( ゚д゚)普通なようです
1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/14(日) 16:13:01.32 ID:CFwHm7mm0
人生において、様々な場面で何かを選択しなければならない時が訪れる。
それは個人によって異なったものではあるが、同時に皆平等に訪れるものなのだ。
種類も様々に、ほんの些細な事から、未来に大きく影響を及ぼすものまで選択というものは存在する。


そして、私も今、選択を突きつけられている。


恐らく私の人生で最も大きな選択だ。
この様に劇的な展開が訪れることなど、今までも、そしてこれからも無いだろう。
それ程、私はちっぽけで、至って普通の人間なのだ。

そうして数年前から繰り返し変化の無い日々を送ってきたはずなのに、運命というものは突然狂いだした。
いや、まだ狂ってはいないか、動かすかどうかを決めるのも私の選択しだいなのだから。

ああ、一体、どうして、こんなことに―――




2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/14(日) 16:14:14.53 ID:CFwHm7mm0






( ゚д゚)普通なようです











3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/14(日) 16:14:43.56 ID:CFwHm7mm0
(,,゚Д゚)「……また、なんですよ?」

( ゚д゚)「申し訳ありません」

つくづく呆れたというという事をあからさまに伝えたいのか、
大きな溜め息を見せつけるかの様にギコ部長は吐き捨てた。

しかし私は自分より年下の彼に怒られる事すら慣れてしまっている。
嫌味めいた態度も、年功序列を考えることもなく、ただただ無表情で頭を下げるばかりだ。


(,,゚Д゚)「そんな心の籠もって無い態度で謝られたところでねぇ……」

( ゚д゚)「……申し訳ありません」

もっとも、そう簡単にそれを見逃すほど社会というものは厳しくない。
私の態度に不満を持ったギコ部長は、長々と文句を垂れ流し始める。
日常茶飯事であるこの光景に、目をやる同僚は一人としていないだろう。





5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/14(日) 16:16:14.38 ID:CFwHm7mm0
(,,゚Д゚)「営業というのは、誠意と態度でやるものですよ?
     もう本来ならベテランの域に入っていても良い頃だと思うのですが……」

( ゚д゚)「……申し訳ありません」

これ以外に、返す言葉は見つからなかった。

もう何度目かは分からないが、今日も顧客から私へクレームに近いものが入った。
接客態度に熱意が感じられない、まるで機械相手に話をしている様だとまで言われたらしい。


感情が無い訳ではない、自分なりに精一杯やっているつもりだ。
だが、いかんせん、私はそれが面だって表れない体質なのだ。

無表情だなんだと言われようと、改善することも出来なかった。

(,,゚Д゚)「……はぁ、じゃあもう今日はいいですよ。
      以後、気を付けるようにしてください」

( ゚д゚)「分かりました」





6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/14(日) 16:18:13.41 ID:CFwHm7mm0
私が自分の机に戻る時にだけ、周囲からの視線が集まる。
一種の憐みを抱き、同情の言葉でも投げかけようか迷っているのだ。
そんなものは、敗者に唾を吐きかけるのと何ら変わりない、放っておいてくれるのが一番だった。

……だが、やはり人の優しさとは嬉しいものだ。
何も言わずそっと差し出された熱いコーヒーに、私は軽く考えを覆させられた。


( ゚∀゚)「お疲れさんです、ミルナ先輩」

( ゚д゚)「先輩はよしてくれ、立場は君も私も変わりがないのだから」

( ゚∀゚)「はは、年の差はやっぱり気にしてしまうものでして」

私より一回りも下の年齢であるジョルジュという男は、何かと空気の読める男だった。
お世辞にも顔が良いとは言えないが、気遣いとコミュニケーション能力では他の社員と比べるとずば抜けている。
いつかは私も追い越し、上に立つ人間となる筈だ。

若干の嫉妬は覚えるが、こうして人間の温かみを授けてくれるこの男になら、それでも良いと思えた。





7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/14(日) 16:20:12.42 ID:CFwHm7mm0
( ゚∀゚)「ギコ部長もあれですよね、遠回りにぐちぐち言わなくても……」

( ゚д゚)「地位が上でも年齢の事で、あまりきつくは言えないのだろう。
    彼はとても聡明な男だから、一つ一つの発言にもかなり気を使っているはずだ」

( ゚∀゚)「まぁ、そうなんですけど」

ジョルジュは恐らく、私に降り注ぐ叱咤の言葉を耳にするのが嫌なのだ。
他人に向けられているものだとしても、あまり気持ちの良いものでは無いというのは当然の事。

それに、私がそういった目にあっているのを見るのも耐えられないのだろう。
人の気持ちまで考え、背負いこんでしまうのは社会人として辛いが、私の立場からすれば単純に嬉しかった。


( ゚∀゚)「確かに仕事は出来る男ですよね」

( ゚д゚)「うむ、目指すならああいう男にするといい」

遠まわしに私の様になるなと伝えたつもりだった。
四十近くになるというのに、未だに大した出世も見られない人間の言葉だ。
図らずして説得力のある、重い言葉になることだろう。




8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/14(日) 16:22:43.72 ID:CFwHm7mm0
(,,゚Д゚)「えー、ごほん、仕事は効率良く進めましょう」

そこに小学校の先生を彷彿とさせる口調で、ギコ部長の独り言が届いてくる。
私とジョルジュが仕事もせず、長々と話しこんでいるのが気に食わなかったのだ。
直接言うのと何も変わりは無いなと思い、心の中で微笑を浮かべた。


( ゚∀゚)「おっと、機嫌は損ねたくないので、俺も席に戻りますよ」

( ゚д゚)「ああ、それがいいな」

( ゚∀゚)「お互い頑張りましょう……」

ジョルジュはコーヒーを一気に飲み干し、あちちと舌を出して戯けてみせた。
退屈をさせない奴だなと、感謝しつつも、その背中を見送る。

すると、ジョルジュが何かを思い出したかの様に振り向き、小声で呟く。




9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/14(日) 16:25:32.80 ID:CFwHm7mm0
( ゚∀゚)「俺、ミルナ先輩みたいな渋い男、好きっすよ。
     本当に、尊敬するに値する人間だと思ってますから」

そんな言葉を残し、ジョルジュは自らの作業に戻っていった。
つまり、ギコ部長より私を目標に掲げているという事なのだ。


自分よりもずっと有能な男にそんな事を言われて、若干の戸惑いがあった。
ジョルジュには人を見る目がないのではないかと、懸念してしまう。


( ゚д゚)(……いかんな)

しかし、それ以上に嬉しかった。

久々に無表情が解れ、顔の緩みが暫くとれない程に。




11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/14(日) 16:27:55.80 ID:CFwHm7mm0
・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・

( ゚д゚)「ただいま」

('、`*川「お帰りさない」

夜の十一時になって、ようやく帰宅する。

この時間でも優しく出迎えてくれる妻には感謝する他無い。
残業を終えてからでは致し方ない時刻であり、もうこんな日々が当たり前になっていた。


('、`*川「ご飯?お風呂?」

( ゚д゚)「じゃあ……先に飯を食おうかな」

('、`*川「ん」

これ以上無いくらい短い返事を残し、ペニサスは居間へと先に向かった。
玄関から廊下を抜けた先に居間があるのだが、私は途中の自室で着替えを済まさなくてはならない。

住み慣れた我が家で、全く同じ会話と行動を何度行ったのかは分からない。
このマンションに住み始めた当初の新鮮な気持ちなど、もう二度と味わえはしないのだろう。





13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/14(日) 16:30:53.61 ID:CFwHm7mm0
(*゚ー゚)「……あ」

廊下で哀愁に浸っていると、丁度トイレから出てきた娘と目が合った。
私が最も見かける娘の姿は、気まずさそうに俯いているこの状態だった、


( ゚д゚)「……ただいま、しぃ」

(*゚ー゚)「……おかえりなさい、ミルナさん」

それだけ言って、しぃは可愛らしい看板の提げられた扉へと入っていった。
私は未だにその部屋、つまり娘の部屋に足を踏み入れたことはない。
唯でさえコミュニケーション能力に問題のある私に、年頃の娘の扱い方など理解できる筈も無かった。

かれこれ四年以上の付き合いなるが、会話という会話もしたことがない。
良くて先程の様に短く挨拶を交わす程度だ。

あまり歓迎できない傾向であるなと落胆しつつ、私はネクタイを緩めた。




14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/14(日) 16:33:33.08 ID:CFwHm7mm0
着替えを終え、居間へ入ると、空腹をそそる匂いが私を包む。
ペニサスの料理は美味い、一日の楽しみとして心待ちに出来る程だ。

( ゚д゚)「ハンバーグか、美味そうだな」

('、`*川「そりゃ美味いわよー、私が作ったんだもん」

妻の笑い声もまた、最高の調味料となり味を高めてくれることだろう。
席に着き、いただきますと小さく呟いて、食べ進める。


('、`*川「美味しい?」

( ゚д゚)「ああ、もちろん」

('、`*川「良かった」

自信家の様に振舞うが、本当は食べる側の一言を聞くまでは安心出来ないと前に言っていた。
少々粗暴な態度を見せる時もあるが、何だかんだで女らしいのがペニサスという人だった。
そんなギャップのある一面に惹かれ、私は結婚を決意したのかもしれない。




16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/14(日) 16:35:32.58 ID:CFwHm7mm0
('、`*川「…………」

( ゚д゚)「……そんなに見られていると、食べにくいのだが」

('、`*川「ご飯食べて貰ってるのを見るのが好きだから、しょうがないよ」

(;゚д゚)「しょうがないの意味が分からないぞ……」

ハンバーグの濃厚なデミソースの味も、少しだけ薄れて感じた。
例え妻だとしても、誰かに注目されている状況は苦手だ。


食べ終えれば風呂に入り、すぐ寝てしまう。
多少の無理も効かない年齢になったせいもあり、家族の談笑など今この時しか味わえない。
そう思うと、もの寂しい気持ちになり、箸を進める速度も自然と遅くなってしまった。

……ふと、家族という言葉に思いを馳せる。




17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/14(日) 16:38:27.24 ID:CFwHm7mm0
ペニサスと私はバツイチ、つまり両者とも再婚になる。

たまたま私の営業で知り合ったのをきっかけに意気投合し、連絡を取り合い、今に至った。
この結婚生活も四年以上に及ぶが、つかず離れずの関係を好むペニサスとは相性が良かったのだろう。
未だに熱が冷めることもなく、私は彼女を愛していると思い続けていられるのだから。

だが、一つ問題であったのは、彼女に一人娘がいたことだ。
それが先程のしぃであるのだが、私はこれと中々上手く付き合う事が出来ない。

私としぃが初めて出会った時、彼女は既に中学に上がりかける年頃だった。
大人になりつつある時期に突如現れた男を、父と呼ぶ等という事は早々容易いものではなかった。
私自身も戸惑いを隠しきれず、互いに苦手意識を持ったまま改善されることも無かったので、あの様である。

本来なら大人である私がもっと歩み寄るべきなのだろうが、不甲斐なさは天下一品だと自負している。
ペニサスに何度か相談してみたが、何とかなると楽観的に流されるばかりだった。

本当の家族になれる日は、果たして来るのだろうか。





19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/14(日) 16:40:56.85 ID:CFwHm7mm0
('、`*川「……どうしたの?」

気付けば、妻の顔が目と鼻の先に置かれている。
思考に集中しすぎたせいか、箸を動かすことも忘れていたらしい。

('、`*川「大丈夫? 無理してるんじゃない?」

( ゚д゚)「いや問題ない、心配かけてすまん」

('、`*川「本当に? 何かあるなら言ってよね」

( ゚д゚)「……ああ」

言えるわけがない、私は妻である彼女に対しても遠慮している。
いや、今の妻であるペニサスだからこそなのだろう。

私は彼女を愛している。


だが、未だに前妻への未練を断ち切れないでいるのだから。




20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/14(日) 16:43:32.78 ID:CFwHm7mm0
・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・

今日は五年目の結婚記念日になる。
私自身は興味ないが、心待ちにする妻の姿を見て、出来る限りは協力してやろうと思った。
仕事も早めに済ませ、夕飯時までには家に帰る筈……だったのだが。


(,,゚Д゚)「ミルナさん、これお願いします」

追加された仕事量に愕然とした。
全力で取り組んだとしても、軽く三時間はかかるだろう。

( ゚д゚)「わかりました」

だというのに、私の口は考える間もなく肯定の言葉を発した。
その速度は恐らく、反射に近いものがあった。

時間が止まってしまえば良いのにという願いも空しく、時計の針は無機質に進んでいくばかりだ。




21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/14(日) 16:46:35.62 ID:CFwHm7mm0
自席に戻り幾らかの時間を思考に費やす。
しかし、改善策など見つかる筈もなくペニサスに謝罪のメールを送ることにした。

( ゚∀゚)「どーしたんですか、ミルナ先輩」

件名を打ち込んでいる所に、ジョルジュが声を掛けてきた。
帰り際なのだろうか、コートを着こんで手に鞄を提げている。


( ゚д゚)「む……どうしたとは何だ?」

( ゚∀゚)「いや顔面蒼白ですよ、何か嫌な事でもあったんですか?」

( ゚д゚)「そんなに表情に出ていたか?」

( ゚∀゚)「いやー、俺にしか分からない変化かもしれないっす」

嘲る様に笑うジョルジュを前に、私はつくづく有能な男だと感嘆していた。
私の無表情を見破る人間など、今までにジョルジュ以外に一人しか見た事がない。
嘘を付いたところで無駄なのだろうと、私はちっぽけな悲劇を語る事にした。




22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/14(日) 16:48:17.08 ID:CFwHm7mm0
( ゚∀゚)「あーなるほど、結婚記念日ですか……。
      んじゃ良いですよ、俺が代わりにその仕事請け負います」

(;゚д゚)「……は?」

その時の私の顔はきっと間抜けなものだったのだろう。
何の迷いも無くそう告げたジョルジュを見て、幾許か静止してしまった。


( ゚д゚)「いや、君はもう帰るとこなのだろう、苦労をかけることはできない」

( ゚∀゚)「先輩を奥さんより仕事とる人間にはしたくありませんからね。
      どうせ俺には彼女すらいないんですから、遠慮しないでください」

( ゚д゚)「しかしだな……」

( ゚∀゚)「ここで恩を売っとけば、後で得するのは俺……ってことになるんですよ」

情けは人の為ならずということなのか。
いや、きっとジョルジュはこう言えば私が納得してくれると踏んだのだろう。
一方的な親切を是としない私の性格を見抜いた上での発言に、敵わないなと思い知らされた。





24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/14(日) 16:50:05.70 ID:CFwHm7mm0
( ゚д゚)「……すまない、今度昼飯を奢ろう」

( ゚∀゚)「それでばっちしです、カツカレー頼んじゃいますよ」

( ゚д゚)「トッピングに卵も乗せてやる」

私が気兼ねなく冗談を掛けあえる仲など、ジョルジュ以外にはいない。
歳の差を感じさせない、最高の友人を私は持っていると、自慢したい衝動に駆られる程だった。


( ゚д゚)「では、な」

( ゚∀゚)「うっす、お疲れ様です」

別れの挨拶を済ませると、ジョルジュは即座にPCにかぶりついく。
切り替えの速さに関心しつつ、心の中でもう一礼した。

半数以上が未だ残る仕事場を見渡し、熱心に仕事に向かう同僚を見ると心が痛む。
だが、偶にはこんな日があっても良いだろうと飲み込み、その場を後にした。




26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/14(日) 16:52:44.19 ID:CFwHm7mm0
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・

まだ夕刻とはいえ、冬の闇の訪れは早く、この身は街灯の光に包まれている。
安っぽいコートは北風を防ぎきれず、全身を凍結させないよう、私は小刻みに震えていた。

( ゚д゚)(丁度、夕飯時か……)

マンションに着くには、電車を降りてから15分程歩かなければならない。
バスを使うという手もあるのだが、足腰の弱まりを危惧してなるべく歩くようにしている。

だが民家から漏れる談笑の声が、窓ガラスを貫通し、私の耳にまで届くのだ。
一人夜道を歩く私にとって、それは酷く羨ましく、自分が物悲しい男の様に感じてしまう。
脳内に浮かべたペニサスに優しく迎えられる妄想で、そんな寂しさを覆い隠していた。

コツコツと革靴を鳴らし、足早に慣れた道を歩き続ける。
すると、ポツンと佇む電灯の下に一人の影があるのを見つけた。




28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/14(日) 16:55:16.35 ID:CFwHm7mm0
フードでその顔を隠してはいるが、小さな背丈から女であると推測した。
よもや不審者ではあるまいかと心配しつつ横を通り過ぎようとすると、声が響く。

「あら、未だにそのコート着ていたのね」

ドクンと鳴った心臓の音は、世界中に響き渡った。
高圧的で透き通るその声の主を、私は知っていたからだ。


(;゚д゚)「ど、どうして君が……」

「どうしてって、そりゃあもちろん貴方に会いに来たのよ」

(;゚д゚)「何故、私に……」

声質で見抜いただけではなく、コートの話をしたのも相手を見抜く要因となっていた。
このコートは8年ほど前、当時の妻に誕生日のプレゼントとして貰ったものだ。
それを知っているということは、つまり―――


ξ゚听)ξ「久し振り、ちょっとお話しましょうか」

女のフードの下で待ち受けていたものは、前妻である、ツンの美麗な瞳であった。




30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/14(日) 16:58:24.93 ID:CFwHm7mm0
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・

マンションまでもう二、三分という地点を引き返し、私達は駅の近くにあるファミレスに立ち寄った。
二度と出会うこともないと思っていた前妻と『ファミリー』という名目を背負うのは皮肉なものだ。

ξ゚听)ξ「ドリンクバーって良いわよね、やっぱ、なになにし放題って惹かれるわ」

( ゚д゚)「ああ、そうだな……」

コーヒーを喉に通したものの、唯の温水なのではないかと疑うほど味気無かった。
混乱の治まらない脳は、疑問を浮かび続けるだけで、何の機能も果たさない。


ξ゚听)ξ「……怒ってる?」

( ゚д゚)「怒ってはいない、が、戸惑いは隠せない」

ξ゚听)ξ「そりゃあそうよね……まずは突然ごめんなさいと謝るわ」

軽く頭を下げるだけの態度は、常人なら『それだけなのか』と憤慨するかもしれない。
しかし、ツンのプライドが異常に高い事を知っている私には、特に気になるものではなかった。





31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/14(日) 17:00:07.14 ID:CFwHm7mm0
ξ゚听)ξ「七年振り……かしらね」

( ゚д゚)「そうなるだろうな」

ξ゚听)ξ「貴方は七年経っても、ちっとも変わらないわ」

( ゚д゚)「君だってそうだ」

ツンの言葉は世辞かもしればいが、私の言葉は真実だった。
七年の月日を感じさせず、尚も美しいその姿に私の心は揺さぶられている。
唯でさえ未練を感じていた体は、彼女を抱きしめたいと訴えていた。


ξ゚听)ξ「ホント、変わらないわ……」

俯くツンは、恐らく当時の事を思い返しているのだろう。
私も同じく思い出を振り返ってみるが、どうしてもあの日の事を第一に考えてしまう。

( ゚д゚)「何故、今更、私の前に現れた」

だから、強気な言葉で彼女に問いかけてしまうのだ。




32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/14(日) 17:02:29.28 ID:CFwHm7mm0
ξ゚听)ξ「……一つは、謝罪の言葉を言いにきたのよ」

( ゚д゚)「何故掘り返そうとする、君と私は終わった関係にあるはずだ。
     謝られるよりも、触れずに生きて貰えた方が助かったのだが」

ξ゚听)ξ「それは……分かっていたわ」


離婚は、彼女から切り出されたものだった。

七年前、何の前触れもなく、唐突に突き出された離婚届に私は目を疑った。
彼女に理由を問いただしてみれば、外国で一人、仕事に専念したいのだという。

一時住まいを離れ、別々の国に長年住むという形も、納得出来ないと。
何事もきっちり整然と済ます彼女らしいと言えば彼女らしい。

最初は抵抗してみたものの、ツンの決心が揺らぐ筈がないということも分かっていた。
ツンは何よりも自分の信念を貫く性質で、私は他でもなくそこに惚れこんでいたのだから。
私は愛するが故に、彼女の決断を認め、離婚届に印を押した。

共に外国に行くという考えはなかった。
私にだって男として仕事に専念したいという欲があった。

言ってしまえば、私達は性格の不一致を起因として離婚することになったのだろう。




33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/14(日) 17:04:09.96 ID:CFwHm7mm0
もっとも、やはりツンの我儘でその結果に陥ったという考えは拭えなかった。
夫婦共働きですら満足できず、自分のやりたいことを貫いた彼女に憤りを感じる時もあった。

だが、彼女を愛する想いは、それでも存在し続けた。
交わることのない相反する気持ちを抱え込んだ私は苦悩した。

その様な黒いモヤを心に抱え込んでいた私を、救ってくれたのがペニサスである。
慰めて欲しい時は傍にいてくれたし、一人になりたい時は何も言わずに見守っていてくれた。
ツンへの気持ちを失くすことは無かったが、忘却の彼方へと置き去りにする事が出来たのだ。


ξ゚听)ξ「じゃあ、もう一つの話に入るわよ」

( ゚д゚)「ああ、一体何なんだ」

だが、今日という日に、その気持ちは再び顔を覗かせた。
ツン自身が姿を現したのだから、蘇るのも無理はない。





36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/14(日) 17:06:48.50 ID:CFwHm7mm0
ξ゚听)ξ「私達……やり直さない?」

そして、私の心を今一度掻き乱す。
怪物に姿を変え、心臓を破裂させようと暴れ回っている。

他の客の話し声や、ウェイターが忙しく歩き回る音がやけに耳に響いていた。
私とツンの間に流れる沈黙はその場には浮いていたことだろう。
一瞬で乾いてしまった喉を潤そうと、私は口中の唾をかき集め飲み込んだ。


(;゚д゚)「何を馬鹿な事を……私には今、妻がいる」

ξ゚听)ξ「知っているわよ、だからあそこで待ち伏せしていたんじゃない。
      私と住んでいた時の家よりはちょっと大きめのマンションね」

(;゚д゚)「そこまで知っていて……何故」

ξ゚听)ξ「日本で生活出来るまでに仕事が上手くいったからよ」

話を理解しきれていない私を置いて、ツンは言葉を綴る。




41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/14(日) 17:09:07.17 ID:CFwHm7mm0
ξ゚听)ξ「私が離婚を提示したのは、一緒に暮らすことが出来ないからって理由だったのよ。
      それが解消されて戻ってこれたんだから、もう一度やり直すことは出来ないか聞くのは当然じゃない?」

(;゚д゚)「結婚や離婚は、中高校生の付き合いとは違うのだぞ」

ξ゚听)ξ「私達の結婚と離婚は、その例外だったってことでしょ?」

(;゚д゚)「先程もいった通り、私には今、妻がいる」

ξ゚听)ξ「そうね、だから私とやり直すことを決断するのは、貴方次第ってこと」


『望むのは』ではなく『決断するのは』とツンは言った。

ああ、そうだった、ツンは私の心を見抜いているのだ。
私の無表情をジョルジュ以前に見抜いていたのは、他でもない彼女だったのだから。

つまり、私が未だ未練を持ち、愛する気持ちさえ捨て切れていないのを、分かって言っているのだ。




43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/14(日) 17:12:12.66 ID:CFwHm7mm0
―――これが、私の人生で最も大きな選択である。

平凡な毎日を歩んでいた私に突如訪れた、奇怪な出来事。

私は言葉にはしなかったが、きっと、ツンと再び歩みたいと望んでいた。
それを現実として目前にした為、様々な感情が入り混じり、言葉を失った。

ツンは考える時間を私にくれるのか、ブラックのコーヒーを堪能していた。
そんな何気ない動作さえも愛しく思えるほど、彼女は美しい。
私にとっての理想の女性とは、紛れもなくツンそのものだった。

ペニサスと結婚した一番の要因を、誰にも言う事は無かった。
ツンの事を忘れたいから、などと言えたものではないのだ。

勿論、ペニサスを愛していない訳ではなかった。
だが、今はっきりと分かっていたのは、私はやはりツンを第一に愛していたのだ。




44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/14(日) 17:13:55.71 ID:CFwHm7mm0
( ゚д゚)「そうだな……分かっているとは思うが、私は君を愛しているよ」

ξ゚听)ξ「知っているわ、私も貴方を愛しているもの」

私は世界一の幸せ者だった。
想い人と心が通じ合う瞬間とは、誰もがそう感じるものである。


( ゚д゚)「君とやり直したいと、幾千回願ったことか」

ξ゚听)ξ「仕事さえ無ければと、悔やむことは私にもあったわ」

( ゚д゚)「だから―――」

これが私の人生最後の転機だ。
残りは黙々と仕事を続け、定年を迎え、老後をゆっくりと過ごすだけだろう。

考えに考え抜いた選択に、悔いはなかった。




46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/14(日) 17:15:28.81 ID:CFwHm7mm0


( ゚д゚)「――私は、今日で君と決別しようと思う」


幾千回願った夢は、既に夢と成り果てていた。
夢とは望むものであり、叶えるものではないというのが私の持論だった。

今日という日は、私の人生で最も大きな選択を迎えた日だった。
そして、私はツンへの未練を断ち切るという選択をしたのだ。


私には、愛よりも大事なものがあった。






49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/14(日) 17:17:29.40 ID:CFwHm7mm0
ξ゚听)ξ「……そう」

( ゚д゚)「済まないな、私が何よりも大事にすべきものは家族なのだ」

ξ゚听)ξ「ふふ、貴方らしくもない言葉ね」

( ゚д゚)「そうでもないさ」

愛し続けた人に別れを告げたというのに、私は驚くほど平然と話せていた。
コーヒーの渋みのある味が、口内に蔓延するのを感じた。


ξ゚听)ξ「やっぱり、貴方は変わっていたみたい」

( ゚д゚)「そうか」

ξ゚听)ξ「ええ、七年前よりもずっと良い男よ」

戯ける様なツンの態度とは裏腹に、瞳は薄らと赤く染まっていた。
滅多に弱みを見せなかった事を思うと、胸がズキリと痛む。





54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/14(日) 17:20:35.02 ID:CFwHm7mm0
ξ゚听)ξ「じゃあ……さよなら」

( ゚д゚)「ああ、さよならだ」

ツンは机にドリンクバー代の代金を置くと、去っていった。
最後の最後まで借りを作らないという信念を貫く姿に、思わず笑みを零しかける。

私の居る席は窓際にあり、そこからツンの背中を追う事が出来た。
彼女の隣に、もしも私がいるとしたらどうなっているのかを想像してみた。
―――その私は幸せで有る筈なのに、これまで以上の無表情を続けていた。


相も変わらず賑わい続ける店内に多いのは、やはり家族連れの客である。
父と母の温かな眼差しは一心に子に向けられていて、確かな愛情というものを感じた。
一家団欒の光景とは、図らずも人の心を和ませてくれるものだ。

やれやれ、すっかり遅くなってしまった。
詫びにケーキでも買っていけば許されるだろうかと考え、一息ついた。




59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/14(日) 17:24:03.89 ID:CFwHm7mm0
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( ゚д゚)「御馳走様でした」

(*゚ー゚)「……ごちそうさま」

('、`*川「はい、ごちそうさまっと」

ペニサスの気合いの入った料理を、私達は余すことなく食べ尽くした。
久方ぶりの3人揃った食卓は、会話こそ少ないものの、触れ合いの大切さを改めて実感させてくれた。


( ゚д゚)「なぁ、ペニサス」

('、`*川「ん、どうしたの?」

( ゚д゚)「まぁ……なんていうか、あれだ、これからもヨロシクな」

やや照れくさい発言を、自ら口走るとは、どうやら私は酷く高揚しているらしい。
いたたまれなくなり、熱くなる耳を感じながらポリポリと頭を掻いた。




62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/14(日) 17:28:07.81 ID:CFwHm7mm0
(*゚ー゚)「……ぷっ」

すると、しぃが堪らずといった様子で噴き出した。
口に手を当て、抑えようとしているが、笑いの波が治まることはない。


(;゚д゚)「む……なんだ」

(*゚ー゚)「あはは、だって凄く恥ずかしそうなんだもん」

('、`*川「うそ? 私はこんな時でも無表情なんだなーって思ってたんだけど」

参った、三人目に出会ってしまった。

こうも立て続けに現れると、私の無表情自体が崩れているのかとすら思う。
勿論、そうであったならば、どんなに嬉しいことか。




64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/14(日) 17:30:43.54 ID:CFwHm7mm0
(*゚ー゚)「じゃあ、お母さん、お父さん、これからも仲良くね!」

一しきり笑った後、しぃはそう言い残し、そそくさと自室へと戻って行ってしまった。

辱めを受けた気分だが、娘の笑顔を見られたのだから安いものだと踏み切るべきか。
思えば私にあの様な笑顔を見せてくれたのは初めての……ん?
初めての―――


( ゚д゚)「……聞いたか、今の」

('、`*川「ええ、だから何とかなるって言ったでしょ?」

( ゚д゚)「そうか……はは、嬉しいものだな……」

想い人と心が通じる瞬間は世界一幸せな時だと考えていた筈なのに。
今この時が、どんな時よりも幸せだと感じてしまうのは何故なのだろうか。

最近は今までの考えを覆させられることが多い。
齢四十近くにして、私は尚も成長し続けている様だ。




68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/14(日) 17:34:10.08 ID:CFwHm7mm0

友人と笑いあえる。
家族と食卓を囲める。
娘に父と呼ばれる。

どれも至って普通だ。
だが、手に入れるのは実に困難だった。

普通でいられることの、どんなに幸せなことか。

だが、これは夢でも何でもない現実なのだ。
私はこの手に幸せを掴み、今確かにそれを感じている。
今までの人生の選択は間違っていなかったと、確信出来る。

私はこれからも、この道の延長線上を歩み続けたい。
まだまだ数えきれない試練が待ち構えているだろうが、この道を。





70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2008/12/14(日) 17:36:31.01 ID:CFwHm7mm0
( ゚д゚)「風呂に入ってくるよ」

('、`*川「行ってらっしゃい」

今はゆったりとこの幸せを満喫しよう。



だから、例え年端も弁えず、

風呂場で鼻歌を口ずさんだとしても、

誰にも文句は言われない筈だ。




( ゚д゚)普通なようです   おしまい



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