ξ゚听)ξ幽霊裁判が開廷するようです case2 前編
- 149 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 02:05:12 ID:VyKq31NoO
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時は遡って、内藤ホライゾンと出連ツンが出会うよりも前。
5月の終わりのこと。
(´<_` )「あーあー、泥まみれ」
早朝。
ヴィップ中学校のグラウンドに立ち、流石弟者は溜め息をついた。
昨夜降った雨により、グラウンドのあちこちに水溜まりが出来ていた。
(´<_` )「放課後は校内ランニングだな……」
弟者は陸上部に所属している。
今日は朝から練習がある日だった。
部室に移動し、ロッカーに鞄を置く。
部活の仲間達と談笑しながら学校の裏に出た。
グラウンドが使えない日は、学校の敷地の周り、アスファルトの道を走ることになっていた。
顧問と部長の指示を受けてストレッチをし、体をほぐす。
それからジョギングへ移った。
湿った空気の匂いを嗅ぎながら走るのが好きだ。
弟者は、シューズの底とアスファルトが擦れ合う音に意識をやりながら走った。
- 150 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 02:07:02 ID:VyKq31NoO
-
(´<_` )(……人だ……)
しばらく走った頃、道端に誰かが立ち尽くしているのに気が付いた。
年齢は分からない。ただ、そこに人──女がいる、という事実だけが思考の片隅に浮かんだ。
弟者の前を走る部員達は、その女を無視して駆けていく。
弟者は女性の前を通るときに、ぺこりと会釈した。
礼儀として。
視界の端で、女性が何らかの動きで反応を見せたのは認識出来たのだが、
「何をしたか」とか「どういう反応だったか」までは思考が至らなかった。
弟者の意識は、走りの方にばかり集中していた。
もう一周回り、同じ場所に差し掛かったときには、先程の女性はいなかった。
ただ、そこにバケツ一杯ほどの量の泥が撒かれていた。
- 151 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 02:09:59 ID:VyKq31NoO
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case2:つきまといの罪/前編
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- 153 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 02:11:19 ID:VyKq31NoO
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( ^ω^)「おはようございますお」
「流石」という表札の掛かった、2階建ての一軒家。
階段を下りてきた内藤ホライゾンは、欠伸をしながら居間へ入った。
( ´_ゝ`)「おう、おはようさん」
l从・∀・ノ!リ人「おはようなのじゃー」
居間の真ん中に置かれた大きめの卓袱台。
そこに青年と少女がいた。
少女の方は内藤に挨拶をしてからガラス戸を開け、隣接する台所へ駆けていった。
( ^ω^)「弟者と姉者さんは?」
( ´_ゝ`)「弟者は朝練。姉者はもう仕事行ったよ」
青年、流石兄者が答える。
彼は流石家の長男で、弟者と内藤より6つ上の大学2年生だ。
弟者が大人になればこうなるだろう、というような顔をしている。
しっかりしている弟者とは反対に、ちゃらんぽらんと評されることが多い。
- 154 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 02:12:26 ID:VyKq31NoO
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l从・∀・*ノ!リ人「大盛りなのじゃ!」
内藤が兄者の隣に腰を下ろすと、台所から盆を持って戻ってきた少女が
内藤の前に茶碗と汁椀、箸を置いた。
( ^ω^)「ありがとうお、妹者ちゃん。いただきますお」
l从・∀・ノ!リ人「めしあがれー」
この少女は流石妹者。流石家の次女である。
内藤の記憶が正しければ小学3年生だ。
可愛らしい顔に可愛らしい振る舞い。誰が見ても美少女であろう。
兄者は、歳が離れていることもあってか妹者を溺愛している。
- 155 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 02:15:01 ID:VyKq31NoO
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( ´_ゝ`)「妹者、のんびりしてて大丈夫なのか?」
l从・∀・ノ!リ人「今日はぼるじょあ君が迎えに来るからいいのじゃ」
(;´_ゝ`)「ぼ、ぼるじょあ? 誰だ?」
l从・∀・*ノ!リ人「お金持ちの子でのう、いつも高級車で送り迎えしてもらってる子なのじゃ!
でね、でね、今日は妹者も乗せてくれるって約束したのじゃ!
ちょっと色目を使ってやっただけなのに、男は単純じゃのう」
(;´_ゝ`)「サッカークラブのセントジョーンズ君はどうした?」
l从-∀-ノ!リ人「やっぱり男は運動出来るかどうかじゃなく、金なのじゃよ、兄者。
まあセントもキープはしておくが……」
少々、性格に難有り。
(;´_ゝ`)「……妹者、後でお兄ちゃんと話し合おう。男女の在り方について正しい道を話し合おう」
l从・∀・ノ!リ人「男女の在り方なんて、おっきい兄者は考えるだけ無駄ではないか。
あ、ブーン、こっちにお漬け物あるのじゃ」
( ^ω^)「ありがとうお」
( ;_ゝ;)「妹者ぁあああ! お兄ちゃんはお前をそんな風に育てた覚えはぁああああ!!」
焼き鮭をほぐしていた内藤に、妹者が小振りのタッパーを差し出す。
タッパーに入っていた沢庵を口に運んで、内藤は兄者の慟哭を聞き流した。
- 157 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 02:16:22 ID:VyKq31NoO
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沢庵を飲み込み、今度は焼き鮭を口に入れる。
焼きたてであればふっくらしていただろう。
生憎冷めてしまっているが、それでも美味い。塩味が薄くて内藤好みである。
( ^ω^)「弟者、そろそろ記録会があるんだっけ」
l从・∀・ノ!リ人「そうらしいのう。ブーンは陸上部に入らないのじゃ? 足速いのに」
( ^ω^)「部活は面倒だお。他人に気を遣うことが今以上に多くなるし……」
l从・∀・ノ!リ人「ううむ……万年帰宅部で灰色の青春を送ってきたおっきい兄者を見ていると、
運動部で汗を流すということは学園生活において重要なことに思えるのじゃが」
卓袱台の上を、小さな人型の何かが這っている。
自分の鮭を狙っているのに気付き、内藤は、人型の何かを払い落とした。
訝しげな顔をする妹者に、蝿がいたのだと答えておく。
流石家の面々は、付き合いの長さ故、内藤の本性を知っている。
しかし霊感については知らない。
話す気もない。
- 159 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 02:17:42 ID:VyKq31NoO
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( ^ω^)「帰宅部でも、他人との付き合いや振る舞いにさえ気を付けていれば
充実した日々を送れるもんだお」
l从・∀・ノ!リ人「ほう! なるほどなるほど。じゃあおっきい兄者は本人に問題があったのじゃな」
( ^ω^)「多分」
( ;_ゝ;)「うわああああ!! 死にてええええええええええ!!!!!」
味噌汁を啜る。
豆腐とワカメ。定番だ。
こういう、大衆のイメージと違わぬ朝食が、何となく好きだった。
昔から憧れていた。
内藤の親は朝食に時間を割くような人ではなかったので、
いつもシリアルやレトルトばかりで済ませていたから。
- 160 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 02:18:57 ID:VyKq31NoO
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『──のアパートで、男性の死体が──』
内藤は顔を上げた。
テレビの中でニュースキャスターが口にしたのは、この町の名前だった。
どこぞのアパートの一室で住人が死んでいたという。
風呂場で溺死していたのだが、室内に泥が残っていたことから、
何者かが侵入して殺害したのでは──と警察は疑っているらしい。
( ぅ_ゝ`)「強盗でも入ったかね。……あ、金品は盗られてないってよ。
個人的な恨みか」
( ^ω^)「誰かの仕業だとしたら、この町に殺人犯がいるわけですおね」
l从・∀・ノ!リ人「それは恐いのう」
(;´_ゝ`)「妹者あっ! ぼるじょあ君に毎日送り迎えしてもらいなさい!!」
l从・ε・ノ!リ人「ぼるじょあ君が退屈な男でなければな」
.
- 161 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 02:20:47 ID:VyKq31NoO
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内藤が食事を終えたとき、時計は7時半を回っていた。
立ち上がり、空の食器を持って台所へ入る。
台所では、先に食べ終わっていた兄者が食器を洗っていた。
今日は昼からの講義に出るだけだというので、内藤達ほど急ぐ必要はない。
( ^ω^)「兄者さん、悪いけど僕の食器も洗っておいてくれますかお」
( ´_ゝ`)「分かった分かった、早く準備しないと遅刻するぞー」
( ^ω^)「ありがとうございますお」
それから身支度を整え、内藤は小走りで玄関へ向かった。
スニーカーを履き、玄関の引き戸を開ける。
( ´_ゝ`)「行ってらっしゃい!」l从・∀・*ノ!リ人
( ^ω^)「……行ってきますお」
この家に居候として加わってから、1年と数ヵ月。
なかなか、悪くはない。
*****
- 162 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 02:22:07 ID:VyKq31NoO
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学校が近付くにつれ、同じ制服の生徒が視界に入る回数も増えてくる。
今日の数学で当てられるであろう範囲を考えながら歩いていた内藤は、
校門を見て、僅かに眉根を寄せた。
('A`)
痩せぎすの男が校門の上に座っている。
通り掛かる生徒の顔を眺めて何か言っているのだが、
誰も気付いていないようだ。
あの男、生きていない。
内藤は目を逸らそうとした。
だが、遅かった。
('A`)
( ^ω^)(あ)
目が合う。
すぐに視線を下に滑らせたが、どうせ気付かれただろう。
- 163 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 02:24:24 ID:VyKq31NoO
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校門の前を通る。
真横に、男が降り立った。
('A`)「へいへい、そこ行く少年よ」
( ^ω^)(ああああー。面倒くせえええー)
無視して歩く内藤に、男が付いてくる。
('A`)「目が合ったよな? 俺のこと見えてるよな?
お前、内藤ほら……? ほら……ええと、下の名前を何つったか忘れたが、内藤か?」
内藤の目が男を見遣る。
名前を知られていることに反応してしまった。
男の口元が笑みを形作る。
('∀`)「やっぱり! 何で知ってんだって顔だな。
お前、俺らの間じゃ結構有名だぜ? 霊感持ちのガキがいるってよ」
基本的に霊は無視するよう心掛けているが、しつこく絡まれれば何らかの反応をしてしまう。
そういったことで、内藤の情報が霊から霊へと伝わっていったのだろう。
- 164 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 02:28:04 ID:VyKq31NoO
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('∀`)「そのガキがヴィップ中に通ってるって聞いたからよお、
今朝早くからずっと待ってたんだぜ。だから、な、話ぐらい聞いてくれよ」
( ^ω^)
('∀`)「なあに、ちょっくら体を貸してくれるだけでいい」
昇降口に入り、自分のクラスの下駄箱の前で靴を脱いだ。
上履きを手に取る。
(;'A`)「おい、とことん無視する気だな……。
……頼むよー。やんなきゃいけないことがあんだよ」
( ^ω^)
(;'A`)「悪いことはしない! 本当だって! 体もすぐ返す!」
( ^ω^)
(;'A`)
( ^ω^)
('A`)「……いい加減、温厚な俺も怒るぜ少年……」
( ・∀・)「ブーン、はよーっす!」
我慢の限界を迎えた内藤が男を蹴っ飛ばそうとしたとき、
友人の浦等モララーが声をかけてきた。
- 165 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 02:29:33 ID:VyKq31NoO
-
内藤はモララーへ振り返る。
顔には満面の笑みを張り付けて。
( ^ω^)「おはようお!」
( ・∀・)「今日は弟者は一緒じゃねえのか」
(-_-)「朝練じゃない? おはよう、ブーン」
( ^ω^)「ヒッキーもおはようおー。弟者はヒッキーの言う通り朝練だお」
モララーの隣には小森ヒッキーがいた。
彼らは家が近いそうで、よく登校する際に一緒になるらしい。
2人が靴を履き替えている間に、内藤は男に振り返った。
笑みは深めたまま。
(*'A`)「おっ、何だ、体を貸してくれる気に──」
パチィイイン
( ^ω^)☆))'A`)
⊂彡
.
- 166 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 02:31:17 ID:VyKq31NoO
-
( ・∀・)「ブーンさあ、地理のプリントやった?」
( ^ω^)「やったおー」
(*・∀・)「マジ!? 俺すっかり忘れててさ、プリント見せてほしいなー、なんて」
( ^ω^)「給食のメニューひとつと交換ならいいお?」
(;・∀・)「何だと!? 今日俺の好物ばっかなのに!」
(-_-)「プリントやってこないモララーが悪いよ」
(;・∀・)「お前だって忘れてたじゃんかよ!」
(-_-)「僕は休み時間の内に自力でやるしー」
(#)A`) チュウガクセイ コワイ
いきなり引っ叩けば勢いをなくす。
それは、おおよその人間も幽霊も変わらない。
頬を押さえながら恨めしげに内藤を見つめる男を置いて、
内藤はモララー達と共に教室へ向かった。
その日は、特に何事もなく終わった。
*****
- 167 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 02:32:25 ID:VyKq31NoO
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時を進めて4日後。
6月4日。
( ^ω^)「おー……」
(´<_` )「どうしたんだ、これは」
この日は朝から小雨が降っていた。
登校してきたばかりの内藤と弟者は、自分のクラスの下駄箱の前に
人だかりが出来ているのを見て、顔を見合わせた。
傘を閉じ、集団に近付く。
( ^ω^)「靴、履き替えたいんだけど……」
(´<_` )「それどころじゃなさそうだな」
近くにいるクラスメートに声をかけてみようと口を開いたとき、
馴染みのある声が内藤の耳を打った。
- 168 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 02:34:02 ID:VyKq31NoO
-
(*・∀・)「あ、ブーン、弟者!」
(-_-)「おはよう2人共」
モララーとヒッキーだ。
モララーの顔には好奇心の色が滲んでいる。
内藤は、この場に最も適している表情を作った。
困惑しているような顔が丁度いい。
(;^ω^)「おはようお。……何があったんだお?」
(*・∀・)「下駄箱に泥が塗ったくられてんだよ」
(;^ω^)「泥?」
(;-_-)「うちのクラスだけみたいだよ」
(*・∀・)「誰の仕業だろうな!」
ちょっとした事件に、モララーを始めとする大半の生徒はわくわくしているようだった。
そこへ教師が何人かやって来た。
生徒達が道を開け、ようやく下駄箱の全体が見える。
- 169 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 02:35:22 ID:VyKq31NoO
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(´<_`;)「うお……」
想像以上に泥まみれだった。
場所によっては、上履きにまで被害が及んでいる。
(´<_`;)「全滅っぽいな」
(;-_-)「何で僕らのクラスだけ……」
泥は乾いているようには見えない。
あまり時間が経っていないのだろう。
教師の1人が大量のスリッパを抱えているのに気付いた。
今日一日はスリッパで過ごさねばならないらしい。
( ・∀・)「午後の体育、どうすんだろな?」
( ^ω^)「スリッパじゃ動きづらいおね……」
受け取ったスリッパに履き替え、脱いだ靴は
昇降口の隅にまとめて置くことになった。
- 170 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 02:36:20 ID:VyKq31NoO
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( ^ω^)「──?」
視線を感じた。
そちらに顔を向ける。
('A`)ノ
校門の上に、4日前に見た霊がいた。
内藤と目が合うと、片手を挙げてどこかへ消えた。
.
- 171 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 02:38:22 ID:VyKq31NoO
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(#・∀・)「──誰だよ犯人はよお! 最低野郎め!!」
事件だ事件だとはしゃいでいたモララーだったが、
昼休みには、彼の感情はすっかり怒りに塗り替えられていた。
理由は簡単。
つい先程、担任から「各自で自分の上履きと下駄箱を洗うように」とのお達しがあったのである。
(#・∀・)「犯人取っ捕まえて、そいつに洗わせようぜ!」
(;^ω^)「どうやって捕まえるんだお……」
(;-_-)「落ち着きなよモララー」
階段を下り、昇降口へ。
下駄箱の前に立って、上履きを取る。
モララーや内藤の上履きには大して泥が付着しておらず、少し洗えば綺麗になりそうだった。
- 172 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 02:39:30 ID:VyKq31NoO
-
(;^ω^)「ヒッキーの靴、どろどろだお」
(;-_-)「うええ」
( ・∀・)「持ち帰って洗った方がいいんじゃねえの」
(;-_-)「そうする……」
ヒッキーの上履きは、広範囲に渡って汚れていた。
「汚れが酷ければ家に持ち帰れ」と教室で配られていたビニール袋に、ヒッキーが上履きを入れる。
既に乾いている泥が剥がれ、ぱらぱらと落ちた。
見た限り、持ち帰る必要があるほど汚れているのは4、5人程度。
だが、自分で洗うのが面倒だという理由で大半の生徒は持って帰るだろう。
モララーもそのつもりらしかった。
( ^ω^)「弟者はどうするんだお?」
(´<_` )「今日の部活は屋内でやるだろうから、洗いたいところなんだけどな……」
下駄箱の前で唸る弟者。
覗き込んでみると、彼の上履きは特に酷かった。
全体を泥に覆われている。
- 173 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 02:40:36 ID:VyKq31NoO
-
( ^ω^)「部室に予備の靴とかないのかお?」
(´<_` )「ああ、あったかも。じゃあ今日はそれ使うか」
ビニール袋を広げ、弟者は上履きに手を伸ばした。
瞬間、顔を顰める。
( ^ω^)「どうしたお?」
(´<_`;)「重い」
言って、上履きを引っ張り出す弟者。
彼の手元を見たモララーが、目を丸くさせた。
(;・∀・)「何だよそれ!」
上履きの中いっぱいに泥が詰められていた。
左右どちらも、みっしりと。
- 174 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 02:42:26 ID:VyKq31NoO
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モララーが他の生徒の上履きを見てみたが、
弟者ほどの被害を受けたものは無かった。
(;-_-)「……弟者だけ? どうしてだろ」
(´<_`;)「俺が知るか」
弟者は近くにあったゴミ箱の上で、両手に持った上履きを打ち合わせた。
半端に固まっている泥がぼろぼろと崩れてゴミ箱に落ちる。
( ・∀・)「誰かから恨み買ったんじゃねえだろうな」
(;^ω^)「弟者は人に恨まれるような奴じゃないお」
( ^ω^)(……まあ、そんなの分かんないけど)
内藤は辺りを見渡し、おかしなことに気付いた。
他の生徒と比べると、弟者が使用している区画だけが特に汚れている。
よく見ないと分からない程度ではあるが。
私怨よりは、揶揄を目的としているように感じられた。
*****
- 175 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 02:44:46 ID:VyKq31NoO
-
( ´_ゝ`)「泥ねえ。そりゃまた、迷惑な話だな」
夜。流石家の居間。
内藤と弟者から話を聞き終えた兄者は、
5人分のグラスに麦茶を注ぎながら唸った。
2人の上履きは、居間の隅に吊るされている。
何とか気にならない程度には綺麗になった。
下駄箱を汚した犯人は未だ分かっていない。
l从-∀-ノ!リ人「もしかしたら、ちっちゃい兄者に泣かされた女子が腹いせに……」
( ^ω^)「僕らの上履きまで汚されるのは困るおー」
(´<_`;)「そもそも女子を泣かせた覚えがないぞ」
そこへ、がらがらという音を立てて、台所と居間を仕切るガラス戸が開けられた。
話を中断させる。
- 176 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 02:45:29 ID:VyKq31NoO
-
∬´_ゝ`)「妹者、みんなにお味噌汁よそってー」
l从・∀・ノ!リ人「はーい」
現れたのは、盆を持った女性だった。
盆には人数分の茶碗と汁椀が重なっている。
彼女は流石姉者という。
20代半ば、流石家の長女。
妹者が通う小学校に勤めている教師だ。
姉者が妹者の隣に腰を下ろし、2人の間に盆を置く。
妹者は汁椀を取ると、卓袱台の上の鍋にお玉を突っ込み、味噌汁をよそった。
先に、弟者へ味噌汁が渡された。
姉者は傍らの炊飯器の蓋を開け、ご飯を茶碗へ盛りつける。
∬´_ゝ`)「どれくらい食べる?」
「大盛り」と男3人が同時に答えると、姉者はくすくす笑った。
全員にご飯と味噌汁が行き渡り、5人はそれぞれ両手を合わせる。
- 177 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 02:47:52 ID:VyKq31NoO
-
∬´_ゝ`)「それじゃ、いただきます」
( ^ω^)(*´_ゝ`)「いただきまーす」(´<_`*)l从・∀・*ノ!リ人
──内藤が小学生のときに周囲から苛められていたのは、前回話した通り。
苛めは年々激しくなり、6年生の後半にはほとんど学校にも行かなくなった。
そんな内藤を見て、両親は、
この調子だと中学校に上がっても不登校のままなのではないかと危惧する。
ならば苛めっ子のいない土地へ移ればいいとは考えたものの、
内藤の両親は共働きで、どちらも簡単に引っ越せるような職ではなかった。
そこで、他県に住む流石家へ内藤を預けることにしたのである。
流石家は母方の親戚に当たり、昔から交流があったので
しばらく内藤の面倒を見てほしいという親の頼みにも、すんなり頷いてくれた。
内藤も両親も、離れて暮らすことに抵抗はなかった。
リアリストな両親は内藤を少々気味悪く思っていたし、内藤も、そんな両親に甘えるのが苦手だった。
別に、互いに愛情がないわけではない。ただほんの少し距離があっただけだ。
そんな流れの末に今がある──とは言え。
弟者達の両親も諸事情により、今年の初めに遠方へ行ってしまったため、
現在、この家には若者と子供しかいないのだが。
- 178 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 02:49:15 ID:VyKq31NoO
-
∬´_ゝ`)「口に合うかしら」
( ^ω^)「美味しいですお」
コロッケを口に運ぶ内藤に、姉者は微笑んだ。
内藤が頷くと、弟者がそれに続く。
(´<_` )「姉者が作るご飯は何でも美味い」
∬*´_ゝ`)「やあね、もう。──兄者、ご飯こぼしたわよ」
( ´_ゝ`)「おっとっと」
最年長であり社会人である姉者は、皆の母親代わりとも言える。
それを意識してか、姉者には「誰よりも大人であろう」としている節がちょくちょく見られた。
l从・∀・*ノ!リ人「あー、姉者姉者、これ食べたいのじゃ」
妹者がテレビを指差した。
スナック菓子のコマーシャルが流れている。
- 179 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 02:50:26 ID:VyKq31NoO
-
∬´_ゝ`)「新しい味出たのねえ」
(*´_ゝ`)「よしよし、俺が明日帰ってくるときに買ってきてやろう」
l从・∀・*ノ!リ人「おっきい兄者大好きー」
(*´_ゝ`)「俺もこういうときだけデレる妹者が大好きだぞー」
何とはなしに、皆の視線がテレビに向かう。
コマーシャルが終わり、番組が始まった。
(´<_` )「……あ」
おどろおどろしいBGM。
薄暗い映像。
エレベーターの監視カメラに映った霊がどうこう、というナレーション。
心霊番組だ。
- 180 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 02:51:37 ID:VyKq31NoO
-
途端、兄者達が焦り出す。
l从・∀・;ノ!リ人「り、リモコン、リモコンどこじゃ!?」
(;´_ゝ`)「さっきブーンが使ってなかったか!?」
( ^ω^)「あ、ここに」
(´<_`;)「早くチャンネル変えろ!」
急かされるままにチャンネルを切り替える。
だが、その寸前。
エレベーターに霊が現れる瞬間が、ばっちり画面に映ってしまった。
∬;´_ゝ`)「いっ……──」
内藤は箸とリモコンを置き、空いた手で両耳を塞ごうとした。
しかし、たった一秒遅かった。
- 181 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 02:52:19 ID:VyKq31NoO
-
∬;´_ゝ`)「──いやあああああああああ!!!!!」
食卓に轟いた姉者の悲鳴が、皆の耳へと直撃する。
誰よりも大人であろうと頑張っている姉者だが、
残念なことに、彼女は誰よりも怖がりなのであった。
.
- 183 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 02:54:30 ID:VyKq31NoO
-
∬;_ゝ;)「あばばばばばば」
(;´_ゝ`)「おっ、おお、落ち着け姉者、
おばけなんてなーいさっ! はいっ!」
∬;_ゝ;)「お、お、お、おばっ、おばけなんてなーいさ! おばけなんてうっそさ!」
( ^ω^)「いい歳してそれは……」
(´<_`;)「しっ」
l从・∀・;ノ!リ人「姉者ー、テレビ見るのじゃ、可愛いわんこが映ってるのじゃ」
妹者に抱き着き、涙声で童謡を歌う姉者。
昔からこうだ。
怖い話など聞こうものなら、トイレも風呂も1人で行けなくなる。
心霊映像など見ようものなら、人から離れられなくなる。
いっそ面白いくらいなのだが、本人にとっては笑い事ではないだろう。
- 184 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 02:56:25 ID:VyKq31NoO
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(´<_`;)「姉者、幽霊なんていないから。
ああいう映像は作り物なんだから、怖がる必要ないって」
オカルト完全否定派の弟者が何度言い聞かせても、
姉者の怖がりは治らない。
ほくほくのコロッケを食べつつ、内藤は「怖がると霊が寄ってきますよ」と忠告するべきか否か悩み、
言ったら余計怯えさせることになりそうだと結論を出した。
*****
- 185 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 02:58:48 ID:VyKq31NoO
-
翌朝。
内藤は話し声で目覚めた。
( ^ω^)「……?」
布団から這い出る。
声は、階下から聞こえていた。
まだ7時前だ。
窓の外を見る。しとしとと雨が降り、空は雲に覆われ薄暗い。
目を擦りながら立ち上がり、スウェットのまま部屋を出た。
流石家の2階、一番奥が内藤の部屋である。
( ^ω^)(姉者さん達かお)
わざと音を立てるようにして階段を下りる。
話し声は玄関の方向から。
∬;´_ゝ`)「──あ……ブーン君、起こしちゃった?」
玄関に立っている姉者が、おろおろした様子で内藤に声をかけた。
続いて、姉者の傍にいた弟者が「おはよう」と言う。
弟者はジャージを着ている。足元に鞄が置いてあるので、朝練に行くところだったのだろう。
2人に挨拶を返してから、内藤は首を傾げた。
- 186 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 03:00:44 ID:VyKq31NoO
-
( ^ω^)「どうかしたのかお」
(´<_`;)「ああ……」
弟者は、中途半端に開いた玄関の引き戸を指差した。
引き戸の一部に磨りガラスが入っているのだが、
そのガラスの向こう側に、何かが飛び散っているのが見えた。
嫌な予感。
内藤は外に出て、引き戸を確認した。
( ^ω^)「……泥」
(´<_`;)「だよな」
放射線状に広がっているのは、間違いなく泥だった。
まるで引き戸の真ん中に巨大な泥団子を叩きつけたかのようだ。
触れてみると、指にべったりと付着した。
まだ少しも乾いていない。
- 187 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 03:03:12 ID:VyKq31NoO
-
( ^ω^)「昨日のと同じ犯人かお、これ」
(´<_`;)「分からん……」
玄関の中に戻る。
警察を呼ぶのかと問うと、弟者は首を振った。
また何かあれば通報するつもりだが、今の段階では、その気はないそうだ。
( ^ω^)「いま通報した方がいいんじゃないかお?」
∬;´_ゝ`)「私もそうしようって言ってるんだけど……」
弟者は頑として頷かなかった。
慎重なところのある弟者であれば、すぐにでも警察に相談しそうなものだが。
そこに言い様のない違和感があった。
洗い落とすと言って弟者が道具を取りに行っている間に、
内藤は部屋から携帯電話を持ってくると、カメラ機能で引き戸を撮影した。
このまま泥を落とすより、せめて画像としてでもこの状況を残しておいた方が、
いざ警察を呼ぶ事態になったときに役立つのではないかと考えたのである。
*****
- 188 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 03:04:39 ID:VyKq31NoO
-
内藤や弟者は警戒していたが、予想に反し、
新たな事件が起こることはなかった。
下駄箱の件も犯人不明のまま進展はなく、生徒達の話題から消えていった。
──そうして、一週間が経った。
.
- 189 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 03:08:43 ID:VyKq31NoO
-
(´<_` )「ブーン!」
放課後。
帰ろうとしていた内藤は、昇降口で弟者に呼び止められた。
( ^ω^)「何だお?」
(´<_` )「悪いんだが、帰りにトイレットペーパーを買ってってくれないか?
姉者から、切らしてるのを忘れてたってメールが来てたんだ。
俺は部活があるし、兄者は帰るの夜になるだろうから、ブーンに頼んだ方がいいと思う」
( ^ω^)「ああ、分かったお。……いつものやつ?」
(´<_` )「いつもので。安売りしてるのがあれば、それでもいい」
( ^ω^)「了解だお。じゃあ、部活頑張れおー」
(´<_` )「気を付けて帰れよ」
弟者と別れた後、財布の中身を確認しながら学校を出た。
月末に親から仕送りをもらったばかりなので、出費は気にならない。
ふと。校門の辺りで、周りが静かになったのを感じて顔を上げた。
生徒達が一点を見つめ、ひそひそと話している。
- 190 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 03:10:00 ID:VyKq31NoO
-
ξ゚听)ξ
校門に寄り掛かるようにして、女性が立っていた。
金色の髪。
黒いブラウスとスラックス、襟に白いリボン。
やけに目立つ姿だった。
不意に、女性が内藤を見る。
2人の視線が絡んだ。
- 191 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 03:11:18 ID:VyKq31NoO
-
ξ゚听)ξ「……あ、内藤君?」
( ^ω^)「……は」
ξ゚听)ξ「内藤ホライゾン君かしら、あなた」
彼女は内藤の名を呼んだ。
内藤は眉を顰めて、しかし堅すぎない表情を保って首を傾げた。
(;^ω^)「そうですけど……」
( ^ω^)(……誰だお、この人)
女性は、にこりと笑んだ。
なかなか綺麗な人だ。
ξ゚ー゚)ξ「そう。ちょっと話したいことがあるんだけど、いいかしら」
良くない。
どう考えても関わらない方がいい。
皆の反応を見れば分かる。
すみません、買い物に行かないといけないので。
そう返し、内藤はそそくさと彼女の横を通りすぎた。
早足でスーパーへの道を歩く。
- 192 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 03:12:19 ID:VyKq31NoO
-
ξ゚听)ξ「──君自身に用があるわけじゃないんだけどさ」
( ^ω^)「……」
ついてきた。
内藤の数歩後ろを歩きながら、話しかけてくる女性。
厄介な類の人かもしれない。どうしよう。
ξ゚听)ξ「あの、流石さんのところに居候してるのよね?」
( ^ω^)「……」
ξ゚听)ξ「流石弟者君とは仲いい?」
( ^ω^)「……」
ξ゚听)ξ「私、彼に用があるのよね。
でも、あの子、ちょっと私のこと警戒してるみたいで。
なかなか迂闊に話しかけられないの」
( ^ω^)「……」
ξ゚听)ξ「だから君に手伝ってほしくて……」
- 193 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 03:13:23 ID:VyKq31NoO
-
人気のない場所に差し掛かったとき、腕を掴まれた。
後ろを向かされる。
至近距離に女性の顔があって、息を呑んだ。
ξ゚听)ξ「急に現れて何の話だ、って思うでしょうけど……。
お願い、もう時間がないのよ。
どうにか、私と弟者君が話を出来るように計らってくれない?」
無視しても無駄か。
内藤は、いかにも弱々しい声を出した。
(;^ω^)「あ、あの、あの、僕……」
俯き、言い淀む──ふりをする。
女性は内藤から手を離すと、顔を覗き込み、「どうしたの」と優しく問い掛けた。
(;^ω^)「僕、あの……お、弟者、くん、に、き……嫌われてて……」
泣きそうな表情と声。
もちろん演技である。
- 194 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 03:15:15 ID:VyKq31NoO
-
(;^ω^)「だから……、……お姉さんのお手伝い、出来ないかもしれない……」
ξ゚听)ξ「昨日、2人仲良く登下校してたのは何だったのかしら」
沈黙。
見つめ合う。
内藤はとびきりの笑顔を見せた。
女性はにたりと笑う。
ξ^竸)ξ「お手伝いよろしくね?」
( ^ω^)「お断りしますお」
背を向けて歩き出す。
こつこつ、女性のパンプスの音が響く。
ξ^竸)ξ「素直で優しくていい子だって評判のくせに、
随分とまあ、『しっかり』した子じゃないの」
しっかり、の部分に力が篭っていて、嫌味であることは容易に理解出来た。
- 195 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 03:15:56 ID:VyKq31NoO
-
( ^ω^)「お褒めにあずかり光栄ですお」
ξ^竸)ξ「演技はもうしないの?」
( ^ω^)「しても無駄じゃありませんかお」
ξ^竸)ξ「それもそうね。
で、どうしたら協力してくれるのかしら」
( ^ω^)「断るって言いましたけど」
ξ゚听)ξ「幽霊が見えること、バラしちゃってもいいの?」
足が止まる。
パンプスの音も止まる。
- 197 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 03:17:48 ID:VyKq31NoO
-
( ^ω^)「……何のことですかお」
ξ゚听)ξ「一部の幽霊の間で噂になってるのよね。
内藤ホライゾンには霊感があるって。
話しかけたら殴られた、って霊が2、3人はいたわ」
以前、校門で会った男の霊と似たような台詞だ。
内藤が振り返ると、彼女は余裕たっぷりの顔つきで小首を傾げてみせた。
身構える。
ξ゚听)ξ「あ、私は人間よ。生きてるから安心して。
私、あなたと同じなの。
幽霊が見える。幽霊と話せる。幽霊に触れる」
女性が右側を指差す。
そちらに目を向けると、大木の上に座る少女がいた。
少女は右半身がぐずぐずに崩れている。
内藤が慌てて視線を外すと、女性は、またにやにや笑い出した。
- 198 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 03:18:59 ID:VyKq31NoO
-
ξ^竸)ξ「ほら見えてる。右半分が崩れてる女の子でしょ」
( ^ω^)「……」
ξ^竸)ξ「あのね内藤君、私、あなたをからかいたいわけじゃないのよ。
あなたは別にどうでもいいの。
ただ、弟者君と話す切っ掛けになってくれればいいの」
( ^ω^)「……弟者と何を話すんですかお」
ξ^竸)ξ「交渉」
( ^ω^)「交渉?」
彼女は笑みを消した。
真剣な表情をされると、やはり、改めて綺麗な顔だと思う。
ξ゚听)ξ「──彼に、証人として出廷してほしいのよ」
しゅってい、という言葉の意味をはかりかねた。
その前の「証人」という単語を反芻して、ようやく「出廷」のことだと理解し、
そして、彼女が裁判に関わる発言をしたのだと思い至った。
- 199 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 03:20:09 ID:VyKq31NoO
-
( ^ω^)「お姉さん、何やってる人なんですかお」
ξ゚听)ξ「そういえば自己紹介してなかったわね、ごめんなさい。
私、出連ツンっていうの」
女性は名刺を出すと、それを内藤に手渡した。
名刺に記されているのは、出連ツンという名前と、住所、電話番号。
名前の右上には「弁護士」と書かれていた。
( ^ω^)「弁護士さん」
ξ゚听)ξ「そうよ」
弁護士だと分かっただけで、賢そうな人に見えるのだから不思議──
.
- 200 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 03:20:32 ID:VyKq31NoO
-
ξ゚ー゚)ξ「弁護士っていっても、幽霊専門のね」
急に。
言葉が通じるような気がしなくなったので。
内藤は、全力で走って逃げた。
*****
- 201 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 03:21:34 ID:VyKq31NoO
-
(´<_` )「変人ってことで有名だよ。
働いてないし就活もしてないのに、
真っ黒なスーツ着て毎日あちこちうろちょろしててさ」
夜。流石家の居間。
カレーライスに福神漬けを乗せながら、弟者は言った。
──あの後、出連ツンが追いかけてくることもなく。
無事にスーパーでトイレットペーパーを買って帰ることが出来た。
彼女は関わるべき人ではないと思う。
しかし気にはなったので、夕食時に「出連ツン」を知っているかと訊ねると
弟者は上記のように答えた。
大体は予想通り。
- 202 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 03:23:09 ID:VyKq31NoO
-
(´<_` )「昔は、幽霊がーとか何とかしょっちゅう言ってたらしい。
危ない人だ。近付かないようにしろよ。
福神漬けいるか?」
( ^ω^)「あ、いるお」
(´<_` )「はいよ」
恐らく、彼女に霊感があるのは間違いない。
誰も信じなかったようだが。
(´<_` )「そういやブーンは出連さんのこと知らなかったんだな……。
それにしても急にどうしたんだ? まさか会ったのか」
( ^ω^)「いや、ちょっと」
(´<_` )「絡まれたら、相手にしないで逃げとけ」
(*´_ゝ`)「でも、変人とはいえ結構綺麗だよなあ、あの人」
兄者が惚けた声で言う。
たしかにツンは美人だった。
振る舞いが全てを台無しにしているけれども。
- 203 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 03:24:28 ID:VyKq31NoO
-
(´<_` )「兄者、ああいうのが好みだったっけか。年下好きだと思ってたけど」
( ´_ゝ`)「んー、まあ、あれで10歳くらい若ければストライクかな」
(´<_` )「10歳ねえ……あの人、姉者の同級生だろう」
( ^ω^)「え、そうなのかお」
(´<_` )「そうそう。
姉者の前では出連さんの名前出すなよ? 怖がるから」
::∬;´_ゝ`)::
( ^ω^)「……手遅れだお弟者」
(´<_` )「え?」
(;´_ゝ`)「げえっ姉者!!」
弟者の真後ろに、姉者が副菜を持って立っていた。
青ざめて震える姉者の手から兄者が皿を奪い取る。
もう少し遅れていたら、皿の中身が全て床に落ちていただろう。
- 204 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 03:25:32 ID:VyKq31NoO
-
::∬;´_ゝ`)::「つっ、つ、つつつ、つ、」
(´<_`;)「気のせいだ姉者、何でもない、何でもないから!!」
l从・∀・*ノ!リ人「姉者ー、ご飯はどれくらい盛るのじゃー?」
ほんわかした声が割り込んできて、姉者の恐怖は爆発せずに済んだ。
胸元を押さえながら台所の妹者に振り返り、少なめにして、と答えている。
l从・∀・*ノ!リ人「はーい」
∬;´_ゝ`)「ふう……」
(´<_`;)「……小学校から高校まで一緒で、ずっと出連さんに怯えてたんだ」
( ^ω^)「なるほど」
弟者が耳元で囁いた。
人一倍怖がりの姉者からしたら、霊感を持つ人間など脅威以外の何物でもない。
- 205 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 03:26:51 ID:VyKq31NoO
-
妹者が姉者の分のカレーライスを運んできて、卓袱台に全員分のメニューが並んだ。
手を合わせ、「いただきます」と同時に言う。
カレースプーンを手に取りながら、内藤は姉者と弟者を見比べた。
ξ゚听)ξ『幽霊が見えること、バラしちゃってもいいの?』
堪ったものではない。
姉者は怖がりだし、弟者は霊に関しては否定派だ。
ろくな結果にならないのが目に見えている。
しかも、あの女は姉者の知り合いだという。
その気になれば姉者と接触するのは容易いことだろう。
もし、明日以降も絡んできたら。
そして同じ手口で脅してきたら──
( ^ω^)(……どうすりゃいいかお)
*****
- 206 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 03:28:19 ID:VyKq31NoO
-
どうか二度と会いませんように。
内藤のそんな願いは、翌日、早々に打ち砕かれる。
放課後。
机の中身を鞄に入れながら、内藤は雨が降っているのを窓際の席から確認した。
そのまま、目を下に向ける。
( ^ω^)「うわ」
ξ^竸)ξノシ
校門の前に立っていたツンが、内藤を見上げて、傘を持っていない方の手を振った。
.
- 208 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 03:29:56 ID:VyKq31NoO
-
ξ゚听)ξ「今はねえ、幽霊も裁判やる時代なのよね。
幽霊になったら女湯覗いちゃうぞー、とか言う人も多いけど、
今の時代にそんなことして見付かったら、お縄にかかって当然だわ」
ξ゚听)ξ「事実、そういう罪で捕まった霊の弁護も何度かしたしね」
駄菓子屋。
軒下に設置されたベンチに、内藤とツンは並んで座っていた。
雨は小降りになっている。
内藤は相槌も打たずにツンから視線を外した。
奢ってもらったラムネの瓶を、口元で傾ける。
( ^ω^)(幽霊が裁判って)
──不幸な内藤少年は、学校から出た瞬間、ツンに捕まったのであった。
しばらく校門前で話す話さないの言い合いをしていたが、
周囲からの視線に耐えかねた内藤が折れてしまった。
別の場所で話しましょう、と。
そして連れてこられた先が、この駄菓子屋だ。
場所は移ったとはいえ、もろに屋外。通行人に見られることには変わりない。
- 209 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 03:30:57 ID:VyKq31NoO
-
ξ゚听)ξ「──昨日さ」
( ^ω^)「はあ」
ξ゚听)ξ「よくもまあ逃げてくれたわね。ちょっと傷付いたわ」
( ^ω^)「僕、静かに暮らしたい派なので」
ツンは、口をへの字に曲げた。
ξ゚ぺ)ξ「せめて、ちゃんと話を聞くぐらいはしてほしかったわ」
( ^ω^)「頭おかしい人の話は聞かないようにしてるんですお。
金髪で黒ずくめで20代の無職の話は特に」
ξ;゚听)ξ「……あなた、結構言い方きついわね……。
初めて見たときはもっと優しい感じの子かと思ってたけど」
( ^ω^)「幽霊達は、僕に殴られたって言ってたんじゃありませんでしたっけ」
ξ;゚听)ξ「話を誇張してるのかと思ったのよ。
ていうか何よ、誰が無職ですって? 弁護士だっつってるでしょ」
( ^ω^)「幽霊専門ですおね。
幽霊と裁判ごっこして遊ぶのは自由ですけど、それを職業だと言い張るのはいかがなものかと」
ξ;゚听)ξ「もう! いいわ、とりあえず話聞いてよ!!」
- 210 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 03:32:25 ID:VyKq31NoO
-
ツンは、膝に乗せた鞄に手を突っ込んだ。
どさり。鞄から取り出された分厚い本が、重たい音と共にベンチへ乗せられる。
内藤は、黒い表紙の上部にある銀色の文字を指でなぞった。
( ^ω^)「……おばけ法」
ξ゚听)ξ「間抜けな響きだけど、その名の通り、幽霊や妖怪のために作られた法律のことよ」
( ^ω^)「霊に法律なんてあるんですかお?」
ξ゚听)ξ「時代が流れるにつれ幽霊は増える、それに伴って様々な問題も増える。
それらを律するために作られたの」
ξ゚听)ξ「とは言っても、公布されたのはほんの20年とか30年前だからね。
大々的に公表出来るものじゃないし、まだまだ浸透しきってないのも事実よ」
内藤はすっかり呆れ果てた様子で手元の瓶を揺らした。
からから、ビー玉が甲高い声をあげる。
- 211 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 03:33:09 ID:VyKq31NoO
-
( ^ω^)「こんな分厚い本を作るほど暇なんですね……」
ξ#゚听)ξ「妄想と決めつけたくて仕方ないみたいね」
( ^ω^)「だって僕は小さい頃から幽霊やら何やらを見てきましたけど、
奴らがそんなの気にしたところなんか一度も見たことありませんお」
いつだって、内藤が「見える」人間だと知れば、彼らは内藤に付きまとい、
憑依しようとしたり祟ったりしようとしてきた。
本当に法律なんてものがあるなら、内藤はもっと生きやすかった筈だ。
ξ゚听)ξ「君は、去年この町に越してきたのよね?」
( ^ω^)「去年の春に」
ξ゚听)ξ「君が前に住んでたところって、大きな神社かお寺がなかった?」
( ^ω^)「……ありましたけど」
内藤は、真っ赤な鳥居の神社を思い浮かべた。
広大な敷地を所有する立派な神社だった。
内藤にとっては、あまり、いい雰囲気の場所ではなかったけれど。
- 212 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 03:35:00 ID:VyKq31NoO
-
ξ゚听)ξ「そういうところでは、その土地の神様の力が強いからね。
独裁政治ってわけ。おばけ法なんか導入してないのよ」
腕を組み、ツンは首を横に振った。
困ったもんだわ、と一言。
ξ゚ぺ)ξ「おばけ法の制定には霊だけじゃなく、霊能力を持った人間も大きく関わってるの。
だから、それを良く思わない神様は聞く耳持ってくれないのよねえ。
ちゃんと話を聞けば、生者にも死者にも損が少ない内容だって分かってくれる筈なのに」
( ^ω^)「へえ」
由々しき問題だ、と言わんばかりの口振りをするツンだったが、
内藤は会話を広げることを避けた。
彼の興味は、おばけ法から「裁判」の方へと移っている。
( ^ω^)「ともかく、ここらはおばけ法が適用されてる地域なわけですおね」
ξ*゚听)ξ「あっ、信じてくれるの?」
( ^ω^)「とりあえず聞くだけ聞いてみようかと思っただけで、まだ信じる気にはなってませんお」
ξ*゚听)ξ「まあ聞かずに逃げられるよりマシね。
──法があれば、当然、裁判もあるわ」
ツンが咳払いする。
信憑性を持たせるためか、真面目な顔つきになった。
- 213 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 03:36:25 ID:VyKq31NoO
-
ξ゚听)ξ「それが幽霊裁判。基本的には、私達生きてる人間の裁判と大差ないわ」
ξ゚听)ξ「事件が起きたら、犯人と思しき霊を捕まえて、裁判にかける。
有罪か無罪か判じて、有罪なら罰を与える。終わり」
( ^ω^)「すごくふんわりしてるんですけど」
ξ゚听)ξ「えっとね、基本的に、被告人は幽霊や妖怪ばかりよ。
ごくたまーに人間が訴えられることもあるらしいけど。
被害者の方も、幽霊だったり人間だったり……色々ね」
ξ゚听)ξ「検察官──検事って言えば分かるかしら?
検事や弁護人は、霊感のある人間がやることになってるの」
私みたいに、とツンは自分自身を指差した。
人間の方が色々と都合がいいそうだ。
内藤は、以前ニュース番組で見た法廷画の記憶を掘り出した。
被告人、弁護人、検事。
裁判といえば、あと──
- 214 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 03:36:57 ID:VyKq31NoO
-
( ^ω^)「裁判官は?」
ξ゚听)ξ「ううんと……日本で言えば、一番多いのは
その土地で最も大きい神社の神様が裁判長になるパターンかしら。
場所によって、また違うんだけどね」
ξ゚听)ξ「……他に訊きたいことはある?」
( ^ω^)「特には」
気になることはまだまだあった。
だが、そろそろお腹いっぱいだ。
それに、次々と興味が湧いてくるのがよろしくない。
ツンの話が本当か嘘かはともかく、彼女に霊感があるのは信じる。
このまま首を突っ込めば、また毎日幽霊に悩まされるようになるかもしれない。
ξ*゚听)ξ「じゃあ本題なんだけど!」
ツンが、ぐっと身を乗り出させる。
どうやってこの場を逃れようか。
内藤が思考に集中しようとした──そのとき。
- 215 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 03:38:19 ID:VyKq31NoO
-
(´<_` )「おい、ブーン」
( ^ω^)「あ」
声をかけられる。
傍に、Tシャツとジャージを身に着けた弟者が立っていた。
雨が止んでいることに気付く。
弟者はじろりとツンを睨むと、内藤の腕を掴んだ。
むりやり腰を上げさせられる。
( ^ω^)「部活は?」
(´<_` )「ブーンが出連さんに拐われたって聞いて、
嫌な予感がしたから探しに来た」
まず間違いなく「拐われた」と表現した者はいないだろう。
弟者の、ツンに対する当て擦りのようなものだ。
(´<_` )「行くぞ」
ξ゚听)ξ「あー、待った待った、待って」
弟者は胡乱げにツンを見た。
随分とツンを嫌っているようだ。
そんなにオカルトが嫌いか。
- 216 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 03:39:13 ID:VyKq31NoO
-
ξ゚听)ξ「せっかく会えたんだから、もう直接言うわ。時間もないし。
弟者君、後でちょっと付き合ってくれないかしら」
(´<_` )「……付き合うって何に?」
ξ゚З゚)ξ「今は内緒」
(´<_` )「後でって、いつ」
ξ゚听)ξ「5時半くらいかな」
もう2時間後だ。
弟者が顔を顰める。
(´<_` )「遠慮しときます」
ξ゚听)ξ「……じゃあ、君のお姉さんの方に交渉しようかしら?
弟者君を少しだけ貸してくださいって。
きちんと保護者に話を通さないといけないしね?」
(´<_` )「……」
内藤の腕を掴んでいる弟者の手に、力が篭った。
痛い。
- 217 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 03:40:47 ID:VyKq31NoO
-
(´<_` )「姉者があんたを恐がってるのは知ってるだろ」
ξ^竸)ξ「そりゃ勿論。面白いくらいよね、あの怯えっぷり」
(´<_` )「分かってるなら近付くな」
( ^ω^)(出たシスコン)
兄者は歳の離れた妹者を一番可愛がる。
逆に弟者は、歳の離れた姉者に一番懐いている。
弟者がオカルトを否定するのは、恐らく、姉者が怖がりだからだ。
彼女を怯えさせるようなものが嫌いなのだろう。と、内藤は考えている。
だから──こうしてツンを嫌うのも、何となく分かる。
ξ^竸)ξ「でも、ねえ? 君が私のお願いを聞いてくれないんだもの。
なら、お姉さんから説得してくれーって頼みたくなるじゃない」
(´<_`#)「……くそっ」
空気がぎすぎすしている。
居た堪れない。腕が痛い。
オカルト女とシスコンの勝負、今回はシスコンの負けのようだ。
- 218 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 03:42:08 ID:VyKq31NoO
-
(´<_`#)「どこで合流すればいい」
ξ゚听)ξ「どこでも」
(´<_`#)「じゃあ5時半に中学校の前で待ってろ! 小学校や俺の家には近寄るなよ!!」
ξ*゚ v゚)ξ「おっけー」
(´<_`#)「言っとくが、場合によっちゃあ通報するからな!!」
ξ*゚ v゚)ξ「おっけー」
(´<_`#)「事前に人に連絡しとくから、遅くまで帰さなかった場合も通報されるんだからな!!」
ξ*゚ v゚)ξ「おっけー」
(´<_`#)「『こいつちょろい』みたいな顔すんな! 行くぞブーン!!」
( ^ω^)「おー……」
- 219 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 03:44:30 ID:VyKq31NoO
-
内藤は瓶を持った手を挙げて、ツンに軽く頭を下げた。
( ^ω^)「ラムネ、ごちそうさまでしたお」
ξ゚听)ξ「内藤君も同じ時間に同じ場所でよろしくねー。その子1人じゃ不安だわ」
(´<_`#)「はあ!? うちの居候まで巻き込む気か!?」
ξ゚听)ξ「嫌なの?」
(´<_`#)「……っ、……っ!!」
ξ*゚ v゚)ξ
それ以上は何も言わなかった。
弟者の中での優先順位は、内藤より姉者の方が上であった。
当たり前といえば当たり前だが、一番仲のいい友人として、そこそこ悲しい。
*****
- 220 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 03:46:39 ID:VyKq31NoO
-
放置するわけにもいかず。
一旦家に帰って私服に着替え、内藤は5時半ぴったりにヴィップ中学校前へ到着した。
既に弟者とツンは待機していて(物凄く険悪な雰囲気だった)、
内藤が着くなり、空気が若干──本当に若干──和らぐ。
ツンが「ついてこい」と言って歩き出し、内藤と弟者は顔を見交わしてから、
ツンに続く形で一歩踏み出した。
──ツンの言葉が正しければ、今から赴くのは法廷だ。
それも、幽霊を裁くための。
( ^ω^)(……本当に、幽霊裁判なんかやるつもりかお)
それが事実だとしたら、一体、どんな事件について裁くのだろう。
被告人は誰なのだろう。
なぜ弟者が証人になるのだろう。
好奇心が胸を満たしているのに気付き、内藤は首を振った。
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- 221 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 03:47:29 ID:VyKq31NoO
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ξ゚听)ξ「──着いたわ」
歩いている間、会話はなかった。
ツンが立ち止まり、ようやく沈黙を破る。
目の前には建物があった。
薄汚れた外壁。
割れた窓。
( ^ω^)「……廃ビル」
3階建てのビルだった。
看板には何も記されていない。
人の気配など皆無だ。
夜が近付いていることもあって、もう、悲しくなるほど「廃墟」然としていた。
- 222 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 03:49:10 ID:VyKq31NoO
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(´<_` )「帰ろう」
ξ;゚听)ξ「大丈夫! 大丈夫だから! 何も怪しくないから!!」
( ^ω^)「怪しいとこしかありませんお。
中に入ったら危ない人が待ち構えてそうなんですけど。
というわけでさようなら」
ξ;゚听)ξ「お願い待ってぇええええ!!」
踵を返した内藤と弟者に、ツンが必死に取り縋る。
先程の好奇心は消え失せ、もはや警戒以外の選択肢がなかった。
「──ツン、あんた何してんの」
声がして、内藤と弟者の動きが止まる。
低い、男の声だった。
同時に後ろへ振り向く。
「それ」を視界に収め、内藤は後悔した。
- 223 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 03:51:54 ID:VyKq31NoO
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(,,゚Д゚)「遅刻じゃないかって、しぃが怒ってるわよ」
ビルの入口に化け物がいる。
ばっちりメイクをし、女の服を着た、紛うことなき化け物がいる。
子供なら確実に泣く。
(*,゚Д゚)「あら! なあに、男の子2人も連れてきたの!? ヴィップ中の子?」
( ^ω^)「ツンさん、あれ何の妖怪ですかお」
ξ゚听)ξ「人間よ。一応」
(´<_`;)「……ギコさん!?」
真剣に問答する内藤とツンを他所に、弟者が頓狂な声をあげた。
化け物の方も、「弟者君じゃないの」と目を丸くさせる。
- 224 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 03:53:25 ID:VyKq31NoO
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(´<_`;)「ギコさ……え……ギコさん……ですよね……?」
(*,゚Д゚)「そうよお、この格好で会うのは初めてかしら。やっだ、気恥ずかしいわあー!」
( ^ω^)「……知り合いなのかお?」
(´<_`;)「姉者の同級生で……警察の人だ」
内藤に去来した驚きは2つ。
これが警察関係者であることが一つ。
姉者は同級生に恵まれなかったのだなということが一つ。
( ^ω^)「それはまた……日本の未来と姉者さんの過去が心配だお」
(´<_`;)「その服装に関しては特に意外性はなかったけど、というかっ、
何でギコさんがここにいるんですか!?」
(,,゚Д゚)「何でって裁判のためだけど」
(´<_`;)「裁判!?」
(,,゚Д゚)「? 証人か何かで出廷しに来たんじゃないの?」
弟者はあんぐりと口を開き、ツンと化け物を見た。
混乱が極限に達したようだ。
- 226 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 03:56:28 ID:VyKq31NoO
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ξ゚∀゚)ξ「勝機!」
ツンは呆然とする弟者の手を引き、建物の中へ駆けていった。
化け物はツンの背中を見送ってから、内藤に視線を移す。
(,,゚Д゚)「あんたも証人?」
( ^ω^)「何か、付き添いとして連れてこられただけみたいですお。
……幽霊裁判ってやつ、本当にやってるんですかお?」
演技をするのも忘れ、普段のトーンで問い掛けていた。
内藤も多少は混乱していたのである。
(,,゚Д゚)「やってるっていうか、これから始まるのよ。名前は何ていうの?」
( ^ω^)「……内藤ホライゾンですお」
(,,゚Д゚)「ああ、姉者のとこの居候? じゃあ、幽霊が見えるって子ね!
よろしくね、あたしは埴谷ギコよ」
埴谷ギコというらしい化け物は、にこりと笑って内藤に手招きした。
弟者は、彼──彼女と言うべきなのだろうか──に対しては敵意を持っていなかった。
警察の人間だという話だし、ツンよりは、まだ社会的に信頼される立場にある。
内藤は迷ってから彼へ近寄り、2人でビルに入った。
外は辛うじて薄明かりがあったが、内部は暗い。
- 228 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 03:58:55 ID:VyKq31NoO
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( ^ω^)「裁判って、こういう場所でやるもんなんですかお?」
(,,゚Д゚)「人が滅多に来ないような場所なら、どこでもね」
手摺りに掴まりながら階段を上る。
2階へ上がりきったところにドアがあった。
3階から声が聞こえるのだが、裁判に使うのは2階だという。
ギコがドアを開けると、隙間から光が漏れた。
電気が通っているのかと問うと、裁判の間だけ明かりを使えるよう、
警察の方で手配したのだと返答があった。
ドアが開ききる。
途端、弟者の怒鳴り声が聞こえた。
(´<_`;)「幽霊? 裁判? 何の話だよ、聞いてないぞ!!」
ξ゚З゚)ξ「だって話してないし」
(*゚ー゚)「……あのねえ、何も説明しないまま連れてくる人がどこにいるんです」
だだっ広い室内。
窓の辺りに黒いビニールが貼られている。
何となく荒れ果てた光景を想像していたが、事前に片付けたのか、意外と綺麗だった。
- 229 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 04:01:52 ID:VyKq31NoO
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距離をあけ、向かい合う形で置かれた机が2つ。
右側の机では弟者がツンに詰め寄り、
左側の机では見知らぬ人物が溜め息をついていた。
(,,゚Д゚)「しぃー、もう1人いるわよー」
(*゚ー゚)「……どうせ、そっちにも碌な説明はされてないんだろうね」
ギコが内藤の肩を叩きながら、左の机の人物に紹介する。
学生服姿の──これは、どっちだろう。
内藤には少女に見える。声も高い。だが服装は男だ。
よくよく目を凝らし、胸元に僅かな膨らみが確認出来た。
ギコが、学ランの少女のもとへ歩いていく。
内藤は一旦後ろを見てからドアを閉め、ツン達に近付いた。
- 230 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 04:04:11 ID:VyKq31NoO
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( ^ω^)「こっちが弁護人の席ですかお」
ξ゚听)ξ「そうそう。あっちが検事」
(´<_`;)「ブーン、帰ろう! こいつ幽霊の裁判するなんて馬鹿なこと言ってるぞ!!」
(*゚ー゚)「……ツンさん、どうにかしてくれませんかね。うるさいです」
ξ゚听)ξ「そうねえ。……まあ、とにかく見てもらうしかないか」
ツンが頭上を仰いだ。
天井には真新しい蛍光灯と、下卑た落書きがある。
ξ゚听)ξ「ドクオさーん、入廷して」
数秒間、何も起こらなかった。
弟者が視線を下ろそうとする。
それと同時に──天井から、足が飛び出した。
- 231 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 04:06:48 ID:VyKq31NoO
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そのまま、一気に男が下りてくる。
机と机の間に立った男は、ギコ達を睨んでから、こちらも睨みつけてきた。
男の険しい顔は、すぐさま驚きに変わる。
(;'A`)「……あっ、お前!!」
( ^ω^)「うわ。こんばんは」
奇遇というか、何というか。
以前、内藤に声をかけてきた男だった。
男は浮遊し、一気に内藤との距離を詰める。
(;'A`)「何でいるんだよ!! おまえ弁護士だったのか!?」
( ^ω^)「いや、この人に連れてこられて」
ξ゚听)ξ「なに、知ってるの?」
( ^ω^)「この間──うぶ」
取り憑かれそうになった、と説明しようとしたのに、
男の手が内藤の口を押さえた。
額がぶつかる程の距離で、男は声を潜める。
- 232 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 04:08:27 ID:VyKq31NoO
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(;'A`)「余計なこと言うなよ、憑依未遂罪に問われたらどうしてくれんだよ……。
心証悪くして有罪まっしぐらじゃねえか……」
( ^ω^)「……」
よく分からないが、黙っていた方が賢明か。
内藤が小さく頷き、男は離れた。
(*゚ー゚)「被告人。何をしているんです?」
('A`)「……へいへい、すーいーまーせーん」
男は、ふよふよと浮かんだまま中央に戻った。
ツンは内藤と男を見遣って、首を傾げる。
- 233 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 04:10:26 ID:VyKq31NoO
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( ^ω^)(……あ)
はたと思い至り、内藤は弟者へ意識を向けた。
霊感がない、ひいては件の男が見えない弟者からすれば、
今の一連の流れは意味が分からないものでは──
(゚<_゚;)
( ^ω^)「……弟者?」
弟者は、瞠目していた。
視線の先にはあの男。
- 234 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 04:11:56 ID:VyKq31NoO
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(゚<_゚;)「な、い、今の、今、天井から出、え、浮いて、え、」
( ^ω^)「……ツンさん」
ξ゚听)ξ「法廷の中だと、霊感のない人でも幽霊が見えるようになるわ。
見えなきゃ意味ないからね」
( ^ω^)「そりゃあ便利なもんですお」
(゚<_゚;)「ゆ……え……あれ……ゆう……」
ξ゚听)ξ「そうね、幽霊よ」
そうして、弟者がただ口を開閉させるだけの物体と成り下がった頃。
突然、かあん、と何かを叩く音が響いた。
空気が変わる。
- 235 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 04:14:53 ID:VyKq31NoO
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ツン達が顔を上げた。
それで予想はついた。案の定、天井から足が出てくる。
裸足だ。
【+ 】ゞ゚)
下りてきたのは、中年の男。
変なお面に着物姿。
ギコや学ランの少女も──性別との食い違いから──変わった格好と言えるが、
その男は、さらに奇妙な出で立ちであった。
右手に木槌を持っている。
そのことから、ほぼ反射的に、内藤はこの男が「裁判官」なのだと考えた。
被告人(らしい)痩せぎすの男と向かい合う場所に降り立つ。
内藤の脳裏に浮かぶのは法廷画。
立ち位置から考えれば、やはり、お面の男が裁判官だ。
- 237 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 04:16:22 ID:VyKq31NoO
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【+ 】ゞ゚)「準備はいいか」
ぎょろりとした瞳が、全員を見渡す。
彼は内藤と弟者に目を留めた。
誰だ、とごくごく短い質問が落ちる。
ツンは、隣に立つ弟者を手で示した。
(゚<_゚;)
ξ゚听)ξ「こちら、弁護側の証人で──」
その手が、僅かに弟者の肩に触れる。
瞬間。
- 238 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 04:17:42 ID:VyKq31NoO
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( <_ ;) フッ
( ^ω^)ξ゚听)ξ「あっ」(゚Д゚,,)(゚ー゚*)
弟者は、崩れるように倒れた。
生きているのかと問いたくなるほど、真っ青になって。
屈み込んで弟者に触れた内藤は、彼が震えているのに気付いた。
- 239 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 04:19:11 ID:VyKq31NoO
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(;*゚ー゚)「ちょっ……大丈夫ですか!?」
(;,゚Д゚)「あらららら」
(;'A`)「何だ? どうしたんだよ、そいつ」
【+ 】ゞ゚)「?」
──昨日と今日で内藤が新たに得た知識は、色々あった。
出連ツンという存在。
彼女が姉者や弟者の知人であること。
幽霊裁判というものがあること。
それと。
- 240 :名も無きAAのようです:2012/10/10(水) 04:20:51 ID:VyKq31NoO
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ξ;゚听)ξ「……あの姉にして、この弟ありね」
( ^ω^)「そうみたいですね」
( <_ ;) ウゥ…オバケ…コワイ…
弟者が、姉者と同類だったということだ。
case2:続く
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