(‘_L’)『LINDA』のようです
5 名前: ◆.czB0mKJbA :2009/08/25(火) 21:49:04.01 ID:G/dVQQq+O
――――――

从 ゚∀从「ぅあ〜〜〜〜〜〜〜〜〜」

体の中の空気を重そうに吐き出しながら、その男はうだるような声を出した。

从 ゚∀从「っちぃ〜〜〜〜〜〜〜……」

均整のとれた顔にうっすらと汗がにじんでいる。
まぶたも軽く下がっているその表情からすると、相当夏の暑さに参っているようだ。

男はTシャツにジーンズという涼しげな格好であった。
ただし肩の辺りまで伸びた金髪。それのせいで暑さがより鬱陶しいモノに感じているのかもしれない。

男はとある街の裏路地を歩いていた。
今の時刻は昼半ばだというのに、周りはまるで夜明け前かと思わせる程に薄暗い。

光の射し込まないここですら、これほどに暑いのだ。
お天道様の下に出れば人体発火してしまうのではないか、と男は思う。

やがて男は一つの寂れた建物の前に立つ。
鉄筋コンクリートで作られたそれを少し見上げながら、男は端に備え付けられた階段を上る。
10段+10段の『く』の字の階段を登りきった先にあった、錆び付いたドアを乱暴に押し開いた。

从 ゚∀从「駄目だ。アホみてぇにあちい。つーかアホだろ糞太陽」

中は殺風景な空間が広がっていた。
灰色の壁の至るところには亀裂が走っており、思わず一種の前衛的なアートか何かではないかと錯覚する。




6 名前: ◆.czB0mKJbA :2009/08/25(火) 21:52:12.99 ID:G/dVQQq+O
部屋には雑多な、一見ゴミくずのようなモノが転がっている。
ドアを開いた場所から見て左側にガラスのない窓があり、右奥にもう一つドアがあった。

そして部屋の中央には、どこかのゴミ捨て場から拾ってきたのだろうか、
ボロボロのソファーがあり、そしてそのソファーにひとりの男が座っていた。

男は座っていても充分に見分けがつくほどの高身長であり、しかしその反面、頬が痩けて見える程に細かった。
夏だというのに男はスーツを着こなしている。
そのスーツは皺まみれ、誇りまみれと凄惨なモノであったが、不思議と男に似合っていた。

その男の手には何やら小さい紙切れが一枚、握られている。

部屋に入ってきた男は座っていた男に近寄りながら、声をかけた。

从 ゚∀从「なぁ、フィレ。なんでこんなに太陽のアホはオレ達にケンカ売ってきてんのかな?」

(‘_L’)「とうとう太陽にまで暴言ですか、ハイン? 貴方の悪口も日に日にレベルアップしてますね。
      それが何であれ向上するというのは良いことです、……多分...ね」

フィレ、と呼ばれる男は、語尾を少し溜めてから吐き出すようにして伸ばすという特徴的な話し方をしていた。

ハインと呼ばれた男は眉を寄せながら言葉を返す。

从 ゚∀从「バカにされてんのか褒められてんのか……。いや間違いなくバカにされてんな。
     取りあえず土下座してみようぜ。そしてその後オレと一緒にシベリア公園の噴水にダイブしに行こうぜ」

フィレは手に持っていた紙切れをハインに見せびらかすかのように、ひらひらと空を泳がせる。

(‘_L’)「どちらも嫌です。あとバカにしてません、持論で...す」




7 名前: ◆.czB0mKJbA :2009/08/25(火) 21:55:01.67 ID:G/dVQQq+O
ひらひら。

从 ゚∀从「テメーの持論はどうでもいいから行こうぜ噴水。そして夏の醍醐味って奴を味わおうぜー」

ひらひら。

(‘_L’)「嫌と言っているでしょうに。貴方は羞恥心というものが無いのです...か?」

ひらひら。

从 ゚∀从「バッカ、一人なら『コイツなにやってんの……』って冷めた目で見られるけど、
     二人なら『ああ、夏だな』ってカンジでむしろ暖かな目で見られるよ。
     ホラ、あれだよ。『赤信号みんなで渡れば怖くない』」

ひらひら〜。

(‘_L’)「他人に引かれるのも車に轢かれるのも私は御免です...よ」

从 ゚∀从「んだよーノリ悪りぃなー」

ひらひら〜。ひらひら〜。

从 ゚∀从「……ってさっきから何をヒラヒラさせてんだ?」

ぴた。

(‘_L’)「ようやく触れましたか。遅いですよ、あれほどこれ見よがしに見せつけていたの...に」

少し呆れたような顔をするフィレは、ハインにその紙切れを差し出した。




8 名前: ◆.czB0mKJbA :2009/08/25(火) 21:58:02.28 ID:G/dVQQq+O
从 ゚∀从「んー何だこりゃ?」

それを受け取り、太陽に透かすかのように両手で上に向けて広げ、じっくりと見てみた。

そしてハインは紙切れの正体を予測する。
その推理が合っているかどうかを、彼の目の前で微笑を浮かべながら座っているフィレに聞いてみた。


从 ゚∀从「これ、宝くじか?」





――この話は、光を慕わず闇を空気として過ごす者達の日常を記した物語である。



【 (‘_L’)『LINDA』のようです 】


――――――――――――




9 名前: ◆.czB0mKJbA :2009/08/25(火) 22:01:01.13 ID:G/dVQQq+O
――綺麗なバラにはトゲがある

とは、ちょっと違うのだけれど。


この世のあらゆるモノには表と裏がある。

それは掌と甲だったり。
テスト用紙と落書き帳だったり。
野口英世と富士山だったり。
まあ、そんな感じで。


そして数多の老若男女が入り乱れる街、『VIP街』にも『裏』が存在する。

その『裏』というところはとても暗く、
『VIP街』を恋人や友人、家族と笑いながら闊歩するような彼等は決して踏み入る事が出来ない場所。

そこに住むのは言わば『欠落者』。
お金だったり、家族だったり、社会的地位だったり、或いは思考だったり。
それらを、またはそれ以外の何かを無くした者達。

そんな過去にキズを持つ彼等はここで第二の人生を始める。
ここでは誰も人の過去について深く触れようとしない。なぜなら自分も触れられたくないから。


『裏VIP街』――。


絶望の果てに見えた彼等の安息の場所が、この街だ。




10 名前: ◆.czB0mKJbA :2009/08/25(火) 22:04:23.76 ID:G/dVQQq+O
物語は冒頭に戻る。


ハインの戸惑いを含んだ問いかけに、フィレは満足げに頷きを返す。

(‘_L’)「ええ、一枚だけですが先程拾いまし...た」

それを聞いたハインの顔は、呆れの色を見せていた。

从 ゚∀从「あー? まさかお前こんな一枚ポッチで当たるかもーとか思ってんの?」

(‘_L’)「おや、可能性はゼロではありません...よ?」

穏やかに笑みを浮かべるフィレ。ワクワクしているようだ。
たかだか宝くじ一枚でここまで浮かれる奴もいないだろう。当然ハインもそう考える。

从 ゚∀从「ムリムリ。いくらお前が強運だからってそんなホイホイと当たるかよ」

フィレはハインに向けて左手の人差し指を立て、二、三回横に振る。

(‘_L’)「夢がないですねぇ。リアリズムなんて面白みがありません。若いうちはもっとロマンを追いかけない...と」

从 ゚∀从「年寄りくせえ事言ってんじゃねぇ。テメーまだ20代だろ、ギリギリ」

(‘_L’)「ギリギリではありません。あと四年と二ヶ月ほどは20代で...す」

从 ゚∀从「四捨五入したら30じゃん」

やれやれ、といった様子でハインは胸ポケットから煙草を取り出し、慣れた手つきで火を着けた。
フィルターに口をつけ、吸い込む。煙草の着火点がジリ、と少し短くなる。




11 名前: ◆.czB0mKJbA :2009/08/25(火) 22:08:24.01 ID:G/dVQQq+O
そんなハインの姿を見て、フィレは顎に左手を置いて口を開いた。

(‘_L’)「そういう貴方は確か、私の記憶によると10代だったと思うのですが。ギリギリ...で」

その言葉に顔をしかめるハイン。肺に溜めた煙を天井に届けと吹きつける。

从 ゚∀从「……四捨五入したら20だよ」

(‘_L’)「便利ですねぇ四捨五入...は」

うんうんと頷いている。皮肉ではなく、本当に便利だと思っているようだ。

从 ゚∀从「何でもいいよ。いいから水浴び行こうぜ」

(‘_L’)「だから私は行きませんよ。そんなに一人が嫌なら奥にいる二人を誘えばいいでしょ...う」

フィレはクイ、と親指を奥のドアへと指し示す。
ハインは指されたドアの方を見て、露骨に嫌そうな顔をした。

从 ゚∀从「アイツらはなぁー……。どうせ誘っても来なそうだしなぁ」

(‘_L’)「何故私なら承諾するだろうと思ったのかは謎ですが……、まあ聞くだけ聞いてみればいいでしょ...う」

从 ゚∀从「聞くだけ、な。結果は見えてっけど」

ハインはフィレの目の前を通り過ぎ、かったるそうにドアへ向かう。そしてドアの前に立つと乱雑に蹴り開けた。

こちらの部屋の中も様々な雑貨で溢れていた。
ただし、フィレがいた部屋とは違い、こちらの雑貨には一種の共通点がある。
それはほとんどが何らかの金属、機械であるという点だ。




12 名前: ◆.czB0mKJbA :2009/08/25(火) 22:11:29.08 ID:G/dVQQq+O
从 ゚∀从「うぉーいクズども。泳ぎに行くぞ、噴水まで」

( ^ω^)「お!?」

(-@∀@)「……よく判らないんだけど」

そして部屋の中央には、ノートパソコンを前に置いた二人の少年が座っていた。

一人は中高生くらいの少年。よく言えば体格のいい、悪くいえば肥満体に見える体つき。
その顔は笑っているが、別段嬉しい事があった訳ではなく、それが彼の平常の表情であるのだ。
ともあれその顔のお陰で優しく、人懐っこい印象を受ける。

そしてもう一人は小学校中学年生ほどに見える少年。
先程の少年とは真逆の、細い体をしており、その肌は驚くほど白い。
また目には、いわゆる『ビン底メガネ』なるものをかけていた。
しかし身に纏う雰囲気は、推測される年齢よりもずっと落ち着いた印象を受ける。

その二人の少年はぽかんと口を開けてハインを見ていた。
急に大きな音を立ててドアが開いたのだ。見ない訳が、驚かない訳がない。

その二人の表情に満足がいったのか、ケラケラと笑いながらハインは言葉を放つ。

从 ゚∀从「シベリア公園の噴水だ、アサピー」

アサピーと呼ばれたメガネの少年は、ムッとした表情になり反論する。

(-@∀@)「いや場所じゃなくて意味なんだけど。噴水?」

从 ゚∀从「噴水だよ。水が溜まってんだから泳げんだろ?」




13 名前: ◆.czB0mKJbA :2009/08/25(火) 22:15:01.36 ID:G/dVQQq+O
ハインのその考え方に溜め息をつくアサピー。「ダメだこいつ」といったような目をしている。
……ビン底メガネのせいで彼の目は見れないが、そのような目をしているであろうオーラを放っている。

(-@∀@)「その発想はどうかと思うんだけど」

从 ゚∀从「アッタマ堅ぇな。噴水で泳いじゃ駄目なんて誰が決めたんだよ」

ケラケラと笑い続けるハインを見て、アサピーは二度目の溜め息をついた。

(;^ω^)「つーか大抵の公園は噴水で泳ぐの禁止されてると思うお」

从 ゚∀从「ナイトー、ルールとは破る為にある。そんな事を誰かから聞いたことは無いか?」

太った方の少年――ナイトーは頭の上に?マークが浮かんでいるのが見えそうな程に困惑する。

(;^ω^)「な、無い、お?」

从 ー∀从「そうか。じゃあ俺が今言ったから覚えとけ。重要な格言だ」

(;^ω^)「いや、それはどうだろお?」

自信満々に語るハインだが、どこかが決定的に間違っているのかはナイトーにも判るようだ。

从 ゚∀从「あーもーこまけぇこたぁいいんだよ。オラ行くのか行かねえのかサッサと言いやがれっ!」

(-@∀@)^ω^)「行かない(お)」

アイコンタクトも無しにピッタリと息を揃える二人。
仲がいい、というよりハインの提案が余程酷いからこそのシンクロなのだろう。




15 名前: ◆.czB0mKJbA :2009/08/25(火) 22:18:21.85 ID:G/dVQQq+O
兎にも角にも、その見事なハーモニーはハインの低い沸点を楽々越えていった。

从#゚∀从「テメーラ俺を小馬鹿にしてんのかこのモヤシ豚がっ!」

(;^ω^)「モ、モヤシ豚? なんだお、その息も絶え絶えそうな豚は?」

(-@∀@)「多分ボクがモヤシでナイトーが豚なんだと思うんだけど」

从 ゚∀从「テメェラまだまだガキなんだからもっと体を動かしやがれ。そんなんだからチビデブハゲなんだ」

(;^ω^)「いや、フサフサだお?」

ナイトーは自分の頭に手を置いて毛がある事をアピールした。
綺麗に整備された若い芝のような感触に、一応安心しておく。

从 ゚∀从「せめてその青白い肌をどうにかしろ! もっと太陽に恋い焦がれろよ!」

効果音が鳴りそうなくらいに勢いよくハインはアサピーに指を差す。
それを受け、アサピーは胸の前で両腕をクロスさせて『×』を作った。

(-@∀@)「何言ってんの。ボクが日光を浴びれないの知ってると思うんだけど?」

アサピーは生まれつき肌が弱く、紫外線に当たると皮膚が炎症を起こしてしまうのだった。
故にアサピーはここ数年、外を出歩くという行為をしていない。

从 ゚∀从「このなんちゃって吸血鬼が……。そんなんだからお前はいつまで経ってもアサピーなんだ」

(-@∀@)「好き好んで言われてる訳じゃ無いんだけど」

从 ゚∀从「ちぃ! ヘリクツ小僧が! おいナイトー!」




16 名前: ◆.czB0mKJbA :2009/08/25(火) 22:21:08.69 ID:G/dVQQq+O
これ以上アサピーを勧誘しても無駄だと悟ったハインは、ナイトーにターゲットを絞り込む。

从 ゚∀从「テメエは健康体だろうが体脂肪率以外は!」

( ^ω^)「いや、噴水は無理だお? お巡りさん呼ばれるお」

从 ゚∀从「んなもん来たら逃げりゃいいだろーが」

(;^ω^)「無理だお! ハインは足速いから逃げれるかもしれないけど僕は遅いお!」

从 ゚∀从「ふむ。ちょい立ってみナイトー」

素直に立ち上がるナイトーをハインはマジマジと見てみる。
身長はややナイトーの方が高いが、そう違いは無い。
だが横幅が違う。かなり違う。1.5倍くらい違う。

从 ゚∀从「んーこのぶよぶよボディじゃあなー。ちなみに50m走はどのくらいで?」

( ^ω^)「50m?」

『50m』という単語にナイトーは首をひねる。
が、そのすぐ後に満面の笑みで言い切った。

(*^ω^)「そんな長い距離走れるわけ無いお!」

从#゚∀从「何で嬉しそうに答えてんだキャッチャー体質!」

( ゚ω゚)「へぶう!」




17 名前: ◆.czB0mKJbA :2009/08/25(火) 22:24:14.49 ID:G/dVQQq+O
『ししおどし』に似た小気味よい音が部屋中に響き渡る。
ナイトーの額にハインの会心のかかと落としが突き刺さった事によって発生した音だ。
赤くなった額を両手で抑えながら、ナイトーはさめざめと泣く。

( ;ω;)「おーん痛いおー。何するんだおハインのあほー」

从 ゚∀从「まあまあ泣くなよ。捕まってもいいじゃん。ムショの中はエアコン利いてて涼しいぞー」

( ;ω;)「やだおー、お巡りさん怖いおー、怒られたくないおー」

ブンブンと頭を振って否定を表す。涙と鼻水が辺りに飛び散り、近くにいたアサピーの腰を浮かした。

从 ゚∀从「相変わらずのヘタレめ。ちっ、いーよ、ハナっからテメェラが頷くとは思ってねーよ」

(-@∀@)「じゃあ聞かなければいいんだけど」

从 ゚∀从「うっせーうっせー」

再びドアが爆音を立てて閉められた。完全に二人を誘うのを諦めたハインが部屋から出て行ったのだ。

後に残るのは、やはり最初と同じくぽかんと口を開けて呆然としているアサピーとナイトーの二人。
ただし違う点もある。ナイトーが泣いているというところだ。

( ;ω;)「うう、結局ハインは何しに来たんだお」

アサピーは疑問を口にするナイトーの顔を見る。その額は未だ赤く腫れているのを見て取ると、

(-@∀@)「……ナイトー蹴りに来たんじゃない?」

としか、彼には思えなかった。




19 名前: ◆.czB0mKJbA :2009/08/25(火) 22:27:13.19 ID:G/dVQQq+O
ハインはフィレのいた部屋へと戻る。
フィレはソファーに座ったまま本を読んでいた。

从 ゚∀从「ダメだったー」

(‘_L’)「知っています。貴方の叫び声がこちらまで届いていましたか...ら」

本を閉じ、ハインの顔を見る。どうやら声に邪魔されてあまり読めなかったようだ。
ハインはそんな事はつゆ知らず、といった風に愚痴り始める。

从 ゚∀从「ったく、つまんねー野郎どもめ」

(‘_L’)「済みませんね、詰まらなく...て。ところでハイン」

フィレは本をソファーの上に放り、両膝に手を当て静かに立ち上がった。

(‘_L’)「暇なら私と一緒に出掛けません...か?」

そして右手を軽く差し出し、ハインに返答を求める。

从 ゚∀从「え、何処に? 噴水?」

(‘_L’)「違います。ペニサスさんのところです...よ」

ハインは『ペニサスさん』というキーワードに疑問符を浮かべる。

从 ゚∀从「んあ? もう行くの? まだちょい早くね?」

どうやら彼が疑問を感じたのは、『まだ定刻ではない』という理由からだったようだ。




20 名前: ◆.czB0mKJbA :2009/08/25(火) 22:29:50.52 ID:G/dVQQq+O
(‘_L’)「まあ、ペニサスさんとちょっとお話したい事もありますの...で」

从 ゚∀从「ふーん。ま、いっか。んじゃ行くか」

(‘_L’)「ええ、行きましょ...う」

二人は外へと続くドアへと向かう。
夏の太陽。その光は届かぬものの、その存在は温度という媒体を通して主張されていた。





('、 `*川「……はぁ」

『裏街』のとある一角に、小さな果物屋が存在していた。
色とりどりの新鮮な果物。その中に埋もれるようにして、椅子に座っている女性がいた。
彼女の名はペニサス。この店のオーナーであり、唯一の店員だ。

年は20代後半辺りか。
淡いクリーム色のエプロン姿で両袖を捲っており、セミロングの黒髪はゴムで一つに纏め上げている。
その見た目から快活な女性という印象を与えるが、今の彼女は沈んだ表情で、時折溜め息をついていた。

そんな彼女が経営する店に、二人の男がやってきた。

(‘_L’)「どうも、今日は、ペニサスさ...ん」

从 ゚∀从「うーす。コンニチハ」

フィレとハインの二人だ。フィレは軽くお辞儀を、ハインは右腕を上げてそれぞれ挨拶をする。




21 名前: ◆.czB0mKJbA :2009/08/25(火) 22:33:15.54 ID:G/dVQQq+O
('、 `*川「あら、こんにちは」

そんな二人をペニサスは笑顔で出迎えた。
腰を上げ、二人の前まで歩いて、肘を反対の手で包み込むように腕をクロスさせてその場に立つ。

('、 `*川「今日はいつもよりちょっと早いわね。どうかした?」

从 ゚∀从「いやあ、悪いね。フィレの奴が美しいペニサスさんとお話したいって、うるさくてね」

(‘_L’)「そこまで言ってませんよ。まあ、お美しいというのは間違えていません...が」

('、 `*川「あらやだ、おだてたって残り物の数は増えないわよ?」

フィレ達とペニサスは以前から交流があった。
ペニサスは店で出た廃棄の果物をフィレ達に無料で提供してくれていたのだ。
以前はその日の食料にも困窮していたフィレ達にとって、それはまさに女神様からの贈り物、といったところだった。

从 ゚∀从「ちぇっ、増えないのかー。そいつぁ残念だ」

('、 `*川「うふふっ、お調子者なんだから」

(‘_L’)「……」

笑顔で、一見いつもと変わらない笑顔で彼等に接するペニサス。
ただ、フィレはその彼女の笑顔に影が潜み込んでいる事に気付いていた。

(‘_L’)「……さて、時間に余裕もある事ですし、折角なんで少しお話しましょうか。
      もちろん、ペニサスさんの仕事の邪魔にならない程度にです...が」

('、 `*川「あらら、気にしなくていいわよ? どうせお客なんてめったに来ないんだから」




22 名前: ◆.czB0mKJbA :2009/08/25(火) 22:36:26.49 ID:G/dVQQq+O
从 ゚∀从「オイオイ、店主がそんな事言ってていいのかい?」

('、 `*川「いいのよ、事実なんだから」

(‘_L’)「ふむ。しかしですねペニサスさ...ん」

フィレは言葉に溜めを作り、発言を強調させる。

(‘_L’)「大勢で押し掛けてくる程では無いにしろ、このお店には常連さんがそこそこいたでしょ...う?」

('、 `*川「え? ん、まあ、ね」

ペニサスはとっさに答えるものの、どうにも歯切れが悪い。
フィレはそんな彼女のふとした違和感を見逃さない。

(‘_L’)「しかし……どうも最近はその常連さんの数が減ってきていません...か?」

从 ゚∀从「え?」

('、 `*川「……」

ぽかんとするハイン。対してペニサスの顔に曇りが見える。

(‘_L’)「私はほぼ毎日此処へ来ますから、ここの常連さんたちの顔も結構な数、
      覚えているんですよ。しかし、近頃彼らの姿をあまり見かけな...い」

フィレの口調はもはや世間話のそれではなく、演説するような――相手を説得するようなモノへと変化していた。

(‘_L’)「それに私たちがペニサスさんのご好意で戴いている、余り物の果物ですが、この頃は量が多いですよ...ね」




23 名前: ◆.czB0mKJbA :2009/08/25(火) 22:39:01.25 ID:G/dVQQq+O
从 ゚∀从「あ、そういえば……。や、でも増えたっつっても、ほんのチョットだぜ。
     あんぐらいならそんな大差ないんじゃね?」

(‘_L’)「アレが廃棄の全てであるなら問題ないでしょうね。でもペニサスさ...ん」

フィレは体をペニサスの正面に向ける。彼女は軽く目を伏せていた。

(‘_L’)「これは私の勝手な想像ですが、実際はまだ余り物が残っているんじゃないですか? 
      私たちが戴いている量よりも遥かに多くの果物が、売れずに残ってしまっているので...は?」

('、 `*川「……」

ペニサスは何も言わない。ただ、腕を抱く力が増したように見える。

(‘_L’)「無神経な物言いで申し訳ありません。でも、私は是非ペニサスさんの口から真相をお聞きした...い」

少しの閑静。フィレとハインの視線が一点へと集まる。
その後、今まで閉ざされていたペニサスの口が、ゆっくりと開いて――


('、 `*川「――いやねえ、フィレ君。そんなの思い過ごしよ。私も、この店も、何の問題も無いわ」


笑って、言った。強く、言い聞かせるように。


('、 `*川「はい、これ今日の分ね。二人だけで持って行っちゃわないで、
     ちゃんとナイトー君とアサピー君と四人で分けるのよ?
     あ、でもナイトー君はチョット多めの方がいいかしらね?」




24 名前: ◆.czB0mKJbA :2009/08/25(火) 22:42:26.00 ID:G/dVQQq+O
ペニサスは二人を残して店の奥へと進み、廃棄処分された果物が入ったダンボールを抱えて戻ってきた。
そしてそれを押し付けるようにハインに手渡す。

从;゚∀从「お、わ、わっとと」

いきなり大荷物を渡されたハインは、バランスを崩して転げそうになるのをすんでのところで耐える。

('、 `*川「それじゃあ私、仕事が残っているから。また明日ね」

そして二人が何か言う間もなく、ペニサスは手を振りながら足早に再び店の奥へと入っていった。

从;゚∀从「あ、ちょ、ペニサスさん!」

一連の流れに呆気にとられていたハインだが、ようやく気を取り直してペニサスの名を呼ぶ。

しかし返事は無い。
ハインは少し迷ったが、店の奥へと足を踏み入れようとした。

(‘_L’)「ハイン、帰ります...よ」

だが、その足はフィレに肩を掴まれる事により止められる。

从 ゚∀从「は? いや、お前……」

振り向きフィレを見る。しかし彼は既に踵を返し帰路へと着こうとしていた。
ハインは店とフィレを交互に見比べるが、

从#゚∀从「あーもう! つーか俺にだけ荷物を持たせてんじゃねえ!」

ガタゴトと箱の中の果物をごった返しにしながら、小走りでフィレの後を追いかけた。




25 名前: ◆.czB0mKJbA :2009/08/25(火) 22:46:41.82 ID:G/dVQQq+O
フィレに追いついたハインは彼の左隣に並び声をかける。

从 ゚∀从「おい、フィレ!」

(‘_L’)「何ですかハイン。痛いので耳元で大声をあげないで下さ...い」

ハインの荒々しい声にフィレは顔を歪め、手で左耳の辺りを覆い隠すようなポーズをとった。
だけどもハインはお構いなしに声を張り上げる。

从 ゚∀从「よかったのかよ、ペニサスさんを放っておいて! ありゃ絶対訳ありだぜ!?」

やれやれ、と口に出さなくても聞こえてきそうな程の顔をしつつ、フィレは静かに返答する。

(‘_L’)「だからですよ。さっさと帰ってナイトーとアサピーに知らせます...よ」

从 ゚∀从「! それって、よーするにっ……!」

ハインの目に活力が宿る。
フィレはそんなハインにウィンクをして彼の期待を肯定した。


(‘_L’)「我等、『チーム“ドブネズミ”』、始動しま...す」



二人は元居た建物へと戻り、ナイトーとアサピーに事の顛末を説明する。

( ^ω^)「そんな……、ペニサスさんの店がかお……」

詳細を聞いたナイトーの顔に驚愕と焦燥の色が写った。




26 名前: ◆.czB0mKJbA :2009/08/25(火) 22:50:57.98 ID:G/dVQQq+O
(‘_L’)「十中八九、間違いないです。だから私たちでそれを阻止します...よ」

フィレはアサピーの方を見る。

(‘_L’)「アサピー、まずはペニサスさんの店がなぜ衰廃してきているのか、理由を調べてみて下さ...い」

(-@∀@)「もう既に調べ始めているんだけど」

その言葉の通り、アサピーは既にノートパソコンに向かって打ち込みを行っていた。

(‘_L’)「流石、話が早...い」

しばらくの間、室内にアサピーが奏でる無機質な連音が鳴り続いた。


そして、およそ10分後。

(-@∀@)「……うん、よし。大体のことは判ったんだけど」

从 ゚∀从「お、早えぇな」

(-@∀@)「ふふん、ボクを甘く見ないで欲しいんだけど」

鼻を高くするアサピー。自分の得意分野を遺憾なく発揮できる状況に、彼の気分も高揚しているのだろう。

(-@∀@)「で、理由なんだけど、どうやら『杉浦組』が関係しているみたいなんだけど」

『杉浦組』という言葉にハインは腕を組み、頭を傾ける。

从 ゚∀从「杉浦組? 聞かねえ名前だな」




27 名前: ◆.czB0mKJbA :2009/08/25(火) 22:54:35.77 ID:G/dVQQq+O
(-@∀@)「最近になって『外』からやってきたチンピラ上がりのヤクザたちだね。
      組長代理の杉浦ロマネスクを先頭に、少数ながらも組員全員が血の気の多くて、
      今かなりの勢いを持っている組らしいんだけど」

この場合の『外』とは、『裏VIP街』以外の場所を指す。

今度はナイトーが『ヤクザ』という言葉に反応した。

(;^ω^)「ヤ、ヤクザさんたちかお。恐ろしいお」

プルプルと震えるナイトー。その姿はさしずめ土佐犬を前にしたチワワといったところか。

从 ゚∀从「『外』の人間かよ。ま、勢いがあるっつっても
     所詮は無名で少数の組だろ? 問題ねえよ、そいつらは」

鼻を鳴らすハインに、フィレも同意する。

(‘_L’)「そうですね。真に恐るるべきは……、まあこれはいいでしょ...う」

从 ゚∀从「で、その杉浦組は具体的に何してくれてんだよ?」

ハインの問いにアサピーはメガネのズレを直しつつ答える。

(-@∀@)「醜聞の流布」

( ^ω^)「へ? 『しゅうぶん』? まだ秋と言うにはちょっと早いお」

(-@∀@)「それは秋分だけど。醜聞ってのは悪い噂の事。
      要するに杉浦組はあること無いこと言いふらしてペニサスさんの店の評判を落としているんだけど」




28 名前: ◆.czB0mKJbA :2009/08/25(火) 22:57:27.61 ID:G/dVQQq+O
从 ゚∀从「過激派を名乗ってる割にはみみっちい事してんなぁ。
     んで? そんな嫌がらせをしといて奴らは何がしたい訳?」

(-@∀@)「どうも、ペニサスさんの店があるあの土地って、なかなかいい場所らしいんだけど。
      立地的に。だから店を潰して奪っちゃおう、と」

ハインは姿の見えぬ杉浦組を蔑むかのような、擦れた笑顔を見せる。

从 ゚∀从「みみっちい上に下らねえワガママかよ。
     ま、それ位判りやすく悪者してくれたら、こっちも助かるってもんだな。遠慮なくブッ潰せる」

(;^ω^)「おー、ここはもっと地味にー。具体的に言えば話し合いで平和的に解決おー……」

そこに色々と腰が引けているナイトーが提案を出す。
彼としては、バイオレンスな事態が無ければそれに越したことはないという考えらしい。

从 ゚∀从「そんなん聞くようなタマかよ。暴力的に行くぜ」

しかしハインはそんなナイトーの願いを軽く一蹴する。

(;^ω^)「ムリムリムリムリ! 相手はヤクザさんだお!? 下手したら埋められるお!」

顔を高速で横に反復運動させたかと思いきや、すぐにその顔から血の気が引いていった。
埋められているところでも想像したのだろうか。

(-@∀@)「ナイトー」

そんなトリップ中のナイトーにアサピーは声を掛ける。

(;^ω^)「な、なんだお?」




29 名前: ◆.czB0mKJbA :2009/08/25(火) 23:00:35.12 ID:G/dVQQq+O
アサピーは右手の親指を立て、メガネのレンズを光らせつつ、

(-@∀@)「沈められる可能性もあるんだけど」

右手を180°反転させ、親指を下に向けた。

( ;ω;)「どっちもお断りだおー!」

泣き出すナイトー。
いい仕事をしたと二、三回頷くアサピー。

从#゚∀从「オラオラ逃げ腰になってんじゃねえぞ!
     それともナイトー、テメエはペニサスさんの店がどうなってもいいってーのか?」

涙を流すナイトーに、ハインはグイッと顔を寄せる。

( ;ω;)「うう、それはダメだお。ペニサスさん可哀想だお」

嗚咽を上げながらもナイトーは否定する。
彼も結局はどうにかしないといけないとは思っているようだ。

从#゚∀从「だったらヤることは一つだ! ペニサスさんの周りを
     ウロチョロ飛び回っているハエどもを叩き落とすッ! 判ったかクソダルマ!」

( つω;)「判った、判ったお……。怖いけど僕もがんばるお」

涙を拭いながら自らの意志を吐き出す。
四人の気持ちが一つに揃った。




30 名前: ◆.czB0mKJbA :2009/08/25(火) 23:03:12.28 ID:G/dVQQq+O
(‘_L’)「決まりですね。目的は杉浦組の殲滅」

フィレが声を強めて、残り三人の注目を集める。

そして、宣言する。

(‘_L’)「チーム“ドブネズミ”の名の下に、ペニサスさんの店を護りましょ...う」

その言葉は三人に、そしてフィレ自身にも力を与える。
今この瞬間、四つの『1』は重なり、『4』となる。

从 ゚∀从「おう、いっちょド派手に行くぜ!」

ハインが掌と拳を合わせて小気味よい音を鳴らす。

(-@∀@)「じゃあボクはもっと細かいことを調べるんだけど」

アサピーは再度ノートパソコンに打ち込みを始める。心なしか、先程よりもその音は軽快だ。

それぞれが目的の為に動き出し、熱が籠もり出す室内。しかし、その中に一人だけ足を踏み出せずにいる者がいた。

(;^ω^)「おー……」

ナイトーだ。彼は乗り気じゃないのか、あたふたと周りを伺いつつ何もせずにまごついている。
そんな彼の様子にハインが気付き、近寄る。

从 ゚∀从「なんだナイトー、まだグダグダしてんのか? 俺の蹴りで気合い注入してやろうか?」

(;^ω^)「いた! 痛い! やめて! 蹴ってる! もう蹴ってるから!
       むしろやる気が削がれていく! いや、そうじゃなくて!」




31 名前: ◆.czB0mKJbA :2009/08/25(火) 23:07:20.61 ID:G/dVQQq+O
从 ゚∀从「あー?」

(;^ω^)「前々から思ってたんだけど、チーム名の“ドブネズミ”ってどういう意味だお?」

そんなナイトーの疑問にフィレが口を開く。

(‘_L’)「ふむ、ナイトーは知りませんか? 『THE BLUE HEARTS』...を」

( ^ω^)「なんだおそれ?」

聞いた事の無い単語だったのか、ナイトーは何の反応も見せない。
フィレは額に左拳を当てて唸る。

(‘_L’)「うーん、まあ今の10代の子は知らないかもしれません...ね」

从 ゚∀从「ハイハイ、俺は知ってるぜ?」

横断歩道を渡る幼児のように、ハインは垂直に右腕を上げてアピールする。

(‘_L’)「貴方は四捨五入すると20代ですか...ら」

从 ゚∀从「まだ引っ張るか!」

軽くあしらうフィレ。相手にされず憤るハイン。

(-@∀@)「ボクも知ってるんだけど」

そして更に割って入るようにアサピーが発言した。

从 ゚∀从「なんでナイトーより年下のお前が知ってんだ?」




33 名前: ◆.czB0mKJbA :2009/08/25(火) 23:10:01.97 ID:G/dVQQq+O
ハインは怪訝そうな顔をして問い詰める。だがアサピーはなんて事無いといった風に、

(-@∀@)「ネットで」

返答する。

(‘_L’)「いい世の中になりました...ね」

頷くフィレ。話はよく判らないところに収まろうとしている。

(‘_L’)「さ、疑問も解決したようですし、お喋りも程々にして各自の仕事をこなすとしましょ...う」

(;^ω^)「え? 解決したかお? 一ミリも謎が判明してないような……」

从 ゚∀从「うっせぇ! 察せ! そして散れ! 馬車馬のように働け白豚!」

(;^ω^)「馬か豚か判らんお!」

怒声と悲鳴と溜め息が入り乱れながらも、今度こそ彼等は動き出した。



―――――――――




35 名前: ◆.czB0mKJbA :2009/08/25(火) 23:15:22.01 ID:G/dVQQq+O
場面は変わり、『裏VIP街』のある地点。『裏』の中では数少ない、日光が当たる場所。
そこにスーツを着崩した三人の男が立っていた。
彼等の胸の辺りには金色に光るバッジがある事から、彼等が堅気ではないのが判る。

彼等の様子はまさに三者三様。
一人は苛つきながら携帯を操作している。
一人は携帯の男の様子を微動だにせず見ている。
そして残る一人は、ダルそうに胸元を扇いでいた。

( ФωФ)「……ッチ! 駄目だ繋がらねぇ! 何やってやがんだ、あの野郎共は!」

携帯を操作していた男は、悪態をつきながら発信を切り、乱雑に胸ポケットに入れる。

( ФωФ)「おい、テメエ等はどうだ?」

(・∀ ・)「ダメっす。メールも返ってこないっすね」

男の問いに、まずダルそうにしていた男が口を開き、次に残る一人が言葉を返す。

(´・_ゝ・`)「こっちも返事はないです。発信は繋がる事は繋がっているから、
        電源切ってるとか圏外だとかでは無いようですが」

どちらも答えは『成果ナシ』。男の苛つきはさらに増す。

( ФωФ)「クソが! ここぞって時に使えねえクズ共だ。そろそろ追い込みかけようってのによ!」

出る声も自ずと大きいモノへとなっていた。

と、そんながなり声に返事をする者が現れる。




36 名前: ◆.czB0mKJbA :2009/08/25(火) 23:18:25.69 ID:G/dVQQq+O
「よお、どこに追い込みかけようってんだ?」

( ФωФ)「あん?」

どこからか聞こえた何者かの声に、男は顔を上げた。

从 ゚∀从「よっ」

(‘_L’)「どう...も」

そこにいたのは二人の男――フィレとハインだ。三人組から五メートル程離れた地点に立っている。

( ФωФ)「はあ? 誰だテメエ等? この俺が誰だかわかんねえのか?
       杉浦組の組長である杉浦ロマネスク様を知らないのか?」

杉浦ロマネスクと名乗った男は見知らぬ男に馴れ馴れしく口を聞かれたのが癪に障ったのか、威圧的に問いかける。

(‘_L’)「いえいえ、貴方はは『組長』ではなく『組長代理』ですよ。お間違えな...く」

从 ゚∀从「それに何だ? オメーはもしかして『杉浦組』っていうフレーズが
     相手をビビらせる程のモンを持ってると思ってんの?
     バーカ、そんな無名の組の名前なんざクソの役にも立ちやしねえよ。
     これ以上恥かく前にちゃんとその辺理解しとけよ勘違い君」

しかし二人にとってはなんのその、といったところだ。飄々と挑発を叩き込んでいく。
無論、ここまで言われたロマネスクも黙っていられる筈も無く。

(#ФωФ)「このクソ共が……っ!」

前へと足を踏み出す。




37 名前: ◆.czB0mKJbA :2009/08/25(火) 23:21:07.35 ID:G/dVQQq+O
が、次の瞬間、フィレがポケットに手を突っ込み、何かを取り出してロマネスクの方に投げつけた。

( ФωФ)「あ?」

それは放物線を描いて地面に落下し、クルクルと横回転をしながら滑る。そしてロマネスクの足元付近で止まった。

( ФωФ)「何だ? 携帯?」

その何かとは携帯であった。ピンク色をしており、何らかのマスコットキーホルダーが取り付けられている。

するとロマネスクの後ろにいた二人の内の一人が、驚きの声をあげた。

(・∀ ・;)「あっ! このケータイ! 長岡のじゃないっすか!?」

( ФωФ)「なにぃ?」

声をあげた男は屈み、その投げられた携帯を拾い上げる。

(・∀ ・;)「間違いないっす! ほら、ここに『ジョルジュ』って釘で傷つけたような文字があるでしょう?
       こんな馬鹿な事やらかす奴はアイツ以外にあり得ないっすよ!」

从 ゚∀从「俺等からのプレゼント、気に入ってくれたみたいだな。ほら、まだあるぜ?」

言ってハインも持っていた携帯を投げる。再度フィレも投げつけ、ロマネスクの足元には計五つの携帯が置かれた。
そしてロマネスクには、それらの携帯に見覚えがあった。間違いなく、連絡が取れなくなっていた組員の携帯であろう。

( ФωФ)「オイ、テメエ等。これは一体どういう事だ?」

ロマネスクは先程までたぎらせていた怒りを収め、落ち着きを取り戻す。
目の前の二人組は只者ではないと理解したからだ。




38 名前: ◆.czB0mKJbA :2009/08/25(火) 23:24:38.86 ID:G/dVQQq+O
从 ゚∀从「はっ、言わなきゃ判らんねーか? 俺らがアンタらのお仲間をとっちめた以外に
     何があるんだよ? パンダ顔のオッサン」

質問に対し、ハインは再度挑発で返す。
だが、ロマネスクは憤怒しない。

( ФωФ)「行け。あのクズ共の頭を俺の足元に持って来い」

(・∀ ・)「ウス」

(´・_ゝ・`)「はい」

実に冷静に部下に命令し、フィレとハインを潰しにかかった。
ロマネスクの後ろにいた二人の男が走り寄ってくる。

从 ゚∀从「あらら、鼻息荒くしちゃって」

(・∀ ・#)「オラオラァ! テメエら誰に向いてチョーシこいてんだゴラァ!!!」

怒号を発しながら近付いてくる男達。しかしフィレとハインは呑気に会話を始める。

从 ゚∀从「えーと、コイツはどっちだっけ?」

(‘_L’)「今、近くにいる方は『斉藤またんき』ですね。
      身長174cm体重63kgの21歳。学生時代は柔道部に所属していました」

(・∀ ・)「は――?」

フィレの話が耳に入った彼――またんきは当惑する。
『何故コイツは俺のプロフィールを知っているのだ』、と。




39 名前: ◆.czB0mKJbA :2009/08/25(火) 23:28:39.36 ID:G/dVQQq+O
フィレの言葉はまだ続く。

(‘_L’)「ただしその際に――」

(・∀ ・;)「うお!?」

またんきの足が止まる。
戸惑い、一瞬目標を見失っていた彼の目の前に突如、ハインが躍り出てきたからだ。
ついついまたんきは反射的にブレーキをかけてしまう。

ハインはその隙を逃さなかった。
ハインの長い右足がまたんきの右膝を捉える。

(・∀ ・;)「あがっ……!」

またんきの体が崩れ落ちる。彼の右足は不自然な方向に曲がってしまっていた。

(・∀ ・;)「い、いてえ! いてえよ〜ッッ!!!」

右膝を手で抑えてもがき苦しむまたんき。彼を見下ろしつつハインは口を開いた。

从 ゚∀从「右膝の靱帯を損傷。普通に歩ける程には治ったものの、非常に脆くなってしまった、だな。思い出したぜ」

(‘_L’)「まあ今のだと脆いとか頑丈だとか関係なかったように見えますが...ね」

从 ゚∀从「結果オーライさ。良しとしよう」




40 名前: ◆.czB0mKJbA :2009/08/25(火) 23:31:08.18 ID:G/dVQQq+O
(;´・_ゝ・`)「なっ……!?」

もう一人の男は、すぐ近くまで突っかかって来ていたものの、あっさりと仲間が倒されたが為に躊躇していた。
その間を縫うようにハインがその男を見、言葉を吐き出す。

从 ゚∀从「で、コイツが盛岡デミタス。身長176cmの体重が60kg。同じく21歳。
     好きなものは愛犬のビーグルちゃん(2さい、♀)で、」

(;´・_ゝ・`)「あっ、え?」

(‘_L’)「嫌いなものは、小さい頃に噛まれてトラウマになってしまった――」

自分の事を言い当てられてフリーズするデミタスに向けて、
フィレはポケットから『それ』をつまみ出して投げつけた。
『それ』はふわりと空を舞い、デミタスの顔に貼り付く。

(´・_ゝ・`)「 」

継続して固まるデミタス。

(´・_ゝ・`)「む」

対して『それ』はデミタスの顔を動き回り始め――

(´;_ゝ;`)「ムカデ〜〜〜〜〜ェ!!!!!」

デミタスはこの世のモノとも思えないほどの絶叫を辺りに撒き散らした。




41 名前: ◆.czB0mKJbA :2009/08/25(火) 23:34:01.28 ID:G/dVQQq+O
(‘_L’)「おやおや、あんなに走り回って……。よっぽど苦手なんですね。少し可哀想で...す」

从 ゚∀从「つーかお前ポケットに直でムカデって……。引くわー」

「可哀想」と言いつつ笑うフィレを、ハインはジト目で見ている。
そこに今まで傍観していたロマネスクが一歩前に出る事で、二人の注目を彼に集めさせた。

( ФωФ)「何なんだテメエ等?」

ロマネスクの問いは純粋な疑問。何故またんきとデミタスのプライベート過ぎる弱点を知っているのか。
それの回答として、フィレが苦笑しながら話し出した。

(‘_L’)「いえ、ね。ウチの優秀すぎるブレインが、ですねえ。
      アサピーという少年なんですが、彼は知りたい情報があれば何でもかんでも
      ネット上から拾う事が出来るらしく...て」

从 ゚∀从「つーかこんな個人的すぎる情報までネットに流れてるモンなの?」

(‘_L’)「どうなんでしょう...ね?」

从 ゚∀从「アイツが持ってるノーパソは本当に普通のノーパソなのか?」

(‘_L’)「本人曰く、自作したと言っていましたが、パーツなんてどこから調達したんでしょ...う?」

从 ゚∀从「ネット回線もどうやって引いてんだか」

(‘_L’)「謎ばかりです。まあ私たちはみんな似たようなものです...が」




42 名前: ◆.czB0mKJbA :2009/08/25(火) 23:37:32.33 ID:G/dVQQq+O
話をずらしていくのを得意とする二人は、尚も当てのない会話を続けようとしたが、それをロマネスクが止める。

( ФωФ)「フン、テメエ等。呑気にお喋り出来んのもここまでだ」

从 ゚∀从「おっ、何? 一人で向かって来るかい?」

へらへらと笑うハイン。そんな彼をロマネスクはキツく睨みつける。

( ФωФ)「テメエ等二人ぐらいワケねぇが、何やら奇妙な事やってるみたいだからな。数で押す」

(‘_L’)「数、です...か」

从 ゚∀从「数って、お前のお仲間はそこの二人も合わせて全員漏れなくノしてやったぜ?」

( ФωФ)「ハッ、ヤクザを舐めんなよ、テメエ等」

ロマネスクは口の端を吊り上げる。

( ФωФ)「……そろそろ来るはずだ」

从 ゚∀从「ん?」

そうロマネスクが口にした直後、何やら騒々しい音が遠くから聞こえてきた。
そしてその不快音は徐々にこちらに近付いており、やがて彼等のすぐそばで発生するようになってしまった。
フィレとハインは、これは堪らないと両手で耳を塞ぐ。

(゜3゜)「押忍!! お疲れ様ですロマネスクさん!」

彼等の前に現れた暴走族の集団の先頭にいた、いかにもな少年がバイクから降りて頭を下げた。
少年の名は田中ポセイドン。『爆走同盟“武雲蘇苦”』、二代目総長である。




43 名前: ◆.czB0mKJbA :2009/08/25(火) 23:40:30.43 ID:G/dVQQq+O
( ФωФ)「おう。……そこの二人だ。やれ」

(゜3゜)「押忍!」

ロマネスクは顎で二人を指し、リンチにするように促す。
その言葉の直後、後ろのヤンキー集団が皆、こちらに圧をかけてきた。

从 ゚∀从「うわ、一斉にこっちにガンつけてきた。目ェ合わせないでおこう」

(‘_L’)「今さら逸らしても遅いです...よ」

( ФωФ)「ハハッ、どうだビビったか? 本当は連絡取れねぇ奴らを
       探してもらおうと思ってたんだがな。丁度いい時に来てくれたぜ」

ロマネスクは余裕の笑みを浮かべていた。
そんな彼の顔を、ハインは汚物でも見るかのような目で蔑む。

从 ゚∀从「嘗めんな言っといてガキ任せかよ……。とんだヤーサンだな」

その言葉にロマネスクのこめかみがピクリと脈打ったが、変わらず顔は下卑た笑いを保った。

( ФωФ)「まだ減らず口が叩けるか。まあいい、すぐに泣いて許してくれと叫ぶようになる」

暴走族集団は今か今かと蹂躙の機会を待ちわびている。
何かほんの少しのキッカケさえあれば遠慮なくなだれ込んでくるだろう。

そんないつ起爆するか判らない火薬庫の中のような状況でも、フィレは落ち着いた普段の声でハインに問いかける。




44 名前: ◆.czB0mKJbA :2009/08/25(火) 23:43:07.42 ID:G/dVQQq+O
(‘_L’)「さて、どうやら20人以上はいるみたいですが……、どうしま...す?」

それに返事するハインの調子も、いつも通り軽い。

从 ゚∀从「うーん5人までならどうにかなるんだが、流石になぁ」

(‘_L’)「じゃあ一時退却――」

しましょうか、とフィレが言葉を続けようとしたその時。

(‘_L’)「...ん?」


|;^ω^) ハッ

|彡 サッ


……何か見えた。
というかどう見てもナイトーだった。

「おうコラ! 何こっち見てんだ! 見せモンじゃねえぞ!?」

どうやら暴走族の中にもナイトーに気付いた者がいたらしく、彼が隠れた場所へと向かっていった。

(;^ω^)「ひぃ! ごめんなさい! すぐに消えますお! だから離して!」

そして首根っこを掴まれて、ナイトーは暴走族の中央まで引きずり込まれる。




45 名前: ◆.czB0mKJbA :2009/08/25(火) 23:46:02.06 ID:G/dVQQq+O
从 ゚∀从「あれ? ナイトーじゃん。おーい! ナイトー!」

ここでようやくナイトーの存在にハインが気付いた。
張り詰めている空気なんて気にしない。お気楽に手を振る。

( ;ω;)「空気読んでぇぇぇぇぇぇえ!!!」

暴走族の中心で空気を叫ぶナイトー。無駄に壮大な気がする。

( ФωФ)「テメエ等のツレか?」

(‘_L’)「ええ、まあ。本人は物凄く否定したがっています...が」

ロマネスクは振り返り田中の目を見る。その意図を田中は読み取り、頷いた。

「おい。残念だったなぁお友達がハクジョー者でよぉ」

ナイトーを取り囲んでいたヤンキーの一人が、膝でナイトーの太もも辺りをどついてくる。

( ;ω;)「ひぃ! 痛い! 止めて下さいお!」

「はははっ、コイツ泣いてんぜ? ダッセー」

「いたぶりがいがあるなあ、へへっ」

ヤンキー達は面白いオモチャを見つけたと、次々にナイトーに暴力を振るっていく。




46 名前: ◆.czB0mKJbA :2009/08/25(火) 23:49:12.86 ID:G/dVQQq+O
( ;ω;)「止めて! ぶたないで!」

始めは軽く叩く程度だったが、次第にエスカレートしていき、最早本格的なリンチ一歩手前の状態へとなっていく。

( ;ω;)「ハ、ハイーン! フィレー!! 助けておー!!!」

堪らずナイトーは助けを求める。

が。

(‘_L’)「ああ言ってます...が?」

从 ゚∀从「スルーしとこう」

呼ばれた二人は完全に傍観していた。まるでお茶でも啜ってそうなほどにのほほんとしている。

(‘_L’)「非道い人ですねぇ。大事な仲間が助けを呼んでいるというの...に」

从 ゚∀从「その場から動く気配がしないお前に言われたかねーよ」

从 ゚∀从「ま、それに」

ちら、とナイトーの様子を確かめるように覗き見るハイン。

( ;ω;)「や、止め……、止めて……」

三、四人から袋にされているナイトーは、もう声を大にして謝る事も出来ない程に消沈している。




47 名前: ◆.czB0mKJbA :2009/08/25(火) 23:52:22.74 ID:G/dVQQq+O
从 ゚∀从「――もう、そろそろだろ」

だがハインには判っている。ナイトーとは一体どのような人間なのかという事を。無論、フィレも。
だから助けに行かない。行く必要がない。


何故なら――


( ;ω;)「止めて、止めてって――」




(#`ω´)「言ってんだおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」

『あの程度の数』、ナイトーにとっては障害でも何でもないからだ。




49 名前: ◆.czB0mKJbA :2009/08/25(火) 23:55:02.51 ID:G/dVQQq+O
「!?」

今までおどおどしていた男が、急に鬼神のような顔と迫力を身につけた。
別人と入れ替わったかのごとき変貌ぶりに、手を出していたヤンキー達の手が止まる。

(#`ω´)「ふんおおおおおおおおおおお!!!」

するとナイトーがその静止を狙って、まるで丸太のような右腕を横に薙いだ。

「あぎゃ!!」

ナイトーに一番近くにいた男が、そのラリアットをマトモに受ける。
男の体が勢い良く空中に投げ出され、そのまま五メートルほど吹き飛んだ。

「な、なんだこの野郎!」

突然の事態にパニックになった男がとっさに手に持っていた木刀をナイトーの左肩に打ち下ろす。

(#`ω´)「痛いだろこのアホ━━━━!!!」

「ぶはっ!!」

しかしナイトーはそんな攻撃などで止まる事はない。
腕を振り回し、一人、また一人とヤンキー達をブッ飛ばしている。




51 名前: ◆.czB0mKJbA :2009/08/25(火) 23:58:20.16 ID:G/dVQQq+O
从 ゚∀从「おーいったいった」

(‘_L’)「ヤンキーがゴミのようで...す」

その光景を面白おかしそうに見ている二人。
アクションコメディーでも観ているかのようなテンションだ。

从 ゚∀从「ちぎっては飛ばし、ちぎっては飛ばし……。三國無双みてぇだな」

(‘_L’)+「三国志、だけに...ね」

从 ゚∀从「何か言った?」

(‘_L’)「いえ、特に意味は無いで...す」



( ФωФ)「な、なんなんだアイツ……?」

信じられない、といった表情でナイトーを見るロマネスク。
無理もない。どう見てもさっきのナイトーと今のナイトーは結びつかないからだ。
するとハインがロマネスクの心情を読み取ったのか、ナイトーについて語り出す。

从 ゚∀从「ま、最近の若者はキレやすいって事さ。
     あとナイトーはブクブク太ってるように見えるけど、実はあれケッコー筋肉詰まってんだよ。
     アイツ、嫌な事あると大食いと筋トレを繰り返してストレス発散する変人だから」

何やら嬉しそうに話すハイン。その横でフィレがぼそりと注釈をつける。

(‘_L’)「まあその嫌な事の七割くらいはハインに責があるんですが...ね」




52 名前: ◆.czB0mKJbA :2009/08/26(水) 00:01:43.43 ID:zQLqiubaO
从 ゚∀从「……」

从 >∀从「てへっ☆」

(‘_L’)「大の大人が『てへ(笑)』とか言ってんじゃねーですよ
      人一人が入れるような巨大ミキサーの中に入れてスイッチオンするぞ……で...す」

从;゚∀从「妙に恐ろしい!! あと口調変! どこぞのお人形みたい!」



(#ФωФ)「クソッ、ふざけやがって……」

ロマネスクは忌々しく思う。いちいちあの二人は気に障ってくる会話をし出す。
とにもかくにも、ロマネスクは今の状況は不利だと考える。

(#ФωФ)「オイ、田中!!」

(゜3゜;)「えっ、あ、ハイ!!」

(#ФωФ)「バイク出せ! 逃げるぞ!」

だから逃げる。一旦出直せばまたやり直すチャンスが訪れるかもしれない。

(゜3゜;)「えっ!? あ、いや、でも……」

今までロマネスクの命令は忠実に聞いてきた田中ではあったが、今回ばかりはすぐに頷く事は出来なかった。
ナイトーに次々と倒されていく自分の仲間。
先代から引き継いで族長となった自分が彼等を見捨てて逃げる訳にはいかない。
そんな事をすれば、その情報を聞いた族のOB達から殺されるかもしれないからだ。




53 名前: ◆.czB0mKJbA :2009/08/26(水) 00:04:20.82 ID:zQLqiubaO
(#ФωФ)「出せっつってんだろうがァ!! ブッ殺されてぇのか!!!」

だが、ここで断れば今度はロマネスクに殺される。

(゜3゜;)「は、ハイィィ!! すぐ出します!!」

涙目になりながらもロマネスクを後ろに乗せてバイクを出す。
今死ぬか、後で死ぬか。
いつだって明日を見ずに今を楽しんできた彼が選ぶのは、当然今を生き延びる事だった。


騒ぎから離れていく一台のバイク。それをフィレは焦る事無く見送っていた。

(‘_L’)「逃げました...ね」

从 ゚∀从「じゃ、俺の出番だな」

そう言うとハインは屈み、くたびれたスニーカーの紐をきつく縛る。

(‘_L’)「お願いします。ですが……」

从 ゚∀从「んー?」

立ち上がり、軽く関節をほぐしているハインの胸を、フィレの左拳が優しく叩く。

(‘_L’)「私の出番も残しておいて下さい...よ?」

从 ゚∀从「へへへっ、さぁなぁ?」

ハインはいたずらっ子のような無邪気な顔で、フィレに笑ってみせた。




54 名前: ◆.czB0mKJbA :2009/08/26(水) 00:07:19.05 ID:zQLqiubaO
从 ゚∀从「じゃ、まあ」

体をロマネスクが逃げた方へと向ける。二、三ほど、小さくジャンプし、

从 ゚∀从「行きますか――!」

思い切り地面を蹴り上げる。次の瞬間、ハインは風と化した。


―――――――――


( ФωФ)(クソッ、なんだってんだアイツ等……!)

バイクの推進力から生み出される空気の壁を顔に感じつつ、ロマネスクはこれからどう動くか悩んでいた。

( ФωФ)(チッ、どうするこれから?)

仲間は倒され、使い捨てのヤンキー共は役に立たない。
新たに戦力を手に入れるには『上』に頼み込むしかないが、しかしそれは―――

(゜3゜;)「ろ、ロマネスクさん!!」

と頭の中で色々な状況をシミュレートしていたロマネスクの思考は、前にいる田中の呼びかけで中断される。

(#ФωФ)「うっせえぞ!! 俺は今考え事をしてんだ! いいからテメエは黙って運転しとけカスがっ!!」

本気で怒鳴る。使えないどころか足を引っ張る田中を、後でどう仕置きしてやろうかと考える。




56 名前: ◆.czB0mKJbA :2009/08/26(水) 00:09:48.89 ID:zQLqiubaO
(゜3゜;)「う、後ろ! 後ろ!」

しかし田中はロマネスクの檄も聞かずに必死に何かを訴えている。

(#ФωФ)「あァ?」

その様子に異変を感じたロマネスクは後ろを振り向き、

(;ФωФ)「なっ!?」

从 ゚∀从「よぉーやく気付いたかぁ━━━━!」

初めて後ろから『走って追いかけてくる』ハインに気がついた。

从 ゚∀从「うぉら━━━━! 待ちやがれ━━━━!!」

目を疑う。人が自らの両足だけでバイクを追っている。
確かにここの道は狭くバイクの速度もあまり出せないが、それでも人が追いつけるモノではない。

(;ФωФ)「なんなんだっ……って、うおっ!?」

後ろを見て愕然としていたロマネスクだが、急に前から衝撃を受けて危うくバイクから落ちそうになった。
しかし何とか持ちこたえ、安堵する。

(#ФωФ)「バカヤロウ! 危ねぇだろうが!」

(゜3゜;)「す、スンマセン!」

どうやら角を曲がったようだ。この辺りの土地は道が迷路のようになっていて直線には進めない。




57 名前: ◆.czB0mKJbA :2009/08/26(水) 00:13:02.48 ID:zQLqiubaO
バイクは先程より更に狭い路地を通る。
何度か角を曲がった後、車体が安定したのを感じ取ると、ロマネスクは再度後ろを向く。

(;ФωФ)「なっ!!」

从 ゚∀从「はっはっはっは!!」

ハインは当然のように着いてきている。
いや、それどころか彼の笑い声はさっきより鮮明に聞こえており、それは要するに―――

(゜3゜;)「ち、近付いてるッ!?」

从 ゚∀从「ここは俺のホームだからなぁ! この辺の地理なんて知り尽くしてんだよ!!
     ショートカットなんてお茶の子さいさいだぜっ!!」

ロマネスクは叫ぶ。後ろから来る恐怖を吹き飛ばさんがごとく。

(#ФωФ)「もっと! もっとスピード出せやバカがっ! 追いつかれんだろうが!」

(゜3゜;)「ムリですよ! こう曲がり角が多くちゃ……っ」

言ってるそばからまた曲がり角だ。しかも今回のそれは道の狭さもさることながら、角度も急である。
しかし思考が暴走しているロマネスクは尚、叫ぶ。

(#ФωФ)「ゴチャゴチャぬかしてんじゃねぇ!! 俺がやれっつってんだ!! やらねえとブッ殺すぞぉぉ!!!」

駄目だ、速度を落としてはいけない。
ロマネスクの恐怖。ハインの恐怖。激突の恐怖。
様々な恐怖から責め立てられた田中は、発狂寸前までに追い詰められる。




58 名前: ◆.czB0mKJbA :2009/08/26(水) 00:16:02.37 ID:zQLqiubaO
そして猛スピードのままバイクは曲がり角へと突っ込んだ。

(゜3゜;)「う、うわああああああああっ!!!!!」

(;ФωФ)「お、おおっ!!」

バイクが壁を削る。大量の火花が飛び散る。車体が強風で煽られる吊り橋のように酷く揺れる。

だが、それも次第に安定する。バイクも一部外装が剥がれている部分もあったが、問題なく動いている。

そう、彼等は生き延びたのだ。

(゜3゜;)「ハッ、ハッ、ハアッ――!」

(;ФωФ)「っ、奴は!?」

口から飛び出しそうな程に跳ねる心臓を押さえ込み、ロマネスクは後ろを振り向く。
そこにハインの姿はない。ほっと胸を撫で下ろす。

道の先に光が見える。この道を抜ければ広い通りに出た筈だ。
そこなら充分に加速でき、流石のハインも追い付く事は出来ないだろう。

(;ФωФ)「へ、へへへ。やりゃあ出来んじゃねえか」

ロマネスクは田中を労ってやろうと前を向き、




从 ゚∀从




61 名前: ◆.czB0mKJbA :2009/08/26(水) 00:20:02.65 ID:zQLqiubaO
(;ФωФ)「うあ――」

少し前方、こちらに向かって空から落ちてくるハインに気がついた。

从 ゚∀从「まさに『ベスト』ッ! これ以上ない―――」

時間としてはほんの数刻。しかしロマネスクには確かにハインが笑ったのを見た。


从 ゚∀从「『タイミング』だぁ━━━━ッ!!」

(;ФωФ)「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」

落下の勢いそのままに、ハインはバイクに乗る二人に体当たりをブチかました。

ロマネスクと田中は車体から投げ出され、宙を舞い、地面に叩きつけられすぐ先の広場まで激しく転がっていく。


(メФωФ)「う、ううっ……。チクショウ……、今日は一体どうなってんだ……?」

よろよろと体を起こすロマネスク。スーツはボロ雑巾のように破れ、頭からは血が流れている。

近くには大破したバイク。気を失っていて倒れている田中。
もうこれは悪夢なのではないかと感じ、ロマネスクは全てを投げ出したくなった。


するとそんな彼の元に一台のバイクが近寄ってきた。

(‘_L’)「よっと。追い付きまし...た」




62 名前: ◆.czB0mKJbA :2009/08/26(水) 00:23:02.18 ID:zQLqiubaO
フィレだ。恐らくは暴走族の奴らから奪ったバイクを降り、近くで倒れていたハインの元へ歩み寄った。

从 ゚∀从「よぉ、案外速かったな。つーかフィレ、お前バイクの免許持ってたの?」

ハインはフィレに気付き、フィレとバイクの関連性について尋ねた。倒れたまま。

(‘_L’)「実は大型持ってます。ところでハインは何故大の字で倒れているのです...か?」

从 ゚∀从「チョットはっちゃけ過ぎた」

(‘_L’)「体は無事です...か?」

从 ゚∀从「ギリギリセーフ」

グッ、とハインは親指を立てて体の無事を示した。倒れたまま。

(‘_L’)「ギリギリですか、なら大丈夫ですね。私の出番を残してくれてありがとうございま...す」

从 ゚∀从「よいよい」


(‘_L’)「しかし……、は...て」

腑に落ちないといった様子でフィレは辺りを見渡す。そんな彼をハインは不思議そうに見上げている。倒れたまま。

从 ゚∀从「なんだよ?」

(-_L-)「いえ、何だかこの場所に見覚えがあるよう...な」

フィレは目を閉じ、こめかみに人差し指を当てて記憶を探る仕草を見せる。




63 名前: ◆.czB0mKJbA :2009/08/26(水) 00:26:01.27 ID:zQLqiubaO
从 ゚∀从「そりゃあるだろ。俺らこの辺りでタムロってんだし」

(‘_L’)「いやいや、そうではなく、非常にごく最近、この場所に来たような、来てないよう...な」

从 ゚∀从「なんだそりゃ」

(‘_L’)「うーん、しこりが残ります...ねぇ」

从 ゚∀从「んなことどうでもいいから早く終わらせろよ」

(‘_L’)「しょうがないですね。では、幕引きといきましょ...う」

フィレはハインとの会話を止め、ロマネスクを見る。
フィレと目が合ったロマネスクはビクリと体を跳ねさせた。

(メФωФ)「なんなんだ……。なんなんだよ……。お前ら一体なんで俺に付きまとうんだよっ!」

もうロマネスクには、全てを射殺さんとする当初の迫力は存在しない。
そこにいたのは目の前の人間に萎縮する矮小な男であった。

(‘_L’)「ふむ、『なんで』です...か」

フィレは話し出す。微かに笑いつつ、しかし目には心を貫くような鋭さを込めて。

(‘_L’)「お答えしましょう。貴方は、インターホンを押さなかったのです...よ」




65 名前: ◆.czB0mKJbA :2009/08/26(水) 00:30:15.63 ID:zQLqiubaO
(メФωФ)「は……?」

(‘_L’)「普通、他人の家にお邪魔する際にインターホンを押しますよね。常識です。
      これはマナーだとかそういうもの以前の問題です。押さなければ家に上がってはいけないのです...よ」

一歩、フィレはロマネスクに近付く。

(‘_L’)「なのに、貴方は押さなかった。土足でズゲズゲと入り込み、家を荒らし...た」

(‘_L’)「だから貴方は家から追い出されたのですよ。招かれない者は内には入れな...い」

更に一歩。

(メФωФ)「な、何をワケわかんねえことを……」

(‘_L’)「理解しなくても結構です。貴方と私は、親睦を深める間柄では無いのですか...ら」

(‘_L’)「それでも覚えておくといいでしょう。
      ここ『裏VIP街』で害をなすモノは、ここの住人によって裁かれるという事を。
      ここに居を構えたいというのなら、決して人を傷付けてはいけない。この街の唯一のルールで...す」

一歩、また一歩。

(‘_L’)「さあ、仕上げです。不届き者を締め出しても家にはまだ彼奴の穢れが残っている。塩を撒きましょ...う」

(‘_L’)「二度と家に入れないように……。穢れを家から消し去る為...に……」




72 名前: ◆.czB0mKJbA :2009/08/26(水) 01:01:19.18 ID:zQLqiubaO
得も言われぬ凄みを発するフィレ。
ロマネスクはそんな彼に怖じ気づき、後ずさる。

(;メФωФ)「はあっ! よ、寄るな!」

(‘_L’)「その不浄な魂。禊ぎ、祓いま...す――」

ゆっくりと、しかし絶対的な威圧感を持ってフィレは近付く。
その体験した事の無い恐怖に。

(;メФωФ)「来るな、来るなっ……!」


ロマネスクの理性は崩れ落ちた。


(;メФωФ)「俺のそばに近寄るなァァ━━━━━━━━!!!!」

絶叫。同時に懐から取り出すのは黒塗りの拳銃。
ロマネスクはガチガチと震える右手で銃口をフィレへ向ける。

(‘_L’)「むっ」

突然の銃に、フィレの足が泳いだ。

(‘_L’)「...ん?」

すると左足に何かが当たる。
一体何だろうと、フィレは足元のそれを確認した。




74 名前: ◆.czB0mKJbA :2009/08/26(水) 01:05:00.41 ID:zQLqiubaO
(;メФωФ)「ああああ━━━━ッッ!!!」

そうこうしている間にも、ロマネスクの右人差し指は我慢の限界を迎え――




从;゚∀从「フィレ!!」




ハインの叫ぶ声が、一発の乾いた銃声によってかき消された。




76 名前: ◆.czB0mKJbA :2009/08/26(水) 01:08:02.02 ID:zQLqiubaO
銃声がこだまとなり、しばらく辺りを彷徨いた。
そしてその音もようやく消滅した頃に。


「……っッ」






(;メФωФ)「ぎゃああああああっっ!!!」

ロマネスクが右手を押さえて叫びだした。
彼の右手は自らの血で真っ赤に染められている。

(‘_L’)「やれやれ、危機一髪の間一髪です...ね」

そう語るフィレの左手には、銃口から硝煙を吐き出す拳銃が握られていた。

从;゚∀从「え? あれ? フィレが撃ったの? 何で拳銃持ってんの?」

場の状況が掴めないハインは至極当然の疑問を口に出す。
するとフィレはニコリと笑って何でもないかのように答えた。

(‘_L’)「ああ、今さっき拾いました。足元にあったの...で」

从 ゚∀从「いやいや、普通拳銃は足元に転がっちゃいねぇよ」

即突っ込む。ここはスルーしてはいけないと判断したのだろう。




78 名前: ◆.czB0mKJbA :2009/08/26(水) 01:11:14.80 ID:zQLqiubaO
(‘_L’)「恐らく、コレは彼のでしょ...う」

フィレは空いた右手でとある方向を指差した。
それにつられてハインが差された方を見ると。


从 ゚∀从「なにあれ?」

ゴミ箱に頭から突っ込んでる男がいた。
その姿は某犬神家の名シーンを否応無しに思い出させる。

(‘_L’)「えーと確か長岡君だったですかね? 杉浦の手下の一人ですよ。
      そうそう、この辺でとっちめたんでした。今思い出しました。彼、拳銃持ってたんです...ね」

フィレは今度は手に持っていた拳銃に指を差す。
そこには『ジョルジュ』と釘で傷付けたような文字があった。

从 ゚∀从「なんと都合のいい……」

(‘_L’) 「ラッ...キー」

Vサインをハインに向けるフィレ。

从 ゚∀从「ホント偶然なんだろうな?」

ハインは、一体フィレはどこまで本気でどこからふざけているのだろうかと
真剣に考え出した。勿論、ずっと倒れたままで。




79 名前: ◆.czB0mKJbA :2009/08/26(水) 01:14:50.65 ID:zQLqiubaO
その時、彼等の元に不意に何者かが近付いてきた。

从 ゚∀从「んー?」

(‘_L’)「……お...や」

不審そうな目をするハイン。
何か、意外そうなモノを見た、といった様子のフィレ。

('A`)「……」

急に現れたスーツ姿の不健康そうな男。
その男は無言でロマネスクの元へと寄っていく。

(;メФωФ)「ぐううううううううううううう」

未だ、右手の痛みにより呻いていたロマネスクだが、ここでようやく男の存在に気付いた。
脂汗が浮かんでいたその顔を驚愕に歪ませる。

(;メФωФ)「! アンタは……! た、助けてくれ! 手を撃たれたんだ! 早く病院に!」

どうやら男はロマネスクが知る人物のようだ。ロマネスクは助けを懇願した。

しかし、当の男は冷たい目を彼に向け、




81 名前: ◆.czB0mKJbA :2009/08/26(水) 01:17:02.50 ID:zQLqiubaO
('A`)「近寄るなよ、ウゼえ……」

(;メФωФ)「ごふっ!」

腹に蹴りを一撃。そして仰向けに転がったロマネスクの右手を、

(;メФωФ)「ひぎゃああああああああああああああああああああああああああああっっ!!!!!」

無表情で踏みつけた。

('A`)「……」


从 ゚∀从「おいおい、随分エグい真似するなぁ。フィレ、あれ誰?」

うわー痛そー、と口にしつつハインは尋ねる。

(‘_L’)「……彼は茂那組の幹部を任されている、ドクオという男で...す」

答えたフィレの言葉の中にあった『茂那組』という単語に、ハインは強く反応する。

从 ゚∀从「茂那組!? 流石にそっちは知ってるぜ!
     この辺どころか東日本でもトップどころの、マジモンのヤクザじゃねえか!」

(‘_L’)「ええ、どうやら杉浦組は茂那組の傘下だったようです...ね」

そう言うと、フィレは一歩前へと踏み出した。




82 名前: ◆.czB0mKJbA :2009/08/26(水) 01:20:10.91 ID:zQLqiubaO
从 ゚∀从「?」

彼の突然の行動にハインは首を捻る。

そして向かい合うフィレとドクオの二人。
場に張り詰めた空気が流れ、ハインは温度が数度下がったように感じた。

しかし、そんな緊張感はすぐに消え去った。
フィレとドクオの二人が同時に顔を綻ばせたのだ。

(‘_L’)「……お久しぶりです、独(ドク)」

('A`)「ああ、こんなところで会うとは思っていなかったよ、――鴨(かも)」

そして二人は、まるで旧友に会ったかのように会話を始めだした。


(‘_L’)「モナーのオヤッサンは元気です...か?」

('A`)「元気だよ。もうすぐ70になるとは思えないくらい毎日豪快に笑っている」

(‘_L’)「そうですか。それはよかっ...た」

フィレは遠くを見て薄く笑う。モナーという人物の顔を思い出しているのだろうか。

('A`)「オヤジも、たまには顔を見せに来いって言ってたよ、鴨」

(‘_L’)「そうですねぇ。面倒事が無ければ私としても顔を見せておきたいのです...が」

('A`)「……」




83 名前: ◆.czB0mKJbA :2009/08/26(水) 01:23:09.41 ID:zQLqiubaO
淀みなく声を出していたドクオだったか、ここで一瞬止める。
そして少し考える素振りを見せたが、意を決して話を切り出した。

('A`)「なあ、鴨」

('A`)「ウチに入る気は無いの?」

突然のドクオの言葉にリアクションを見せたのはハインだ。目と口を開いたその顔は、驚きを表している。

('A`)「お前ならすぐにウチの幹部になれる。いや、それ以上の地位にもいけるよ」

そんな事など気にかけず、畳み込むようにドクオは話しかける。

('A`)「そうなったら贅沢な暮らしが出来る。お前が今の生活を続けていたら到底叶わない程の贅沢だ」

('A`)「カビ臭い堅い床の上で寝たり、期限切れの食べ物を食べる事なんて無いんだ」

('A`)「お前は優秀なんだ。そんな最下層の暮らしをしていい人間じゃない」

(‘_L’)「……」

その一部始終を、フィレはただ黙って聞いていた。

('A`)「どう? 考え直した? だったら今すぐオヤジのどころへ行こう。大喜びでお前を迎えてくれるよ」

しかし、そんなドクオの話に対する返答は――

(‘_L’)「スミマセンね。私は行けませ...ん」

拒絶。苦笑するフィレはしかしハッキリとドクオの誘いを断った。




84 名前: ◆.czB0mKJbA :2009/08/26(水) 01:26:04.51 ID:zQLqiubaO
('A`)「!? 鴨!」

今度驚いたのはドクオの方だ。詰め寄らんと足を一歩出す。
だが、そんなドクオにフィレは首を横に振る事で制した。

(‘_L’)「今の私は『鴨』ではなく『フィレ』で...す」

('A`)「……何故。どうしてそんな光の当たらない場所で生きようとする?」

ドクオには理解できなかった。人の上に立つ力を持ちながらも、あえて地べたに這いつくばろうとするフィレの考えを。
だがフィレは静かに、我が子を諭すかのように優しく話し出す。

(‘_L’)「独、貴方は知らないんですよ。暗闇の中にも綺麗なモノがある事を。
      光を浴びないからこそ、美しいモノがあるという事を」

そして、とフィレは付け加え、

(‘_L’)「私は、今の生活にとても満足しています...よ」

横目でハインの方を見た。

('A`)「……」

そんなフィレに、ドクオは何か言いたそうな顔をするが、

('A`)「判ったよ。説得は無理そうだ。今日はもう帰るよ」

息を一回深く吐き出し、フィレに背中を向けた。

('A`)「だけどね、鴨。俺はお前に来て欲しいんだ。気が変わったらいつでも訪ねてきてくれ。歓迎するから」




86 名前: ◆.czB0mKJbA :2009/08/26(水) 01:29:05.99 ID:zQLqiubaO
('A`)「……じゃ、また会おう」

(‘_L’)「はい、オヤッサンにも宜しく言っといて下さ...い」

ドクオはこちらを向かずに話し、そのまま手を少し上げて歩き去った。

(‘_L’)「……」

残る静寂。フィレは去ったドクオの背中を見送って、

(‘_L’)「さあハイン、私たちも帰りましょう...か」

ドクオに背を向けた。


从 ゚∀从「……」

こっちを見たフィレの顔を、ハインは穴が開くんじゃないかとばかりに見つめている。

(‘_L’)「どうしたんです...か? 人の顔をまじまじと見て」

从 ゚∀从「いやぁ……。更にお前に対する謎が増えたなぁと」

(‘_L’)「ふふ、どうです、ミステリアスでしょ...う?」

从 ゚∀从「何故嬉しそうなんだ。ムカつくから殴っていい?」

(‘_L’)「お断りしま...す」




91 名前: ◆.czB0mKJbA :2009/08/26(水) 01:58:06.43 ID:zQLqiubaO
从 ゚∀从「まあ、なんだ。お前の過去は実はどっかの御曹司だった、というのが今までの俺の説だったんだが」

(‘_L’)「何でそうなったんで...す?」

呆れたような顔になるフィレ。

从 ゚∀从「だってお前変な知識ばっかあるし、フィレ肉が好物だとか言うし、妙に運がいいし」

(‘_L’)「最後のは何の関係...が?」

从 ゚∀从「だが、今日の出来事で俺の説が変わった。お前の過去は――」

ハインは勢いよくフィレの眼前に指を差した。
鬱陶しかったのでフィレはその指を払いのける。

从 ゚∀从「ズバリ! 狙った獲物は逃さない、成功率100%の殺し屋だ! 間違い無い!」

(‘_L’)「殺し屋とは、また考え方がチープですね。というか、私は人殺しなんてした事ないです...よ」

从 ゚∀从「うっそーん? だってアレはお前、どう見たって人撃つの慣れてますってカンジだったぜ?」

(‘_L’)「慣れてないですよ。人を撃った回数なんて両手で数えられる程度しかないで...す」

从 ゚∀从「えぇーマジで? 数えてみろよ」

フィレの言にハインは信じられないといった様子だ。




93 名前: ◆.czB0mKJbA :2009/08/26(水) 02:01:00.87 ID:zQLqiubaO
(‘_L’)「いいですよ。えーと」

フィレは持っていた拳銃を後ろに放り投げ、両手を顔の前に持ってきて一つずつ指を折り出す。

(‘_L’)「一、十、百……」

从 ゚∀从「待て待て待て待て。数え方おかしい。おかしいから」

これ以上は言わせてたまるかとハインが止める。

(‘_L’)「む...う」

从 ゚∀从「帰ろうぜ、もう。今日はちょい疲れちまった」

(‘_L’)「なんだか話の腰を折られて気にくわないですが……」

(‘_L’)「帰りますか、私たちの家...へ」

そうだな、とハインは横たえていた体を起こし、フィレの隣に並んだ。




从 ゚∀从「つーか片手で足りないの?」

(‘_L’)「ふふふ...ふ」




94 名前: ◆.czB0mKJbA :2009/08/26(水) 02:04:10.09 ID:zQLqiubaO
それから、数日後。

ある建物の一部屋から、歌声が響いていた。



♪ドブネズミみたいに 美しくなりたい

 写真には写らない 美しさがあるから



(‘_L’)「♪リン――!」

从 ゚∀从「ちょりーす。フィレー、クソ暑いから泳ぎ行こうぜ、噴水へ」

その部屋のドアを開けて現れたのはハインだ。手を団扇のように見立てて扇いでいる。

(‘_L’)「ぶふぅー...う」

突如現れたハインに驚き、フィレは大量の空気を盛大に吐き出した。

(‘_L’)「ごほん。……全く、人のテンションが最高潮まで達しようとしている時に水を差さないで下さ...い」

从 ゚∀从「サーセンwww でさぁ、噴水」

(‘_L’)「行きません。もうちょっとで夏も終わるので我慢なさ...い」

从 ゚∀从「終わるからこそ行きたいんだろ!」




95 名前: ◆.czB0mKJbA :2009/08/26(水) 02:07:07.70 ID:zQLqiubaO
(‘_L’)「だったらナイトーとアサピーでも誘ってきなさ...い」

グイ、と親指で奥のドアを差すフィレ。

从 ゚∀从「言っても無駄だろうしなぁ。アイツら今なにしてんの?」

(‘_L’)「落ち込むナイトーをアサピーが慰めていま...す」

そう言いつつフィレは胸ポケットから一枚の紙を取り出し、左右に泳がせた。

从 ゚∀从「まだ落ち込んでんのかアイツは」

ひらひら

(‘_L’)「ナイトーは怒って暴れた後、いつもああやって塞ぎ込みますからね。
      ま、今回もいつも通りアサピーに任せましょ...う」

ひらひら

从 ゚∀从「他人任せだな。人の事言えんが」

ひらひらー

从 ゚∀从「ところでさっきから何をヒラヒラさせてんの?」

(‘_L’)「ようやく触れました...か。はい」

フィレは紙をハインに手渡す。




97 名前: ◆.czB0mKJbA :2009/08/26(水) 02:11:15.67 ID:zQLqiubaO
ハインは受け取った紙を両手で持ってじっくり見てみる。

从 ゚∀从「あ、こないだの宝くじか」

(‘_L’)「ええ、当たったので換金しに行きませんか?」

从 ゚∀从「へー、当たったのかー」

从 ゚∀从

从 ゚∀从

从 ゚∀从

从;゚∀从「なんですとぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」

1km先にも届きそうな大絶叫が狭い室内を埋め尽くす。

从;゚∀从「ちょ、ば、おま、テキトーな嘘を言っても俺は騙されんぞー!!!」

(‘_L’)「メチャクチャうるさいし、メチャクチャ動揺してますよ。それと当たったのは本当で...す」

从;゚∀从「ま、マジで!? マジなのか!?」

(‘_L’)「マジで...す」

从*゚∀从「ヒャッハー!! よくやったぞフィレー!!
     よっしゃーマンション借りよーぜーマンション!! 2LDKのベランダ・ロフト付き!」

テンションの上限を越えてしまったハインは室内をグルグルと走り始めた。




99 名前: ◆.czB0mKJbA :2009/08/26(水) 02:14:03.67 ID:zQLqiubaO
(‘_L’)「ほう、当たったのは7等の300円なのですが、
      最近の住宅はそれだけのお値段で借りれるのですか。安くなりましたね...ぇ」

从#゚∀从「死んでしまえぇぇぇぇぇぇええええええええええ!!!!!!」

走っていた勢いよろしく、ハインはフィレに向けてスライディングで突っ込んでくる。
とりあえずフィレは二歩左に移動して避けておいた。

(‘_L’)「何なんですか、さっきから叫びっぱなしで。暑苦し...い」

从 ゚∀从「ちくしょう……。この最高潮に上がったテンションを一気に冷ましやがって」

手を着き膝を着き頭を下げて、ハインは全身で『がっかり』の意を表す。

(‘_L’)「知りませんよ。それより300円、一緒に換金しに行きません...か?」

从 ゚∀从「勝手に行ってこいバッキャロー。何が300円だコンチクショー」

ハインは床に倒れてゴロゴロ転がりながらいじけている。
室内は土足なんだから寝っ転がるのは止めた方がいいですよ、とフィレは心の中で忠告しておいた。

(‘_L’)「ふむ、行かないのですか。ならしょうがないですね。
      一人で行って、300円を一人で好きに使わせていただきましょう。
      ああ300円。今から何に使おうか、ワクワクウキウキで...す」





从 ゚∀从「俺も行くー」




100 名前: ◆.czB0mKJbA :2009/08/26(水) 02:17:02.12 ID:zQLqiubaO
即座に起き上がりフィレの隣に立つハイン。

(‘_L’)「ハイハイついていらっしゃ...い」

慣れているのか、ハインの行動に特に突っ込む事無く、フィレは外へと続くドアを開けた。




(‘_L’)「さてハイン。この300円、何に使いましょう...か?」

換金を済ませた二人はのんびりと歩きながら使い道について話し合う。

从 ゚∀从「タバコ買おーぜ」

(‘_L’)「却下。私吸いませんし、そんなの買ったら300円まるまる無くなっちゃうじゃないです...か」

从 ゚∀从「大丈夫。俺が吸ってんのショートホープだから。150円だから」

(‘_L’)「何にせよ却下。という訳でペニサスさんのところへ行きましょう」

从 ゚∀从「どういう訳で……? そういやペニサスさんの店に客は戻ったのか?」

(‘_L’)「すぐに、とまでは行きませんが徐々に戻ってきてるみたいで...す。私の勘だと」

从 ゚∀从「勘かよ」

スナップをきかせたツッコミを入れる。




102 名前: ◆.czB0mKJbA :2009/08/26(水) 02:20:22.62 ID:zQLqiubaO
(‘_L’)「まあ心配ないでしょう。元々根も葉も無い噂でありましたし、
      発生元が無くなればゆっくりと風化していきます...よ」

从 ゚∀从「だといいな。ところで、ペニサスさんのところには何しに行くんだ?
     まだいつもの時間よりはギリギリ早いぜ」

(‘_L’)「ギリギリです...か」

从 ゚∀从「はっ、まさかまだペニサスさんに何か問題が……!」

ハインの額に一筋の汗が浮かび上がる。

(‘_L’)「いえ、そうではなく」

それに対し、フィレは手を振って明確に否定し、


(‘_L’)「たまにはペニサスさんの果物をお金を払って頂戴する、というのはどうです...か?」


微笑みながらハインへ尋ねた。

从 ゚∀从「……へへっ、そうだな、その案乗った!」

嬉しそうに頷くハイン。
二人は軽い足取りでペニサスの店へと向かっていった。


僅かに感じた心地良い涼風。
夏はもう、終わりを見せている。




103 名前: ◆.czB0mKJbA :2009/08/26(水) 02:23:11.42 ID:zQLqiubaO
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(‘_L’)『LINDA』のようです



                おしまい






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