('A`)^ω^)Bullet Opera OverNight!のようです
- 1 名前: ◆jCM67GcpiA :2009/08/24(月) 20:17:34.78 ID:VvFq+HoO0
- ・サマー三国志参加作品
・投下速度維持のため、P2と二刀流
・フィクションです。人物・団体名は架空です
参考資料
メディアガンデータベース
ttp://mgdb.himitsukichi.com/pukiwiki/?MEDIAGUN%20DATABASE
Wikipedia - 銃
ttp://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%8A%83
- 2 名前: ◆jCM67GcpiA :2009/08/24(月) 20:18:31.28 ID:VvFq+HoO0
- |_____________
Prologue "Dancer in the Pitchblack"
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|
――日本国首都、東京。
時は、深夜。
4WD車のヘッドランプが、暗闇の地下駐車場を丸く切り抜いていた。
映し出すのは、弾痕。そして、薬莢。
周囲に他の車両はなく、打ちっ放しのコンクリの壁面が無機質に。
――銃声。閃光。悲鳴。
比重の高い液体が詰まった頭陀袋が、悲鳴を上げて崩れ落ちる音。
また銃声。
(´<_` ;)「だから言ったろ! さっさと逃げろって! 兄者、聞いてるのか?」
少し離れた柱の陰で、警備服姿の男が怒鳴る。
柱から腕だけを出してブラインドファイアで牽制を加え、すぐに腕を引っ込める。
(; ´_ゝ`)「そんなコト言われても困るぜ、弟者。
仲間は他に六人、警備員だってゲイバーのコスプレオカマ並のヘタレ。
谷亮子でヌくよりチョロいヤマだって言ったのは、お前だろうが!」
通路を挟んだ反対側の柱の陰。叫んだ男、弟者に似た顔の男、兄者が叫び返す。
この言葉には、一部誤りがある。その六人の仲間はつい数秒前に全滅した。従って、今の仲間は、ゼロ。
(´<_` ;)「ああ、そうだよっ! 悪いか、大枚はたいて仕入れたネタなんだぞっ!
こんな計算違いさえなきゃ、今頃は……くそッ!」
- 3 名前: ◆jCM67GcpiA :2009/08/24(月) 20:20:27.72 ID:VvFq+HoO0
- 愚痴り、後ろを見る。4WD車にはエンジンが掛かったままだ。
距離は約10メートル。そこまで辿り着けさえすれば。
(´<_` ;)「とにかく、逃げようっ。このままじゃ、どのみちオダブツだ!
さっさとずらかるしかないッ!」
(; ´_ゝ`)「だが――」
失敗した計画。瞬時に倒された仲間。
暗闇から重くのし掛かる、恐怖という名の重圧。
それに、弟者は敗北した。
(´<_` ;)「俺が先に車に戻る。掩護頼むッ!!」
言うが早いか、柱から飛び出す。
(´<_` ;)「うお――おおおおおおおおおぉぉっ!!」
カービン銃をフルオートで連射しながら、後ろ向きに後退する。
マズルフラッシュがストロボのように駐車場の壁を浮かび上がらせる。
太い発砲音に、排出された薬莢が地面に落ちる甲高い金属音が遅れて響いた。
(; ´_ゝ`)「……!!」
そのマズルフラッシュに、兄者は見た。
黒い人影が、弟者の銃口の正面、10メートルもない距離にちらついたのを。
そして――弟者のカービン銃から吐き出される弾丸を、身を翻して躱したのを。
- 6 名前: ◆jCM67GcpiA :2009/08/24(月) 20:23:52.06 ID:VvFq+HoO0
- (´<_` ;)「う、うお……うおおおおおおおおっ!!」
それに割り込み、軽い発砲音。マズルフラッシュは、弟者の胸元で閃いた。
( <_ )「あ……」
弟者はその場にくたりと崩れ落ち、動かなくなった。
(; ´_ゝ`)「お、弟者――ッ!!」
その光景を見た瞬間、兄者の脳内の回線が切れた。
柱の影から躍り出、人影のいた辺りに掃射を浴びせながら駆ける。
(# ゚_ゝ゚)「うおおおおおぉぉぉっ! 弟者あああああああぁぁっ!!」
灯りが何一つない地下駐車場では、マズルフラッシュだけが照明源になる。
その灯りの中で――やはり、人影は無音で動き、銃弾から逃れた。
(# ゚_ゝ゚)「クソっ、クソっ、クソクソクソクソおおぉっ!
当たれ、当たれよッ!!」
叫びながらも、トリガーは断続的に緩める。人影が動いた方向に銃口を振り、細かい連射を続ける。
だが、当たらない。発射される5.56mm弾は、ことごとくコンクリの壁を削る。
それだけではない。身を屈めた人影は、兄者の連射を避けながら確実に間合いを詰めている。
連続した円弧を描く奇妙な運足が、閃光の中でコマ送りの映像のように兄者の目に焼き付く。
(# ゚_ゝ゚)「何だよ、こいつ! 一体、どうなってやがるッ!!!!」
- 7 名前: ◆jCM67GcpiA :2009/08/24(月) 20:24:57.54 ID:VvFq+HoO0
- 僅か2メートルほどの距離にまで近づいた人影に、兄者は再び銃口を向ける。
その瞬間――人影は身体を反転させ、銃口から大きく逃れて兄者の右脇に潜り込んだ。
目の前に、黒い衣服の袖が迫る。加熱した銃口が、その前腕部と上腕部に挟み込まれる。
そう認識した次の瞬間に、手にしたカービン銃が身体の外側に大きく捻られた。
(; ´_ゝ`)「――あぐぅっ!」
トリガーに掛けられたままの兄者の人差し指が、乾いた音を立てて逆方向に折れ曲がった。
開いた右手からカービン銃が、がしゃんっ、と音を立てて床に落ちる。
小柄な人影。それは、今や兄者の眼前に、悠然と立っていた。両手の拳銃を、兄者の両脚に向けて。
(; ´_ゝ`)「お前、いったい……何なんだよ…っ!」
黒い長衣の、小柄な男。その陰った口元が、静かに動く。
( )「…………『銃士』」
(; ´_ゝ`)「銃、士……!」
聞いたことがある、単語だった。犯罪者仲間の噂話として……或いは、都市伝説として。
(; ´_ゝ`)「……『銃士』。本当に、存在するのか、ッ。これが、『銃士』……これが……」
そして、その銃士が用いる戦闘術の名、それは。
(; ゚_ゝ゚)「『銃ノ型』――――」
兄者の呟きは銃声に覆い隠され、消えた。
後には、闇。そして運転手と積み荷を失った4WDのエンジン音。小さくなる靴音。そして静寂。
- 8 名前: ◆jCM67GcpiA :2009/08/24(月) 20:27:41.19 ID:VvFq+HoO0
- |_____________
1st movement "Dawn of the Training Day"
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|
20xx年。
初夏の早朝、気温はまだ安定している。
だがこの狭いワンルームマンションの一室には、熱気が立ちこめていた。
その原因は、部屋の中央の人影にあった。
( )「……っ。ふ……っ」
細い上半身を晒した男……いや、男ではなく少年だ。
その少年は部屋の中央近くまで張り出したロフトの縁に手を掛け、懸垂運動を繰り返していた。
手を掛けた金属製の枠のすぐ隣には、濃紺の学生服が掛けられている。
( )「ふう、っ。ふう……っ、はあっ」
何十度目になるか知れない懸垂を追え、そのままの姿勢で息を大きく吐く。
そのまま両手を離し、床に降り立った。
('A`) 「……ふうっ」
流れる汗もそのままに、額を手の甲で拭う。
その身体は、細い。だが、それは不摂生によるものではない。
引き締まった上半身にはほとんど脂肪がなく、陸上選手のように引き締まった、均整の取れた
筋肉で覆われている。
彼の背後で付けたままのテレビからは、ワイドショーが流れている。
自称ヒューマニストと軍事評論家の無意味な問答は、ここ10年以上の予定調和だった。
- 9 名前: ◆jCM67GcpiA :2009/08/24(月) 20:30:48.90 ID:VvFq+HoO0
- (-@∀@)『……しかしですね。いくら当時、四半世紀前、銃犯罪が増加傾向にあったとはいえ、
銃刀法の全面改正に踏み切るとは。確かにカンフル剤にはなったとは思いますが――』
_、_
( ,_ノ` )y━・~『銃刀法の全面改正は、国民投票による決議です。国民の総意ですよ。
それに、当時の国民に必要だったのはカンフル剤じゃない。生命維持装置ですよ』
何度も、何十度も繰り返された会話。
それを聞き流し、細身の少年は再度ロフトに飛び付く。
今度は枠に足を掛け、頭を下に逆さ吊りの姿勢になった。
(;-@∀@)『で、ですが。成人した国民全員に銃の所持を許可する、というのはですね……』
_、_
( ,_ノ` )y━・~『やれやれ。あなたもご存じでしょう? "Fellows of the Patoriots"――"FOP事件"を。
"愛国者の同士達"――当時流行したゲームの、下らないパロディの名前の組織。
今世紀の初めから世界各国で活動を続けている、最大最悪の組織だ』
(-@∀@)『ええ、それはもちろん』
_、_
( ,_ノ` )y━・~『ごく簡単な暗号さえ知っていれば、それを匿名掲示板に書き込み、代金を振り込むだけ。
それだけで、最新鋭の銃火器が格安で手に入るようになった。日本でも、ですよ。
犯罪者の温床……いや、温床という言葉は生ぬるい。培養槽ですな。
国民は、彼等犯罪者から身を守るため、自衛の手段を持たねばならなかった』
('A`) 「……ふ、っ」
後頭部を両手で固定する。腹筋に力を入れ、身体を起こし、二つ折りに折り曲げる。その動作を繰り返す。
(;-@∀@)『しかし、しかしですよ。銃犯罪に対抗するのに銃を持ってする、という姿勢はですね。
争いの連鎖、というか、禍根というか、問題の根本的解決には、ならないのでは。
ここはやはり、お互い銃を捨て……』
- 11 名前: ◆jCM67GcpiA :2009/08/24(月) 20:33:58.35 ID:VvFq+HoO0
- _、_
( ,_ノ` )y━・~『それで命が守れれば、苦労はしないんですよ。アサピーさん。
……もしも、ですよ。もしも明日あなたが路頭に迷い、銃を手に強盗を働くとしたら。
銃で武装した人のいる家と、そうでない家。どちらを狙いますか?』
(;-@∀@)『そ、そういう問題では!』
_、_
( ,_ノ` )y━・~『そういう問題ですよ。
毎晩、日本中で何人の市民が発砲事件で死んでいるか、知っていますか?
それ以外の事件では? 強盗事件の被害額が年々下がっている現実は?
銃犯罪の増加がきっかけで、日本の治安は加速度的に悪化している。事実ですよ』
(;-@∀@)『……』
_、_
( ,_ノ` )y━・~『急増する乳幼児の誘拐事件。思想団体や新興宗教の武装蜂起。
右だの左だのと叫んでいる連中は、スピーカーのマイクを東西の突撃銃に
持ち替えて、毎週どこかしらで警察と三つ巴の銃撃戦だ。
それでもあなたは、毎日丸裸で街を歩けと言うのですか?』
(;-@∀@)『……そ、それは』
_、_
( ,_ノ` )y━・~『私も、テレビの前の視聴者全員も。そして、あなた自身も。
もう、とっくに他人事ではないんですよ……』
テレビの画面に目をやることはない。
少年は、ひたすら荒い息を吐きながらトレーニングを続ける。
少年が宙吊りで腹筋を続ける、ロフトの上。
枠に掛けられた上着のそばには、同じ色のズボンが畳まれて置かれている。
その上で鈍い光沢を放つ、制服には似つかわしくない装身具は――革製のショルダーホルスターだった。
- 12 名前: ◆jCM67GcpiA :2009/08/24(月) 20:36:06.44 ID:VvFq+HoO0
- ――都内、国鉄沿線。
VIP高校3年F組、教室。
静まりかえった教室に、教師の声が響いている。
( ´∀`)「はいはい、静かに。朝のホームルームを始めるモナ。
遅刻してる奴はいないモナ? 出席取るモナよ。では――」
ばたん! と大きな音を立て、叩き付けるように戸が開く。
教室内の全員の姿勢が、一点に集中した。即ち、遅れて来たその生徒に。
(; ^ω^)「ふう、ふひっ。お、遅れましたお。
出席、まだ始めてないですかお?」
( ´∀`)「……内藤ホライゾン、遅刻、と」
(; ^ω^)「ちょwww」
教師は非常にも出席簿に斜線を刻む。
内藤ホライゾン、と呼ばれた少年は、がっくりと落とした肩を揺らして席に向かった。
大きく膨らんだ制服の腹が、歩調に合わせて揺れた。
ξ゚听)ξ「……アンタさ、また遅刻? 学校ナメてんの?」
片眉をつり上げ、隣席の女生徒が小声で毒づく。
( ^ω^)「おいすー、ツン。……しょうがないお。走っても間に合わないんだお……よっと」
ξ゚听)ξ「それは、アンタがデブだからでしょ。その腹、さっさと引っ込めなさいよ。ブーン」
(; ^ω^)「ボ、ボクも好きで太ってる訳じゃないお。ショ、ショボンもそう思うお?」
- 13 名前:◆jCM67GcpiA :2009/08/24(月) 20:39:32.00 ID:VvFq+HoO0
- 助けを求めるように、後ろの席を覗き込む。呼ばれた少年は、にっこりと微笑んで、言った。
(´・ω・`) 「デブは死刑」
( ^ω^)「テラヒドスwwwww」
( ´∀`)「出席を続ける前に。そこの三人。ちょっくら廊下に立ってくるモナ?
……まあ、いいモナ。いい区切りだモナ。
続ける前に、今日からみんなの同級生になる転校生を紹介するモナ」
( ^ω^)「……おっ。かわいいおにゃのこじゃないのかお?」
ξ゚听)ξ「良く、そういうこと言えるわね。ほんと、感心するわ」
( ´∀`)「……ドクオくん。入っていいモナ」
教師の声に答え、入り口の戸が静かに開く。姿を現したのは――
('A`) 「……。……鬱田ドクオです。
……よろしく」
――細身の、暗い顔をした少年だった。
ブーンと同じように愛らしい女子の転校生を期待していたほとんどの男子生徒が顔をしかめる。
快活さとはほど遠いその無気力な表情に、半数以上の女子生徒の顔が曇る。
だが、生徒達は誰も気がついていない。
大きめのサイズの制服に隠された身体が、鍛えられたものであるということに。
そして制服の脇が、僅かに、余程注意して見なければ分からないほどに、膨らんでいることに。
- 14 名前: ◆jCM67GcpiA :2009/08/24(月) 20:42:21.91 ID:FosrSRLNP
- ξ゚听)ξ「……うっわ。ネクラそう……」
先程のブーンへの言葉もどこへやら、ツンは率直に過ぎる感想を漏らす。
(´・ω・`) 「どうだろうね。人は見かけによらない、って言うからさ。
案外、いい奴かも知れないよ?」
( ^ω^)「それはねーお。120%ねーお」
ξ゚听)ξ「ないない、それ全然ない」
(´・ω・`) 「……彼も、まさか赤の他人に全否定されるとは思ってないだろうね……」
三人は勝手な感想を漏らす。
教師は、ブーンの窓側の隣の空席を指差した。ツンとは反対側だ。
( ´∀`)「そこの席が空いてるから、座るモナ。教科書とかは、隣に見せてもらうモナ。
じゃ、授業を始めるモナよ」
('A`) 「……はい」
ドクオは静かに歩き、ブーンの隣の空席に辿り着いた。
そのまま何をするでもなく、ただ黙って座る。
その彼に、ブーンは遠慮なく声を掛けた。
( ^ω^)「ドクオくん、よろしくだお!
ボクは内藤ホライゾンだお。ブーンって呼んで欲しいお」
('A`) 「……ああ、よろしく。ブーン」
- 15 名前:◆jCM67GcpiA :2009/08/24(月) 20:45:04.61 ID:FosrSRLNP
- ( ^ω^)「一時限目、現代文だお。
ボクの教科書見せてあげるから、一緒にお勉強するお!」
カバンから教科書とノートを取り出しながら、机をさりげなくドクオに寄せる。
('A`) 「……あ、うん」
ξ゚听)ξ(さすがね。あの馴れ馴れしさ、アタシにはマネできないわ)
(´・ω・`) (同感だよ。人徳だね。あと腹)
ブーンは、反応の薄いドクオに嬉々として話しかけ続けている。
その様子を見た二人は顔を見合わせ、笑った。
('A`) 「……」
ブーンの矢継ぎ早な質問や世間話に相槌を打ちながら、ドクオは窓の外を見る。
はめ殺しの分厚い防弾ガラスに映る外界の風景は歪み、奇妙にぼやけて、壁に遮られている。
学校は、外界から隔絶されている。
銃犯罪対策の一環として、全ての公共機関の周囲には高さ3メートル以上の厚いコンクリートの防壁が
敷設されていた。出入り口は封鎖され、警察関係者以外は自然災害の発生以外のいかなる理由でも
外出を許されていない。
その代わりに、校内の施設は充実し、全校生徒が閉じこもったままでも一週間は生活に不自由しない
だけの設備と物資が備蓄されている。
今の社会は、この景色と同じように、歪んでいる。
誰もが口には出さない。だが、漠然と、そう感じている。
- 16 名前: ◆jCM67GcpiA :2009/08/24(月) 20:48:32.30 ID:FosrSRLNP
- ――四限の終了のチャイムが鳴る。生徒達は席を立ち、周囲の友人と雑談を始める。
ブーンは、動かないドクオにすかさず声を掛けた。
( ^ω^)「ほら。ボクの友達、紹介するお」
ブーンは座ったまま、身体をツンとショボンの方に向ける。訝しげな眼で、ドクオは二人の生徒を見た。
( ^ω^)「こっちがショボンだお。ショボンは管弦楽部の部員なんだお!」
ショボンは腰を浮かせ、軽く手を上げる。立てかけられたチェロのケースを指差しながら、口を開いた。
(´・ω・`) 「まあ、幽霊部員同然なんだけどね。
やぁ(´・ω・`) 僕がショボンだよ。初めまして」
( ^ω^)「で、こっちがツンだお。
ツンはフランス人のハーフで、帰国子女なんだお! 女優さんみたいでキレイだお?」
ξ*゚听)ξ「あ、アンタね、なんて紹介の仕方してんの。それにアタシはハーフじゃなくてクォーター!
何度も間違えないで。まあ、いいわ。よろしくね」
腕を組み、挑戦的にも見える視線をドクオに向けてツンは言う。その髪は明るい、金髪に近い色を
している。瞳は――左右の色が違う。左目が淡いスカイブルー、右目は黒に近いインディゴ。
('A`) 「あ……ああ。ドクオだ。よろしく」
ξ゚听)ξ「聞こえないわよ。もうちょっと大きな声で喋ってくれない?」
(;'A`) 「……」
(; ^ω^)「まあまあ。ほ、ほらほらっ、早く学食行くお。ご飯、売り切れちゃうお!」
- 17 名前: ◆jCM67GcpiA :2009/08/24(月) 20:51:42.11 ID:FosrSRLNP
- |_____________
2nd movement "End of the Sixth Day"
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|
二週間ほどが経った。
ドクオが三人になじむのには、さして時間は掛からなかった。
もっとも、それはブーンの努力に寄るところが大きい。
人なつっこい笑顔と遠慮のない物言いは、少しずつドクオの警戒心を解いていた。
四人が行動を共にするようになるのに、そう時間は掛からなかった。
( ^ω^)「はー……疲れたお。試験が終わったら、どっかパーッと遊びに行きたいお」
ξ゚听)ξ「それ、いいわね。それじゃあ、アタシの買い物にアンタ達が付き合うっていうのはどう?」
(´・ω・`) 「それって遊びなのかい?」
ショボンが片眉を上げる。ツンは意に介さず、得意気な表情で腕組みをした。
ξ゚听)ξ「いいじゃない。気分展開になるし。
ほら。駅の反対側のショッピングモール。あそこ、みんなで行きましょうよ」
( ^ω^)「おっ、それいいお。大賛成だお!」
('A`) 「……」
ドクオは机の上を片付けながら、窓の外を見続けている。
打ち解けた、とはいえ、まだ輪からは外れがちなことが多い。
- 18 名前: ◆jCM67GcpiA :2009/08/24(月) 20:54:05.12 ID:FosrSRLNP
- ξ゚听)ξ「そこのネクラ男。なに知らんぷりしてるの? アンタも一緒に来るのよ。分かった?」
('A`) 「あ、俺は……」
( ^ω^)「まあまあ、たまにはいいお?
ドクオ、いつも寄り道しないで帰ってるし。たまには――」
そう言いながら、ドクオの肩をぽんと叩く。
( ^ω^)「……?」
('A`)「っ!!」
ドクオは跳ね上がるように立ち上がり、ブーンの手を払った。
ツンとショボンは、何事かとドクオの顔を覗き込む。
(; ^ω^)「あ、ご、ごめんだお。触られるの、イヤだったかお?」
('A`) 「あ、い……いや、そうじゃない……分かったよ。行く」
ξ゚听)ξ「わかればよろしい。
じゃ、帰るわよ。もう勉強なんて御免だわ」
ツンはさっさと立ち上がり、鞄に勉強道具を詰め込む。
ショボンとブーンも慌ててそれにならった。
( ^ω^)「……」
三人は他愛もない会話をしながら身支度を続ける。
ブーンは無言で、時折ドクオの顔を覗き込んでいた。
- 19 名前: ◆jCM67GcpiA :2009/08/24(月) 20:56:10.75 ID:FosrSRLNP
- 深夜。
ドクオの住む、ワンルームマンションの一室。
部屋の主は、灯りを落とした部屋の中央に制服姿のまま踞っていた。
('A`) 「……」
立ち上がり、制服の上着を脱ぐ。
その下から姿を現したのは、明るい色のアンダーシャツと……ショルダーホルスターだ。
それは革のベルトを背中から肩に回し、脇のホルスターを保持する形状になっている。
('A`) 「……」
昼間、ブーンに叩かれた肩の箇所を撫でる。
その部分はホルスターとアンダーシャツの境目で、僅かに不自然な凹凸がある。
('A`) 「……気付かれた……?」
静かに呟き、思案し、やがて彼は、静かに首を振った。
そして、勉強机の上で灯りを発するパソコンのディスプレイに向かった。
その脇には、年配の男女と幼い少年の写真が、木製のフォトスタンドに収まっている。
色褪せた三つの笑顔が、無表情にパソコンに向かうドクオの顔に向けられていた。
- 20 名前: ◆jCM67GcpiA :2009/08/24(月) 20:58:54.80 ID:FosrSRLNP
- ξ#゚听)ξ「……アンタ達ね。せっかくの休日なのに、どうしてもっとおしゃれしてこないの?」
五分遅れで待ち合わせ場所に到着したツンが発したのは、謝罪ではなく怒声だった。
その怒りは、先に到着した三人に向けられていた。
六日間の試験期間が終わった翌日の、日曜。集合場所は、駅前だった。
( ^ω^)「……そんなこと言われても、普段通りだお? だお、ショボン」
(´・ω・`) 「うん。部活動もあったし、僕は全く普段の格好だけど。何か問題が?」
ブーンは、膝丈のジャケット。押し上げられた腹の分、丈足らずになり、下のシャツが覗いている。
ドクオは身体のラインを隠すようにサイズの大きい、化粧気の全く感じられない厚手のシャツ。
ショボンは言葉通り、詰め襟の制服姿だ。肩にはチェロのケースを下げている。
三人の視線が、逆にツンの全身に集中する。
ξ゚听)ξ「……何よ」
長い丈の、黒のスカート。デザインを揃えた同様のトップに、ダークグレイのブラウスの襟が覗く。
上下共に控えめではあるがレースとフリルで飾られ、胸元には幅広の明るい色のリボンが掛かっている。
( ^ω^)「うーん……これはこれは。どう考えても……」
('A`) 「……きわどいな」
(´・ω・`) 「……すごく……ゴスです……」
三人は腕組みし、思い思いの感想を述べる。
俯き肩を震わせるツン。頬は、微かに紅潮している。
ξ* )ξ「…………べ、別に……いいじゃないッ。
可愛いの……好きなんだもん……!」
- 25 名前: ◆jCM67GcpiA :2009/08/24(月) 21:04:53.80 ID:FosrSRLNP
- 四人で、駅からショッピングモールに向かって歩く。
初夏の昼下がりの日差しは強かった。
道沿いの高架を、車体の側面に分厚い鉄板を貼り付けた電車がゆっくりと走っていく。
数年前、学生が「モンロー効果を見たかった」という理由で停止中の電車に至近距離から
対戦車砲を撃ち込む事件が発生してから、装甲列車は全国に普及しつつあった。
学生は死んだ。
( ^ω^)「……平和だけど、物騒な世の中だお……」
周囲を見回しながら、ブーンは溜息をつく。
街並みは、かつてのものとは一変している。歩道は見通しが利くよう広く整備し直された。
そして、そこここに乱射事件の際に遮蔽物として利用できるよう強化ガラスと金属の塀が巡らされた。
閉店中の店に下ろされたシャッターも、重く厚い防弾仕様のものしか見当たらない。
店の顔ぶれも、そうだった。最も被害を受けたのは、繁華街だ。
夜ごとに発生する発砲事件のため、従業員は巻き添えを食って死ぬか、助かった者も商売を捨てて
逃げ出していった。代わりに開いたテナントに入ったのは、無認可の銃砲店だった。
(´・ω・`) 「全くだね。気が滅入るよ」
巡回する警察官と擦れ違い、ショボンも応える。
警察官も、かつてのような裸同然の軽装ではない。
グレードの高いボディアーマーを身に着け、警棒と回転式拳銃の代わりに短機関銃を肩から提げ、
腰のホルスターにはテーザー銃を差しているのを見ることができた。これが、警察官の標準装備なのだ。
('A`) 「……」
ドクオは無言で、三人の後に付いている。油断なく左右を見回しているようにも見えた。
- 26 名前:>>24そうです。指摘ありがと ◆jCM67GcpiA :2009/08/24(月) 21:07:41.45 ID:FosrSRLNP
- ('A`) 「……すげえな」
モール前のゲートに着いたドクオは、おもむろに漏らした。
四人の眼前には、米軍基地のような高いフェンスが続いている。
その内側には、流れ弾を防ぐコンクリの塀。ゲートの前で武装警備員が身分証のチェックを行っている。
ξ゚听)ξ「ふふん。田舎モノなのね、アンタ」
(; ^ω^)「……こんなトコで勝ち誇ってどうするんだお……。
でも、そうだお。ここがこの街で唯一、外から来た人に自慢できる場所なんだお!」
(´・ω・`) 「ここからじゃ見えないけど、中は普通のモールだよ。刑務所なんかじゃないからね」
三人の言葉に頷きながら、ドクオは左右を見回す。
モールの周囲には、馴染みのない喧噪があった。それを、三人も認める。
( ^ω^)「……なんか、運送屋さんが多いお」
(´・ω・`) 「だね。どこか、新規開店するのかな。それとも閉店かな?」
フェンスに沿って、何台もの運送会社のトラックが並んでいる。
国内ではお馴染みの、ネコ科動物をトレードマークにしたグリーンとクリームのトラックだ。
トラックの後ろに立ったリーダらしき人間が指揮し、声を張り上げて荷下ろしを先導していた。
(,,゚Д゚)「ゴルァ! 早くしろっ。
そんなにチンタラしてっと、日が暮れちまうぞ!」
(; ・∀・)「は、はいッ!」
- 27 名前: ◆jCM67GcpiA :2009/08/24(月) 21:10:40.04 ID:FosrSRLNP
- 従業員達はトレードマークのグリーンのツナギの上に同系色のモスグリーンのボディアーマーと
ポーチを身に付け、肩に短機関銃を提げている。運送会社というよりは、むしろPSC(Private Security Company、
民間保安会社)の趣があった。しかし、これはもはや日常の風景だ。
( ^ω^)「……?」
ブーンは、目を凝らして彼らの銃を見る。その視線は従業員が肩から提げている、独特のフォルムを持った
短機関銃に向いている。ドクオはブーンのその視線を追い、頷いた。
('A`) 「……あの銃か?」
( ^ω^)「……あ、うん。そうだお。なんか……ヘンな形だなぁって。
考えてみたら、お巡りさんとかもあれ使ってるお」
その形状は、通常の短機関銃の概念からは外れるものだった。
無理に例えるなら、アサルトライフルのストックだけを取り外して引き延ばし、そこに銃口を
取り付けたようなものだ。さらに、機関銃やライフルにあるような突き出たマガジンがない。
('A`) 「ああ……あれは、P90だ。知らないのか?」
( ^ω^)「ぴーきゅうじゅう?」
('A`) 「ああ。『Project 90』の略称。FN……ファブリーク・ナショナーレ社製の個人防衛火器、要は
短機関銃の仲間だ。運送会社が持ってるのは、日本企業がライセンス契約して、ミネベア大森工廠で
受注生産した『九十式短機関銃』だけど」
FN社は、日本のミネベア株式会社とライセンス契約を締結している。
もとより天下り専門企業とも呼ばれ、評判の良くなかったミネベア社だが、銃刀法の改正に
より一般市民向けの銃火器の生産を強いられてからは品質も向上し、現在では国内最大手に
恥じないだけの技術力を備えていた。
- 30 名前: ◆jCM67GcpiA :2009/08/24(月) 21:14:11.73 ID:FosrSRLNP
- ξ゚听)ξ「へえ、詳しいのね」
('A`) 「……趣味なんだ。調べるのが」
( ^ω^)「へえええ。でも、なんでわざわざ、あんな変な形の銃を使うんだお?」
モールのゲートには、入場待ちの行列ができている。
四人で固まって少しずつ前進しながら、ブーンは尋ねた。
('A`) 「……そうだな。まずは、営業戦略だ。海外でH&Kやコルト社に押されているFN社は、
日本の銃刀法改正にいち早く目を付け、強力な売り込みを掛けた。ヤミで交わされた
ライセンス契約も、破格だったらしい」
ドクオの声は静かだが、饒舌だ。やや、講釈口調になっている。
('A`) 「もう一つは、そのP90の形状と性能が日本人の事情にマッチするものだったからだ。
その特徴は世界の標準的な規格を外れた5.7×28mm弾の使用と、ブルバップ形式の
採用による銃本体の徹底したコンパクト化……だな」
日本は、もともと銃社会ではない。銃を格納するスペースを考慮した建築物は、民間にはない。
ブルバップ形式を採用したことにより、P90の全長はおよそ500mmとなる。銃身はその
殆どが本体内部に埋設されているため、他の銃のように突き出た箇所がない。
その為、メンテナンスにさえ気を遣えば、洋服ダンスや荷物で埋まった車のトランクに
格納することさえも可能だった。
('A`) 「……5.7×28mm弾の最大の特徴は、ボディーアーマーへの高い貫通力を保持しながら、
コンクリのような硬い物体への貫通力が低いことだ。これは、通路も家屋も狭い日本では
特に考慮すべき条件だった」
- 32 名前: ◆jCM67GcpiA :2009/08/24(月) 21:17:35.36 ID:FosrSRLNP
- ( ^ω^)「……? 貫通力なんて、高ければ高いほどいいんじゃないかお?」
その疑問には、ドクオに代わりショボンが答える。
(´・ω・`) 「バカだね、君は。家の中で発砲したときに、流れ弾が家の壁を貫通して
外を歩いている人に当たったら大変だろう? それに、立てこもり犯人を射撃しても、弾丸が
犯人を貫通して人質に直撃したら、目も当てられない。だから、外国の特殊部隊なんかは
ライフルじゃなくて、拳銃と同じ、小さくて貫通力のない弾を撃てるマシンガンを使うんだよ」
( ^ω^)「……あ、そういうことかお。
でも、それじゃ他のマシンガンを使ってもいいんじゃないかお?」
('A`) 「5.7×28mm弾の貫通力は、カタログスペック通りとはいかないまでも、9mm拳銃弾以上だ。
とはいえ、生身の人間相手の威力はそうは変わらない。射殺するという意味では、同じだ。
それを、敢えて貫通力の高い弾を使う理由は……日本人特有の気質だ」
ξ゚听)ξ「気質?」
('A`) 「……ああ。日本人は……臆病で神経質なんだ。
だから、ご丁寧に防弾ベストを着込んで犯罪を働くんだよ。拳銃弾じゃ貫通できないような、
頑丈な奴を。普通の短機関銃じゃ、簡単には制圧できない。
だから、運送会社、警察、自衛隊……ほぼ全ての企業や公的機関があれを制式採用してる」
PDW(Personal Defence Weapon、個人防衛火器)とは、元来、戦場で最前線に立つ兵士では
なく、後方で物資運搬、警備等の任務に就く兵士の自己防衛の為に考案された概念だ。
もっとも、現在はPDWは短機関銃の下位概念としてしか一般には認知されていないが。
アサルトライフルは大きく、重すぎる。かといって短機関銃の9×19mmパラベラム弾では威力が不足する。
軽量さとコンパクトさ、そして一定以上の貫通力とマンストッピングパワーの確保は、そのジレンマを
解決するためのものだった。
- 35 名前: ◆jCM67GcpiA :2009/08/24(月) 21:20:37.34 ID:FosrSRLNP
- 時節柄、高価な物資を長距離運搬する運送会社は、とりわけ強盗の被害に遭うことが多かった。
その意味で、まさしく運送会社はこの「物資運搬任務」を行う兵科に相当する職種となった。
P90は、図らずもそのニーズにマッチしたのだ。
なお、運送会社に就職すると、必須技術の習得として、拳銃とこの短機関銃の操作方法の訓練を
受けることになる。銃器の訓練を受けられること、そして給料と死亡率が共にぬきんでて高いことから、
運送会社に就職することはネットスラングで「兵役」と呼ばれていた。
('A`) 「……時代遅れでマイナー、そして奇抜なデザインの短機関銃が使われてるのは、そういう
理由だよ。確かにP90は操作方法も特殊で扱いは難しいけど、そんなのは関係ない。
何しろ、全国民が実銃を持ったことなんかないんだから。転換訓練も全く不要だ」
( ^ω^)「へええ、ドクオは物知りだお! ボク、尊敬しちゃうお!」
ブーンが素直に送った賛辞に、ドクオは鼻の頭を掻く。
会話が終わると、ちょうど四人はゲートの前に差し掛かった。
警備員に学生証を提示すると、特に問答もなくゲートをくぐることができた。
- 37 名前:ミリオタ面目躍如の巻 ◆jCM67GcpiA :2009/08/24(月) 21:24:31.09 ID:FosrSRLNP
- ――モールは、大きな盆地に建設されている。
緩いすり鉢状の土地の中心に高層のオフィスがあり、その周囲を円状に取り巻くようにして
さまざまな店舗が建設されている。
区画は中心のオフィスから放射状に伸びる道路に整然と区画分けされ、それぞれのブロックに
異なるジャンルの専門店が建ち並んでいた。
彼ら四人が向かったのは、オフィスから南側に位置する服飾関係の専門店街だった。
ツンの買い物に付き合い、それが終わると既に陽は傾き掛けていた。
今は、「ついでだから」と、ツンの勧めで三人の服を見て回っている。
ガラス張りの店舗の正面は大きく開け、オレンジ色の陽が差し込んでくる。
外を歩く通行人も、店舗内で服を物色する客も、表情は明るい。
ドクオは無言で視線を外にずらした。
('A`) 「……」
すぐ外を、親子連れが仲むつまじい様子で歩いていく。
少し遅れて、何人かの運送会社社員が連れ立って小走りに通過するのが見える。
(´・ω・`) 「……どうしたんだい? 何か考え事でも?」
('A`) 「……いや」
その時。
同じ運送会社の社員が、慌ただしい様子で店舗に駆け込んでくるのが見えた。
それだけならば、特に取り立てて言うべき事はない。
(;'A`)「……!!」
- 38 名前: ◆jCM67GcpiA :2009/08/24(月) 21:27:16.21 ID:FosrSRLNP
- だが、その男には、他の社員とは明らかに異なる点があった。
(::::O:::O)
――その社員は、目出し帽を被り、P90を構えていた。
(;'A`) 「ッ!」
(;´・ω・) 「……え……?」
店内の空気が、一気に凍り付く。
覆面男は店内を見回し……短機関銃を天井に向けてフルオートで連射した。
銃口から小さな炎が走り、篭もった発砲音が響く。
天井のベニヤが弾け飛び、塗料を乗せた細長い破片がばらばらと床に落ちた。
(;゚ー゚)「な、なによ、何なのよっ!?」
ζ(゚ー゚;ζ「きゃ、きゃあああああぁぁっ!!」
(; ^Д^)「ひ、ひいいいぃぃぃぃっ!」
店内は、一気に恐慌状態となった。
(::::O:::O)「全員、動くなッ! 手を頭の後ろに組んで、床に伏せろッ!
いいか、五秒以内だ! 五秒以内に伏せない奴は、撃つ!!」
覆面の男が一喝し、また連射する。
- 39 名前: ◆jCM67GcpiA :2009/08/24(月) 21:30:38.05 ID:FosrSRLNP
- 悲鳴は止み、沈黙が降りる。
引きつった顔で、あるいは目に涙を浮かべ、口元を押さえ。
全員が顔を青ざめさせながら、のろのろとその言葉に従った。
(*;ー;)「ううっ、うううう……っ」
ζ(;、;*ζ「怖いよお。怖いよぉ……っ!」
四人も、言葉に従う。
(; ^ω^)「何だお……いきなり、なんだお?」
ξ;゚听)ξ「従うしか……ないわね」
(;'A`) 「……っ」
再び男が口を開いたのは、数十秒後だ。
だが客達にとっては、その時間は数時間にも感じられただろう。
(::::O:::O)「……よし。今度は立ち上がって、こっちに集まれッ。
ゆっくり、ゆっくりだぞ。目立った動きをしたら、撃つ。
脅しじゃないからなっ、肝に銘じておけッ!!」
再び覆面の運送社員が叫び、目の前の開けたスペースを差す。
反対側の手では、油断なくP90を構えている。
客達は立ち上がり、不安に表情を歪めて歩いた。
- 41 名前: ◆jCM67GcpiA :2009/08/24(月) 21:33:29.34 ID:FosrSRLNP
- |_____________
3nd movement "The Day Revolution Afternoon"
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|
四人を初めとする客達は、店舗の中央に輪になって座らされた。
両手は後ろ手に、両脚も幅広のタイラップで拘束されていた。
覆面の男はP90を構えたまま腰のポーチの無線機を取り、通話を始めた。
(::::O:::O)「……ポイント『南F-6』、確保。
一般市民は全員拘束。問題ありません。オーヴァー」
無線を降ろす。大きく息を吸い込んで、店内中に響く大音声で叫んだ。
(::::O:::O)「いいか、聞けッ! 一般市民に危害を加えるつもりはないッ。
お前達が大人しくしていれば、無事に帰れるだろう。いいなッ!」
(*;ー;)「ひ、ひ……ひんっ」
ブーンの隣に拘束された客が、泣きながら頷いた。
反対の隣では、ツンがうなだれている。
(::::O:::O)「我々の名は『オオカミ』。革命の士だッ!
この腐りきった日本政府、犯罪の巣窟、惰弱の徒を打倒するため、ここに来た。
これから政府に通告を行うッ! 終わるまで、そのまま待って貰うぞッ。いいなッ!!」
店内の空気が、更に重くなる。
彼らは、客の命を切り札に、政府と交渉を行おうとしているのだ。それも、土台無茶な交渉を。
交渉は決裂するに違いない……その結果は、火を見るより明らかだ。
- 42 名前: ◆jCM67GcpiA :2009/08/24(月) 21:35:47.61 ID:VvFq+HoO0
- ζ(;ー;*ζ「え……それじゃ、私たちみんな、人質……?」
(; ^Д^)「おい……無事に帰れるっていっても、そんなの……」
覆面男は、敢えて彼らの呟きを封じようとはしない。間を置いて、言った。
(::::O:::O)「そうだ。お前達の命は、政府の出方次第だ。だが、騒げばその場で殺す。
この場で死ぬか、政府に命を預けるか。いつ選んでも構わんぞッ!!」
(*;ー;)「そ、そんな――」
ショボンが首を巡らせ、三人を見る。三人は、沈黙している。
だが……一人、口を開いた者がいた。
(; ^ω^)「や、やだお。そんなのやだお。
ブーン、お家に帰りたいお!」
ブーンだ。太い腹を揺らし、全身をがたがたと震わせている。
覆面は答えず、銃をブーンに向ける。
ξ )ξ「……ブーン――っ」
(; ^ω^)「だ、だって。ボク達、ただの学生だお? あんたたちが何か知らないけど、
死ぬのはいやだおっ。ボク、まだやりたいことがたくさんあるんだお!」
喋る内に、目に涙が滲み出す。
( ;ω;)「お、お願いだお、命だけは助けてほしいお。ボク、まだ死にたくないお!」
(::::O:::O)「悪いが、保証はできない。政府の出方次第だ、と言っただろう?」
- 44 名前: ◆jCM67GcpiA :2009/08/24(月) 21:38:52.15 ID:VvFq+HoO0
- ( ;ω;)「やだお、イヤだおっ! 政府とか、打倒とか、そんなのの為に死にたくないおっ!」
涙声で叫ぶ。叫ぶ内に、徐々に感情を高ぶらせる。
声のボリュームもどんどん上がっていき、殆ど叫び声に近くなる。
( ;ω;)「死にたくない、死にたくないお! お願いだお、ボ……そうだお、ボクだけでもッ!」
(;'A`) 「……」
見かねた覆面男は荒々しくブーンに歩み寄り、頭に銃口を突き付けた。
(#::O:::O)「いい加減に黙れッ! この場で殺されたいのかッ!?」
( ;ω;)「だって、だってえっ!! ボク、死にたくないんだお! お願いだおおっ!!」
ブーンは腹を揺すり、首を左右に振って叫ぶ。
両脚も、子供のようにばたつかせている。隣でツンも頭を垂れ、肩を震わせている。
( ;ω;)「誰でもいいお! 誰でもいいから、ボクを助けてくれおーっ!」
(#::O:::O)「こいつ、いい加減に――」
銃口をブーンの頭に当てる。ごりりと押し付けながら、トリガーに指を掛けた。
( ;ω;)「お願いだお、誰でもいいお、誰でも――っ……? ど……ドクオ……」
( ;ω;)「――ドクオッ!! お願いだお、助けてくれお!!
ボク、知ってるお! ドクオは『銃士』なんだおッ!!!!」
- 46 名前: ◆jCM67GcpiA :2009/08/24(月) 21:41:57.31 ID:VvFq+HoO0
- (;'A`) 「……ッ!!」
( ;ω;)「ボク、知ってるお。ドクオは未成年なのに、懐に銃を隠してたお!
それに銃に詳しいし、身体も鍛えてるんだお! 前に気付いたんだお!
だから、ボク達を助けてくれるに決まってるお! お願いだお、ドクオ――ッ!!」
「銃士」。その単語を口に出した瞬間、覆面男の動きが止まった。
ブーンの頭から銃を放し、先程よりも数段慎重に立ち上がる。
―― 銃士。
それは正体を隠し、闇に紛れて犯罪者を殲滅する謎の部隊の、隊員の呼称。
彼等は、想像を絶する格闘術を、射撃術を用いて、数十人もの敵をただ一人で
撃ち倒すのだという。
彼らと対峙した者は、例外なく全員、殺されるか一生刑務所送りになる。
ゆえに、その存在が真実だと証明できるものは何一つ残らないのだと。
そして、その銃士が用いる戦闘術が――「銃ノ型」。謎に包まれた、必殺の戦闘術。
(::::O:::O)「……ドクオ、という名前の奴。名乗り出ろ」
(;'A`) 「……」
人質達が、首を左右に動かしささやきを交わす。一方のドクオは……動かない。
覆面男は、激昂し銃を振りかざした。
(#::O:::O)「早くしろッ!! 名乗り出なければ、皆殺しにするぞッ!!!」
- 48 名前: ◆jCM67GcpiA :2009/08/24(月) 21:45:51.66 ID:VvFq+HoO0
- (;-_-)「やだ、死にたくない……よ…」
(*;ー;)「だ、誰でもいいからっ、お願いっ。名乗り出てよ!
こんなのイヤ、巻き添えで、こんなのイヤだよぉっ!」
客が口々に叫ぶ。ドクオは俯いて、唇を噛み……口を開いた。
(;'A`) 「……俺だ。俺が、ドクオだ……」
(::::O:::O)「お前か――」
後ろ手に縛られているにもかかわらず、完全武装した敵と相対するように、覆面男は注意深く
ドクオに歩み寄る。その身体に触れないよう距離を取って、銃口を腹に据えた。
(;::O:::O)「あのガキ、ああ言っているぞ。 お前は……あの、『銃士』……なのか?」
ドクオは、答えない。ただ銃口から逃れようとするように腹を引き、下を向いた。
覆面男は前進し――座ったドクオの腹に厚底のブーツを叩き込んだ。
(;゚A゚) 「がふッ!!」
(;::O:::O)「質問に答えろッ! ドクオ……お前は『銃士』なのかと、聞いてるんだよ!!」
(;゚A゚) 「はあっ、はあっ、は……ごほっ!」
返事はない。覆面男はドクオのシャツに手を掛け、乱暴にそれを引いた。
ぷつぷつと音を立ててボタンが飛び、緩いシャツがはだけられる。
そこに、革のショルダーホルスターが覗いていた。
(#::O:::O)「……貴様ァッ……!!」
- 54 名前: ◆jCM67GcpiA :2009/08/24(月) 21:54:14.42 ID:VvFq+HoO0
- 右手一本でP90の照準を保持したまま、慎重に手を伸ばす。
ホルスターから見えている銃把に手を掛け、ゆっくりと抜いた。
(;'A`) 「や、やめ……」
(::::O:::O)「……? これは……?」
その銃は――エアガンだった。
(#::O:::O)「……おい、笑わせるな。 『銃士』様が、エアガン持って悪党退治の真似事か?
はは、ははははははっ……ふざけるなぁッ!!! これはどういう芝居だ! 答えろ!!」
男はエアガンを投げ捨て、ドクオの襟をつかむと思いきり引き、俯せに引き摺り倒した。
後頭部に銃口を当て、起きあがれないよう背中を踏む。
(;'A`) 「うっ、ぐっ!」
(#::O:::O)「お前、本当に『銃士』か、おい! 言えよ! 言ってみろ!! 『わたしはじゅうしです』、
ほら、言ってみろッ!! なあッ!! ふざけやがって、ぶっ殺してやるッ!!」
( ;ω;)「ひ、ひいっ!?」
ζ(;ー;*ζ「きゃあッ、い、イヤあああああぁっ!!」
銃口を振り回し、目出し帽から露出した口から唾を飛ばしながら怒鳴りまくる。
客達の全員が呻き、喘ぎ、銃口が自分の方を向く度に身をよじった。
ドクオは、沈黙し……そして、呟いた。
( ;A;) 「俺は……違う。俺は、『銃士』なんかじゃ、ない……」
- 56 名前: ◆jCM67GcpiA :2009/08/24(月) 21:57:32.95 ID:VvFq+HoO0
- 髪を掴み、覆面男はドクオの頭を持ち上げた。
ドクオは、涙を流し嗚咽していた。
(#::O:::O)「何だと、貴様ぁっ!!」
( ;A;) 「俺の……俺のトーチャンとカーチャンは……銃に殺された」
(#::O:::O)「何を言ってやがる。俺の顔が、お前のオフクロの仇に見えるか? なあ?
ひょんなところで再会したもんだな、なあおいッ! 世迷い言を抜かすなッ!!」
覆面男はドクオの首を揺さぶる。
ドクオは、しかし男に逆らった。感情の歯止めが、聞かなくなっていた。
( ;A;) 「ああ、そうだよッ。お前達が殺したんだ! お前達みたいな――
お前達みたいな、人の命を屁とも思わないような奴に! 殺されたんだッ!!」
ドクオも、気持ちを昂ぶらせていた。涙は溢れ、襟を濡らしていた。
( ;A;) 「俺は……だから、復讐したかった……!!
俺が『銃士』だったら、カーチャンは死ななくてもすんだ、俺が『銃士』だったら……!!」
がくり、と首を垂れる。
( ;A;) 「真似事、だよ。ブーン……身体を鍛えたのも、銃を隠し持ったのも。
銃の知識だって、ネットで調べただけだ。……俺は、『銃士』なんかじゃ、ない……」
少しの間があった。
覆面男を初めとする全員が、ドクオの悲痛な声を聞いた。
- 58 名前: ◆jCM67GcpiA :2009/08/24(月) 22:02:02.29 ID:VvFq+HoO0
- (#::O:::O)「そうか……なら、及ばずながら手助けしてやろう。
お前の両親に……今すぐ、会わせてやるッ。顔を上げろッ!!」
頭をまた起こさせ、その顎先に銃口を突きつける。
銃口は激しい怒りでぶれていた。トリガーに掛けられたままの指は震え、暴発寸前だった。
( ;A;) 「う、うぐっ、ぐ――ッ!」
(#::O:::O)「どうした……また叫んでみろ!! ああ? さっきまでの威勢はどうした?
そんな泣き顔で天国に行っていいのか? どうした、言い返してみろ!
クソ、殺してやるッ!! この――――」
( ;ω;)「ま、待つんだお! 殺すなら、ぼ、ボクを先に――!!」
(#::O:::O)「お前は、次だッ!!
『銃士』気取りのオトモダチが脳味噌ブチまけるのを、しっかり見ておけッ!!」
ブーンの声に、覆面男はがなり返す。
ドクオの顎から銃を放し、振り上げた。
「……ふっ、ふふ、ふふふっ……」
そこに、女の笑い声が被さった。
笑っているのは――ツンだ。
ξ ^ー^)ξ「……ふふ、ふっ、あははははははっ!」
ツンは、笑っていた。
堪えきれないといった様子で身体をくの字に折り曲げ、笑い続けた。
- 60 名前: ◆jCM67GcpiA :2009/08/24(月) 22:05:16.52 ID:VvFq+HoO0
- (#::O:::O)「貴様ぁっ、何がおかしいッ!」
ξ ^ー^)ξ「だって、こんなの……ガマンできる訳ないじゃない!
あはははははははっ!……あー、おかしい」
見ると、詰め襟姿の男子生徒……ショボンも、声を殺して笑っている。
ブーンは、既に泣きやんでいる。頬に涙を伝わせたまま、平然とした顔で頭を掻いた。
男は呆然とした顔でブーンを見る。両手は確かに拘束したはずではなかったか?
( ^ω^)「あー……やっぱり、そうかお? 上出来だと思ったんだけど……ま、いいかお」
答え、ブーンは平然と立ち上がった。両手足をきつく結紮していた筈のタイラップが床に落ちる。
(::::O:::O)「な、な……?」
男は呆然と、ブーンが座っていた場所に落ちたタイラップを見る。そして、気付いた。
ブーンの隣に座っていたツンの長いスカートが、膝まで捲られている。彼女の僅かに見える太股から
膝にかけて装着されたハーネス。そのふくらはぎには――空のナイフシース。
ξ゚听)ξ「ちょっと。乙女の足をジロジロ見るの、止めてくれない?」
( ^ω^)「……というワケで。ボクは、無辜の民が殺されるのを鑑賞する趣味はないお。
絶叫ショーはこの辺にして、ボク達を解放してくれないかお? 無理なら、ボクがするけど」
(;::O:::O)「……お前等、何者だ」
ブーンは手首をさすりながら、無造作に覆面男に踏み出す。
( ^ω^)「うーん……正義のヒーロー、かお?
まあ、あんた達には、ご期待通りこう答えた方が早いお――」
- 63 名前:>>59その節は感謝感謝 ◆jCM67GcpiA :2009/08/24(月) 22:08:49.41 ID:VvFq+HoO0
- 次の一歩で、ぐん、と姿勢を下げる。大きく前傾し、身を乗り出すような姿勢になり――疾走した。
( ω )「――――『銃士』」
(#::O:::O)「貴様……ッ!!」
距離が詰まる。
男は反射的にP90を脇に構えた。前傾したブーンの顔面を狙い、トリガーを引き絞る。
瞬間。
ブーンは跳ね上がるように姿勢を起こしながら、背中側に身体を反転させた。
秒速600メートル、アサルトライフル以上の初速で発射された5.7×28mm SS190弾が打ち抜いたのは――
ブーンの脳天ではなく、その遙か先のアルミ棚だけだった。
(;::O:::O)「ッ!!!!」
ブーンの両手が伸びる。
左手で銃本体から数センチ伸びた銃身の露出部を、下から掌打で垂直に打ち上げる。
跳ね上がったP90の銃身が90度以上回転し、ハンドガード上部が男の右上腕部を強打した。
男の握力が緩んだ瞬間、トリガの下に設置されたダイヤル状のセーフティに側面から指を差し入れ、ロックする。
左右どちらの手でも操作できるアンビ構造となったセーフティは、銃身の両側から操作できた。
(;::O:::O)「ぐ――ッ」
同時に右手でストックを掴み、男の右側に、向かって左側に斜めにねじり上げる。
P90のサムホールグリップ――銃本体に空いた穴に指を差し込み銃を握るする形状――は、それだけの
動きにも手指を離すことを許さない。てこの原理で、右手首が、ごぎん、と音を立てて折れ曲がった。
- 66 名前: ◆jCM67GcpiA :2009/08/24(月) 22:11:52.84 ID:VvFq+HoO0
- (;::O:::O)「うがっ!?」
折れた男の右手に残る銃を、さらに顔面に向けてスイングさせる。
銃身の側面が、目出し帽に包まれたその顔面を直撃した。
(;::O:::O)「ぶ――――ッ!!」
折れた右手首にロックされた銃をぶら下げたまま、男は、どう、と倒れる。
目出し帽に隠れた鼻の軟骨はぐずぐずに折れ、鼻血が噴出していることだろう。
さながら、ババロアのストロベリーソース添えだ。
――ここまでが、一瞬の出来事だった。
( ^ω^)「――ふうっ。やっぱり、お腹が重いと動きづらいお……」
ブーンは手を払い、息を吐く。
思い出したようにジャケットの袖で涙の跡を拭い、人質達に向き直った。
ζ(゚ー゚;ζ「あ……え?」
(;゚ー゚)「あ、あああ……っ!?」
( ^ω^)「そんなわけで、今からこの騒ぎを収めてくるお。
手足は解いてあげるから、このお店の倉庫にでも隠れて待ってて欲しいんだお。
……ショボン。ここは任せていいかお?」
(´・ω・`) 「ああ。任せてよ」
ツンが、拘束された人質を解放して回っている。
その中には、呆然とした顔のドクオもいる。
- 69 名前: ◆jCM67GcpiA :2009/08/24(月) 22:15:05.57 ID:VvFq+HoO0
- (;'A`) 「あ……ブーン。ツンとショボンも、これは……」
答えず、ブーンは携帯電話を取り出す。
短縮ダイヤルを押し、耳に当てた。
( ^ω^)「関東銃士隊第五十六私服警邏隊隊長、内藤ホライゾン。
『思想集団武装蜂起事案 お−二十三号』に関して、報告。
一八三五時頃、当該集団が行動を開始。場所、状況共に予測の範囲内――」
話しながらジャケットを脱ぎ捨てる。アンダーシャツを片手でズボンから引き出す。
腰の後ろに手を当て、何かを捻るような動作をした。軽い音がして、ブーンの腹から何かが落ちた。
重い音を立て、床に落ちるそれは――ナイロン製の、ペールオレンジのザックだった。
細長いザックは、ブーンの腰の周りに丸く巻き付けられていたのだった。
ξ゚听)ξ「ダイエット完了、ってトコね」
ツンは事も無げに頷き、それを拾い上げる。
ジッパーを開き、そこから――二挺の拳銃と、小さく畳まれたガンベルトを取り出した。
ブーンの「腹」は、カムフラージュのための肉襦袢であり、同時に武器庫だったのだ。
( ^ω^)「現時刻一九一五時をもって監視フェーズを終了。鎮圧フェーズに移行。
首謀者、ジョルジュ長岡の確認後に確保フェーズに移行、完了とする。以上」
電話を切り、ドクオの顔を見て笑った。
( ^ω^)「ドクオ。からかっちゃって、ごめんだお。後で幾らでも文句言っていいお。
ボク達は、これからちょっと悪いおじさん達を懲らしめてくるお」
(;'A`) 「ブーン。お、お前達、まさか……」
- 74 名前: ◆jCM67GcpiA :2009/08/24(月) 22:18:49.61 ID:VvFq+HoO0
- ( ^ω^)「そうだお。ボク達は『銃士』。
三人揃って、三銃士ってとこかお?」
(´・ω・`) 「ダルタニアンは不在だけど、ね」
部屋の隅でチェロのケースを開き漁っていたショボンが、取り出したものをブーンに向かって放る。
ブーンは受け取ったそれを広げ、袖を通した。
黒く細い、胸腰の締まった襟高のコートだ。しかし袖口には余裕があり、腰から下りる裾もゆったりと長い。
ナイフをシースに仕舞い、立ち上がってガンベルトを腰に巻きながらツンは不平を漏らす。
ξ゚听)ξ「休日なのに出動なんて、イヤになるわ。こんなモノばっかり用意しないといけないから、
ミニスカートも履けないのよね。ああ、普通の女の子に戻りたいわ」
( ^ω^)「春麗乙」
ξ゚听)ξ「うっさいわね……さっさと終わらせて、帰りましょ? このままじゃ徹夜仕事になっちゃうわ」
店舗の入り口に、ドクオに背を向け、ツンとブーンの二人は並び立つ。
――黒衣の男。黒衣の女。
その両手に四挺の拳銃が、光る。
(´・ω・`) 「態勢が整い次第、援護に入る。通信もね。――気を付けて」
ショボンの声に、二人は背中を向けたまま片手を上げ。
ガラスのドアを押し開け、外に歩み出た。
- 75 名前: ◆jCM67GcpiA :2009/08/24(月) 22:22:13.36 ID:VvFq+HoO0
- |_____________
4th movement "Shall We Dance, with Wolves?"
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄| br>
店を出、オフィスビルに繋がる通りに出た二人が目にしたのは、武装し、先程の男と同じように
目出し帽を被った運送社員――の服装をした集団――が並ぶ様だった。
左右の路肩に、ゴミ箱や車止め、カートなどを積んだ急拵えのバリケードが点在している。
道は、なだらかに、僅かに傾斜し、オフィスビルに繋がっている。
そこが敵勢力の本拠地であることは、先の報告の際に判明していた。
巡回する武装兵の一人が、彼等に目を留めた。
(::::O:::O)「おい……何だ、お前達っ!!」
誰何の声を上げながら、走り寄ってくる。
ξ゚听)ξ「ちゃんと『合わせ』てよね。ヘマったら両膝ブチ抜くわよ?」
( ^ω^)「肝に銘じとくお。ヘマった後、ブチ抜かれる膝が残ってれば……だけど」
正面のオフィスビルに向かい、ブーンは左側に、ツンは右側に立っている。
それぞれに大きく息を吸い込み、そして二人――ゆるり、と動いた。
ブーンは二挺拳銃を握った両手を、左腰の横に据えた。
手の甲を上に、左手を引き、ゆっくりと胸元を経由させて顔の横に引き付ける。
同時に左足を大きく一歩引き、半身になり腰を落とす。
右手は同じように手の甲を上にしたまま、斜め前方下に下ろし、保持する。
ツンは、そのブーンと左右対称の姿勢を取る。
背中合わせの半身で、二人は両手の銃を構えた。
- 78 名前: ◆jCM67GcpiA :2009/08/24(月) 22:27:26.70 ID:VvFq+HoO0
- (::::O:::O)「こいつら、ッ……!」
それを敵対行動と判断した武装兵が、手にしたアサルトライフルを上げた。
角張ったフォルムはSCAR-L――FN社製、6.8mmSPC弾を使用する米軍の制式採用モデル――だ。
銃身上部ピカティニーレールに装着されたスコープが、彼等を睨む。
二人は――
ξ゚ー゚)ξ 「Pouvez-vous danser avec moi?
(一緒に踊って貰えるかしら?) 」
( ^ω^)「Avec plaisir, mademoiselle――
(はい、お嬢様。喜んで――) 」
言葉を、交わす。
――囁き交わす愛の言葉にも似たそれは、互いに寄せる絶対的な信頼の証。
そして、二人の銃士と狼たちとの、開戦の狼煙。
――演目は、「銃ノ型」。
弾丸舞踏が、いま幕開く。
- 79 名前: ◆jCM67GcpiA :2009/08/24(月) 22:30:34.75 ID:VvFq+HoO0
- (::::O:::O)「う、撃てぇっ!!」
武装兵が吼え、SCAR-Lをブーンに照準する。
すぐ隣の一人も頷き、素早くツンを狙いトリガーを引く。
それぞれを狙い、高速の6.8mmSPC弾が飛翔する。
それに一瞬先行し、二人は左右対称に動いていた。
ブーンは左足を大きく、斜め前に踏み出す。その一歩で射線を外れ、弾丸は背中から数センチを抜けた。
踏み込むと同時に、右手は腰に引き付ける。左手は空手の正拳突きのように、敵に真っ直ぐ突き出す。
その左手のトリガーを絞り、発射した。ツンの発砲音が、それと同時に響く。
(;::O:::O)「ぐあッ?」
(;::O:::O)「がッ!!」
二人が同時に地に崩れ落ちる。
その先には、拳を突き出し腰を落とした射撃姿勢を保持したままの、男女二人の姿があった。
先制攻撃を掛けたはずの二人が、何故か倒された。しかも、相手は無傷だ。
周囲の武装兵は、一瞬混乱する。だが一瞬後には、己の職分を思い出し、一斉にSCAR-Lを構えた。
通路の両脇に配置されたその数、実に数十。
だが、二人は……悠然と。並び、前進する。
(#::O:::O)「クソォッ!! 撃て! 撃ち殺せ!!」
誰かが怒声を発する。
多数の武装兵が、二人が――動いた。
二人の両手が、「安 - 単 - 連」と表示された拳銃のセレクタを操作する。
P90から流用したカスタムパーツのセレクタを捻り、「連」にセットした。
- 82 名前: ◆jCM67GcpiA :2009/08/24(月) 22:33:22.03 ID:VvFq+HoO0
- ――「五十七式機関拳銃 銃士甲型」。
銃士隊に支給される制式の拳銃だ。
カスタムによりフルオート機構を備えるため、「拳銃」ではなく「機関拳銃」の名を冠される。
その名の通り、FN FiveseveNをベースに、「銃ノ型」における二挺拳銃の使用を視野に
入れ、現行の法執行機関モデルではなくダブルアクションオンリーの初期モデルをベースに
数々の改造を施された銃士専用のモデルとなっている。
銃身長はベースとなるFiveseveNから約30%延長される。
さらに銃身下部の20mmピカティニーアンダーマウントレールを廃し、本体同様にポリマーコーティング
された大型のスタビライザを装着するその外観は、オリジナルとは懸け離れた無骨。
前進しながら、二人は素早く敵兵の配置と姿勢を確認する。
ブーンはその歩みを止めぬまま、両腕を交差させて上げる。
前方の店舗の陰から連なって現れた左右二人ずつの敵兵に、正確な連射を見舞った。
(;::O:::O)「この――げうッ!!」
(;::O:::O)「ぐ、ッ……!」
打たれた敵兵は、空を掻く。握ったSCAR-Lをあらぬ方に連射しながら倒れる。
(;::O:::O)「がはッ!!」
(;::O:::O)「ごェッ!!!」
9×19mm弾の60%と公称される軽快な反動は大型のスタビライザとそれを保持する腕力に支えられ、
無謀とも言えるハンドガンでのフルオート連射でも正確無比に四人の身体を貫いていた。
――きん、きききんッ。
薬莢が地面に落ちるその金属音よりも早く、四人の敵は地に崩れ落ちていた。
- 84 名前: ◆jCM67GcpiA :2009/08/24(月) 22:38:04.59 ID:FosrSRLNP
- ツンは、ブーンの右後ろに着いたまま、一歩遅れて進む。
斜め右前方の店舗のドアを蹴破った敵兵がこちらに銃口を向ける前に、左の機関拳銃を右脇越しに連射。
視線は倒れる敵を見ようともせず、前方に据えている。
どさり、とその敵兵が倒れる音を聞き流し、ツンはかすかに微笑む。
射撃の反動で胸元のリボンを、黒衣の裾をそよがせ。微笑んだまま、歩を進める。
機材が積まれたバリケード。通路の左右に敷設された防壁は、その先の視界を遮る。
その陰から――左右から同時に、敵兵が雄叫びを上げ躍り出る。
(::::O:::O)「うお、おおおおおぉぉっ!!」
(::::O:::O)「し、死ねぇッ!」
左右のほぼ側面。それは正面向きで先行するブーンにとって、ほとんど死角となるはずだった。
これが、躱せるはずがない。確信し、二人の上半身を狙い射撃する。
――ブーンは、しかし即応した。
( ^ω^)「ッ!」
踏み出した左足を軸に、身体を大きく旋回させながら地に膝が付くほどに沈め、屈む。
唸りを立てる銃弾がその頭上を通過し、翻った黒衣の裾を掠め後方路肩のガラス戸を砕く。
だが。そのブーンの回避動作と同時に、前方からの敵が三人、殺到する。
屈んだブーンをハチの巣にしようと一斉にライフルを構える。
それを見て取り、ツンは一瞬身を沈めた。
そしてそのツンの動作を察知したブーンは――大きく左右に両手を伸ばし、伏兵に照準した。
ξ゚听)ξ「ふ――ッ!」
- 85 名前:◆jCM67GcpiA :2009/08/24(月) 22:41:30.96 ID:FosrSRLNP
- ツンは軽くステップし――屈みながら構えた、そのブーンの右手を飛び越える。
飛び越えながら、両手の機関拳銃を横倒しに、前方に向ける。
同時に、撃つ。
ブーンの放った弾丸は、左右の伏兵を。
ツンの弾丸は前方に展開した敵兵を、薙ぎ倒した。
着地したツンを庇うように、ブーンは立ち上がり大きく前進する。
ツンは着地と同時に身体を半回転させ、ブーンと背中合わせになった。
( ^ω^)「サンキュだお、ツン」
ξ゚听)ξ「アンタの詰めが――甘いからよッ!」
ブーンの背中越し、真正面から二人の敵兵が走り寄るのが見える。
それを認め、その銃口の先を確認した。
――銃ノ型においては、射撃技術と同等以上に統計能力、空間認識能力が必要とされる。
敵の持つ銃は、銃ではない。銃口に円錐形の無限の長さの刃を据え付けた槍と考える。
この円錐の刃は、銃口を頂点とし半数必中界を底の直径とする形状でイメージされる。
これに、過去数十年に渡る銃撃戦から導き出された着弾点の統計結果を係数として加え、
脅威となる範囲を算出。この範囲の外に常に身を置くよう移動することで、周囲からはあたかも
弾丸そのものを回避しているかのような行動が可能となる。
同時に、同様の統計結果から最も効果的な攻撃地点を算出。
両地点の最大公約数となるポイントが、移動すべき場所になる。
実際には、回避行動は弾丸が発射された後に取られるのではない。敵対者がトリガーを
引いた瞬間、既に回避は完了しているのだ。そしてそれは、攻撃準備の完了を同時に意味する。
- 88 名前: ◆jCM67GcpiA :2009/08/24(月) 22:44:38.28 ID:FosrSRLNP
- 敵兵が、走りながらSCAR-Lを構える。
照準の先はブーンの頭部、距離は10メートル強。
(;::O:::O)「今だ、二人ともブチ抜けッ!!!」
(;::O:::O)「うおおおおお――!!」
トリガーが引かれる――瞬間に、ブーンとツンは左右に飛んだ。
ツンは飛びながら身体を半回転させ、瞬時に正面に向き直る。
そのまま二人は、両手の銃を連射する。
(;::O:::O)「うおッ!?」
(;::O:::O)「ぎゃあッッ!!」
二方向からの連射を浴び、二人の武装兵はその場に伏した。
着地と同時に、ブーンはその後ろからさらに現れた敵兵三名の胸に連射を見舞う。
薬莢が飛び、マズルフラッシュが夕闇の道路を照らす。
しかしその連射で、ブーンの両手の五十七式機関拳銃はスライドが後退しきり、ホールドオープンした。
弾切れだ。
(::::O:::O)「バカが、二挺拳銃で弾切れかよッ!」
斜め前方のバリケードを乗り越え、ひとりの敵兵が雄叫びを上げる。
(::::O:::O)「ぶっ殺してや――ッ??」
通常であれば、リロードは物陰で、あるいは味方の掩護を受け行う。だが、銃士にはその余裕はない。
ブーンは前進しながら、両腕を真っ直ぐ前に伸ばす。マガジンを排出し、同時に両手首を下に曲げた。
スプリング式のギミックは、手首と小指の角度によって作動する。
両袖に隠された金属のアームが前進し、そこに収められていたマガジンを瞬時に再装填した。
- 90 名前: ◆jCM67GcpiA :2009/08/24(月) 22:47:42.74 ID:FosrSRLNP
- (;::O:::O)「ばかなッ!?」
慌てて身を引こうとするが、遅い。
左右の5.7×28mm SS190フルメタルジャケット弾の連射を浴び、伏兵はバリケードから転げ落ちた。
ξ゚听)ξ「前ッ!!」
ツンが進み出、掃射を加える。その掃射で、ツンの機関拳銃もホールドオープンする。
彼女は瞬時にマガジンをリリースし、銃把で腰のガンベルトの両脇をノックする。かしん、と軽快な音を立て、
ガンベルトの後部から左右に幅広のマガジンが突き出した。その先端を銃把にあてがい、押し込んで再装填する。
それを契機に。
左右前方の物陰から、店舗の中から、十名近くの武装兵が、一気に躍り出た。
ξ゚听)ξ「挟まれた――わね」
ツンは背後を見る。来た道からも同様に、前方からとほぼ同数の敵が迫るのを確認した。
通路の半ばほどまで進んだ二人には、退路はない。中央で、前後から挟撃を受ける形になった。
ξ゚听)ξ「迷ってる場合じゃ、ないわね――――来るッ!!」
走り、吼えながら連射する先陣の武装兵。照準は甘い。
回避の必要もないと判断した二人の足下を跳ね、コンクリートを削りながらあらぬ方に跳ねる。
( ^ω^)「ツン。背中、任せたおッ!!」
ξ゚听)ξ「冗談。アンタこそ、アタシの裾踏まないでよッ!」
背中合わせに、構える。
殺到する前後からの波に備える。
- 91 名前: ◆jCM67GcpiA :2009/08/24(月) 22:51:26.57 ID:FosrSRLNP
- 複数の銃口が、前後から二人を狙う。
二人はその悉くを把握し、認識し、計算し――動いた。
前方から迫る一群の、突出した二名。
左右の拳銃で別々に狙いを付け、ブーンはトリガーを絞る。
(;::O:::O)「があッ!!」
(;::O:::O)「あ、うぁっ!!」
それを踏み越え、塊になって押し寄せる武装兵の一群。
後方から迫る兵達に、ツンが視線を飛ばす。
――頷き合う。
互いに背を向け、互いの顔を見ることすらできない二人が、同時に。
そして、トリガーを絞るのも、同時。
銃身を横倒しに構えるブーン。腕を交差し、伸ばす。そこから両のトリガーを引き、扇状に掃射した。
交差した腕は徐々に開き、正面から斜め前方に向かって弾幕を張る。
ツンも同様に。
地に膝を突き、屈射の姿勢で両手を構える。
小刻みに引き金を絞りながら前腕部だけを素早く動かし、正確に一人ずつを撃ち倒した。
前方と後方。
最前面に展開していた数名は、その連射を受け声もなく倒れる。
しかし倒れた彼等を踏み越え、後方の数名は第二波となって押し寄せる。
掃射から逃れた彼等は、二人に向かって一斉にトリガーを引いた。
(;::O:::O)「やってくれやがったなぁっ……死ねッ!!」
(#::O:::O)「うおっ、うおおおおおおおおおおおおお!!」
- 94 名前: ◆jCM67GcpiA :2009/08/24(月) 23:00:54.91 ID:VvFq+HoO0
- その瞬間――二人は、散開した。密着した状態から弾けるように展開する。
二人の立っていた場所を、無数の6.8mm弾が通過する。
本来、正面からの挟撃は下策だ。何発かは運悪く、床に倒れていた負傷者や正面の味方に当たる。
(;::O:::O)「ま、まて! 正確に、狙うんだッ――がはあっ!? お、おまっ……」
――二人は、留まらずに動く。身を屈め、銃身を絶え間なく移動させ、円を描いて。
時に密着するほど近く、時に遠く。それは武術の型にも似ている。それは舞踊にも似ている。
そして、動きながら連射する。
(# ^ω^)「ふッ――!!」
つま先を身体の内側に向け、背中側に反転し。踏み出す足を交差させ、大きく前傾し。
全ての連射を避けた後に、正確に射撃する。
安定した下半身、揺るぎない回避動作。突き出す拳に握られた銃を放つ様は、武術に似る。
ξ#゚听)ξ「――はああぁっ!!」
一瞬たりとも留まらず、回る。周りながら両腕を真っ直ぐ左右に伸ばし、連射。そのリコイルを利用して
一気に交差させ、左手で右側面を、右手で左側面を撃つ。
流動する液体に似た体捌き、優雅に泳ぐような両腕のスイッチ。円を描き華麗に舞う様は、舞いに似る。
――半円に広がる黒衣の裾。半円に広がるスカートの裾。合わさり真円となる様は、まさに舞踏。
マズルファイアに照らされ舞う薬莢は、宝石に似て宵闇に輝く。
前方に、後方に。
回転しながら、互いの標的を目まぐるしく入れ替える。しかし、決して動線も射線も塞がずに。
時には背中合わせになり、位置を入れ替える。
時には向かい合い、唇が触れ合うほどに近くから、互いの脇越しに、肩越しに撃つ。
- 95 名前: ◆jCM67GcpiA :2009/08/24(月) 23:05:07.34 ID:VvFq+HoO0
- 対照的な動きは、しかし正確に。
硝煙とマズルフラッシュと空薬莢とを舞わせながら、確実に敵の兵力を削っていく。
くぐもった悲鳴と床に崩れ落ちる音が、それに彩りを添える。
――二人は、再び背中合わせの姿勢で、止まっていた。
二人の二挺拳銃。そのスライドが後退した位置で止まり、弾切れを知らせている。
周囲に……立っている者は、いない。
( ^ω^)「さて……」
ξ゚听)ξ「行きましょうか」
ガンベルトから予備のマガジンを取り出し、装填する。
裾を払い、髪を払って、二人はビルの入り口に進んだ。
歩き出す二人の背後で、銃撃に削られた柱の大理石が剥がれ落ち――がらん、と鳴って地に落ちた。
――ビノキュラから目を離し、ドクオは呆然と呟く。
(;'A`) 「何だ……どうなってるんだ、これ……」
先程の店舗の屋上。建物の谷間に、ショボンとドクオはいた。
(´・ω・`) 「これが銃士。これが、『銃ノ型』だよ」
ショボンは事も無げに応える。ドクオに背を向けチェロケースを開き、中を漁る。
程なくして、ヘッドセットを身に付け、大きなライフルを持って立ち上がった。
- 98 名前: ◆jCM67GcpiA :2009/08/24(月) 23:08:22.65 ID:VvFq+HoO0
- ――ワルサーWA2000。
表面積を増し放熱効率を高めるためのフルーテッドバレルに、木製のストックとフォアグリップを
取り付けられたブルバップ式の狙撃銃。その上部では、高倍率のスコープが睨みを利かせる。
その価格も含めて最高級の性能を誇る、セミオート式狙撃銃の傑作だ。
約1200mmのチェロケースにフィットする全長905mmは、大柄だがスナイパーライフルの中では短い。
しかしブルバップ式の採用により650mmの銃身長を確保し、その精度は非常に高い。
(;'A`) 「そ、そんなモノ……」
(´・ω・`) 「何に使うのかって? そりゃあ勿論、犬を撃つのさ……なんてね。ははっ」
それを抱え、眼下に広がる通路を見下ろしながらヘッドセットを操作する。
(´・ω・`) 「関東銃士隊第五十六私服部隊隊員、ショボンです。隊長以下二名の
バックアップ体制に入りました。指示願います。どうぞ」
川 ゚ -゚)『ご苦労。敵本拠地内の情報を送る。二名に転送しろ。
二名が孤立しないよう適宜掩護、本拠地周囲の状況を維持。指示は以上』
(´・ω・`) 「了解しました。では――掩護、開始します。以上」
通路のあちこちから、武装兵が飛び出す。
先程の戦闘の報告を受け、あるいは戦闘音を察知して増援に向かうところだろう。
ショボンはヘッドセットを切る。学生服のボタンを外し、脱ぎ捨てた。
鍛え抜かれた肉体。だが、「鍛える」という言葉の方向性が、ブーンやドクオとは全く異なる。
ランニングを纏ったその背中には、圧縮したタイヤチューブのような筋肉が密集し盛り上がっていた。
(*´・ω・)「恥ずかしいから、あまり見ないでよね。あ、耳塞いでおいて」
- 100 名前: ◆jCM67GcpiA :2009/08/24(月) 23:12:11.00 ID:VvFq+HoO0
- 言い、WA2000を立ったまま、構える。
先行してオフィスビルに合流する通路に走り込む武装兵に向けてトリガーを引き絞る。
轟音。大腿部を打ち抜かれたその兵士は崩れ落ち、動脈血が噴出する太股を押さえてのたうち回った。
周囲の兵は伏せ、あるいは狙撃を受けたことさえ理解できずに浮き足立つ。
セミオート式のため、射撃の間隔は短い。さらに、立射だ。
それを、ショボンは無造作とも思える短い間隔で立て続けにトリガーを引く。
だが。六発の弾倉が空になるまでに、彼は六人の脚を同じように撃ち抜いていた。
(´・ω・`) 「僕の出番は、こんなモノかな。……ねぇ、ドクオ」
下では、六人の兵がてんでばらばらの姿勢で倒れている。
残りの兵は見当違いの方向に牽制射撃を加え、何人かは負傷者の救出に動いているが、それらは放置する。
(;'A`) 「何……だ?」
(´・ω・`) 「君の行動は、ずっと前からマークされてた。未成年者が違法の銃火器店でホルスターを購入、
自宅で過剰な筋トレ、そして両親は銃犯罪で死亡。その程度でも、僕らの監視対象なのさ。
……でもね。銃士を臭わせる言動は、慎んだ方がいい。僕たちは、銃士を詐称する人間を
逮捕、尋問、裁判のいずれも必要なく射殺する権利を与えられている」
(;'A`) 「……っ?」
(´・ω・`) 「僕たちの任務は二つ。一つは、この組織『オオカミ』の監視。もう一つは……君の監視。
君を銃士呼ばわりしたのは……君を試したのと、拘束を解く時間稼ぎ。悪く思わないでね。
でも君が、自分が銃士だと嘘でも名乗ったら、ブーンは、君も迷わず射殺してたよ。
……けれど、君のことは不問に付そう。きっとブーンは、そう考えてる」
ドクオは、全身を震わせた。ショボンはひさしの陰に移動して座り、息を吐く。
- 104 名前: ◆jCM67GcpiA :2009/08/24(月) 23:17:08.80 ID:VvFq+HoO0
- (´・ω・`) 「僕たちにはね――親がいないんだ。ああ……遺伝学的な意味では、確かにいるさ。
でもね、覚えていないんだ。自分の親の顔も、名前も、住所も……全部」
('A`) 「……?」
(´・ω・`) 「……『銃ノ型』を習得するためには、多種多様な才能を必要とされる。まず、運動神経。
それに計算能力、空間認識能力。そして鋭い直感。全て後天的に鍛えることは、難しい。
それを早い内から選別し、集めているのが……政府なんだよ」
ショボンは笑い、弾倉を再装填する。その笑顔は、どことなく寂しげに見えた。
(´・ω・`) 「乳児期の血液検査に伴うDNA検査。幼児期の健康診断と知能テスト。これらで高いレベルで
パスした、天性の才能を持つ子供達は、ある日……いきなり姿を消す。十年以上後、名前を変えて、
最強の歩兵である銃士として、銃士隊に入隊する。僕らは、そんな、人為的な才能の結晶だ」
下を覗き込み、牽制射撃を加える。狙いは敢えて外し、銃を構えた武装兵の周囲に着弾させて地に貼り付ける。
(´・ω・`) 「君がさっき、親を殺された、って言ったとき、悪いこととは思うけど、僕は羨ましかった。
ブーンとツンも、同じだと思うよ。……僕が何を言いたいか、分かるかい?」
ドクオは、首を振る。
(´・ω・`) 「復讐なんて、考えちゃいけない。君たちのような人の代わりに戦うのが、僕たちだから。
君は、君が望んだとおり、自由に生きるんだよ。……天国のご両親が、悲しむよ?」
( A ) 「……」
ドクオは俯く。俯き、ショボンに背を向けた。それでも、嗚咽と肩の震えを隠すことはできない。
ショボンは彼の背中を見て頷き、また立ち上がってトリガーを引いた。
狙撃銃の後を引く発砲音が周囲に響き渡り、加熱された空薬莢が二人の間に、落ちた。
- 108 名前: ◆jCM67GcpiA :2009/08/24(月) 23:21:55.47 ID:VvFq+HoO0
- |_____________
5th movement "Rebellion to the Future"
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|
軽快なチャイム音と共に、エレベータのドアが開く。
( ^ω^)「いよいよ、大詰めだお。ツン、疲れてないかお?」
ξ゚听)ξ「このまま次の任務だって余裕よ。……熱いシャワーと、ふかふかのベッドと、一週間の休暇さえあれば」
ショボンから、既に建物の構造と敵兵の配置を受信している。熱源探知衛生を用いたTROOPAA
(トルーパー。Thermo-map Rendering system fOr Observe, Plan And Assault、偵察・立案・突入用
温度差マップ描画システム)により、二人は敵兵がどの部屋のどの位置にいるかまでを把握していた。
通路を抜け、奥のドアに差し掛かる。
ドアのすぐ裏に二名、奥に固まって八名。その先の展望オフィスに、首謀者。
ξ゚听)ξ「私が行くわ。バックアップして。その代わり、大ボスの確保は任せるわよ。
アタシ、接近戦、苦手だから。……ブリーチングクリア。後は、一人で行く」
( ^ω^)「了解だお」
ブーンは頷き、ツンが太股のハーネスから取り出した遠隔操作式の爆薬を受け取る。
一旦拳銃を収め、それを扉の蝶番に慎重に取り付けて、数歩下がった位置で屈んだ。
ツンは扉から20メートルほどの距離に下がり、前を見る。ブーンは――腕を振り上げて、扉を指差した。
ξ#゚听)ξ「ッ…………!!」
ツンが、走る。
- 109 名前: ◆jCM67GcpiA :2009/08/24(月) 23:26:00.03 ID:VvFq+HoO0
- 両脚の装備品に二挺拳銃を手にしてなお、彼女は僅か数歩でトップスピードに達した。
ツンの加速を確認し、ブーンは――リモコンのスイッチを押した。
――破裂音。爆風と共に蝶番が粉砕され、指向性を与えられた衝撃で扉は部屋の内側に吹き飛ぶ。
(;::O:::O)「ちょ、なああああぁっ!?」
(;::O:::O)「うごぶゲボアッ!!」
扉の裏に立つ兵士は爆風の直撃を受けて、ずたぼろになり吹き飛んだ。
跳ね飛んだ扉は、その勢いで床に着き、床を滑走する。
走り、跳んだツンは――その上に着地し、扉と共に部屋中央に向け滑り込んだ。
(; ・∀・)「な、何だっ?」
部屋の奥に固まる兵士達。その中で覆面を付けていない男が、いち早く声を上げる。
彼等の目は、吹き飛びこちらに滑ってくる金属の扉を見た。
――そして、その上で拳銃を構える、フリル付きの黒い衣服を纏った女を。
何名かの兵士が、咄嗟にSCAR-L CQC――SCARの屋内戦モデル――を持ち上げ発砲する。
浮ついた照準は高い。ツンは扉の上で、額が扉に触れるほどに身を屈め、その弾を躱す。
(; ・∀・)「脚だ! 脚は動かない、足下を狙えッ!」
男が指示を飛ばす。それに応え、全員が一斉に低く照準する。
ツンは、動かない。扉の上に屈み、クラウチングスタートの初期の姿勢に似た構えを取る。
そのスカートの中、右脚に取り付けられたハーネスに仕込まれたスプリングが……きりり、と鳴った。
――ブーンが袖口にスプリングで動作する給弾装置を隠し持つように、ツンも脚のハーネスに
類似したメカニズムの装備を隠し持つ。ただし、その用途は給弾ではない。
それはバネの反動を利用し、人間の行動の盲点となる垂直方向に急速度の移動を行うための――
- 112 名前: ◆jCM67GcpiA :2009/08/24(月) 23:30:16.31 ID:FosrSRLNP
- スプリングに蓄積された高密度の運動エネルギーは、ハーネスの腰元の操作により一気に解放される。
それは、ツンに人間の域を逸脱した跳躍力と推力を与える。
――バギンッ!
金属の杭を打つような、スプリングのコイル音。
それを滑る扉の上に残し、ツンは兵達の視界から消えた。
(;::O:::O)「消え――ッ!?」
上――だ。
高さ二メートル以上あるオフィスの天井すれすれを、ツンは飛翔した。
空中で身を捻り、身体を数度きりもみ状に回転させ――戸惑う兵達の頭上を越え背後に着地する。
(; ・∀・)「上、いや後ろッ!! 撃て、撃てッ!!」
振り返り、照準もそこそこに一斉に引き金を絞る。
ツンは、しかし再び消えた。
跳躍は二度。
右脚のスプリングで、前へ。着地直後に左脚のスプリングで、そこから後方へ、二度跳んだのだ。
連射を悉く回避し――蜻蛉返りを打って、団子状になった兵の中心に、悠然と、着地した。
空気が硬直したように、全員の動きが止まる。
ξ )ξ「ふうッ――――!」
敵の配置は、ほぼ正八角形の頂点。
そこから、屈み、顔を伏せた状態から――動く。
- 113 名前: ◆jCM67GcpiA :2009/08/24(月) 23:35:24.28 ID:FosrSRLNP
- ――起。
顔を起こす。両腕を伸ばし、右銃を正面前へ。左銃を真後ろへ。
同時に、トリガーを引く。前後一直線にマズルフラッシュ。
(;::O:(;::O:::O)「ぐッ――!」「ご、ッ!」
左銃を身体の上方から肩越しに旋回させ右前方へ。
同時に右銃は下方から左脇を通し左後方へ。正八角形の対曲線を結ぶ、発砲炎。
(;::O:(;::O:::O)「ギャアッ!!」「な、何――ッ!」
身体の前面で、両腕を旋回させる。
両銃を左右へ。撃発。破裂。燃焼。弾丸の推進――排莢。同時に着弾。
(;::O:(;::O:::O)「げうっ!?」「ぐ、あッ!」
両腕を一気に腰正面に引き付ける。
拳を突き込むように左銃を左前方へ、右銃を右後方へ。四度目の、八発目の銃声。
(;::O:::O)「あぐッ!」(; ・∀・)「ゴフ……っ……!」
収。
左腕を肩から。右腕を腰から、ゆるりと側方に旋回させ、腰の正面へ引き付ける。
左銃口を垂直に上に、右銃口を垂直に下に、収める。
ξ )ξ「――はあ――あっ」
残心――
一拍を置いて、八人の敵兵は同時に、硝煙の満ちた室内に崩れ落ちた。
……部屋の隅に設置された非常灯が、ばちん、と火花を散らし、消えた。
- 115 名前: ◆jCM67GcpiA :2009/08/24(月) 23:39:20.32 ID:FosrSRLNP
- ――屋上で待機するショボンのヘッドセットが、指令からの通信をキャッチする。
(´・ω・`) 「ショボンです。状況に変化ありません。何か?」
川;゚ -゚)『緊急だ』
司令官の声には、珍しく焦りの色がある。
川 ゚ -゚)『今回の武装蜂起事件の首謀者についてだ。今、明らかになった。
組織「オオカミ」の指導者、ジョルジュ長岡は三日前に死亡している。
現在の組織のトップは、別の人間だ』
(´・ω・`) 「別、ですか? でも、それで作戦内容に変更があるわけではないでしょう?」
川 ゚ -゚)『後釜が、並のイカレポンチの戦闘狂ならな。だが、違う。良く聞け。
新しい指導者の名前は、「ショーン・ギコビーン軍曹」。元リブリア王国軍人であり、
王立僧兵隊長。そして――』
続く司令官の言葉を聞き、ショボンはその柔和な表情を険しくした。
(;´・ω・) 「ば、バカな。本当ですか?」
川 ゚ -゚)『今の発言は、上官への反抗行為として記録されたぞ。
……冗談だ。残念だが、事実だ。彼は――』
先程の発言を、再度繰り返す。
川 ゚ -゚)『銃士隊創設メンバーの一人として、日本に招聘された経歴がある。
君たちの……「親」にも等しい存在だ』
- 117 名前: ◆jCM67GcpiA :2009/08/24(月) 23:43:20.14 ID:FosrSRLNP
- ――二人は無人の廊下を歩き、ひときわ大きな両開きのドアに辿り着く。
( ^ω^)「いよいよご開帳、だお」
ξ゚听)ξ「早く行きましょ。アタシ、流石にもう疲れちゃった」
言葉は強気だが、右脚を僅かに引き摺っている。ツンの体力はブーンに劣る。
ハーネスのギミックを利用した跳躍は身体に掛かる負担も大きいが、それ以上に疲労している。
彼等は、この蜂起の真の首謀者を知らない。
ドアを、慎重に押し開ける。警戒を保ったままブーンが先導し、ツンは後に続いて侵入する。
――いない。誰も、見当たらない。
開けたオフィスの正面は、前面が透明なサッシになっている。外には、夜の帳が降りている。
元から配置されていた事務机などの什器は撤去され、部屋の中央に一つだけ残されていた。
「やれやれ。ノックぐらい、したらどうだ……ゴルァ?」
(; ^ω^)「――!!」
ξ;゚听)ξ「ッ!」
開いたドアの陰に、その男は立っていた。黒いトレンチコートに身を包み、長銃身の拳銃を
手にして、腕組みをして。そして……この男は、ジョルジュ長岡では、ない。
(,,゚Д゚)「期待と違う顔で――悪かったなッ!!」
言葉と同時に、前進する。
目標は、遅れて部屋に入り、男との距離が近い――ツンだ。
- 119 名前: ◆jCM67GcpiA :2009/08/24(月) 23:47:59.91 ID:FosrSRLNP
- 二挺拳銃を構え、迎撃態勢に入るツン。
男は構えない。走り、ツンの目前まで迫った。
(,,゚Д゚)「ゴルァッ!」
右手の銃を、叩き付けるように振り下ろす。
至近距離からの銃撃を意識した、それは打撃であるのと同時に射撃姿勢。
ξ;゚听)ξ「これはッ――?」
咄嗟に左手の拳銃を捨て、左掌で銃身を捌く。同時に右手の銃を上げ、男に照準を試みる。
だがその右手も己の動作と同様に、男の左腕に払い落とされる。
右手に、鉛で殴られたような、重い衝撃が伝わった。
ξ;゚听)ξ「ぐッ!!」
どうにか耐え、捌く。
(; ^ω^)「ツンッ!!」
ブーンは動くが、掩護を行えない。男は、ブーンの射線に常にツンが入るよう、彼女の姿勢を誘導して
いるのだ。身体を左右に揺らすが、援護射撃を行えるだけの余裕は生まれない。
ツンは右手の痛みに耐え、拳銃を振る。弾かれ、同時に男の銃口が己の正中線を狙い迫る。
同様に、捌く――と見えたが、男の技量が、ツンの回避能力を凌駕した。
(,,゚Д゚)「ゴルアァッ!!」
捌こうとしたツンの右手を、左手で打ち払った。
ツンの防御が解かれる。その右肩に銃口を密着させ――同時に返す左手でツンの脇腹に手刀を見舞った。
軽いツンの身体はその衝撃に耐えかね、床から浮いた。
- 121 名前: ◆jCM67GcpiA :2009/08/24(月) 23:51:56.49 ID:FosrSRLNP
- 彼女の右肩に押し当てられたその銃口の先は、ブーンだ。
それを察知してブーンが身を沈めるのと同時に、男は拳銃のトリガーを引いた。
銃口に取り付けられたコンペンセイターから、斜め十字のマズルファイアが上がる。
銃弾はツンの肩胛骨を貫通して軌道を不規則に変え、辛うじて回避したブーンの背後の窓を粉砕した。
ξ; )ξ「きゃああああああぁぁっ!!」
(,,゚Д゚)「正中線の保持力が弱い。もう一年、基礎訓練を積むべきだったな。ゴルァ」
くずおれ倒れたツン。彼女を放置し、男はブーンを見る。
(; ^ω^)「あんたも――銃士、かお?」
男は頷き、銃を上げる。その銃は、やはりカスタマイズを施されたものだ。
ベレッタM92Fをベースにフルオート化、スタビライザとコンペンセイターの増設。
設計思想は、ブーンの持つ五十七式に非常に近いように見える。
(,,゚Д゚)「名乗っておこう……俺は、ギコ。お前達ヒヨッコの生みの親だよ。
故合って、この国の政府を倒さねばならん。つまり、お前達の敵……だな」
( ^ω^)「理由を聞いたら、教えてくれるかお?」
(,,゚Д゚)「ああ。勿論だ――お前の墓前で、なッ!!」
言葉と同時に、踏み込む。長身のギコの踏み込みは大きく、鋭い。
ブーンは咄嗟に左手の拳銃をフルオートで掃射する。命中することを期待してはいない。
銃士であるならば、この距離で一対一ならばどんな射撃も通用するはずはなかった。
撃ちきってホールドオープンした拳銃を捨て、迎え撃つ。
(,,゚Д゚)「そこの娘は落第だが、お前はどうかなッ――ゴルァッ!!」
- 123 名前: ◆jCM67GcpiA :2009/08/24(月) 23:55:03.75 ID:FosrSRLNP
- 身体の外側から、円を描いて拳銃が飛来する。
左手をその銃身に添えて勢いを逆に増し、身体の反対側に逃がす。
その左手の下から、ブーンは一直線に銃把を握った拳を突く。すかさず、トリガーを引く。
ギコは上半身を大きくスウェイさせ、その銃弾を躱す。
これが、「組み撃ち」だ。
攻め手は相手の正中線を奪い、発砲する。受け手は捌き、受け止め、銃口を己の身体から逸らす。
その動作の連続により、あたかも拳銃を用いて組み手を行うかのような攻防の連続が発生する。
(# ^ω^)「ふッ、く!!」
(#,,゚Д゚)「ゴルァ、ゴルァァァッ!!」
銃口を突きつけ、トリガー。捌き、受け流す。銃弾はあらぬ方に飛び、壁を、窓を砕く。
身体の外側から来る銃口は内側に。内側から来る銃口は外側に。
突きの動作で一直線に突き出されたギコの銃口。ブーンはその手首を掴んで固定し、身を屈めて躱す。
身体を起こすのと同時に右脇から脳天に射線を通し、銃を構える。しかし、ギコの手刀に打ち落とされる。
(; ^ω^)「ぐッ!?」
ギコの左腕は、重い。およそ人間の腕力とは思えない重量感を備えていた。
その左手に繰り返し捌きを受けたブーンの右手は、徐々に麻痺していく。
(; ^ω^)(なんだお、あの手。これ以上受けたら、トリガーが引けなくなるお……!!)
だが、止まる訳にはいかない。攻撃動作の途切れは、致命的な隙を晒すことに繋がる。
「組み撃ち」の技量は、ブーンが僅かに劣る程度。だが左手の破壊力と経験の分、ギコに分がある。
(# ^ω^)「こう……なったらッ!!」
- 124 名前: ◆jCM67GcpiA :2009/08/24(月) 23:58:08.17 ID:VvFq+HoO0
- 突き込まれたギコの銃口。それを敢えて受けず、捌かずに大きく身を屈めて避ける。
頭上の発砲音を聞きながら、身体を跳ね上げるのと同時に銃把で掌打。鈍い音が響く。
(;,,゚Д゚)「ぐッ?」
(# ^ω^)「お、おおおおおッ!」
掌打から半歩前進し、右脚でギコの前足を払う。予想しない方向の攻撃に、ギコは脚を掬われ体勢を
崩した。一旦右手を引き、二連突きの動作でよろけたギコの胸を狙った。が――
(#,,゚Д゚)「甘いッ!」
右手を取られた。ギコ自身の体勢を崩し、後逸する重心。それを利用し、強いねじりを加えられる。
ごり、と、鈍い衝撃と灼熱感が右手首、右肘、右肩にまで伝播する。
激痛に右手を思わず開く。握られた銃が振り上げた腕から落ちた。
ギコが優位の笑みを浮かべる。だが――まだ、勝敗は決してはいない。
ブーンに利がある、唯一の点。それは体格と年齢による、身体の柔軟性だ。
身体を捻りながら身を屈める。右腕を掴まれたまま身体をほぼ半回転させ、床に落ちる寸前の拳銃を
左手でキャッチした。
(# ^ω^)「おお――ッ!!!」
地面にへたり込むような姿勢。そこから左手の銃で斜め上に照準を付け、ギコの胸を狙って連射する。
ブーンの右手を握ったギコには、その回避は困難なはずだった。
――だが。
ギコの身体には、それでも銃弾は届かない。ギコは瞬時の判断でブーンの右手を解放し、上半身を
思い切り後ろに反らしていた。顎先を掠めた銃弾は天井に食い込み、蛍光灯の破片を降り注がせた。
- 125 名前: ◆jCM67GcpiA :2009/08/25(火) 00:00:22.88 ID:PYZxZZsq0
- 降り注ぐガラスを挟み、距離を置く。ギコは口を歪め、開いた。
(,,゚Д゚)「合格だ。……お前、俺たちの仲間になる気はないか? ゴルァ」
(; ^ω^)「冗談はよせお。何が悲しくて、泣く子も黙る第一種公務員のボクがテロリストにとらばーゆ
しないといけないんだお……つッ!」
(,,゚Д゚)「それは、お前がこの国の真実を知らないからだ。
この国と、政府と、そしてFOP(Fellows Of the Patoriots)の……な」
( ^ω^)「……構わないお。ゆっくり話を聞かせて貰うお。
ただし。刑務所の面会室で、電話越しに――だおッ!!」
今度は、ブーンが仕掛ける。左手に持ち替えた拳銃で、ギコの顔面に狙いを付けた。
低い姿勢から、伸び上がるように銃口を突き出す。
( ,,゚Д゚)「そうか、残念だゴルァッ!!!」
撃ち合わない。肉薄するブーンの銃口を半身になって躱し、ブーン以上の速度で逆に拳銃を突き出す。
右手は死に体。だが命には代えられない。ブーンは迷わず、痛めた右腕を振り上げて防御動作を取る。
だが――それはギコの誘いだった。
(# ,,゚Д゚)「脇が甘いッ! ヒヨッコめが!!!」
突き出されたギコの腕が瞬時に折りたたまれる。床に尻を着くほどに屈み、大きくすり足で一歩前進。
ブーンの右脇の下に拳銃を持った右腕を差し入れ固定し、空いた左腕でブーンの右手を取る。
一本背負いの姿勢だ。通常の一本背負いと違うのは、ギコの右手の拳銃。
ブーンの脇を挟む右手の銃口は、真っ直ぐ側頭部に向いている。
- 127 名前: ◆jCM67GcpiA :2009/08/25(火) 00:03:41.26 ID:PYZxZZsq0
- (; ^ω^)「お――ッ!!!」
認識してからの動作ではない。ほとんど勘に等しい反応速度で、ブーンは頭を振る。
轟音と共にギコの弾丸が射出された。発射音とマズルファイアで視覚と聴覚が揺さぶられる。
そのままギコは身体を上げ、両手を巻き込むように引き寄せる。
ブーンの身体は一回転し、宙を舞って床に叩き付けられた。
(; ゚ω゚)「げ、ふッ!」
カーペットに背中を痛打し、肺から空気を全て吐き出す。かろうじて首を引き後頭部を床に打ち付ける
ことは免れたが、コンクリの地面なら投げだけで死んでいただろう。
だが、まだ。ギコの攻撃は、まだ終わっていない。
投げの終了動作を取ったギコの、伸ばされた右腕。そのコンペンセイターを装着した銃口は――再び、
投げ倒されたブーンの顔面を照準している。左手は、ブーンの右手首を掴んだままだ。動けない。
だが動けなければ――脳天を粉砕され、死ぬ。
ξ )ξ「……ブーン……ッ……!!」
ツンが呻く。聞き取れないほどの声は、ブーンの耳にはっきりと届いた。
――まだ、終われない――動け!
(# ゚ω゚)「おッ――おおおおおおおおぉぉッ!!」
瞬時の判断で、右腕をホールドされたまま身体全体を思い切り右に振る。
関節が軋み、骨格が歪む。走る激痛にも構わず、今度は反対に。
僅かにギコの左手が緩む。瞬間、ブーンは銃把を握り締めた左手を頭の脇に床に着き、全身をたわめた。
両足を伸ばす勢いを利用し、付いた腕に全力を篭め――掴まれた腕をもぎ離しながらヘッドスプリング。
- 128 名前: ◆jCM67GcpiA :2009/08/25(火) 00:05:42.21 ID:PYZxZZsq0
- (# ,,゚Д゚)「ち――――?」
咄嗟にギコはトリガーを引く。だが発射された弾丸は、宙に浮くブーンの足下の絨毯に食い込んだ。
ブーンはギコに背を向け、床に降り立つ。翻る黒衣の裾に己の銃口を隠し、右脇を通して背後を狙う。
(# ゚ω゚)「おおッ――うおおおおッ!!」
トリガーを、引く。
衣の裾に隠され、銃口の向きは正確に判断できない。
なおかつ身体に密着した銃身は、捕らえることも不可能。
放たれた五十七式機関拳銃の連射は、ギコの腹部を確実に貫く筈だった。
――鈍く、重い金属音。
それは、5.7×28mm弾がギコの肉体を貫く音では、ない。
ブーンは素早く振り返り、ギコの左手を見る。
その左手は――前腕部の中程から砕け、金属のフレームとワイヤ、電子部品を垂れ下がらせていた。
義手だ。金属製の義手。ギコは、咄嗟に義手でブーンの弾丸を受け止めたのだ。
異常に重く硬い受け手の理由は、これだったのだ。
――まだだ。倒し切るには、まだ!
ギコが、よろけながら銃を構える。理性がそれを認識する前に、ブーンは身体を起こす。
振り返りながら、右足を身体の内側に入れて踏み込み、身体を内側に半回転させる。
(# ,,゚Д゚)「ゴルウアアアアアアアァァァァッ!!!」
ギコが立て続けにトリガーを引く。反転したブーンの背中を掠め、何発もの弾丸が飛翔する。
ブーンは――身体を半回転。左足を身体の外側に踏み込み、大きく旋回。
そのまま、前方への推進力を保ったまま、地面を踏み切り――跳んだ。
- 129 名前: ◆jCM67GcpiA :2009/08/25(火) 00:08:41.27 ID:PYZxZZsq0
- (# ゚ω゚)「おおあああああああああ――――!!!」
後逸しながら連射を続けるギコに向かい、跳ぶ。水平方向に集中したギコの連射は、悉く宙を切る。
跳びながら、反時計回りに大きく身体を水平回転させ、左脚を振り上げる。
(#,,゚Д゚)「この距離、この状況で……跳び後ろ回し蹴りだとッ?
CQCの基本も弁えないガキがヒーロー気取りかッ……お前も、落第だゴルァァァァッ!!」
ギコは嘲笑する。空中にいては軌道を修正することは不可能だ。次弾を回避する術はない。
勝利を確信し、右手の銃でブーンを照準する。トリガーに掛けた人差し指に、じわり、と力を篭める。
しかし――
(# ゚ω゚)「――――ああああああああああああぁぁぁぁぁぁっっ!!!!」
ギコの肩に、袈裟懸けの軌道で振り下ろされるブーンの左脚。
それが軌道を変え、急角度で降下し――拳銃を持つギコの右手首に絡んだ。
(; ,,゚Д゚)「ッ!!!?」
――狙いは、蹴りではない。
回転により初弾を回避し、跳躍することにより隙を作り、ギコの姿勢と照準を上げさせ。
そして、手よりもリーチの長い足を使って、残されたギコの右手を拘束する――
それが、ブーンの狙いだった。
右手首が、ブーンの左の太腿とふくらはぎに挟み込まれたまま、重力とブーン自身の体重を掛けて
床に落とされる。左手首の腱がねじ切れ、さらに左肘の関節が音を立てて脱落した。
左脚に右腕を挟まれたまま、その着地の勢いで右膝を左肩に落とされる。左鎖骨が、音を立て砕けた。
――大の字に床に倒れたギコの身体の上に、ブーンは着地した。
- 130 名前: ◆jCM67GcpiA :2009/08/25(火) 00:11:23.20 ID:PYZxZZsq0
- (;,, Д )「が、ハァッ!!」
呻くギコ。両腕を完全に封じられたその顔面に、五十七式機関拳銃を突き付けた。
(; ^ω^)「はあッ、はあッ――チェックメイト、だお……ッ!」
右腕をだらりと垂れ下がらせ。
肩で息をしながら拳銃を握り締め、ブーンはギコの敗北を告げた。
( ^ω^)「……さあ、聞かせて貰うお。ボク立ちの生みの親が、なぜ国に反逆を?」
(;,,゚Д゚)「……」
ギコは無言でブーンの顔を見詰めていたが、やがて息を吐き、全身から力を抜いた。
( ,,゚Д゚)「ゴルァ。小僧、聞かせろ。今まで信じてきたものがすべてまやかしだったとしたら……
貴様は、どうする? お前達を飼っていた政府が、実はお前達の真の敵対者だとしたら。
それでも、貴様は……国に、仕えるのか?」
( ^ω^)「言ってる意味が、分からないお。もうちょっとはっきり言ってくれないかお?」
首を振り、銃口を揺らす。ギコは苦しげに笑い――言った。
( ,,゚Д゚)「ギコハハハハッ……良いだろう。俺たちは、FOP事件に端を発する銃犯罪の取り締まりの
ために育てられた。最終目的はFOPの壊滅、そして無認可の銃による銃犯罪の撲滅。そうだな?」
頷く。
( ,,゚Д゚)「では……世界最大の銃火器密売ネットワーク……FOP、『愛国者の同士達』。
その実体が日本国政府直属の組織だとしたら、どうする?」
- 131 名前: ◆jCM67GcpiA :2009/08/25(火) 00:13:46.65 ID:PYZxZZsq0
- ( ,,゚Д゚)「FOP事件は、当初、確かに数人の武器商人悪徳軍人によって設立された。だが、組織は
発足直後に壊滅。その名前だけを隠れ蓑に、今は日本政府がFOPを運営している。
FOPは、今や世界的な規模に膨らんでいる。潰すには……政府を叩く他にない。
だから俺は、戻ってきた。FOPの真の運営者を潰さねば、俺たちの大願は成就されない」
ブーンは無言でその言葉を聞いている。
ギコが嘘を吐いている可能性もある。だが、彼の言葉には確信の響きがあるように思えた。
( ,,゚Д゚)「軍備強化、国際的な兵器産業への参入、そして――足がかりとなる、全日本国民の教化。
"Fellows of the Patriots"……『アメリカの協力者』。それが、日本政府の出した答えだ。
――それでも、お前は銃士として、無為な戦いを続けるか? 政府を盲信するか?
答えろ。銃士……俺たちが産んだ『銃ノ型』を極めた、俺たちの――『息子』。答えろ」
――「息子」。そう呼ばれたのは、生まれて初めてだった。
( ω )「……」
ブーンは、俯く。思案し、首を振り……床で倒れるツンを、見た。
彼女には、二人の会話は届いていない。荒い息を吐きながら、彼らを見ている。
両親を、銃に奪われた。そう泣き叫ぶドクオの顔が、浮かんだ。
( ω )「……仮に、あんたの言うことが本当だとしたら。ボク自身が、その証拠を掴んだら。
ボクは……戦うお。悪者を、倒すお。でも……」
( ^ω^)「ボクは、あんた達みたいな真似はしない。……ボクは、一人で戦う。
他の誰にも怖い思いをさせないで、ボク一人で、本当に悪い奴だけを、倒す。
それが、ボクの……信じる道だお」
( ,,-Д-)「……そうか」
- 133 名前: ◆jCM67GcpiA :2009/08/25(火) 00:17:22.87 ID:PYZxZZsq0
- ( ,,-Д-)「俺は、自分が間違っているとは今でも思わない。自分の信念に従ったからだ。
お前も……自分の信念に従え。『父親』として、教えられるのは……それだけだ」
もう、彼には反撃の意志はない。あったとしても、銃を扱うことはできまい。
ブーンは立ち上がり、銃をガンベルトに収めた。
( ω )「出来の悪い『息子』で、ごめんだお。
ボクは、自分ができることをする。それだけだお……『親父』。
……さよなら、だお」
( ,, Д )「……ああ……さらばだ」
立ち上がる。ギコの表情は見ない。
振り返り、入り口の脇に倒れるツンの身体を支え、起こす。
ξ;゚听)ξ「つッ、もうちょっと優しく扱ってよね!
……それより、アイツ、何者なの? アンタと何を話してたの?」
部屋の外から、いくつもの靴音が聞こえてくる。本隊が到着したのだろう。
首謀者も倒れ、敵は全て制圧した。反乱は、終わりだ。
だが、始まりでもある。
( ^ω^)「……ツン」
ξ;゚听)ξ「なによ、改まって」
( ^ω^)「もしも、本当の敵が身近なところにいて。そしてそれを倒すために、今まで信じてきた
ものを裏切らないといけないとしたら……ツンは、どうするお?」
- 136 名前: ◆jCM67GcpiA :2009/08/25(火) 00:19:44.51 ID:PYZxZZsq0
- ツンは即答する。
ξ゚听)ξ「決まってる。アタシ達の目的は敵の殲滅。他の全ては、その対価として支払うべきもの。
当然でしょう? ……何よ、いきなり。あいつの背負い投げで頭でも打った?」
彼女の言う通りだ。明快な答えにブーンは目を閉じ、首を僅かに振る。
自分たちは、銃士。悪を殲滅するために生まれ、戦い続ける。その悪が、例え身中のものであっても。
それは、そう。
幼い頃、訓練の余暇に目を輝かせながら見つめた、映画の、テレビの、あるいは漫画の――
扉が、音を立てて開かれる。
黒いスーツを着た細身の女、彼らの司令官を先頭に、隊員が雪崩れ込む。
その中に、ブーンは彼の兄弟、ショボンを、そして友人、涙目をしたドクオを認める。
先のことは、分からない。だが既に、決心は固まっている。
ただ、今明らかになっているのは――――
( ^ω^)「――やれやれ。
正義のヒーローってのも、辛いものだお」
――――待ち受ける闘争の、ともすれば反逆の明日。道標は、己の信念、ただひとつ。
友人達を見渡す彼の眼に、静かな、しかし揺るぎない炎が、灯った。
―― ('A`)^ω^)Bullet Opera OverNight!のようです 終 ――
-
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