ξ゚听)ξ幽霊裁判が開廷するようです プロローグ
2 :名も無きAAのようです:2012/09/28(金) 23:48:59 ID:wFENlVu6O

 『──さあ、満塁と相成ったシベリア高校、逆転なるか──』


 罰が当たったのだ。


( ;ω;)「ごめんなさいお、ごめんなさい、ごめんなさい……」


 勝手に1人で外に出たから。

 だから、こんなに怖い目に遭った。


    「……もう大丈夫」

( ;ω;)「お……?」

    「怖いのは、私が追い返したから……」


 知らない女性がいた。
 辺りを見渡す。
 彼女の言う通り、「怖いの」は、いなくなっていた。




3 :名も無きAAのようです:2012/09/28(金) 23:51:10 ID:wFENlVu6O

    「さあ、今の内に帰りなさい」

( ;ω;)「う、うん……」

 頷き、立ち上がる。
 帰ろうとしたが、慌てて女性に向き直った。

( ;ω;)「ぼ、僕がここに来たの、誰にも言わないでくださいお……。
       怒られちゃう、から……」

 女性は、くすりと笑う。

    「勿論」

( ;ω;)「ゆびきり……」

    「ん?」

( ;ω;)「指切り、してくださいお。……絶対絶対、誰にも言わないでほしいお」

 言って、右手の小指を立てて女性へ向ける。
 女性はまた笑いながら、こくりと頷いた。




4 :名も無きAAのようです:2012/09/28(金) 23:52:25 ID:wFENlVu6O

 彼女も右手を出そうとしたが、何故か、その手をぱっと背中の方へ回してしまった。
 代わりに左手を伸ばし、小指を立てる。

 右手の小指と左手の小指だから、歪な形の指切りになってしまった。

( ;ω;)「ゆーびきーりげーんまん……」

 お決まりの歌を2人で歌い、小指を離す。
 絶対に言わないで、と再び念押しして、その場を後にすることにした。

 数歩進んで、振り返る。

( ;ω;)「……お姉さんのお名前は何ですかお?」

    「私は──」


 『──打った! 打球は──入った、ホームラン! ホームランです!』


 女性が口を動かしたのは分かったけれど、その声は、
 地面に転がっているラジオから響いた歓声に掻き消された。




5 :名も無きAAのようです:2012/09/28(金) 23:53:49 ID:wFENlVu6O

    「早く帰らないと、また、さっきの奴らが来ちゃうかも」

( ;ω;)「……はいお」

 もう一度名前を訊いた方が良かったかもしれない。
 けれど彼女の言葉が恐くて、そのまま駆け出した。

 ラジオから流れ続けている歓声が、遠ざかっていく。


 『──シベリア高校、逆転勝利!
  5対3で、10年ぶりの甲子園優勝に輝きました!!──』







6 :名も無きAAのようです:2012/09/28(金) 23:54:43 ID:wFENlVu6O





ξ゚听)ξ幽霊裁判が開廷するようです



 プロローグ


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7 :名も無きAAのようです:2012/09/28(金) 23:56:15 ID:wFENlVu6O

(´<_` )「心霊スポット?」

( ・∀・)「そうそう」

(´<_` )「……馬鹿らしい。俺はそういう話が一番嫌いだ」

( ・∀・)「何だよービビってんのか?」

(´<_` )「お前じゃあるまいし」

(#・∀・)「あ?」

(;^ω^)「こら、喧嘩するなお」

 昼休み。ヴィップ中学校2年1組の教室、その窓際。
 内藤ホライゾンは、睨み合う友達2人を宥めるように手を振った。

 2人は、きっ、と内藤に鋭い視線を送る。




8 :名も無きAAのようです:2012/09/28(金) 23:57:19 ID:wFENlVu6O

(#・∀・)「だって、こいつが馬鹿にしてきたんだぞ! ブーンは俺の味方だよな?」

 そう言う彼は、浦等モララー。
 端整な顔立ちだが、よく意地の悪い表情を浮かべるので「台無し」と評されることが多い。

 ちなみにブーンは内藤のあだ名だ。

(´<_` )「モララーが馬鹿な話をするからだろう。そうだよな、ブーン」

 対する彼は流石弟者。
 非常にしっかりした少年で、学校や近所でも評判がいい。

 内藤の遠い親戚にあたり、内藤は、弟者の家に居候させてもらっている。
 その辺りはいずれ説明しよう。

(;^ω^)「あう……」

(;-_-)「や、やめなよ、モララーも弟者も。ブーンが困ってるよ」

 答えあぐねる内藤を見かねて小声で割り込んできたのは、小森ヒッキー。
 内気な性格ゆえか、モララーの無茶な要求や誘いを断りきれないため、
 妙な遊びに付き合わされている光景を多々目撃されている。




9 :名も無きAAのようです:2012/09/28(金) 23:58:42 ID:wFENlVu6O

 ヒッキーの言葉に、弟者とモララーは顔を見合わせた。
 それから内藤を見遣る。

(;^ω^)「そうだお、2人とも落ち着いてくれお……。
       弟者がオカルトに興味ないのも分かるけど、モララーの話を聞くぐらい、いいじゃないかお」

(´<_` )「……悪い」

( ・∀・)「おう」

 仲直りをする2人に、内藤とヒッキーはほっと息をついた。

 内藤は生まれつき温和な顔付きをしている。
 そこに純朴で朗らかな振る舞いまで加わるのだから、
 彼がいるだけで、周囲の人間は穏やかな気持ちになる。

( ^ω^)「それで、何の話だったかお」

( ・∀・)「ああそうだ、心霊スポットだよ心霊スポット」

 思い出したように手を打ち、内藤と向かい合うように座っていたモララーは、
 ずいと身を乗り出させた。

 ──町のとある場所に、廃工場があるのだという。
 十数年前に経営者が首を吊ったとかで、
 以来、無人の筈の工場から声がするという噂が流れるようになったそうだ。

 工場にせよ病院にせよ、廃墟にはよくあることである。




10 :名も無きAAのようです:2012/09/28(金) 23:59:46 ID:wFENlVu6O

(;^ω^)「そ、それは怖いお……」

(*・∀・)「だろ? だろ? でな、今夜お前らと一緒に肝試しにでも──」

(´<_` )「1人で行け」

(;-_-)「わあ、一刀両断だ」

(´<_` )「俺もブーンも、肝試しに行ったなんて姉者に知られたら大変なことになる」

(;^ω^)「ああ、たしかに」

( ・∀・)「ったくよう……。つまんねえ奴だな、弟者は。このシスコン!」

 モララーが罵倒すると同時に、昼休み終了を告げるチャイムが鳴った。
 弟者に頭を叩かれ、モララーは弟者の耳を引っ張ってから自分の席へ逃げた。
 ヒッキーと弟者も席に戻る。

 教科書を出しながら、内藤はこっそり溜め息をついた。



*****




12 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 00:01:07 ID:sZGfpHvsO


( ^ω^)(……で、どおーして、こうなるのかお……)

 深夜1時。
 内藤は舌打ちしたくなるのを堪え、歩みを進めた。

 懐中電灯の光が照らす先には、墓地と林に挟まれた細い道が伸びている。
 道の先は暗闇に溶けていて、向こうにあるという、件の廃工場はちっとも見えてこない。

(;・∀・)「おいヒッキー、腕掴むなよ気持ち悪い」

 懐中電灯の持ち主であるモララーが、右隣を歩くヒッキーの手を振り払う。
 ヒッキーの顔はすっかり青ざめており、下手をすれば失神するのではないかと思えた。

(;-_-)「や、やっぱりやめようよ、帰ろうよ……」

( ・∀・)「さっさと行ってさっさと帰ればいいだろ」

(;-_-)「そうは言ってもさあ……」




13 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 00:02:21 ID:sZGfpHvsO

 ──何だかんだで、肝試しは実行されていた。
 ただし、弟者を除いた3人で。

   ( ・∀・)『弟者はどうせ来ないだろうから諦めるけど、
         ヒッキーとブーンは来てくれるよな? な?』

 しつこく誘われればヒッキーは断れない。
 そうなると今度は、少しでも人数が多い方が安心出来るからか、
 ヒッキーが半泣きで内藤に「ついてきて」と頼み込んでくるわけで。

 この3人で肝試しをすることになるのは、半ば必然だったのかもしれない。


( ・∀・)「ヒッキーはビビりだなー。まだ何も出てない内から怖がってどうすんだよ。なあ?」

(;^ω^)「いやいや、僕も怖いお。モララーはよく平気だおね……すごいお」

(*・∀・)「はははー、そうか?」

(;^ω^)「頼りになるおー」

( ^ω^)(……モララーさん、ちょっと手が震えてらっしゃいますけど)

 それは口に出さず、内藤は真ん中を歩くモララーから目を逸らした。




16 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 00:04:35 ID:sZGfpHvsO

( ^ω^)(馬ッ鹿馬鹿しい……。これで、とんでもない悪霊でも出たらどうする気だお)

 声に出して言いたい。モララーを引っ叩いて帰りたい。
 しかしそれは出来ない。
 内藤は「穏やかで優しいキャラ」なのだから。

( ・∀・)「しっかし今んとこ、何も出てこねえなあ。せっかく墓地の前まで通ってんのに」

(;-_-)「出てこられても困るよう……」

(;^ω^)「変なこと言わないでくれおモララー」

( ^ω^)(何か出てきたら、きっとすぐ逃げるくせに)


 ──内藤には、2つ、秘密があった。

 一つはこの本性。
 普段は年相応の振る舞いを演じているが、実際は、性根からひん曲がったクソガキだ。
 自分の性格が悪いのも、それを表に出すべきでないのも自覚している。

 陽気で、表情豊かで、素直。そういう感じのキャラクター。
 そんな演技をした方が人当たり良く見えるし、周囲との付き合いも円滑に進む。
 内藤にとっても得になる。

 昔からの付き合いがある弟者にはバレているが、モララーやヒッキーには未だ気付かれていない。




17 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 00:05:48 ID:sZGfpHvsO

 14歳の子供が友人相手に演技だなんて、と嘆く者もいるだろう。
 しかし彼がこんな風に捻くれてしまったのにも、大本の原因は存在している。

 その原因こそが、もう一つの秘密。


('A`)「あれ? 内藤少年じゃねえか」

( ^ω^)

('A`)「お友達と仲良く肝試しかあ? いいねえ、やっぱ夏は怪談だよな」

( ^ω^)

('A`)「おいおい無視かよー。俺のこと見えてんだろーがよー」

( ^ω^)

(;・∀・)「……ん、何か声したか?」

( ^ω^)「気のせいだお、ここには僕ら3人しかいないんだから」

(;・∀・)「だ、だよな」


 内藤には所謂、霊感がある。
 それも結構なレベルの。




18 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 00:07:06 ID:sZGfpHvsO

 小さな頃は大変だった。
 周囲からは気味悪がられ、幼稚園や小学校では苛められ。
 寄ってくるのは幽霊と変人のみ。

 「彼らは自分にしか見えていない」と悟ったのが小学低学年ほどの頃。
 それ以降は霊に関する発言はしないよう努めたが、苛めは続いた。
 おかげで内藤はすっかり捩じ曲がってしまったのであった。

 幸い、去年引っ越してきたこの町には
 内藤の過去も霊感云々についても知る者がいないので、平穏に暮らせている。

( ^ω^)(……いや、いなくもないか)

 厳密に言えば、内藤に霊感があることを知っている──というより
 うっかり知られてしまった──人間が何人か程度いる。

 1人は弟者。
 その他の数人は、3週間前に会ったきり遭遇していない。
 なるべく遭遇したくない。




19 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 00:08:19 ID:sZGfpHvsO

 記憶を掘り起こしかけたところで、窶れた男の顔が内藤の視界いっぱいに広がった。

('A`)「おおい、少年ー」

( ^ω^)

('A`)「完全に無視だな。……そんな子にはー……」

( ^ω^)

('∀`)「おじさんが取り憑いちゃうz」

( ^ω^)≡⊃))A`)「ゾマホンッ!!」

(;・∀・)「おわっ!?」

(;-_-)「わっ!! な、何、どうしたの!?」

(;・∀・)「ブーンがいきなり空中殴った!」

( ^ω^)「急にシャドーボクシングがしたくなって」

(;-_-)「何それこわい」

 しつこく付き纏っていた男の霊(実は以前にも会ったことがある)を一発殴ったら、
 もう付いてこなくなった。
 ついでに他の霊への牽制になったようで、先程まで大勢いた浮遊霊達が離れていく。




20 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 00:08:52 ID:sZGfpHvsO

( ・∀・)「お、そろそろ着くかな」

 墓地の前を過ぎ去った頃、モララーが言った。
 懐中電灯が古ぼけた立て看板を照らす。
 文字は掠れて読めないが、恐らく、工場の名前や距離が書かれていたのだろう。

 内藤は、こっそり祈る。

( ^ω^)(……何事も起こらず帰れますように)



*****




21 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 00:09:39 ID:sZGfpHvsO


 しばらく歩くと、建物の前に出た。

( ・∀・)「ここだ」

 落書きだらけのコンクリート。
 表側に窓は無い。建物の中央よりやや左寄りに扉がある。
 周囲には錆びたドラム缶や、用途の分からない機械などが放置されていた。

 入口の上に看板のようなものがあるが、錆やら落書きやらで、よく見えない。

(;-_-)「帰ろうよ……」

( ・∀・)「ばあか。ここまで来たら、中も回るんだよ」

 自然と小さくなる声で囁き合うモララーとヒッキー。
 2人から少し下がった場所で、内藤は、きょろきょろと辺りを見渡した。




22 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 00:10:37 ID:sZGfpHvsO

( ^ω^)(心霊スポットの割に、見た限りじゃ霊はいないお)

(;-_-)「うう、何か寒い……」

( ・∀・)「──しっ」

 不意に、モララーが口の前で人差し指を立てた。
 全員が黙りこくる。

( ・∀・)「……何か、声がしないか?」

( ^ω^)「声?」

(;-_-)「冗談言って、からかうつもりじゃ」

( ・∀・)「違うって。工場から、ほら……」

 3人が工場の入口を見遣る。
 その瞬間──


 ──ばん、と、何かを叩くような音が響いた。

.




23 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 00:11:41 ID:sZGfpHvsO

   「……っ、……」

   「……!」

 次いで、言い合うような声。

 どちらも、確実に工場の中から聞こえている。


(;・∀・)「……うわ」

 マジかよ、とモララーが言いかける。
 しかしそれより遥かに大きな声が、その場に轟いた。


(;-_-)「──わあああああっ!!」


 ヒッキーの悲鳴。
 恐怖がピークに達したらしい。

 彼は振り返ると、内藤を押し退けて走り出した。




24 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 00:12:49 ID:sZGfpHvsO

(;・∀・)「ヒッキー!」

 モララーがヒッキーを追いかけ、もと来た道を駆ける。
 一方で内藤は、

(; ω )「あうっ……」

 ヒッキーに押された拍子に転び、ドラム缶に頭を打ちつけていた。

 どさり、左半身に衝撃。
 横になった視界の中で、2人の背中が遠くなる。

 やがて視界が狭まっていき。

     「……誰?」

 意識が消える瞬間、ぎいぎいと軋む音と、女性の声が耳に届いた。

 それが3週間前に聞いた声に酷似していて、内藤は、立て看板の前での祈りが儚く散ったのを知った。



プロローグ:終わり


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