( ・∀・)9人目の容疑者のようです
- 1 :名も無きAAのようです:2012/09/27(木) 20:46:31 ID:vvgXJRf2O
- 原作者 嘘予告スレ>>683->>690
登場人物一覧
モララー・クリスティ ミステリー小説が好きな下町の貧乏探偵
プギャー・ウェストマコット VIP通信社の記者
ブーン・エドワード 大富豪
デレ・エドワード モララーの依頼主
ジョルジュ・アドバーン 女好きの子爵
モナー・セドリック ABC社の社長
レモナ・セドリック モナーの妻
シャキン・ラドフォード オリエント社の社長
ギコ・ブランドー 田舎住まいの男爵
デミタス・グラン 物静かな伯爵
シラネーヨ・アルバス 豪華客船のボーイ
オーガスト・エルリック 双子の兄がいる船医
アンソニー・エルリック 双子の弟がいる船医
- 3 :名も無きAAのようです:2012/09/27(木) 20:48:32 ID:vvgXJRf2O
- ザワザワ ( ・∀・)「………」 ザワザワワ
その日、僕は、上流階級の貴族様たちが所狭しと蠢いている、豪華客船に揺られていた。
彼のタイタニック号あたりを想像して頂ければいいだろう。
巨大なシャンデリアが浮かぶパーティー会場には酒池肉林のごとく料理が並べられ、
流行のタキシードやドレスを身に纏った紳士淑女が話に花を咲かせていた。
お客は名のあるお家の伯爵や貴婦人、映画俳優にスポーツ選手、大企業の社長様等々、
私立の探偵業を営む貧乏一般人の僕にとってこういう場は不慣れというか初めてで、目がチカチカして、些か居心地が悪かった。
( ・∀・)「………酔ったかもしらん…」
そんな僕が何故こんなところにいるのかというと、当然遊びのためでなんかではなく、仕事の依頼があったからだ。
依頼主は名家も名家、なんとあのブーン・エドワード卿の娘である、ミス・デレ本人なのだった。
エドワードの名は100年余りの歴史があり、我が祖国でもあるVIP国の発展にも大いに貢献されてきた由緒あるお家だ。
まあ、これは人づてに聞いた話なのだが…。
そんな高潔で煌びやかな淑女が何故下町のボロ探偵なんかを訪ねたのかというと、つまりはこういうことだった。
- 5 :名も無きAAのようです:2012/09/27(木) 20:49:44 ID:vvgXJRf2O
- ζ(゚ー゚*ζ「折り入ってお話があるのです…。実は…わたくし、結婚することになったのです」
顔を少し赤らめながら、ミス・デレはそう言った。
(;・∀・)「…ほう!それは、おめでとうございますです…!はい…」
僕は気の利いた言葉が思い付かず、なんともつまらない言葉を吐いた。
この時はまだ彼女の訪問に戸惑いが大きくありすぎたのだった。
ζ(゚ー゚*ζ「ありがとうございます。それで、その…相手の方について、調査をお願いしたいのです…」
(;・∀・)「はぁ…。失礼ですが、そのお相手というのは…」
ζ(゚ー゚*ζ「はい。ジョルジュ子爵です」
(;・∀・)「!」
ジョルジュ・アドバーン子爵。これまた有名貴族の一人であり、その名を知らない者はいないほどだ。
顔は整っていて、振舞いは紳士そのもの。おかげで女子にはモッテモテ。
そのおかげで、三文ゴシップ誌の記者からも「モテている」。
なるほど…だんだん意図がわかってきたぞ…。
( ・∀・)「なるほど…。つまりその…浮気の調査をしてほしいと?」
ζ(゚ー゚;ζ「まあっ!浮気だなんて!!」
(;・∀・)「ああいや!これは失礼致しました!」
ζ(゚ー゚*ζ「…いえ、いいのです。極端に言えば、そういうことなのです…」
- 6 :名も無きAAのようです:2012/09/27(木) 20:52:08 ID:vvgXJRf2O
- その後の話を要約するとこうだ。
ジョルジュ子爵はモテる。
今までの女遊びも相当なもので、ゴシップ誌に載っていた記事は氷山の一角というレベル。
この度、ミス・デレと結婚の約束をしたものの、今後一切女遊びをしないように誓いを立てたのだという。
この誓いを破約しないかどうか、一週間だけ見張っていてほしいというものが、ミス・デレの依頼であった。
それにしても何故、もっと有名な探偵会社に頼まないのかと尋ねたところ、
ζ(゚ー゚*ζ「スキャンダルにされたくないんですの…。あくまで結婚は誓いを果たせているのを確認してからですから…」
ということだった。
有名どころなら一層秘密は厳守しそうなものだが、せっかくの上客なので断る理由もなかった。
( ・∀・)「9時ジャスト。今のところ目立った絡みは無し。と」
なにはともあれ、依頼を受けてから6日が経った。
そして今、船に揺られている今日が約束の7日目なのだが、今のところジョルジュ子爵はちゃんと誓いを守っている。
- 7 :名も無きAAのようです:2012/09/27(木) 20:53:57 ID:vvgXJRf2O
- もちろん、船という狭い空間の中で(もっともこの船はすさまじくでかくて広いが)さまざまなレディから挨拶をされているが、紳士らしい受け答えの他にはいやらしく絡む様子は見受けられない。
ミス・デレもまだ結婚は公表していないため、ジョルジュ子爵とは普通に挨拶をする程度のものだった。
( ・∀・)「しかしこんな場所でただ見張ってるだけってものな…。シャンパンでも一杯もらおうか」
この調子ならジョルジュ子爵殿は無事誓いを果たし、あの見目麗しいミス・デレとめでたく結婚出来るだろう。
そう思いながら、通り掛かりのボーイからシャンパンを受け取ろうとした時だった。
(´・_ゝ・`)「おっと!」
(;・∀・)「あっ、」
思いがけない衝撃と同時に、ぱしゃ、とタキシードに何かが掛かる音がした。
(´・_ゝ・`)「これは失礼しました…。お怪我は?」
(;・∀・)「いえ大丈夫です、心配無用」
とはいえ、相手がぶつかってきた際にシャンパンをこぼしてしまい、タキシードが濡れてしまった。
そのままでいるのは、あまりにもみっともなかった。
( ・∀・)(一度出直すべきだな)
予備のタキシードを持っていてよかった、と安心した瞬間であった。
- 8 :名も無きAAのようです:2012/09/27(木) 20:55:00 ID:vvgXJRf2O
- ミス・デレが僕にあてがった部屋は、スタンダードである。
しかし単身で船に乗り込んだ者には、いささか広かった。
ベッドは2つあるし、瀟洒な、しかしかなり広いリビングがある。
バスルームにはピカピカに磨きあげられた真っ白な猫足のバスタブが置いてあった
もちろん、トイレと併設していない。
極め付けに、ベルを鳴らせば、いつでもボーイがやってきて、身の回りのことをなんでもこなしてくれるのだ。
決まった時間に起こしてくれるし、掃除をしなくてもいいし、シャンパンが染み込んでしまったタキシードの染み抜きや洗濯、アイロン掛けをしなくていいのだ。
( ・∀・)(素晴らしいな)
いつか依頼なしで、1年くらい世界一周とかしてみたいものだ。
そんなことを考えながら、僕は身仕度を整える。
( ・∀・)「よし」
平民は平民なりに努力した。
それでいい。
見栄を張ればおかしくなるのだから。
コンコン、とドアがノックされた。
きっと先ほどベルで呼び出したボーイが来たのだろう。
- 9 :名も無きAAのようです:2012/09/27(木) 20:55:46 ID:vvgXJRf2O
- ( ・∀・)「はい」
( ´ー`)「失礼します」
彼はテーブルに放置されているタキシードを手に取り、顔をしかめながらタキシードのタグを見た。
( ・∀・)「…………」
その様があまりにもおかしくて、僕は思わず吹き出しそうになってしまった。
なにせ彼は、目一杯手を伸ばしてタグを見ていたからである。
( ´ー`)「では、お預かりしますネ」
そう言って、ボーイは部屋を出て行った。
笑いを堪えるために噛み締めた唇が痛い。
さて、そろそろ戻らなければ。
- 10 :名も無きAAのようです:2012/09/27(木) 20:56:24 ID:vvgXJRf2O
- 再び社交の場に戻った僕を出迎えたのは……
( ^ω^)「楽しんでいるかお?」
(;・∀・)「は、はい!」
ミス・デレの父親のブーン・エドワード卿であった。
( ^ω^)「娘が、世話になっているそうだおね」
若干訛りが混じった口調で、ブーン氏は言った。
(;・∀・)「えぇ、まぁ」
( ^ω^)「おっおっおっ、そう堅くならなくていいお」
そう言いながら、ブーン氏は近くにいたボーイを止めて、グラスを2つ手に取って、僕に1つ手渡した。
( ^ω^)「グレープフルーツジュースは好きかお?」
(;・∀・)「えぇ、まぁ」
( ^ω^)「おっおっおっ、そう堅くならなくていいお」
そう言いながら、ブーン氏は近くにいたボーイを止めて、グラスを2つ手に取って、僕に1つ手渡した。
( ^ω^)「グレープフルーツジュースは好きかお?」
(;・∀・)「ええ、」
そう言いながら、一口飲む。
特別に好きなわけではないが、すっきりした甘味と柑橘類独特のほろ苦さがおいしかった。
(*^ω^)「そりゃよかったお、私も大好きなんだお」
健康にもいいしね、と言いながら彼はグラスの中身をあけた。
- 11 :名も無きAAのようです:2012/09/27(木) 20:57:20 ID:vvgXJRf2O
- ( ^ω^)「……ところで君は、ジョルジュ子爵をどう思う?」
(;・∀・)「…………」
受け答えに困ってしまう。
最終的にジョルジュ子爵を受け入れるのかどうかを決めるのは、ミス・デレである。
僕が口を挟む余地はないと思うのだが。
( ^ω^)「……すまないお、つい娘がかわいくて仕方がないんだお」
(;・∀・)「あ、いえ……」
( ^ω^)「…妻が亡くなってから、私なりに愛情を注いできたんだお。それを、やすやすと他の男にやる気にはなれなくてお…」
そう。
ブーン氏は14年前に、妻を殺されていた。
妻は、ツン・ブランドーという世界的にも有名なピアニストで、犯人は狂信的なファンだった。
愛妻家で有名であったブーン氏は、僕が想像している以上に深い悲しみに沈んでいた。
そんな彼の支えとなったのは、唯一の家族になってしまったミス・デレであろう。
当時の彼女は、12才で、多感な時期だった。
仕事一筋であったエドワード卿は、いきなりの子育てに苦労したに違いなかった。
- 12 :名も無きAAのようです:2012/09/27(木) 20:57:59 ID:vvgXJRf2O
- ( ^ω^)「……正直、私はジョルジュ子爵のことは嫌いなんだお」
(; ∀ )「っ……」
浮かべていた笑みを更に深めながら、ブーン氏は言った。
その笑顔は、どこか薄ら寒さを感じさせるものだった。
と、そこに白衣を着た男がブーン氏に近付いた。
(´<_` )「エドワード卿」
( ^ω^)「おっおっ、どうしたんだお、そんなに慌てて」
(´<_` )「いえ、今日の分のお薬を渡し損ねていまして」
船医とおぼしき男は、ブーン氏に白い袋を渡した。
( ^ω^)「わざわざありがとうだお」
(´<_` )「どういたしまして、ちゃんと飲んでいますか?」
( ^ω^)「大丈夫だお、種類が変わってからは咳が出なくなったお」
(´<_` )「そうですか」
( ^ω^)「そういえば君のお兄さんは……」
( ・∀・)「…………」
すっかりブーン氏の興味は僕ではなく、船医に向けられていた。
この隙に、僕はこっそりと彼らから距離を置いた。
堅苦しいのは、もうたくさんである。
少しバルコニーに行って、風にでも当たろう。
- 13 :名も無きAAのようです:2012/09/27(木) 21:00:09 ID:vvgXJRf2O
- バルコニーには夜空を眺めたり、僕と同じように風に当たりに来た人がいた。
といっても、船内に比べたら少ない方だが。
( ´∀`)「モナモナ、それは面白い」
|゚ノ ^∀^)「ええ、本当に滑稽な話」
( ´∀`)「まったくだモナ」
(`・ω・´)「だけど、本当にあるんだよ…壁殴り代行という職種がさ」
( ・∀・)(ふぅ……)
人が少ないせいか、あの緊張感漂う重々しい空気がなくて、なかなかよかった。
しかもそばには、
(,,゚Д゚)「最近見てないけど、お前さんの親父は元気か?」
_
( ゚∀゚)「ピンピンしてるよ、ありゃ長生きする人種さ」
ジョルジュ子爵が、男と会話していた。
男が相手なら浮気のしようがないだろう。
( ・∀・)(もうすぐ10時か…)
日付が変わるまで…依頼が終わるまで、あと2時間。
その後、船はアリベシ港に到着して、船旅は終了。
非日常から日常に戻るだけ。
- 14 :名も無きAAのようです:2012/09/27(木) 21:01:47 ID:vvgXJRf2O
- ( ・∀・)(でもしばらくは安泰だ)
常に閑古鳥が鳴いているような仕事量の少なさで、慎ましい生活を強いられていたが、ミス・デレが提示してきた金額は今まで見たことのない数字であった。
あれだけあれば、しばらく仕事をしなくても生きていけるだろう。
それに、この一件で多少箔がついた……と思いたい。
多少有名になってくれれば、それでいい。
楽観的な考えを浮かべながら、僕は夜の海を眺めていた。
その時だった。
ζ( ー *ζ「キャァァァァァアアアアアアアア!!!!!」
絹を裂いたような悲鳴を耳にした。
それは、ミス・デレのものだった。
船内からは次第に他の女性たちの悲鳴も沸き上がり、男性たちはそれに対して落ち着いて!と促したり医者を呼んだりしていた。
何事かと思い、僕も集まる人をかき分けてミス・デレの声がした方へ進んでいった。
ようやく事態の中心へ辿り着いたとき、信じられない光景が目に飛び込んできた。
( ω )
ブーン・エドワード卿が、泡を吹いて倒れていた。
- 15 :名も無きAAのようです:2012/09/27(木) 21:03:58 ID:vvgXJRf2O
- 彼の周りには、料理の小皿と割れたカクテルグラスが散乱している。
病か何かで倒れたのであろうか?
そんなことを考えていたら、惨事に似つかわしくない匂いが、僕の嗅覚を刺激した。
爽やかなこの香りは、柑橘類のものだな。
妙に冷静な頭で僕はそう分析した。
(´<_`;)「エドワード卿!しっかりしてください!」
駆け付けた船医がブーン氏に呼び掛ける。
が、彼は何も答えない。
彼は周囲にいた男の協力を得て、ブーン氏の体を担架に乗せ、治療室に運んでいった。
ζ( ー *ζ「ああ…お父様…」
かわいそうなミス・デレはそう言って、気を失ってしまった。
(;`・ω・')「ミス・デレ…!」
|゚ノ;^∀^)「どうか気をたしかに…」
_
(;゚∀゚)「とにかく治療室へ…」
小柄な男と黒い服を着た貴婦人、そしてジョルジュ子爵に支えられ、ミス・デレは出ていった。
僕は何も出来ずに、ただその場で立ち尽くしていた。
……そして、しばらくしてからブーン・エドワード卿が死んだ…いや、毒殺されたのだという話を耳にすることとなった。
- 16 :名も無きAAのようです:2012/09/27(木) 21:06:13 ID:vvgXJRf2O
- ζ(゚ー゚*ζ「犯人を捕まえてほしいんです」
(;・∀・)「………」
しばらくしてから落ち着きを取り戻したミス・デレは僕にこう言った。
予期していなかったと言えば嘘になるが、それでもやっぱり驚いた。
(;・∀・)「船が上陸し、警察を待ったほうがよろしいのでは……」
ζ(゚ー゚;ζ「殺されるかもしれないんですよ!?」
(;・∀・)「………」
可能性がないわけではない。
ブーン氏個人ではなく、家そのものに恨みをもっていて、一家を根絶やしにしようなんてのもあり得る話である。
特に貴族となると、なおさらだ。
ζ( ー *ζ「それに私…見たんです………」
(;・∀・)「見たって…何をですか…?」
ζ(゚ー゚;ζ「………犯人を…!」
ミス・デレの話によれば、ブーン氏が食べ物をよそった皿からちょっと目を離した隙に、その皿に液体の毒が盛られたらしい。
しかもミス・デレはその姿をハッキリと見たというのだ。
ζ(゚ー゚*ζ「ABC株式会社の社長…モナー氏です……」
ζ(゚ー゚*ζ「間違いありません。私はこの目でしっかり見たのです!」
そこまで断定的ならと、直接話を伺ってくるということで、僕はミス・デレの部屋を後にした。
といっても、「あなたが犯人だ!」などという早とちった行動はしない。
あくまで参考人として、話を聞きに行く程度だ。
- 17 :名も無きAAのようです:2012/09/27(木) 21:07:45 ID:vvgXJRf2O
- 彼と接触するのは容易かった。
1人でバルコニーにおり、片手に赤い液体が入ったグラスを持っていた。
( ・∀・)「失礼します。私、こういうものですが…」
名刺を差し出すと、彼はそれを懐にしまいながら、こう言った。
( ´∀`)「探偵さんモナか。何の用ですかなモナ?」
( ・∀・)「はい。あ、いや、お手間を取らせるつもりはありません!実は先程起きたブーン氏殺害事件について、聞き込みをしておりまして…」
( ・∀・)「誰か怪しい動きをした者を見なかったかとか、そういったことを手当たり次第の方々に伺っている次第なのです…」
( ´∀`)「怪しい者モナか………モナ…いいでしょうモナ。実は船が港に着いたら、警察に届けようと思っていたことがありますモナ」
( ・∀・)「! …と、言いますと?」
(;´∀`)「驚かないでくださいモナ? 実は…私は、犯人を見てしまったのですモナ…!」
( ・∀・)「……………え?」
僕が呆然としていることに気付かずに、モナーは言葉を続けた。
( ´∀`)「犯人はギコ・ブランドー男爵だモナ! エドワード卿の皿に、液体の毒を盛っていたのを見てしまったんだモナ!」
- 18 :名も無きAAのようです:2012/09/27(木) 21:09:40 ID:vvgXJRf2O
- (;・∀・)「……はぁ、そうですか」
ようやく言葉を返し、思考する。
では、ミス・デレの証言は見間違いであったのだろうか?
( ´∀`)「どうかしましたモナ?」
(;・∀・)「あっ、いえ! 貴重な情報の提供、ありがとうございました」
( ´∀`)「いいんだモナ…。それより早く犯人を捕まえてほしいモナ」
(; ∀ )「ははは…」
この時の僕は、さぞかし引きつった笑みを浮かべていたに違いない。
それからは、実に奇妙だった。
(,,゚Д゚)「犯人はシャキン社長だ。オリエント社のな。俺はこの目で見たんだ!」
(`・ω・´)「ああ、見たさ…。あれは確かにボーイのシラネーヨさんだった。間違いない」
( ´ー`)「シッテるよ。あれはレモナ夫人だったよ……。あの人がまさか犯人だなんて、ねぇ…」
|゚ノ ^∀^)「弟者さんですわ。お医者の彼ならやりかねないことじゃありません? それに、ブーンさんに何か手渡していましたし」
(´<_` )「俺は見た…。デミタス伯爵が皿に液体をチョンっと垂らすのをな…」
(; ∀ )(どうなってるんだ、まったく)
次々と容疑者は増えて、とうとう7人目。
しかし彼も、
(´・_ゝ・`)「見ましたよ。ええ見ましたとも。あれは、ジョルジュ子爵だった。間違いないでしょう」
- 20 :名も無きAAのようです:2012/09/27(木) 21:11:12 ID:vvgXJRf2O
- (; ∀ )「…………」
犯人を目撃したと言った。
しかも、あのジョルジュ子爵である。
( ・∀・)(やれやれ)
とはいえ、彼にも話を聞きに行かねばならないだろう。
僕はデミタス伯爵に礼を言い、ジョルジュ子爵を探しに行くこととなり、船内をかけずり回った挙げ句、僕はモナー氏と会話したあのバルコニーに戻ってきた。
目の前には、今までの経緯を聞いていたジョルジュ子爵が立っている。
(;・∀・)「怪しい動きをした者を見なかったかとか、そういったことを、手当たり次第の方々にですね……」
_
( ゚∀゚)「………」
(;・∀・)「あの…、」
_
( ゚∀゚)「じゃあ聞くがよ、探偵さん」
(;・∀・)「………なんでしょう?」
_
( ゚∀゚)「ブーンさんを殺したのは………あんたなんじゃないのかい?」
(;・∀・)「………………へ?」
あまりにも突拍子のないその言葉に、僕は間の抜けた声を出した。
その時、背後で、カシャン、とガラスの割れる音がした。
- 22 :名も無きAAのようです:2012/09/27(木) 21:12:35 ID:vvgXJRf2O
- ζ( ー *ζ「あ……」
振り返ると、青ざめた顔をしたミス・デレが立っていた。
その足元には、割れたシャンパングラスが2つ。
(; ∀ )(ああ…、)
厄介なことになった。
(; ∀ )「違うんだ、ミス・デレ、」
誤解を解こうと手を伸ばすが、
ζ( ー *ζ「いやあぁぁぁ!!!!!」
その手は、なぎ払われた。
ζ( ー *ζ「近付かないで!人殺し!!」
ミス・デレの叫びに、人が集まり始める。
僕は今、この船に乗ったことをすこぶる後悔したのだった。
- 24 :名も無きAAのようです:2012/09/27(木) 21:43:59 ID:vvgXJRf2O
- あの後、ミス・デレの悲鳴を聞きつけた船員によって僕は拘束され、拘留室に閉じ込められた。
当然無実を訴えたのだが、他の容疑者達にアリバイがあったことと、自室に置いてあった僕の鞄の中に毒薬の瓶が入っていたことで、それを聞き入れてくれる人はいなくなってしまった。
もちろん、その毒薬は身に覚えのないものなのだが。
(;・∀・)(どうしたものかね)
不利な立場に立たされているのは一目瞭然。
このまま捕まってしまうんだろうか。
途方に暮れながら、手錠をいじっていた時だった。
ガチャリと扉が開き、スーツを着た糸目の男が入ってきたのだ。
( ・∀・)「…どちら様ですか?」
( ^Д^)「VIP通信社に勤めているプギャー・ウェストマコットだ。モララー・クリスティさん、あんたに取材を行いたいんだが」
( ・∀・)「……はぁ」
VIP通信社。
古今東西のあらゆる情報を集める大企業だ。
多岐に渡るニュースの中にはもちろん、ゴシップも含まれているわけで。
( ・∀・)(見出しにモララー容疑者に電撃独占インタビューとか書かれるのかな)
なんて考えながら、僕はうなずく。
誰も話を聞いてくれない今となっては、僕の証言を聞いてくれる貴重な相手だからだ。
- 25 :名も無きAAのようです:2012/09/27(木) 21:45:27 ID:vvgXJRf2O
- ( ・∀・)「それにしても、よく許可が下りましたね」
( ^Д^)「デレ嬢が口添えしてくれたんでね」
素っ気なくそう返すと、プギャー氏は手帳とペンを取り出した。
そして、こう言った。
( ^Д^)「で、単刀直入に聞くけどあんたは殺ったのか?」
( ・∀・)「……いいえ、」
あまりにもさっぱりした物言いに、少々面食らう。
それにしても、ずいぶん乱暴な人である。
( ^Д^)「本当に?」
( ・∀・)「僕は、ブーン氏を殺していません。殺そうとすら思ったことがない」
( ^Д^)「しかし、デレ嬢と金銭的なトラブルがあったと聞きましたが」
(#・∀・)「そんなわけないだろう!デタラメを言うな!」
記者の挑発的な言葉に、思わず声を荒げてしまう。
- 26 :名も無きAAのようです:2012/09/27(木) 21:46:17 ID:vvgXJRf2O
- ( ^Д^)「まぁまぁ。じゃあモララーさん、あんたの言い分はどんなものなんだ?」
(#・∀・)「…………」
何度か深呼吸をする。
今までの経緯を整理するが、目の前で下衆な笑みを浮かべている記者に話すのには少し気が引けた。
しかし、まともに聞いてくれるのは彼だけなのだ。
( ‐∀‐)「……いいでしょう」
そうして、僕はミス・デレ直々に依頼されて船に乗ったことやブーン氏とジョルジュ子爵の確執、奇妙な容疑者達の話をしたのだった。
- 27 :名も無きAAのようです:2012/09/27(木) 21:47:27 ID:vvgXJRf2O
- ( ^Д^)「…なるほど。ではデレ嬢との金銭トラブルは?」
( ・∀・)「ありませんよ。今まで受けた依頼の中では一番いい契約金でしたから」
( ^Д^)「そうかいそうかい…」
プギャー氏は、手帳を閉じて、ため息を吐いた。
( ^Д^)「なぁ、モララーさん。一つ取り引きをしないかね」
( ・∀・)「取り引き?」
( ^Д^)「なに簡単なことよ、おれが他の容疑者に話を聞きに行く。その情報をもとに、あんたがぬれぎぬをはらすんだ」
( ・∀・)「……へ、」
( ^Д^)「どうもこの事件は、もっとでかい何かがあるように思えるんだ」
プギャー氏の発言を反芻する。
裏を返せば、それはつまり。
(;・∀・)「僕が犯人じゃないって証拠を見つけてくれるんですか?」
( ^Д^)「それはちと違うな」
ニヤリと笑いながらプギャー氏はこう言った。
- 28 :名も無きAAのようです:2012/09/27(木) 21:49:30 ID:vvgXJRf2O
- ( ^Д^)「容疑者が犯人を突き止めるなんて話はそうそうない。それにもし、あんたが犯人探しに失敗したとしてもさっきの取材のネタがある。どっちに転んでもうまいことだらけよ」
( ・∀・)「…………」
どうやら完全に味方ではないらしい。
それもそうか。
彼らはいつだってスキャンダルや目新しい情報が好きなのだ。
まして、9人の容疑者が存在した殺人事件なんて。
( ・∀・)「……いいでしょう。その取り引き、応じます」
( ^Д^)「そうこなくっちゃ」
プギャー氏は、やはり意地の悪い笑みを浮かべながら、立ち上がった。
( ^Д^)「もしうまくいったら『お手柄!手枷探偵(ハンドカフス・ディテクティブ)の推理!』ってタイトルで売り出してやるよ」
( ・∀・)「どちらかといえば、『安楽椅子探偵(アームチェア・ディテクティブ)』のほうがいいんだけど」
- 29 :名も無きAAのようです:2012/09/27(木) 21:50:34 ID:vvgXJRf2O
- 僕の言葉に、プギャー氏は鼻で笑った。
どうせ、情報だけでは犯人を見つけることなんて出来ないと思っているのだろう。
( ・∀・)(舐めるなよ…)
部屋を出ていく彼の背中を睨みながら、心の中で呟いた。
こっちは、幼い頃から推理小説のファンで、それをこじらせた挙句に下町で貧しく探偵業をしているような人間なのだ。
( ‐∀‐)「…………」
僕は目をつむり、事件について考える。
同時に、今まで読んだ推理小説のトリックや名探偵達の活躍も思い起こしながら。
- 30 :名も無きAAのようです:2012/09/27(木) 21:53:01 ID:vvgXJRf2O
- 拘留室を出て、廊下を歩く。
特に行くあてはない。
ただ、例の容疑者達に出会ったら片っ端から話を聞くつもりだった。
( ^Д^)(面白いことになってきたな)
あの探偵はおそらくぬれぎぬを着せられただけだろう。
あの狸じじぃを殺したとして、奴に利得はない。
しかし、あいにく俺は真実ではなく刺激的な情報が欲しいだけの人間だ。
他人から、薄情だマスゴミだ鬼畜生だとののしられても構わない。
ただ、退屈さえしなければいい。
( ^Д^)(おっと)
向かい側から歩いてきたのは、デレ嬢であった。
俺はとっさに体裁を取り繕って、会釈をした。
ζ(゚ー゚*ζ「取材は終わりましたの?」
( ^Д^)「ええ、しかし元容疑者達にも聞きに行こうかと」
ζ(゚ー゚*ζ「まぁ、大変ですね」
( ^Д^)「いえ、仕事ですから」
そうして俺は、再び歩き出した。
ζ(゚ー゚*ζ「………………」
背後から、視線を感じるのは気のせいではないだろう。
- 31 :名も無きAAのようです:2012/09/27(木) 21:55:45 ID:vvgXJRf2O
- そのままふらふらと船内を歩いていると、モナー・セドリックとその妻であるレモナが一緒にいるのを見つけた。
モナーは食品の大手企業であるABC株式会社の社長だ。
もともとはブーン・エドワードの経営する食品会社に勤めていたが、独立して事業を立ち上げた。
ブーンの支援を受けたおかげで、有名企業の仲間入りをしたと聞いている。
レモナは、ブーンの妻であったツンの知り合いであったらしい、ということしか知らない。
( ^Д^)(早速行きますか)
( ^Д^)「こんばんは、お二方」
声を掛けると、二人は俺を見た。
( ´∀`)「こんばんはモナ」
|゚ノ ^∀^)「何か用かしら?」
( ^Д^)「はい、実は私、こういう者で…」
2人に名刺を渡す。
|゚ノ ^∀^)「VIP通信社の方でしたの…」
( ´∀`)「すると、取材か何かをするモナか?」
( ^Д^)「はい、少々お時間をいただけないでしょうか?」
2人は快く取材を受け入れた。
さて、詳しく話を聞かなければ。
- 32 :名も無きAAのようです:2012/09/27(木) 21:57:22 ID:vvgXJRf2O
- ( ^Д^)「お二方はエドワード卿殺害の容疑がかけられていたそうでしたが、アリバイが証明された今どのような気持ちで?」
( ´∀`)「安心したモナ。デレ嬢の見間違いでよかったモナ」
|゚ノ ^∀^)「そうね…私も同じ。モナーさんとずっと船の外に、一緒にいてよかった、と思っているわ」
(;^Д^)「あれ、シャキンさんは?」
( ´∀`)「もちろん彼もいたモナ。だけど、私とレモナは片時も傍を離れることは絶対ないモナ。それは、知り合いにも有名な話だモナ」
|゚ノ ^∀^)「そもそもブーンさんを殺す理由なんてありませんわ。あんなお世話になった方を…」
( ^Д^)「そういえば、あなたがたの出会いもエドワード卿が関わっていらしたと聞きますが…」
|゚ノ ^∀^)「ええ、ブーンさんの奥様…つまりツンと私は大学からの同級生でして。よくエドワードさんのお屋敷には招かれていましたの」
( ´∀`)「私も、仕事の間柄、彼の屋敷によく招かれていたモナ…」
それから2人は顔を見合わせて、頬を赤く染めた。
あぁ、つまらない。
不愉快の一言に尽きる。
- 33 :名も無きAAのようです:2012/09/27(木) 22:00:03 ID:vvgXJRf2O
- ( ^Д^)「なるほど…」
|゚ノ ^∀^)「あの頃のデレさんはとてもかわいらしかったわね」
( ´∀`)「今だって十分かわいいモナ」
|゚ノ ^∀^)「まぁ、私よりも?」
(*´∀`)「君にはかなわないモナ」
|゚ノ*^∀^)「もう、あなたったら」
( ^Д^)(気持ちわりぃ)
くだらない茶番はたくさんだ。
( ^Д^)「ご協力ありがとうございます」
( ´∀`)「これくらい、大丈夫モナ」
そうして、同じ客室に入っていく2人を見送って、俺は歩き出した。
残りは、6人。
- 34 :名も無きAAのようです:2012/09/27(木) 22:12:09 ID:vvgXJRf2O
- それからまもなく、俺はギコ・ブランドーとデミタス・グラン、シャキン・ラドフォードが喫茶店にいるのを発見した。
店内に入り、ウェイトレスに事情を話し、3人のいる席まで案内してもらう。
ギコ・ブランドー。
生まれは由緒正しい貴族だが、所詮は男爵。
VIP国の首都から離れた田舎にやたらでかい家を建てて、そこに住んでいるだけの没落貴族だ。
それでも、あのエドワード家と繋がりがあるのは、彼がブーンの妻ツンの弟であるからだろう。
デミタス・グランも同じく由緒正しい貴族の生まれで、伯爵の位を持つ。
こいつはギコと違って没落していない。
エドワード家とは長い付き合いだとは聞いているが、いかんせん本人が無口であるため情報は少ない。
逆に、シャキン・ラドフォードは口の多い男である。
彼は子供用の玩具を作っているオリエント社の2代目の社長で、ブーンの会社とは業務提携をしていた。
たしか、彼の父親が隠居する前から始まっていたから……20年ほど前に業務提携が始まったはずだ。
また彼には、弟がいるそうだが…相当な変人であるということしか知らない。
- 35 :名も無きAAのようです:2012/09/27(木) 22:14:26 ID:vvgXJRf2O
- ( ^Д^)「夜分遅くに申し訳ありません。突然ですが私こういう者でして」
先ほどと同じように名刺を渡す。
(´・_ゝ・`)「VIP通信社…」
(,,゚Д゚)「なんだなんだ、インタビューか?」
( ^Д^)「ええ、そうです」
(`・ω・´)「僕は構わないよ、なんでも聞いてくれ」
(,,゚Д゚)「俺もいいぞ」
(´・_ゝ・`)「私も、構いませんよ」
デミタスがコーヒーをすすりながら、そう言ったのを皮切りに、俺は取材を始めた。
( ^Д^)「みなさん、エドワード卿殺害の容疑がかけられていたそうでしたが、アリバイが証明された今どのような気持ちで?」
(,,゚Д゚)「うーん…あの探偵を一発殴りたくなったな。姉さんが死んだ後でも、あの人は俺によくしてくれたし…」
(`・ω・´)「疑いが晴れてよかったとは思っているが…。エドワード卿は戻ってこないから素直に喜べないな…」
(´・_ゝ・`)「まさか、私がぶつかってしまった人が犯人だったとは思わなかったよ」
( ^Д^)「ふむふむ…ぶつかった、とは?」
(´・_ゝ・`)「ああ、久々に酔いが回ってしまってね。うっかりシャンパングラスを持っていた彼にぶつかってしまったんだ」
- 37 :名も無きAAのようです:2012/09/27(木) 22:32:30 ID:vvgXJRf2O
- (,,゚Д゚)「そういえば、あいつのタキシードがびしょ濡れになってたな」
(´・_ゝ・`)「それに関しては申し訳ないと思っているよ」
( ^Д^)「ふむ…」
(`・ω・´)「ああ、それで相手にクリーニング代を渡そうと思って、あの場から離れたのかい?」
(´・_ゝ・`)「そうだよ。そうしたら、久々にシラネーヨに会ったから、廊下で話し込んでしまったんだ」
(`・ω・´)「ああ…彼には少し悪いことをしたな」
シャキンがしみじみとそう言った。
はて、シラネーヨとはどんな人物だっただろうか。
( ^Д^)「ところでそのシラネーヨさんとはどのような関係で…?」
(`・ω・´)「昔、エドワード家の執事だったのさ」
(,,゚Д゚)「俺も何回か話したことがあるぜ」
(´・_ゝ・`)「いつの間にか退職していたけどね」
( ^Д^)(ふむ、)
急いでメモを取り、俺は席を立った。
あまり長々と話をするのは得策じゃない。
冷静に考えると、俺のしていることは取材と称した聞き込みだからだ。
( ^Д^)「ご協力ありがとうございました」
(`・ω・´)「いやいや、お役に立てたのならなにより」
(,,゚Д゚)「また何かあったら聞きにきてくれ」
にこやかに微笑むシャキンとギコ、そしてデミタスの冷たい視線に見送られながら、喫茶店を後にした。
もう少し根掘り葉掘り聞いていたら、デミタスに怪しまれたかもしれない。
( ^Д^)(ちょっと聞きすぎたか)
気をつけるに、越したことはない。
残りは、3人。
- 38 :名も無きAAのようです:2012/09/27(木) 22:37:11 ID:vvgXJRf2O
- 腕時計を見ると、夜中の12時であった。
この船がアリベシ港に着くのは、朝の7時。
( ^Д^)(あと7時間)
それまでに犯人が分からなければ、あの探偵は牢屋行き。
別に俺は何も困らない…と言いたいところだが、何かが引っ掛かっている気がした。
( ^Д^)「…………」
それが何なのかは分からない。
ただ、スクープの匂いがするだけの、生殺し状態。
( ^Д^)(クソッ)
久々に煙草でも吸おうか。
そう思い、喫煙所に向かおうと踵を返した時だった。
( ´ー`)「…………」
(;^Д^)「…………」
穏やかに微笑む男が、いつの間にか俺の真後ろに立っていた。
一流の執事は気配を消して歩くというが、こいつはボーイである。
執事とボーイは似て非なる存在だと、俺は思っていたんだが。
( ´ー`)「記者というのは、夜分遅くまで出歩いて大変なお勤めでございますネ」
(;^Д^)「…そりゃどうも」
妙にトゲのある言い方だ。
イライラしていた俺はつい言い返す。
- 39 :名も無きAAのようです:2012/09/27(木) 22:38:43 ID:vvgXJRf2O
- ( ^Д^)「それにしても、最近のボーイさんっていうのは、足音消して客の背後に忍び寄るものなのか?」
( ´ー`)「驚かせてしまったのなら、申し訳ない。前職の癖が出てしまいましてネ」
男は、クツクツと笑った。
( ^Д^)「そうかい。ところであなたの名前は?」
( ´ー`)「シラネーヨ・アルバス。ネーヨと呼ばれています」
つまり、こいつがシャキンに犯人だと言われたシラネーヨということだ。
( ^Д^)「ああ…改めての紹介になりますが私はこういう者です」
名刺を差し出すと彼は一瞥もせずに、それを懐にしまった。
( ´ー`)「お話は存じています。先ほどモナー様とレモナ夫人のところへ謝罪をしに行った際に、ネ」
そういえば、彼はレモナを犯人だと言っていた。
…が、あの探偵とレモナを見間違えるなんて有り得るのだろうか?
すると彼は、申し訳なさそうにこう言った。
( ´ー`)「実は私、近眼でございまして…」
( ^Д^)「はぁ、そうなんですか」
( ´ー`)「そのおかげか、老眼になってもおかしくない歳ですがなっていないんですよネ」
( ^Д^)「…失礼ですが、年齢は?」
( ´ー`)「今年で65年でございます」
( ^Д^)そ「65!?」
- 40 :名も無きAAのようです:2012/09/27(木) 22:39:34 ID:vvgXJRf2O
- 背筋がピンとしていて、喋り方もハキハキしているから、てっきり40半ばくらいかと思っていたのに。
そういえば、シャキンやギコは、彼が昔エドワード家の執事をしていたというが…。
( ^Д^)「ところで、前職は?」
( ´ー`)「デレお嬢様専属の執事をしていました」
( ^Д^)「ほう…」
専属と言ったら、なかなかの職業だ。
それをどうして辞して、客船のボーイなんかやり始めたのだろうか。
それを聞こうとした時だった。
( ´ー`)「おや、もうこんな時間だ。そろそろ仕事をしに行かなくては」
微笑みを浮かべながら、一礼をし、彼は歩きだそうとした。
( ^Д^)「ネーヨさんっ!」
( ´ー`)「…なんでしょうか?」
( ^Д^)「一つだけ聞かせてください。アリバイが証明された今どのような気持ちで?」
( ´ー`)「…………悲しいですネ。あの方があんな人に殺されてしまうなんて」
そう答えて、彼は去った。
- 41 :名も無きAAのようです:2012/09/27(木) 22:40:34 ID:vvgXJRf2O
- 結局、彼が執事を辞めた理由は分からなかった。
しかしそれは、彼が口を割らなかったからだ。
ならば、
( ^Д^)「ちょっとそこの君」
('A`)「僕ですか?」
幸の薄そうな顔をしたボーイを呼び寄せ、辺りを見渡す。
幸いにも誰もいないようだ。
( ^Д^)「私、こういう者でして」
名刺を渡すと、彼は嫌そうに俺を見た。
正直な奴だ。
こういうのは、大統領とか国宝とかが印刷された紙を渡すと、簡単に、そして親切に情報を提供してくれる。
( ^Д^)(フェアなやり方ではないだろうが)
彼は、目を輝かせながらそれを受け取ろうとした。
が、そうやすやすと渡しはしない。
( ^Д^)「シラネーヨ・アルバスさんについて教えてほしいのだが」
('A`)「ああ、ネーヨさん?」
彼は少し考えたあと、こう言った。
('A`)「昔、エドワード卿の執事をしていたって話は?」
( ^Д^)「少しだけ知っている」
('A`)「辞めた理由は?」
首を横に振ると、彼はこう言った。
('A`)「なんでも、エドワード卿と揉めてクビになったそうだ」
- 42 :名も無きAAのようです:2012/09/27(木) 22:42:51 ID:vvgXJRf2O
- ( ^Д^)「ほう、」
('A`)「というのも、あの人はデレ嬢の教育係も兼ねていたらしいんだが、その方針が食い違っていたそうで」
( ^Д^)「方針?」
('A`)「ああ、ネーヨさんはデレ嬢の自由にさせたかったんだが、エドワード卿はピアノを習わせるつもりだったらしい」
ピアノ。
その一言で、俺はある情報を思い出した。
ブーンの殺された妻は、ピアニストであった。
('A`)「まぁ結局、デレ嬢はピアノを習ったが長続きはしなかったらしいよ」
( ^Д^)「ふむふむ…。で、なんでクビにされた彼がここに?」
('A`)「辞めた後も、デレ嬢が個人的に連絡を取っていたらしい。ネーヨさんがそう言ってた」
14年前に死んだピアニスト。
彼女の友人や弟。
シラネーヨとブーンの確執。
少しずつ、ピースが集まっている。
( ^Д^)(だがまだ足りない)
('A`)「俺が知ってるのは、それくらいだよ」
さぁ寄越せ、と言わんばかりに差し出された手に、何枚か紙切れを握らせて俺は立ち去った。
残りは、2人。
- 43 :名も無きAAのようです:2012/09/27(木) 22:43:51 ID:vvgXJRf2O
- あと聞き込みしなければならないのは、船医である弟者ことオーガスト・エルリックとジョルジュ・アルバーン子爵だけ。
そういえば、俺はジョルジュの泊まっている部屋がどこにあるのかを知らない。
( ^Д^)(じゃあ先に医務室に行くか)
たしか廊下を歩き続けていれば、着いたはずだ。
少しばかり歩くと、医務室の看板が見えた。
ドアをノックすると、
「どうぞ」
と落ち着いた男の声が聞こえた。
中に入ると、
( ´_ゝ`)(´<_` )
そっくりな顔をした男が俺を見つめた。
少しギョッとしたが、そういえば、オーガストにはアンソニーという双子の兄がいることを、俺は思い出した。
( ´_ゝ`)「どうかされましたか?」(´<_` )
同じ声で、同じ顔の人間が、同じことを言う。
なかなかめったに見られない光景だろう。
( ^Д^)「失礼、オーガスト・エルリックさんは…?」
(´<_` )「ああ、俺のことだが…」
( ^Д^)「実は私、こういう者でして」
名刺を渡すと、オーガストはじっくりそれを見つめてから、診察机の中にしまった。
- 44 :名も無きAAのようです:2012/09/27(木) 22:44:58 ID:vvgXJRf2O
- (´<_` )「通信社の方ですか」
( ´_ゝ`)「なにっ、じゃあ弟者はインタビューを受けるのか!?」
( ^Д^)「ええ、まぁ…」
( ´_ゝ`)「ずるい!」
( ^Д^)「え、」
(*´_ゝ`)「俺だってインタビュー受けたい」
(´<_` )「…兄者、プギャーさんは遊びではなく仕事でここに来てるんだぞ」
( ^Д^)(まったくだ)
容姿はそっくりでも、中身はまったく違うらしい。
結局、アンソニーはオーガストにいさめられ、おとなしく取材を見学する事となった。
( ^Д^)「エドワード卿殺害の容疑がかけられていたそうでしたが、アリバイが証明された今どのような気持ちで?」
(´<_` )「疑われた時は、すごくびっくりしたよ」
( ´_ゝ`)「でも、その時ちょうどここに来てたからアリバイは成立したんだよな」
(´<_` )「ああ…。けれども、ブーン氏を助けることが出来ていればこんなことにはならなかった…。悔いても悔やみきれないよ」
( ´_ゝ`)「いや、弟者はよくやったよ」
(´<_` )「だけど助けることが出来なかったら、殺したのと同じことだ」
苦々しい表情で、悔しげにオーガストは言った。
- 45 :名も無きAAのようです:2012/09/27(木) 22:49:01 ID:vvgXJRf2O
- (´<_` )「これでは、父者に示しがつかない……」
( ´_ゝ`)「でも弟者は頑張った。それでいいじゃないか、医療ミスをしたわけではないし」
言いながら、アンソニーがオーガストの肩を叩いた。
オーガストの体がびくりと揺れる。
( ^Д^)「…申し訳ないです、そんなつらいことを」
(´<_`;)「いえ、大丈夫です」
上辺だけの謝罪に、オーガストは参ったような調子で答えた。
と、その時、ドアがノックされた。
(´<_` )「どうぞ」
ドアが開く。
入ってきたのは、具合の悪そうなデレとその手を繋いでいるジョルジュであった。
( ^Д^)(ほう、)
どうも探偵が話した、デレからの依頼とやらは本当だったらしい。
ζ(゚ー゚;ζ「あら」
_
(;゚∀゚)「おや」
少し戸惑ったように、2人は呟いた。
( ´_ゝ`)「すまない、今弟者が記者の取材を受けていて」
ζ(゚ー゚*ζ「まぁ、仕事熱心ですこと」
素っ気なくデレは言った。
( ^Д^)「いえ、それほどでも」
少し嫌味っぽい言い方になってしまっただろうか?
まぁいい。
(´<_` )「それで、どうしたんですか?」
気まずい空気を裂くようにオーガストが言った。
- 46 :名も無きAAのようです:2012/09/27(木) 22:50:46 ID:vvgXJRf2O
- ζ(゚ー゚*ζ「実は不安で眠れなくて…何かお薬をもらえないかと思いまして」
_
( ゚∀゚)「俺はたまたま廊下で会って、付き添いに来たんだ」
(´<_` )「なるほど」
オーガストは少し私のほうを見た。
(´<_` )「少しだけお時間いただけますかな?」
それにうなずくと、彼は立ち上がり、奥の診察室へ消えていった。
残されたのは、俺とアンソニーだけ。
ついでだから、彼にも何か質問をしようか。
( ^Д^)「…ところで、なぜ互いをあだ名で呼ぶのですか?」
( ´_ゝ`)「ああ、これはデレ嬢のつけてくれたものでね」
( ^Д^)「デレ嬢が?」
思わず聞き返すと、アンソニーはうなずいた。
( ´_ゝ`)「彼女とは幼馴染みのようなものでして。父がよくエドワード家に訪診していたんだ」
( ^Д^)「…なるほど」
( ´_ゝ`)「彼女はなかなか名前が覚えられなくて、勝手にそう呼び始めたんだ」
意外な接点だ。
ということは、エルリック兄弟はデレの幼馴染みなのか。
手帳のページを捲りながら、そう思った。
- 47 :名も無きAAのようです:2012/09/27(木) 22:55:00 ID:vvgXJRf2O
- ( ^Д^)「そういえば、エドワード卿の治療はアンソニーさんもしたのですか?」
( ´_ゝ`)「いや、弟者だけだよ。この船にいる間は、弟者がブーン氏の体調管理をしていたから」
( ^Д^)「そうなんですか?」
( ´_ゝ`)「ああ、あいつのほうが性格が細かいから、気に入られていた。この間も、ブーン氏の体質と、飲んでいた高血圧の薬が合わないから種類を変えてやったと言っていたよ」
( ^Д^)(たしかにあんたは大雑把な性格だろうな)
アンソニーの近くにある散らかり放題のデスクを見てそう思った。
と、そこへオーガストが小走りでこちらにやってきた。
その後には、デレとジョルジュがついていた。
(´<_` )「お待たせしました」
( ^Д^)「いえ、デレ嬢のお気分は?」
ζ(゚ー゚*ζ「まだ少し落ち着かないけど…きっと寝れますわ」
デレはあいまいにほほ笑みながらそう言った。
_
( ゚∀゚)「そういや記者さん」
ふと思い出したかのようにジョルジュが切り出す。
_
( ゚∀゚)「俺も一応容疑者だったわけだが、取材するのか?」
- 48 :名も無きAAのようです:2012/09/27(木) 22:57:23 ID:vvgXJRf2O
- ( ^Д^)「そうですね」
ジョルジュに名刺を渡す。
それから体の向きをアンソニーから彼の方に変えた。
( ^Д^)「いきなり本題に入りますが、エドワード卿殺害の容疑がかけられていたそうでしたが、アリバイが証明された今どのような気持ちで?」
_
( ゚∀゚)「……複雑だね」
ただ一言だけ、ジョルジュは呟いた。
_
( ゚∀゚)「たしかに周りが言うように、俺とブーンさんは仲が悪かったのは認める。だけどそれは、女タラシの俺がデレを好きになったからで……」
そこまで言って、ジョルジュはハッとした。
俺はそれとなく。デレの方を見た。
ζ( ー *ζ「…………」
かろうじて笑みは浮かべていたが、彼女が怒っているのは明白であった。
「あ、いや…。これは、その…」
( ´_ゝ`)( ^Д^)「………………」ζ(゚ー゚*ζ(´<_` )
_
(;゚∀゚)「……」
全員に見つめられて、ジョルジュはコホン、と咳払いをした。
_
(;゚∀゚)「すまん、デレ」
ζ(゚、゚*ζ「仕方がないですね…」
やれやれ、といった調子でデレはこう言った。
- 49 :名も無きAAのようです:2012/09/27(木) 22:59:36 ID:vvgXJRf2O
- ζ(゚ー゚*ζ「まだ正式に発表はしていないのですが……私達、結婚することになりましたの」
(*^Д^)「おや、そうだったのですか!おめでとうございます」
満面の笑みを浮かべて、俺は言った。
が、あの探偵から話を聞いていたから、正直驚きはない。
ζ(゚ー゚*ζ「本当は、まだ公表するのは伏せておく予定だったのですが…」
( ^Д^)「エドワード卿から、反対されていたからですか?」
ピクンとジョルジュの眉が動いた。
ζ(゚ー゚*ζ「ええ…。ですが反対されても、私はジョルジュさんと添い遂げる気でした」
_
(*゚∀゚)「ああ、俺は本気だったからな」
( ^Д^)「……なるほど」
なんとも反応が出来なかったので、俺はそう返した。
- 50 :名も無きAAのようです:2012/09/27(木) 23:00:52 ID:vvgXJRf2O
- ( ´_ゝ`)「ところで」
アンソニーが思い出したように、切り出した。
( ´_ゝ`)「もう2時なんだけど、寝なくていいのかい?」
( ^Д^)「おや、」
いつのまにかこんな時間だ、というニュアンスを含ませながら俺は腕時計を見て呟いた。
ζ(゚ー゚*ζ「そろそろお部屋に戻らなきゃいけませんね」
デレが立ち上がったので、俺もそれにならった。
( ^Д^)「私も、そうします」
まぁ、自室に戻る前に探偵のところに行かなきゃいけないんだがな。
( ^Д^)(この話だけでぬれぎぬを晴らせるかねぇ)
しかし、やれるだけのことはやった。
あとは、あの探偵……モララー次第だ。
- 51 :名も無きAAのようです:2012/09/27(木) 23:02:30 ID:vvgXJRf2O
- ( ^Д^)「…というわけなんだけど」
( ・∀・)「…………」
俺の話を聞き終えたモララーは、深呼吸をした。
( ・∀・)「いくつかいいかな?」
( ^Д^)「ああ」
( ・∀・)「ブーン氏の体調管理は、弟者さんが行っていて兄者さんは関与していなかったんだよね?」
( ^Д^)「ああ、そうだよ。運ばれた時の処置もオーガストだけがやっていた」
( ・∀・)「そしてブーン氏は高血圧だった」
( ^Д^)「アンソニーがそう言っていたな。そしてブーン氏の体質と薬の相性が悪かったから、数日前から処方をオーガストが変えた」
- 52 :名も無きAAのようです:2012/09/27(木) 23:03:27 ID:vvgXJRf2O
- ( ・∀・)「なるほど。あと、僕とレモナ夫人を見間違えたシラネーヨさんは、近視だと言ったんだね?」
( ^Д^)「ああ、そうだよ」
( ・∀・)「……そうか。わかったよ」
なにが分かったのだろうか。
俺には検討がつかなかった。
( ・∀・)「下町の貧乏探偵だからといって舐めてかかったのが運のツキだね」
にこりと笑って、モララーは言った。
( ・∀・)「ミス・デレと兄者さん、それから元容疑者のみなさんを呼んでくれないか」
(;^Д^)「…いいのか?」
( ・∀・)「ああ、トリックも犯人もわかったよ」
(;^Д^)「!」
その言葉に思わず立ち上がる。
体が少し震えている。
今、俺はとてつもないスクープを、目撃しようとしている。
長年の取材で培ってきた記者の勘が、そう告げていた。
- 55 :作者からの挑戦状:2012/09/27(木) 23:05:15 ID:vvgXJRf2O
- さて、ここからは探偵から読者の皆様方への挑戦状だ。
ブーン・エドワード卿は誰によって殺されたのか。
彼はなぜ殺されてしまったのか。
そして容疑者がここまで増えていった理由。
( ・∀・)「とはいえ、ミステリーファンならすぐに見破ることができるでしょう」
( ・∀・)「ヒントは、柑橘類の香り」
( ・∀・)「解決編は土曜日の昼下がりに。モララー・クリスティでした」
-
-
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