l从・∀・ノ!リ人万華鏡の世界のようです
1 名前: ◆2cdhxvgmCA :2009/08/25(火) 18:36:37.80 ID:+eEl1AQe0
まぁるい筒のなかに、三枚、鏡を差し込んで。

そうしたら、ありったけの綺麗なものを詰め込む。

きらきら。ぴかぴか。


l从*・∀・ノ!リ人


綺麗な色ガラスの欠片。

飴玉のようなビーズ。

たくさんの色、たくさんの色。


わたしのもつ、ありったけ。




2 名前: ◆2cdhxvgmCA :2009/08/25(火) 18:38:43.02 ID:+eEl1AQe0
そうして、そうっと蓋をして、ゆっくりと、覗き込む。


くるくる回すと中のビーズがじゃらり、じゃらりと音を立てる。
鏡の中で色のついた光が反射してきらり、きらり、ひかる。

じゃらり。

きらり。

じゃらり。

きらり。


色、色、いろ。 
たくさんの色が織りなす世界が。

きらきら、きらきら。


私の中に飛び込んでくる。




4 名前: ◆2cdhxvgmCA :2009/08/25(火) 18:40:40.77 ID:+eEl1AQe0

じゃらり。


きらり。


じゃらり、じゃら。


きら、きらり、きら。


ぽかぁん、と口を間抜けに開けながら。

くるくると、万華鏡を回していく。


きらり、きらり。

鮮やかな色という、色に。




5 名前: ◆2cdhxvgmCA :2009/08/25(火) 18:42:38.57 ID:+eEl1AQe0




のみこまれる。





―――― 万華鏡の世界のようです






6 名前: ◆2cdhxvgmCA :2009/08/25(火) 18:44:39.08 ID:+eEl1AQe0

l从・∀・ノ!リ人「……あれ…」

ここは、ここはどこだろう。
手にしていた万華鏡はどこへいったのだろう。

三面鏡張りの、ぎんいろの世界。
縦に長く、床なんて見えなくて。

私はそんな、さんかくの筒のような世界をゆぅらり、ふぅわり、落ちていた。
あまり広くない筒なのだけれど、世界は無限に広がっていて。
白いワンピースが、ふわぁん、と風船みたいにふくらんで。

あぁ、お姫様のスカートみたい。
そんなことを思いながら。

ふぅらり、ゆぅわり。

鏡の世界を、ゆらゆら、落ちる。





7 名前: ◆2cdhxvgmCA :2009/08/25(火) 18:46:43.36 ID:+eEl1AQe0

l从・∀・ノ!リ人「鏡、鏡、鏡……」

鏡に囲まれた世界は、少し、薄暗かった。
けれど、光が決してないわけではなくて。

時折、小さな細い光が、頭の方から、足の方から。
ぱちり、ぱちりと瞬きをするように明滅していた。

鏡はそれをしっかりと捕え、反射させる。
世界を美しい銀色に染めていく。

l从*・∀・ノ!リ人「綺麗…」

無限に続いている世界は、私だけが映る世界は。
きらり、きらり。

かがやいていた。




8 名前: ◆2cdhxvgmCA :2009/08/25(火) 18:48:34.08 ID:+eEl1AQe0

ぴかぴかに磨かれた鏡の向こうのわたしたちをみると、鏡の向こうのわたしたちは一斉に私をむく。
私と同じように、白いワンピースをふわぁ、と広げて。
ゆぅらり、ゆぅらり。
落ちていた。


―――― 一斉に、私を?


違和感に、気付いた。
たくさんの私が、一緒に、落ちていて。

全ての“わたし”は私を見ていて。
見ていて。

あれ、どうして、背中を向けている私がいないのかしら?





11 名前: ◆2cdhxvgmCA :2009/08/25(火) 18:50:41.43 ID:+eEl1AQe0

私が疑問に思っていると、“わたし”はふふふ、と優しく笑う。

「そんなに驚かないでよ!」

と。
一人のわたしが笑いながら言った。

びっくりして、目をぱち、ぱち、ぱちりと。
動かすだけの私に向って。

各々が口を開いて、にぎやかにしゃべりだす。





13 名前: ◆2cdhxvgmCA :2009/08/25(火) 18:52:39.85 ID:+eEl1AQe0

!リ人・∀・ノl从「こんにちは、世界の向こうのキミ」

l从・∀・;ノ!リ人「こ、こんにちは」

右の方にいた私が爽やかに挨拶をする。
私はおずおずと挨拶を返す。
すると、わたし達は一斉に、こんにちは、こんにちは。

返してくる。
無限の世界の無限の私が、こんにちは、こんにちは。
私はただただびっくりして、目をぱちぱちさせるだけ。

ざわざわした波が一通り、通り過ぎると、左の後ろの方にいたわたしが口をひらく。

!リ人・∀・ノl从「貴女の世界は如何です?」

l从・∀・ノ!リ人「いか、が、ってどういうこと?」

私のその質問に、たくさんのわたしが答えるように。
歌うように、踊るように、ポーズを決めて喋り出す。




14 名前: ◆2cdhxvgmCA :2009/08/25(火) 18:54:32.21 ID:+eEl1AQe0
!リ人・∀・ノl从「こちらは単調、単調、単調、で、それはそれはもう退屈なのさ」


!リ人・∀・ノl从「一瞬おくれて貴公の世界を捉えているからな」

!リ人・∀・ノl从「光の速さとはいうけども、それは決して同時ではないわ」


!リ人・∀・ノl从「けれど貴様は知らんのだろう?」


!リ人・∀・ノl从「たとえば今、僕の後ろに何があるか」

!リ人・∀・ノl从「あんたにはわかるまい?」


!リ人・∀・ノl从「おんなじように、わしにはあんたのうしろになにがあるかわからない」


!リ人・∀・ノl从「ほんとうに同じなのかしら?」

!リ人・∀・ノl从「ねぇ、ほんとうに同じですか?」




16 名前: ◆2cdhxvgmCA :2009/08/25(火) 18:56:33.85 ID:+eEl1AQe0

芝居のようなわたしたちのやり取りは、そこで、ぷっつりと途切れた。

全員がポーズをとるのをやめて。
マリオネットの糸が切れたみたいに、だらん、と両腕と両足をぶら下げて。
笑顔を作った顔をこちらにぐるり、向けて。

!リ人・∀・ノl从!リ人・∀・ノl从「「ねぇ、見せてはいただけません?」」!リ人・∀・ノl从!リ人・∀・ノl从

口をそろえてこう訪ねた。

l从;・∀・ノ!リ人「……っ」

私は、そんなわたしたちの様子に圧倒されながらも。


こくん。



頷いた。





17 名前: ◆2cdhxvgmCA :2009/08/25(火) 18:58:32.82 ID:+eEl1AQe0

たくさんの間が開いて。
私はどうしていいものか、悩んで、悩んで。
ただただ、わたしたちとじぃっと目を合わせていた。

すると、ふいにわたしたちは、待っていました!と言わんばかりに。
にぃぃぃぃぃっ!と醜く口を横に広げて。

!リ人゚ー゚ノl从「「ホん と  ウ   ?」」l从゚ー゚ノ!リ人

l从;・∀・ノ!リ人「っ!?」

醜い、醜い声で、わたし達は、叫ぶように言う。
鏡の向こうの私は笑いだす。
ぐんにゃりと顔を醜く歪めて笑いだす。

きゃらきゃら、きゃらきゃら。

けたたましいほどの笑い声。
無邪気とも狂気ともとれる笑い声。




19 名前: ◆2cdhxvgmCA :2009/08/25(火) 19:00:29.70 ID:+eEl1AQe0

きゃらきゃら。
きゃたきゃた。

反響する笑い声。
無限に、そう、無限に。
わぁん、わぁん、と重く、重く響いていく、笑い声。

!リ人゚∀゚ノl从「ネ   ぇ、み  セて!」

!リ人゚∀゚ノl从「ミせ  てヨ、みせ てクれる   って!いッ たよ  ね!」

そのうち私に近いわたしは両手をこちらに伸ばして。

ばん、ばん、ばん。

私とわたしを隔てる鏡を乱暴に、乱暴に叩く。





20 名前: ◆2cdhxvgmCA :2009/08/25(火) 19:02:41.44 ID:+eEl1AQe0

きゃらきゃら。
ばん、ばん。

きゃた、きゃたたた。
ばん、ばしん。

私は思わず耳をふさぐ。
固く、固く眼を閉じる。

l从;- -ノ!リ人

体はそんな私にお構いなしと言ったふうに。
ふわり、ふわり、狭い三角の世界を、落ちる。





22 名前: ◆2cdhxvgmCA :2009/08/25(火) 19:04:40.69 ID:+eEl1AQe0

「あぁ、いけないな」

「鏡に食われてしまうな」

「「それだけは避けなくてはならん」」

l从- -ノ!リ人「……??」

不意に聞こえた声。
耳元で?それとも遠く?
上から?下から?わからない。

不思議な、だけど優しい男の人の声。

l从- ・ノ!リ人「……」

そろり、そろり。
かたほうの目を開く。





23 名前: ◆2cdhxvgmCA :2009/08/25(火) 19:06:49.49 ID:+eEl1AQe0

( ´_ゝ`)「「やぁお嬢さん、今日和」」(´<_` )

どこから現れたのか、よく似た男の人が二人。
私を守るように、庇うように、両腕を広げて浮かんでいた。
黒い服を着て、黒い髪をして。
すらりと背の高い姿をしていた。

もしかしたら、二人に見えるけど、本当は彼らは一人なのかもしれないな。
一人は鏡の中なのかもしれないな。

私はぼぅっと考える。
私には答えがよくわからなかった。

彼らの背中の向こうにある鏡。
そこから見える私の顔が、まだ、きゃらきゃら、笑っていたから。
そちらに気を取られてしまっていた。

怖くて、怖くて。

ただ、目を、閉じていたかった。





24 名前: ◆2cdhxvgmCA :2009/08/25(火) 19:08:39.00 ID:+eEl1AQe0

( ´_ゝ`)「あいつらはいつでもあんたを狙ってたんだ」

(´<_` )「いつでもあんたが羨ましかったんだ」


( ´_ゝ`)「だからあんたが優しいことを知って」

(´<_` )「きっとあんたが頷いてくれることを知って」

( ´_ゝ`)「知りたいなんて嘘をついた」

(´<_` )「あいつらはただ、あんたに成り替わりたかっただけなのに」


( ´_ゝ`)「そんなことできやしないのに」

(´<_` )「諦めの悪い奴らだ」




26 名前: ◆2cdhxvgmCA :2009/08/25(火) 19:10:50.83 ID:+eEl1AQe0

( ´_ゝ`)「なぁに」

(´<_` )「目を閉じることなんてない」

( ´_ゝ`)「目を背けることなんてない」

(´<_` )「あんたが逃げる必要なんてない」

目を閉じている私に。
優しく、優しく、子守唄でも歌うように。
彼らは言う。

私は薄く、目を開く。





27 名前: ◆2cdhxvgmCA :2009/08/25(火) 19:12:40.81 ID:+eEl1AQe0

( ´_ゝ`)「さぁ、あんたも、笑っておあげよ」

(´<_` )「あいつらはあんたの姿を借りないと笑えないような奴らなんだ」

( ´_ゝ`)「愉快じゃぁ、ないか?」

(´<_` )「滑稽じゃぁ、ないか?」

彼らは笑う。
声も立てずに、にんまりと笑ってみせると、細い目が薄く開く。

( ´_ゝ`)「さぁ」

あおく、澄んだ目をした男がこちらに手を伸ばす。

(´<_` )「笑っておあげ」

みどりの、綺麗な目をした男も手を伸ばす。

私はその手に、そぅっと、自らの手を重ねる。





28 名前: ◆2cdhxvgmCA :2009/08/25(火) 19:14:36.69 ID:+eEl1AQe0

あぁ。
なんて。


なんてあたたかい、手なんだろう。


l从*-ー-*ノ!リ人


自然と笑みが零れる。
この心のあたたかさは安心感、だろうか。

私は自問して。
私は自答する。

これは。

しあわせ。

だ。




30 名前: ◆2cdhxvgmCA :2009/08/25(火) 19:16:34.75 ID:+eEl1AQe0
( ´_ゝ`)「これは、これは」


(´<_` )「なかなか、なかなか」

嬉しそうな声が、私の両側から聞こえた。
合わせた、あたたかい、てのひら。

むずむず、むずむず。
そわそわ、そわそわ。

指先からてのひら、肘、肩、体。

わくわくするような、もじもじするような。

やわらかな風船がほわほわ、ぽわぽわ、ふくらんでいくような。





33 名前: ◆2cdhxvgmCA :2009/08/25(火) 19:18:37.98 ID:+eEl1AQe0

(´<_` )「ほう、ほう、ここまでのものとは」

( ´_ゝ`)「嬉しい誤算ではないか、なぁ」

(´<_` )「さぁ、ほら、見ておやり」

( ´_ゝ`)「さぁ、ほら、笑っておやり」

むずむずした予感が目を、開かせる。

花が眠りから覚めるように。
小鳥が羽ばたきの練習を始めるように。

l从*・∀・*ノ!リ人

ふわり、目を、ひらく。





35 名前: ◆2cdhxvgmCA :2009/08/25(火) 19:20:50.27 ID:+eEl1AQe0

そこは相も変わらず三面、鏡に囲まれた三角形の筒の中。

ぱちり、ぱちり。
頭の方から足の方から光が瞬きを繰り返していて。

たくさんのわたしが、私をみている。
たくさんのわたしのようなものが、私の顔をゆがませて、笑っている。

きゃらきゃらした声はもう遠い。
私の体はそんなもの、もう、受け止めない。
内側から溢れるものが、受け止めさせてくれない。

世界が、きらきら、光を帯びてくるのがわかる。

なんて、なんて幸せなんだろう。




38 名前: ◆2cdhxvgmCA :2009/08/25(火) 19:23:12.95 ID:+eEl1AQe0

私のそんな様子に気付いたのか。
鏡の向こうの私は笑うのをやめる
ぎぃぎぃ、ぎぃぎぃ、顔を軋ませて。

あぁもう、それで私を真似てるつもりなの?と。

なんて愉快な気分なんだろう。
ふるふる、ふるふると。
心が震えて、体が震えて。
大きな声で叫びたい、笑いたい。

すぅっ、と。

息を吸って。





40 名前: ◆2cdhxvgmCA :2009/08/25(火) 19:25:00.36 ID:+eEl1AQe0

あぁ、何を叫ぼうか、何を。
暖かい手をきゅぅ、と握り締める。

( ´_ゝ`)「何でもいいさ、あんたの思うように」

(´<_` )「さぁ、ほら、さぁ、さぁ」

急かさなくてもわかるわよ、と。

私は答えるつもりで大きく口を開く。
おなかにくぅっと力をこめて。

ぎぃぎぃ軋んだ“彼女”たちに。

口を、おおきくあけて―――――





42 名前: ◆2cdhxvgmCA :2009/08/25(火) 19:26:46.65 ID:+eEl1AQe0

l从・∀・ノ!リ人「           !!!」

開いた口からこぼれだすのは音でもなく、声でもなく。

l从*・∀・*ノ!リ人「!?」

色だった。

きらきらした、ぴかぴかした、様々な色がこぼれ出す。
そう、まるで万華鏡に詰め込んだあの色達のような!

(´<_` )「これはなるほど上出来だ!」

( ´_ゝ`)「やはり創造主、流石だな!」

二人の男はほんとうに嬉しそうに。
私の周りをくるくる回りながら。
漂う色達の中を泳ぐようにしながら、笑った。





45 名前: ◆2cdhxvgmCA :2009/08/25(火) 19:28:44.37 ID:+eEl1AQe0

l从*・∀・*ノ!リ人「これ、これっ、これは、なん、なんなの!?」

わくわくとした気持ちが抑えられないまま。
私は彼らに尋ねる。

( ´_ゝ`)「世界だよ」

(´<_` )「あんたはこの世界を作ったんだ」

( ´_ゝ`)「おめでとう」

(´<_` )「ありがとう」

彼らは嬉しそうに、笑う。





47 名前: ◆2cdhxvgmCA :2009/08/25(火) 19:30:39.52 ID:+eEl1AQe0

从*・∀・*ノ!リ人「ちが、ちがうの、えっと、これは、えっと、あなたたちの、手の、手が」

貴方達の手が、暖かかったから。

私は途切れ途切れにそう、告げる。
興奮を、ゆっくり、ゆっくり、押さえつけて。

呼吸をひとつ。
もうひとつ。

落ちつけて、落ちつけて。

从・∀・ノ!リ人「ありがとう」

しっかりと、お礼を。





48 名前: ◆2cdhxvgmCA :2009/08/25(火) 19:32:37.09 ID:+eEl1AQe0

それを聞くと彼らはきょとん、と。
細い目を大きく開いて、驚いていた。

そうして数度、瞬きをして。

ふわぁ、と。

柔らかい糸がするする、解けるように、優しい、優しい笑顔を作る。

( ´_ゝ`)「こちらこそ」

(´<_` )「ありがとう」

( ´_ゝ`)「世界を創り出してくれて」

(´<_` )「世界に色をつけてくれて」

色とりどりの世界は、さらに、鮮やかに。





50 名前: ◆2cdhxvgmCA :2009/08/25(火) 19:34:39.58 ID:+eEl1AQe0

幸せな気持ちのまま。

ゆぅらり、ゆぅらり。

三人で、落ちていく。
会話はなかったけれど、とても幸せだった。

ふぅわり、ふぅわり。

真白なワンピースを着た私と。
真黒な服を着た彼ら。

色とりどりの世界を降りていくには、少しそぐわないかもなぁ、と。
私は少し、思ったけれど。

彼らの瞳がとても美しかったので。
私のそんな下らない考えは色の海に流されていった。

ゆぅらり、ふぅわり。

やがて、落ちていた私達の体は。
すとん、すとん、と軽い音を立て。

細長い世界のいちばんしたに、降り立つ。




53 名前: ◆2cdhxvgmCA :2009/08/25(火) 19:36:45.26 ID:+eEl1AQe0

そして不意に、片方の男が人差し指をぴっ、と立てた。

( ´_ゝ`)「何かあんたにお礼をしてやりたいんだ」

(´<_` )「ほう!」

もう片方の男が嬉しそうに相槌を打つ。

(´<_` )「それは、言い考えだな」

うんうん、と。
青い瞳を薄く開いて男は笑う。

( ´_ゝ`)「まぁ、俺達にできることしか、叶えることはできないが」





54 名前: ◆2cdhxvgmCA :2009/08/25(火) 19:38:30.15 ID:+eEl1AQe0

( ´_ゝ`)「「さぁ、何でも、言ってごらん」」(´<_` )

くるり。
二人は同時に私を見て。
さっきと同じようにこちらへ、手を差し出す。

从・∀・ノ!リ人「えっ、えと、そんな、お礼なんて」

( ´_ゝ`)「何、構うものか」

(´<_` )「あんたは誇っていい事をしたんだ」

( ´_ゝ`)「そんな瞬間に立ち会えた事に、礼をいいたい」

(´<_` )「あんたと、出会えた事に、礼を言いたい」





55 名前: ◆2cdhxvgmCA :2009/08/25(火) 19:40:42.51 ID:+eEl1AQe0

私はしばし、考えて。

そして、やっと、一つ。
思いつく。


从・∀・ノ!リ人「貴方達の」



从・∀・ノ!リ人「貴方達の名前を、教えてほしい」





57 名前: ◆2cdhxvgmCA :2009/08/25(火) 19:43:01.78 ID:+eEl1AQe0

( ´_ゝ`)「名前?」

从・∀・ノ!リ人「そう、名前」

(´<_` )「ふむ、そういえば名乗っていなかったか」

从・∀・ノ!リ人「そうよ、だから私は、貴方達をなんて呼べばいいか、わからなかったんだもの」

( ´_ゝ`)「そんなものでいいのか」

そんな彼の問いに頷く。

いいだろう、と。

彼らは同時に呟いて、腕を上げる。
青い瞳の彼は右腕を。
緑の瞳の彼は左腕を。

そうして、そこから長い人差し指を一本立てて。





60 名前: ◆2cdhxvgmCA :2009/08/25(火) 19:45:04.84 ID:+eEl1AQe0

( ´_ゝ`)「俺は、アニジャ。こいつの兄だ」

そう言うと、彼はさらさらっ、と宙に人差し指を走らせる。
漂っていた色がすぅっと、指の後に付いて回って文字を作る。

兄 者

そんな二つの感じがふわぁん、と浮かぶ。

(´<_` )「オレは、オトジャ。こいつの弟だ」

同じように、人差し指を走らせる。
兄の描いた文字よりも若干緑がかった文字が二つ。

弟 者

ゆらゆら、ゆらゆら、浮かぶ。





62 名前: ◆2cdhxvgmCA :2009/08/25(火) 19:47:03.09 ID:+eEl1AQe0

( ´_ゝ`)「そうだな、折角だから」

(´<_` )「あんたにも名前をやろう」

从・∀・ノ!リ人「…え?」

兄者は、伸ばした人差し指をぴたり、と。
浮かんでいた文字を見ていた私に向けて言う。

( ´_ゝ`)「あんたはどう見ても“姉”ではないな」

从・∀・ノ!リ人「え、あの、でも、私、名前…」

(´<_` )「なら、妹だ」

名前、あるのに、と言おうとした私を遮るように。
さらさら、と。
弟者の長い指が、軽やかに宙を走る。

妹 の文字がふぁっ、と浮かぶ。





64 名前: ◆2cdhxvgmCA :2009/08/25(火) 19:48:57.57 ID:+eEl1AQe0

( ´_ゝ`)「そして、俺達共通の、“者”という文字を、俺達の妹へ捧げよう」

さらさら。
兄者が妹の文字の横に、 者 の文字を書く。

(´<_` )「イモジャ、だ」

( ´_ゝ`)「どうだ、なかなか良くはないか?」

( ´_ゝ`)「「きょうだいみたいで」」(´<_` )

从・∀・ノ!リ人「いも、じゃ。…きょうだい」

私は口の中で何度も、何度も。
新しい名前を呟く。

きょうだいという、言葉を呟く。




66 名前: ◆2cdhxvgmCA :2009/08/25(火) 19:51:03.67 ID:+eEl1AQe0

兄者と弟者は六つの漢字が漂う中、にんまりと満足そうに笑っている。
それは私の感想を待っているように見えたので。

私も、精一杯彼らの笑顔を真似するように。




从*^ー^*ノ!リ人「とっても素敵な、名前ね」


にっこり、笑う。




68 名前: ◆2cdhxvgmCA :2009/08/25(火) 19:53:00.19 ID:+eEl1AQe0

それからはあまり、会話もなかった。
ただただ、目の前に広がる“世界”を見ていた。

私が作った、と、彼らが教えてくれた世界。
私の幸せな気持ちが色になって満たされた世界。

そんな世界に、ただ、包まれているだけで。
とても、とても、幸せだった。

きらきらした色はふぅわり、ゆぅらり。
自由に三角形の筒の中を漂っていた。
自由に無限の世界の中を漂っていた。





70 名前: ◆2cdhxvgmCA :2009/08/25(火) 19:55:15.08 ID:+eEl1AQe0

たくさんの色がふぅらり、ゆぅわり。
雪のようにおりてきたり、シャボン玉のように昇って行ったり。

ふぅわり、ふぅわり。

きらり、きら。

あんまりにもその光景が綺麗だったものだから。
ぽかぁん、と口を間抜けに開けながらそんな風景を見上げていた。

そして、ふいに私はつぶやく。

「ここに、ずっと、いたい、な」


それと同時に、色の一つが鏡の表面に、触れる。





73 名前: ◆2cdhxvgmCA :2009/08/25(火) 19:56:55.80 ID:+eEl1AQe0



――――ぴし、り。







74 名前: ◆2cdhxvgmCA :2009/08/25(火) 19:59:17.73 ID:+eEl1AQe0

それは、あまりにも簡単に。
それは、あまりにも呆気なく。

( ´_ゝ`)「あぁ」

(´<_` )「すまない、妹者」

从・∀・ノ!リ人「……?」

彼らは初めて、笑顔以外の表情を見せる。
哀しそうに、眉尻を下げて。
静かに告げる。

( ´_ゝ`)「それは望んではよいことではないんだ」

(´<_` )「それは許されてよいことではないんだ」

从・∀・ノ!リ人「どういう、こと?兄者、弟者……」





76 名前: ◆2cdhxvgmCA :2009/08/25(火) 20:01:52.52 ID:+eEl1AQe0

( ´_ゝ`)「いずれ世界は色褪せるだろう」

(´<_` )「今は鮮やかだろうけど、いつかは色褪せるだろう」

( ´_ゝ`)「全てがモノクロに見えて」

(´<_` )「全てが単調に見えて」

( ´_ゝ`)「そして全てを忘れて」

(´<_` )「全ての色を忘れて」

( ´_ゝ`)「笑うことも、泣くことも」

(´<_` )「恐れることも、喜ぶことも」

( ´_ゝ`)「「全て全て、忘れてしまうだろう」」(´<_` )





79 名前: ◆2cdhxvgmCA :2009/08/25(火) 20:03:59.92 ID:+eEl1AQe0

(´<_` )「それはきっとどの世界にいても同じだろう」

( ´_ゝ`)「それはきっとこの世界にいても同じだろう」

从・∀・ノ!リ人「じゃぁ」

ぴしり、ぴしり。
色が鏡の表面に触れるたび。

从・∀・ノ!リ人「じゃぁこの世界にいさせてよ」

ぴしり、ぴしり。
世界に疵がつく。
蜘蛛の巣のような、繊細な、細い、細い傷跡が。
ちいさなか細い叫び声みたいな音を立てながら。

彼らはゆるゆると、首を横に振った。

(´<_` )「同じとは言った」

( ´_ゝ`)「だが全てが同じなわけではない」

(´<_` )「そう、妹者の後ろにあるものが」

( ´_ゝ`)「鏡の向こうとこちらではちがうかもしれないように」





81 名前: ◆2cdhxvgmCA :2009/08/25(火) 20:06:32.31 ID:+eEl1AQe0

( ´_ゝ`)「この世界では全てを忘れてしまったら、それは、そのままだろう」

(´<_` )「オレ達がそうであったように」

( ´_ゝ`)「俺達が色を失ってしまったように」

(´<_` )「でも、妹者の元いた世界では違う」

( ´_ゝ`)「あの世界はとても美しい」

(´<_` )「あの世界はまだ、忘れた妹者に全てを思い出させてくれるだろう」

ぴし、ぴし、ぴし。
世界に罅が入る音。
やめて、やめて壊れないで。
私は心の中で必死に祈る。

( ´_ゝ`)「だから、帰らなくては、ならないんだ」

兄者は右腕を固く握り、振り上げる。

(´<_` )「妹者は、帰らなくては、ならないんだ」

弟者は左腕を固く握り、振り上げる。





82 名前: ◆2cdhxvgmCA :2009/08/25(火) 20:08:07.07 ID:+eEl1AQe0

「おれたちみたいにならないように」


そうして、鏡の表面に振り落とされた兄者と弟者の腕は。


ぱぁん、と。

風船がはじけた時みたいな音を立てながら。


世界に最期の疵を、つけた。


弾けたのは。

鏡の欠片か。
私の涙か。

わからない。





85 名前: ◆2cdhxvgmCA :2009/08/25(火) 20:10:55.75 ID:+eEl1AQe0

「「あぁでも、せめて、覚えていてほしい」」

「こんな美しい世界が存在したことを」

「こんな美しい世界を、妹者は作ることができたことを」

「俺達が、きょうだいであった、この時間を」

「覚えていてほしい、オレ達の妹」

「「さよならだ、妹者」」





88 名前: ◆2cdhxvgmCA :2009/08/25(火) 20:12:57.75 ID:+eEl1AQe0

きらきら、きらきら。

きらきら。

きらきら。

鏡の欠片は最期に輝く。

きらきら、きらきら、きらきら。

それは本当に美しくて。
涙でぐにゃり、歪んだ私の視界にでさえ。
その美しさは届いてくれた。





90 名前: ◆2cdhxvgmCA :2009/08/25(火) 20:14:50.67 ID:+eEl1AQe0

ありがとう。

私の声は兄者と弟者には届いただろうか。
彼らはもう、どこかの世界に紛れて消えてしまったらしく。
もうその綺麗な瞳を見ることも、優しい笑顔を見ることも、できなかった。

また、会えるかしら、私達。

私の質問は兄者と弟者には届いただろうか。
どこかに消えてしまった彼らの声が、どこかから、聞こえてくる気がした。

また、会えるさ。きょうだい。





91 名前: ◆2cdhxvgmCA :2009/08/25(火) 20:16:38.18 ID:+eEl1AQe0



かしゃん。








94 名前: ◆2cdhxvgmCA :2009/08/25(火) 20:18:33.13 ID:+eEl1AQe0

ガラスの割れる音で目が覚めた。
私の傍らには割れた鏡の欠片。
それと、たくさんのビーズや、ビー玉。


フローリングの床にちらばったそれを、しばし呆然と見つめて。


ふいに。

床に散らばるビーズ達の中に。
彼らの瞳によく似た青色と、緑色を見つけて。


私は一人で、みっともなく、泣いた。





95 名前: ◆2cdhxvgmCA :2009/08/25(火) 20:20:26.56 ID:+eEl1AQe0

あれから、どれだけ、時間が過ぎたのだろう。

私は“妹者”という名前を忘れかけていたし。
あの世界の美しさを、鮮明に思い出すことが難しくなってしまった。

世界はどんどん色あせて見えた。
全ての物から新鮮味というものが消えてしまった。

彼らが言った通りだわ。
あぁでも、彼らってだれだっけ。

全てが零れ落ちていくような感覚の中。
私は時折、青い瞳と緑の瞳を思い出す。




98 名前: ◆2cdhxvgmCA :2009/08/25(火) 20:22:26.42 ID:+eEl1AQe0

輝いていたもの全てが両の掌から零れ落ちていく。

時間が私からいろいろなものを奪っていく。

そんな、抗えない喪失感をひしり、ひしり、と味わいながら。


普通の少女として過ごし。
普通の女性へ体は成長し。
普通の女性のように結婚して。


そして、子供を授かった。





100 名前: ◆2cdhxvgmCA :2009/08/25(火) 20:24:28.38 ID:+eEl1AQe0

はじめに、双子の男の子。

次に、女の子。

産まれたばかりの赤子を抱きながら私はぼんやり思考を巡らせる。

娘の顔は、私が生まれたときそっくりで。

あぁ、きっと、成長したら私そっくりに育つんだ。
昔の私と、鏡を合わせたみたいに、そっくりに。

そう、私は思った。





102 名前: ◆2cdhxvgmCA :2009/08/25(火) 20:26:37.11 ID:+eEl1AQe0

―― ふいにぶれる視界。

―― あの時のきしきし、軋んだ笑顔。


―― 眠る赤子と顔が、重なり。


きぃん、と走る頭痛に眉を顰める。





105 名前: ◆2cdhxvgmCA :2009/08/25(火) 20:28:28.96 ID:+eEl1AQe0

あぁ。

なんだ、あなた、だったの。

やっと、鏡から、出られたんじゃない。

よかったわね、おめでとう。


こちらの世界は、如何かしら?

とっても、素敵なところだと思うけど。


こめかみを押さえながら、ふふふ、と、笑う。





107 名前: ◆2cdhxvgmCA :2009/08/25(火) 20:30:49.17 ID:+eEl1AQe0

ベッドの横にはりつけられた一枚の画用紙。

真っ白な紙に、たくさんの色鉛筆で描かれた文字達。

「「妹の名前、ぼくたちが決めたんだ!」」

そう言って紙を、捧げるように持つ兄弟の、きらきら、きらきらした瞳。
彼らと同じ名前を持つ二人の、青と緑の瞳。


ぼやけかけていたあの時の世界が、クリアになる。

なんてたくさんの色なんだろう。
こんな小さく切り取られた世界に。

なんて、なんて。


――――― あぁ、やっと、やっと思い出せた。





111 名前: ◆2cdhxvgmCA :2009/08/25(火) 20:32:45.29 ID:+eEl1AQe0

そうして私はあの時のように。


私なりに、精一杯彼らを真似た笑顔を。

にんまりとした笑顔を浮かべて。





115 名前: ◆2cdhxvgmCA :2009/08/25(火) 20:34:36.92 ID:+eEl1AQe0


「とっても素敵な、名前ね」






ちいさく、つぶやく。




万華鏡の世界のようです

おわり



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