川 ゚ -゚)素直クールは泥棒のようです
2 :名も無きAAのようです:2012/11/18(日) 01:59:55 ID:kw0xcSWM0

川 ゚ -゚)「防犯カメラOK。人気なし。万事良好問題なし」

公園の木の陰に隠れながら向かいのマンションを双眼鏡で見回し、私は最終の確認を完了した。

時刻は早朝5時40分。予定通りの時間だ。
コンビニで買った小パックの牛乳を朝食代わりに飲みながら202号室のドアをじっと見つめる。
今日も昨日と同じく、変わったことは何もない、穏やかな朝が訪れたのだとしたら、
そろそろこのドアの向こうから冴えない顔をした男があくびをしながら出てきて、会社へと向かうはずだ。

しっかしよくもまあ毎日毎日、朝早くから自ら進んで地獄へと歩を進められるなと感心してしまう。
ま、そんな私も同じく『仕事』のため、今ここにこうしているわけなんだけども。


ガチャ…バタン カチャカチャ

川 ゚ -゚)「お、出てきたな」


(´<_` )テクテク


川 ゚ -゚)「あーあーあーあー今日もだっるそーな顔してぇー。ちょっと痩せたか?かわいそーになー」

公園のそばを通る彼に聞こえないくらいの音量でボソッと呟く。
今日はどんな失態で上司に叱られるんだろうなぁなどと本心ではどうでもいいようなことを思いながらその背中を見送る。




4 :名も無きAAのようです:2012/11/18(日) 02:01:17 ID:kw0xcSWM0

彼のことは調べた。
姓名、流石弟者。推定24歳。一人暮らし。
VIP電子株式会社に勤めている多分大学上がりの入社2年目の若造だ。
平日は毎朝5時40分頃にここ、シベリアンマンションを出て、電車を利用して会社へと向かう。
休日は全く家から出ず、趣味はア〇ゾンで買い物すること。彼女はいないと思う。
ちなみに昨日の晩ごはんはコンビニで買った生姜焼き弁当だった。etc

とまぁ、推定とか多分とか、あげくどうでもいいような情報も多々ありはするが、私の『仕事』を完遂する上ではこのくらいの情報量で事足りるのだ。




6 :名も無きAAのようです:2012/11/18(日) 02:04:06 ID:kw0xcSWM0

さらにこのシベリアンマンションのことも調べた。

ほとんどの部屋が1Rの造りで、弟者の住むところも例に漏れずだ。
流石弟者以外で、朝のこの時間帯に起きて外に出てくるのは最上階の8階に住んでいる散歩が日課のおじいちゃん一人だけだし、
さらにここは都心部からちょっと離れた普段から人気のない場所である。

そのためかマンションには各階のエレベーター前、そしてエレベーター内部にしか防犯カメラはついておらず、
また先ほど改めて確認した結果、新しくカメラが設置された様子もない。

まさに私の『仕事』に最適な場所。


川 ゚ -゚)「ククク。行ったな…」

流石弟者の後ろ姿が見えなくなったのをキッカケに、牛乳パックを放り、私はマンションに潜入した。
薄暗い玄関ホールを突っ切って一目散にエレベーターへと向かう。
はやる気持ちを押さえつけ、3のボタンをカチリと押す。
ゆっくりと上昇する箱と相乗して、私の気持ちは高ぶっていった。

川 ゚ ー゚)「残念だよ弟者君。上司に叱られて帰ってきた君の顔がさらにやつれることになってしまうなんて…」

ピッキングのための針金をポケットの中で弄りながら下衆な笑みを浮かべる。

ここまでくればもうお分かりだろう。
私は素直クール。22歳。職業は、泥棒だ。




7 :名も無きAAのようです:2012/11/18(日) 02:05:52 ID:kw0xcSWM0


川 ゚ -゚)素直クールは泥棒のようです




9 :名も無きAAのようです:2012/11/18(日) 02:08:01 ID:kw0xcSWM0

エレベーターのドアが開く。
冷静になるべく、ドアが完全に開ききってから一歩を前に踏み出した。

川 ゚ -゚)(泥棒の極意その1『マンション内ではその住民に成りきること』)

いくら人気がないことが調査済みだからといって、他の住民にばったり出くわすなんてことも考えられる。
予想外のことはいつ起きてもおかしくはない。むしろ予想外すら予想して行動するべきなのだ。

よって焦って目的地まで走っていき、鍵穴を覗き込みながらピッキングするなんて如何にも部外者らしい行動は論外だ。
隣の部屋からおばさんが出てきた時なんかは「あら、おはようございます〜」と余裕をもって対応したい。


川 ゚ -゚)(ま、202号室までは10歩足らずで行ける距離だからあまり心配はないがな)

3秒で目的地まで辿り着き、早速鍵穴に針金を入れる。もちろん自室の鍵を開けるような態度と余裕を持って、だ。
お手製の針金は長年研究を重ねて作った傑作である。
ある程度のドアならこの針金一本で開くだろう、いわば最強のマスターキーだ。




10 :名も無きAAのようです:2012/11/18(日) 02:11:15 ID:kw0xcSWM0

思えばいつからだろう。こんな針金なんか作り始めたのは。
高校を中退した後田舎からここVIP市に一文無しで出てきて、気付いたらキャバ嬢になってから早2年、店内No3まで登りつめた。
稼ぎはそれなりに良く、公務員プギャーwwwとか言ってた頃からか、既にマスターキー製作プロジェクトは始動していたような気がする。

キッカケはほんの些細な間違いからだった。
毎夜オヤジ共のご機嫌取りに没頭しなければいけないことに苦痛を抱き始めた時期。
このままでいいのかと自分の進むべき道を思案しながら朝帰りしたのだが、なんと部屋には見知らぬ男が寝ていたのだった。

1DKの簡素な部屋。それは自室と同じなのだが、家具の配置が全く違う。
この時私は、入る部屋を間違えたのだと初めて理解した。
直ぐに引き返そうと思ったのだが、男はなおも起きる様子はない。
つい。そう、ほんの出来心というやつだ。机にあった高そうな腕時計をもってきてしまったのだった。

これは…イケる…!

思ってしまったらもう引き返せない。
それからキャバ嬢を続けながら2、3度家々に侵入し、金目の物を盗った。
更にはマスターキーまで完成させちゃったもんだから、調子に乗ってキャバ嬢を辞め、いつしか本職:泥棒というスペックが出来上がってしまったのだった。


川 ゚ -゚)(…私って、かなり普通じゃない暮らしをしてきたのだな………)カチャカチャカチャ

川 ゚ -゚)(………)カチャカチャカチャカチャカチャカチャ

川;゚ -゚)(って、あれ?開かないぞ?まさかマスターキーが通用しないのか?そんな馬鹿な!)カチャカチャ




12 :名も無きAAのようです:2012/11/18(日) 02:14:16 ID:kw0xcSWM0

川;゚ -゚)(ちょっ…おかしいなあ?)

川;゚ -゚)(もしかして…もうとっくに開いてるとか…?)

試しにドアノブを回してみる。

…スッ

川;゚ -゚)(な、なんだ…もう開いていたのか…手ごたえが無かったからてっきり…)

川;゚ -゚)…フゥ

川 ゚ -゚)(まあいい。落ち着いて、侵入するとしよう)

一度態勢を整えて、平静を取り戻す。
外開きのドアを素早く丁寧に開き、玄関へと足を踏み入れた。


川;゚ -゚)(うわっ、なんだこれ散らかり過ぎだろ。)

玄関口は空き巣によって荒らされた箪笥の如く荒れに荒れていた。
靴が並べられるはずのスペースには一足のスニーカーしかなく、代わりにパンパンに張ったゴミ袋が3つ4つも投げられている。
空き缶やペットボトル、畳まれたダンボールがそこら中に転がっており、ここがゴミ置き場だと言われても誰も不思議に思わないだろう。

川 ゚ -゚)(うーむ、弟者の性格はもっと几帳面なものだと思っていたが…)

川 ゚ -゚)(ま、一人暮らしの野郎の部屋なんてこんなもんなのかね)




13 :名も無きAAのようです:2012/11/18(日) 02:16:25 ID:kw0xcSWM0

川 ゚ -゚)(泥棒の極意その2『如何なることがあっても落ち着いて対処すること』)

鍵の件では多少取り乱したが、部屋が荒れていてももう別段慌てることはしない。

大丈夫。こんなものはほんの些細な予想外だ。
前にもこれほどではないが、散らかった部屋に入ったことはあるし。あとはいつも通りやればいい。

音を立てないように玄関扉を閉め、靴を脱ぐ。
もはやケモノ道と呼ぶのが相応しいであろう通路を、辺りのゴミにぶつからないよう慎重に歩く。

狙い目はノートパソコンだ。彼なら持っているだろう。
ついでに現金とか、金目の物があったら貰って行こう。

頭の中で計画を反復させながら、私は部屋へと通じる扉をそっと開けた。

ガラララ|扉 | ⊂(゚- ゚川(おじゃましまーす…)




14 :名も無きAAのようです:2012/11/18(日) 02:19:38 ID:kw0xcSWM0


    |
    |
    |
    ()
    ヾ(A`)
     ( )
     ||
      曰




|扉 | ⊂(゚- ゚川

(A`)ウツダシノウ

|扉 | ⊂(゚- ゚川

|扉 | ⊂(゚- ゚川








|扉 | ⊂(゚- ゚川

どういうことだ一体…。




17 :名も無きAAのようです:2012/11/18(日) 02:21:49 ID:kw0xcSWM0

川;゚ -゚)(え…ここ…弟者の部屋だよな?なんで人がいるの…っていうか)

川;゚ -゚)(とんでもない場面に出くわしちまった…っ!!)

ひとまずここは早急に立ち去った方がいい。私の泥棒としての勘…いや人間としての本能がそう言っている。
泥棒の極意その2を再び思い出しながら、考えるより足を動かせと重い足を叱咤してその場を後にしようとしたとき


('A`)「…ぁ」

川 ゚ -゚)「………ぁ」

やべぇ、気づかれた。
いや、気付かれたのはいい。ただその後こんなことを言われるのは、後にも先にもこれっきりだろう。
男は泣きそうになりながら、弱弱しくこう言った。

('A`)「あの………俺今からここで首吊って……死ぬんで…」

(;A;)「そこで……見守ってて…くれませんか…!」

もう泣いてるし…。




22 :名も無きAAのようです:2012/11/18(日) 02:24:35 ID:kw0xcSWM0

川;゚ -゚)「いや………。ま、まて…!落ち着け………な?」

(;A;)「お゛れはおちづいてる!!おぢづい゛で!じぬんだぁぁぁああああ゛!!!」

もはや言ってることも意味もわからないが、止めないわけにはいかないだろう。
いくら私が不法侵入者だからといって、人が目の前で死ぬのを黙って見過ごせるほど腐ってはいない。

っていうかそうだ。私は不法侵入者だぞ…。
自室にいきなり入ってきた見ず知らずの他人に自殺のほう助を頼むってどういうことなの…。

川;゚ -゚)「何があったか知らないが、自殺はよくないぞ!そ、外はこんなにいい天気じゃないか!」

(;A;)「も゛うだめなん゛だぁぁぁぁぁ!お゛れはじぬしかないんあ゛ぁぁぁぁぁ!」

川;゚ -゚)「ほら…あれ、ご近所の皆さんも迷惑するから!な?まずその台から降りろ?」

(;A;)「お゛れ゛…めいわ゛ぐかげて………ごめんなざいぃぃぃぃぃぃぃい…!」

川;゚ -゚)「私も悲しむから!お母さんも悲しむから!なっ?頼むから止めろって!!」

(;A;)「……かぁちゃん……………」

おっ!やったか!?かぁちゃん正解か!?クリティカルヒットか!?


(;A;)「がぁぢゃんんんんんんんんん!!!ごめんよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおお!!!!うあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛あ゛!!!!!」

だめだぁぁぁぁああ!!!逆効果だった!!バッドエナジー出まくりだぁぁぁぁぁあああ!!!




24 :名も無きAAのようです:2012/11/18(日) 02:27:39 ID:kw0xcSWM0

川;゚ -゚)「いや、あの、すまん。しかし落ち着いて、その台から降り

(;A;)「いいんだ………もう、決めたことなんだ。引き止めないでくれ………」

男はそう言って静かに首にロープをかけた。
手は震えていた。やはり、死ぬのは怖いのだろう。

川;゚ -゚)「ま、待て!…わけを、理由を聞かせてくれないか?」

自殺という選択肢を選ぶからには、相当な理由があるのだろう。
もしかしたら、事情によっては引き止められる糸口が見つかるかもしれない。
本気で自殺しようなどと思ったことのない私が何を言ってやれるかわからないけども…。


(;A;)「……………俺は最低なクズ野郎なんだ………」

首にかけたロープを一旦外して、男は語り始めた。
良かった、案外素直に応じてくれた。

男は落ち着きを取り戻して、なお続ける。




25 :名も無きAAのようです:2012/11/18(日) 02:30:13 ID:kw0xcSWM0

('A`)「…俺の生まれた家は貧乏だった。家族はかーちゃん一人。女手一つで俺を育ててくれた…」

('A`)「貧乏に嫌気がさしてな…。何か見つかるかもしれないと思って、このVIP市に飛び出してきたんだ」

('A`)「でも何も見つからなかった…。いや、俺に能力や才能が無かっただけか。VIP市に来るために口実として入った専門学校もそのうち辞めちまった」

('A`)「かーちゃんからは月に5万の仕送りがくるけど、そんなの全部家賃に消える。ハッ、住みづらい世界だよな、ここは…」

('A`)「いつしか俺はパチンコに入り浸るようになった。生活費を稼ぐためにやってたバイトで得た金も、みんなつぎ込んだ」

('A`)「そのうち仕送りにまで手をつけるようになった。もちろん家賃は滞納することになる…。もう3ヶ月分は溜まってるかな…。次払わなかったら追い出されちまう」

('A`)「勝つことももちろんあったけど、その金は食費やタバコですぐ無くなっちまう」

('A`)「そんな生活がもう2年も続いてるんだ…。目的も無い。希望も無い。生きる気力だって…もう、無い………」

('A`)「…生きてても意味が無いんだ。俺なんて、死んだ方がマシなんだ………」

('A;)「そうだ、だから俺は死ぬんだ………。俺が死ねばかーちゃんだって月に5万も振り込まなくてもよくなる…!」

(;A;)「………俺は最低なクズ野郎なんだっっっ………!」


川 ゚ -゚)「…」

何も言えなかった。




26 :名も無きAAのようです:2012/11/18(日) 02:32:39 ID:kw0xcSWM0

(;A;)「……………見守っててくれ………」

その部屋の中央で、男はまた、そっと首にロープをかける。

その部屋の隅で、私はただ黙ってその後ろ姿を見守っていた。

明かりがついていないのとカーテンが閉められているせいで、朝だというのにとても暗かった。
ただその真っ黒いカーテンの隙間から少しだけ、縦に光が差し込んできていて、台の上の男だけをステージライトのように照らす。
辺りはとても静かで、鳥のさえずりさえも聞こえない。目の前に広がる光景はまるで死刑台のように見えた。


(;A;)


男の手は震えていた。
首にかけたロープからまだ、その手を離す踏ん切りがつかない。

(;A;)「………見守ってて…くれ………………」

男は震える両手を握ってゆっくりと、下におろした。
片足も、一歩前に進んだ。




27 :名も無きAAのようです:2012/11/18(日) 02:36:58 ID:kw0xcSWM0

( A )「…グカッ………グッ……ゲ………ア゛…ッ」

男は決断した。
両足は宙に浮いている。
時折ロープに手をやり、呼吸をするが力尽きてまた離す。

私は助けようとは思わなかった。
いや、まだ助ける必要はないと言った方がいいか。

( A )「ガァ……………エ゛ッ……オ゛………」ヒューヒュー

( A )「ムグッ…………ゥ゛グ……ヴ……………」ヒュー

( A )「………ゥ゛…………ッッ………イ゛………い゛……あ゛……」ヒュー


だってこいつ、本気じゃないから。


(;A;)「………や゛っぱりや゛だ!!……にだぐない゛…ッ!………ま゛だ死にだぐな゛ぃぃぃ゛いいいいいい゛い゛!!!!!」

  _,
川 ゚ -゚)

ほらな。




28 :名も無きAAのようです:2012/11/18(日) 02:41:23 ID:kw0xcSWM0

川 ゚ -゚)ハァ

ため息を一つつき、男の傍に転がった台を立て直す。
その台に乗り、暴れもがく男の貧相な体を私はそっと抱き上げた。

(;A;)「あ………うぅ……………」

川 ゚ -゚)「とりあえずその首の輪っかを外せ。話はそれからだ」

(;A;)コクッ

男は首にかかったロープを未だ震える手でゆっくり外した。
外したのを確認すると、私も台から落ちないようゆっくり降りた。


http://boonrest.web.fc2.com/maturi/2012_ranobe/e/68.jpg




29 :名も無きAAのようです:2012/11/18(日) 02:45:25 ID:kw0xcSWM0

正直言うと、私は呆れていた。怒り1:呆れ9ってところか。
この男の意志の弱さではない。
自殺しようと決断するに至った動機に対してだ。
まったく何が貧乏だの生きる希望がないだのあまえたことを。
私がキャバクラに勤める前、田舎から出てきてすぐおにぎり一つ買うお金だって無かった頃には雑草食べてまで飢えを凌いだというのに。
メシも食えて家もあって、あの頃の私よりずっといい環境にいるじゃないかそもそもお前が死んでほんとにかーちゃん喜ぶと思ってんのか
あーそういや雑草食ってた頃よくヨモギ狩りとかしたっけなあれ割と都会でも生えてるもんなんだなぁって感動したっけ今度また集めて草団子でも

('A`)「あの…」

川 ゚ -゚)「ん?」

('A`)「えっと、そろそろ降ろしてもらっても、大丈夫なんで…」

川 ゚ -゚)「ん?ああ…」

忘れてた。
私は抱き上げていた男を降ろした。




30 :名も無きAAのようです:2012/11/18(日) 02:49:24 ID:kw0xcSWM0

('A`)「…」

川 ゚ -゚)「…」

川 ゚ -゚)(まいったな…説教かましてやるつもりが、ヨモギのせいでそんな気失せちゃったな…)

('A`)「…死ぬ勇気もないんだ………」

川 ゚ -゚)(なんか心なしか腹も減ってきたし…濃いもの食いてえ…濃いもの…)

('A`)「やっぱり俺は…ダメなやつなんだ…」

川 ゚ -゚)(!!ふむ、そうだそうしよう)

ふと思いつき、冷蔵庫のドアを勝手に開けるが、中にはペットボトルの飲料が数本あるだけだった。
  _,
川 ゚ -゚)

(;'A`)「ちょ…ちょっとあんた…」

川 ゚ -゚)「おいお前!ちょっとついてこい」

(;'A`)「ヒャイ!?…え?」

川 ゚ -゚)「ああそうだ、金はあるか?今いくらある?私は無い」

(;'A`)「か、金?…いや…今は…」

(;'A`)「あでも、先月のバイト代が昨日振り込まれたはずだけど……何するん…ですか…?」

川 ゚ -゚)「スーパーに行くぞ。食材を買いに行こう」




31 :名も無きAAのようです:2012/11/18(日) 02:53:48 ID:kw0xcSWM0

〜西友〜


川 ゚ -゚)「というわけでやってきました。毎日が驚きの安さ!西友!」

川 ゚ -゚)「品揃えも豊富だし、24時間営業で便利だよな。一人暮らしの味方だよ」

('A`)「…」

郵便局でバイト代から一万円をおろしてから、俺たちはスーパーであるここ西友にやってきた。
マンションから約10分ほど歩いたところにあり、俺も食糧や酒を買うときなんかはよく利用している。
疑問なのは何故今、スーパーなんぞに来たのかということだ。

俺は困惑している。
確かさっきまで自殺を図ろうとしていたはずなのだ。
それがこの女の人がいきなりスーパーに行こうなんて言い出したもんだから、部屋着のスウェットにジャンパーを羽織っただけの姿で、慌ただしく出てきたのだ。




32 :名も無きAAのようです:2012/11/18(日) 02:56:54 ID:kw0xcSWM0

川 ゚ -゚)「みかんが大量に出されているな…。そろそろこたつ出さなきゃかなぁ」

店内を、彼女の後ろを歩きながら考える。
俺は結局死ねなかった。
勇気もなかったし、未練たらたらだ。動機だって甘っちょろいのかもしれない…。俺だってそう思うんだから、周りから見てもそうだろう。
だからあの後、てっきり説教でもされるのかと思った。

何甘ったれたこと言ってんだと。お前より不幸な境遇のヤツはごまんといるんだぞと。
それが何でスーパーに行こうと言われたんだ?訳が分からない…。
というか、何で俺の部屋にいたんだ…?いやそもそも、この人は誰なんだ…?

(;'A`)(…)

(;'A`)「…あの」

川 ゚ -゚)「なぁ、お前の部屋、調味料の類は揃っているのか?」

(;'A`)「ぇ?あの……えと、醤油とかソースとかケチャップとかはあるけど…あでも味醂とか酒とかはその…ないんですけど…」

川 ゚ -゚)「マヨネーズは?」

(;'A`)「ある…と思います…」

川 ゚ -゚)「ふむ。一応買っておくか」

なんなんだ…。
俺の部屋で料理でもするつもりか?
そういえば、確かに俺は昨日から何も食べてないけど…。

…そうか。わかったぞ。
美味い料理でも食わせて、世界にはまだまだうまいもんがたくさんあるんだから!とかなんとか言って、俺を更生させるつもりだな!?
そうだ!きっとそうに違いない!きっと…

('A`)(…そうか)

俺、死にたくないんじゃん…。




34 :名も無きAAのようです:2012/11/18(日) 03:01:38 ID:kw0xcSWM0

川 ゚ -゚)「おい」

('A`)「…えっ、は、はい?」

川 ゚ -゚)「余計なこと考えるなよ。ほら、レジ行くぞ。欲しいものは揃った」

('A`)「あ、はい…」

考えるのは止めにして、とりあえずはと静かに彼女の後ろをついて歩くことにした。


3290エンニナリマース!アリガトウゴザイマシター!


川 ゚ -゚)「3290円か。やっぱ肉類買うと高くつくなぁ…」

('A`)「あの…何か作るんですか?」

川 ゚ -゚)「当たり前だろう。生で食うより料理したほうが美味いに決まってる」

(;'A`)「いやそういう意味じゃなくて…」

川 ゚ -゚)「ん?ああ、すまないがキッチン借りるぞ。なに、お前も食えるから安心しろ。」

(;'A`)「く、食えるのは当たり前だろっ!俺が金出してんだからっ!」

川 ゚ -゚)「ああ、そうだったな。まぁそれでもちょっと手伝ってはもらうがな」

('A`)「…俺、料理とかそんなにしたことないけど……」

川 ゚ -゚)「キャベツの千切りくらいはできるだろ」

('A`)「それくらいならできるけど…」

ともかく、俺たちは家に戻った。




36 :名も無きAAのようです:2012/11/18(日) 03:05:40 ID:kw0xcSWM0

〜再びマンション〜


川 ゚ -゚)「それではこれから調理を開始する」

('A`)「お、おう」

帰宅すると座って一息つく間もなく、さっそく料理に取りかかることになった。
食材も買っちゃったし、もうおとなしく従うことにしよう。
名前とか色々聞きたいこともあるが、それは調理中に聞いてみようと思う。
さて、手伝いと言われたが、何をすればいいのかな。

('A`)「えと、俺は何をすれば…」

川 ゚ -゚)「あーじゃあ、キャベツの千切りで」

マジでキャベツの千切りかよ。

少々不満はあるものの、他に何ができるわけでもないので、おとなしく包丁を握ることにした。
買った1/2カットのキャベツを全部千切りにするらしい。
ゆっくりではあるが確実に細く細く切り、次第にキャベツの山が高くなってゆく。




37 :名も無きAAのようです:2012/11/18(日) 03:11:05 ID:kw0xcSWM0

川 ゚ -゚)「うむ、いい出来じゃないか」スリスリスリスリ

('A`)「ど、どうも…。そっちは何やってんですか?」

川 ゚ -゚)「私はな、長芋をすりおろしているところだ」スリスリスリスリ

('A`)「長芋を…?」

長芋をすりおろす料理なんてあっただろうか…?

('A`)「あの、俺たちは一体何を作ってるんですか?」

川 ゚ -゚)「ふっ、それは出来てからのお楽しみというやつだ。もしくは自分で考えるんだな」

…うーむわからん。
キャベツの千切りと長芋のすりおろしで一体何が出来るというのだろう。
一旦手を止め、冷蔵庫には入れずに机に雑然と置かれた、ついさっき買ってきたものを見回してみる。

トマト、大根、万能ねぎ、卵、豚ばら肉、ベーコン、ボイルイカ、乾燥小エビ、かつお節、小麦粉、マヨネーズ
さらにはとろけるチーズにキムチなんてのもある。そして千切りキャベツと長芋のすりおろし…。

('A`)(……………)

('A`)(だめだ。料理なんて全然しないからわかんねぇ)

('A`)(しかし、材料が多すぎないか?これ全部使う気なんだろうか…。っていうか、キムチとチーズって…合うのか…?)

川 ゚ -゚)「おーい、手が止まってるぞー。それ終わったら次は大根の千切りだからな」

また千切りかよ!




40 :名も無きAAのようです:2012/11/18(日) 03:15:22 ID:kw0xcSWM0

残り少ないキャベツの塊を手早く千切りにし、早速次の大根の千切りに取りかかる。

川 ゚ -゚)「大根は皮を剥いてからな」

('A`)「…」

そっ、それくらいわかってたさ!

俺は左手のだいこんと右手の包丁を一旦置き、流し台に向かってピーラーを構える。
ちなみに野菜類は全て予め水洗いしてあるから、今洗おうとしなかったのはミスじゃないぞ!

大根にピーラーをかけながら、そういえばと思い出した今一番の疑問を口にしてみた。

('A`)「なぁ…あんた何者なんだ?…何で…俺の部屋にいたんだ?」

川 - )「………聞きたいか?」

(;'A`)「…あ、ああ」

彼女は長芋を持つ右手をピタリと止め、尚も俯いたまま静かに呟く。
なんだ?そんなに聞いたらマズい事だったか…?もしかして………盗みに入った…とか…?
だんだん心臓の鼓動が速くなっていき、今右手に持っているものが包丁じゃないのを少し後悔しながら、彼女の返答を待つ。


川 - )「実はな………」

(;'A`)ゴクリ




41 :名も無きAAのようです:2012/11/18(日) 03:19:42 ID:kw0xcSWM0

川 ゚ -゚)「……いやぁ。朝まで飲んでて、酔っ払って帰ってな。どうやら部屋を間違えてしまったようなんだよな〜」

川 ゚ -゚)「すると部屋の中ではお前が首吊ろうとしていたじゃあないか!もう驚いて酔いなんて醒めてしまったね〜」

川 ゚ -゚)「でまぁ、お前を助けた後、しばらくぼーっとしてたら腹が減ったことに気が付いてな。なんならお前も一緒に食おうぜと誘ってみた次第だったんだよ」

(;'A`)「は、はぁ…。そうなんすか………」

納得できるようなできないような理由を早口に述べられて、俺は返事に戸惑った。
誘われたというよりも、強制されたと言った方が正しいと思うのだが…。
しかし一応筋は通ってるような気はするので、そうだったのかと無理矢理納得することにしようか。

彼女の名前を聞きたいなと思い、そういえば自分も自己紹介がまだだったことを思い出す。

('A`)「ええっと、俺は鬱田ドクオっていいます。朝イチで見苦しい恰好を見せてしまって、すいませんでした」

('A`)「それで、えと…あなたは何ていう名前なんですか?」

川 ゚ -゚)「私か。私は素直クール。しがない大学生だよ」

大学4年生の素直クールは、失礼ながらも聞くと歳は22らしい。
同い年ということが分かると、敬語は堅苦しいから止めてくれと言われたから、了解することにした。




42 :名も無きAAのようです:2012/11/18(日) 03:23:55 ID:kw0xcSWM0

川 ゚ -゚)「さっ。雑談はここまでにして、さっさと作ってしまおうじゃないか」

('A`)「ああ、そうだな。俺は未だに何を作っているのかさっぱりだが…」

川 ゚ -゚)「すぐに分かるさ。大根はだいたい1ミリ四方以下で頼むぞ」

('A`)「お、おう。努力する」

名前を聞けたからか、さっきよりは随分安心できるようになった。
敬語を止めたからだろうけど少しは打ち解けたような気もするし。

俺はだいこんの皮を剥き、それを千切りにする作業へと取りかかる。
長芋のすりおろしを終えたらしい彼女はそれをボールに移し、そこに卵と小麦粉を入れて混ぜ始めた。

('A`)(うーん…ここまできてもまだ分からないな…)




43 :名も無きAAのようです:2012/11/18(日) 03:27:30 ID:kw0xcSWM0

('A`)「千切り終わったぞー」

川 ゚ -゚)「ご苦労。では最後に万能ねぎを細かく輪切りにしてくれ」

('A`)「やっと千切り地獄から解放か…」

正直千切りにはもううんざりしていたので、輪切りにはちょっとだけ嬉々として臨めた。
ちなみにこの時彼女はイカの内臓を取り出す作業に勤しんでいた。ちょっとグロイ。

そしてようやく万能ねぎも切り終えたので、再び彼女に声をかけた。

川 ゚ -゚)「いいだろう。もうドクオは休んでていいぞ」

('A`)「いや、何が出来るのか気になるから、ここで見てるよ」

川 ゚ -゚)「…いやだめだ。何が出来るかお楽しみだ」

向こうで座って待っていろという指示に異を唱えたが、結局押し負けて渋々従うことにした。
それでも遠目で見ていると、フライパンを取り出して温め始めた様子が。どうやら焼く工程に入るらしい。
待てよ?キャベツに小麦粉…ソースとマヨネーズ…かつお節…これを焼くとなると…

('A`)(!!そうか、わかったぞ…これは…!)

俺が気付くのと同時に、ジュゥー!という心踊る音を奏でながら、ボールの中身は全てフライパンに勢い良く投入された。




45 :名も無きAAのようです:2012/11/18(日) 03:31:44 ID:kw0xcSWM0

10分後。
ほかほかと湯気の立ち上る皿が俺の目の前に運ばれてきた。

ちょっと大きめの平皿からははみ出そうなほどの重量感があり、また厚く盛られた美しきこげ茶色。
見ているだけで涎が溢れ出そうになるその表面の肉には程良い焦げが付けられている。
またその上にはソースとマヨネーズが綺麗に交差し、適度にふりかけられたかつお節は楽しく踊る。

そうだ。日本人なら誰もが食べたことがあるであろうこの物体はまさしく…!

(*'A`)「お…お好み焼き…!!」

川 ゚ -゚)「ふっ。気付くのが遅いわ」

(;'A`)「仕方ないだろ。普段はカップ麺生活なんだよ…」

彼女のツッコミとため息に、俺は少々凋落して答えた。

思い返せばそうだ。まともな飯を食うのなんて何ヶ月ぶりだろう。
もっと旨いものを食いたいと思っても、惰性と金欠で叶わなかったからなぁ。
くっ、余計に腹が減る!

(*'A`)「な、なぁ。もう食べてもいいか?舌が乾く…っ」

川 ゚ -゚)「うむ、いいだろう。ただし、いただきますを言ってからな」

(*'A`)「うっし!いただきますっ!」

川 ゚ -゚)「待った!!」

('A`)「えぇ…」




47 :名も無きAAのようです:2012/11/18(日) 03:36:23 ID:kw0xcSWM0

人生で最速ともいえよう素早さで割り箸を割り、早速お好み焼きに手を付けようとしたのだがまさかの待ったがかかった。
なんだよ…。今もう食っていいって言ったばっかじゃん…。
既に俺の腹の虫のライフは赤く点滅していんるんだが…。

川 ゚ -゚)「まぁそうがっつくな。すまないが、これには食べ方があってな。その食べ方で食べてほしい。」

('A`)「なんだよ…。まさか逆立ちしながら食うんだとか言わないよな…?」

川 ゚ -゚)「お好み焼きを逆立ちでとか…、また変わった死に方だな…」

川 ゚ -゚)「じゃなくてだな。上から時計回りに食べていってほしいんだよ。」

('A`)「時計回り?どういうことだ?」

川 ゚ -゚)「このお好み焼きには4つの味があってな。この4つを順々に食べていくんだ」

聞くところによれば、このお好み焼きはピザのように均等に4分割されており、それぞれで味が異なるのだという。
なるほど、だから材料があんなに多かったんだな。
そういえば1/4の部分だけ、他と違って俺が刻んだ万能ねぎがふんだんに盛り付けられている。
そのおかげで、残りの3種類がどこで区切られているのかも明確になっていた。

川 ゚ -゚)「それともう一つ、お前は大事なことを忘れている…。それは………」

('A`)「そ、それは………?」

川*゚ -゚)「私も食べるということだっ!いただきまーす!」

(;'A`)「あっ!ズリぃ!」




49 :名も無きAAのようです:2012/11/18(日) 03:39:17 ID:kw0xcSWM0

彼女も割り箸をパキンと鳴らすと素早く右上の部分、一種類目の味のお好み焼きに箸をつけた。
ここで気付いたのはこのお好み焼き、1/4に分けられている上に、さらに格子切りにされてちょっと大きめの一口サイズになっていたということだ。
彼女に遅れまいと、俺も急いで一種類目を掴み、口に放り込んだ。のだが

('A`)「あっつ!ほっほふ!」ハフハフ

川 ゚ -゚)「一口で食べるからだ。もっと余裕をもって味わえ」フーフーモグモグ

しまった。熱いということを忘れていた。
それでも口の中で熱を冷ましながら咀嚼すると、徐々に舌に味が伝わってくる。

最初に感じたのは瑞々しさというか、お好み焼きにしてはやけにさっぱりしているなというものだった。
待てよ?これは何だ…。この自然な甘酸っぱさは、確か材料は…。
俺は皿の右上に目を走らせ、断面を確認する。
赤いものが見え、そこからは抜けきらなかった水分否果汁が溢れ出している。
そうだ。これは…!

('A`)(トマトか…!!)




51 :名も無きAAのようです:2012/11/18(日) 03:42:21 ID:kw0xcSWM0

川 ゚ -゚)「おいおい、はしたないぞ。もっと綺麗に食え」

('A`)「?」モグモグ

口元を指差され、ソースでも付いているのかと思って手を当ててみると、黄色がかり、細長く伸びたものが取れる。
それは口内にまで繋がっていることから、お好み焼きの具材であることを認識する。

('A`)(これは…さっきから感じていた独特の風味。正体はこいつだったのか…!)

('A`)(チーズだ!とろけるチーズが入ってやがる!)


('A`)(さらにこの肉、さっき見た感じじゃ分からなかったが豚ばら肉じゃない。ベーコンが使われている!)

('A`)(あえてベーコンにすることで他の種類との差別化を図り、存在感を持たせているんだ…)

('A`)(それだけじゃない…。トマトの甘酸っぱさに香ばしいベーコンの塩味が丁度良く絡まって、お互いを引き立て合っている!豚ばらじゃあこうはならない!)

('A`)(さらにとろっとろのチーズのまろやかさが相まって三者一体…例えるならそう!これはハンバーガーのようだ!)

('A`)(BLT風お好み焼き!!という名前が相応しいだろう。ソースとマヨネーズと何より生地でしっかりとお好み焼きとして形になっているっ!!)

('A`)(意外かもしれないが断言しよう!お好み焼きにトマトは…合う!!)

(*'A`)(とにかくUMEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE!!!)




55 :名も無きAAのようです:2012/11/18(日) 03:45:21 ID:kw0xcSWM0

川 ゚ -゚)「その顔。どうやら気に入ってもらえたようだな」

(*'A`)「ああ!こんなに旨いもの初めて食ったぜ!とにかくうまい!」

川 ゚ー゚)「その言葉、最後の味を食べ終わるまでとっておけよ…。さあ次は二種類目だ」

皿の右下の部分を指し示され、今度は彼女と同時に箸で掴む。
この際だ。中に何が入っているかなるべく見ないようにし、舌で味わって当てていこうと決めた。
何が入ってるかお楽しみというやつだ。



箸で掴んだお好み焼きを今度は火傷しないよう、フーフーと冷ましてからがじりと口に入れる。




56 :名も無きAAのようです:2012/11/18(日) 03:47:26 ID:kw0xcSWM0

噛むこと一回。
もう中に何が入っているのか分かってしまった。
咀嚼をする度に唐辛子の辛みがピリリと舌を刺激する。

('A`)(間違えようもない、これは韓国伝統の漬物…キムチ!)

パッと皿右下部分に目をやると、その断面はやはり赤色に染まった白菜やイカがぎっしりと詰まっていた。

('A`)(ふっ、正解か。俺の舌に狂いは無い…。)


('A`)(しかし当然というべきか。お好み焼きにキムチ…この組み合わせがハズレなんてことはあり得ない!)

('A`)(あっつあつの生地!こんがり豚肉!キムチ!)

('A`)(外はサクッ!中はとろとろ!ジューシーな脂身!キムチ!!)

('A`)(噛めば噛むほどキムチの辛味がピリピリ、ピリピリっと口の中いっぱいに広がっていって、これが肉の旨みにジュワーっと絡まる絡まる!)

('A`)(そして温めても白菜の歯ごたえは全然死んでないっ!ザクッ!ザクッ!と小気味のいいビートを刻む!んもークセになりそうだ!!)

('A`)(ああぁぁぁぁぁこれはもぅぅぅぅぅうううう!)

(*'A`)(やべぇぇぇぇぇぇ!!ビール飲みてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇええええええ!!!)




58 :名も無きAAのようです:2012/11/18(日) 03:51:19 ID:kw0xcSWM0

川 ゚ -゚)「さっきよりもいい顔だな。今にも昇天しそうだぞ…?」

(*'A`)「なぁ………ビール……ビールはないのか!?今飲めなきゃあ死んでも死にきれない!!」

川 ゚ -゚)「そう言うと思ってな。買っておいたぞ。もう十分冷えた頃だろう」

(*'A`)「あるのかよ!なんて気がきくんだ…クー!!」

川 ゚ -゚)「そんな寄るな!今持ってくるから、待ってろ!」


カシュッ!と爽快な音をたてて缶ビールが開けられる。
さらにその中の黄金の液体はトクットクッとグラスの中へ。
本当はジョッキで飲むが一番だが、ウチにはグラスしかないのでそこはまぁご愛嬌。

('A`)ゴクッ…ゴクッゴクッゴクッゴクッ

(*'A`)「プハァーーーーーー!!最高だぁーーーーーーー!!!」

川 ゚ー゚)「そうだな。やはりお好み焼きにはビールが合う」

(*'A`)「本当だな!もういっこキムチのヤツ食べていいか?」

川 ゚ -゚)「まぁいいだろう。残り二種類食えるだけの腹は残しておけよ?」

(*'A`)モグモグゴクゴクッウマー




59 :名も無きAAのようです:2012/11/18(日) 03:55:07 ID:kw0xcSWM0

ビールの二杯を空にして一息つく。
腹を残しとけと言われたが、昨日から何も食べてないのでそんな心配は無用である。むしろ皿ごと平らげられそうな勢いだ。
彼女とアイコンタクトをかわして頷き合い、皿の左下、三種類目へと箸を伸ばす。
次は一体どんな味に仕上がっているのか。
見たところ、表面はキムチのものと全く同じように見えるのだが…。
先程と同様にできるだけ中身を見ないまま、少し冷ましてからまた豪快にがぶりつくっ…!


サクサクッ!

('A`)(!)

二種類目に続き食感に変化がある。
しかし口の中で弾ける数十本のそれらは、先程の白菜とはまた違った少々軽やかな音を口の中で響かせる。

('A`)(…これは俺が切りに切った、大根の千切りたち!)

皿に残るそれらを見やると、やはりそこには白く新鮮な大根たちがサンドされている。
そして、その隙間から顔を覗かせるリング状の物体…。

('A`)(さらに…イカ!イカも入ってやがるっっっ!!)


('A`)(すごい……さっきのキムチも、ザクッザクッとした白菜の食感が楽しめたが…)

('A`)(食感を楽しめるように作られているのはむしろこっちのほうだったんだ!)

('A`)(キャベツの食感の他に、大根のサクッサクッとした噛みやすさ。そしてイカのプリッとした弾力ある歯応え!)

('A`)(明らかに異なる3つの食感が交互に!連続して!また交互にっ!歯を舌を口を楽しませてくれる!!)

('A`)(そういえば……食感といえばこの生地…!)

('A`)(今までは具に気を取られて気が付かなかったが…とても上手く外はパリッと中はとろとろっとを実現させている!)

('A`)(小麦粉ではなく、あの元々とろみのある長芋をメインに使うことで、この食感を作り上げているんだ…!)

('A`)(流石だ……。そう、これは言うならば異彩の食感が全て一つにまとまった、インターナショナルコラボレーション!!)

('A`)(最初に外生地がパリッと唸り!とろっとろの内生地を通過した後!大根とイカがサクッ!プリッ!と弾けるっ!弾けるっっ!!)

(*'A`)(うめぇっ!!顎の上下運動が止まんねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!)




61 :名も無きAAのようです:2012/11/18(日) 03:58:08 ID:kw0xcSWM0

これもまた、ビールが進む進む。
何故こうも味の濃ゆーい食べ物には最高にビールが合うのだろう。
ビールを作った人は天才か?いや、お好み焼きを作った人が天才なのか?
お好み焼きの旨さとビールの苦味のダブルパンチの余韻に浸りながら、ぼんやりと考える。

そういえば、このお好み焼きの具材は誰が考え付いたものなんだろう。
この具材の組み合わせ、店で普通に売られているようなものではない。
キムチが具材というのはどこかで聞いたことはあるが、他の味については初めて見聞きし味わったものばかりだ。
もしかして、クーが自分で発見したものなのだろうか。だとしたら、素晴らしい発想力を持っている。
さらに料理に対しての情熱というか、やっぱり好きなことであるから、ここまで上手に仕上がるのだと思う。

自分には、そんなにまで情熱をそそげられるものなんてあるだろうか。
そんなに好きになれることなんて、この先あるだろうか。

俺の生きる目的。俺の生きる希望。
それがない人生なんて、生きてて意味があると言えるだろうか…。




64 :名も無きAAのようです:2012/11/18(日) 04:01:03 ID:kw0xcSWM0

川 ゚ -゚)「…おーい」

('A`)「…え…ああ。すまん。…ちょっとぼーっとしてた…」

川 ゚ -゚)「大丈夫か?もしかして口に合わなかったとか?」

('A`)「いやいや!そんなことはない。どれもこれもすごく美味しい。最高だよ」

川 ゚ -゚)「そうか?ならいいんだが」

いかんいかん。
つい癖で、直ぐにネガティブな方向へと考えを巡らせてしまう。悪いクセが出た。
目の前には素晴らしく旨いお好み焼きとキンキンに冷えたビール。
今これ以上、頭を働かせる必要があるものか。

川 ゚ -゚)「ふむ。では四種類目の味だ。いくぞ?」

('A`)「お、おう!」

気を取り直して箸を持ち直す。いよいよラストの味だ。
一面に万能ねぎがまぶされてあるまだ温かいお好み焼きの欠片を、少し冷ましてから一気に頬張った。




65 :名も無きAAのようです:2012/11/18(日) 04:03:27 ID:kw0xcSWM0

('A`)(おお…!)

まず口の中を満たすもの…それはやはり表面に大量に盛られた万能ねぎの数々。
細かく切られたその一つ一つから、ねぎ特有の程良い辛さとほろ苦さが鼻を通って香ってくる。

更にその直後に存在感を露わにするのはやはり生地。
しっとりした中身が噛む度に口の中へとろとろっ!と溢れ出していく。

('A`)(そしてこの食感。さっきも味わったプリッとした肉厚なこの食感は……イカだっ!)

皿の左上部分に目をやると、その生地の間からはリング状のイカたちが所狭しとはみ出してきている。


('A`)(元々お好み焼きはキャベツのザックザックとした食感を楽しめるのだが…)

('A`)(やはり噛み応えの違う具材が一つ入るだけで、十分な変化を感じられるな!)

('A`)(噛む度にプリッと唸り、海鮮の旨みをにじみ出させるこのイカたちは噛むことを止めさせてくれないっ!)

('A`)(そして海鮮といえばそう…さっきから海の味をより強めているこの旨味は…!)

('A`)(万能ねぎの下に更に敷き詰められている小エビたちの隊群っっ!!)

('A`)(本来お吸い物なんかにアクセントとして入れられるこの小エビ。これを惜しみなく使うことで、海鮮の旨みを大いに感じることができる!)

('A`)(そう…。この四種類目はまさに、海鮮の味を楽しめる味に仕上がっている…!)

('A`)(噛めばイカの食感が楽しめ、ジュワーっとにじみ出る海鮮の旨味を小エビがより強めてくれる!)

('A`)(そこに薬味としてねぎたちが良いスパイスになって、優しくツーンと効いてくる!ソースとマヨネーズで味付けは完璧!!)

(*'A`)(くうぅぉぉぉおおお素晴らしい!!ちょぉぉぉぉぉぉぉぉおおうめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇええ!!!)




66 :名も無きAAのようです:2012/11/18(日) 04:07:36 ID:kw0xcSWM0

よく噛んで喉に通した後、間髪入れずにビールを流し込む。やっぱりこれにもビールが合う。
これで四種類全ての味を食べ終わった。
腹はにはまだ余裕があるが、コース料理を食べつくしたような充実感がある。
舌はいい意味で肥えてしまって、しばらくはカップラーメンなんか食べられないんじゃないかと思うくらいの満足感に浸っていた。

(*'A`)プハー

川 ゚ -゚)「どうやら気に入ってもらえたようだな」

(*'A`)「ああ…すげぇうまい。もう一回言わせてもらうけど、こんなに旨いもの初めて食ったぜ。うますぎる…。」

川 ゚ -゚)「いやいや、やっぱりそれは褒めすぎだろう。母親の作った味噌汁ほど美味いものはないというのが私の持論だ」

('A`)「あはは!それは言えてるね!」

確かにかーちゃんが作ってくれる料理は一段と旨く感じるものだ。
暫く実家に帰っていないために故郷の味というものを懐かしく感じてしまう。
そういえば、VIP市に出てきてから自分で味噌汁を作って飲んだことなんて、一度もなかったっけ。
かーちゃんの作った味噌汁が飲みたい。素直にそう思った。




68 :名も無きAAのようです:2012/11/18(日) 04:10:27 ID:kw0xcSWM0

川 ゚ -゚)「ところで参考までに聞いておきたいんだが、どの味が一番旨かった?まぁどれも自信作ではあるんだがな」

('A`)「えー…その質問は困るな…。キムチのやつは一番ビールに合うし、大根とイカのは食感がすげぇよかった…。海鮮系のは旨味が半端なかったし、トマトのやつは斬新だが他に劣らず味はしっかりしてたし…」

川 ゚ -゚)「全部よかったってことか。それじゃ全く参考にならんじゃないか」

('A`)「ご、ごめん…。でも甲乙つけがたい……むぅぅ」

川 ゚ー゚)「ふ、まあいい。満足してもらえたなら、何よりだ」

そう言われてもまだ順位を付けてみようと奮闘するが、やはり決することは叶わない。
4種類の味がそれぞれ交互に頭に思い浮かぶ。
そこではっと思い出し、先程の疑問を彼女にぶつけてみることにした。




69 :名も無きAAのようです:2012/11/18(日) 04:13:04 ID:kw0xcSWM0

('A`)「なぁ…参考までに聞きたいんだけど…」

川 ゚ -゚)「なんだ?」

('A`)「この4種類の味って、なんかのレシピに載ってたやつなのか?それとも自分の…オリジナルのアイデアなのか?」

川 ゚ -゚)「ああ。キムチはお好み焼き屋なんかで普通にあるやつだけどな。他3種類はそうだな。創作だ」

('A`)「そ、そうなのか…。すごいな…クーは…」

やはり、そうだったのか。
トマトや大根をお好み焼きの具材にするなんて聞いたことがない。
わざわざ聞かなくても、彼女の創作料理であることは分かりきったことだった。




70 :名も無きAAのようです:2012/11/18(日) 04:16:14 ID:kw0xcSWM0

しかし、そうなるとやはりさっきのネガティブ思考が頭に舞い込んでくる。
目の前の女性には器量がある。才能がある。夢や目標だってあるんだと思う。
片や自分には何もない。情熱だって好きなことだって、やりたいことだって何もない。
つい一線を引いてしまう。壁があるように感じてしまう。
所詮住む世界が違うんだと思ってしまう。

不可思議な出会いはともかく、一緒に買い物に行ってお好み焼きを作った仲ではある。
だがそれも今日限りで、しばらくしたら彼女は帰ってしまうだろう。
それきりの関係なのだ。そうしたらまた昨日と同じ日々が繰り返されることになるのだろう。

こんなに素晴らしい経験をしたのだ。
美味しいお好み焼きが食べられた。最高のビールが飲めた。
思えばこんなに不細工な自分なんかが、こんなに美人な女性と会話をしたのも初めてのことだ。

今死んでも悔いはないはずだ。
彼女が帰ったらまた首にロープをかけてみよう。
そう思った。




71 :名も無きAAのようです:2012/11/18(日) 04:18:51 ID:kw0xcSWM0

川 ゚ -゚)「ふーっ。じゃあ食うもんも食ったし、そろそろ帰るかな」

('A`)「え………っ…あ、ああ………。そうか……」

川 ゚ -゚)「うむ。すまなかったな。邪魔してしまって」

('A`)「ああいやいや!…そんなことは………」

もう少し居座っていくものと思ったが、彼女はすっくと立ち上がって扉の方向へと歩いていく。
自分の胸に積もる無念の思いは、もう少し彼女と一緒にいたいからか、はたまた自殺を引き止めてほしいという願いからか。
意気地のない俺はただ彼女の後ろ姿を見送ることしかできないでいた。


数歩歩いて扉の取っ手に手をかけた彼女は、思いついたようにくるりとこちらを振り返った。




72 :名も無きAAのようです:2012/11/18(日) 04:20:58 ID:kw0xcSWM0

川 ゚ -゚)「皿に残ってるやつは、すまないが全部食べてくれ。食いきれなかったらラップをして冷蔵庫に保管して、食いたいときに食えばいい」

('A`)「おう…わかった」

なんだそんなことか。
心配しなくても、まだ残りを全部平らげるだけの腹は残ってるから、温かいうちにちゃんと食べるよ。

川 ゚ -゚)「それと食材はまだ余ってるからな。煮るなり焼くなり、お好み焼きにするなり好きにしてくれ」

('A`)「あ、ああ…」

もしかしたら手をつけないままになるかもしれないけど、その気になったら自分で作ってみよう。
もっともクーのように上手くは作れないと思うけど…。

川 ゚ -゚)「あー、あと、洗い物も頼む。すぐ洗わないんなら水に漬けておけよ」

('A`)「…」

彼女の声が段々遠くなっていくような気がした。
もはや声も出ない。どんどん胸に寂しさが積もる。しに…たい…。


川 ゚ -゚)「…あーっ、あとな」

川 ゚ -゚)「お前はまだ死ななくてもいいと思うぞ」

('A`)「………………え?」




73 :名も無きAAのようです:2012/11/18(日) 04:24:13 ID:kw0xcSWM0

突然の言葉に、一瞬呆気にとられる。
彼女はハァと短く溜め息をつき、なおも続ける。

川 ゚ -゚)「まだ死ぬなと言っているんだ。そういうことは80とか90になったときに考えればいい」

(;'A`)「え……」

川 ゚ -゚)「お前はしょっちゅう黙って思案に暮れることがあるだろう」

川 ゚ -゚)「しかもその考え事をするとすぐにネガティブな方向へと走る癖があるんだろう」

川 ゚ -゚)「死にたいなんて気持ちはその延長でしかないはずだ」

川 ゚ -゚)「お前は本心では、死にたいなんて思っていない」

('A`)「う…」

そうかもしれないけど…。




74 :名も無きAAのようです:2012/11/18(日) 04:26:56 ID:kw0xcSWM0

今日のあの朝の決意は結局折れた。
本当は俺は死にたいと思っていないのかもしれない。
でも…

('A`)「でも…それでも俺には、希望が無い。器用でもないし、夢や目標だって無い」

('A`)「俺には…生きる意味が…無い…」

('A`)「ク、クーにはあるんだろう?それらが、あるはずなんだ。でも俺には無い…。だから…」

川 ゚ -゚)「だから何だ。死ぬ理由にはなってないぞ」

('A`)「そうだけど……でも…」

川 ゚ -゚)「でもじゃない。いいか?お好み焼きが旨い。ビールが旨い。それでいいじゃないか」




75 :名も無きAAのようです:2012/11/18(日) 04:29:43 ID:.0pRD2v.0

川 ゚ -゚)「確かに私には目標がある。それは生きることだ。生きて生き抜いて、汗をたっぷりかいた後に冷たいビールを飲むことだ」

川 ゚ -゚)「他に理由なんて無い。正解なんてものは無いことは言わずもがな。これが私の信念だ」

川 ゚ -゚)「お前にはこの、心の奥底に太く根を張る、自分なりの確固たる信念が無いだけなのではないか?」

川 ゚ -゚)「難しく考えすぎて、素直に喜ぶことすらできない。それだけなんじゃないのか?」

('A`)「自分なりの…信念…」

川 ゚ -゚)「そうだ。自分の一番守りたいもの、とでもいうか。何でもいいんだ。ゲームがしたいからでもいい。家族を守りたいからでもいい」

川 ゚ -゚)「お前はまずそれを見つけることが大事だ。或いは、無意識のうちに持ってはいるが、忘れているだけかもしれん」




76 :名も無きAAのようです:2012/11/18(日) 04:32:41 ID:.0pRD2v.0

('A`)「でも、例えあったとして…、俺にはその信念を貫くための器量がない…。才能がない…。俺は、何も持ってない…」

川 ゚ -゚)「才能か…。まぁ、それも大事かもしれない…けどな」

川 ゚ -゚)「いいか。私とお前、それぞれお好み焼きに例えてみよう。私はキムチ入りだ。ビールによく合う。最高だ。超美味い」

川 ゚ -゚)「一方お前は具無しだ。ただの小麦粉と水の練り物だ。マズい。ビール単品で飲んだ方がいい。まったく食えたもんじゃない」

('A`)「キャベツくらいは入れてくれよ…」

川 ゚ -゚)「キャベツも入ってないんだよ。つまり、人生を楽しむための具が全く入ってない今のお前には、ビールを美味しく飲めないのもワケないんだよ」

('A`)「……具が…」

川 ゚ -゚)「ああそうだ。まずはキャベツを入れろ。信念を持て。ベースを作って生地をしっかりさせろ」

川 ゚ -゚)「それが出来て初めて具を入れられる。それは趣味でもいい。日常のほんの些細なことでもいい。或いは仕事なんかもいいスパイスになるかもしれない」

川 ゚ -゚)「才能なんてものは、どれだけいい具材をより早く見つけられるか。ただそれだけのことだ」

川 ゚ -゚)「努力すれば同じ具材も見つかるだろうし、もっと違ったより良い具材が手に入るかもしれない」

川 ゚ -゚)「お前の絶望なんて、ただビールをマズくしているだけの行為に過ぎないんだよ」

('A`)「…」




78 :名も無きAAのようです:2012/11/18(日) 04:35:31 ID:.0pRD2v.0

なんとなくだけど、分かったかもしれない。
俺は今まで、自分でビールをマズくしていたのだ。
毎日パチンコに行って、負けて帰ってきて、涙と一緒に飲み込むビールが美味しいわけないのだ。

そうだ。俺は確固たる信念を見つけなきゃいけない。
生きる希望を、自分で見出さなきゃいけない。
確固たる…信念を……。

('A`)「俺に…見つけられるだろうか…。信念が…あるんだろうか……」

川 ゚ -゚)フゥ

彼女はまた溜め息をついた。
しかし、その顔に今度は微笑を浮かべて。

川 ゚ -゚)「急に見つけろと言っても、無茶な話かもしれない。だったら、私がその糧になってやる」

('A`)「?」

彼女が向きを正し、こちらに右手を差し出す。

川 ゚ー゚)「私と友達になってくれ。ドクオ」

川 ゚ー゚)「私を、それからお前のかーちゃんも、悲しませてくれるなよ…」

('A`)「………あ」

(*'A`)「ああ!ありがとう。クー!」

俺は新たな友達であるクーの右手に、固く、しっかりと応えたのだった。




79 :名も無きAAのようです:2012/11/18(日) 04:39:26 ID:.0pRD2v.0







……




80 :名も無きAAのようです:2012/11/18(日) 04:40:39 ID:.0pRD2v.0

こうしてクーと別れた後、俺はまだ皿に残っている若干冷めてしまったお好み焼きを食べた。
冷めても変わらずに旨いところは、やはり流石といえるだろう。皿は一瞬で綺麗になった。

清々しい気分だった。
友達が出来たせいかもしれない。
今ならこの上々の気分にまかせて何でも出来る気がした。

食べ終えた後は直ぐに洗い物に取りかかる。
今まで料理もあまりしてこなかったものだから、洗い物なんて尚更である。
慣れない作業に時間をかけつつも、皿やグラス、プライパンにボールまで、使った物を全て念入りに洗った。




81 :名も無きAAのようです:2012/11/18(日) 04:42:19 ID:.0pRD2v.0

洗い物を終えた後、一息つこうと一旦座って、煙草の一本を咥えて火を点けた。
色々なことに考えを巡らせる。ネガティブな方向ではない。前向きな、確固たる信念を持つべく一歩踏み出すための思考の時間だ。

そうだ。まずは職を探そう。
金がなけりゃ食べることもできない。
更に働いた後ならば、今よりは美味しくビールを飲めるはずだろう。
…そして金が貯まったら、かーちゃんの待つ実家に帰って、かーちゃんに味噌汁を作ってもらおう…。

決心して火を消し、立ち上がる。
外に出れるような恰好に着替えて、ジャンパーを羽織った。
ハローワークに行くため靴を履き、玄関の扉を開けようとした、まさにその時だった。

('A`)(…あ………あれ…?)

俺の着ているジャンパーから、預金通帳が無くなっているのに気付いたのは。




83 :名も無きAAのようです:2012/11/18(日) 04:45:08 ID:.0pRD2v.0

〜VIP市 どこかのアパート〜


「たーだいまーっ」

誰もいない自分の部屋に向けて声をかける。
閑静とした室内からは当然ではあるが、返事などは返ってこない。
もう正午近くになるというのに、光が入ってこないために薄暗い部屋に、明かりを点けて入る。
やっと落ち着ける自分だけの空間に安心し、背伸びをして体をほぐした。

「部屋を間違えた時にはどうしようかと思ったけど、割とどうにかなるもんだなあー」

さっきまでの声色をがらりと変えて、元の自分に戻る。
冷静で堅苦しい物言いをするクールな性格から、いくらかぞんざいで熱くなりやすい元の性格へ…。

ノパ听)「預金残高12万かあ〜。ま、収穫としてはじゅーぶんっかなあー」

既に引き落としてきたその金で扇を作って、汗が付いて赤く光るセミロングの髪の毛をパタパタと扇ぐ。

そう、私の本職は泥棒。あのマンションに入った目的は盗むため。
例え入る部屋を間違えて、さらにそこの宿主が今にも自殺しそうであっても、その事実に変わりはないのだ。




85 :名も無きAAのようです:2012/11/18(日) 04:47:35 ID:.0pRD2v.0

私、素直ヒートは盗みに入るとき、必ず変装してから事に及ぶ。
胸にまでかかる黒く長い髪のかつらを被るだけでなく、口も真一文字に結んで声色をも変える。
更には冷静に事態に対処するため、性格まで真逆に変えているのだ。
絶対に捕まらない自信があるし、事実今まで一度も警察の厄介になっていないのはこのためだと言えよう。

この通帳はお好み焼きを食べていた最中、ビールを冷蔵庫から持ってくる合間に素早く彼のジャンパーから抜き取った。
そして最後のあの握手の後、ドクオ宅から出て直ぐに、少し離れたコンビニに行って通帳から金を引き出したのだ。
食材を買うためにドクオに一万円を引き出させたとき、後ろから画面を触る腕の動きを見張ることで、暗証番号は容易に知ることができた。
郵便局のATMは暗証番号を打ち込む際の数字の並びが変わらないのでラッキーだった。
まぁ、他銀行の通帳に金が入っていたとしても、言葉巧みに誘導して全額引き出させ、その現金を盗む手法に切り替えていただろうが。
あとは適当な公衆トイレで変装を解き、何食わぬ顔で自分の家まで戻ってきたというわけだ。

我ながら完璧な計画に、思わず笑みが零れ出てしまう。

ノパ听)「フフ…現実は時として残酷なものなのだ」

ノパ听)「まぁ、自殺から立ち直らせてあげた分と、私自慢のお好み焼きを食わせてやった分を鑑みれば、12万くらい貰ってもいいだろうって感じだよなっ」

今頃彼はこの事実に気付いた頃だろうか。
慌てふためく姿を想像して、申し訳ない気持ちと愉快な気持ちとが入り交ざる。




87 :名も無きAAのようです:2012/11/18(日) 04:50:32 ID:.0pRD2v.0

ノパ听)「お金も割と貯まってきたし、そろそろ引っ越そうっかなあ〜」

今はもっと日当たりの良い部屋に引っ越すための準備として、お金を貯めているのだ。
そのために節約生活も心掛けている。

ノパ听)「ドクオん家で朝飯兼昼飯を済ませられたのはよかったな!材料費もドクオ持ちにすることに成功したしなっ」

ノハ*゚听)「よっし!じゃあ午後からはヨモギ散策にでも行くかあ〜。節約して3時のオヤツっ!レッツクッキング草団子っ!」

これからヨモギ狩りに行くために、さっさと動きやすい恰好に着替える。
再び外に出るため玄関に向かう途中、ふと思いついて、クールになるためのカツラをまた頭に乗せ、天に向かって面白そうに一人呟く。




88 :名も無きAAのようです:2012/11/18(日) 04:52:44 ID:.0pRD2v.0

川 ゚ー゚)「今度…いつかまた気が向いた時には、お好み焼きを作りに行ってやろうか…」

川 ゚ー゚)「次はもっと美味しくビールを飲みかわせるようになっていればいいな…鬱田ドクオ君」

川 ゚ー)「もっとも、君が私のことを警察に通報してなければの話だがね…フフッ」

そうしてカツラを脱ぎ捨てて、私は玄関の扉を開けた。
今日もまた美味しいビールを飲むために、私は強く生きていくのだ。





おわり


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