついたら部屋に集合だ」

从;゚∀从「おう」

めいめい、違う方向に走り出す。

思えば何かがおかしかった。
検査室への移動ですら拘束されていたのに、今回は完全な自由。

(;'A`)「…」

見慣れた通路を走る。
階段を降り、何度か曲がった。

結果は見えていたが、それでも走らずにはいられなかった。




44 :名も無きAAのようです:2012/09/16(日) 23:50:14 ID:eAmVdhN2O

(;'A`)「クー!」

小さな部屋の扉を開け、中に入る。

誰もいない。
シーツすらないベッドがあるだけだった。

(;'A`)「……」

意味が分からなかった。
何故だ。
何故誰も居ない?

床に手を当てた。
長い生活による汚れが染み付いている。
思えば随分世話を焼かされ、迷惑も被った。

だのに、何故こんなにも………。

(;'A`)「…」

(;'A`)「……戻らないと…」




45 :名も無きAAのようです:2012/09/16(日) 23:51:32 ID:eAmVdhN2O

ふらふらと部屋に戻った。
ハインがいる。

从;゚∀从「あ…」

ドクオの様子を見て、会話を躊躇っているようだ。

('A`)「ハイン…」

从;゚∀从「…?」

('A`)「皆、どこ行ったんだろう」

从;゚∀从「分からん…俺もどこ行っていいか分からず戻って来ちゃったし…」

从;゚∀从「その、前に一緒だったクーってのはいたか?」

('A`)「…いなかった」

从;゚∀从「…そうか」

('A`)「何なんだろうな、急に」




46 :名も無きAAのようです:2012/09/16(日) 23:52:59 ID:eAmVdhN2O

从 ゚∀从「…ま、元気出せよ」

从 ゚∀从「誰も居ないんだ、仕方ないさ」

('A`)「仕方ないって何だ…!」

(#'A`)「あいつが消えたのが仕方ないってのか!!」

(#'A`)「何年も世話焼いてきたのが一瞬でなかった事になってんだぞ!?」

从;゚∀从「あ、いや…」

自分の言い分がおかしいことは、よく分かっていた。
ハインの目が潤んでいる。
やり場のない感情をぶつけてしまったことを後悔した。
頭を落ち着け、謝る。

(;'A`)「…いや、ごめん…」

从;゚∀从「ああ、気にすんな」




47 :名も無きAAのようです:2012/09/16(日) 23:54:02 ID:eAmVdhN2O

ハインが目を擦り、沈黙を嫌がるように聞いた。

从 ゚∀从「…なあ、よければ教えてくれよ。クーってどんな奴なんだ?」

('A`)「そうだな…」

('A`)「見た目は普通の人間でな…」

驚く程スムーズに言葉が出て来た。
昔からずっと一緒だったこと。
初めての検査の日から、一月前の別れの日まで。
ハインは頷きながら聞いていた。

('A`)「……あれだ、大事なものには失くしてから気づく、って本当だった」

从 ゚∀从「不思議な奴なんだな」

('A`)「まあな…」

会話が途切れた辺りでブーンとツンが戻ってきた。




48 :名も無きAAのようです:2012/09/16(日) 23:55:09 ID:eAmVdhN2O

(;^ω^)「誰もいないお。人間も動物も」

ξ;゚听)ξ「書類もね。とにかくご飯はあったから」

保存食らしき缶詰を開ける。
茶色く、よく分からない食べ物があった。

('A`)「なんぞこれ」

( ^ω^)「…ウンコ?」

('A`)「ハイン、あーん」

从;゚∀从「この流れで!?…ちょ待っうげぉっ!!」

ξ;゚听)ξ「…どう?」

从#゚∀从「食うぞ、この蜥蜴ッ!!」




49 :名も無きAAのようです:2012/09/16(日) 23:55:49 ID:eAmVdhN2O

どうやらただの魚であることが分かった。
腹が減っては、ということで食事の時間を取る。

从 ゚∀从「ほれ、次次」

('A`)「気に入りすぎだろうよ」

ξ゚听)ξ「…これから、どうする?」

从 ゚∀从「ここに居てもなぁ」

( ^ω^)「どうせ誰も怒らないし出かけようお!」

( ^ω^)「この森の近くに村があるって聞いたお、行ってみようお!」

('A`)「それもいいかもな」

所内を周り、必要な物資をかき集める。
旅の目的は分からないが、一応多めにあって損はない。




50 :名も無きAAのようです:2012/09/16(日) 23:56:29 ID:eAmVdhN2O

準備を終え、夜の森に繰り出す。
暗く、虫の声だけが聞こえる。

('A`)「何故一泊するという案が出なかったのか」

ξ゚听)ξ「テンションよ、テンションのせいよ」

( ^ω^)「おっお、ワクワクするお」

从;゚∀从「やべぇ、何にも見えないんだけど」

ツンの尻尾を必死で掴みながらハインが言う。
そういえば、夜目が利かないと言っていた。

ξ゚听)ξ「まー私の尻尾握るのは勘弁かな、這いづらいし」

从 ゚∀从「じゃ、裾」

ξ゚听)ξ「許す」




51 :名も無きAAのようです:2012/09/16(日) 23:57:27 ID:eAmVdhN2O

不意にブーンが立ち止まった。
手を横に伸ばし、後ろの三人を止める。

(;^ω^)「…」

('A`)「何だよ」

( ^ω^)「なんか来てるお……獣の臭いと、薬の臭い」

('A`)「…それって」

ξ;゚听)ξ「ドクオ!」

ツンがドクオを地面に引き倒す。
風を切ってドクオのいた位置を通過し、『それ』はこちらを睨んだ。

ミ,=゚д)「―――…」




52 :名も無きAAのようです:2012/09/16(日) 23:57:59 ID:eAmVdhN2O

ミ,=゚д)「ヴゥ…」

毛並み、体躯、様子。
総合的に判断して、明らかに『キマイラ』だ。

(;'A`)「それも、虎キマイラ」

理性のかけらも見受けられない。
共食い、という言葉が頭に浮かんだ。

(;'A`)「人面獣心、ってか…」

なぜいるんだ。
まさか、逃がされたのか?

…だったら、まさか自分達も?

(;^ω^)「考えるのは後だお!来るお!」

ミ,=゚д)「ヴォア゛ァッッ!!」

飛び掛かる虎をブーンが受け止め、押し返す。

从;゚∀从「わわわっ!」

(;'A`)「ツン、ハインを連れて離れろ!」

ξ;゚听)ξ「死なないでよね!」




53 :名も無きAAのようです:2012/09/16(日) 23:58:49 ID:eAmVdhN2O

(;'A`)「よしっ」

戦力外のハインを逃がしたところで、敵を見る。
体のバランスから、キマイラであることは確かだ。

しかし、人間の成分が非常に低いようだ。

ミ,=゚д)「…!」

虎が木々の隙間を走り回る。
撹乱を狙っているのか。

(;'A`)「弱点を…」

ドクオも虎に合わせて飛び回り、体を観察する。
素早さではまだ負けていない。

ミ,=゚д)「グルォッ!」

(♯^ω^)「ふんぬっ!!」

ブーンと虎ががっぷり四つに組み合う。
ドクオが叫んだ。

(;'A`)「ブーン、腹と左足!そこだけ人間だ!!」




54 :名も無きAAのようです:2012/09/16(日) 23:59:40 ID:eAmVdhN2O

(♯^ω^)「把握だおっ!!」

ブーンが虎の腹を蹴り飛ばす。
唸って距離をとり、今度はドクオに突進してきた。

(;'A`)「おっと」

樹上に飛び上がり、回避。
バランスを崩した虎をブーンが上から押さえ付けた。

ミ,;=゚д)「グゥゥゥゥゥオオッッッ!!」

虎が唸り、暴れる。

(;^ω^)「おっ!?」

ブーンの拘束が緩み、虎が立ち上がり―――

ミ,= д)

――倒れた。




56 :名も無きAAのようです:2012/09/17(月) 00:00:48 ID:rlArG/rkO

ξ;゚听)ξ「ふう」

虎の足元から立ち上がったのは、ツン。

('A`)「あ、毒か…」

ξ゚听)ξ「私の毒ね、血液を凝固させる成分があるから」

(;^ω^)「虎も可哀相に…」

ミ,= д)

キマイラの様子を見る。
研究所から脱走したのだろうか。

('A`)「やばくないか、これ…」

ξ゚听)ξ「他のもいるでしょうね…」

(*^ω^)「とにかく、僕らのチームワーク完璧だったお!」




57 :名も無きAAのようです:2012/09/17(月) 00:01:47 ID:rlArG/rkO

ξ*゚听)ξ「留めは私よ、感謝しなさい!」

( ^ω^)「ブーンの力も役立ったお!」

('A`)「俺が弱点を………」

(;'A`)「あ」

ドクオが小さく声を上げ、どこかに走っていく。
程なく、ハインをおぶって帰ってきた。

ξ;゚听)ξ「あー」

从 ;д从「あ、あんまりだろう、お前らぁ…」

从 ;д从「よりによって、目の見えない俺を化け物のいる森に放置なんてぇっ……!」

('A`)「完全に忘れてた」

ξ;゚听)ξ「ごめんね…」

从 ;∀从「だから夜は嫌なんだぁー……」

ハインを宥めすかしながら歩きだす。
危機は脱したものの、チームワークに問題があるようだ。


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