ミセ*゚ー゚)リ鏡面台の少女のようです
- 312 :名も無きAAのようです:2012/11/18(日) 17:09:55 ID:vg/FRESo0
- 外に降りしきる雨を、私は暗い気持ちで眺めていた。
大粒の雫がしたたかに打ちつけられ、地面はぐずぐずと形を変えていた。
ミセ*--)リ「はぁ……」
雨の日は母の機嫌がとりわけ悪い。
湿気で膨らむ髪を持て余し、じきに癇癪を起こす。
それが終わればドレスを延々と選び、召使い達に当たり散らすのだ。
忠実な彼等は、文句一つ言わずにひらすら彼女の願いを叶えようとする。
('、`#川「使えない子ね! 私がやるから櫛を持ってきて! 」
召使い達を叱咤するヒステリックな声が、屋敷中に響き渡った。
じめじめとした陰気な屋敷の中で、母だけが浮いていた。
ミセ*--)リ「……。」
母はおそらく病気なのだ。年中絶え間なく着飾り、毎夜、夜会に出掛けている。
自身が美しくあり続ければ、幸せでいられると信じて疑わない。
父が彼女を見捨て、家に寄りつかなくなってからは、その願いはより強固なものとなった。
- 313 :名も無きAAのようです:2012/11/18(日) 17:10:55 ID:vg/FRESo0
- ミセ*゚ー゚)リ「嫌だわ。私までくさくさしてしまて。」
こんな日、私は母の鏡面台を見に行く。
結婚のお祝いに、と曾祖母が贈った嫁入り道具だった。
幼い頃、年長の召使いが、それがいかに素晴らしいものだったかを話してくれた。
それはそれは、愛情がたっぷり詰まった贈り物でしたよ、彼女はそう言った。
当時を思い出してか、口許には笑みを浮かべていた。
巧みに声色を変えて、語られる昔話は小さかった私にとっては、まるでお伽話のように輝いてみえた。
- 315 :名も無きAAのようです:2012/11/18(日) 17:12:33 ID:vg/FRESo0
- 召使い 「見て! 何て贅沢な装飾なのかしら! 」
召使い 「鏡のてっぺんに彫り込まれた女をご覧なさいな。まるで、アフロディテのように綺麗だわ。」
('、`*川「……。」
馬車に揺られてやってきた素敵な贈り物は、賞賛の声と共に迎え入れられた。
余所のものと比べると、幾分か小ぶりな鏡面台だった。
しかし、シルエットは頭から爪先まで、寸分の狂いもなく優美なライン描き、その小さな体には、贅をこらした装飾がたっぷりとあしらわれていた。
特に、鏡の最上部に彫り込まれた少女は、溜息がでるくらい美しかった。
('、`*川「あんな古臭いもの、私が使えるわけないじゃないの。早くどこかへやって。」
母は鏡面台を一瞥すると、使おうとしなかったらしい。
なにぶん生まれる前の話なので、真偽のほどはわからない。
けれど、今でも行き場を失ったそれは、滅多に使うことのない客間にそっと置かれていた。
- 316 :名も無きAAのようです:2012/11/18(日) 17:13:29 ID:vg/FRESo0
- 私が彼女を見つけたのは、五つのときだった。
ある日、夜中に一人でいる寂しさに耐えかねて、私は屋敷の中をさまよっていた。
思い返してみれば、半ばべそをかきながら暗い廊下を一人で彷徨いていたように思う。
幾分か歩いてあるうちに、心も随分落ち着いて、誰もいないのならあの鏡面台を探してみようと思った。
素敵な鏡面台、愛情のこもった贈り物――。
当時は気がつかなかったが、多分私は自分と真反対のものを、一度目にしてみたいと思ったのだろう。
漸く鏡面台のある客間にたどり着き、彼女を見た瞬間を私は今でも忘れない。
あまりの美しさに思わず感嘆の声をあげたのだ。
そして、心を奪われたのだから。
- 317 :名も無きAAのようです:2012/11/18(日) 17:14:15 ID:vg/FRESo0
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ミセ*゚ー゚)リ鏡面台の少女のようです
http://boonrest.web.fc2.com/maturi/2012_ranobe/e/109.png ◆No.109
- 318 :名も無きAAのようです:2012/11/18(日) 17:15:23 ID:vg/FRESo0
- 来ない来客のために用意された客間は、冷え冷えとした空気で満たされていた。
静まり返ったこの部屋の隅に、彼女はひっそりと鎮座している。
ミセ*゚ー゚)リ「……。」
傷つけないように、慎重に模様を指先で辿る。
瞳を閉じれば、目がくらむような色とりどりの花が私を招き入れてくれた。
ミセ*--)リ「菫に時計草、露草……」
鏡面台の緩やかに内へ膨らんだ脚から引き出しまでは、野茨が我が物顔で手足を伸ばす。
その隙間を縫うように、菫、鈴蘭、時計草、……おそらく、東洋の植物であろう珍しい植物たちが咲き乱れる。
その様子はまるで、お互いを絞め殺し合っているようだ。
ミセ*゚ー゚)リ「いつみても、本当に綺麗……」
目を開けて、少女を見つめる。
茨に手足を縛り付けられ、まるで磔のようになった少女は、相変わらず美しさを湛えてそこにいた。
傍らには、極楽鳥が忠実な従者のように寄り添っていた。
ミセ*゚ー゚)リ「きっと、鳥は彼女を助けたいのね」
- 319 :名も無きAAのようです:2012/11/18(日) 17:16:20 ID:vg/FRESo0
- 私は再び目をつぶり、空想の世界に身体を預ける。
お伽噺の世界に入り込むと、母の怒鳴り声も、まるで遠いもののように思えた。
少女を助けんがため、極楽鳥は空を飛ぶ。しかし、いやらしい野茨は獲物を見逃さず、その美しい飾り羽根に絡みつく。
翼は蔓に締めつけられ、傷ついた彼は墜落する。
地に落ちた肉は腐り、やがて甘い腐臭を漂わせるのだ。
きっと、少女は絶望するに違いない。
彼が死んだことに、零れ落ちた涙を払うこともできない己の身の上に……。
ミセ*;ー;)リ「何てかわいそうなの」
こんなにも美しいのに。
美しさが幸せをもたらすなら、なぜ彼女の許にそれは訪れないのだろうか。
ミセ*つー;)リ「神様は、不公平だわ」
泣くことすら許されない彼女への慰めに、自分の頬に伝う涙を拭う。
ミセ*゚ー゚)リ「できることなら代わってあげたいわ。あなたの不幸が何より沁みているのは、私だもの。」
私は少女と二人きりの時間を存分に満喫していた――はずだった。
- 320 :名も無きAAのようです:2012/11/18(日) 17:17:07 ID:vg/FRESo0
- ――――ソレハ、ホントウ?――――
声がした。
張り詰めた静寂をそっとなでるような、微かな、息を殺してじっとしていなければ聞こえないような声だった。
ミセ;゚ー゚)リそ「誰!? 」
ここにいるのは、私一人きりなはずだった。
あたりを見回すが、依然として、部屋は静謐で重厚な空気を保っていた。
ミセ;゚ー゚)リ「誰も…いないわね」
気のせいだとわかり、強張った身体の力を抜いた――刹那、視界は暗闇に捕らわれ、絡めとられていった。
- 321 :名も無きAAのようです:2012/11/18(日) 17:17:59 ID:vg/FRESo0
- 川 ゚ -゚)「あぁ、やっと外にでられた」
ミセ;゚ー゚)リ『何が起きたの? 』
目の前に映るのは鏡面台の少女。
堅く冷たかった頬には血が通い、薔薇色に輝いていた。
彼女はひどくせいせいとした顔していた。
赤い唇が弧を描き、笑みの形となる。
灰味がかった瞳が私を見つめていた。
本当に、私を見つめていたのだろうか?
違う、鏡面台を見ていた。
ミセ*;ー;)リ『私をここから出して頂戴! 』
客間ではないどこかに私はいた。
菫に鈴蘭、かつて何度も指でなぞった花々が咲き誇る。
だらしなく蜜を滴らせ、絡み合う様子はひどく淫らだった。
野茨は鬱蒼と茂り、蔓が私を捕らえて離さない。
川 ゚ -゚)「無理だよ。金物の喉で、声が出せる訳がないだろう? それに、君が言ったんじゃないか。【代わってあげたい】って。」
川 ゚ー゚)「そこから出たいのだろう? ならば、待つことだ。いつかお前のような少女が訪れる。」
【そして、つけいれば良いさ。この私のように――】
ちなみに私は百年待った、そう言い添えると、彼女は艶然と微笑んだ。
- 322 :名も無きAAのようです:2012/11/18(日) 17:19:13 ID:vg/FRESo0
- ('、`#川「ミセリ、どこにいるの!? 」
母が金切り声をあげている。
夜会の準備ができたに違いない。
早く行かなければ、母に叱られてしまう。
なのにどうして私の世界は極彩色で彩られているのだろうか?
川 ゚ー゚)「さようなら、心優しいお嬢さん。今度は君の番だ」
川 ゚ -゚)「ここにいます! お母様。」
('、`*川「あぁ、ミセリ。こんな所にいたのね。さぁ、はやくいらっしゃい。もたもたしていたら、夜会に遅れてしまうわ」
母はイライラした調子で彼女にまくしたてる。
胸元が大きく開いた、毒々しいドレスを身に纏った女は、ソレが娘でないとは気づかない。
- 323 :名も無きAAのようです:2012/11/18(日) 17:20:04 ID:vg/FRESo0
- ミセ;凵G)リ『お母様、違うのよ! ソレは私じゃない! 』
叫んで訴えようにも、鋼の喉では思うようにままならない。
川 ゚ー゚)「あははは! 」
“ミセリ”は醜く顔を歪めて笑う。
それでも、美しさは一欠片も損なうことはなかった。
('、`*川「どうしたの? 急に笑い出したりなんかして、気味の悪い。さっさと服を着替えて頂戴」
川 ゚ -゚)「はい、お母様」
('、`*川「さぁ、行きましょう」
彼女達が何を言っているのか、もはや聞いていなかった。
扉が閉まり、部屋に闇が訪れても気にならなかった。
私の眼前に広がるのは、茨が蠢く醜くも美しい、楽園だけだったのだから。
――――あぁ、もうすぐ私の許へ極楽鳥が飛んでくるのだろう。そして彼が朽ち果てるまで、嘆くに違いない。
物語が始まった。
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