トラツグミは知りたいようです 五話
- 119 :名も無きAAのようです:2012/09/22(土) 23:07:42 ID:sJnC7KbEO
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第5話『人間性』
朝日を受けてハインが立っている。
その足元に、男を跪ずかせて。
从 ゚∀从「そんな顔だったのか」
(;^Д^)「クソ…」
从 ゚∀从「いかにも小物だな…蔦か?こりゃあ」
男の足は妙な方向に折れ曲がっている。
両腕がいくつもの蔦に枝分かれしているが、満足に動かせていない。
从 ゚∀从「お前の好みはまぁともかく…楽しみすぎたな?」
(;^Д^)「…女如きにやられるなんてな…」
从 ゚∀从「何だ生意気だな、もっかいフリーフォールいっとくか」
(;^Д^)「ま、待て…!」
从 ゚∀从「冗談だよ。とにかく町に突き出すからな」
(;^Д^)「イシは…相棒はどうしてる?」
从 ゚∀从「さあ?とにかく行くぞ」
- 120 :名も無きAAのようです:2012/09/22(土) 23:09:01 ID:sJnC7KbEO
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从 ゚∀从「…と、言っても俺じゃ運べないからな」
从 ゚∀从「お話でもしようぜ。ここなら山から帰って来る通り道だしな」
( ^Д^)「話って何だ」
从 ゚∀从「お前、何て言われてここに来た?」
( ^Д^)「…担当の研究者が『お前はもう用済みだ』って言ってな…」
( ^Д^)「殺処分される前に逃げて……で、まぁ、このザマだ」
そう言って、自虐めいた笑いを漏らした。
どうやら嘘はついていないらしい。
初めて、モララーが担当だった事が幸運だったことを知った。
- 121 :名も無きAAのようです:2012/09/22(土) 23:09:46 ID:sJnC7KbEO
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ふと、ある考えを思いついた。
从 ゚∀从「…なあ」
( ^Д^)「何だよ?」
从 ゚∀从「俺達さ、研究所を捜してるんだ。なんでこんな体になったのか知りたくて」
从 ゚∀从「お前らも一緒に行こうよ」
( ^Д^)「…ありがたいが、無理だな」
( ^Д^)「俺達は『実験されるため』にいたんだ…」
( ^Д^)「それ以外の僅かな可能性を見たいなら行けばいいが、俺はもういいんだ」
( ^Д^)「俺達にも俺達の生き方があるしな」
从 ゚∀从「……そっか…」
- 122 :名も無きAAのようです:2012/09/22(土) 23:10:55 ID:sJnC7KbEO
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( ^Д^)「ってかさっきからずっと足痛いんだが、どうなってる」
从 ゚∀从「ああ、明らかに折れてるよ」
(;^Д^)「マジかよ…怖くて見れねーよ」
从 ゚∀从「人を襲おうとした罰だろ」
( ^Д^)「上手くいくと思ったんだがな」
从 ゚∀从「いく訳ねーだろ。…あ」
ハインが何かを見つけ、飛び去っていく。
程なく事情を話されたドクオがやって来た。
('A`)「泥棒って二人組だったのか…。ボロボロだな、両方」
从 ゚∀从「頼むからもう一人にしないでくれ、録な目に遭わない」
- 123 :名も無きAAのようです:2012/09/22(土) 23:11:40 ID:sJnC7KbEO
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( ^Д^)「あいつは…?」
('A`)「石の奴か。足を傷めてるけど生きてるぞ…眼を潰したと思いきや瞼切っただけだったし」
('A`)「今頃、仲間が町長の所に運んでる」
( ^Д^)「…そうか」
从 ゚∀从「とにかくおぶってやってくれ、俺はもう無理だ」
('A`)「掴んで飛べないのか?」
从;゚∀从「体中が痛くてな、人を運ぶのはちょっと」
男を背に上げて三人で町の中心を目指す。
そこには人だかりができていた。
何とも、嫌な感じだ。
- 124 :名も無きAAのようです:2012/09/22(土) 23:13:08 ID:sJnC7KbEO
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二人で例の服を着て、人だかりの中に入る。
石のキマイラとブーン、それに背負われたツン。
倒れている石キマイラに気づいたドクオの背中の男が声を上げた。
(;^Д^)「イシッ!!」
背中から下ろされ、その近くに這い寄る。
それに気づいた群集がまたどよめく。
ブーンの背中に顔を埋めたツンが震えているのが分かった。
〈::"−゚〉「…ガ」
(;^Д^)「大丈夫だ。瞼を切っただけらしいし、足もすぐに治る」
( ^Д^)「…大丈夫だ」
('A`)「俺達はここまで。じゃあな」
( ^Д^)「ああ。お前らも頑張って生きろよ」
( ^Д^)「あと、お前……済まなかった」
从 ゚∀从「…ん、気にすんな」
- 125 :名も無きAAのようです:2012/09/22(土) 23:13:53 ID:sJnC7KbEO
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「待て」
宿に向かって去ろうとしていた四人を、太い声が引き止めた。
前に出てきたのは、大柄な男。
( ΦωΦ)「お前ら、何者だ?」
('A`)「お前こそ」
( ΦωΦ)「私はここの町長だ。…その服を脱げ」
('A`)「嫌だと言ったら?」
( ΦωΦ)「やむを得ずに捕縛だ」
('A`)「……よく言うよ」
目線を交わし、同時に四人が姿を現した。
群集のざわめきが一層大きくなる。
子供を後ろに隠す者さえいた。
- 126 :名も無きAAのようです:2012/09/22(土) 23:15:18 ID:sJnC7KbEO
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( ΦωΦ)「これからどうする予定だった」
('A`)「宿で怪我を治して、それから出るかな」
( ΦωΦ)「今すぐに出ていけ」
('A`)「何故」
( ΦωΦ)「化け物はこの町には必要ない」
('A`)「俺達は化け物じゃない」
( ΦωΦ)「では何だ」
('A`)「ただの普通の生き物さ」
( ΦωΦ)「私はそれを普通とは呼ばんな」
('A`)「ならば何をもって普通だ」
( ΦωΦ)「人間の形をしている事だ」
('A`)「俺は人間の形だが」
( ΦωΦ)「肌が異常であろう」
('A`)「なら皮膚病の奴は漏れなく化け物なんだな?」
( ΦωΦ)「病気と異常は違う」
- 127 :名も無きAAのようです:2012/09/22(土) 23:16:13 ID:sJnC7KbEO
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しばらく睨み合う。
淡々とした会話だが、両者の眼には明らかな憎悪が燃えていた。
ひゅう、と風を切る音がした。
いち早くドクオが反応し、ハインの前に腕を出す。
(;'A`)「……!」
その腕に、鈍く光る包丁が突き刺さっていた。
包丁を抜き、地面に落とす。
赤い血が溢れた。
はっきりと聞こえた。
化け物が、と。
( ΦωΦ)「どうやら民衆も黙っていないようだ」
(;'A`)「…一つ聞きたい。この二人はどうする気だ」
( ΦωΦ)「神に従い厳正に罪を裁くのみ」
(;'A`)「……厳正だってよ、聞いて呆れるね」
- 128 :名も無きAAのようです:2012/09/22(土) 23:17:23 ID:sJnC7KbEO
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堪え切れなくなった様子のツンが喋りだした。
その目には涙が溜まっている。
ξ;゚听)ξ「だ、黙ってれば、何よ…!」
ξ#゚听)ξ「私達だって好きでこんなになったんじゃない!!」
ξ#゚听)ξ「何にも解らない中、必死に生きてるのに!!」
ξ#゚听)ξ「こいつら二人だって根は悪くない…!」
ξ#゚听)ξ「ただ体が妙だってだけで!この扱いは何よ!!」
ツンの体が揺れた。
小さな音を立て、その体に当たったであろう石が落ちる。
遂に涙が溢れた。
ξ;;)ξ「……あ……」
- 129 :名も無きAAのようです:2012/09/22(土) 23:19:13 ID:sJnC7KbEO
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誰が投げたかなど知らない。
だが、呪詛のような言葉は様々な声で聞こえてくる。
見ていた町長が冷酷に告げた。
( ΦωΦ)「最後だ。出ていけ」
ぽつりぽつり雨が降り始めた。
ξ;;)ξ「酷いよ…」
ブーンが黙ってツンを抱え上げる。
また飛んできた石を軽く払った。
表情は読めない。
( ^Д^)「…本当に済まない…」
〈::"−゚〉「…」
('A`)「お前達のせいじゃない…」
ドクオもしゃがんで泣きじゃくるハインを立たせ、背負った。
宿ではなく、町の外に向かって歩く。
傷ついた体を引きずって。
- 131 :名も無きAAのようです:2012/09/22(土) 23:20:23 ID:sJnC7KbEO
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町から出て、少し離れた位置に立ち止まった。
我慢の限界がきたのか、ツンとハインが声を上げて泣き出した。
( ^ω^)「ドクオ、腕は…」
('A`)「もう塞がった、心配はいらん。…当たったのが俺で良かった」
( ^ω^)「皆、心も体もボロボロだお…どこかで休まないと」
('A`)「…アテがある。ついて来てくれ」
ドクオを先頭にぬかるんだ地面を歩く。
…やがて、崩れかけた小屋が見えてきた。
いよいよ雨は強まっている。
- 132 :名も無きAAのようです:2012/09/22(土) 23:21:58 ID:sJnC7KbEO
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('A`)「あの泥棒が逃げたのがこっちだったんだ……すんなり見つかって良かった」
様々な物がある小屋の中に座る。
ツンはとりあえず泣き止み、恥ずかしそうにブーンから離れた。
ハインは未だ復帰できず、ドクオにしがみついて泣いている。
そのドクオも今ひとつどうしていいか分からずに、ハインの頭を撫でていた。
( ^ω^)「…」
( ^ω^)「ハイン、ツン。ドクオも聞くお」
雨が小屋を打つ音と、ハインの嗚咽だけが聞こえる。
('A`)「…いい加減に泣き止めよ、もう大丈夫だろ」
从つ∀从「……うん…、ごめんな」
('A`)「謝んなくていい。何で皆して謝るんだ」
- 133 :名も無きAAのようです:2012/09/22(土) 23:24:48 ID:sJnC7KbEO
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( ^ω^)「…確かに、僕達は変だお」
( ^ω^)「でも、化け物って言われた時、悲しかったし、嫌だったお?」
ξ゚听)ξ「うん…」
( ^ω^)「多分…だからこそ僕達は化け物じゃないお」
( ^ω^)「確かに完璧な人間とは違うけど…けど」
( ^ω^)「化け物って言われて嫌だった事が、僕達が化け物じゃない何よりの証拠なんだお」
从 ゚∀从「…そう、かな」
(;^ω^)「喋るの下手だから、こう、上手く言えないけど…」
( ^ω^)「…あんなのは気にする事ないんだお」
- 134 :名も無きAAのようです:2012/09/22(土) 23:27:30 ID:sJnC7KbEO
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( ^ω^)「人間じゃないなら、『人間性』を持とうお」
(;^ω^)「普通の人間ですら持ってないこともあるぐらいだから難しいお、でも…」
( ^ω^)「そうすれば、少なくとも化け物からは離れるお!」
('A`)「人間性か…」
( ^ω^)「元は人間なんだから、必ず持ってる物だお」
( ^ω^)「泥棒も謝ったし、僕達も大人しかったし…これでいいんだお」
話が途切れた。
眠る気にもならずに、ただ黙っていた。
二回、控え目なノックが響いた。
('A`)「…?」
(`・ω・´)「どうも…」
確か、青果店の店主。
- 135 :名も無きAAのようです:2012/09/22(土) 23:29:01 ID:sJnC7KbEO
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(`・ω・´)「…あの、すみませんでした」
('A`)「…何がですか」
(`・ω・´)「もちろん、町の人の無礼についてです」
( ^ω^)「いいんですお、気にしませんお」
(`・ω・´)「…うちの町の者は、町長には逆らえません」
(;`・ω・´)「だから、その」
(`・ω・´)「投石なども、きっと…仕方なく」
('A`)「よしてください」
(;`・ω・´)「…すみません」
- 136 :名も無きAAのようです:2012/09/22(土) 23:30:16 ID:sJnC7KbEO
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男は、大きな袋を差し出した。
中には食糧と少しの金が入っている。
宿に置いてきたものだ。
(`・ω・´)「弟から預かってきた物です」
(`・ω・´)「奴も来たがっていましたが、如何せん宿は離れられないしいらしく…」
('A`)「ありがとうございます、助かります」
(`・ω・´)「私からはこれを」
次の袋を差し出す。
(`・ω・´)「干した果物です。…長旅に向きますので、どうか」
(;'A`)「すみません、何から何まで」
(`・ω・´)「いいんです、こんなことは…大した事じゃないです」
- 137 :名も無きAAのようです:2012/09/22(土) 23:31:44 ID:sJnC7KbEO
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(`・ω・´)「あなたがたの受けた苦しみは、私達には到底分かりません」
(`・ω・´)「でも、少なくとも二人」
(`・ω・´)「この町の私達は、あなたがたに感謝していますから…」
( ^ω^)「こちらこそありがとうだお」
( ^ω^)「万が一ここにいるのを見られたら危ないから、早めに帰るお」
(`・ω・´)「そうさせて頂きます。…本当にありがとうございました」
(`・ω・´)「最後に、伝言です」
(`・ω・´)「その小屋の物は、自由に持って行っていいそうです。……では、これで」
男は一礼し、酷い雨の中を走っていった。
- 139 :名も無きAAのようです:2012/09/22(土) 23:33:18 ID:sJnC7KbEO
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( ^ω^)「ツンとハイン、見たかお?」
(*^ω^)「ちゃんと信じてくれる人もいたお!」
('A`)「静かに…」
見ると、二人は抱き合うように眠っていた。
規則的な寝息が聞こえる。
('A`)「泣き疲れたんだ。…子供みたいだな」
( ^ω^)「僕達も寝るお、いい加減疲れたお」
('A`)「だな」
二人も転がり、幾許もしないうちに眠った。
心の中のもやもやとした何かを無視し、明日に備えて。
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