ξ゚听)ξ幽霊裁判が開廷するようです case1
26 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 00:15:20 ID:sZGfpHvsO

   「──救急車呼びなさいよう」

     「大丈夫よ多分。
      そうだ、トソンさんちょっと取り憑いてみてよ。犯行の検証になるし……」

 「え……」

    「ふざけないでください」

     「私は真面目に……。
      ……あ、じゃあ! 内藤君を病院に連れてくから、一旦閉廷──」

    「裁判長、とっとと判決を」

     「だーかーらあ、待ってってば、ほんと、一日だけ!
      もしくはトソンさん、今の内に取り憑いて!
      いいですよね裁判長、検証のためだもの!」

       「本当に検証になるならな。危なければ俺が離させるし」

     「やった、ほらほらトソンさん、ひゅっと入ってごらん、ひゅっと!」


 幾人かの声がする。
 聞き覚えのある声だ。
 内藤は我慢せずに舌打ちし、瞼を持ち上げた。




27 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 00:15:57 ID:sZGfpHvsO

ξ゚听)ξ「あ……くそっ、起きた」

( ^ω^)「気絶から目覚めた人間に対して、『くそっ』とは何ですかお、ツンさん」

.




28 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 00:16:46 ID:sZGfpHvsO



 case1:憑依罪


.




29 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 00:17:26 ID:sZGfpHvsO

ξ゚听)ξ「私、そんな非常識なこと言わないわよ」

( ^ω^)「どの口が……」

ξ゚З゚)ξ「この口ですー。この美しくも可愛らしい唇ですー」

 女性が内藤の顔を覗き込んでいた。

 20代ほどの若い女性。
 綺麗な金髪がふんわりと緩やかにカールしている。

 彼女の名前は知っている。
 出連ツン、だった筈。

( ^ω^)「あと、さっき、取り憑くとか何とか不穏な話が聞こえましたが」

ξ゚З゚)ξ「気のせいですー。言ってないですー」

 目がしょぼしょぼする。そういえば明るい。
 ツンの頭の向こうに、蛍光灯のついた天井がある。




30 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 00:18:08 ID:sZGfpHvsO

( ^ω^)(……工場の中……?)

 内藤は上半身を起こした。
 痛む頭を摩りながら、周りを見回す。

 一般的な、学校の体育館ほどの広さ。
 役目を終えて久しいであろう、よく分からないぼろぼろの機械やら箱やらが積まれている。

ξ゚听)ξ「工場の前で倒れてたから、とりあえず中に運んだんだけど。平気?」

( ^ω^)「少し頭が……」

ξ゚听)ξ「悪い?」

( ^ω^)「痛い」

ξ゚听)ξ「たんこぶ出来てたしね。……大丈夫そうね」

 ツンが後ろに振り返る。
 数人の男女がいた。その内の1人が、口に手を当てて笑う。




31 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 00:20:25 ID:sZGfpHvsO

(,,゚Д゚)「ああら残念! 人工呼吸してあげようと思ったのに。ぶほほほほ!」

( ^ω^)「妖怪さん……いや、ギコさん、久しぶりですお」

 似合わない女装をして似合わない化粧をした、ごつい男。
 埴谷ギコ。一応、立派な生きている人間だ。

(*,゚Д゚)「妖艶? 妖艶って言った?」

ξ゚听)ξ「お勧めの耳掻きメーカー教えてあげるからちゃんと耳掃除しなさいオカマ」

 屈み込んでいたツンが立ち上がる。

 彼女が身に着けている、真っ黒なブラウスが内藤の意識を引き付けた。
 現在7月上旬。
 夜は多少涼しいが、昼ならばさぞかし暑いだろうなと、ぼんやり思う。

( ^ω^)「相変わらず全身真っ黒ですお」

ξ゚ー゚)ξ「ふふん。細く見えるでしょ」

( ^ω^)「ええ、胸もますます貧相になって」

ξ゚听)ξ「訴えるわよ」

 襟には、細身の紐で出来た、白いリボンタイ。
 肘の辺りまで捲られた袖から華奢な腕が伸びている。

 下半身は、これまた真っ黒なスラックスに覆われていた。
 黒いブラウスにスラックス。リボンタイがなければ、喪服だと思ったかもしれない。
 以前、初対面のときにも同じ格好だった。




32 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 00:21:37 ID:sZGfpHvsO

ξ゚听)ξ「内藤君、どうしてあそこで倒れてたの?
      絶世の美女の匂いを辿ってきたの?」

( ^ω^)「ここのどこに絶世の美女がいるんですかお」

(*,゚Д゚)ノシ ξ*゚听)ξノシ

( ^ω^)「僕は友達の胆試しに付き合わされたんですお。
       その友達は、声がしたのに驚いて逃げていきましたけど」

ξ゚听)ξ「無視すんな」

(,,゚Д゚)「あらあら、ごめんなさいね、その声あたし達だわ」

( ^ω^)「でしょうね。……また『裁判』ですかお」

ξ^竸)ξ「ええ」

 にたり、ツンが不気味に笑う。
 内藤は溜め息をつくと腰を上げた。
 服についた砂や埃を払い、改めて、ツンとギコ以外の人物へ目を向ける。




33 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 00:23:34 ID:sZGfpHvsO

 内藤の正面に、机のような台が左右に一つずつ。
 2メートルほどの距離をあけて向かい合うように置かれている。

 その左側の机には、背が高いのと低いのが2人。
 高い方は先程の化け物、もといギコ。

(*゚ー゚)「胆試しなんかやらないに越したことはない。
     子供が出歩く時間帯じゃないし、帰った方がいいよ」

 ギコの隣に立つ、背の低い方──猫田しぃが言った。

 内藤を子供と言うが、向こうだってまだまだ若い。
 たしか高校生だと聞いた。

 黒い詰め襟の学生服、所謂学ランを着ている。
 服装こそ男物だが、性別は女だ。
 声が高いし、顔も可愛らしいので、知らない者が見ても違和感を覚えるだろう。




34 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 00:24:32 ID:sZGfpHvsO

ξ゚听)ξ「そうよねそうよね、私は内藤君を送っていくから、審理は中断しなきゃね」

(*゚ー゚)「しつこいですよ」

( ^ω^)「また劣勢なんですかお、ツンさん」

ξ#゚听)ξ「黙らっしゃい」

 視線を滑らせる。

 机と机の間──内藤から見て正面に、1人の女性が立っていた。
 彼女が今回の「被告人」か。

 内藤の目線の先に気付いたらしく、ツンは彼女を手で示した。

ξ゚听)ξ「この人、都村トソンさん。私の依頼人」

(゚、゚トソン「どうも……」

 身に着けている服のあちこちに血痕らしき赤黒い汚れ。
 髪の所々が血で固まっているし、顔にも、血の垂れた跡がいくつか。
 確実に死んでいる。

 都村トソンだと紹介された女の霊は、内藤に会釈した。
 それから、ふと首を傾げる。




35 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 00:25:11 ID:sZGfpHvsO

(゚、゚トソン「……?」

( ^ω^)「?」

 内藤の顔をまじまじと見つめるトソン。

 対する内藤も、同じように首を捻った。
 トソンを見たとき、違和感のようなものがあった。
 何かが足りないような。

ξ゚听)ξ「あ」

 そこへ、ツンが声をあげる。
 内藤とトソンを眺め、ぽかんと口を開け放した。

ξ゚听)ξ「あら、あらあら……あらららら……あれまあ……」




36 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 00:26:12 ID:sZGfpHvsO

(,,゚Д゚)「何をお見合いしてんのよ、そこ3人は」

(*゚ー゚)「内藤君と都村トソンは知り合いなのかい?」

( ^ω^)「いや……」

     「──くさい!」

 一体何だろうという内藤の思考は、大変失礼な大声に掻き消された。

 反射的に声の方向へ意識をやる。

 都村トソンの、さらに向こう側。
 2人の男女が並んで立って──いや、僅かに「浮かんで」いる。

 その内の女性が、鼻をつまみながら内藤を睨んでいた。

川 ゚ 々゚)「ブーン、くさいから嫌い」

 ワンピース姿。
 外見で判断するならばツンと歳は変わらなさそうだが、
 人間でも普通の幽霊でもないので実際の年齢は分からない。

( ^ω^)「くるうさん、多感な中学生にそういうこと言わないでくださいお」

ξ゚听)ξ「図太い神経しといて何が多感よ」




37 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 00:27:36 ID:sZGfpHvsO

川 > 々<)「んむむむ。くさいー。普段から嘘ついてる人間の臭いー」

 言って、くるうという名の女が隣の男に縋る。
 男はくるうを撫でてから内藤に顔を向けた。

【+  】ゞ゚)「他人に対して演技なんかしてるから『嘘』の臭いが染みつくんだ。
        子供は素直にしてればいいものを」

 見た目は40代かそこらほど。
 こちらは着物姿だ。
 顔の右半面にお面をつけていて、ぱっと見、非常に胡散臭い。

 しかしこれでもヴィップ町の真ん中にある神社の神様だというのだから、
 いやはや、人間見掛けによらない。人間ではないけれども。

 昔は「オサム様」と呼ばれて信仰も厚かったようだが、
 今では神様の存在を信じる者もめっきり減っていて、
 威厳も力も弱まっているらしい。

( ^ω^)「……演技は僕なりの自己防衛ですお」

【+  】ゞ゚)「人間ってやつは面倒なもんだな」

 ここにいる面々と内藤は、トソンを除き、2度目の出会いである。
 初めて会ったのは3週間前かそこらだった。

 もう会うまいと思っていたが──まさか、こんなところで「裁判」をしているとは。




38 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 00:29:45 ID:sZGfpHvsO

( ^ω^)「……さて、僕はお邪魔のようなので帰らせてもらいますお。
       どうぞ頑張って──」

ξ^竸)ξ「待った」

 嫌な笑顔で引き止められた。
 内藤の両肩にツンの手が乗せられ、ぐっと顔が近付く。

ξ^竸)ξ「ここで会ったのも何かの縁だわ。お手伝いして?」

( ^ω^)「いやいや、僕、帰らないと家の人に怒られますので」

ξ^竸)ξ「大丈夫よ。ほんの6時間、トソンさんに憑依されてればいいんだから」

( ^ω^)「『ほんの』の意味を辞書で調べた方がいいと思いますお」

ξ^竸)ξ「いいからいいから。はい、トソンさんどうぞ」

( ^ω^)「どうぞじゃないお」

(*゚ー゚)「ツンさん、あなたが人間とはいえ、場合によっては憑依の教唆に当たりますよ」

ξ^竸)ξ チッ

 一応諦めはしたようだが、ツンの手は内藤から離れなかった。
 肩から滑り降りた手が腕を掴み、内藤を引っ張る。




39 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 00:30:32 ID:sZGfpHvsO

ξ゚听)ξ「……とりあえず、ここにいてくれない? お願い」

( ^ω^)「何でですお」

ξ゚听)ξ「え? えーと私って左隣に人がいると本領を発揮出来るの」

( ^ω^)(,,゚Д゚)(*゚ー゚)(意味が分からない)

 何だかんだ、内藤はツンと並ぶ形で、右側の机──

 ──「弁護人席」に立ってしまった。

( ^ω^)(……帰らなきゃいけないんだけどなあ)

 結局、好奇心で留まってしまう自分に溜め息をつく。

 仕方ない。
 ただの裁判すら中学生の内藤には物珍しいのだ。
 こんな特殊な裁判、興味が引かれるのも無理はないだろう。

 ぐるりと周囲を見回す。




40 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 00:31:20 ID:sZGfpHvsO

ξ゚听)ξ「さあて、始めますか」

 弁護士、出連ツン。

(*゚ー゚)「急にやる気が出てきましたね」

(,,゚Д゚)「開き直ったんじゃなあい? ま、再開するに越したことはないけど」

 検事の猫田しぃと、その助手、埴谷ギコ。

【+  】ゞ゚)「そうだな。さっさと裁判終わらせて、くるうといちゃいちゃしたい」

川*゚ 々゚)「オサム……もう、そんなこと言われたら殺したくなっちゃう……」

【+  】ゞ゚)「俺も殺したいほどくるうが好きだよ」

 裁判長のオサム、監視官のくるう。

 そして──

(゚、゚トソン「……」

 被告人。




41 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 00:31:45 ID:sZGfpHvsO

【+  】ゞ゚)「それでは、改めて」

 オサムは右手を顔の横に上げた。
 木槌が握られている。

 その手を勢いよく振り下ろすと──何もない空間から、かあん、と甲高い音が鳴り響いた。

【+  】ゞ゚)「開廷だ」



 斯くして、内藤にとって2度目となる「幽霊裁判」が始まった。



*****




42 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 00:33:08 ID:sZGfpHvsO


 世の中に「おばけ法」なるものがあると内藤が知ったのも、3週間前のことだった。

 その名の通り、霊や妖怪が揉め事を起こさないようにするために制定された法律らしい。
 まだ全国に普及しきってはいないようだが、
 このヴィップ町は既におばけ法を導入しているのだという。


   ξ゚听)ξ『法があれば、当然、裁判もあるわ』


 3週間前の、ツンの言葉が脳裏を過ぎる。

   ξ゚听)ξ『それが幽霊裁判。基本的には、私達生きてる人間の裁判と大差ないわ』

 まず事件が起きる。
 検察官は捜査を元に、犯人と思しき者を訴える。
 訴えられた者、被告人は、弁護士に弁護を依頼する。

 それから諸々の準備を整え、裁判が始まるのだ。




43 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 00:34:12 ID:sZGfpHvsO


   ξ゚听)ξ『基本的に、被告人は幽霊や妖怪ばかりよ。
         ごくたまーに人間が訴えられることもあるらしいけど。
         被害者の方も、幽霊だったり人間だったり……色々ね』

   ξ゚听)ξ『検察官──検事って言えば分かるかしら?
         検事や弁護人は、霊感のある人間がやることになってるの』

   ( ^ω^)『裁判官は?』

   ξ゚听)ξ『ううんと……日本で言えば、一番多いのは
         その土地で最も大きい神社の神様が裁判長になるパターンかしら。
         場所によって、また違うんだけどね』


 要するに。

 そいつが犯人だ、こういう方法で犯行に及んだのだ──というしぃの主張に、
 ツンは証拠やら何やらを用いて反論すればいいわけだ。
 その審議の結果、オサムが、被告人が有罪なのか無罪なのかを判断することになる。

 くるうは「監視官」という聞き慣れぬ役割を当てられているが、それについては追い追い。




44 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 00:35:37 ID:sZGfpHvsO

 今回の被告人は都村トソン。
 弁護人はツン、検事はしぃ。
 被告人以外、前回のメンバーと同じだ。


(*゚ー゚)「──さて……開廷とはいっても、もう、判決出すしかやることありませんよ?
     有罪って。ねえ?」

 しぃが嫌味に笑う。
 それはもう憎たらしいくらいに。

(*゚ー゚)「これ以上ツンさんの悪足掻きに付き合う気もありませんから」

ξ゚听)ξ「……悪足掻き?」

(*゚ー゚)「そもそも昨日の段階で有罪判決は確実だったんですよ?
     それをあなたが『まだ証拠が揃いきってないから一日待って』って言うから、
     こっちは仕方なく、仕方なく! 待ってやったんです」

(#゚ー゚)「……なのに何ですか、今日は開廷前から『もう一日ちょうだい』ですって!?
     ただ時間稼ぎしてるだけじゃないですか!
     これを悪足掻きと言わずして何と言いますか!?」




45 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 00:36:36 ID:sZGfpHvsO

ξ;゚听)ξ「うっ、ぐっ、う、……だっ、だだっ、だって! だって!
      ほんとに時間が足りなかったんだもん! 見付からなかったんだもん!」

(#゚ー゚)「『もん』じゃありませんよ、『もん』じゃ!」

( ^ω^)(裁判っていうか、ただの口喧嘩……)

 前回もこんな感じだった。
 内藤は片耳を押さえる。

 また木槌の音が響き、ツンとしぃが口を噤んだ。

【+  】ゞ゚)「何にせよ、今日の内に新しい証言や証拠が出なけりゃそれまでだ」

 言い終わるや否や、再び、木槌で手元を打つ。
 それに合わせて、何もない空間から音が鳴る。

 ツンいわく、裁判長になる者だけに与えられる特別な槌。とか何とか。
 内藤はあまり詳しくは知らない。




46 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 00:38:05 ID:sZGfpHvsO

(*゚ー゚)「……まあ、その様子じゃ、証拠も何も集められなかったみたいですけどね。
     今度こそ終わりでしょうか」

ξ゚ー゚)ξ「それはどうかしら」

 自信ありげに笑うツンに、しぃは怪訝そうな表情を浮かべる。
 だが、虚勢と判断したのか、すぐにツンから机上の書類へと意識を移した。

(*゚ー゚)「──どこから始めましょうか」

(,,゚Д゚)「昨日はツンのせいで中途半端なとこで終わったものね」

ξ゚听)ξ「なら内藤君が参戦したことだし、事件の概要くらいは説明してあげてよ」

 ツンが、内藤の肩をぽんぽん叩く。
 参戦も何も、ただの傍聴人に過ぎないと思うのだが。

 胡乱げな目をする内藤に、ツンは耳元で囁く。

ξ^竸)ξ「まあまあ、時間稼ぎに付き合ってちょうだいよ。
      もう少しで何とかなりそうな気がするような感じが否めなくもないの」

( ^ω^)「それ何ともなってませんお。
       ていうか時間稼ぎって認めた今この人」

 しぃは呆れながら、手元の書類らしき束をめくった。
 面倒だなあ、という呟きが耳に届く。




47 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 00:38:45 ID:sZGfpHvsO

(*゚ー゚)「裁判長、よろしいですか?」

【+  】ゞ゚)「うん。──じゃあ、どうせだから、整理も兼ねて初めからやろうか」

 オサムは木槌で眼前の空間を叩き、咳払いをした。
 ぎょろりとした目で都村トソンを睨む。

【+  】ゞ゚)「──名前と生年月日は覚えてるな?」

(゚、゚トソン「都村トソンです。生まれたのは1976年──昭和51年の11月22日でした」

【+  】ゞ゚)「死亡した年月日と、享年、死因は」

(゚、゚トソン「……平成10年2月15日で、21歳でした。死因は交通事故です」

【+  】ゞ゚)「で、浮遊霊をやってる、と。
        それじゃあ、検事……検察官? どっちだっけ」

(*゚ー゚)「呼び名は裁判長のお好きなように」

川#゚ 々゚) ギリギリギリ

 オサムと女性ばかりが会話することに腹を立てているのか、くるうが物凄い形相で爪を噛んでいる。
 全員、とりあえず無視した。




48 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 00:39:59 ID:sZGfpHvsO

【+  】ゞ゚)「じゃあ検事で。
        検事が起訴状を読み上げるから、よく聞くように」

(゚、゚トソン「はい……」

 幽霊裁判は格式ばったものではない。
 それらしく進行さえ出来ればいいのだという。
 実にいい加減だ。

(*゚ー゚)「──公訴事実!」

 起訴状──端的にいえば、検察側の主張。

 しぃは内藤を一瞥すると、ゆっくり、何かを考えるようにしながら話し始めた。
 内藤にも理解出来るよう、内容を分かりやすくまとめようとしているのだろう。

(*゚ー゚)「事件が起きたのは、7年前の平成17年8月20日。
     被告人都村トソンは、ある目的を遂行するため
     本件の被害者である三森ミセリに憑依することを決めた」

(*゚ー゚)「同女……三森ミセリはヴィップ町の不動産会社に事務として勤めており、
     その日も会社に出勤していた。
     ……ここまでいいかな?」

( ^ω^)「大丈夫ですお」




49 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 00:41:27 ID:sZGfpHvsO

(*゚ー゚)「その日の午前11時30分頃。三森ミセリが休憩に入ったのを見計らい、
     被告人は会社の給湯室にて彼女に許可を得て、彼女の体に憑依した」

( ^ω^)(許可を得て……?)

 取り憑いてもいいですか、いいですよ、なんてやり取りが行われたのだろうか。
 だとしたら被害者は随分と懐の深い人らしい。

(*゚ー゚)「ここで交わされた契約は、
     同日午前11時50分から12時10分までの20分間、
     三森ミセリの体を都村トソンに貸す……という内容である」

(*゚ー゚)「しかし被告人がとった行動は、その契約内容に反するものだった」

(゚、゚トソン「……」

(*゚ー゚)「被告人は三森ミセリの姿のまま会社を出て、ヴィップ銀行に向かい、
     そこに勤務している男性、伊予ぃょぅ氏と接触する。
     彼と会話し、同氏と別れた時点で約束した時間を迎えていた。しかし……」

 ここまでで登場人物は3人。
 被告人のトソン、被害者の三森ミセリ、そして伊予ぃょぅ。

 トソンは「20分だけ」という約束のもと、三森ミセリに取り憑いた。らしい。
 そのまま、銀行員の伊予ぃょぅに会いに行き、何かを話して、別れた。

 しぃの声色が変わる。ここからが問題だと言外に匂わせていた。




50 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 00:42:18 ID:sZGfpHvsO

(*゚ー゚)「あろうことか、被告人は憑依を解かないまま町中を移動した。
     通行人に因縁をつけて喧嘩を売る現場も何度か目撃されている。
     ……少なくとも午後6時まではその状態にあった」

(*゚ー゚)「その後、同日午後7時40分頃。ヴィップ中学校の裏手にて、
     通りすがりの男性が、倒れている三森ミセリを発見する。
     男性が呼んだ救急車で彼女は病院に搬送された」

(,,゚Д゚)「この時点では既に憑依が解けていたから、
     被告人が被害者から離れたのは、午後6時から7時40分までの間ってことになるわねえ」

( ^ω^)「ミセリさんとかいう人はどうなったんだお?」

(*゚ー゚)「それこそが重要な点だよ内藤君」

 しぃは一拍置いて勿体をつけ、トソンに目を向けた。
 その瞳には、軽蔑するような色が混じっている。

(*゚ー゚)「──三森ミセリの意識は、未だに戻っていない。
     いわば植物状態だ」

(-、-トソン

 トソンが、そっと目を閉じる。
 内藤にはトソンの感情は読めなかった。




51 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 00:43:44 ID:sZGfpHvsO

(*゚ー゚)「……罪名及び罰条!
     憑依の罪、おばけ法第61条の第2項!」

 ちらりと、しぃは内藤に視線を送った。
 彼女は何事か考えると、「ええと」、と声を漏らす。

(*゚ー゚)「おばけ法では、生者に許可をとり、その証拠──たとえば書類などを得た後の憑依なら
     問題はないとされているんだ」

( ^ω^)「書類って、どんなのなんですかお?」

【+  】ゞ゚)「細かい書式は決まってないな。
        憑依する時間や、霊と憑依対象者の直筆の名前、印影があればいい……んだっけか」

ξ゚听)ξ「これが書類のコピー。被害者の筆跡と一致してる。
      トソンさんが大事に保存してくれてて良かったわ」

( ^ω^)(幽霊が7年間も、書類をどこに保存してたんだろう……)

 ツンは机上のファイルから一枚の紙を取り出した。

 《本日午前11時50分から午後12時10分まで都村トソンに体を貸します。 H17/08/20 三森ミセリ》

 女性らしい丸みのある字で書かれた文章。名前の横には捺印まで。
 右下に美符不動産とプリントされているので、会社のメモ用紙に書いたのだろう。




52 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 00:44:45 ID:sZGfpHvsO

(*゚ー゚)「そういった許可を得ないまま強引に憑依すれば、
     それは憑依罪という違法行為に当たる。
     ……おばけ法の中でも最もメジャーなものだよ」

( ^ω^)「トソンさんは被害者に許可をとったんですおね?」

(*゚ー゚)「たしかに許可をとった事実は認められるけれども、
     被告人は契約内容を無視し、約束の時間を過ぎても被害者から離れなかった。
     これは憑依罪に当たるよ」

( ^ω^)「はあ」

(,,゚Д゚)「憑依罪は、これといった被害がなければ罪としては軽いけど
     たとえば……そうね、対象に怪我を負わせたとか、
     憑依した体を操って他人に危害を加えたとなると、罪が重くなるわねえ」

(*゚ー゚)「おばけ法の61条には、こう記されている。
     『1.無断で生者に憑依し、生体を使用することを禁ずる
      2.前項の場合において周囲に何らかの危害が及んだときは、重い刑により処断する』……」




54 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 00:45:45 ID:sZGfpHvsO

(*゚ー゚)「今回の場合は憑依の際に三森ミセリから生気を奪い、
     その結果、彼女を昏睡状態に至らせたと思われる。
     また、被害者の姿で通行人に喧嘩を売るなど、彼女の名誉を傷付ける行動にも出ていた。
     これらは61条の第2項に触れる。……理解出来たかい?」

( ^ω^)「それなりに」

(*゚ー゚)「なら、起訴状朗読は以上です、裁判長」

 かんかん、木槌の音。
 全員の視線がオサムへ向かい、トソンは瞼を持ち上げる。

【+  】ゞ゚)「被告人。検事の今の公訴事実に間違いはあるか?」

(゚、゚トソン「……ミセリに憑依したことは認めます」

 しぃもギコも、何の反応も見せなかった。
 ツンは腕を組み、しぃを睨んでいる。

(゚、゚トソン「でも、約束した通りにちゃんと体を返しました。
     それ以降はミセリに近付いてもいません」

(*゚ー゚)「そうは言っても、昨日からそれを証明出来てないんですよねえ、ツンさんは」

 今までの会話から察するに、この裁判は今日が初めてではないのだろう。
 そして恐らく、ツンにはもう後がない。




55 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 00:46:44 ID:sZGfpHvsO

( ^ω^)「……ツンさんツンさん」

ξ゚听)ξ「何?」

( ^ω^)「12時10分以降の被害者に、
       トソンさんが取り憑いてたっていう証拠はあるんですかお?」

ξ゚听)ξ「……ないわ。
      あるのは、そこら辺の霊や人間から集めた目撃証言だけ。
      その証言だって、ぼんやりとしたものばかりだった」

ξ゚听)ξ「だからこそ、事件発生からトソンさんへ容疑が掛けられるまでに
      7年もかかったわけだしね」

( ^ω^)「なら、あの、証拠不十分? そういうやつは適用されないんですかお」

ξ--)ξ「されないわよ。
      『疑わしきは罰せず』なんて精神、幽霊裁判には一切ないもの」

ξ゚听)ξ「裁判長に有罪と思わせられるか無罪と思わせられるか。それだけよ」

 ツンがそこまで言ったところで、木槌の音が耳を打った。
 オサムが、木槌の先をトソンに向ける。




56 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 00:47:38 ID:sZGfpHvsO

【+  】ゞ゚)「被告人は何のために被害者に憑依したのか証言してくれ。
        昨日話したのと同じ内容でいい」

 トソンは声も無しに頷くと、一呼吸(霊が呼吸するかは知らないが)おいて、口を開いた。
 彼女を見るしぃの瞳は、やはり冷たい。

(゚、゚トソン「……私は生前、ぃょぅさんやミセリと同じ大学に通っていて……。
     そこの演劇サークルで、仲良くしていました」

(゚、゚トソン「ぃょぅさんは1年先輩で、優しくて面倒見がいい方で……
     人見知りの私にも、とても良くしてくださって、それで、……その、
     私は、ぃょぅさんが好きだったんです」

 目を伏せるトソン。
 血まみれでさえなければ、なかなか綺麗な人かもしれない。
 血まみれでさえなければ。

(゚、゚トソン「結局、告白も何も出来ないまま私は事故で死んでしまいましたが……」

 内藤は、トソンの頭から足元まで視線を滑らせた。
 初めに彼女を見たときに抱いた違和感の正体を探る。




57 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 00:49:45 ID:sZGfpHvsO

( ^ω^)(……あ)

 右手に目が止まる。
 小指。第2関節の辺りから先がない。

 死因が交通事故だということだから、恐らく、そのときに千切れたのだろう。

(゚、゚トソン「死んだ後も、町の中をぶらぶらしているときに
     たまにぃょぅさんを見かけたりすると、やっぱり少し嬉しかったです」

(゚、゚トソン「それで……事件の日の数日前に、ぃょぅさんが結婚することを知りました」

【+  】ゞ゚)「どうやって知った?」

(゚、゚トソン「夜だったと思うんですが、居酒屋の前を通りかかったときに
     ぃょぅさんが……同僚の方々でしょうか、何人かと一緒にお店から出てきたんです。
     そこで結婚の話をしてました」




58 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 00:50:36 ID:sZGfpHvsO

(゚、゚トソン「私、どうしても『おめでとう』って、言いたかったんです」

(*゚ー゚)「好きな人が自分以外の女と結婚するのに、『おめでとう』ですか。嫉妬はなかったんですか?」

(゚、゚トソン「好きとは言っても、私は幽霊ですし……それに、
     生きてた頃のような、激しい恋心はもう落ち着いていましたから」

(*,゚Д゚)「『思い出の人』ってやつよねえ……。
     分かるわ、あたしも初恋の人のことを未だに思い出すもの」

(*゚ー゚)「お前の話は聞いてない」

(*,゚Д゚)「あれは幼稚園の保母さんで……あたしだって昔はノーマルな恋をしたものよ」

(*゚ー゚)「お前の話は聞いてない」

【+  】ゞ゚)「それで体を借りるために被害者に近付いたのか?」

(゚、゚トソン「はい……。ミセリとは高校からの付き合いだったのですが、
     昔、霊感のようなものがあると話していたのを覚えてましたので……」




59 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 00:52:44 ID:sZGfpHvsO

#####


ミセ;゚ー゚)リ『──ああもう、びっくりした。こんなにはっきり幽霊見たの初めて。
      ……変わらないねトソン。若いまんまだ。血まみれだけど』

(゚、゚トソン『驚かせてすみません』

ミセ;゚ー゚)リ『それで、何? 契約書を書けって? 幽霊も面倒臭いね……』

(゚、゚トソン『……本当に貸してくれるんですか?』

ミセ*゚ー゚)リ『まあいいよ、正直ちょっと恐いけど、トソンなら信じる。
      あ、ぃょぅ先輩の仕事先わかる? すぐそこの銀行だよ』

(゚、゚トソン『はい、ありがとうございます、ミセリ』

ミセ*゚ー゚)リ『はっはっは。頭が高ーい。
      午後からお客さんが来るから、なるべく時間守ってくれよー』


#####




60 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 00:53:42 ID:sZGfpHvsO

(゚、゚トソン「彼女も、とてもいい人なんです。
     私の話を信じて、快諾してくれました」

 内藤ならば、たとえ知人であっても、霊に体など貸しはしない。
 被害者は霊感のせいで苦労したという経験がなかったのか──それとも、
 トソンを心から信用していたのか。

(゚、゚トソン「それから銀行に行って、ぃょぅさんに会って……」



#####


(=゚ω゚)ノ『──久しぶりだょぅ、ミセリ。どうしたょぅ?』

ミセ*゚ー゚)リ『あの、たまたま来たもので。
      ……ぃょぅさん……いえ、先輩、結婚するんですよね?』

(=゚ω゚)ノ『そうだょぅ。この間、招待状送ったょぅ?』

ミセ*゚ー゚)リ『……ぃょぅ先輩』

(=゚ω゚)ノ『ん?』

ミセ*゚ー゚)リ『──おめでとう……ございます』


#####




61 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 00:55:11 ID:sZGfpHvsO

(゚、゚トソン「……ぃょぅさん、笑って『ありがとう』って言いました。
     その顔がすごく幸せそうで、私、満足しました」

(゚、゚トソン「時計を見たら約束の時間になっていたので、
     ミセリの会社の前まで戻ってから、すぐにミセリから離れました。
     だから……憑依を解いたのは、12時15分とか、それくらいだったかもしれません」

ξ゚听)ξ「5分程度のオーバーなら立件するほどじゃないわ。別に被害もないんだし」

(*゚ー゚)「5分程度なら、ね」

【+  】ゞ゚)「そのとき、被害者と何か話したか?」

(゚、゚トソン「『ちゃんと言えた?』って訊かれたから、『うん』って──たしか、そのくらい。
     あとはお礼を言って別れました。
     ……あ、ミセリが『早く成仏しなよ』って言ってくれたのも覚えてます」

【+  】ゞ゚)「会話はそれだけか? 旧友なら、色々と話したいこともあったんじゃないか」

(゚、゚トソン「たしかにそうなんですが、でも、ミセリが幽霊の私と話してるのを他の霊に見られたら、
     彼女が面倒事に巻き込まれるかもしれないから」

ξ゚听)ξ「下手に霊感持ちなのが知れると、厄介なのが寄ってきかねないものね」

 昔の友人がずっと現世を彷徨い続けていたと知ったとき、三森ミセリは何を思ったろう。
 内藤は、顔も知らない三森ミセリの感情を推し量る。
 会えたことが嬉しくても、やはり、どこか悲しい気持ちになるのだろうか。




63 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 00:57:15 ID:sZGfpHvsO

【+  】ゞ゚)「会社の前で別れたとのことだが、被害者が会社に入るところは見たか?」

(゚、゚トソン「いえ……。私がミセリに背を向けて、その場を離れました。
     しばらく進んでから振り返ったときには、もうミセリはいませんでしたけれど」

【+  】ゞ゚)「……まあ、昨日の証言との違いはないな。
        適当に嘘をついたせいで破綻する奴がたまにいるんだが」

 オサムが顎を擦る。
 内藤はオサムからトソンへ視線を滑らせた。

(゚、゚トソン「あ……」

( ^ω^)「──?」

 目が合う。
 その瞬間、トソンは小さな声を落とした。

 すぐに顔を俯け、右手を左手で握り込む。
 いかにも妙な動作だった。

ξ゚听)ξ「……気付いたわね」

( ^ω^)「何がですお?」

 ツンが、内藤にしか聞こえないほどの声で呟く。
 内藤もまた小声で問うたが、ツンからの返答はなかった。




64 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 00:58:36 ID:sZGfpHvsO

(*,゚Д゚)「はあ、切ないわあ。
     生前の思い人に、わざわざ旧友の体を借りてまで伝えたかったのは、
     『おめでとうございます』のただ一言……」

 内藤の向かいで、ギコが頬に手を当て、ほう、と息をついた。
 くねくねと身を捩らせているのが目障りにも程があった。

(*,゚Д゚)「素敵……乙女のいじらしさってのは、これなのよねえ」

ξ゚听)ξ「オカマに乙女の何が分かる」

(#,゚Д゚)「あ゙あっ!?」

 そっぽを向いたツンの一言。
 どうやら、ギコには大変癪に障るものだったらしい。

(#,゚Д゚)「彼氏いない歴イコール年齢のあんたに比べりゃ、あたしの方がよっぽど乙女だわ!!」

ξ#゚听)ξ「なっ……! か、彼氏は作れないんじゃなくて作らないだけですうー!!
      その気になれば余裕で2股3股4股5股……!」

川 ゚ 々゚)「あ、嘘の臭い」

(#,゚Д゚)「昔っからあんたに寄ってくるのは男じゃなくて霊ばっかだったじゃないの!
     中学くらいになると生きてる女も寄ってこなくなってたけどね!!」

ξ#゚∀゚)ξ「おほほほほ言ってくれるじゃない!
      昔は爽やかで男前キャラで人気者だったギーコーくーん!!」




65 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 01:00:06 ID:sZGfpHvsO

(*゚ー゚)「……なんて醜い言い合いだろう……」

( ^ω^)(これも時間稼ぎなのかなあ……)

 もしかしたら本気の喧嘩かもしれない。
 ツンならば有り得る。

 せめて裁判に関係のある議論をしろ。
 内藤が心の中でつっこむのと、オサムの木槌が打ち鳴らされたのは同時だった。

【+  】ゞ゚)「さて、ここからが問題だな。被告人」

(゚、゚トソン「はい」

【+  】ゞ゚)「被害者と別れた後、どこで何をしていた?」

ξ゚听)ξ「……」

 ギコとの口論をやめたツンは、机に突いた手を丸め、拳を作った。
 先程まで浮かんでいた怒りの表情は消え、その顔色は困り果てたものに変わっている。
 視線の先はトソン。




66 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 01:00:49 ID:sZGfpHvsO

(-、-トソン「……黙秘します」

ξ;゚听)ξ「トソンさん!」

【+  】ゞ゚)「……昨夜から、ずっとこうだ。
        肝心の、犯行時刻とされる時間帯の行動は話さない」

 オサムは内藤に言ったらしい。
 それに気付くのが遅れた内藤は、少し間をあけてから「はあ」と返した。

ξ;゚听)ξ「トソンさん、どうして話してくれないの!」

(*゚ー゚)「『話せない』んじゃないですか?
     話せば、自分が犯人だと知られてしまうから……とか」

ξ#゚ -゚)ξ「いちいち癪に障る言い方するわね、あんたは……!」

(*゚ー゚)「ほら、何とかしてみてくださいよツンさん。
     被告人が証言しないなら、弁護人のあなたが証明するしかないんですよ」

ξ#゚听)ξ「するわよ! するけど……まだ準備が整いきってないのよ!」

(*゚ー゚)「そればっかりですねえ。みっともないったら……」

(,,゚Д゚)「あんたって本当に嫌味な女よね、しぃ」




67 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 01:02:33 ID:sZGfpHvsO

 ツンは、時間稼ぎに付き合えと内藤に言っていた。
 時間さえあれば、本当に証明出来るのだろうか。

 半信半疑ながらも、とりあえず、内藤はツンに協力してやることにした。

( ^ω^)「……問題の時間に被害者が会社にいなかった証拠はあるんですかお?」

(*゚ー゚)「勿論。
     昼の12時45分に、被害者、三森ミセリは商店街に入っている。
     これは商店街入口にある監視カメラに記録されていた」

( ^ω^)「カメラですかお」

(*゚ー゚)「これが監視カメラのテープ」

 言って、しぃはビデオテープを持ち上げた。

(*゚ー゚)「何せ7年前のテープだから多少は劣化しているけど、映像確認には充分だ」

( ^ω^)「今、見ることは可能ですかお?」

ξ゚听)ξ「そうね内藤君にも見てもらいましょうかじっくりと、そうしましょうよたっぷり時間かけて」

(,,゚Д゚)「色々準備しなきゃいけないから面倒なのよね」

【+  】ゞ゚)「映像に被害者の三森ミセリが映っていたのは間違いない。
        俺達も何度も確認済みだ。それで信用してくれ」

ξ゚听)ξ チィッ




68 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 01:04:03 ID:sZGfpHvsO

( ^ω^)「ええと、言いづらいんですけど、その映像が偽造されたものの可能性は」

(#゚ー゚)「なっ……! 君は、僕が証拠品を捏造すると思ってるのか!?
     僕がそんな卑しい真似をするわけがないだろう!!」

(,,゚Д゚)「まあまあ、ブーンちゃんが言ってるのは可能性の話よ、可能性」

 オサムは、しぃからトソン、ツンへ視線を巡らせ、最後にくるうを見た。
 退屈そうに沈黙していたくるうが、こくりと大きく頷く。

川 ゚ 々゚)「偽造はしてないよ。しぃは嘘ついてないもん。臭くない」


 ──くるうは、「嘘の臭い」を嗅ぐことが出来る。

 誰かが嘘をつけば、くるうの鼻には不快な臭いが届く。
 だから、もし仮にテープの内容がでっち上げだったなら、
 しぃが偽造していないと言った時点で即座にくるうが否定していただろう。

 これこそが、「監視官」くるうの仕事。

 監視官とは、くるうのような能力を持った者、または人の心を読めるサトリなど、
 真実を見極められる霊や妖怪に与えられる役割である。

 弁護人や検事、証人等が嘘をついていないか監視するわけだ。




69 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 01:04:59 ID:sZGfpHvsO

【+  】ゞ゚)「と、くるうもこう言っている」

( ^ω^)「……分かりましたお」

 ならば裁判なんて面倒臭い手順を踏むことなく、
 監視官が被告人と話すだけで有罪か無罪か分かるのではないか、と思うかもしれない。

 だが、そう便利なものでもないのだ。

 3週間前、内藤が同じような疑問をツンにぶつけたところ、彼女は首を横に振って答えた。

   ξ゚听)ξ『ああいう妖怪の多くは、生きた人間に対してしか能力を使えないのよ。
         とても力が強ければ同類に対しても可能かもしれないけど』

   ( ^ω^)『じゃあ、くるうさんは大して力が強くないと』

   ξ--)ξ『そういうこと。だから被告人が幽霊なら、その人の話が真実か否かまでは見極められないの』

   ( ^ω^)『何か納得いきませんお……』




70 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 01:07:35 ID:sZGfpHvsO

   ξ゚听)ξ『そう?
         たとえば怖い話なんかだと、幽霊の思考や感情が
         自分の頭に流れ込んでくる……! みたいなの、よくあるじゃない?』

   ( ^ω^)『たしかによく見ますお。実際に経験もしたし』

   ξ゚听)ξ『それと似たようなもんだと思えばいいわ。
         人と人同士じゃ心は読めない、霊と霊同士も……もちろん例外はあるけど、まあ読めない。
         人と霊なら出来る。そういうものよ』

   ( ^ω^)『それはそれは……中途半端に使えませんお』

   ξ゚听)ξ『その発言、裁判長に聞かせないでね。殺されるわよ」


 ──ということらしいので、結論、
 生きた人間が決定的な証言をしてくれるのが一番いいそうだ。

 今回で言うなら、被害者が目を覚まして法廷に出てくれれば解決するのだろうが。
 当人が目を覚ましていないため、それも叶わない。

( ^ω^)(あ、じゃあ、被害者が目覚めるまで裁判は一時中断すれば……)

 なんて考えたが、こんな発想、ツンなら既に口にしている筈だ。
 それでもこうして審理が続けられているということは、却下されたに違いない。

 大方、その間に被告人が逃げたらどうする、だの
 被害者が増えたら責任をとれるのか、だのとしぃに怒鳴られたのであろう。




71 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 01:09:39 ID:sZGfpHvsO

 内藤が考え込んでいる内に、話は進んでいた。
 しぃがトソンを追い詰めようとしている。

(*゚ー゚)「被告人は絶望したんじゃありませんか?
     かつての思い人が、他の女との結婚を控えて幸せそうにしている。
     自暴自棄になっても仕方ありません」

(゚、゚;トソン「私、そんな……」

(*゚ー゚)「そして八つ当たりで憂さを晴らそうとしたのでは?
     あなたは被害者の体で、手当たり次第、通行人に喧嘩を売っていった……。
     なるべく人の多いところに行こうと思えば、商店街に向かうのも当然のこと」

ξ#゚听)ξ「異議! 尋問でも何でもない憶測のみで話を続けないでくれるかしら!」

【+  】ゞ゚)「おお、何か裁判っぽくなってきたなあ」

(,,゚Д゚)「これ初めっから裁判よオサムちゃん」

川#゚ 々゚)「くるう以外の女が、オサムのこと馴れ馴れしく呼ぶな!」

 一応ギコも「女」の括りに入るらしい。
 果てしなくどうでもいいが、ギコが嬉しそうなのが癪に障った。




72 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 01:12:10 ID:sZGfpHvsO

(*゚ー゚)「……では質問に切り替えます。
     被害者は、商店街にて『この野郎』とか『ぶっ殺してやる』とか、
     ひどく乱暴な言葉を吐いていたそうですが……」

(*゚ー゚)「彼女は元々、怒ったときにはどのような言葉遣いをするような方でしたか?」

(゚、゚トソン「……滅多に怒らない人でした。
     気に入らないことがあっても、怒鳴ったり、酷いことを言ったりというようなことは……」

(*゚ー゚)「なかった?」

(゚、゚トソン「なかったです」

(*゚ー゚)「たとえば、アルコールなどが入って気が高ぶるとか、そういうこともなかったですか?」

(゚、゚トソン「ないです……。
     どちらかというと泣き上戸で、しばらく泣いた後は眠ってしまうような感じでした。
     だから、普段からあまりお酒は飲まないようにしていたみたいですが……」

(*゚ー゚)「では、先程のような乱暴な発言を、被害者が本人の意思で口にしたと思いますか?」

(゚、゚トソン「……絶対に有り得ないとは言いませんが、私は信じられません」

 しぃは、深々と頷いた。
 芝居がかった声で「なるほどねえ」と呟いている。




73 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 01:14:42 ID:sZGfpHvsO

(*゚ー゚)「やはり当時の被害者は、何者かに乗っ取られていた可能性が高いことになりますね」

ξ#゚听)ξ「それならそれで、トソンさんが憑依してた筈がないわ!
      トソンさんは見ての通り物静かで、優しくて正直な人で……っ」

(*゚ー゚)「それはあなたの主観でしょう」

ξ#゚听)ξ「なら今のトソンさんの証言だって主観的じゃないの!
      被害者が乱暴な言葉を吐くかどうかなんて──」

(*゚ー゚)「被告人には被害者と過ごした『時間』の長さ、それと親密さという信用に足る理由があります。
     あなたの意見とは、信憑性がまるで違う」

 多少の嘘くらいつけばいいのに、と内藤はトソンを見ながら思った。
 どうせ、霊であるトソンの嘘なら、くるうには分からない。

 バレるバレないの問題ではなく、そもそも嘘自体、裁判には良くないものだと分かってはいるが。
 それにしたって、もう少し自己弁護になるような──言い方ってものがあるだろうに。




74 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 01:16:57 ID:sZGfpHvsO

ξ;゚听)ξ「ええいっ、内藤君! トソンさんに取り憑かれなさい! 6時間から7時間!
      それでも君が元気なままでいられたら、トソンさんは無実だわ!」

( ^ω^)「嫌ですってば」

(*゚ー゚)「被害者と内藤君では年齢も体格も性別も違うから、検証になりませんよ。
     第一、7年前は被告人が故意に必要以上の生気を消費させたのかもしれませんし」

ξ;゚听)ξ「あっ、ほら、被害者は大学時代、演劇サークルに入ってたのよね?
      じゃあ、柄の悪い演技をして歩いてただけなのかも!」

(*゚ー゚)「何のために?」

ξ;>皿<)ξ「……知らないわよ馬鹿!!」

(,,゚Д゚)「いくら何でも苦しすぎるんじゃないの、ツン」

ξ;゚听)ξ「とにかく!!
      事件当時の被害者にトソンさんは憑依してなかったし、
      仮に被害者が何者かに取り憑かれてたとしても、それはトソンさんじゃないわ!」

(*゚ー゚)「じゃあ誰が取り憑いてたんですか?」

ξ;゚听)ξ「……そこまでは」




75 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 01:17:56 ID:sZGfpHvsO

【+  】ゞ゚)「そういや弁護人は昨夜、被告人のアリバイがどうとか言ってたな」

 ふと思い出したようにオサムが言う。
 途端、ツンは口ごもった。

ξ;゚ -゚)ξ「アリバイ……うん……」

( ^ω^)「ツンさん、すごく頼りないんですけど」

ξ;゚听)ξ「あ、あるわよ。ある筈なのよアリバイ。
      あるけど私じゃ証明出来ないのよ」

( ^ω^)「?」

(*゚ー゚)「……話になりませんね」

 これ見よがしに溜め息をつくしぃ。

 机に叩きつけるように書類を放り、オサムを横目で見た。




76 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 01:19:17 ID:sZGfpHvsO

(*゚ー゚)「裁判長、時間の無駄です」

【+  】ゞ゚)「……これ以上話しても、新情報は出てきそうにないな」

(*゚ー゚)「ええ」

ξ;゚听)ξ「待った!」

(*-ー-)「待ちません」

ξ;゚听)ξ「駄目よ、それじゃあ駄目なの!」

(゚、゚トソン「……ツンさん」

ξ;゚听)ξ「お願い、なら、一日ちょうだい! 本当に今度こそっ、」

(#゚ー゚)「……いい加減になさい!!」

ξ;゚ -゚)ξ「う」

(#゚ー゚)「自分の無能を『時間が足りない』で済ませるんじゃありません!
     みっともないと思わないんですか!?」




77 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 01:20:28 ID:sZGfpHvsO

川 > 々<)「うー。こわいー」

【+  】ゞ゚)「検事、少し落ち着け」

(,,゚Д゚)「はいはい深呼吸」

(#゚ー゚) フー、フー

( ^ω^)「……もう諦めたらどうですかお」

ξ;゚听)ξ「……馬鹿言わないでちょうだい。
      チャンスが転がり込んできたのに、どうして諦められるの?」

 チャンスも何も、今のツンには打つ手がないように見える。
 強がりなのだろうか。
 それとも本当に、彼女にしか分からない「チャンス」があるのか。

 だとしたら、せめて、どれほどの時間があれば何が出来るようになるのか、具体的に言えばいいのに。

(*-ー-)「……なりふり構わないというか……。
     恥ずかしくないんでしょうか」

(,,゚Д゚)「まあ昔から羞恥心とは無縁な女だったけど、今回はいつにも増して酷いわあ」




79 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 01:21:52 ID:sZGfpHvsO

(*゚−゚)「だから弁護士って嫌なんですよ僕は。
     自分の名誉と金のために、犯罪者を無罪にしようってんですから──」

ξ゚ -゚)ξ「……自分の名誉と金のために、無実の人を有罪にするのはいいわけ?」

(,,゚Д゚)「あ、もう、やあねえ。その辺は揉める元だからやめなさいよ」

【+  】ゞ゚)「犯罪者を無罪にしないために、そして無実の者を有罪にしないために、
        弁護士と検事が争うんだ。無駄な喧嘩は控えろ。
        どちらの心証も悪くなる」

川*゚ 々゚)「オサムかっこいい! 好き!」


 本当にトソンが犯人だった場合、しぃが言うように、
 ツンは真犯人を無罪にするために必死になっていることになる。

 内藤の頭に、クエスチョンマークが浮かんだ。
 3週間前のツンは、こんなに食い下がりはしなかった。
 不利な状況にあっても、これほど慌てたりムキになったりしなかった。

 それが何故、今回はここまでしているのだろう。




80 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 01:22:28 ID:sZGfpHvsO

ξ;゚听)ξ「……」

( ^ω^)(?)

 ツンと目が合う。
 彼女は、手を下ろした。

 そのまま──左手を、内藤の右手に当てる。

 机に隠れて、しぃ達には見えないであろう。
 どうしたのかと内藤が問う前に、ツンは、書類へ目を落とした。
 何かを考えるような顔。内藤には、それが演技に見えた。

( ^ω^)「ツンさ……」

 内藤の右手の小指に、ツンの左手の小指が絡む。

 不覚ながら、一瞬、どきりとしてしまった。
 しかしいくら何でも、裁判中に、しかも自分の依頼人がピンチのときに
 中学生に色目をつかうような真似はしないだろう。




81 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 01:23:51 ID:sZGfpHvsO

【+  】ゞ゚)「弁護人」

ξ;゚听)ξ「はい」

【+  】ゞ゚)「俺も検事も、充分な時間を与えていたと思う」

ξ;゚听)ξ「……はい」

 そうして。

【+  】ゞ゚)「それでも弁護人は被告人の無罪を立証することは出来なかった。
        それは、そもそも証拠になるものが存在しないからではないかと俺は考えている」

ξ;゚ -゚)ξ「……は、い」

 ツンは、内藤の指と己の指を絡ませたまま、ゆるりと揺らした。




82 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 01:24:36 ID:sZGfpHvsO

(*-ー-)「僕の勝ちですかね」

(゚、゚トソン「……」


 それはまるで。
 歪な指切りのようで。


( ^ω^)(……指切り)



 ──内藤の頭の奥、幼い頃の記憶が、這い上がった。




83 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 01:25:46 ID:sZGfpHvsO

【+  】ゞ゚)「もう、判決を──」

( ^ω^)「待ってくださいお」


 咄嗟に声をあげていた。
 皆の目が内藤に向かい、ツンは手を離した。

(,,゚Д゚)「どうかした? ブーンちゃん」

(*゚ー゚)「君までツンさんのように時間稼ぎをするつもりじゃないだろうね」

( ^ω^)「あの、誰か、携帯持ってますかお?」

川 ゚ 々゚)「けいたい」

【+  】ゞ゚)「携帯電話か?」

 しぃがポケットから携帯電話を取り出した。
 電話でも掛けるのかい、と問う彼女に、首を振る。




84 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 01:26:49 ID:sZGfpHvsO

ξ゚ー゚)ξ

 俯くツンの口元は、緩やかに弧を描いている。

 まさか。
 まさか、ツンは──「あれ」を知っていたのか。

( ^ω^)「7年前の甲子園、決勝戦は何日でしたかお?」

(*゚ー゚)「甲子園?」

 しぃが怪訝な顔をする。
 甲子園と聞いて、トソンが僅かに肩を揺らしたのを内藤はたしかに見た。

 ギコにつつかれ、しぃは携帯電話を操作した。
 しばらく、しぃの指と携帯電話が触れ合う音だけが響いた。




85 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 01:28:13 ID:sZGfpHvsO

(*゚ー゚)「8月20日、事件と同じ日だね。シベリア高校とニューソク商業高校」

( ^ω^)「勝ったのはシベリア高校ですおね。最後にホームランを打って」

(*゚ー゚)「……うん、そう書いてある。
     それがどうしたのさ」


 内藤は、机に両手をついた。
 深呼吸をし、言葉を選び、そして、シンプルな一言を口にする。



( ^ω^)「僕はその日、トソンさんに会ってますお」


.




86 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 01:29:55 ID:sZGfpHvsO

 すぐに口を開く者はいなかった。
 しぃやギコは、ぽかんとした表情で内藤を見ている。

 トソンは両手を胸元に置き、ツンだけはやはり笑みを浮かべていた。

( ^ω^)「7年前の8月20日、僕は母親と一緒に、この町にいる親戚の家に来ましたお」

(,,゚Д゚)「……ええと、姉者の家かしら? 7年前っていうと、ブーンちゃんはまだ居候じゃないわね」

( ^ω^)「当時、僕は別の県に住んでましたお。
       あの日はたしか、お盆に祖父ちゃんの家に集まれなかった弟者達に
       会うために連れてこられて……」

 おぼろ気だった記憶が、話す内に鮮明になってくる。
 今まで思い出さなかったのが不思議だ。




87 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 01:30:53 ID:sZGfpHvsO

(*゚ー゚)「……それで?」

( ^ω^)「それで……弟者は風邪を引いてて、兄者さんは溜まってた宿題をやってて……。
       母は父者さん達と話してたし、
       遊び相手がいなかったから、僕、こっそり家を抜け出したんですお」


 ちょっとした探険気分だった。
 慣れない土地を歩き回りたかった。

 しばらく歩いたところで、人気のない場所に出る。
 そこでは家具や家電など、たくさんの物が山を作っていた。
 いま思えば、あれは空き地に不法投棄されたごみの山だったのだろう。


( ^ω^)「僕には、宝の山に見えましたお」

【+  】ゞ゚)「あそこは『色々』いるぞ。汚れた場所には妙なものが集まる」

川 ゚ 々゚)「怖いのもいるよー」

( ^ω^)「……そうですお。
       でも僕はそんなの気付かなかった」




88 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 01:33:17 ID:sZGfpHvsO

 わくわくしながら、ごみを漁った。

 広げた傘や鉄板の下に、ラジオがあった。


( ^ω^)「僕の家にあるラジオよりも大きくて、格好良くて、
       興味が湧いたから──適当にスイッチを押して遊びましたお」


 まだ壊れてはいなかったようで、チューナーを動かす内に甲子園の決勝戦の実況が流れた。
 片方のシベリア高校は父の出身校らしく、以前から父がニュースをチェックしていたので
 幼かった内藤も、ラジオを聴きながらその学校を応援した。

 そのとき。


( ^ω^)「瓦礫の中から腕が伸びてきたんですお」


 人間とは長さも形も違った。
 体が震えて動けなかった。

 這うようにして逃げれば、足を掴まれ引っ張られる。
 そうする内、あちこちから人間とは思えない姿のものが現れて内藤に近付いてきた。

 彼は泣きながら「ごめんなさい」と繰り返した。
 殺されるという実感はなかったが、何か、とても恐ろしいことが起こる予感があって泣いた。




90 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 01:36:19 ID:sZGfpHvsO

( ^ω^)「……そこに、女の人の声がしましたお。
       もう大丈夫、って。怖いやつは追い返したって。
       見てみたら、僕と女の人以外、何もいませんでしたお」

 女の人、のところで、トソンを見た。
 ツンは俯けていた顔を上げ、悠然と構えている。

 一方しぃの顔は強張っており、少し恐い。

ξ゚听)ξ「その女の人は、どんな人だったの?」

( ^ω^)「……顔までは覚えてませんお。でも──トソンさんで、ほぼ間違いないと思いますお」

【+  】ゞ゚)「何故だ?」


 内藤の記憶にいる女性は、顔も髪型も服装も、そのどれもが靄で隠されたかのようにぼんやりとしている。

 それでも一つ、明確に覚えていることがあった。




91 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 01:37:41 ID:sZGfpHvsO

( ^ω^)「僕、1人であんな場所に行ったことがバレたら、みんなに怒られると思ったから
       『誰にも言わない』って、指切りしてもらったんですお。
       僕はこう、右手の小指を出して」

( ^ω^)「……女の人は、右手を出そうとしてから左手に替えましたお。
       あのときの僕には、意味が分からなかったけれど」

 今は分かる。
 幼い自分にトソンの右手を差し出されていたら、きっと自分はびっくりしたことだろう。


( ^ω^)「──右手じゃ、指切り出来なかったんですおね」

(゚、゚トソン「……はい」

 胸元に添えられたトソンの両手。

 その右手には、小指がない。

.




92 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 01:39:42 ID:sZGfpHvsO

(;*゚ー゚)「い……っ、異議!!」

 しぃの動揺しきった声が響く。
 内藤がしぃを見遣ると、やたら鋭い目付きで返された。

ξ゚听)ξ「検事。何に対する異議なのかしら」

(,,゚Д゚)「焦るのも分かるけど、一回落ち着きなさいな」

(;*゚ー゚)「やかましい!
     ……内藤君。君は、君はまさか、それが本当に被告人だったと主張する気じゃないだろうな」

( ^ω^)「その通りですけど」

(;*゚ー゚)「そんなわけあるか!!
     それが被告人だったとして、他の特徴を覚えていない筈がない!
     こんなに血まみれなんだぞ、君が子供だったならば、なおさら印象に残るに決まっている!!」

 しぃはトソンを指差し、がなり立てた。
 人を指差すなとギコが叱っているが、しぃは全く聞いていない。

 くるうが耳を押さえたのを見たオサムが、宙を木槌で打った。




93 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 01:42:39 ID:sZGfpHvsO

【+  】ゞ゚)「検事」

(;*゚ー゚)「……っ!」

ξ゚听)ξ「当時の彼は7歳かそこらの子供だったのよ。
      私だって、何年も前に一度会ったきりの人間の顔なんか、そうそう覚えてないわ」

(;*゚ー゚)「彼女は簡単に忘れられるような見た目をしていなかったと言ってるんだ!」

( ^ω^)「検事さんには悪いけど、小さい頃の僕は、血まみれくらいなら
       特におかしいものだとは思ってませんでしたお」

 当時の内藤は小学1年生であり己の霊感も自覚しておらず、相手が人の形さえしていれば、
 それが生きているか死んでいるかの区別も出来なかった。

 血まみれの人間が動いて喋る姿を腐るほど見てきたし、
 人が一定量の血を流せば死ぬことも知らなかったから
 流血程度であれば、さして特別な印象を持つことはなかったのである。

 今は流石に、血を見ようものなら痛そうとか何とか色々と思いもするが。




94 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 01:44:04 ID:sZGfpHvsO

(;*゚ー゚)「監視官!」

川 ゚ 々゚)「……ブーンは元々『嘘』の臭いがする子だけど、
      でも今は、新しく嘘をついたような臭いはしなかったよ」

(;*゚ー゚)「……くそっ!!」

(,,゚Д゚)「汚い言葉を使うんじゃないの」

 彼女の気持ちも、内藤は分からないでもない。
 たまたま裁判に飛び入り参加した人間がいきなりこんな証言を始めたら、
 そりゃあ動転するだろう。

(;*゚ー゚)「それが……それが何時頃のことだったか証明出来るのか?
     被告人が犯行に及ぶよりも前のことだったかもしれないじゃないか!」




95 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 01:46:21 ID:sZGfpHvsO

( ^ω^)「……さっき訊いた甲子園の決勝戦。
       あの試合が終わった時間は分かりますかお?」

(;*゚ー゚)「時間?」

( ^ω^)「僕は女性と指切りした直後に、その場を離れましたお。
       そのときラジオからは、シベリア高校の選手が満塁ホームランを打って
       逆転勝利したという実況が流れてましたお」

 内藤の証言が始まってから、すっかり机の上に放置されていたしぃの携帯電話。
 それを取り、ギコは画面を上から下まで眺めた。

 ──何者かに憑かれていた(と思われる)被害者ミセリが商店街に行ったのが、12時45分。
 これはカメラに記録されていたそうだ。

 ならば、野球の試合でホームランが打たれ、勝敗が決したときの時間と
 ビデオの12時45分とに大きな隔たりがなければ、トソンは犯人ではない──可能性が高くなる。




96 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 01:48:31 ID:sZGfpHvsO

 ギコが小さく息を吐き出すのを、ツンとしぃが食い入るように見つめている。
 ツンの瞳には、既に、確固たる自信が浮かんでいた。


(,,゚Д゚)「試合開始は10時半。試合終了は──12時47分みたいよ?」


ξ*゚∀゚)ξ

 たった2分差。

 ツンの口元が吊り上がる。
 反して、しぃはギコから携帯電話を奪い取ると、真っ赤な顔で画面を凝視して
 泣きそうなのか怒っているのか分からない表情を浮かべた。




97 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 01:50:54 ID:sZGfpHvsO

【+  】ゞ゚)「くるう」

川 ゚ 々゚)「臭くなーい」

【+  】ゞ゚)「そうか。……被告人、改めて確認するが、12時15分以降は何をしていた?」

(゚、゚トソン「……」

( ^ω^)「トソンさん、話してくださいお」

(゚、゚トソン「……ミセリから離れて、適当に歩いていました。
     そしたらごみ山で子供が妖怪に囲まれていたから……。
     その内の一体に『オサム様を呼ぶぞ』と言うと、逃げていきました」

(゚、゚トソン「それからは、内藤さんの言う通りです。
     内藤さんが帰った後は、その場でラジオを聴いていました」

 しぃが手のひらで机を叩いた。
 内藤には痛そうに見えたが、しぃは、それどころではないようだった。




98 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 01:53:34 ID:sZGfpHvsO

(#゚ー゚)「こんな馬鹿な話があるか!!
     それならば何故被告人は今までこのことを黙っていた!?
     僕は納得いかない!!」

(,,゚Д゚)「うーるーさーいーわねえ。
     ……でも、そうね、あたしも黙ってた理由が気になるわ」

 オサムは木槌を打ち、ツンを一瞥した。
 ツンが頷き、皆の疑問を口にする。

ξ゚听)ξ「トソンさん、どうして黙ってたの?」

 トソンはツンを見、続いて内藤を見た。
 優しい瞳をしている人だなと、内藤は心中で呟く。

(゚、゚トソン「……絶対に誰にも言わないって、約束しましたから」

 内藤の中で、あまり馴染みのない感覚がじわりと滲んだ。
 嬉しいとか感謝とか、それらを合わせた何かに似ていた。

 危険な状況に追い込まれても約束を守った彼女の実直さに、
 呆れながらも僅かに感激したのである。
 彼が同じ立場であれば、そんな約束などすぐに破っていただろうから。




99 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 01:55:00 ID:sZGfpHvsO

ξ゚听)ξ「──いかがですか、裁判長。
      トソンさんは斯様に不器用で、優しい女性なんです」

 そう言うツンの声は、先程までとは違い、真面目な響きを孕んでいた。
 初めからその声で真剣に取り組んでいればいいものを。

ξ゚听)ξ「それをしぃ検事は、あたかも彼女が身勝手な犯罪者であるかのように扱い、
      彼女を傷付けるような発言を繰り返した」

(;*゚ー゚)「ぐっ……」

ξ#゚听)ξ「事実は正反対ではありませんか!
      トソンさんは被害者のもとを離れ、恐ろしい化け物から子供を救っていた!」

ξ゚听)ξ「……彼女は無実であると、改めて主張させていただきます」

 オサムは頷いて、皆へ目をやった。
 その表情はそれぞれ違う。

 かん、かん。
 木槌が響く。




103 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 01:57:07 ID:sZGfpHvsO

【+  】ゞ゚)「これまで俺は、被告人は有罪ではないかと考えていた」

 しぃの指が机の表面を引っ掻き、ギコは肩を竦める。
 もはや、その反応が答えのようなものだった。

【+  】ゞ゚)「だが新たな証言により、当時の被告人に犯行が可能だったかどうか、
        非常に怪しいものだと判断出来る」




104 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 02:00:24 ID:sZGfpHvsO


【+  】ゞ゚)「被告人、都村トソンを無罪とするつもりだが、異論はあるか?」


 ツンが両手を上げる。
 子供のように頬を染めて喜んでいた。

ξ*゚听)ξ「やった! 無罪だよトソンさん!!」

(゚、゚トソン「むざい……」

 トソンがぽつりと言葉を落とす。
 その響きはゆっくりと空気に溶けて、
 それから──涙も落ちた。




105 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 02:03:11 ID:sZGfpHvsO

(;、;*トソン「……ありがとうございます、ツンさん、本当にありがとうございます……!」

 ツンさんしか信じてくれなくて恐かった、とトソンが呟く。
 ずっと堅い表情を浮かべていた彼女は、今、溢れる感情を隠しもせずに泣いた。

 ツンが机から離れ、トソンのもとへ駆ける。
 トソンを抱き締めて、ツンは、良かった良かったと何度も喜びの声をあげた。

川*゚ 々゚)「わー」

(#゚ー゚)「たったあれだけの証言で……!
     証言の人物が本当に被告人だったかどうか、まだ分からないじゃないか!」

(,,゚Д゚)「ブーンちゃんが嘘ついてない以上、信用に足る証言よ。
     ま、推定無罪ってとこかしら。今のとこはね」




106 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 02:04:11 ID:sZGfpHvsO

(#゚ー゚)「お前は僕の助手だろ、こんな結果で許せるのか!?」

(,,゚Д゚)「あのねえ。あたしは、そうやってすぐ怒るあんたを宥めるためにいるのよ。
     ごめんなさいねオサムちゃん、この子まだまだ子供だから」

【+  】ゞ゚)「怒るのも悲しむのもいいが、もう少し静かにするように躾けておけ」

m9ξ*゚∀゚)ξ9m「しぃ検事ザッマァアアアアアアアアアアアwwwwwwwwww」

(#゚ー゚)「このアマぁああああ!!」

【+  】ゞ゚)「……言ってるそばから」

(,,゚Д゚)「ツンはもうどうしようもないわ」

( ^ω^)(本当にどうしようもない)




107 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 02:06:51 ID:sZGfpHvsO

 ふと、トソンが内藤へ体ごと向き直った。
 彼女が涙を拭っても流血の跡までは消えない。霊というやつは謎だらけである。

 そうして、トソンは微笑んだ。


(゚ー゚*トソン


 トソンの口が動く。
 だが、ツンとしぃの罵り合いが喧しくて、声は聞こえなかった。

 あの日と同じ。
 彼女に名前を訊ねても、ラジオの音に邪魔されたときのことを思い出す。

 けれども今回は違う。
 内藤は彼女の口元をしっかりと見つめ、その唇の動きを捉えた。

 「ありがとう」。
 そう言っていた。

( ^ω^)「どういたしまして」

 内藤は決まり文句で答える。
 声が届いたかどうか定かではないが、トソンは笑みを深くさせた。



*****




108 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 02:10:48 ID:sZGfpHvsO



ξ゚听)ξ「じゃあの」

( ^ω^)「それ最近聞きませんお」

 曲がり角の前でツンは内藤に手を振った。
 この先に、内藤が居候している流石家がある。

 時刻は4時少し前。
 今ならまだ誰も起きていないだろうから、こっそり帰れば、肝試しに行ったこともバレずに済む。

 とりあえず帰宅後一番には、枕元に置きっぱなしだった携帯電話で、
 モララーとヒッキーに電話なりメールなりで無事を伝えなければ。
 置き去りにしたことについて、ほんの少し恨み言も添えて。




109 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 02:12:34 ID:sZGfpHvsO

( ^ω^)「ツンさんはこれからどうするんですかお」

ξ゚听)ξ「工場に戻るわ。本当は早く家に帰って寝たいんだけどね」

 ──オサムやしぃ、トソン達は、未だ工場に残っている。

 トソンへの疑いは一応晴れたが、そうなると今度は、
 「ならば本当に事件は起こっていたのか」「犯人は別にいるのか」という問題が生じる。
 なので、それらについて話し合わなければならないらしい。

 内藤を送り届けるために来たツンも、またすぐ工場に戻るという。
 トソンが無罪である完璧な証拠がないため、ここらでツンが頑張らねばならないそうだ。

( ^ω^)「事件が本当に起きたとしたら、犯人は誰なんでしょうかお」

ξ゚听)ξ「さあね。たちの悪い奴には違いないわ。
      何にせよ、トソンさんは犯人じゃない。濡れ衣着せられて気の毒だったわね」

 難しい顔──暗くてよく見えないが、多分そういった表情──をして、ツンが唸る。

 そこで内藤は、気になっていたことを訊ねてみた。




110 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 02:15:04 ID:sZGfpHvsO

( ^ω^)「ツンさん、あれって、僕に『約束』のことを思い出させようとしたんですおね?」

ξ゚听)ξ「ん?」

( ^ω^)「法廷で、わざとらしく小指をくっつけてきたじゃないですかお。
       ……あれは何かおかしい気がするんですが」

 トソンはずっと7年前のことを黙っていた。
 彼女が約束を破ったとも考えにくい。
 なら、ツンにも知り得る筈がないではないか。

 もしも仮にトソンがツンにだけ話してしまったとしても、
 それならそれで、ツンは法廷でそのことを言えばいいのに。

 そうだ。考えれば考えるほどおかしい。


   ξ゚听)ξ『あら、あらあら……あらららら……あれまあ……』──


   ξ゚听)ξ『……気付いたわね』──


 ツンは、トソンより先に気付いていたのだ。
 だから内藤を法廷に留め、内藤が過去を思い出して証言するのを待った。
 ここがおかしい。

 トソンは、内藤の顔やら何やらで「7年前の子供」だと認識した。それは分かる。
 しかし、あの現場にいなかった筈のツンがトソンより先に気付くのは、おかしくはないか。




111 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 02:18:54 ID:sZGfpHvsO

( ^ω^)「……ツンさん、全部知ってたんですかお。
       僕とトソンさんが会ってたのも、トソンさんが絶対に犯人じゃないってことも」

ξ゚听)ξ「……」

( ^ω^)「だからあんなに必死になってトソンさんの無罪を主張したんじゃ──」

 言いながらも、それは有り得ないだろうと思った。
 だって──全てを見通すような力がなければ、そんなこと不可能だ。

 しかし。もしも。もしも、不可能でなかったとしたら?

 3週間前。彼女は言っていた。

 人と人同士では心は読めない。
 霊と霊同士も読めない。
 人と霊なら。




112 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 02:20:28 ID:sZGfpHvsO

 ツンは踵を返した。
 内藤に背中を向け、ひらひら、右手を振る。

ξ゚听)ξ「君がまた幽霊裁判に関わるようなことがあれば、教えてあげる。かも、ね」

( ^ω^)「それは勘弁したいですお」

 微かにツンの笑い声が聞こえた。

 釈然としないまま内藤はツンが去っていくのを眺め、自身も彼女に背を向けた。
 角を曲がる。

 この町に越してから、幽霊に関わらないようにしようと決めたのではなかったか。
 自分の頭を軽く叩き、街灯を睨む。
 そこにしがみつく小さな化け物がこちらに気付く前に、目を逸らした。




113 :名も無きAAのようです:2012/09/29(土) 02:21:41 ID:sZGfpHvsO


( ^ω^)(二度と裁判なんか参加しない。好奇心に負けない)

 思考を切り替えようと思っても、内藤の脳裏には、前回の幽霊裁判のことが浮かんでいた。


 その、彼にとって初めてとなった幽霊裁判については、次回話すとしよう。



case1:終わり


戻る】 / 【次へ
inserted by FC2 system