(´<_` )噂の双子のようです( ´_ゝ`)
-
仲の悪い双子の兄弟がいる。
近所や双子が通う学校ではそれなりに有名だった。
顔も背丈も体つきもそっくりで、黙っていればどちらが兄で弟なのかわからない。
実際に話してみると性格の違いがみられるが、それだって演技されてしまえばわからなくなるだろう。
それほど似ているならば。と、いうのもおかしな話だが、それなりに仲が良くても不思議ではない。
周りはそんな風に考えている。
むしろ、そうであることが当たり前だと思って入るのだ。
だからこそ、仲が悪いのだと人々の言葉に乗るのだ。
彼らのような存在が仲が悪いというのは珍しいから、話のネタになる。
彼らの友人達でさえも双子の仲が悪いことには同意する。
家族でさえ、仲が悪いことを否定しないのだ。
噂は日を増すごとに広まり、双子本人よりも、その周りに影響を与える。
- (´<_` ) ( ´_ゝ`)
噂の双子は家から並んで登校する。
同じ高校に通っているため、通学路は必然的に同じになるのだ。
仲が悪いからといって彼らは別々に登校しない。する必要性も感じられない。
嫌いな奴のために、わざわざ家から出る時間を早めたり、遅くしたりするのは癪だろう。
彼らが並ぶ理由はそんなところだ。と、周りは勝手な憶測をたてている。
深く追求しないのは、多少の謎があった方が人生を楽しく生きられるからだ。
人々は無意識の内に謎を選択し続けている。日常にある小さな不思議というものを得るために。
('A`)「お、兄者ー」
( ^ω^)「待ってたお」
( ´_ゝ`)ノシ「おー。おはよー」
通学途中の道に人影が四つ。
彼らはいつも同じところに立っている。
( ・∀・)「弟者おはよう」
(´<_` )「おはよう」
(´・ω・`)「相変わらず登校は彼とするんだね」
彼らは双子の友達だ。
ただし、共通の友達ではない。
-
('A`)「昨日の『しゅーるこめっと』見た?」
( ´_ゝ`)「おう! ちゃんと録画もしたぞ!」
( ^ω^)「さっすが兄者だお!」
( ・∀・)「この間の問題解いたか?」
(´<_` )「一応」
(´・ω・`)「早く学校で答え合わせしようよ」
同じ道を進みながらも、彼らは完全に別のグループ。
会話が混じりあうこともなければ、互いを意識することさえない。
まるで、片方はそこにいないかのような光景だ。
通学風景としてはそう珍しくはないのかもしれない。
しかし、双子の片割れが別々のグループにいるということを踏まえれば、中々奇妙に見えてくる。
とはいえ、この風景は双子の状況を実によく表しているものでもある。
-
双子は仲が悪いと言われている。
だが、顔を合わせれば喧嘩するというわけではない。
ただただ口をきかないのだ。
朝の挨拶もしない。
登校中の雑談もしない。
じゃあ。と、いう一言さえ彼らは交わさない。
携帯の番号も知らないらしい。
まるで相手の存在を無にしようとしているかのような無言。視線が交じり合うことも滅多にない。
双子は性格の違いから、またはその状況から共通の友達がいない。
二人を見ているうちに、ずっと一緒にいる友人達も似たような雰囲気になってしまうのだ。
つまりは、相手と、相手の友人達の存在を消し去る。
何も知らない者から見れば、なんの変哲もない光景に見えるかもしれない。
しかし、毎日毎日その光景は続くのだ。
噂になるに足りる奇妙さを、その光景は当たり前のように孕んでいる。
-
( ^ω^)「それにしても、本当に二人は仲が悪いおね」
( ´_ゝ`)「二人?」
('A`)「お前と弟者だよ」
兄者と弟者はクラスが違う。
彼らの友達は各々片方のクラスで朝のHRまで雑談をするのが常だ。
ブーンとドクオは辺りに弟者がいないので気兼ねない会話をする。
いくら無視しているとはいえ、近くに弟者がいるときに、仲が悪いね。とは言いずらいものだ。
( ´_ゝ`)「そうか?
よく言われるが、普通の兄弟だと思うぞ」
(;'A`)「お前はいっつもそう言うよな」
双子は仲が悪い。と、いう噂を本人達は否定する。
しかしながら、どこの世界に一言も言葉を交わさずに一週間、一ヶ月を過ごす兄弟がいるというのだ。
家族でさえ、彼らが普通に会話をしているところを見たことがないという。
( ^ω^)「二人が会話してる時なんて、喧嘩してるときくらいだお」
( ´_ゝ`)「喧嘩くらい兄弟ならするだろ」
('A`)「お前ら体格いいから喧嘩するとこえぇし」
-
(´<_` )「お前達はしないの? 兄弟喧嘩」
(´・ω・`)「ボクは妹しかいないから……」
( ・∀・)「ちょっとくらいはするけどさぁ」
弟者のクラスでも似たような会話がされていた。
双子の喧嘩は派手だ。
長身の男が本気で殴り合いをする。
マウントを取り、相手に罵声を浴びせながら顔面を殴る。
腹を蹴り、頭を地面に押し付ける。
兄弟喧嘩というには些かやりすぎ感がいなめない。
双子の友人達は、彼らが喧嘩する度に間に入らなければならない。
放っておいてもいいのだが、流石に流血沙汰はまずいだろう。
一度、止めきれなかったため、教師が二人がかりで取り押さえたこともあるのだ。
(´<_` )「うちは母者の教育もあって、強さ主義のところがあるからなぁ」
(´・ω・`)「ああ。母者さん強いもんね」
( ・∀・)「それにしたって、喧嘩の罵声以外で弟者が兄者と喋ってるところなんてみたことないぞ」
(´<_` )「それは……そうだろうな」
-
( ´_ゝ`)「喋る必要性がないからな」(´<_` )
-
友人達はため息をつく。
仲が悪いということは否定するわりに、この言い草だ。
中学時代からの友達だが、双子のこういった面を彼らは未だに理解することができない。
家族で双子なのに仲が悪い理由を聞いているわけではないのだ。
喋る必要性を否定するならば、仲の悪さは肯定して欲しい。
双子は最低限の会話さえしない。
その状態で普通の兄弟だという主張はちゃんちゃらおかしい。
何度目かになる主張を双子にぶつけてやろうとしたとき、チャイムが鳴り響いた。
時間の確認を忘れていた面々は慌てて自分達のクラスや席へ戻っていく。
自分のクラス、自分の席についていた双子だけが余裕な面をして彼らを見送る。
-
弟者の友達であるモララーは教室の後ろの方の席だった。
教室がほどよく見渡すことの出来る場所。そこから見て斜め少し前の席。
そこには先ほどまで会話をしていた男とそっくりの男がいる。
( ´_ゝ`)
兄者だ。
つまらないHRを聞きながら欠伸をしている。
見分けさせるつもりがないのか、双子は同じ髪型をしていた。
そのため、このクラスになってからというものモララーは落ち着かない気持ちになる。
気持ちとしては兄者のことは存在していないように振舞いたい。
けれど、モララーも人間だ。そこにいる存在。友達とよく似た存在のことを気にしないというのは難しい。
ほぼ一日中、その存在が目に入ってしまう。
( ´∀`)「じゃあ今日も真面目に授業を受けるモナよ」
担任のモナーが出席簿を脇に抱える。
( ´∀`)「特に兄者!」
(;´_ゝ`)そ「名指しっすか!」
眉を下げて叫ぶ兄者に周囲から笑い声が上がる。
何人か戸惑ったような顔をして苦笑いをしているのは、弟者の方と仲が良い者なのだろう。
モララーも笑みを浮かべることなく席に座っていた。
-
双子の友人達は、誓って片割れのことが嫌いなわけではない。
必要があれば言葉を交わすこともある。
ただ、少しばかり話しかけずらい。
片割れに遠慮してしまうのか、仲の悪さを目の当たりにしているからか。
理由はどちらでもいい。
とにかく、片割れと進んで会話をするのは裏切りのように感じてしまう。
小さな違和感が自分の胸の内に巣食うのだ。
( ´_ゝ`)「モナー先生はオレのことを見くびってる!」
(,,゚Д゚)「まあ、普段居眠りしてるか落書きしてるかスマホでエロ画像探してるかだからな」
( ´_ゝ`)「お前、オレのことをそんな風に見てたのかよ」
(,,゚Д゚)「いや、事実だろ」
HRが終わり、クラスメイトと会話をしている兄者を横目に、モララーも友達との会話を楽しむ。
( ・∀・)「一時間目って英語だっけ?」
(-@∀@)「うん。ボクは数学の方が好きなんだよなー」
アサピーは別段弟者の友達というわけではない。
彼は双子のどちらともそれなりの交流がある。
逆に言えば、軽い付き合いしかないため、どちらとも上手く付き合うことができている。
モララーは彼と言葉を交わしていると、自分の中にあるもやが、あまりにもおかしなものに思えてくる。
-
ハハ ロ -ロ)ハ「ハイHi! 授業を始めマスよー」
( ´_ゝ`)「今日も美人ですね!」
ハハ ロ -ロ)ハ「マイナス1、と」
(;´_ゝ`)「ヤダ理不尽!」
顔が似ていなければ、双子でなければ、気になどしなかった。
他人であるならば、兄者と弟者は仲が悪くても不思議ではないし、
仲が悪いとまではいかずとも、言葉を交わさないことにそれほど違和感はない。
ハハ ロ -ロ)ハ「まったく……。オトート君を見習いなさい」
( ´_ゝ`)「オトート君は関係ないですよ」
兄者が少しムッとしたように答える。
-
双子は姿形がよく似ているが、性格は正反対だった。
(-@∀@)「本当に似てないよね」
( ・∀・)「何が」
アサピーが小さな声で話しかけてくる。
(-@∀@)「兄者と弟者だよ」
( ・∀・)「そっくりだろ」
(-@∀@)「わかってるくせに。
中身だよ。中身」
ニヤニヤとした顔をしている。
学校では有名という言葉が不似合いになり、当然という言葉が当てはまってしまうほど有名な話だ。
(-@∀@)「弟者は成績優秀で運動もできる。真面目な好青年」
( ・∀・)「兄者は赤点ギリギリで体育はサボりがち。不真面目な変態オタク」
モララーは肩をすくめる。
双子というにはあまりにも違い過ぎる二人だ。
-
双子でなければ。と、モララーは思う。
双子でないならば、あの二人が仲が悪くても、誰も気にしないはずだ。
そして、自身も心に違和感を持たずにすんだ。
( ´_ゝ`)「あ、ギコ。教科書忘れたから貸してくれ」
(,,゚Д゚)「オレが見れなくなるだろうが。机寄せろ」
( ´_ゝ`)「わーい」
(,,゚Д゚)「うおっ! ぶつけるなよ!」
( ´_ゝ`)「テヘペロ☆」
(,,゚Д゚)「教科書見せてやらねぇぞ」
(;´_ゝ`)「すんませんでした!」
ハハ ロ -ロ)ハ「ハイ、静かにしなサイ」
( ´_ゝ`)「把握!」
姿勢を正す兄者に、また周りが笑い声を上げる。
実に楽しげな授業風景だ。
-
兄者は嫌な人間ではない。
暗くもなく、コミュニケーション能力がないわけでもない。
不真面目ではあるが愉快な類の人間だ。
親しい友達から、声をかける程度の友達まで、幅広い友達も持っている。
ハハ ;ロ -ロ)ハ「まったく。オニーサンは……」
先生達も呆れながらではあるが、兄者の行動に笑うことも多い。
クラスに一人はいるムードメーカーだ。
授業の進行を邪魔することもあるが、引き際も心得ている。
何だかんだ言いつつも赤点を取っていない所から考えて、要領がいいタイプの人間だとわかる。
ハハ ロ -ロ)ハ「デハ、今日は教科書の――」
兄者がギコの教科書に落書きをしようとして怒られている姿を見て、
モララーは自分のノートに意識を集中させることにした。
弟者とよく似ていて、それでも逆の場所に立っているような兄者を見ていると、どうしたらいいかわからなくなる。
( ・∀・)「かと言って……」
(-@∀@)「ん?」
(;・∀・)「ごめん。独り言」
(-@∀@)「ハロー先生に怒られるぞ」
( ・∀・)「気をつけるよ」
-
かと言って、今さら態度を変えることもできない。
急に仲良くなろうとしても、兄者は警戒するだろう。
第一、弟者の友達と仲良くしている兄者の姿が想像できない。
それは、片割れの友達がもう片方と仲良くしようとしないからなのだけれど。
モララーは兄者と出会う前に弟者と出会った。それだけの話だ。
弟者にも兄者にも良い所と悪い所がある。
友達だとは思っているが、弟者の無口な部分や好奇心を持って行動しない常識的すぎる部分は少しおもしろくな
い。
そんな時、モララーは兄者と友達だったら。と、思ってしまう。
真面目で問題を起こさない弟者と違い、兄者は度々問題行動を起こす。
ある時は屋上にドクロマークの旗を立てて漫画の真似事をしていた。
ある時は木苺狩りをすると言った後に病院へ搬送されて行った。
ある時は川で泳いで溺れかけた。
ハハ ロ -ロ)ハ「ココの訳をギコ君」
(,,゚Д゚)「『私は言いました。「近づくな! この右腕の餌食にされたいのか!」』」
非常に愚かな行為を繰りかえしてはいるが、兄者という男は愉快だ。
その点をモララーは否定しない。
-
( ・∀・)「これは裏切りなのかな」
一人呟く。
誰も答えない。
ハローの声を聞きながらモララーは頭を掻く。
これではまるで女のようだ。
双子の仲が悪いからといって、こちらまでその雰囲気を持ち出すなどおかしな話だろう。
気に入っているならば声をかけてしまえばいい。
それでやはり仲良くなりたいと思えたのならば、友達になればいい。
簡単なことのはずだ。
なのにそれができない。
双子の間に流れる空気が、巡る噂が、それを許してくれないのだ。
誰だって針のむしろに進んで座らない。
機会があれば。兄者と、彼の友達と親しくなるきっかけがあれば変わるのか。
ハハ ロ -ロ)ハ「ネクスト、モララー君」
( ・∀・)「はい」
モララーはすらすらと指定された英文を訳す。
弟者やショボンと行動しているうちに、成績は上昇した。
感謝しているし、これからも友達でいたいと思う数ある理由の一つでもある。
-
ハハ ロ -ロ)ハ「ハイ。難しいところでしたが、素晴らしいです。ナイスです」
ハローが黒板に英訳のポイントを書く。
周りがそれを写すのに倣い、モララーもシャーペンを手にする。
( ´_ゝ`)
兄者も黙ってシャーペンを動かしている。
黙っているときの姿は弟者そのものだ。
ずっとそうであるならば、弟者が兄者でも、兄者が弟者でもどちらでもよくなる。
そうでないからモララーは困っている。
ハハ ロ -ロ)ハ「わかりマシタか?」
あらかたの説明を終え、ハローが再び生徒達に目を向ける。
ハハ ロ -ロ)ハ「デハ、ネクストはオニーサン」
(;´_ゝ`)そ「はひ?」
(,,゚Д゚)「先生、兄者はノートに落書きしていて話を聞いていませんでした」
(;´_ゝ`)「馬鹿! 黙ってろよ!」
ハハ#ロ -ロ)ハ「オニーサン?」
(;´_ゝ`)「あばばばば」
-
楽しげな授業風景に、素直に笑えない自分。
( -∀-)
モララーはため息をついた。
弟者との縁を切るつもりはない。
堅物ではあるが、心の優しい大切な友達だ。
( ・∀・)
考えていてもしかたがない。
席が変わって、兄者の姿を視界に入れずに済むようになれば、この気持ちの悪い思考もなくなるだろう。
一年経てばクラス替えもある。
今まではふとした時に、兄者と会話してみようかと思っていた程度だった。
少し耐えれば、以前と変わらぬ心が取り戻せるはずだ。
モララーが納得すると、授業終了のチャイムが鳴った。
-
('A`)「教室移動マンドクセ」
ドクオは一人で廊下を歩いていた。
彼は友達が多い方ではない。
大抵は兄者やブーンと行動している。
仲の良い友達と移動しているクラスメイト達を横目に、ドクオは少しだけ目線を下げた。
せめてブーンと同じクラスだったならば良かったのだが、無常にも同じクラスに親しい友達はいない。
昼食も兄者の教室に乗りこんで一緒に食べている。
無理に友達を作ろうとは思わないが、周りと溶け込めない自分に嫌気は差す。
女の子は二次元が一番かもしれないが、友達はやはり三次元にいて欲しい。
('A`)「あ、兄……」
(´<_` )
-
('A`)「――違うか」
廊下で見かけた顔は、ドクオの数少ない友達である兄者そのものだった。
しかし、彼の周りには数人の友達がいるものの、大声で楽しげに会話をしている様子はない。
物静かな雰囲気がそこにはある。
兄者ならば、周りが思わず苦笑してしまうような騒がしさがあるはずだ。
ゆえに、歩いているのは弟者だろうという推測ができる。
よく見てみれば、周りにいる者達は弟者の友達であることがわかる。
(´<_` )「あの問題は難しいな」
( ゚д゚ )「弟者でも難しいと思うか」
(´<_` )「別にオレは天才でも何でもないぞ?」
<_プー゚)フ「またまたー」
(´<_` )「予習復習とテスト前に全教科のまとめをしている程度だよ」
( ゚д゚ )「それができるというのがすごい」
<_プー゚)フ「オレには無理だなー」
(´<_` )「とか言いつつ、お前も成績は悪くないだろ」
<_プー゚)フ「要領がいいからな!」
-
類は友を呼ぶ。と、でも言うのか、弟者の周りには成績が良い者が多い。
頭の良い者同士、話が合うのだろう。
弟者は饒舌ではないが、その優秀さから友達が多い。
成績も悪く、友達の少ないドクオが嫉妬するのも無理はない。
('A`)「……」
楽しげなその様子を少しだけ睨む。
今ならば厨二病を再発させて奇声を発しながら飛びかかれそうだ。
流石にしないが。
ミセ*゚ー゚)リ「弟者君」
(´<_` )「ん?」
( ゚д゚ )「どうしたミセリ」
考えてみれば、次の授業が隣のクラスと合同のため、ドクオは弟者のリア充っぷりを眺め続けなければならない。
歯軋りをしていると、さらに嫉妬の炎を燃え上がらせる要素がやってきた。
- ミセ*゚ー゚)リ「えへへ。見て見てー」
彼女の姿には見覚えがあった。たしか、ドクオと同じクラスの女子だ。
より詳しい情報を知るため、自身の脳内にある同級生データバンクに検索をかける。
彼女はミセリ。いつも笑顔で元気が取り得の女の子。胸は並み。
両親が出張中だとかで、現在は一人暮らしをしている。
飛びぬけた人気があるわけではないが、彼女を気にする男子は複数人いる。
( ゚д゚ )「クッキーか」
ミセ*゚ー゚)リ「うん。この間、弟者君に勉強教えてもらったから」
<_プー゚)フ「同級生にさん付けかよ」
ミセ*゚ー゚)リ「だって、弟者君はちょっと特別だから」
<_プー゚)フ「普通の男だぞ。普通の」
ミセ*゚Д゚)リ「ていうか、ちょっと黙っててよ!
私は弟者君に用事があるの!」
女の子の手作りクッキー。
ドクオの嫉妬は最上級に燃え上がる。
生まれてこのかた、そんなリア充イベントにめぐり合ったことがない。
これがイケメンパワーか。と、歯軋りをする。
兄者と同じ顔をしているはずなのに、この差は何なのだ。
アニメか。エロゲか。ラノベか。
どうせ、その中の一つだって、弟者はしていないに違いない。ドクオの偏見はそこまできていた。
-
ミセ*゚ー゚)リ「これ、この間のお礼です。
お口に合えばいいんですけど……」
(´<_` )「ありがとう」
口元を緩めることもなく、弟者は平然とミセリからクッキーを受け取る。
可愛らしいピンクのラッピングがドクオの目に焼きついた。
('A`) ギリギリ
周りがミセリと弟者の様子を微笑ましそうに見ていることも気に喰わない。
雰囲気や普段の行動が違うとはいえ、あの兄者と同じ顔をしているのだ。
可愛い女の子と並んで微笑ましいカップルになるはずがない。
友達であるが、ドクオは兄者の容姿を全否定するようなことを考えていた。
それどころか、この考えは普段から根付いているので、兄者本人にも言ったことがある。
始めてこの考えを聞かされたとき、兄者は同じ顔という前置きをしてからカップルになれないなんて酷い! と、
鬱陶しいほどの叫びを上げていた。
-
('A`)「弟者のどこがいいのかねぇ」
誰にも聞こえないように呟いた。
ミセ*゚ー゚)リ「チョコと、抹茶と、プレーンを作ったんで、よかったら、どれが美味しかったか教えてください」
<_プー゚)フ「おー。おー。できる女の子アピールか?」
ミセ*゚ー゚)リ「そういうのじゃないって! 次の参考にしよかと」
( ゚д゚ )「次がある予定なのか」
ミセ//ー/)リ「もー!」
単なる嫉妬からではない。
ドクオは弟者よりも、兄者の方がいい人間であると思っている。
モテていないことによる贔屓目や、友達であるからという欲目ではない。
無論、仲の悪い双子の片割れであるから。と、いう周りの空気に飲まれているからでもない。
ドクオは双子の仲が悪い。と、いう噂が強く広まった理由を知っている。
その原因となる現場に居合わせてもいた。
-
昔、兄者やドクオが中学生だったときだ。
そのころから、双子は仲が悪い。という噂は流れていた。
しかし、大抵の人は聞き流していたし、兄弟とはいえ年頃なのだから、見るからに仲良しというのも滅多にいないだろう。
ちょっと気にはなるが、他人に広めてみたり、尾ひれをつけてみたりするほどの噂ではなかった。
状況が変わったのは、兄者が川で溺れた日だ。
ドクオと兄者は他の友達と川で遊んでいた。ブーンはいなかった。
禁止されていたわけではなかったが、少しばかり水位が上がっていたために川で遊んでいる者はいなかった。
子供だけの状況で、兄者の足がつったのは不幸でしかないだろう。
(;'A`)「兄者?!」
(;´_ゝ`)「あ、ヤバイ! これはヤバイ!」
助けに行くにも、道連れになるのが目に見えている。
誰かが大人を呼びに走ったが、ドクオを含めた数人は兄者の様子を見ていることしかできなかった。
-
(;´_ゝ`)「――――」
兄者の顔が、腕が水の中に沈む。
誰もが息を飲んだとき、大人が川に飛びこんだ。
間一髪のところで兄者は助かったのだ。
これだけならば、普通ではないが、ただの事故で済んだ。
兄者達は準備運動不足と、大人がいないところで危険な遊びをしたことを叱られただけで終わりだった。
(´<_` )
川辺で正座させられている兄者のもとに、弟者がやってくるまでは、説教で終わると思っていた。
正座している兄者は髪から水を滴らせ、服はびしょ濡れだった。
一部始終を見ていなくとも、何が起こったかくらいは察することができる風貌だ。
だから、ドクオも兄者の友達も、説教をしていた大人も、弟者が双子の兄を心配していることを疑わなかった。
声をかけ、安否を尋ね、安心した顔をするに違いないと。
(;´_ゝ`)
(´<_` )
二人が向き合う。
-
次の瞬間、弟者が兄者の顔面を殴り飛ばしていた。
(;'A`)「兄者!」
溺れた直後の兄者は力なく地面に倒れる。
意識はあるようだが、立ち上がり、やり返すだけの気力はないようだ。
(´<_`# )「人様に迷惑かけてんじゃねーよ!」
怒声。そして跳躍。
(;'A`)「うわっ!」
ドクオは地面に転がるようにして弟者の足を避ける。
しかし、倒れたままの兄者がそれを避けることができるはずもない。
(;´_ゝ`)「うっ!」
(´<_`# )「常識的に考えれば、水位が上がってる時に川で遊ぶことが危険だってことはわかってるだろ!」
マウントを取ってからの拳。
殴り合いではなく、一方的な暴力。
それを呆然と見ている面々。
-
最初に正気に戻った大人が弟者を止めることによって、兄者は暴力から逃れることができた。
止められた弟者は、舌打ちを一つした後に、大人に頭を下げてその場を去って行った。
残されたのは倒れている兄者と、呆然としているしかできない彼の友達。
あの光景をドクオは未だに忘れることができない。
死にかけた双子の兄にする行為ではなかった。
モテるだとか、文武両道だとか、嫉妬するところは数あれど、嫌う理由はあの状況を述べるだけで事足りる。
次の日から、双子の仲が悪いという噂は急速に広まった。
一緒に川で遊んでいた者も口にしただろうし、兄者を助けた大人も口にしたのだろう。
一歩間違えれば、憎しみにもとれるような仲の悪さは人々の関心を引き、大勢の人に彼らのことを知らしめた。
(メ´_ゝ()「いくらなんでもアレは酷いと思った」
弟者に殴られ、ボロボロになった兄者が言った言葉だ。
高校生になった今と同じく、中学への通学は弟者が隣にいた。
彼もボロボロになっていたので、兄者が川から家に帰った後、もう一悶着あったのだろう。
童貞の同士である以前に、兄者はドクオの友達だ。
友達を傷つけるような人間を好きになる者はいない。
ドクオはあの日から、弟者のことが嫌いだ。
-
(´・ω・`)「弟者、そのクッキーどうしたの?」
(´<_` )「ミセリから貰った」
( ・∀・)「モテる男は辛いねー」
昼休み、ショボンとモララーは弟者の教室に弁当を持ち込み、共に昼食を取っていた。
弟者の机に置かれているクッキーは、少しばかり異色だ。
(´・ω・`)「ボクのクラスでも弟者は人気だよ」
(´<_` )「ふーん」
( ・∀・)「クールだねぇ。好きな子とかいないの?」
(´<_` )「今はいない」
( ・∀・)「まったく。兄者なら喜びの舞いの一つや二つ踊りそうだけどね」
(´・ω・`)「弟者は兄者とは違うよ」
ショボンは不満気に言う。
弟者もそれに頷いた。
( ・∀・)「……そーだね」
-
(´・ω・`)「兄者はちょっと落ち着きがなさすぎるよ」
弁当のおかずを口に放りこみながら言う。
ショボンは兄者のことが苦手なのだ。
( ・∀・)「昨日もハイン先生に怒られてたね」
(´・ω・`)「赤点ギリギリだー。って、叫ぶ暇があるなら余裕を持って勉強すればいいんだ」
(´<_` )「余裕は大切だな」
(´・ω・`)「でしょ? 授業中も騒がしいって話だしさ」
( ・∀・)「確かに静かではないな」
ショボンは弟者以上に真面目な男だ。
黙々と勉強することが素晴らしいという考えを持っている。
そのため、それを妨害するような人間を嫌っていた。
(´・ω・`)「本当に、弟者とは全然違うよ」
(´<_` )「内面が似てると言われたことはないな」
( ・∀・)「そりゃそうだよね」
-
(´・ω・`)「不真面目はよくないよ。
弟者もそう思うでしょ?」
(´<_` )「迷惑をかけるのはいかんな」
( ・∀・)「兄者は体育の時間なんて迷惑かけっぱなしだもんな」
(´・ω・`)「ああ、合同だから見てるよ。
全然指示どうりに動いてくれないよね」
( ・∀・)「ちょっと困るけど、動きは悪くないんだよなぁ。
弟者と体つきが同じだから、納得できないことはないけど」
(´・ω・`)「でもそれを生かせてないと意味がないよ」
( ・∀・)「正論だけどさぁ」
( ゚д゚ )「おっ。ショボンの兄者嫌い炸裂中か?」
<_プー゚)フ「オレも別に好きじゃねーけどさぁ」
別の場所で食事をしていたはずのミルナとエクストが会話に割り込んでくる。
普段はショボンとモララーだけの会話が、人が増えることによってヒートアップする。
-
( ゚д゚ )「校則違反も平気でするからな」
<_プー゚)フ「いや、お前のソレは厳しすぎだろ。制服の下にTシャツくらい許せよ」
(´・ω・`)「変な悪戯しては先生に怒られてるし」
( ・∀・)「職員室にある珈琲飲もうともしてたな」
<_プー゚)フ「自販機で買えばいいのにな」
(´・ω・`)「朝っぱらからエロゲの話するし」
( ゚д゚ )「常識がない。常識が」
<_プー゚)フ「兄者達が好きそうなゲーム登校中にゲーム屋で見たわ。
『猫天使しぃ育成日記』とかいうゲームの特別+α版」
( ・∀・)「あー。好きそうだなぁ」
( ゚д゚ )「好きなのは構わんが所構わず騒ぎすぎだ」
(´・ω・`)「せめてもう少し静かになってくれないかなぁ」
<_プー゚)フ「ショボンはビビリすぎだって。別に所構わず暴力振るう不良じゃねーんだし」
( ・∀・)「兄者が誰かをボコったって話は聞かないな」
(´<_` )「そういえば」
-
クッキーを食べていた弟者が言葉を零す。
(´<_` )「最近、変な電話がかかってくる」
(´・ω・`)「変な電話?」
(´<_` )「非通知の無言電話」
( ・∀・)「なにソレ怖い」
(´<_` )「あと、オレを盗撮したと思われる写真が投函されてる」
<_フ;゚ー゚)フ「それストーカーじゃね?」
(;゚д゚ )「さらっと流していいレベルの話じゃないぞ」
(´<_` )「やっぱり?」
ストーカー被害にあっているというのに、弟者は平然とした顔を崩さない。
クッキーを齧りながら、少し考えている風ではあったが、切羽詰っている雰囲気は微塵もない。
(´・ω・`)「警察には?」
(´<_` )「一応」
<_プー゚)フ「大した対応はしてくれなさ気か」
( ゚д゚ )「元々ストーカー対策には腰が重いからな」
-
( ・∀・)「被害者が男だとなおさらだろうね」
<_プー゚)フ「やる気が起きないってか」
(´・ω・`)「流石にそれはないだろうけど」
( ゚д゚ )「力がある分、大丈夫だと判断されかねないな」
(´・ω・`)「で、弟者は大丈夫なの?」
心配そうなショボンに対し、弟者はやはりどうでもよさ気な顔をしている。
クッキーがなくなったようで、袋の中に机の上に落ちた食べかすを入れていた。
(´<_` )「気味は悪いが、実害は今の所」
( ・∀・)「盗撮が実害じゃないだと……」
(´<_` )「でも、家の電話に無言電話がかかってくると、妹者が怖がるから困る」
( ゚д゚ )「姉さんは?」
(´<_` )「姉者が怯えるとか……」
<_プー゚)フ「お母さんの血が濃そうだもんなぁ」
(´<_` )「オレもそこそこ強い方だし心配してないけどね」
(´・ω・`)「でも気をつけた方がいいよ」
-
(´<_` )「おう」
弟者が女子から人気があるのは今に始まったことではない。
文武両道なところや、落ち着いたところが良いという女子もいる。
親しい友達が少ないショボンは弟者の身が心配だった。
感情が表に出ないのは弟者の特徴の一つだ。
しかしながら、今回のことに対しては、危機感がなさ過ぎるのではないかと思ってしまう。
ショボンとて、弟者と兄者の喧嘩風景を見たことがあるので、彼が強いことは知っている。
それでも心配してしまうのが、友達というものだ。
(´・ω・`)「……何かあったら言ってね」
( ・∀・)「そうだぞ。少しくらい助けになるからな」
( ゚д゚ )「少しかい」
<_プー゚)フ「頼りねーなぁ」
(´<_` )「……ありがとう」
珍しく弟者が少しだけ笑った。
-
( ^ω^)「兄者、帰るおー」
( ´_ゝ`)「おー」
放課後、兄者は鞄を掴んでクラスまで迎えにきたブーンに歩みよる。
( ´_ゝ`)「そうだ、ちょっと寄り道して行こうぜ」
( ^ω^)「寄り道?」
(;'A`)「何でお前らはオレを待たないんだ」
靴を履き変えているとドクオがやってきた。
眉間にしわを寄せているが、兄者よりも背が低く、ブーンほど太くもないドクオの威圧感などゼロに近い。
( ´_ゝ`)「すまんすまん。小さくて見えなかった」
( ^ω^)「すまんお。あまりに細くて見えなかったお」
(#'A`)「てめーらあああああ!」
( ^ω^)「逃げるおー」
(;´_ゝ`)「ヤダ速い!」
駆けて行くブーンの後を兄者が追いかける。
その後にドクオが続き、三人は校門まで全速力で駆け抜けた。
-
(;´_ゝ`)「ブーンの足にあわせるのは辛い」
(;'A`) ハァハァ
( ^ω^)「足は自慢だお」
( ´_ゝ`)「その割りに陸上部には入らないよな」
言葉を発することもできないドクオのために、二人は校門に寄りかかりながら適当な話をする。
( ^ω^)「それでどこに行くんだお?」
(;'A`)?
( ´_ゝ`)「ああ、ちょっと寄り道して帰ろうと話していたんだ」
肩で息をしながら首を傾げたドクオに言葉を足してやる。
学校の中で五本の指に入るであろうブーンを追いかけたのだから、息が荒れるのもしかたがない。
( ´_ゝ`)「なんと、『猫天使しぃ育成日記』の特別+α版があるとの情報を手に入れたのだ!」
('A`)「マジかよ!」
( ^ω^)「回復したのかお」
('A`)「オレの体なんて気にするな! 問題は『猫天使しぃ育成日記』だ!」
( ´_ゝ`)+「とあるルートで情報を得たのだよ!」
-
( ^ω^)「『猫天使しぃ育成日記』の特別+α版と言えば、流通がかなり少ないと有名」
('A`)「オレも通常版は手に入れたが……」
( ´_ゝ`)「だが、特別+α版があるというのならば、手に入れるしかあるまいよ」
( ^ω^)「資金は?」
( ´_ゝ`)「ふふふ。ここに」
('A`)「銀行のカードか」
( ´_ゝ`)「左様。ここには、こういったときの為に貯めておいた金があるのだよ!」
( ^ω^)「ならば」
('A`)+「行くしかあるまい!」
( ´_ゝ`)「攻略したあかつきには諸君らにも貸してやろう」
( ^ω^)「ありがたき幸せ!」
-
自宅とは逆方向へ三人は足を進める。
目的のゲーム屋は時折やけに希少価値の高いゲームを通常価格で販売していると、一部では噂になっている場所だ。
ブーンは友達が多い性質だったが、兄者やドクオといるときが一番楽だと思っている。
気が置けない友達というのは、彼らのことを言うのだろう。
多少アブノーマルなゲームの話を振っても、引かずにいてくれる安心感とも言える。
( ^ω^)「ボクはいい友達を持ったお」
( ´_ゝ`)「そんなに『猫天使しぃ育成日記』の特別+α版がしたいのか」
(;^ω^)「まあそれもあるけど」
やはり一緒にいて気が楽だというのは大きい。
考え方や行動も似たようなものの人間といることも楽しいことこの上ない。
陸上部に入らない理由に、二人と登下校を共にしたいというものがある。
理由の大部分は早起きや日が暮れるまでの練習が嫌だというものではあるが。
('A`)「そういえば、弟者が廊下で女子からクッキー貰ってたぞ」
( ´_ゝ`)「何?!」
ドクオの言葉に兄者が反応する。
ブーン達と同じくモテない組の兄者としては聞き逃すことができない言葉だった。
-
('A`)「オレのクラスにいるミセリちゃん。弟者に勉強みてもらったんだってよ」
( ^ω^)「できる男は違いますってかお」
( ´_ゝ`)「オレの方がイケメンなのに不思議だ……」
イケメンも何も、同じ顔をしているだろ。と、ブーンは言わない。
何を言ったところで、兄者は自分の方がイケメンだと言って譲らないのだから。
ブーンとしては、兄者をイケメンだとは欠片も思っていない。
さらに、双子のモテ度の差は顔ではなく雰囲気であることは確信している。
女というのは無口でクールな男に惹かれるのだ。
けっして、普段からエロゲや女の子を育成するようなゲームを楽しむ男には惹かれない。どん引きならあるかもしれないが。
( ^ω^)「兄者の方が愉快ではあるお」
('A`)「そうだな。イケメンじゃなく愉快だな」
( #´_ゝ`)「お前らはこの兄者様のイケメンっぷりを理解していない!」
弟者と兄者。友達として面白い方を選ぶのならば、ブーンは間違いなく兄者を選ぶ。
オタクではあるが、行動範囲は広く、楽しめると思えばアクティブに行動する。
サバゲーにはまりかけた兄者に連れられて近くの林に行ったことは記憶に新しい。
-
('A`)「少なくとも廃墟に友達を連れて行くような奴は駄目だろ」
( ´_ゝ`)「女の子は連れていかないもん!」
( ^ω^)「キモイお……」
( ´_ゝ`)「このピッツァ野郎が……。
あ、そうだ」
('A`)「ん?」
( ´_ゝ`)「週末、山に行こうぜ」
(;^ω^)「また急に」
( ´_ゝ`)「いいじゃん。天気とか見て、いい日メールするからさ。
面白い花とか見つけようぜ」
( ^ω^)「大雑把だお……」
('A`)「この辺りの山っていうと、草咲山か
あんまし体力のいらないプランにしてくれよ」
( ^ω^)「ドクオは本当に体力がないお」
('A`)「お前らがありすぎ」
( ´_ゝ`)「残念でしたー。民主主義的に多数決を取ると正義はオレとブーンでーす」
-
途中、銀行に寄ってお金を降ろしながら、三人はゲーム屋へ向かった。
寂れた風にもとれるゲーム屋の中に入り、いくつかのショーケースに目を通す。
('A`)「あった!」
( ´_ゝ`)「本当か!」
( ^ω^)「おお……。これが……」
周りのレトロなゲームに紛れながらも、そこには隠しきれない恍惚の輝きがある。
三人は思わず見とれてしまった。
( *´_ゝ`)ノ「すいません! これを……『猫天使しぃ育成日記』の特別+α版をください!」
兄者の声に店員がやってきて、無事に商品を購入することができた。
無論、価格は定価だ。
プレミアム価格がついてもおかしくないゲームを、定価で買えるのは幸運としか言いようがない。
-
( ´_ゝ`)「しばらくは忙しくなるぞー」
スキップをしながら道を行く兄者は心底気持ち悪い。それに付き合っているドクオも気持ち悪い。
ブーンは彼らから少し距離を取っていた。
( ´_ゝ`)「ゲームだろ? 山だろ? ミセリちゃんにオレの魅力を伝えるだろ?」
( ^ω^)「最後の一つは聞いてないお」
('A`)「やめとけよー。兄者じゃ無理だって」
( #´_ゝ`)「言ったな? 見てろよー!」
( ^ω^)「やりすぎてストーカーにはならないで欲しいお」
('A`)「駄目だぞ。犯罪は流石に庇わないからな」
( ´_ゝ`)「オレの信頼度はゼロなの? マイナスなの?」
普段は一緒になって悪戯や遊びを繰りかえしているはずの二人がまさかの裏切り。
兄者はスキップをやめ、その場でうな垂れた。
( ^ω^)「はいはい。帰るおー」
('A`)「連行しまーす」
(;´_ゝ`)「ちょっ。足、足すってるうううう」
兄者の声が響いた。
- その週の末、土曜日。
兄者とドクオ、ブーンは草咲山のふもとにきていた。
( *´_ゝ`)「よーし。遊ぶぞ!」
('A`)「具体的に」
( ´_ゝ`)「……とりあえず散策」
( ^ω^)「行き辺りばったりにもほどがあるお」
等と言いつつも、優しいブーンとドクオは足を進めて行く。
それほど大きい山でもないので、彼らは軽装だ。
リュックを背負ってはいるが、中に入っているのは昼食になる弁当とレインコートくらいだ。
三人は、始め登山用に作られている道を歩いていた。
変わった葉の形をした木にテンションを上げてみたり、鳥の鳴き声に癒されたりと、極普通の登山だ。
( *´_ゝ`)「なあ、あっちに行ってみようぜ!」
('A`)「そっちに道はないぞ」
( *´_ゝ`)「だからだろ!」
二人の制止の声も聞かずに、兄者は足を進めていく。
残されたドクオとブーンは互いに顔を見合わせる。
( ^ω^)「……しかたないお」
('A`)「だな」
-
兄者を追い、二人も草木をかき分けて行く。
普段、人が立ち入らないため、草木がこれでもかと茂っている。
その中には、赤い木の実を実らせたものもあった。
小振りではあるが、赤々としたその木の実は食べられるのではないかという期待を持たせるには十分だった。
とはいえ、野生の植物だ。
専門の知識のない彼らには、それに毒があるのかどうかさえわからない。
赤い食べ物は多いが、派手な色をしている物は毒である可能性も高い。
キノコ類を見てみれば、赤色がいかに危険かわかる。
(;'A`)「お、おい!」
ドクオが声を上げる。
余所見をしていたブーンが、ドクオの視線の先へ目を向ける。
(;^ω^)「兄者!」
( ´_ゝ`)モグモグ
あろうことか、兄者は平然とした顔で木の実を咀嚼していた。
一口ではたべられなかったようで、彼の手には半分ほどの大きさになった木の実がある。
(;´_ゝ`)「……にが」
口に含んでいたものを地面に落とす。
じっくり咀嚼されたソレは形を留めていない。
-
(;'A`)「よくこれだけ噛めたな」
(;´_ゝ`)「噛んでれば甘くなるかと思って」
( ^ω^)「そもそも自生してるような木の実に、普段食べているような味を求めるほうが間違いだお」
(;´_ゝ`)「実感しました」
リュックから水筒を取り出し、中に入っているお茶をあおる。
それでも兄者は口の中にある苦味が取れたような気がしない。
(;´_ゝ`)「うー。花の蜜でも吸おうかな」
('A`)「それは小学生で卒業しとけ」
ぐるりと見てみても、小学生の頃に吸った記憶のある花はない。
兄者は口の中に残る苦さにしわを寄せながら呻く。
( ^ω^)「昼まで我慢するお」
(;´_ゝ`)「もう昼食にしてもいいんじゃないか?」
('A`)「現在の時刻は十時だ」
( ^ω^)「民主主義的多数決により否決だお」
(;´_ゝ`)「民主主義の犬め……」
-
苦味に唸る兄者は放っておいて、ブーンは先に進む。
ドクオも並んで進みたいのだが、体格や体力からどうしても後方に行ってしまう。
(;'A`)「あー。歩きにくい」
( ^ω^)「しかたないお。ちゃんとした道じゃないし」
(;´_ゝ`)「まあ、珍しい花とかあるからいいじゃないか」
あまり見かけることのない花や葉を見かけては、スマホを取り出して写真を取る。
山の中に響くピローン。と、いう音は不似合いで面白い。
('A`)「写真好きだな」
( ´_ゝ`)「帰ってから図鑑で調べたりもするぞ」
( ^ω^)「意外だお」
( ´_ゝ`)「あの苦い木の実は絶対に調べる。もしかしたら熟れてなかっただけかもしれないし」
('A`)「あんなに真っ赤だったのにそれはないだろ」
( ´_ゝ`)「わからんぞー」
-
草木があるのならば、当然虫もいる。
( ^ω^)「おっ。見たことない芋虫だお」
(;'A`)「ぎゃあ! 掴むなよ!」
ブーンは虫を平気で触る。興味があれば掴み上げ、様々な方向から観察する。
対して、ドクオは虫の類が駄目だった。
持ち上げられた芋虫を見て三歩下がるほどには嫌いだ。
( ^ω^)「……」
(;'A`)「黙って近づいてくるな!」
( ´_ゝ`)「おーい。先に行っちゃうぞー?」
三人は写真を撮り、虫に触れ、鳥を眺めながら進んだ。
歩きにくい道をひたすら進むということは非常に体力を使う。
気がつけば三人の胃は空っぽになっており、エネルギーの補給を訴え始めていた。
-
( ´_ゝ`)「今何時?」
('A`)「十二時半」
( ^ω^)「結構な時間経ってるお」
( ´_ゝ`)「いい感じに座れそうな場所を見つけたら昼食にしようか」
('A`)「賛成!」
( ^ω^)「賛成!」
( ´_ゝ`)「よーし。満場一致。疑う余地なし!」
兄者が先頭をきって進んで行く。
少し進めば、川が見えた。
('A`)「川だ」
( ^ω^)「上流は綺麗だお」
( ´_ゝ`)「適当な岩もあるし、ここで昼飯食べようぜ」
-
卵焼きやウインナーの入った正当派弁当を持ってきていたのはブーン。
数種類のおにぎりを持ってきたのはドクオ。
兄者は何故かサンドウィッチを自作してきていた。
('A`)「格好つけてんじゃねーぞ兄者!」
( ´_ゝ`)「ならお前のおにぎりくれ」
('A`)「カアチャンが作ったやつだから駄目」
( ^ω^)「ドクオはカアチャン好きだお」
( ´_ゝ`)「マザコン?」
('A`)「ちげーよ」
口にする言葉は普段の昼休みと変わらない。
しかし、綺麗な空気と水のせせらぎを聞きながら食べる食事は格別だ。
( ^ω^)「魚がいるお」
('A`)「捕るか!」
( ´_ゝ`)「できるか?」
('A`)「チャレンジ、チャレンジ!」
-
体力がないと言っていたドクオだが、真っ先に靴と靴下を脱いた。
ひんやりとした川の水に足をつけ、魚を追いかける。
( ^ω^)「ブーンも続くおー!」
どたどたと音を立てながらブーンも川に飛びこむ。
水しぶきがあがり、魚だけではなくドクオも少し逃げた。
(#'A`)「服が濡れただろうが!」
( ^ω^)「それはすまんかったお」
怒るドクオを適当にあしらいながら、ブーンは魚を追いかける。
二人とも本気で魚を捕まえられるとは思っていないが、最大限の力を発揮しようとしている。
( ´_ゝ`)「はっはっは。頑張りたまえ」
('A`)「兄者もこいよ」
( ^ω^)「水浸しにしてやるお!」
( ´_ゝ`)+「上に立つ者は高みの見物よ」
('A`)「水かけちゃる」
(;´_ゝ`)「あー。やめろやめろ!」
( ^ω^)「ボクも手伝うお!」
-
水の掛け合いを終える頃には、三人ともずぶ濡れになっていた。
気温は低くないものの、山の中で過ごすには肌寒い。
('A`)「どうするよ」
( ´_ゝ`)「まあ、散々楽しんだし、帰るか」
( ^ω^)「そうだおね。流石にこのまま散策を続けるのは無茶だお」
意見が一致したところで、ドクオとブーンは川から上がる。
(;'A`)「体が重い……」
( ^ω^)「服がたっぷり水を吸ってるお」
( ´_ゝ`)「全裸になって絞れば?」
( *^ω^)「キャッ! 兄者ったら!」
( ´_ゝ`)「温厚なオレでも手が出ちゃうよ? 出ちゃうよ?」
('A`)「ふう」
( ^ω^)「ボクと兄者がふざけている間に一糸纏わぬ姿になってるだと……」
( ´_ゝ`)「流石だなドクオ」
('A`)b グッ
-
服もズボンも絞ってはみたが、きた当初ほどの軽さは戻らない。
湿っているため、肌につく感覚は気持ちの悪いものであるし、不愉快この上ないことは変えられない。
( ´_ゝ`)「ささっと帰れば、いつも通りの服が待ってるさ」
兄者の言葉に頷き、ブーンとドクオも後に続く。
道順は覚えていたし、通った跡がしっかりとついているので、道に迷う心配はない。
もう少しすれば正規の道が見えてくるはず。と、いったところでブーンが声を上げる。
( ^ω^)「おっ」
兄者の後ろ、ドクオの前を歩いていたブーンが、木の葉の上に何かを見つけたようだ。
そっと手を伸ばし、その何かを掴む。
( ^ω^)「ドクオ、ドクオ」
('A`)「ん?」
飛んでいる鳥を見ていたドクオは、ブーンがおこなった一連の動きを見ていなかった。
そのため、何の疑いもなく、ブーンの手を間近で見てしまった。
(;゚A゚)「うわあああああ!」
ブーンの人差し指と親指の間に挟まれていた何か。
それはうねうねと、足があるのかないのかわからない体を動かしていた。
少しでも力を加えれば、体液を巻き散らして真っ二つになるであろうそれ。
芋虫だ。
-
(;゚A゚)「なななああああ!」
混乱しているドクオはわけのわからない言葉を発しながら後ろへ下がる。
驚いている彼の姿にブーンはご満悦だ。
(;゚A゚)「ブーン! てめえ、このやろ――」
ドクオの言葉が途切れる。
後方の騒ぎに気づいた兄者が振り返った。
( ´_ゝ`)「あっ」
後ろに下がっていたドクオは、真後ろではなく、斜め後ろに下がっていたらしい。
先ほど通った道ではないところに足を置いた結果、そこは地面がなかった。
( ゚ω゚)「ドクオ!」
重力に従い、下に姿を消そうとしたドクオの手をブーンが握る。
無論、その手にはもう芋虫はいない。
勝手に掴まれた芋虫は、地面に放り出されたようだ。
(;´_ゝ`)「ドクオ! ブーン!」
兄者も駆けたが、寸前のところで手が届かない。
二人が下へ落ちていくのを見ていることしかできなかった。
-
( ω )「うっ。う……」
( A )「あー。いてぇ……」
(;´_ゝ`)「二人共、大丈夫か?」
幸い、それほどの高さはなかった。
落下した二人は痛みに呻いているものの、目だった外傷はない。
( ^ω^)「……ドクオ、すまんかったお」
('A`)「いや、大丈夫だ。オレの不注意だった」
上半身を上げた二人は、一先ず謝罪の言葉を口にする。
そもそも、ブーンが芋虫を掴まなければ良かったのは、全くもってその通りだ。
しかし、ドクオは自分を助けようとしてくれたブーンの優しさを知っている。だからこそ、責めるのではなく、別方向の謝罪を口にする。
( ´_ゝ`)「無事なら良いんだ。登れそうか?」
木の根や幹を掴みながら降りてきた兄者が問う。
二人は少し間を置いてから立ち上がろうとしたが、同時に地面に尻をつく。
(;^ω^)「足をくじいたみたいだお」
(;'A`)「オレも」
-
(;´_ゝ`)「マジか……」
ドクオだけならば、兄者が背負うこともできただろうが、それでも元のルートに戻ることは難しい。
そこにブーンという体格の良い男まで加わればなおさらだ。
( ^ω^)「一先ず、兄者が助けを呼んでくるってのはどうだお?」
('A`)「ロープがあれば、登りやすくもなるだろうし」
(;´_ゝ`)「しかしだなぁ……」
山に誘ったのは兄者だ。
友達を怪我させてしまったという罪悪感は重い。
( ^ω^)「ここでじっとしていても仕方ないお?」
正論だ。
ここが正規ルートならばともかく、獣道を進んだ先では、すぐに誰かが通りかかるはずもない。
それほど元の道と距離が離れているわけではないはずなので、声を上げることも考えられるが、
そもそもが山なので人がいるかわからない。無駄な体力を使うのは回避したいところだ。
(;´_ゝ`)「…………」
スマホを見る。
先ほどまではカメラとして活躍していてくれたが、電波マークは圏外を示している。
電話としての役割は放棄されていた。
-
( ^ω^)「兄者」
ブーンが背中を押すように言う。
しかし、兄者もすんなりと頷くことができない。
凶暴な獣が出るという話は聞かないが、正規の道から外れた場所だ。
毒蛇辺りならばいても不思議ではない。
ただでさえ身動きの取れない二人を放置していくことはできない。
('A`)「お前のそういうところは嫌いじゃねぇよ?
でも、とりあえず助けは必要だろ」
( ^ω^)「このまま日が暮れたら風邪、最悪の場合は肺炎なんてこともありえるお」
三人の服は湿っている。
今はまだ暖かさが残っているが、日が暮れれば途端に冷え込むことは必至。
まだ高校生の身で死にたくはない。
(;´_ゝ`)「本当に大丈夫か?」
('A`)「任せとけ」
( ^ω^)「ちょっとくらいなら動けるし平気だお」
-
兄者が降りてきた斜面に近づく。
(;´_ゝ`)「蛇とか、虫とか……」
('A`)「虫のことは言うな」
ドクオが耳を塞ぐ。
彼の虫嫌いは今回の件で間違いなく悪化しただろう。
( ^ω^)「でも早めに頼むお」
張り付く服が気持ち悪い。
地面に尻をつけているので土が気持ち悪い。
この場にいて良いことなど一つもありはしない。
('A`)「兄者も気をつけろよ?」
斜面を登る際に頭から落ちたら危険だ。
落ち葉のクッションがあるとはいえ、その下に尖った岩が隠れていないとも限らない。
( ´_ゝ`)「・・・ああ」
兄者が近くに出てきていた木の根を掴む。
( ´_ゝ`)「あ?」
手に力をこめ、登ろうとしたとき、上から何かが降ってきた。
-
(´<_` )
見上げると、斜面の上には兄者と同じ顔がある。
( ´_ゝ`)
兄者はそれを確認すると、自分の頭にぶつかった物を確認する。
それはロープの先端だった。
逆の先端は弟者が近くの木に括りつけているのが見える。
(;'A`)「兄者……?」
( ´_ゝ`)「……ドクオはオレが負ぶって行くわ」
不安気な二人を他所に、兄者はドクオの前にしゃがみ、背中を向ける。
(´<_` )「その前に一発殴らせろ」
ドクオが兄者の背中に体を預ける前に、弟者の声が届く。
ロープを使って降りてきたようだ。
-
誰かが何かを言う前に、派手な音がした。
見れば兄者が木の葉の中に倒れこんでいる。
呆然とその様子を見ていたドクオは、兄者が川で溺れたときのことを思い出した。
あの時も、こんな風だった。
(´<_`# )「馬鹿なの? 学習能力がないの?」
マウントを取ろうとする弟者の姿に、呆然としていたドクオとブーンが慌てて制止の言葉をかける。
こんなところで流血沙汰の喧嘩を起こされては困る。
せめて家に帰る目処がたってからにして欲しい。
(;^ω^)「うわー! やめるお!」
(;'A`)「一先ず、一先ず! 登ろう!」
(´<_` )「……」
二人の声に、弟者が止まる。
未だに不機嫌そうな面ではあるが、どうにか拳を収めさせることに成功したようだ。
盛大な舌打ちには聞こえぬふりをしておく。
-
(´<_` )「肩貸すけど、登れそうか?」
(;^ω^)「頑張るお」
長身の弟者とはいえ、ブーンを背負うことはできない。
彼は身長が低いわけではない。その上、横幅が広いので重い。
細身の双子の背には終えない体形だ。
( ^ω^)「……あの」
(´<_` )「ん?」
( ^ω^)「どうして、こんなところに?」
斜面を登りながら尋ねる。
ブーン達がいるところは正規の道ではない。
偶然通りかかったというには不自然すぎた。弟者の手にはロープまで握られていたのだ。
携帯電話が繋がらないこの場所で、誰が救援要請を出せたというのだ。
ましてや、兄者を含めた三人全員が弟者の電話番号を知らない。
(´<_` )「オレ達は普通の兄弟だからな」
( ^ω^)「お?」
(´<_` )「兄者が遊びに行った場所も、しそうなこともわかってる」
-
感情の色が薄い声で答えが返ってきた。
( ^ω^)「でも……」
( ´_ゝ`)「ブーン、大丈夫かー?」
さらに問いかけを続けようとしたとき、下から声がかかる。
ある程度は自力で登らなければならないブーンのことを心配しているのだ。
タイミングが悪いとはいえ、責めることはできない。
( ^ω^)「大丈夫だおー」
( ´_ゝ`)「よーし。あと少しだから頑張れよー」
兄者の声かけに、ブーンは親指を立てる。
空気が変わってしまったため、ブーンは弟者にするはずだった問いかけを飲み込んでしまう。
気にはなるが、問い詰めなければいけないことでもない。
ブーンは自分を納得させ、斜面を登ることに集中した。
-
( ´_ゝ`)「到着!」
('A`)「ありがとな。降ろしてくれ」
( ´_ゝ`)「だが断る」
(;'A`)「何でだよ」
( ´_ゝ`)「しっかり送り届けないとな」
兄者はドクオを降ろさず、正規の道へ向かって歩き始める。
弟者とブーンは既に先を行ってしまったようで、姿は見えない。
('A`)「ブーンは大丈夫かねぇ」
( ´_ゝ`)「弟者がちゃんと送り届けてくれるさ」
('A`)「え」
( ´_ゝ`)「え?」
('A`)「弟者が?」
( ´_ゝ`)「オレは分裂できないからな。
先にブーンを送り届けて、次にドクオ。って手もあるが、体力的にキツイ。
何より、この状態だとブーンに肩貸せないし」
-
口にしてみれば正論なような気がするが、ブーンを送り届けるのはよりにもよって弟者だ。
仲の悪い双子の片割れ。
日常生活中でも、極力片割れには近づかない、接しないを自分達の中に植えつけてきた双子の友達としては衝撃的な出来事だ。
('A`)「それは……心配だ」
( ´_ゝ`)「道に迷ったりはせんよ」
('A`)「そういうのじゃなくて」
ドクオの脳内には、溺れかけた双子の兄を殴る弟者の姿が描かれている。
あの男が、ろくに動けないブーンを送り届けているところなど想像もつかない。
( ´_ゝ`)「お前らは弟者のこと苦手みたいだけどさ、オレの双子の弟だぜ?」
('A`)「知ってるよ。仲の悪い双子」
(;´_ゝ`)「誤解だって。普通の兄弟だよ。普通の」
普通の兄弟は、出会い頭に兄を殴ったりしないはずだ。
( ´_ゝ`)「ま、今日はオレの顔に免じて信じてやってくれよ」
('A`)「……助けてもらったしな」
( ´_ゝ`)「そうそう」
-
足を挫いた二人だったが、それほど酷いものではなかった。
翌日の休みをだらだらと過ごし、月曜日にはいつも通りの場所で兄者を待っていた。
('A`)「酷い目にあったぜ」
( ^ω^)「まったくだお。ボクも悪かったけど」
一昨日のことを話している二人の近くには、全く別の話をしているショボンとモララーがいる。
変わり映えのしないいつも通りの風景だ。
(メ´_ゝ`)「おっす。おはよー」
('A`)「おは……って、どうしたんだその怪我!」
やってきた兄者の顔には傷や青痣がある。
どうみても転んでできたような怪我ではない。
(´<_`メ)「おはよう」
(;´・ω・`)「うん。それで、その怪我はどうしたんだい?」
弟者の方にも似たような怪我が刻まれている。
推理するまでもなく、これは兄弟喧嘩の末に出来たものだとわかった。
-
(;^ω^)「また派手にやったおね」
(メ´_ゝ`)「ついキレちゃった」
テヘペロ。とでも言いそうな声色で言うが、内容が内容なだけに殺伐とした印象を拭いきれない。
これはまた仲が悪いという噂に尾ひれがつきそうな姿だ。と、双子の友人達は思う。
とうとう殺し合いでも始めたのか。等という噂が広がるのが目に見える。
( ^ω^)「一昨日は、実は仲が良いんじゃないかって思ったりしたんだけど」
('A`)「二人でいるとき何かあったのか?」
( ^ω^)「ほとんど無言だったお」
(メ´_ゝ`)「面倒くさがりだからな」
相変わらず、兄者と弟者はお互いを見ない。
声をかけることすらしなければ、片方の会話に入ってくることもない。
(´<_`メ)「大丈夫だって」
(;´・ω・`)「でも……」
( ・∀・)「このくらいで死なないってば」
(;´・ω・`)「それはわかってるけどさぁ」
-
::(メ´_ゝ`):: ゾワッ
一瞬、兄者は視線を感じた。
ほとんど無意識のうちに顔をそちらに向けてみたが、その時には既に視線は消えていた。
('A`)「どうした?」
(メ´_ゝ`)「……何でもない。早く学校に行こうぜ」
兄者が歩き始めると、ドクオとブーンがそれに続く。
話題はすぐにゲームのことに変わった。
先日購入したゲームについて和気藹々と話ながら歩いて行く姿は一人が怪我をしているとは思えないほど楽しげだ。
(´・ω・`)「……痛い?」
(´<_`メ)「痛いか痛くないかで聞かれれば」
( ・∀・)「怪我ってそういうもんだよ」
大人しいショボンは喧嘩などしたことがない。
だからこそ、不良は怖いし、危ないことはしたくない。
(´・ω・`)「酷いね」
-
(´<_`メ)「喧嘩だからな」
(´・ω・`)「でも、こんな怪我するような喧嘩……」
双子の喧嘩に関しては今さらすぎる言葉だ。
喧嘩を始めれば、血は出さないまでも、互いに痣を残す程度には殴りあう。
もう何年も当然のように受け止められてきたが、ショボンは未だにそれを成すことができない。
( ・∀・)「喧嘩両成敗って言葉もあるんだからな」
(´・ω・`)「モララーは兄者の味方をするの?」
(;・∀・)「味方って大げさな……。
喧嘩の理由もわからないのに、片方だけを責めるのは違うだろ」
(´・ω・`)「でも、兄者だよ?」
(´<_`メ)「ショボン」
兄者の素行の悪さを続けようとしたショボンの言葉を遮る。
相変わらずの無表情ではあるが、弟者の一言はショボンの口を閉じさせる強さがあった。
-
(´<_`メ)「オレは悪かったと思ってないよ」
(´・ω・`)「そうだよね!」
(;・∀・)「普段は仲悪くないって言うくせに……」
喧嘩の後だからか、本当に正当な理由があったのかまではわからない。
弟者はきっぱりと自分は悪くないと言いきった。
弟者を盲信しているような気のあるショボンがその言葉に乗りかからないわけがない。
目を輝かせて頷いている。
モララーも、弟者と兄者の二人を並べられて、どちらが悪いか決めろと言われれば、兄者を指差す。
友達の肩を持つことはおかしなことではない。
だが、何があったのかを知り、それから答えを出す猶予くらいは欲しいものだ。
(´<_`メ)「遅刻するぞ」
(´・ω・`)「そうだね」
歩き始めた二人の後にモララーも続く。
数歩行けば、しかたないことだと割り切ることもできた。
( ・∀・)「そういえば昨日さー」
-
双子の姿は予想通り、学校中に賑わせた。
教師陣は呆れ返り、生徒達は近いうちに校庭でデスマッチをするのではないかという勝手な噂をバラまく。
当の双子は、そんな噂など鼻で笑い飛ばしていた。
どれだけ否定したところで、その言葉が広まることはない。
ならば、目一杯楽しんだ方がお得だ。
( ・∀・)「怪我は治っても、噂は収まらなかったね」
(´<_` )「今に始まったことじゃない」
(´・ω・`)「下級生達はデスマッチの噂で持ち切りみたいだよ」
( ・∀・)「うへ。なんで、そんな噂信じるのかねぇ」
(´・ω・`)「さあ? いくら何でも信憑性がなさすぎるって考えてもよさそうだけど」
( ・∀・)「刺激に飢えてるってことなのかね」
(´・ω・`)「だからって血生臭い噂を広めなくてもね」
( ・∀・)「オレなんて、この間塾で、とうとう刃物を持ち出したんですか? って聞かれたよ」
(´・ω・`)「かなり尾ひれがついてるね」
- 実害らしい実害は、今のところない。
双子の間の空気は変わりようがないし、片方に熱烈すぎるファンがいるわけでもない。
喧嘩の件で母者に怒られたこと以外には、普段と変わらぬ平和な日常が続いているだけだ。
今さら、適当な噂の一つや二つで生活は変わらない。
教師達もたかが噂と割り切っているのか、下手に話を聞こうともしてこない。
ミセ*゚ー゚)リ「弟者君! おはよう!」
(´<_` )「おはよう」
ミセリが教室に入ってきた。
隣のクラスとはいえ、用事がなければやってくることはないだろう。
ミセ*゚ー゚)リ「あのね、こんどはマフィン作ったの」
そう言って差し出されるのは、いつか見たような可愛らしいピンクのラッピング。
( ・∀・)「あー。弟者いいなぁ」
モララーが冗談交じりに手を出そうとしたが、可愛らしいラッピングが姿を消した。
顔を上げると、ムスッとしたミセリと目があう。
ミセ*゚Д゚)リ「もー。これは弟者君にあげるの!」
( ・∀・)「ちぇー」
手が下げられたことを確認すると、ミセリは改めて弟者へピンクの物を差し出す。
前回は勉強を教えたという理由があったため、プレゼントをもらうことも理解できた。
しかし、今回は特に何かをした覚えはない。
-
首を傾げると、ミセリは少し顔を赤くする。
言いにくそうに、一度顔を下に向け、意を決したかのように上げる。
ミセ*゚ー゚)リ「また、勉強……教えて欲しいの」
(´<_` )「ああ、前払い」
納得したように手を叩く。
ミセ*゚ー゚)リ「はっきり言うと、そういう感じ」
半ば無理矢理、弟者にプレゼントを持たせる。
ミセ;-Д-)リ「ちょっと成績が落ちちゃってて……。
お母さん達がいないから、ちょっと気が緩んじゃってたみたい」
今はいいが、両親が帰ってきたときに、大きすぎる雷に打たれてしまうのは回避したい。
ミセリは顔の前で手を合わせる。
ミセ;>ー<)リ「お願い! 私に勉強を教えてください!」
(´<_` )「別にそれくらい、いいよ。わざわざお菓子をくれなくても」
ミセ*゚ー゚)リ「本当に?!」
(´<_` )「うん」
-
ミセ*゚ー゚)リ「ありがとう!」
プレゼントのリボンを弄っていた弟者の手を取る。
クラスにいる何人かの男子が、羨ましそうな目でその光景を見ていた。
ミセ*゚ー゚)リ「じゃあ、メルアド交換しようよ」
(´<_` )「いいよ」
今度はクラスの女子が羨ましそうな目をする。
弟者はモテるが、その雰囲気や口数の少なさから、メールアドレスを交換するところにまで至る女子は少ない。
ミセリの積極性が、この偉業を成し遂げたとも言える。
二人の携帯電話が赤外線で繋がる。
ミセ*゚ー゚)リ「ありがとう!
じゃあ、またメールするね!」
パタパタと足音を立ててミセリが立ち去る。
教室の前にかけられている時計を見れば、そろそろHRが始まる時間だ。
( ・∀・)「まったく。モテモテで羨ましいね!」
(´・ω・`)「モララーも告白されたことあるじゃないか」
( ・∀・)「勿論さ!」
-
ミセ*゚ー゚)リ「やった。やったぁ!」
浮かれた足取りで廊下を駆ける。
頬はわずかに赤く染まっていた。
喜びのあまり、両手で頬を包む。可愛らしい仕草ではあるが、前方不注意を呼び起こす。
ミセ*>Д<)リ「キャッ!」
誰かにぶつかってしまったミセリは、後ろによろめく。
( ´_ゝ`)「おっと」
倒れる前に、ぶつかった相手、兄者がミセリの腕を掴んだ。
反対の手には珈琲の缶が握られている。
( ´_ゝ`)「大丈夫?」
ミセ*゚ー゚)リ「……はい」
( ´_ゝ`)「あ、ミセリちゃんか」
ミセリの顔を見て、兄者は先日、ドクオが言っていた言葉を思い出す。
( *´_ゝ`)「お菓子作るの上手なんだってね」
ミセ*゚ー゚)リ「まあ、それなりに」
( *´_ゝ`)「今度オレにも作ってよ!」
-
楽しげに話す彼の姿は、先ほどまでミセリが胸を高鳴らせていた人物と同じ顔をしている。
だが、その口から出る言葉の一つ一つが、体から発せられるオーラが違う。
ミセ*゚ー゚)リ「機会があれば」
( *´_ゝ`)「本当に?! うっひょう!」
('A`)「それお世辞だから。早くクラスに帰れ」
彼らがいたのは教室の扉の前。
クラスに戻ってこようとした人間にとって、邪魔この上ない場所だ。
( ´_ゝ`)「おっと、すまん」
((ミセ*゚ー゚)リ
兄者が体を退くと、ミセリが教室の中へ足を進める。
自分の席につき、近くの友達と言葉を交わす。
( ´_ゝ`)+「きっと、オレの話をしているに違いない!」
('A`)「だとしたら悪口だろ」
( #´_ゝ`)「お前にはオレの魅力が理解できていないだけだ!
再び扉の前で兄者は話を始めた。
そろそろチャイムが鳴る時間だ。
-
from:ミセリ
sub:今日はありがとう(><)
―――――――――――――――――
メールするのにドキドキしちゃって、夜になっちゃったv
マフィン美味しかった? 口に合えばいいんだけど……(・ω・)
そうそう、言ってた勉強なんだけど、折角だし休みの日に朝から私の家でしない?
今は親もいないし、のーんびりできるよ! あ、のんびりしてちゃだめか☆
ちなみに、お泊りは駄目でーす!(><)
期待しちゃった? 嘘嘘! 弟者君に限って、そんな期待してないよね……。
私にもっと魅力があればなー(;;)
from:弟者
sub:
―――――――――――――――――
まだ起きてたからいいよ
マフィンは美味しかった
ありがとう
別にいいけどミセリの家の場所がわからない
住所を教えてもらえれば自分で調べるよ
ちょっとドキッとしたよ
-
天気に恵まれた週末、ミセリは部屋を掃除した。
約束の時間までもうすぐだ。
ミセ*゚ー゚)リ〜♪
花瓶に花を活けてみたりしてみる。
すると、あっという間に可愛らしい部屋のできあがりだ。
ピーンポーン。
ミセ*゚ー゚)リ「はーい」
呼び鈴の音にミセリは駆ける。
途中、お客様用のスリッパの位置を綺麗に揃え、深呼吸をする。
ドアノブに触れ、扉を開ける。
ミセ*゚ー゚)リ「いらっしゃい」
今日は二人っきりで勉強をするのだ。
飲み物もお菓子も用意した。
万が一のことを考えて、夕飯用の材料も購入済みだ。
ミセ*゚ー゚)リ「上がって」
( ´_ゝ`)「うん。そうさせてもらうよ」
-
(´・ω・`)「……」
ショボンは困っていた。
休みを利用して図書館に行こうとしていたのだが、途中で兄者を見かけた。
始めは弟者だと思って声をかけたのだが、戸惑うような表情で彼が弟者ではないのだとわかった。
そそくさと行ってしまった兄者のことなど、普段ならばすぐに忘れる。
しかし、今日は違った。
(´・ω・`)「向こうは、ミセリさんの家がある方だよね」
ミセリの両親がそろって海外に行ってしまったとき、ショボンは彼女と同じクラスだった。
一人暮らしを余儀なくされた彼女のことは話題になったし、女子特有の謎展開で手紙を書く流れができていた。
結局、ショボンは手紙を書かなかった。朝の挨拶程度しかしたことのない相手に書く内容が思いつかなかったのだ。
しかし、住所は覚えている。記憶力には自信があった。
勿論、兄者がミセリの家に行ったという証拠はない。
周辺の店に用事があってもおかしくはない。
珍しく友達も連れず、一人で歩いていることも、たまにはそういう気分の日がある。で、片付けることができる。
(´・ω・`)「弟者にメールしてみようかなぁ」
それでも、ショボンは何故か気になってしまった。
-
弟者がミセリの家へ行くことは何度か話題に出たので知っている。
羨ましいと叫び声を上げたモララーの姿を思い出すのは容易だ。
兄者がそのことを知っているかはわからないが、どこからか話が流れている可能性は十分にある。
彼らは言うまでもなく双子で、外見はそっくりだ。
何らかの方法で弟者を家に留め、兄者がミセリの家に行くことも、不可能ではないはずだ。
いつも赤点ギリギリの兄者が勉強を教えることができるかは別問題として。
携帯電話を取り出し、メール画面を開く。
from:ショボン
sub:
―――――――――――――――――
ミセリさんの家にちゃんと着いた?
-
余計なことを書いて、不審に思われたくない。
ショボンは完結なメールを作り、送信ボタンを押した。
近くのガードレールに腰を降ろし、返信を待つ。
十分ほど待っても返ってこないようならば、二人で勉強しているに違いない。
(´・ω・`)「あ……」
意外なほど早い返信。
手にしていた携帯電話が震える。
(´・ω・`)「早いなぁ」
受信ボックスには、間違いなく弟者の名前が書かれている。
from:弟者
sub:Re:
―――――――――――――――――
兄者を見たのか。
-
from:ショボン
sub:Re:Re:
―――――――――――――――――
うん。
ミセリさんの家の方に歩いていったんだけど……。
from:弟者
sub:Re:Re:Re:
―――――――――――――――――
把握した。
from:ショボン
sub:Re:Re:Re:Re:
―――――――――――――――――
何かあったの?
-
後はどれだけ待ってもメールの返信はこなかった。
(´・ω・`)「やっぱり、兄者がミセリさんを狙って家に行っちゃったのかな」
犯罪臭いことだが、兄者ならやりかねない。
ショボンは携帯の画面を見ながら考える。
おそらく、弟者はミセリの家に向かうだろう。
どこかで合流できればいいが、彼女の家に行く道は複数ある。
メールが返ってこない現状では合流するのは難しい。
(´・ω・`)「警察。は、やりすぎだよね」
何が起こっているのかもわからないのに通報はまずい。
弟者が兄者と流血沙汰の喧嘩をしていないとも限らないわけで。
けれども、ショボンの脳内ではミセリを襲う兄者の図ができあがっていた。
一刻も早くミセリを救出する必要がある。
それに伴い、弟者を殺人犯にしないことも重要な使命となる。
ショボンは走り始めた。
合流できないのならば、先に行けばいい。
-
ミセ*゚ー゚)リ「えっとね、まず数学なんだけど」
( ´_ゝ`)「うん」
ミセリがテーブルに教科書とノートを広げる。
兄者は書かれている文字に目を通す。
( ´_ゝ`)「部屋、可愛いね」
ミセ*゚ー゚)リ「え! 本当?」
( ´_ゝ`)「うん」
嬉しそうに笑うミセリは、頬を赤くする。
どこか幼さの残る仕草ではあるが、彼女の愛らしさを最大限に見せつける。
ミセ*゚ー゚)リ「こういう部屋、好き?」
( ´_ゝ`)「嫌いじゃないよ」
ミセ*゚ー゚)リ「そっかー」
-
兄者がシャーペンを取り出そうと、テーブルの上に出しておいた筆箱に触れる。
すると、ミセリが兄者の手に触れた。
ミセ*゚ー゚)リ「覚えてる?」
( ´_ゝ`)「ん?」
ミセ*゚ー゚)リ「始めて会ったときのこと」
ミセリはうっとりと微笑む。
大切な宝物を愛する人へ見せるときのような、慈愛と優しさと、恍惚に満ちた笑みだ。
ミセ*゚ー゚)リ「私、泣いてたの」
過去に思いを馳せる。
まだ、双子の仲が悪いのだという噂が、それほど広まっていなかった頃の話だ。
ミセ*゚ー゚)リ「いっぱい、いっぱい嫌なことがあった日で、ちょっと落ち込んでたの。
それなのに、帰り道に転んじゃうし、手作りのブレスレットは千切れちゃうし……。
とても悲しかったの」
-
瞳を閉じれば、その時の光景が目蓋の裏に浮かんでくるのだと言う。
兄者は黙ってミセリの話に耳を傾けていた。
ミセ*゚ー゚)リ「そしたらね、弟者君がきてくれたの。
『大丈夫?』って。
たった一言だったけど、ハンカチを貸してくれた。
千切れたブレスレットのビーズも集めてくれた」
ミセリは兄者から手を離すと、立ち上がり、おそらく自室であろう部屋に入っていく。
少し待っていると、再び彼女が顔を出す。
その手には、水色のハンカチがあった。
ミセ*゚ー゚)リ「遅くなっちゃったけど、返すね」
照れながらハンカチを手渡す。
兄者は黙ってそれを受け取った。
ミセ*゚ー゚)リ「あの日から、私、ずっと弟者君が好きだったの」
けれど、弟者は当時から女子に人気だった。
当時、地味でイジメの一歩手前まできていたミセリでは到底近づくことなどできない。
正真正銘、高嶺の花だった。
ここまでくるのに、精一杯の努力をしたのだそうだ。
可愛くなるために、綺麗になるために、周りの女子と比べて一つ抜きん出るように。
-
ミセ*゚ー゚)リ「ねえ? 覚えてた?」
( ´_ゝ`)「ああ……」
期待に満ちた目が向けられ、兄者は答える。
( ´_ゝ`)「それは、間違いなくオレだよ」
ミセ*゚ー゚)リ「本当に?」
( ´_ゝ`)「うん。本当だよ」
兄者が頷くと、ミセリは喜びを隠すことなく顔に出した。
そして、喜びの勢いのままに兄者に抱きついた。
ミセ*>ー<)リ「嬉しい!」
普段とは全く違う女の子の態度に、兄者は顔が赤くなる。
気軽に声をかける女友達はいるが、こういった態度は始めてだ。
心臓の音がバレないか心配になる。
ミセ*^ー^)リ「じゃあ、結婚しようよ」
-
( ´_ゝ`)「え?」
思わず聞き返す。
何か、勉強をしにきたにしては相応しくない言葉があった。
ミセ*^ー^)リ「ふふ。今すぐじゃなくてもいいよ。というか、今すぐは無理だしね」
ミセリがポケットから銀色の鍵を取り出す。
有無を言わせぬ力でソレを兄者に渡した。
ミセ*^ー^)リ「私は理解ある女だから。
ご両親にも挨拶するし、弟者君が女友達と遊んだり会話しても気にしないよ。
弟者君が結婚できる歳まで待つし、ちゃんと弟者君の気持ちが固まるまで待つよ。
でも、結婚はともかく同棲は早くしたいなぁ。
同棲って勇気がいるよね。お互いの生活習慣も違うし。
でも私はちゃんと弟者君にあわせるよ?
バターは平らになるように使っていく派だよね。
靴下は脱ぐときまとめるし、洗濯粉はあるふぁだよね。
歯ブラシは二ヶ月に一度、新しいのを用意する。
鳥肉好きな弟者君のために、鳥肉を使った料理をたくさん覚えたの。
安心して? 私は料理に血とか混ぜないから! 弟者君の体が心配だもの!
朝は五時半に起きて、一緒にジョギングしようね。
夜は十時に寝て、明日の朝に備えるんだよね。でも、次の日が休みだと、ちょっと夜更かし。
そうそう、セーラー服は卒業してもちゃーんと取っておくね!」
-
つらつらと語られるのは個人情報や、家族でも気にしていないような些細な癖。
笑みを浮かべているというのに、刺されるのではないだろうかという不安感がわいてくる。
ミセ*^ー^)リ「一緒に住むようになったら、私のコレクションを、たーくさん見せてあげるね!」
そのコレクションの詳細は、できることならば聞きたくない。
どうせ写真や使用済みの何かなのだろう。
ミセ*^ー^)リ「私ほど弟者君のことを知っている人間はいないよ?
だから、弟者君を誰より幸せにできるのは私なんだよ」
両手を広げ、褒めてもらいたがっている子供のような表情を浮かべる。
言葉と合っていない表情を見ながら、兄者は立ち上がる。
( ´_ゝ`)「確かに、よく知ってるね」
ミセ*^ー^)リ「でしょ?」
( ´_ゝ`)「うん。家族よりも知ってる」
ミセリの頭を撫でる。
満足そうな彼女に、少し待っていてと言い残し、席を離れる。
向かう先にあるのは洗面所とトイレと玄関だ。
洗面所で少し頭を冷やそうというのだろう。
その証拠にすぐに水の音が聞こえてきた。
できる女であるミセリはそれをじっと待つ。
-
( ´_ゝ`)「ありがとう」
ミセ*^ー^)リ「どういたしまして」
わずかに毛先が濡れたままの兄者が戻ってくる。
そんなところも可愛い。と、ミセリが思ったのは、愛ゆえにだ。
ミセ*^ー^)リ「ねえ。だから、私と一緒になろう?
一戸建ての家を買って、子供をいっぱい作ろうよ」
改めて言葉を紡ぐ。
彼女の表情は変わらず、ただただ夢を見ている。
赤い屋根の庭つき一戸建て。ゴールデンレトリバーがいる暖かい家庭。庭には四季折々の花が咲く。
( ´_ゝ`)「でもさ、不思議なんだ」
ミセ*^ー^)リ「何が? 私が弟者君のことをよく知ってるのは、愛の力だよ?」
( ´_ゝ`)「そうじゃなくてさ」
兄者は言葉を区切った。
静かな部屋に、次の言葉を響かせる。
( ´_ゝ`)「――そこまで知ってて、どうしてオレと弟者の区別がつかないんだろうね」
-
ミセ*゚ー゚)リ「ふえ?」
ミセリの時が止まる。
( ´_ゝ`)「オレも知らないようなこと、たくさん知ってたね。
でも、オレ、兄者と弟者の区別がつかないんだね」
ミセ*゚ー゚)リ「……嘘」
( ´_ゝ`)「嘘じゃないよ。わかるだろ?
キミの知ってる弟者は、こんな喋り方をするかい?
まあ、弟者が兄者のフリをしている可能性も否定できないけど」
ミセ*゚Д゚)リ「……違う」
( ´_ゝ`)「その通り」
ミセ*゚Д゚)リ「あんたは、弟者君じゃない!」
ミセリが床を叩いた。
部屋に激しい音が響く。
- ちょっと飯作ってくる
信じられるか?これで半分くらいなんだぜ……?
ちなみに昨日投下しなかったのは完成したのが今日だからだよチクショー
- 夢紡ぐ面白いよな
食いながら投下する
-
( ´_ゝ`)「大正解だよ。でも、キミはずっと間違い続けていたんだ」
悠々とした表情で兄者は言う。
ミセリは踵を返し、台所へ向かった。考えられるのは、ただ一つ。
( ´_ゝ`)「オレは兄者で、弟者じゃない」
ミセ#゚Д゚)リ「私を騙したな!」
叫ぶ彼女の手には、光を反射して恐ろしい輝きを見せている包丁が握られている。
ドラマやアニメの中でしかお目にかかれないような、そしてできることならば、一生お目にかかりたくないような状況だ。
( ´_ゝ`)「勝手に間違えたのはキミの方だろうに」
兄者は立ち上がり、ミセリと対面する。
( ´_ゝ`)「最初の最初から、ね」
ミセ#゚Д゚)リ「私と弟者君の間を裂くなんて許さない!」
( ´_ゝ`)「キミは始めて弟者と出会ったときの話をしてくれたよね。
でも、あれはオレだよ?」
ミセ#゚Д゚)リ「はあ? そんなわけないじゃない!
あれは弟者君よ。優しくて、寡黙で、素敵な弟者君よ!
弟者君を殴るような奴なわけない!
そうよ。弟者君を傷つけるような奴はここで殺してあげる!」
-
包丁の位置が上がる。
飛びかかるつもりか、走る勢いに任せるつもりか。
( ´_ゝ`)「オレは言っただろ?
『それは、間違いなくオレだよ』って」
ミセ#゚Д゚)リ「だから、それはあんたが――」
( ´_ゝ`)「このハンカチをあげるまで、オレは青色。弟者は緑色の物を使ってたんだ。
でも、他人がオレ達の区別をつけるために、オレ達が努力するのも面倒だから、好きな物を使うようになったんだ」
ミセ#゚Д゚)リ「この嘘つき! 嘘つき!」
ミセリが床を蹴る。
兄者は右足を後ろに移動させる。
( ´_ゝ`)「拾ったビーズは緑と黄色。形は丸いのと星型のもの。
あまり喋らなかったのは……ま、そういう気分だったんだと思うよ」
ミセ#゚Д゚)リ「黙れ!」
鋭い刃が兄者に突き刺さる前、兄者が体をそらした。
素通りしたミセリの腕を掴み、力を込める。
ミセ;゚Д゚)リ「痛い!」
( ´_ゝ`)「刺されたらもっと痛いじゃないか」
-
兄者の握力に負けたミセリは手にしていた包丁を落とす。
それでも手は離さない。すぐに包丁を拾い上げて襲ってこないとも限らない。
( ´_ゝ`)「この家を探せばストーカーの証拠も出てくるかね。
どちらにしても殺人未遂だけど、証人がいないしなぁ」
ミセ#゚Д゚)リ「この、クソ野郎!」
怒声と共に彼女の拳が兄者の鳩尾を突く。
(;´_ゝ`)「うっ……」
いくら女相手とはいえ、油断しているところに鳩尾は痛い。
金的を狙われなかっただけマシというところだろうか。
呻いた兄者はミセリを掴んでいた手を離してしまう。
当然、彼女は落ちてしまた包丁を掴む。
(;´_ゝ`)「これはまずい」
兄者は玄関へ向かう。
ミセ#゚Д゚)リ「逃がすとでも?」
ミセリが走り、包丁を振りかざす。
-
カチャリ。と、小さな音がミセリの耳に届く。
その音は鍵を回した時の音とよく逃げいた。
体はもう止まらないので、目だけを扉に向ける。
ガチャリ。と、大きな音と共に、外の光が見えた。
先ほどの音は間違いなく鍵を回した音で、今回の音は扉が開いた音だ。
(´<_`;)「やめろ! ミセリ!」
ミセ*゚Д゚)リ
扉の向こうから現れたのは、愛しい弟者だ。
(;´・ω・`)「兄者!」
止まらないミセリの体が、手にしている包丁が兄者を貫く前に、ショボンが叫んだ。
弟者の横から出てきた彼は、兄者の手を思いっきり下に引く。
(;´_ゝ`)「っと」
第三者の力によって、真下に引かれた兄者の体を包丁は捕らえることができなかった。
寸前のところで空振り、ミセリはその場に膝をつく。
-
ミセ*゚Д゚)リ「……弟者君?」
(´<_`;)「うん」
ミセ*゚Д゚)リ「……あのね、私、弟者君と始めて会ったとき、泣いてたと思うの」
床に膝をつき、弟者を見上げる。
ミセ*゚Д゚)リ「ねえ、そうだよね? 弟者君が私にハンカチを貸してくれて、散らばったビーズを集めてくれたんだよね?」
懇願の色を浮かべた瞳が向けられる。
弟者はじっとミセリの顔を見つめた。
(´<_`;)「オレが始めてミセリと話したのは、高校に入ってからだよ」
ミセ*;ー;)リ「…………そう、なんだ」
( ´_ゝ`)「ショボン、だよな?
すまないが警察に通報してもらえないか」
(;´・ω・`)「え、うん。そうだね」
詳しいことはわからないが、先ほどの光景を見るだけで警察を呼ぶには価する。
ミセリはポロポロと涙を流していたが、哀れに思ってはいけないのだろう。
-
(´・ω・`)「それにしても、ミセリさんの家の前に鍵が落ちてて助かったね」
警察にミセリが連れられ、三人は簡単な事情聴取を受けた。
帰宅できるようになった頃には、空は赤く染まり始めていた。
( ´_ゝ`)「そりゃ、オレが置いたからな」
(´・ω・`)「え?」
( ´_ゝ`)「鍵を開けておくだけでもよかったんだけど、気づかれたら困るから」
兄者の言葉に、ショボンは弟者を見る。
何故、弟者は置かれていた鍵を躊躇なく拾い上げ、扉を開けることができたのか。
飄々と言ってのける兄者に何か言うことはないのか。
思うところはたくさんあったが、弟者はそ知らぬ顔だ。
いつも通りの感情がわかりにくい表情で前を向いている。
( ´_ゝ`)「ありがとうな、ショボン。
お前がいなかったら、危うく刺されるところだった」
ヘラリと兄者が笑って礼を言う。
ショボはそれに答えようと口を開いたが、先に弟者の拳が兄者の顔に入った。
(;メ_ゝ`) (´<_` )
二人は一度顔をあわせたが、すぐにそっぽを向いてしまった。
-
警察の厄介になったミセリは学校を辞めた。
彼女の噂は一瞬で学校中に広まり、被害者である弟者は一時期注目の的となった。
兄者も被害者の一人であると言えるが、本人を含め、誰もあの場に兄者がいたのだとは口にしなかった。
そのため、あくまでも被害者である弟者と、加害者であるミセリのことしか噂には乗らなかった。
二週間程はその話で持ち切りになったが、強い刺激のあるニュースというのは、得てして忘れられるのも早い。
( ^ω^)「あっという間だったおね」
( ´_ゝ`)「何が?」
( ^ω^)「弟者とミセリのことだお」
('A`)「ああ、あの羨ましいヤツね」
( ´_ゝ`)「しかし、二次元属性は三次に出てきてはいかんな」
命の危機に瀕した兄者はしみじみと言う。
可愛いヤンデレも、現実世界に飛び出してきた途端、ただのキチガイ女だ。
-
( ´_ゝ`)「ところで、だ」
兄者が口角を上げる。
( *´_ゝ`)「明日、草咲高の女子バレー部が駅前にある体育館で練習試合だってよ!」
( *^ω^)「そ、それは、見学できるのかお?」
( *´_ゝ`)「勿論だとも!」
( *^ω^)「おおおおおお! それは行くしかないお!」
( *´_ゝ`)「そうだろうとも!」
二人はハイタッチをし、頬を緩ませる。
すでに、彼らの脳内では上下に跳ねるおっぱいと、惜しげもなくさらされる足が満ちている。
('A`)「あ……。オレ、ちょっと用事が……」
今にも涎を垂らしそうだった二人の間に割って入ったのはドクオだった。
二人は驚きに満ちた顔をする。
-
(;´_ゝ`)「ドクオ? どうしたというんだ」
(;^ω^)「女子の生足だお? 揺れるおっぱいだお?」
(;´_ゝ`)「ぷるんぷるんだぞ?」
(;^ω^)「合法的にそれらを拝めるんだお?」
ドクオのことを変態か何かだと思っているわけではない。
健全な男子学生よりも少しばかり奥手で、異性と直接的な関係を繋ぐことができない。
だからこそ、遠目で女子スポーツを見学し、その体や汗を楽しむことが好きなだけだ。
三人は共通した意思を持っているからこそ、こうして女子の情報を交換しあう。
いつもならば、最も喜び、顔を緩ませるドクオが、行かないというのだ。
多少の無理ならば通す男がだ。
('A`)「ちょっと……」
( ´_ゝ`)「無理にとは言わんが……」
('A`)「また誘ってくれよな」
( ^ω^)「撮れたら写真を撮ってきてやるお」
('A`)「サンキュ」
-
二人と別れた後、ドクオは顔をうつむけた。
('A`)「はあ……」
ため息をつき、目を伏せる。
本当は明日の女子バレーを見に行きたかった。
普段ならば這ってでも行ったはずだ。事実、インフルエンザにかかったときにはド這った。
体育館に入ることは拒否されてしまったが、そのくらい楽しみにしているイベントだ。
('A`)「……誰か助けてくれ」
一人呟く。
けれど、本気で誰かにすがれるほど、自分は強くないとドクオは知っていた。
簡単に誰かを頼れる人間は、自信のある強い人間だ。
頼ったとしても、鬱陶しいと思われない、助けてもらえる。
そんな風に思えることが、強さではないとどうして言える。
('A`)「くそ」
足元の小石を蹴る。
硬い音を立てて、石がアスファルトを跳ねた。
-
遡ること三日前。
ドクオは近所のコンビニにいた。
いつも、一通り店を回ってから、欲しい物を手に取る。
買う物は決まっているのだが、面白い物がないか探してしまう癖がついているのだ。
だが、その日は店に入った途端に目についてしまったモノがあった。
('A`)「げっ……」
思わず小さな声を上げる。
_
( ゚∀゚) (・∀ ・)
店員の迷惑や視線を気にしない横暴な態度はまさに不良。
床に座り込んで、雑誌を手に掛けている。
二人は学校で見た覚えのある顔だった。
上級生の不良だ。私服に着替えてはいるが、悪い意味で有名なので見間違えることがない。
('A`)「……」
触らぬ神になんとやら。
あの不良共が神であるなど思いもしないが。
-
不良のいるところを避けてお菓子のあるところへ行く。
新発売のうめぇ棒米味が気になっていたのだ。
( ^Д^)
しかし、そこにいたのはまたもや不良。
先ほどの二人とつるんで悪名高い三人組だ。
ドクオは迷った。少し別の場所で時間を潰せば、彼らも出て行くかもしれない。
もしくは、明日の朝に買って学校へ持って行くのもアリだ。
兄者やブーンと一口ずつ食べるのも悪くない。
('A`)「そうしよう」
リスクの少ない道を選ぶ。
そうと決まればすぐさまコンビニを出ようと、ドクオは体の方向を変えようとした。
( ^Д^)つ
('A`)
視界の端、ドクオは捕らえた。
不良の手には小さめのお菓子が。その手は自然な動作で、彼のポケットに入る。
-
万引きだ。
正確には窃盗だ。
(;'A`)
見なかったことにする選択肢は勿論存在している。
ちらりと店員の様子をうかがうと、今さっきおこなわれた犯罪行為には気づいていないようだ。
ドクオが口を閉ざせば、何も起こらない。
恐ろしい目にあうことも確実にない。
( ^Д^)「あ?」
一瞬の迷いが運命を変える。
ドクオが立ち止まっていることに気づいた不良が、ツカツカと間合いを詰めてくる。
思わず身を引き、逃げようとしたが、あっけなく捕まってしまう。
(;'A`)「あの、その……」
( ^Д^)「いやいや。友達にビビッてんじゃねーよ」
(;'A`)「え?」
不良はニヤニヤと笑いながら強引に肩を組んでくる。
体格の差があるので態勢が厳しい。
( ^Д^)「な?」
-
笑いながら、不良はドクオのポケットに先ほどのお菓子を入れた。
(;'A`)「あの」
( ^Д^)「あ?」
抵抗しようと手に力を入れたが、それ以上の力で返される。
助けを求めようと店員を見たが、向こうも厄介事に巻きこまれたくないのか、見ないふりだ。
_
( ゚∀゚)「どーしたよプギャー」
(・∀ ・)「何遊んでるんだよー」
雑誌コーナーでたむろしていた二人も近づいてくる。
( ^Д^)「いや、オトモダチと会ったからさぁ」
わざとらしい『オトモダチ』の発音に、二人の不良はプギャーの言わんとしていることを理解した。
_
( ゚∀゚)「そうか。なら、ちょっと場所変えるかぁ」
(・∀ ・)「だな! 店員さんに迷惑だしな!」
(;'A`)
店員への優しさを見せるくらいならば、偽りでもいいので、自分に優しくして欲しいドクオだった。
-
半ば引きずられるようにして連れて行かれたのは、人通りの少ない路地裏だ。
ビルから排出された生暖かい風がドクオの頬を撫でる。
( ^Д^)「オレらオトモダチだよな?」
三人に囲まれ、ドクオは体を小さくする。
自慢ではないが、不良に絡まれて殴られたことくらいならばある。
やるならさっさとやってくれればいい。
( ^Д^)「ほら、共犯だしぃ?」
プギャーがドクオのポケットからお菓子を出す。
すっかり忘れていたが、お菓子はドクオのポケットに入ったまま店を出た。
させられたとはいえ、万引きの実行犯はドクオということになる。
(;'A`)「いや、これは……」
_
( ゚∀゚)「言い訳は関心しねぇなぁ!」
(・∀ ・)「でも、オレらはオトモダチだし、黙っててやるよ?」
三人はニヤニヤしながらドクオを見下している。
有名な不良が何を言ったところで、地味なドクオの方を信じる者は多いだろう。
(・∀ ・)「他の友達にも言い聞かせておいてやるからな」
またんきが笑ってドクオの肩を叩く。
-
(;'A`)
『オトモダチ』とは明らかに違う『友達』
下手なことをすれば、不良仲間総出でドクオを袋にするということだ。
もしかすると、適当な証拠をでっちあげて噂を広められることだってあるかもしれない。
噂の恐ろしさというのは、それが事実であれ虚実であれ、他人に広まることだ。
その早さは尋常ではない。
_
( ゚∀゚)「でもさ、わかるだろ?」
(;'A`)
わかるわけがない。
出されている手のひらの意味など、わかりたくもない。
_
( ゚∀゚)「オトモダチ代ってあるだろ?」
ねぇよ。
言えたらどれだけよかっただろう。
悲しいかな。ドクオは中学時代から幾度となくカツアゲを受けてきた。
兄者やブーンといることが増えた頃から絡まれることはなくなったが、
体に根付いてしまったいじめられっ子としての性質はドクオの財布から二千円を失わせた。
-
それ以来、ドクオは定期的に『オトモダチ代』を三人の不良に渡している。
金額はバラバラだが、二千円以上は確実にむしられる。
バイトもしていないドクオにとって、この出費は痛い。
('A`)「あの」
(・∀ ・)「あ! ドクオ! オレ達のオトモダチ、ドクオじゃないか!」
( ^Д^)「で? 金は?」
廃墟で騒ぐまたんきと、冷静に手を出してくるプギャー。ジョルジュは奥でその様子を眺めていた。
ドクオは埃っぽさを感じながら、財布から札を出す。
_
( ゚∀゚)「はい、どーも。いやー。いいオトモダチを持って、幸せだよな。オレら」
(・∀ ・)「うん! 幸せだぞ!」
ドクオは唇を噛む。
何がオトモダチだ。ただの加害者と被害者だ。
( ^Д^)「んじゃ、またな」
('A`)「……はい」
出すものを出せば、ドクオなど用済みだ。
ちらりと三人を見るだけで、特に何か言えるわけでもなくドクオは無言で廃墟を出る。
-
荒れた草むらを出て、ちらほらと人が通る道に出る。
今頃、兄者やブーンは女子バレーを見ているころだろう。
今すぐ駆ければ間に合うかもしれないが、そんな気分にはなれない。
('A`)「……なんで、オレが」
途端に自分が惨めに思えてくる。
かろうじて涙は流さなかったが、胸の奥から何かが込み上げてくる。
( ・∀・)「あの不良共とキミがお友達だとは到底思えない。
さらに、お金が必要な友達など、友達でないとボクは考えている。
つまりは、キミが恐喝にあっていると考えるのが自然だと思うんだけれど、どうかな?」
(;'A`)「はっ?!」
背後から聞こえた声に振り返る。
先ほどドクオが通った道にモララーが立っていた。
( ・∀・)「で? 正解でいいのかい?」
('A`)「……そうだよ」
どこから見られていたのかわからない。
今まで声をかけなかった理由もわからない。
しかし、モララーの言葉は真実だった。
-
( ・∀・)「兄者達が女子バレーで騒いでいたのに、キミがこんなところに一人でいたからね。
気になって後をつけちゃったんだよ」
ドクオの疑問に答えようとしたのか、モララーがここにいる経緯を教えてくれる。
( ・∀・)「しかし、こんなことを言うのもなんだが、兄者を頼れば全て解決するんじゃないか?
何だかんだいって、兄者は喧嘩が強いからね。不良だって少しはビビるだろうさ。
もしくは先生や警察を頼るのもアリだね。キミと不良。どちらを信じるって言ったらキミに決まってる」
('A`)「……お前、よく喋るな」
( ・∀・)「……普段、無口な奴といるからね。あまり喋る機会がないだけだよ」
モララーがバツの悪そうな顔をしたところで、ドクオは彼に背を向けた。
('A`)「教師に頼ったら、数でボコられるだけだ。
兄者に頼っても同じ。いや、兄者もボコられる分、兄者に頼る方が性質が悪い」
( ・∀・)「でも現状は解決できると思うけど?」
('A`)「……他人に頼ることができるお前は強いんだろうな」
( ・∀・)「どうしてさ」
-
('A`)「オレは怖いんだよ。
助けを求めて断られるのも、陰で面倒くせぇって思われるのも、友達じゃなくなっちまうのも」
( ・∀・)「兄者やブーンを信じていないのかい?」
('A`)「信じてる。とは、言えないんだろうな。オレは。
傍にいるから怖くなる」
( ・∀・)「じゃあ、ボクが力になろう」
きっぱりとモララーは言い放った。
ドクオは驚いて再び彼の方を振り返る。
( ・∀・)「ボクとキミは全然傍にいないし、仲良くもない。むしろ悪いのかな?
まあ、それは置いておいて、ボクなら友達じゃないって思われることはないし、
自分から提案しているんだから、面倒くせぇと思わないし、ましてや断るなんてできないからね」
モララーは笑っていた。
('A`)「どういう風の吹き回しだよ」
先ほどの言葉の通り、モララーとドクオは友達ではない。むしろ、対立しているといってもいいような関係だ。
助ける理由など一つも存在していない。
-
( ・∀・)「ボクはね、仲良くしたいと思ってるよ」
('A`)「オレとか?」
( ・∀・)「いや、キミ達と」
弟者やショボンとでは経験できないことをたくさんできそうだ。
馬鹿みたいな青春を過ごしてみたいとも思う。
('A`)「……お前って、案外良い奴なのかもな」
( ・∀・)「それはありがとう。
でも、今見直されると関わるなって言われそうだから、その評価は後で受け取ることにしたいな」
いつも弟者達と真面目な話をしている印象しかなかったが、モララーという男は案外面白い人間だった。
ドクオは少しだけ口角を上げる。
('A`)「力を貸してくれるってのはありがたいが、どうするつもりなんだ?」
( ・∀・)「うーん。今から、廃墟に戻ってお金を取り返してみる?
(;'A`)「無謀すぎだろ……。もう少し何か考えようぜ」
( ・∀・)「そうだね。それが正しい選択だろうね」
-
( ・∀・)「じゃあ、今日はメールアドレスを交換しておこう」
場所を移して作戦会議といくにはドクオの財布は寂しすぎるだろう。
かといって、モララーも奢るつもりは毛頭ない。
一先ず家に帰って各自考えておくということでの提案だった。
('A`)「え?」
( ・∀・)「え?」
思わぬ疑問符。
モララーも同じ言葉を返してしまった。
('A`)「オレと?」
( ・∀・)「イエス」
('A`)「キリスト」
(;・∀・)「いやいや。それはすごくつまらない返しだよ?
何さ。そんなにボクとメールアドレスを交換したくないのかい?」
対立している間柄とはいえ、たった今協力することに決まったではないか。
評価は後に受け取るとは言ったが、良い奴という高評価も頂いた。
まさか断られるなど。
-
(;'A`)「いや……。何と言うか、オレがモララーとメールアドレスを交換するという事態が受け止めきれない」
(;・∀・)「えー」
どれだけ嫌われていたのかとモララーは肩を落とした。
言葉を交わしたことがなかったので、仲良くなる機会などなかったが、
逆に言えば、それほど嫌われる機会もなかったのではないか。
('A`)「あ、じゃなくてさ。お前、割りと人気者だから」
ドクオは日陰者だ。
将来はニートかヒキニートか。と、いった予想図が展開されるほどには闇の人間だ。
対して、モララーは間違いなく日向にいる。
成績も悪くない。顔も悪くない。
弟者とはまた違う人気がある。
嫉妬の対象でしかなかったモララーと、まさかメールアドレスを交換するような日がくるとは、思いもしなかった。
('A`)「ん」
( ・∀・)「ボクが思うにね、キミはちょっとばかし卑屈すぎだよ」
-
赤外線でメールアドレスを交換しながら言った。
( ・∀・)「兄者やブーンと話しているときのキミは、普通に明るいし、面白そうな人間だ。
もっと自信を持ってもいいと思うよ」
('A`)「そりゃどーも」
( ・∀・)「お世辞だと思ってる?」
('A`)「勘違いしてると思ってる」
( ・∀・)「まったく。難儀なことで」
('A`)「そういう性分なんでね」
( ・∀・)「そのようだ」
モララーは肩をすくめ、息を吐く。
( ・∀・)「面倒な男だ」
('A`)「おう」
( ・∀・)「これからよろしくね」
('A`)「よろしく」
-
その日は別れ、一度だけ互いにメールを送った。
モララーはこれからよろしく。と、いう旨と恐喝にあっている詳しい理由を求めてきた。
ドクオはそれに対して、うん。と、返し、モララーの質問にだけ答えた。
もう少し友好を深めるようなメールも、モララーはしたかったのだが、
ドクオのあまりにも淡々としたメールにどうすればいいのかわからなくなってしまっていた。
必要最低限の句読点だけで作られたメールは、疑問符も感嘆符もつけられてはいなかった。
( *^ω^)「昨日は素晴らしかったお!」
(*'A`)「れ、例の! 例のブツは!」
( *^ω^)「兄者の手の中だお……」
(*'A`)「なんと! それは待ち遠しい……」
( ・∀・)「……」
モララーは鼻息荒く喋っている二人を見て、本当にドクオは切羽詰った状態なのだろうか。と、自分を疑った。
(´・ω・`)「モララー?」
( ・∀・)「うん?」
(´・ω・`)「どうかした?」
( ・∀・)「え?」
-
(´・ω・`)「上の空だけど」
( ・∀・)「そんなことないよ」
(´・ω・`)「ならいいけど」
今回の件にショボンを巻きこむわけにはいかない。
そもそも、彼は兄者やその友人達に良い印象を抱いていないはずだ。
協力してくれと言うほうが無茶だ。
( ´_ゝ`)「おはよ」
(*'A`)「兄者ー!」
(;´_ゝ`)「うお?」
(´<_` )「おはよう」
(´・ω・`)「おはよう。今日はちょっと暑いね」
( ・∀・)「冷たいアイスが食べたいな」
-
変わらぬ朝を過ごし、HRを過ごす。
ドクオは不良に恐喝を受けているとは思えないほど平常通りの振る舞いだった。
心配をかけるのが怖いのか何なのかはわからないが、
モララーはそういう態度を貫くことのできるドクオを素直に強いと思える。
(´・ω・`)「モララー。食事中に携帯をいじるのは感心しないよ」
( ・∀・)「おっと。それはすまない」
弟者の教室で昼食を食べながら、モララーはメールを打っていた。
ショボンに注意され、ポケットの中にしまう。
(´・ω・`)「何だか熱心に打っていたね」
( ・∀・)「そうかもね。
ようやくきっかけを掴めたから」
(´・ω・`)「好きな子?」
( ・∀・)「おしい」
(´<_` )「適当にしか付き合わなかったお前にしては珍しい」
(´・ω・`)「確かに」
-
(;・∀・)「適当って……人聞きの悪い」
(´・ω・`)「半年も持たないくせに」
(´<_` )「まったくだ」
からかわれながらも昼食を終え、モララーは手早くメールを完成させて電波に乗せる。
家に帰ってからでもよかったのだが、思いついた案はすぐに試してみたくなる性質だった。
from:モララー
sub:例の件
―――――――――――――――――
溜まり場に突っ込んでヤツらの恥ずかしい写真を撮ってやるってどうかな?
不意打ちならボクらにもチャンスがあるかもしれないし。
彼らの溜まり場のアテはついてるよ。
もしも、失敗しても先生達はボクらの話を信用するだろうし。
加えてボクはそれなりの人脈があると自負しているからね、多少のイジメや嫌がらせなら回避できる自信があるよ!
勿論、これが最良とは言わないけどね。
きっと他にも手段はあると思うけど、とりあえず思いついたから送ってみたよ!
-
from:ドクオ
sub:Re:例の件
―――――――――――――――――
色々ありがとう。
襲撃はちょっと難しいと思う。
オレもモララーもそんなに強くないし。
それに、その後のことまで面倒見てもらうのは流石に悪い。
('A`)「っと」
( ^ω^)「ドクオがメール……?」
(;´_ゝ`)「ドクオ、出会い系はやめておけよ?」
(;'A`)「ちげーよ! オレをどんな目で見てるんだ!」
手早くモララーのメールに返信し、ドクオは携帯電話を閉じる。
( ^ω^)「怪しいおー」
( ´_ゝ`)「怪しいなぁ」
(;'A`)「ちょっ!」
-
( ´_ゝ`)「携帯よこせー!」
( ^ω^)「渡すお!」
(;'A`)「うおおおおお!」
(,#゚Д゚)「食事中に暴れるなゴルァ!」
( ^ω^)+「兄者が全ての責任を負います」
('A`)+「犯人は兄者です」
( ´_ゝ`)そ「ブーンがまさかの裏切り!」
ギコに怒鳴られながら三人は元の席へと戻って行く。
ドクオの携帯電話に関してはうやむやになった。
( ´_ゝ`)「今度、ブーンの家でゲームしようぜ」
( ^ω^)「というと、例の……?」
(*'A`)「おお! キタキタキター!」
-
( #・∀・)「……」
ある日の朝、モララーは苛立っていた。
(メ'A`)「すまん遅れた」
(;^ω^)「別にいいけど……」
(;´_ゝ`)「どうしたんだ? その怪我」
(メ'A`)「昨日、ちょっと絡まれちゃってさ」
( #・∀・)「……」
(´・ω・`)「モララー?」
( ・∀・)「え?」
(´・ω・`)「どうしたの?」
( ・∀・)「……いや」
問いかけにモララーは口ごもる。
すぐ傍に双子がいる状態で、相手の友達の言葉に反応するのはタブーのように感じられてしかたがない。
-
協力すると口にはしたものの、事態は一向に好転しない。
それどころか、ドクオの傷は間違いなくあの不良にやられたものであるという想像が容易い。
転んだなどという無駄な言い訳をしないあたり、ドクオもそれではすまない傷であることを自覚しているようだ。
( ´_ゝ`)「学校のヤツか?」
(メ'A`)「顔こえーよ。見たことない顔だったから知らね」
( ^ω^)「ドクオは貧相な体をしてるから狙われやすいんだお」
(メ'A`)「お前のはただの贅肉じゃねーか」
( ^ω^)「おっ? おっ? やるかお?」
すぐに気分を切り替えて、三人はいつもの馬鹿騒ぎを始める。
兄者は少し不満気な顔も見せていたが、ドクオが知らない顔だと言っているのに、どうすることもできない。
駆けながら学校へ向かう三人の背中をモララー達は黙って見送る。
遅刻するような時間ではないので、駆ける必要は全くない。
(´・ω・`)「暴力で解決するような人は好きじゃないな」
( ・∀・)「ボクもだよ」
(´・ω・`)「それも一方的な」
( ・∀・)「うん」
-
モララーはいくつかの案をドクオに送っていた。
けれど、それはことごとく却下された。
後をつけて弱みを握ってはどうかと送れば、
殴られて終わりになるだろうから意味がない。
無視をしつつ一人にならないようにしてみてはと送れば、
友達が少ない自分には無理が過ぎる。
やはり国家公務員。つまりは警察を頼ろうと送れば、
仲間からの報復が怖い。証拠がない。
痛みを恐れる気持ちはわかる。
しかし、行動を引き伸ばしていた結果がアレだ。
おそらく、ドクオの手持ちが尽きたのだろう。
金のないオトモダチに不良達は暴力を振るっただけだ。
(´・ω・`)「モララーは怪我しないでね」
( ・∀・)「え? ああ、ボクは大丈夫でしょ」
(´<_` )「進んでモララーを敵に回す奴はいないだろ」
ドクオが狙われるのは、体格は勿論のこと、人脈の狭さも原因だ。
彼を敵にしたところで、反撃のために集められる人数などほぼいない。
不良達としては最高の得物だ。
-
( ・∀・)「それはありがたいことだよね。
ショボン、キミがイジメられたらいつでも言ってきていいよ?」
(´・ω・`)「あいにく、そういうことに巻きこまれたことはないね」
( ・∀・)「真面目な優等生だからね。キミに何かあったら教師陣も黙っちゃいないさ。
勿論、ボクや弟者もね」
(´<_` )「おう」
(´・ω・`)「ありがとう」
ショボンは照れ笑いを浮かべる。
兄者達とは違う形の温かさに、ほっとした。
( #・∀・)
優しい雰囲気の中、モララーだけが、誰にも見られないように怒りを燃やしていた。
-
臆病者に付き合っていては話が進まない。
放課後、モララーは弟者やショボンに声もかけず、すぐに学校を出た。
( #・∀・)
不良の行動パターンはすでに調べがついている。
奇襲でも弱味を握ることもできるような状態だ。
出来る男を自負するモララーは行動が早かった。
それでも決定的な行動に出なかったのは、当人であるドクオが拒否をしていたからだ。
だが、もはやそれではいけないのだとモララーは悟った。
ドクオが恐れるのならば、自分の意思で不良を襲ったことにすればいい。
自分の意思で不良を粛清する。
もう他人に暴力を振るわないことを、暴力を持って誓わせる。
( #・∀・)「今日はあの廃墟にいるはずだ」
廃墟近くの草むらまで来て、モララーは息を潜める。
おそらく、いつもの三人だけのはずだが、不測の事態がないとも限らない。
-
(´・ω・`)「怪我はしないでね。っていうのは、怪我をするようなことをしないでね。って意味でもあるんだけど」
(;・∀・)「うわっ!」
後ろから声をかけられる。
妙なデジャヴを感じた。
(´・ω・`)「こんなところで何をしようとしてたの?」
(´<_` )「是非とも教えて欲しいな」
(;・∀・)「え? オレ、つけられてたの?」
困惑するモララーにショボンは頷いた。
(´・ω・`)「頭に血が上りすぎ。キミって案外短気だね」
(;・∀・)「短くねーよ! 待ちに待った結果だよ!」
(´<_` )「ならば詳しく説明をしてもらおうか」
モララーは後ろの方に見える廃墟をチラリと見た。
ほど遠く離れているので、気づかれはしていないだろう。
-
( ・∀・)「……今日のところは帰っていただいて」
(´<_` )「無理」
弟者がキッパリと言い放つ。
並んでいる二人の顔を見る限り、黙っておくことはできないようだとモララーは腹を括る。
元々、誰かに力を借りることを恐れてはいない。
しいて言うのであれば、兄者の友達であるドクオに手を貸す。と、いうことに妙な罪悪感がある。
( ・∀・)「実はね」
(´・ω・`)「誰かきたよ」
モララーが事情を説明しようとしたとき、足音が聞こえた。
草むらの中にいるモララー達には気づいていない誰かが草をかき分けていく音が聞こえる
( ・∀・)「ドクオ?」
思わず声を上げる。
小さな声だったのでドクオは気づいていないようだが、近くにいた弟者とショボンはすぐに気づいた。
(´・ω・`)「ドクオ?」
(´<_` )「ブーンもいるな」
-
(((メ'A`) ((( ^ω^)
( #・∀・)「あんにゃろ……」
結局、ブーンを頼ったことは問題ない。
ブーンは正真正銘ドクオの友達だ。助けを求めるのは極普通のことだ。
ようやく重い腰を上げたのかと褒めてやってもいい。
しかし、自分がどれだけ言っても動かなかったくせに、友達の言葉ですぐに動く現実はやはり腹立たしい。
力をあわせていることを約束した現状で、新たな仲間となる者の情報をくれなかったことも怒りの理由になる。
(´・ω・`)「ちょっ。モララー?」
問い詰めてやろうかと歩を進めたモララーをショボンが止める。
彼としてはまだ何が何だかわかっていない状況なのだ。
( ・∀・)「ああ、まだ言ってなかったっけ」
(´<_` )「三行で」
( ・∀・)「ドクオが恐喝を受けてる。
ボクは助けようとしてた。
今日の傷は多分、不良から受けた」
-
(´・ω・`)「そうなんだ」
(´<_` )「意外だな」
( ・∀・)「何がさ」
(´<_` )「お前は、お前達はドクオやブーンが嫌いなのだとばかり」
弟者の言葉にモララーは押し黙る。
自分達が易々と言葉を交わすことがないのは、弟者と兄者のせいだとも言える。
しかし、彼らは噂を鼻で笑うような人だ。
仲の悪い片割れの友達と言葉を交わすことが、どれほど立ち位置を危険にさらすかわからないだろう。
( ・∀・)「ボクは、嫌いじゃないよ」
(´<_` )「ふーん」
( ・∀・)「ショボンは、苦手みたいだけど」
(´・ω・`)「そうだね。騒がしいし、常識ないし。馬鹿だし……」
(´<_` )「じゃあ、ショボンは待機しておいてくれ。たぶん殴りあいになる」
(´・ω・`)「え?」
(´<_` )「これからドクオ達を助けに行く。
無理にくる必要はない」
-
(;´・ω・`)「ボクはモララーが怪しいと思って。
もしも、危険なことをするなら、止めようと思って」
( ・∀・)「ボクは止まらないよ。
早く行かないとあの二人も心配だし」
モララーはショボンの肩を軽く叩く。
彼がドクオ達のことを苦手だと思っているのはよく知っている。
弟者との出会いや、彼を取り巻く噂がなければドクオ達とも関わりがあったかもしれないと考えるモララーと違い、
ショボンにとって彼らは正真正銘、関わりあうことがないタイプの人間だ。
不安げに揺れる瞳から目をそらし、モララーは廃墟へと向かう。
(´<_` )「警察は呼ばないでくれよ」
(;´・ω・`)「怪我しちゃうよ!
それに、暴力は良くないよ!」
(´<_` )「ごめんな」
困ったような表情をする。
謝って欲しいわけではない。
(;´・ω・`)「ボクにはわからないよ」
弟者はドクオともブーンとも友達ではない。
それなのに、危険なところへ行こうとする。そこにモララーが行くからということだけが理由ではないだろう。
-
(;´・ω・`)「でも、行くんでしょ?」
(´<_` )「うん」
(;´・ω・`)「なら、ボクも行くよ」
(´<_` )「いいのか?」
(;´・ω・`)「友達だからね。キミやモララーとは」
暴力は嫌いだ。
痛いのも嫌いだ。
騒ぐくらいならば静かに勉強をしていたい。
でも、友達を見捨てるのは嫌だ。
(´<_` )「そっか」
(;´・ω・`)「うん」
二人は無言でモララーの後を追った。
-
(・∀ ・)「何なんだー。ドクオ、オレらを裏切ったのかー?」
_
( ゚∀゚)「昨日もお金持ってきてくれなかったしなぁ」
( ^Д^)「でも一人連れてきただけとかマジ舐めてるだろ」
プギャーが笑う。
何の因果か、彼ら三人の周りには十人ほどの不良がいた。
(メ'A`)「ブーン……」
(;^ω^)「ちょ、ちょっと予想外な人数だけど、大丈夫だお!」
(メ'A`)「いや、やっぱり言うんじゃなかった。
お前を巻きこんじまってすまん」
( ^ω^)「ドクオ。ボクらは友達だお?
むしろ、もっと早く巻きこんで欲しかったお」
ドクオの様子に不信感を抱いたブーンは、兄者のいないところで彼を問いただした。
元々押しに弱いドクオは、ブーンの真剣な姿に嘘をつくことができなかった。
- _
( ゚∀゚)「で? なんだっけか」
( ^ω^)「もうドクオに関わるなお」
( ^Д^)「何だよそれ。まるでオレ達がドクオをイジメてるみたいじゃねーか」
(・∀ ・)「オレらはオトモダチだからな! そんなことしないんだぞー!」
ケラケラと笑い声が廃墟に響く。
ドクオは俯いて彼らを見ようともしない。
_
( ゚∀゚)「どーしても縁を切りたいのか?
ツレないねぇ」
( #^ω^)「いい加減にするお!」
腹立たしい笑みを浮かべながら、ドクオと友人関係にあるだと言う不良共にブーンが怒鳴り声を上げる。
嘘だとわかってはいるが、怒りと嫌悪感が拭えない。
(・∀ ・)「じゃあ、オトシマエ、つけてもらうか」
またんきが指でピストルの形を作り、ドクオとブーンを指差す。
(・∀ ・)「バーン」
-
銃声の真似と同時に、三人の周りにいた不良達がブーン達を囲む。
勢いでここまできてしまったが、ブーンはそれほど喧嘩が強くない。
不良達に打ち勝つよりは、ドクオと一緒に殴られてやられる方がしっくりくるほどだ。
(;^ω^)「それでもタダではやられないお!」
ブーンは漫画で見ただけの構えをとり、不良達を待ち受ける。
隣で立っていたドクオもそれに倣う。
痛い思いをすることは明白だが、ここまできてしまって後戻りはできない。
(メ'A`)「これが終わったら、オレも一発お前を殴るからな」
(;^ω^)「えー。地獄しか待ってないお」
(メ'A`)「無計画すぎるんだよ。馬鹿」
(;^ω^)「正直すまんかった」
余裕がないからこそ、軽口を叩きあう。
二人は背中を合わせ、じりじりと近づいてくる不良を見据える。
「まったくだ!
これならボクの言うことを聞いておけばよかっただろ?」
-
全員が声の方を見る。
( ・∀・)「はい。どーも」
廃墟の入り口に立っていたモララーは片手を上げて挨拶をする。
軽い調子のまま、彼は廃墟に入る。
(メ'A`)「モララー……」
( ・∀・)「そうだよ。ボクだよ。
本当にキミは酷い男だ。ボクがあれほど熱心に考えた案は全て却下したくせに、
ブーンが言ったら強硬手段に出るんだから。
キミの友達でないボクじゃ仕方がないとはいえ、ちょっとショックだったよ」
( ^ω^)「お? ドクオ、モララーと知りあいだったのかお?」
呆然としている不良を尻目に、ブーンが尋ねる。
(メ'A`)「うーん……」
友達とも知りあいとも言いにくい関係に、ドクオは唸り声を上げる。
最終的に出した結論は、全てが終わってから説明する。だった。
驚きから覚めた不良達が、一人増えたところで数で押してしまえばいいという目をし始めていた。
- _
( ゚∀゚)「モララー。あんたは弟者側だからドクオとは仲が悪いと思ってたよ」
( ・∀・)「その辺りのことまで知っててくれてありがとう。
でも友達の友達が誰であっても、どうでもいいことだとは思わないかい?」
( ^Д^)「じゃあ、その友達のためにボコられてくれよ」
不良達が一斉に動き出す。
一人につき複数人でやりあう卑怯ではあるが、有効的な戦法だ。
あっさりと体を抑えられたドクオはほぼ無抵抗で殴られる。
どうにか潜り抜けることのできたブーンも、すぐに鳩尾に一発決められて床に臥す。
(´<_`;)「あー。始まってるし」
(;´・ω・`)「うわぁ……」
あちらこちらで一方的な殴りあいが展開されている。
モララーはどうにか喧嘩の体をなしているが、それでも殴る量より殴られる量の方が多い。
聞こえてくる打撃音にショボンは耳を塞いだ。
(・∀ ・)「弟者だ!」
( ^Д^)「げっ」
-
弟者の姿に気づいた何人かが動きを止める。
(#)A`)「おと、じゃ?」
( ^ω( )「何でこんなところに」
二人にとって、弟者は好ましいとは言えない人間だ。
自分を嫌っているような奴を助けにくる者はそういない
弟者が嫌われている自覚がないということもありえるが、おそらく弟者はわかっている。
あからさまな態度で避けてきたのだ。それで気づかないのならば鈍感すぎる。
ふと、モララーの姿が二人の脳裏に浮かび、彼を助けにきたのだと理解した。
_
( ゚∀゚)「モララーを回収しにきたのか?」
( メ・∀・)「別にボクは一人でも平気だけどね」
(´<_` )「まあ、それもあるけど……」
弟者は指を鳴らす。
彼の喧嘩の強さは不良達も知っている。
戦力外であるドクオとブーンを放って、弟者に向きなおる。
(´<_` )「兄者の友達を放ってはおけないだろ」
-
不良達と弟者以外の時間が止まる。
いつも否定してはいたが、仲が悪いと噂の双子が、あんなことを言うなど思っていなかった。
それも、皮肉でも何でもなく、当然のことのように言ったのだ。
(#)A`)「なあ、ブーン」
( ^ω( )「お?」
(#)A`)「オレら、あんまり信じてなかったけどさ。
本当に、仲が悪いわけじゃないのかもな」
思い出すのは、山でのこと。
弟者は怪我をしたドクオとブーンを助けてくれた。
本当に兄弟仲が悪いのならば、兄者も、その友達も助けはしない。
( ^ω( )「だおね」
床に伏せていたブーンが立ち上がる。
( ^ω( )「なら、立ち上がらなきゃいけないお」
(#)A`)「友達の兄弟を見捨てるわけにはいかないよな。
そもそも、原因はオレだし」
-
二人は立ち上がり、弟者に気を取られている不良に襲いかかる。
一人につき二人がかりで向かえば、喧嘩の弱い二人でもどうにか戦える。
( メ・∀・)「キミが兄者と仲が良さそうでちょっと安心したよ」
(´<_` )「オレはいつも言ってたと思うんだが」
弟者が目の前にいる不良を殴る。
右手で殴り、ふらついたところに蹴りを入れる。
床に伏したそいつを踏みつける前に、別の不良がやってくる。
それを相手しているうちに、先ほど床に倒した不良が立ち上がっていた。
(;´・ω・`)「ちょっ! ボクは喧嘩とか……うわ!」
この場に現れて、一人だけ無傷で済むはずがない。
不良達はショボンにも襲いかかる。
(´<_` )「ショボン」
(;´/ω・`)「な、何?」
腹を蹴られ、顔を殴られ、今まで受けたことのない痛みにショボンは倒れた。
弟者もこの人数相手にショボンを守ることができないらしく、襲いかかってくる相手を流すので手一杯だ。
(´<_` )「もうすぐ兄者がくるから。それまで頑張れ」
(;´/ω・`)「え? 兄者?」
-
誰が兄者に連絡したのだろうか。
ドクオやブーンにその素振りはない。
ショボンもモララーも、兄者のメールアドレスを知らない。
ならば弟者か。
しかし、以前に弟者は兄者のメールアドレスを知らないと言っていた。
第一、ここまでの道中で弟者は携帯電話に触れてさえいない。
(;´/ω・`)「何でそんなこと言えるのさ」
どうにか立ち上がり、不良達から逃げながら問いかける。
時折、手を振り回すようになった辺り、ショボンにも防衛本能があったということだろう。
(´<_` )「わかるさ」
弟者が笑った。
(´<_` )「オレ達は兄弟だからな」
-
弟者は相手の攻撃を避け、代わりのパンチを叩きこむ。
それを何度か繰りかえすと、床に伏せたまま動かなくなる者がようやく出てきた。
_
( ゚∀゚)「チッ!」
流石に傍観することはできなくなったのか、ジョルジュも参戦する。
しかし、始めに狙うのは弟者ではなくショボンだった。
二人がかりの戦いを始めているドクオやブーンほど手ごわくなく、容易に倒すことができる。
さらに言えば、弟者の直接の友達なので、ボコボコにしたときの精神的ダメージも期待できる。
(;´/ω・`)「ちょっ。もう、勘弁……」
普段から運動しているわけではないショボンは息を切らせていた。
_
( ゚∀゚)「あんな友達を持ったことを後悔するんだな」
ジョルジュは笑う。
誰かを痛めつけることに喜びを覚えるその姿は、到底ショボンと同じ人間だとは思えない。
ショボンは怯えた目をしながら後ずさる。
(;´/ω・`)「ボクは……」
_
( ゚∀゚)「んー?」
(´/ω・`)「ボクは、弟者の友達でよかったと思ってるよ」
- (´<_` )「……」
弟者がまた一人倒す。
すぐにでもショボンのもとに向かおうとするが、他の者達の妨害により成功しない。
_
( ゚∀゚)「そうか。いい友達だな」
(´/ω・`)「キミにはそんな友達いないんじゃないの」
_
( ゚∀゚)「いらねぇよ。重いんだよ。そーいうの」
ジョルジュが拳を握る。
気楽に、彼は誰とも深い繋がりを持とうとしない男なのだ。
(´/ω・`)「重いんじゃない。強いんだ」
ショボンも拳を握った。
少しでもジョルジュに目にものを見せてやるつもりで。
_
( ゚∀゚)「そーかい」
(;´/ω-`)「――っ!」
握った拳は振り上げられない。
ショボンは反射的に目を瞑り、腕で顔をガードする。
狙われているのは胴体だとは気づいていない。
( ´_ゝ`)「いい友達が弟にいてオレは幸せだよ」
-
新たな声と同時に廃墟が静かになる。
その後、どさり。と、人が倒れた音がした。
_
(;゚∀゚)「てめぇっ……!」
横から飛び蹴りをされたジョルジュは床に伏しながら兄者を睨む。
飄々とした兄者は、ショボンを見た。
( ´_ゝ`)「これからも弟をよろしく」
(;´/ω・`)「え? う、うん」
戸惑うようなショボンに笑いかけ、次は弟者を見る。
相変わらず無言だ。しかし、二人に隙はない。
(;・∀ ・)「や、やっちゃえ!」
またんきの声と共に不良達が飛びかかる。
(#)A`)「あ!」
( ^ω( )「逃げられたお!」
ブーンとドクオが抑えていた不良も、彼らに倣って兄者と弟者へ向かう。
追いかけようとしたが、膝が笑って上手く動けない。
-
(;メ・∀・)「こら! ボクを無視するな!」
モララーもブーン達と同じく、目の前から去った敵を追うほどの体力が残されていない。
兄者は弟者のもとへ。
弟者は兄者のもとへ駆けた。
不良に囲まれる前に、彼らは互いの背中をあわせる。
(´<_` )( ´_ゝ`)
そっくりな双子は鏡のようだ。
片方が構えれば、もう片方も同じ構えかたをする。
( #^Д^)「やっちまえ!」
プギャーも不良達と共に双子に飛びかかる。
彼らにはもはや双子しか見えていない。
-
(;・∀ ・)「こんなの、おかしいぞ!」
またんきが叫ぶ。
数では圧倒していたはずだ。
たかだか二人に対して、不良側はダメージがすでにあったとはいえ、十人近くいたのだ。
しかし、またんきの目の前で人数はどんどんと減っていく。
(´<_` )( ´_ゝ`)
背中合わせの二人は無言のまま、目の前の不良を倒す。
片方が不良を床に伏せさすと、すかさずもう片方がトドメを差す。
そのタイミングが絶妙かつ巧妙で、不良達は一連の流れを断ち切ることができない。
トドメを差される前に一撃入れようとするのだが、すると手の空いた片方が相手をしてくる。
ならばと、他の者が拳を振り上げるころにはトドメは差し終わっている。
まるで単純作業のように二人は不良の山を築き上げていく。
何人かは双子の強さを前に、逃げ出していた。
_
(;゚∀゚)「こりゃ、舐めてたかもな」
ジョルジュが呟く。
-
気づけばジョルジュ以外の不良は地に伏せていた。
彼が未だに立っていられるのは、兄者からの一撃からの回復を狙い、しばらく下がっていたからにすぎない。
( ´_ゝ`)「つか、今さらだけど何があったの?」
(;メ・∀・)「ええー」
呆れて声を上げるが、たった今ここに来たばかりの兄者がわかるはずもない。
兄者がどのような経緯でここにたどりついたのかはわからないが、
ドクオやブーンから事情を聞いたのでなければそれも当然だろう。
(´<_` )「……」
_
(;゚∀゚)「何も知らねぇのにコイツらボコったのかよ」
引きつった笑みを浮かべ、一歩下がる。
兄者は当然と言いた気な顔をしてジョルジュへ向きなおる。
長身の双子は、ただ立っているだけでもどこか迫力がある。
( ´_ゝ`)「オレの友達と弟と、その友達をボコってたんだ。
お前らをボコる理由なんてそれで十分だっつーの」
-
兄者が地面を蹴った。
その姿を見て弟者はジョルジュから視線を外す。
_
( ゚∀゚)「オレだって、ただじゃやられねぇよ!」
( ´_ゝ`)「そうかい」
拳を振りかざしあう。
彼らを見ようともしない弟者は怪我をしてしまったショボンに近づく。
大きな怪我はしていないが、普段が優等生で喧嘩とは無縁な彼だ。学校にまた新たな噂を作り出すことは間違いないだろう。
(´<_` )「すまんな」
(´/ω・`)「ボクが自分で選んだから」
( メ・∀・)「正直、ショボンがくるとは思ってなかったよ」
(´/ω・`)「そんな薄情な人間だと思ってたの?」
(;メ・∀・)「そーいうわけじゃないけど……」
-
(#)A`)「……みんな悪い。でも、ありがとう」
ドクオがブーンと体を支えあいながら弟者達のもとにきた。
体の貧相さもあいまって、ドクオの傷は痛々しい。
(´/ω・`)「いいよ。ボクはキミじゃなくてモララーと弟者のためにきただけだから」
( メ・∀・)「ボクも自ら進んで首を突っ込んだわけだし」
(´<_` )「兄者の友達だし」
( ^ω( )「お。兄者の方も終わったみたいだお」
_
(:#∀ ) グハッ
( ´_ゝ`)
五人が見ると、ジョルジュが床に倒れた。
兄者は平然と立っている。
いつものおちゃらけた雰囲気のない兄者は少し怖い。
-
( ´_ゝ`)「大丈夫か?」
しばらくジョルジュを見下ろしていた兄者は、満足したのかドクオのもとに駆ける。
( ^ω( )「ボクも怪我してるお」
( ´_ゝ`)「お前は肉があるから大丈夫だ」
( #^ω( )「ぶち殺すお」
(;メ・∀・)「兄者はともかく、ブーンはよくそんな元気があるなぁ……」
兄者の胸倉を掴んだブーンに対して、呆れたように言う。
役にたったかはともかくとして、他人と喧嘩するなど小学生時代以来のモララーはくたくたになっていた。
正直なところ、しばらくは動きたくない。
家に帰ったら、怪我の理由を両親に聞かれるであろうことを想像すると、その気持ちは三倍に膨らむ。
( ´_ゝ`)「で、何で話してくれなかったんだ」
(#)A`)「……ごめん」
ひとしきりブーンと遊んだ兄者は、一転して真剣な顔をしていた。
五割増しで酷くなったドクオの顔をじっと見る。
-
( ´_ゝ`)「オレはそんなに信用できないか?」
(#)A`)「そうじゃなくて」
( ´_ゝ`)「ブーンはともかく、モララー以下か」
(;^ω( )「兄者、ボクも今日始めて知ったんだお。問い詰めてようやく――」
ブーンは首を傾げた。
誰も気づいていないようだが、おかしい。
( ^ω( )「兄者、いつドクオが恐喝にあってたって聞いたんだお?」
( ´_ゝ`)「え?」
問いかけに、兄者は驚いたような顔をする。
何故聞かれているのかわかっていないようだ。
( ^ω( )「だって、来た時は理由なんて知らないって」
( メ・∀・)「そうだ。それに、ドクオもボクも、ブーンも話してないなら何で知ってるんだ?」
-
廃墟が静まり返る。
兄者はあちらこちらに視線を向けた。
言い訳を考えているのか、答えることが嫌なのか。
(#)A`)「オレは兄者のこと信じてるよ」
( ´_ゝ`)「うえ?」
唐突な言葉に兄者がおかしな声を上げる。
(#)A`)「でも、オレが弱かったから、自分から言いだせなかった。
ブーンが聞いてきたから。モララーがオレをつけてきてたから。
そんな理由がないと、助け一つ求められないんだ」
言葉を紡ぐごとに、ドクオの顔が下がっていく。
(´/ω・`)「ボク、ちょっとわかるな」
( メ・∀・)「ショボン?」
(´/ω・`)「やっぱり、怖いよ。助けを求めて、断られたら。嫌われたら」
( メ・∀・)「……バーカ」
(;´/ω・`)「馬鹿って何だよ」
-
( メ・∀・)「お前もドクオも馬鹿だ。馬鹿」
( ^ω( )「同意せざるを得ないお」
( メ・∀・)「そんなちっぽけな理由よりも、ずっと良いところがあるって知ってるから、友達なんだよ」
( ^ω( )「それと、助けを求められなかったからって、謝らないで欲しいお。
ボクはドクオが怪我をするまで、ちっとも気づけなかったんだお。それは、ボクが悪いから」
( ´_ゝ`)「オレなんて気づかなかったぜ!」
(#)A`)「じゃあ何で、ここに来れたの?」
(´<_`;)「……」
(;´_ゝ`)「何と。罠だったか」
(´/ω・`)「前々から思っていたけど、兄者って馬鹿だね」
( ^ω( )「その認識は間違っていないお」
-
( ´_ゝ`)「うーん」
(#)A`)「言えないなら、無理にとは言わない。
さっきも言ったけど、兄者を信じてるから、変な疑いは持たない」
倒れている不良達を見る。
彼らが兄者と繋がっていたなどというあまりにもおかしな妄想はしようにもできない。
(#)A`)「でも、できたら教えて欲しいと思ってる」
( ^ω( )「ブーンも同じ気持ちだお」
二人は兄者をじっと見る。
兄者とは友達でも何でもないモララーとショボンには少々居心地が悪かった。
特に何を言えるわけでもなく、しかし、兄者がここへ来れた理由は知りたい。
まるで他人の話を盗み聞きしているかのような気持ちになる。
二人は互いに目を合わせてから弟者を見る。
しかし、彼も兄者と似た表情を浮かべているだけで、モララーとショボンに意識が向いていない。
どうやら、この場においてアウェイなのは自分達だけのようだと、二人は肩を落とす。
( ´_ゝ`)「……」
(´<_` )「……」
双子が沈黙する。
-
(#)A`)「兄者?」
あまりにも長い沈黙。
ドクオが心配になって声をかける。
( #´_ゝ`)「あー! もう! お前はどうして、そう融通が利かないんだ!」
(#)A`)そ
兄者が突如、大声を出した。
始め、ドクオはそれが自分に向けられているものだと思い、謝罪を口にしようとした。
(´<_`# )「それなら、兄者は自分勝手がすぎるだろ!」
ドクオが謝罪を口にする前に、弟者が怒鳴り声を上げた。
( ^ω( )「ちょっ。何があったっていうんだお」
( メ・∀・)「弟者?」
(;´/ω・`)「二人とも落ち着いて」
友人達が口々に双子を止める言葉を紡ぐ。
しかし、頭に血が上がっているのか、双子にはその言葉が届かない。
-
( #´_ゝ`)「別に長々喋れって言ってるわけじゃないだろ!」
(´<_`# )「そこじゃねーよ! 兄者の失言に付き合わされるのが嫌だっつってんだろ!」
( #´_ゝ`)「じゃあ、お前がフォローしろよ!」
(´<_`# )「何フォロー前提で動いてるんだよ!」
( #´_ゝ`)「コイツらなら大丈夫だろ!」
(´<_`# )「オレだってコイツらは信用してるよ!」
( #´_ゝ`)「じゃあ不満は何だ!」
(´<_`# )「アンタがオレにも言葉を要求してるところだよ!」
( #´_ゝ`)「弟のくせに!」
(´<_`# )「兄のくせに!」
二人は互いの胸倉を掴みあう。
-
(#)A`)「うわー! その辺にしとけって!」
( ´_ゝ`)「おっと。すまない」
(´<_` )「……糞兄」
( #´_ゝ`)「あ?」
(;´/ω・`)「やめなって」
( ^ω( )「大体から、急にどうしたんだお」
( メ・∀・)「黙ってたと思ったら、急に喧嘩を始めるんだもんな」
( ´_ゝ`)「……」
(´<_` )「……」
双子は互いの目を見た。
そして、同時に顔をうつむける。
-
( ´_ゝ`)「……信じるか信じないかは、お前達しだいだ」
( ^ω( )「信じてるお?」
( ´_ゝ`)「そうか。ありがとう」
(#)A`)「話してくれるのか?」
( ´_ゝ`)「ああ。
ついでに、これは弟者も関係してる」
( メ・∀・)「なら、ボクらも宣言しておこうか?
ボクは弟者を信じているよ」
(´/ω・`)「勿論、ボクもね」
(´<_` )「……ありがとう」
(#)A`)「で?」
( ´_ゝ`)「実は、オレ達テレパシーが使えるんだ」
( ^ω( )「なるほど、テレパシーかお」
-
四人が頷く。
一瞬、納得しかけた。
( メ・∀・)「いやいや。え?
テレパシー?」
モララーが疑問の声を上げた。
( ´_ゝ`)「信じてくれ」
(´/ω・`)「弟者?」
(´<_` )「真実なんだな。これが」
(#)A`)「テレパシーって、アレだろ? 超能力」
( ^ω( )「兼、こいつ直接脳内に!」
( ´_ゝ`)「まあ、信じられないのも無理ないけど」
(´<_` )「……」
(;´_ゝ`)「お前、こうなったんだから、声出せよ!」
(´<_` )「……」
(;´_ゝ`)「『お断りだ』じゃないだろ……」
-
無言の弟者と、何やら会話らしいことをしている兄者。
傍から見ていると、おかしな光景だ。
見知らぬ者であったならば、頭の調子を疑う。
(;メ・∀・)「えっと……?」
( ´_ゝ`)「お前ら、弟者が無口だと思ってるだろ?」
(#)A`)「ペラペラ喋るイメージはないな」
( ^ω( )「兄者とは正反対だお」
( ´_ゝ`)「違うからな。
コイツは、喋るのが面倒なだけだからな」
(´/ω・`)「え? そうなの?」
(´<_` )「……まあ」
ショボンの問いかけに、弟者は頷く。
( ´_ゝ`)「こいつ、オレとのテレパシーに慣れすぎて、声を出すのが面倒なんだと。
無表情が多いのもそういう理由」
(#)A`)「感情出すのも面倒なの?」
(´<_` )「うん」
-
(;´/ω・`)「そこは否定しようよ……」
( ´_ゝ`)「本当だからなぁ。否定できないだろ」
(´<_` )「そうだな」
( メ・∀・)「今の一瞬で、弟者への印象が変わったよ」
(´<_` )「……」
無言のまま、弟者が兄者を小突く。
兄者の叫びから察するに、自分の印象が悪くなったことに対する抗議だったようだ。
( ´_ゝ`)「まあ、わからないでもないけどな」
( ^ω( )「そうなのかお?」
( ´_ゝ`)「うん。テレパシーって、声を出さなくていいし、イメージをそのまま伝えられるから思い違いがないし、
相手の居場所もわかるし、県内なら地下でも通じるし便利なんだよ」
(#)A`)「高機能だな」
( *´_ゝ`)「そうなんだよ! テレパシーがあったら携帯いらない!」
(´/ω・`)「二人が互いの携帯電話の番号知らないのって……」
(´<_` )「必要ないからな」
-
( ^ω( )「あ。じゃあ、喋る必要がないっていうのは」
( ´_ゝ`)「テレパシーがあるし」
キッパリと言いきった。
( ´_ゝ`)「朝の挨拶も、雑談も、エロゲ談義もぜーんぶテレパシー」
(´<_`# )「兄者!」
( ´_ゝ`)「ん?」
弟者の声に兄者は首を傾げる。
(#)A`)「弟者って、エロゲするの?」
( ´_ゝ`)「普通の男だし」
(;メ・∀・)「何と言うか……」
(;´/ω・`)「意外だし、何だかショックだ……」
(´<_`# )「ほらな! こうなるだろ!」
( ´_ゝ`)「お前、そんな必死に隠さなくても……」
-
(´<_`# )「うっさい!」
(;´_ゝ`)「痛い! 痛いって!」
(;^ω( )「あー。もう、どうどう。って痛っ!」
(;メ・∀・)「弟者! ブーンまで殴ってやるなよ!」
(´<_` )「あ、すまん」
( ^ω(メ)「傷が増えたお……」
(#)A`)「喧嘩にはテレパシー使わないのな」
( ´_ゝ`)「口に出したほうがスッキリするからな」
(´/ω・`)「ここに来れた理由って、弟者に教えてもらったからなの?」
( ´_ゝ`)「そうそう。とにかく、ドクオとブーンがヤバイから来いって。
理由は着いてから聞いた」
-
(#)A`)「せっかくだし、一ついい?」
( ´_ゝ`)「ん?」
(#)A`)「昔、兄者が溺れたとき、弟者が兄者殴っただろ?
あれ見て、お前達の仲が悪いんだって、オレは確信したんだけど」
( ´_ゝ`)「あー。アレね」
兄者が間延びした声を出す。
少し視線を彷徨わせて、どうするべきか考えているようだ。
(´<_` )「……兄者の声が聞こえたんだ」
弟者がポツリと零した。
(´<_` )「助けてって。死ぬって。
だから、走った。
助かってたのは良かったけど、オレにも周りにも心配させて、腹がたったから殴った」
( ´_ゝ`)「と、こういうわけだ」
(#)A`)「ああ、言葉がないうえに、表情が薄いから殺伐として見えたのか」
口に出されれば、暴力的ではあるが普通の兄弟の対応に見えてくる。
兄者も平然としているところを見れば、当時のことなど気にもしていないようだ。
-
( メ・∀・)「あー。しかし、馬鹿馬鹿しいね!」
(´<_` )「ん?」
( メ・∀・)「こっちは、キミ達の仲が悪いと思ってたから、片方に声がかけにくかったっていうのにさ!」
( ´_ゝ`)「そういえば、嫌いじゃなかったのか?」
双子がそろって首を傾げている。
彼らは本気で、自分の友人達が片割れやその友人達を嫌っていると思っていたようだ。
二人の噂が世間に流れているように、彼らを取り巻く友人達についても噂は流れていた。
その噂も全て一蹴してきていたのだろうか。
モララーはため息をついて、双子を取り巻く環境について説明した。
( ´_ゝ`)「何だ。ただの噂じゃなかったのか」
(´<_` )「根も葉もないものだとばかり」
(#)A`)「オレは元々、弟者達はクソ真面目で融通が利かなそうだと思ってたからなぁ」
(´/ω・`)「そりゃ悪かったね」
(#)A`)「あ、悪い」
( メ・∀・)「別にいいよ。
ショボンだって、ドクオ達のことを喧しい馬鹿だとしか思ってなかったんだから」
-
( ^ω(メ)「正直、そんな予感はしていた」
(;´/ω・`)「モララー!」
( メ・∀・)「いいんだよ。お互い様ってことで」
( ´_ゝ`)「いいこと言うなモララー!」
(´<_` )「うむ」
(#)A`)「今回のことで、あんた達のことを誤解してたってわかったよ。
本当に、ありがとう」
( メ・∀・)「もういいってば」
(#)A`)「でも言わせて欲しい。ありがとう。
感謝してもし足りないくらいだよ」
(´/ω・`)「ん。じゃあ、次は、キミが助けてよ」
(#)A`)「オレが?」
(´/ω・`)「いつか、助けが欲しいときに」
(#)∀`)「役に立てるようなことなら、いつでも言えよ!」
ドクオがショボンの背中を叩く。
二人の姿は、極普通の友達のそれだ。
-
( ^ω(メ)「それにしても、どうして兄者達は今までテレパシーのことを内緒にしてたんだお?
仲が悪いっていう噂だって、すぐに解消できたのに」
( ´_ゝ`)「言っても、すぐには信じてもらえないだろ?」
( メ・∀・)「そうだろうね」
(´<_` )「それに、オレ達は普通の兄弟だからな」
(´/ω・`)「どういうこと?」
( ´_ゝ`)「オレ達は昔から。それこそ、物心ついたときから、テレパシーで会話してたんだ。
だから、双子なら誰でも出来ると思ってたし、それがおかしなことだとは思ってなかった」
遠い目をしながら兄者が語りだす。
( ´_ゝ`)「でもさ、やっぱり普通じゃないだろ?
幼稚園くらいから、兄弟で口をきかないのはおかしいって言われたんだ。
だから言ったのさ。
『オレ達は頭で会話できるからいいんだよ』って」
(#)A`)「そりゃ……」
後の展開は予想がついた。
大人であろうが、子供であろうが、意外なほど現実は見えている。
突拍子もない能力のことなど、誰が信じるのというのだ。
そして、子供は残酷だ。無邪気であるが故に。
-
( ´_ゝ`)「予想通り、オレ達は軽くイジメられた。
だから、オレ達はそう簡単には教えないことにしたんだ。
例え、お前達みたいな友達だったとしても」
悲しげに、しかし、もう吹っ切れているとでも言い気に兄者は言葉を区切る。
ブーンはそろそろここを離れようと提案した。
兄者と弟者の肩を借りつつ、全員が廃墟を去る。
( ^ω(メ)「事情はわかったお。
でも、やっぱりちょっと寂しいお」
道中、ブーンが言った。
( ´_ゝ`)「そうか」
( ^ω(メ)「でも、話してくれてありがとうだお」
( メ・∀・)「いいね。友情だね」
(;´/ω・`)「モララー。余計な口を挟むのはやめなよ」
( メ・∀・)「いや。今言わなくてはならない」
(#)A`)「何だ?」
-
( メ・∀・)「一番の友達と言っても過言ではないボク達に隠しごとをしていたんだ。
相応の罰を受けてもらおうじゃないか」
(#)A`)「過言だろ」
( ´_ゝ`)「別に過言じゃないぞ?」
( ^ω(メ)「ありがとうだお」
流れるように三人の言葉が繋がる。
普段から慣れ親しんだ連携だ。
弟者達には少し真似できない。
(´<_` )「罰?」
( メ・∀・)「そうさ!
罰の内容はね――」
双子は言う。
あの時のモララーの笑みは、一生忘れない。と。
-
双子が一日の始めに顔をあわせるのは、家族そろっての朝食時だ。
兄者は朝食ギリギリに目を覚ます。
弟者は朝早くからジョギングに出かけている。
@@@
@#_、_@
( ノ`)「ほら! 早く席につきな!」
( う_ゝ`)「ふわぁ」
l从・∀・ノ!リ「おはようなのじゃおっきい兄者!」
( ´_ゝ`)「ん。おはよ」
∬´_ゝ`)「あんた、髪の毛跳ねてるわよ」
( ´_ゝ`)「マジか」
(´<_` )「ただいま」
彡⌒ミ
( ´_ゝ`)「おかえり。朝食できてるぞ」
(´<_` )「うん」
-
弟者は手にしていたタオルで軽く汗を拭きとり、自然と決まってしまっている自分の席につく。
隣には兄者。正面には妹者がいる。
(´<_` )「おはよ」
l从・∀・ノ!リ「おはようなのじゃちっちゃい兄者」
( ´_ゝ`)「おはよ。お前は朝から元気だな」
(´<_` )「兄者も走ったらどうだ」
( ´_ゝ`)「勘弁してください」
@@@
@#_、_@
( ノ`)「はいはい。さっさと食べる――」
∬´_ゝ`)「あれ?」
流石家の面々は違和感を感じた。
いつも通りの朝のはずだ。
母者が作った味噌汁と出汁巻き卵、鮭の切り身に白いご飯。
何とも日本人的な朝食が並べられ、家族全員が揃っている。
-
( ´_ゝ`)「予想はできてたよな」
(´<_` )「な」
l从・Д・ノ!リ「おっきい兄者とちっちゃい兄者がお話してるのじゃ!」
∬;´_ゝ`)「ちょっと! あんた達どうしたの?!」
@@@
@#_、_@
( ノ`)「病院に行くかい?」
彡⌒ミ
(; ´_ゝ`)「どうしたんだ!」
生まれてこの方、まともに会話しているところを見たことのない双子が、極自然に会話をしている。
家族はその超常現象に驚きを隠せない。
l从・∀・ノ!リ「悪い魔法が解けたのじゃ?」
( ´_ゝ`)「妹者。オレ達は悪い魔法にかかっていたわけじゃないよ」
(´<_` )「そうだよ。普通にお話できるよ」
∬;´_ゝ`)「その普通をしてこなかったのは、どこのどいつよ……」
-
あの母者でさえも驚きを隠さずにしている状況で、ゆっくり朝食を食べることはできない。
素早く理解した双子は互いに目を合わせ頷く。
( ´_ゝ`)「いただきます!」(´<_` )
(.´_ゝ`)「ごちそうさまでし!」(´<_`,)
かきこむように朝食を口に入れる。
家族の声を無視するように自室に入り、すぐさま着替えて家を出る。
l从・∀・ノ!リ「おっきい兄者! ちっちゃい兄者!」
玄関を出たところで、最愛の妹から声がかかる。
( ´_ゝ`)「何?」
(´<_` )「どうした?」
l从・∀・ノ!リ「今度、三人で公園に行きたいのじゃ!」
妹の些細な願い。
双子は笑った。
( ´_ゝ`)「いいぞ」
(´<_` )「いつでも大歓迎だ」
-
騒がしい家を後にし、双子はいつもの通学路を歩く。
( ´_ゝ`)「今日は一段と騒がしかったな」
(´<_` )「そりゃ驚くだろ」
( ´_ゝ`)「モララーも中々厳しい罰を与えてくれたものだ」
(´<_` )「まったくだ」
( ´_ゝ`)「お前の友達だろ? 何とかしろよ」
(´<_` )「できてたら、とうにやってる」
( ´_ゝ`)「だよなぁ。あー。お前と口で喋るって新感覚ぅ」
(´<_` )「キモイ」
( ´_ゝ`)「一言って……。お兄ちゃん傷ついちゃう」
(´<_` )「キモイ」
( ´_ゝ`)「……お前、面倒くさがるなって」
(´<_` )「うるさい」
-
二人に与えられた罰。
すなわち、一週間はテレパシー禁止令、だ。
もちろん、二人が申告しなければ、モララー達にはテレパシーを使っているか否かはわからない。
それでも律儀に口で会話をしているのは、友人達にも内緒にしていたという罪悪感だ。
また、今まで通りの過ごし方をしていると、当然ながらテレパシーを使っていることは丸分かりになってしまう。
適度に使えばいいのだが、二人にはその感覚がイマイチわからない。
一番楽に罰をこなせるのが、モララーの命じるまま、テレパシーを一切使わないことだった。
双子が朝から言葉を交わした理由はそれだ。
( ´_ゝ`)「あー。いつもと違うから弟者がつーめーたーいー」
兄者がぼやく。
普段、テレパシーを使っているときの弟者はほどほどに言葉を作る。
周りが見ているほど無口ではなく、兄者と最新のゲームについて語り合うこともあるほどだ。
けれども、口を開くことを面倒だと言ってしまう弟者は、普段周囲に見せている無口モードで兄者に対応している。
無口な弟者に慣れていない兄者からしてみればやりにくいことこの上ない。
(´<_` )「しかたないだろ。
オレだって、急に言われたって困る」
( ´_ゝ`)「そうだろうけどさー」
(´<_` )「……オレは兄者みたいに、上手く喋れないんだ」
-
弟者が不満気に吐き出す。
喋りたくないわけではないのだ。
ただ、テレパシーの時のように、自分のイメージを相手に上手く伝えられない。
( ´_ゝ`)「すぐ慣れるよ」
(´<_` )「またそうやって他人事だと思って」
( ´_ゝ`)「他人じゃないぞ」
(´<_` )「わかってるよ」
( ´_ゝ`)「だから、真剣に言ってる」
(´<_` )「……そうかい」
( ´_ゝ`)「おう」
-
それからも、いつも頭の中でしている会話よりは少なめではあったが、会話をしながら歩く。
( ^ω`)「おはようだお」
( ´_ゝ`)「おはよう。すごい顔だな」
(メA`)「これでもマシになっただろ?」
(´<_` )「そうだな。モララーはすっかり治ってる」
( ・∀・)「ボクは元々、それほど酷くなかったからね」
(´+ω・`)「それにしても、キミ達が向こうから喋りながら歩いてくるのって新鮮だよ」
( ´_ゝ`)「家は大騒ぎだったぞ」
(´<_` )「母者が珍しく動揺してたもんな」
( ^ω`)「母者さんも動揺するんだおね」
(´<_` )「一応、人間だからな」
( ´_ゝ`)「一応な」
(;´+ω・`)「その含みは何なのさ」
-
六人はそろって学校へ向かう。
今までのように、二つのグループには別れていない。
(メA`)「それにしても、やっぱり弟者の方が兄っぽいよな」
(´+ω・`)「しっかりしてるしね」
( ・∀・)「頭もいい!」
( ^ω`)「今度、勉強を教えて欲しいお!」
(´<_` )「……兄者には教えてもらわなかったのか?」
(メA`)「え? 何で?」
(´<_` )「兄者はオレと同じくらいの頭だぞ?」
( ^ω`)「またまたご冗談を」
( ・∀・)「そうそう。ボクは兄者のことが嫌いじゃないけど、彼を賢いと思ったことはないよ?」
(´+ω・`)「毎回、時間がーって叫んでるしね」
( ´_ゝ`)「お前達がオレのことをどう思っているかは、よーっくわかりましたよっと」
-
(´<_` )「ああ、それは兄者が馬鹿だからな」
( ^ω`)「言っていることが矛盾しまくってるお」
(´<_` )「えっと。だな。
テストが早く終わったら、問題用紙に絵を描いたりするときあるだろ?
兄者はアレを、テストと解き終る前にするんだ。
絵を完成させてから問題に取組むから、時間が足りないんだ」
(メA`)「うっそん!」
( ´_ゝ`)「マジです」
( ・∀・)「それは……。予想以上の馬鹿だった……」
(´<_` )「だろ?」
( ;ω`)「うおおおおん! 兄者はボク達の仲間だと思ってたのにいいい!」
(´+ω・`)「それでミセリさんの家に行ってもばれなかったのか」
(メA`)「ミセリさん家? どういうことだ?」
(´+ω・`)「この間のストーカー騒ぎのとき、兄者が先にミセリさんの家に行ってたんだ。
危うく刺されそうになっていたところに、ボクと弟者が駆けつけたの」
(#メA`)「兄者てめえ女の子の部屋に入ったのかああああああ!」
( ´_ゝ`)「羨ましいだろ!」
-
弟者はその時のことを思い出したのか、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
普段、あまり感情を出さない弟者のそういった顔は珍しい。
モララーなどは興味深げに眺めていた。
( ´_ゝ`)「……アレは弟者が悪い」
弟者の表情に気づいたのか、こっそりとテレパシーでも送られたのか、兄者が不満気に言う。
当然声は弟者の耳に届いたようで、双子は顔をあわせる。
(´<_` )「何を言うか」
二人の視線に火花が散る。
( ´_ゝ`)「オレは、あの子は怪しいと言って、家に行くのは危険だと言ってやったんだ。
だが、弟者ときたら、ちーっとも信じやしない」
(´<_` )「だからと言って、部屋の前に物を置きまくって監禁するのはどうかと思う」
(´+ω・`)「ああ、そういう事情があったの」
( ^ω`)「でも、結果的には兄者が正しかったんだお?」
(´<_` )「だとしても、オレが行ってたって、監禁まではされなかったみたいだし。
兄者は危険なことをしただけだ」
( ´_ゝ`)「兄の心弟知らず」
-
(メA`)「お前ら、本当に普通の兄弟だったんだな」
(´<_` )「そうだぞ」
( ´_ゝ`)「何度も言ったのにな」
( ・∀・)「その言葉の信憑性は限りなく無だったからね」
( ^ω`)「兄者は弟者と比べられると不機嫌になってたし」
( ´_ゝ`)「そりゃそうだろ」
(´<_` )「オレはオレ。兄者は兄者だ」
( ´_ゝ`)「比べられるなんて嫌だろ?」
(´+ω・`)「兄者が弟者と比べられるのは、間違いなくキミの授業態度が問題でしょ」
(;´_ゝ`)「それを言われると痛いな」
( ^ω`)「自覚あんのかお」
-
学校に着いたら着いたで、周りは騒然となった。
あの双子が言葉を交わしている。それも、普通の兄弟のように。
(,;゚Д゚)「何があったんだ?!」
<_プー゚)フ「わーお。明日は槍が降るね」
( ゚д゚ )「弟者、どうした……」
(-@∀@)「へー。珍しいこともあるもんだ」
(;´_ゝ`)「あー。鬱陶しい!」
(´<_`;)「モララー。お前は本当に厄介な罰を与えてくれたものだ」
( ・∀・)「自業自得さ」
( ^ω`)「だお」
(メA`)「一週間の辛抱だ」
(´+ω・`)「実質五日間なんだし、我慢しなよ」
(;´_ゝ`)「お前ら他人事だと思って!」(´<_`;)
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叫んだ双子だったが、彼らは一週間を過ぎてもある程度は口に出して会話をするようになった。
口を閉ざすことによって、また仲が悪い噂がたつのも面倒だ。
一度、周りが騒いだのならば、これ以上はもうない。
双子はこれを機会にした。
弟者は少し言葉を話す量が増えた。
兄者は奇行を止める人間ができたので、教師陣が安心した。
ζ(゚ー゚*ζ「あ、あの人って――」
しかし、人々の口は止まらない。
ξ゚听)ξ「ああ、あれは――」
――( ´_ゝ`)噂の双子のようです(´<_` )
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