トラツグミは知りたいようです 三話
65 :名も無きAAのようです:2012/09/18(火) 23:09:01 ID:z/QD7NhMO

第3話『歩く意味』


森を抜けてからしばらく歩くと、小さな村に着いた。
夜も更けて、明かりは見えない。

('A`)「…なんかこう、宿らしいとこはないか?」

( ^ω^)「よく見えないお」

从;゚∀从「もう俺、夜怖い…」

ξ゚听)ξ「あ、あった!」

ツンに案内され、一軒の建物に入る。
ドアを押し開けると、からん、と甲高い音が鳴った。

('、`*川「んー…どちら様?客?」

眠そうに目を擦って出て来た人に、泊まりたい旨を伝えた。

('、`*川「あー、はいはい。一部屋でいいね?…じゃ3番が空いてる。細かい事はまた明日ぁ」




66 :名も無きAAのようです:2012/09/18(火) 23:11:11 ID:z/QD7NhMO

('A`)「なんかすっげぇ適当だったな」

ξ゚听)ξ「時間も時間よ、仕方ないわ」

(;^ω^)「というかこの体で普通に泊まれたことに驚きだお」

从 ゚∀从「いいだろ、飯にしようぜ」

ハインの提案を受け、缶詰を広げる。
また例の魚だ。

('A`)「何なんだろうな、これ」

从 ゚∀从「さぁ?」

それ程かからずに食べ終わり、とりあえずの就寝となった。
小さな部屋に、好きな姿勢で眠る。
狭いが文句は言えない。




67 :名も無きAAのようです:2012/09/18(火) 23:12:22 ID:z/QD7NhMO

翌朝。

昨晩通してくれた人が部屋を訪れた。
女将というか店長というか、そういう存在だったらしい。

雑魚寝している四人を見て、少し怖がっていた。

('、`;川「え、えーと」

('、`;川「村長が呼んでますんで、行って下さいね」

( ^ω^)「怖がることないお。大体昨日見ただろうに」

('、`;川「暗かったもので…」

('、`*川「あと、これ」

渡されたのは布製の何か。
分厚く、重い。




68 :名も無きAAのようです:2012/09/18(火) 23:14:31 ID:z/QD7NhMO

拡げると、体がすっぽり入るようになった上着。
サイズのおかげで、体の殆どが隠れる。

('、`*川「体は隠した方がいい、らしいです」

('A`)「でしょうね」

ごそごそと音を立てて身につける。

ξ゚听)ξ「尻尾出るんだけど」

从 ゚∀从「いっそブーンがおぶったらどうだ?ブーンに尻尾巻き付けて」

('A`)「二人羽織みたいな?」

ξ゚听)ξ「あー、なるほど。ほら、入れなさい」

ブーンがツンを背中に揺すり上げ、とりあえずは見られるようになった。

( ´ω`)「一応女の子なのに当たるもんが当たらんおー……」

ξ#゚听)ξ「このっ」

(;^ω^)「ちょ、締まってる締まってる!内臓出るおぉぉぉ!!」




69 :名も無きAAのようです:2012/09/18(火) 23:17:21 ID:z/QD7NhMO

('、`*川「こっちです、どうぞ」

女性に連れられ少し歩き、村の奥の少し大きな家に通された。
中に一人の老人がいる。

/ ,' 3「お早うございます。さ、座ってください」

促されるままに腰を下ろした。

/ ,' 3「…さて、まず、貴方達は森の方から来ましたな?」

('A`)「ええ」

恐らくは抜けてきた森のことだろう。
虎には簡単な墓を作って来たが、野犬などに荒らされないかが少し不安ではある。

/ ,' 3「やはり…」




70 :名も無きAAのようです:2012/09/18(火) 23:19:20 ID:z/QD7NhMO

/ ,' 3「たまにあるんですよ。その…」

彼らの事を言いづらい様子。
ツンが台詞を引き取った。

ξ゚听)ξ「被験体の脱走?」

/ ,' 3「ええ、それが」

/ ,' 3「いつもは一人のみで、すぐに職員が探しに来ていましたが、今回は違う様子」

/ ,' 3「何かあった、と見ても?」

結局、知っている事を全て話した。
研究所の行方については、何も知らないらしい。

('A`)「研究者が移動するにしても、ここ付近は通らなかった、と」

/ ,' 3「ええ、そうなります」




71 :名も無きAAのようです:2012/09/18(火) 23:21:37 ID:z/QD7NhMO

/ ,' 3「皆さんの事情は分かりました。この村でよければ、一応は居られるでしょう」

( ^ω^)「ありがとうだお」

/ ,' 3「ですが、一つ…」

/ ,' 3「この村では多少慣れていますが、恐らく他の場所だと『化け物』扱いされるかと…」

/ ,' 3「皆さんを悪く言う訳ではありませんが、気をつけて」

('A`)「分かりました、わざわざありがとうございます。…とりあえず宿に戻るか」

ξ゚听)ξ「ええ、今後の方針を決めましょう」

从 ゚∀从「…ああ、うん」

朝日の中を歩いて宿に戻った。
道中で人と擦れ違ったが、ぎょっとしているだけで騒ぎはされなかった。




72 :名も無きAAのようです:2012/09/18(火) 23:23:42 ID:z/QD7NhMO

('A`)「しばらくなら宿代は無しにしてくれるらしいぞ」

( ^ω^)「マジかお、太っ腹だお」

座って何ともなしに荷物の整理などをしていると、扉がそっと開いた。
隠れるように覗いているのは、小さな女の子。

*(‘‘)*「…」

*(‘‘)*「にーちゃん達、体が変って本当…?」

ξ゚听)ξ「噂って凄いわね…。本当よ、ほら」

ツンが尻尾を振って見せる。
子供は少したじろいだ。
が、すぐに笑った。

*(*‘‘)*「遊ぼう!」




73 :名も無きAAのようです:2012/09/18(火) 23:25:20 ID:z/QD7NhMO

よく見ると、後ろにも数人の子供が控えている。

('A`)「ブーン、行ってこい」

(;^ω^)「えー…」

ξ゚听)ξ「この豚の兄ちゃんが遊ぶってさ!」

*(‘‘)*「豚ちゃん、行こう!」

(;^ω^)「豚ちゃん…」

ブーンが外に引っ張られて行った。
わいわいと賑わう声が聞こえる。

(;'A`)「話し合いをしようって時に…。送り出したの俺達だけど」

ξ゚听)ξ「仕方ないわ、後で伝えましょうよ」




74 :名も無きAAのようです:2012/09/18(火) 23:27:01 ID:z/QD7NhMO

部屋の壁にもたれてハインが座っている。
明らかに元気がない。

('A`)「で、ハインはどうした」

从 -∀从「いや…何でもないよ」

ξ゚听)ξ「話しなさいよ、絞めるわよ」

从;゚∀从「あ、えー…上着重いな、って」

言われて大きな上着に気づき、めいめい脱いで荷物の辺りに放った。

ξ゚听)ξ「さて」

ツンの尻尾がハインに伸びる。

从;゚∀从「待って待って待って待って!分かった、ごまかさないから!」

('A`)「恐怖の尻尾と名付けよう」




75 :名も無きAAのようです:2012/09/18(火) 23:29:49 ID:z/QD7NhMO

ドクオとツンを見渡し、決心したように言った。

从 ゚∀从「お前達、さ」

从 ゚∀从「あの虎キマイラ、殺してはしゃいでたよな」

ξ;゚听)ξ「そんなの…」

从 ゚∀从「いや、それが悪いとかそんなんじゃないよ。やるかやられるか、なんだし」

从 ゚∀从「でも、やっぱり元々は人なんだよ、俺達同様に」

从 ゚∀从「命が助かって喜ぶんじゃなくて、殺して喜ぶのは…違う、よな」

('A`)「…まあ、そうだな」

从 ゚∀从「本題は別だけど、とりあえず言っとこうと思って」

从 ゚∀从「突き詰めても何だし、それは仕方ないとして…」




76 :名も無きAAのようです:2012/09/18(火) 23:31:53 ID:z/QD7NhMO

从 ゚∀从「何と言うかさ、俺達って世の中知らなさすぎたよ」

ξ゚听)ξ「研究所で習っただけしか知らないもんね……」

从 ゚∀从「普通の村人見て実感したんだ」

从 ゚∀从「何て言うか…異常なんだな、やっぱし」

('A`)「……異常かどうかは知らんが、確かに変だわな」

('A`)「でも、さっきの子供みたいに怖がらない奴だっているよ、きっと」

从 ゚∀从「…そうかな」

ξ゚听)ξ「ほら!」

重い空気を打ち破るように、ツンが手を叩いた。

ξ゚听)ξ「深く考えても泥沼だわ。今後どうするか決めましょうよ」

从;゚∀从「今後ったってなぁ…」




77 :名も無きAAのようです:2012/09/18(火) 23:32:31 ID:z/QD7NhMO

('A`)「俺は人捜しかな」

从 ゚∀从「クーって奴か」

('A`)「ああ。…まぁはっきり目星がついてる訳じゃないんだけどな」

ξ゚听)ξ「私達は…」

ξ;゚听)ξ「特に無し、かな?」

从;゚∀从「格好悪…」

从 ゚∀从「まぁでも、実際ないよな…」

ξ゚听)ξ「ずーっと無意味に生きてたもんね、思えば」

('A`)「何だそりゃ」




78 :名も無きAAのようです:2012/09/18(火) 23:33:38 ID:z/QD7NhMO

ξ゚听)ξ「ほら、私達って実験されんのが生きがいみたいなもんだったし」

思えば彼らは実験の為に生きていた。
実験されるために薬を飲み、切り刻まれ、同居人を変え、そうして生きる。
全ては次の実験の為に。

ξ゚听)ξ「それがない今、どうしようか…」

一瞬空気が固まった所に、勢いよくドアの開く音が響いた。
よれた服を着たブーンが仁王立ちしている。

( ^ω^)「話は聞かせてもらったお!」

从 ゚∀从「いつの間に…」




79 :名も無きAAのようです:2012/09/18(火) 23:34:38 ID:z/QD7NhMO

( ^ω^)「効果的に登場するためにタイミング計ってたなんて内緒だお」

ξ゚听)ξ「バカかあんた。あ、バカだわ」

(;^ω^)「ちょっ……まあ、とにかく!」

( ^ω^)「なけりゃ探せばいいんだお!」

('A`)「は?」

( ^ω^)「だから、研究所の引越先を突き止めて、聞こうお!」

( ^ω^)「生まれてきた意味を!」

( ^ω^)「道中で何か見つかったら、それまででいいし」

( ^ω^)「何にせよ、僕達を捨てた奴を一発殴らにゃ気が済まんお!」

言い切って、笑った。
彼のよく見せる、朗らかな笑顔。




81 :名も無きAAのようです:2012/09/18(火) 23:37:12 ID:z/QD7NhMO

( ^ω^)「それしかないお!」

从;゚∀从「全く…」

从 ゚∀从「俺もこいつみたいに楽天的ならなぁ」

('A`)「それはそれで困るかな」

ξ゚听)ξ「じゃあとにかく研究所を追うって事で…どうすんの?」

( ^ω^)「南に町があるらしいお、行くお!」

(;'A`)「お前、いつの間にそんな事まで…」

ξ;゚听)ξ「存外にできるわね…」

漠然とした行動に、ようやくはっきりした目的が見えた。
生まれてきた意味など、考えた事もなかった。

初めて、希望というものを持った気がする。
誰ともなしに笑い出し、小さな部屋に四人分の笑い声が満ちた。


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