('A`)エレベーターの中ようです
2 名前: ◆UZNB1DvD.M :2009/08/25(火) 23:43:31.42 ID:rh37dRIr0
 ――約束の時間は13時。今は9時。

 ――なんだ、余裕じゃないか。


('A`)「はぁ……」

ベッドの上。起き上がろうともせずドクオはため息をついた。
枕元の時計は10時を少し過ぎている。

いつもは薄暗い部屋が、今日は太陽の光が差し込んでいて明るい。
明け方に眠り、夕方になってから起きる為に締め切っているカーテンが、どういう訳か今日は全て開いている。

開けたのはドクオ本人である。

今日、ドクオは面接を受けに行く。

昨夜は早く寝たが、それでも不安だった為に自分でやったことだった。
作戦は成功、ドクオは今起きている。




3 名前: ◆UZNB1DvD.M :2009/08/25(火) 23:47:40.55 ID:rh37dRIr0
しかし、いつも寝ている時間帯。
もう少し寝てもいいんじゃないかという誘惑が、彼の脳内を支配していた。

数年にも渡る体のサイクルをたった一日で変えることが出来るだろうか。
目が覚めたのは良いが起き上がる気力が足りない。

布団の温もりから離れたくなくて、二度寝をしようかと寝返りを打った時、
ベッドの側に置いてある携帯が光ったような気がした。

手を伸ばせば届く距離である。
ドクオはよろよろと手を伸ばすと携帯を開いた。

『起きてるか? めんどくさがらないで私服でいいからちゃんと行けよ!!』

ドクオの考えなんて全てお見通し、と言ったようなメール。
無視して携帯を放り投げれば、すぐにまた幸せな夢の中に戻れる。

しかし、ドクオはそうしなかった。
メールの文章をもう一度頭の中で再生させる。




5 名前: ◆UZNB1DvD.M :2009/08/25(火) 23:56:35.54 ID:rh37dRIr0
('A`)(でも、だって、ここ数年まともに家から出て無いんだ……。
   いつも起きたら薄暗い部屋だってのに、今日は何か朝日が眩しいんだぜ?)

心の中で精一杯の言い訳をしながらドクオは目を閉じる。
眠れるわけもなく、閉じた目をすぐに開くと見えるのはただの天井。

('A`)「はぁ……」

そして、本日2回目のため息をつく。
少し考えてから決心すると、
携帯を閉じると握り締めて両手を上に伸ばし軽く伸びた。

体を動かした事で少しだけ眠気が遠ざかり、起きようという意思が少しだけ沸いてくる。
そのまま携帯から手を離し、

('A`)「でも……、がんばらねーともう合わせる顔無くなるだろ! 俺のバカ!」

自分に言い聞かせるように叫ぶとドクオは勢い良く立ち上がり、
そのままクローゼットへと向かう。
Tシャツとパーカーを取り出し、床に落ちてるジーパンを履いて、その姿を鏡に写し、

死にたくなった。




6 名前: ◆UZNB1DvD.M :2009/08/26(水) 00:03:25.65 ID:Pu9TP++R0
(;'A`)(面接って格好じゃねーよ。バカか)

入れた気合が全部抜けていく。
自分で自分に突っ込みを入れつつドクオは鏡の前から逃げると、PCデクスへと向かう。

元々受かるわけが無いと思っているので、スーツの準備はしていない。
適当な格好をして適当に質問に答えて、そうしてばっちり落としてもらえばいいやと勝手に決め付けていたが、
いざ鏡の前で現実を目にしたドクオは、スーツくらい準備をしておけば良かったと今更ながら後悔していた。

('A`)(あぁ、そういやメール……めんどくせぇ)

ベッドの上に放っておいた携帯を手に取る。

実家だから食事は母親が作ってくれる、父親もまだまだ元気だから生きていく上で問題は何も無い。

クラスメートのうち友人と呼べるのは一人だけ、という学生時代。
その友人ともそんなに仲良くしていた記憶は一切ない。
そんな状況でもなんとか出席日数ギリギリで高校を卒業した。
そして、その後立派に引き篭もりになったドクオ。

引き篭もってもうすぐ10年くらい。




7 名前: ◆UZNB1DvD.M :2009/08/26(水) 00:07:52.82 ID:Pu9TP++R0
家に居て、誰とも関わらずにパソコンに向かってるのが一番落ち着くとドクオは分かっている。
自分は人と話すのが苦手だと言う事も理解している。
”別に寂しくなんてないし、一人がいいんだ。”とドクオはいつも自分に言い聞かせていた。

携帯を開き、メールを見る。

『面接頑張れよ!』

('A`)「はいはい、頑張りますよっと」

('A`)(待てよ、起きたって報告はする必要あんの?)

メール作成画面まで開いたところでドクオは考える。
『起きた』という、たった3文字の言葉を打ち込んで送る意味はあるのか、と。
いや、ないなと勝手に自分の中で答えを出すと、携帯をデスクの上に適当に放る。

そしてそのままPCに向かいニコニコ動画を見始める。

気が付けば30分程立っていた。
我に返り、視界に移った携帯を慌てて手に取り、握り締める。

(;'A`)(早起きした時間を全部無駄にするところだった……何してんだ俺)




8 名前: ◆UZNB1DvD.M :2009/08/26(水) 00:09:58.96 ID:Pu9TP++R0
ドクオがさっきから見ているメールの送り主は、従兄弟で4つ年上のジョルジュ。
ドクオが高校卒業以来、まったく家を出ないことを気にしている数少ない人物。

小さい頃から良く遊んでくれているジョルジュは、一人っ子のドクオにとっては兄の様な存在だった。
ジョルジュも弟のように思っているらしく、何かと気に掛けてくれている。

ジョルジュは頻繁に”遊びに行こう”とドクオにメールを送る。
しかし、ドクオはそのメールでの誘いの半分を無視、後半分は適当に理由をつけて断っていた。

殆ど使われることのないドクオの携帯だったが、ジョルジュのおかげで解約される事もなく今日に至る。
たまに来るメールはドクオにいつも少しだけ元気をくれた。
どんな内容でも、一言でも、ドクオに取っては全て貴重な、大切なメール。

ところが、数年前から何のメールも来なくなった。
理由を考えると悲しくなってくるので、あまり考えないようにして、一年以上が過ぎた。
そして、久しぶりに顔を見たと思ったら、ジョルジュはバイト先を紹介してきたのである。

話を聞けば、どうやら自分の元職場らしい。
引き篭もりで、接客なんかできないし、動くのも面倒だと断り続けるドクオにジョルジュは言った。




9 名前: ◆UZNB1DvD.M :2009/08/26(水) 00:18:16.86 ID:Pu9TP++R0
  _
( ゚∀゚)「安心しろってwwww ただの入力作業だよ。客なんか居ない。
     居るのは社員だけだ。別にそいつらと無理して会話しなくていいんだしよ」

('A`)「でも……」
  _
( ゚∀゚)「やる前からダメって決め付けんなよ、面接だけでも受けてみろって」

('A`)「……じゃあ、面接受けるだけ」

('A`)「お、落ちたって怒るなよ」

一時間程説得が続き、最終的にドクオは面接を受ける事を承諾した。
これが最後のチャンスだ、とドクオは勝手に決め付けた。



('A`)(……カーチャンが言ってた。ジョルジュは上司に頭下げてまで願い出てくれたらしい。
   まぁこんな社会適正ゼロなやつを入社させる会社があるわけないからおかしいと思ったぜ)

そんな事を思い浮かべながら、パソコンの電源を落とすと、
ドクオは財布と携帯だけを持って部屋を後にした。




12 名前: ◆UZNB1DvD.M :2009/08/26(水) 00:25:23.17 ID:Pu9TP++R0
('A`)「さてと、行ってくるかな」

自分に言い聞かせるようにドクオはわざと声に出して言う。
久しぶりの外出。今の時間は11時。面接の時間は13時。
かなり余裕があるが、久しぶりの外出だし昼ご飯は外で優雅に食べようとドクオは考えたのだ。

玄関の鍵を掛けているとこどもの楽しそうな声が聞こえた。
ドクオの家は8階にあり、手摺から少し身を乗り出すと公園に主婦やこどもが居るのが見えた。

俺みたいな大人にはなるなよと、勝手に思いながらエレベーターに乗る。
ゆっくりとドアが閉まりエレベーター内は薄暗くなった。

ジョルジュの元職場は、ここから二駅離れたところにある。
家から駅までは5分もかからない。ドクオはその距離我慢して、行って帰ってくればいい。

 ――今日が終わったら俺はまた引き篭もるのかな。

壁に寄りかかり、ぼーっとそんなことを考えていると
エレベーターは4階で止まり、ドアが開いた。




13 名前: ◆UZNB1DvD.M :2009/08/26(水) 00:28:57.76 ID:Pu9TP++R0
短いスカートに金髪の髪の女性が乗り込んでくる。

ξ゚听)ξ「………」

女性はドクオをじろじろと見ながらエレベーターに乗り込んできた。
気分が悪くなってきて、ドクオは視線を足元へと落とした。

エレベーターのドアがゆっくりと閉まり、また下降を始める。
この浮き上がるような微妙な感覚すら懐かしい。

('A`)(乗るのはどれくらいぶりだろう?)

そう思っていると突然エレベーターが揺れた。

('A`;)「え? ……うぇっ!?」

ξ;゚听)ξ「きゃっ……」

落ちるのではないかと思うような揺れが襲い、
ドクオは壁に手を付いて覚悟を決めるかのように目を閉じる。
女性は揺れに負けて座り込んだ。




14 名前: ◆UZNB1DvD.M :2009/08/26(水) 00:33:07.78 ID:Pu9TP++R0
古いパソコンの電源を落とした時のような音がしたのを最後に、揺れは収まった。
ドクオは恐怖できつく閉じていた目を開いてみる。真っ暗で何も見えない。

(;'A`)(何が起きた? 俺は生きてる? 女はどうした? ていうか非常灯とかないの!?)

色々な考えが頭をよぎるが、声をかけるなんて怖くて出来ない。
しばらく自分の周りのすごく狭い周囲だけを探るように手を動かしたが、床や壁に触れただけだった。

(;'A`)(足とか触って「痴漢!」とかいわれたら洒落になんねぇ……。
     もし女が倒れていたとして、俺が動いて踏んだりしたら怒られる。
     とりあえず俺は動かないぞ)

そう決め込むと、ゆっくりと床にしゃがみこむ。
とりあえず落ちたとかではなく止まっただけのようで、怪我もしていない。

再度自分の周りだけ手を動かして確認してみたが、やはり何も触れなかった。
それだけ確認すると、ドクオはなるべく小さくなるよう膝を抱えて目を閉じた。




17 名前: ◆UZNB1DvD.M :2009/08/26(水) 00:37:27.39 ID:Pu9TP++R0
ドクオは気が付けば眠っていた。
浅い眠りの中、急に眩しい光がドクオの目を襲った。

(;'A`)「うぁ……」

思わず声を出し目を開くと、目の前に何かがいる。
手で光を遮り何度か瞬きをして確認すると、どうやら一緒にエレベーターに乗っていた女性の様だ。
しゃがんでドクオの顔を覗き込んでいる。その顔は、酷く、機嫌が悪そうに見える。

ξ#゚听)ξ「あんた、何してんの?」

少しづつ目が慣れてくる、光は携帯のディスプレイから発せられていた。

(;'A`)「あ、あ……いや……」

ξ#゚听)ξ「エレベーターが止まるなんて事件じゃない!
      しかも女の子が一緒に乗ってるのに心配とかしないの!?
      隅っこにしゃがみこんで寝てるとか最低よ!」

(;'A`)「すっ……すみませんすみません……」




21 名前: ◆UZNB1DvD.M :2009/08/26(水) 00:46:11.31 ID:Pu9TP++R0
女性は思いつくままに捲くし立てる。
その恐ろしい程の剣幕に圧倒されドクオは謝るしか出来なかった。

ξ#゚听)ξ「もうっ! 謝ればいいってもんじゃないわ!
      大体なんでエレベーター止まってるのよ……。あたし大事な約束があるのに!」

女性は不満そうにぶつぶつと文句を言いながら立ち上がると、
エレベーターの緊急用ボタンを押し、壁に設置されたスピーカーに向かって言った。

ξ゚听)ξ「もう一人の男性も、怪我は無いです」

そういえばそんなボタンあったな、とドクオはぼーっとそれを眺めていた。

「では、もう少しで作業員が到着すると思いますのでお待ち下さい。
 何かありましたらもう一度ボタンを押して話しかけてください」

その声を最後にスピーカーから声はしなくなった。

ξ゚听)ξ「はぁ……。もう少しとかじゃなくて明確に時間を言って欲しいわ」

何も聞こえなくなったスピーカーから離れると、女性は床に座り込み携帯を開く。
携帯を操作する音が狭いエレベーター内に響いた。




24 名前: ◆UZNB1DvD.M :2009/08/26(水) 00:52:15.27 ID:Pu9TP++R0
ドクオは別にすることもなくただぼーっとしていたが、
暫くして自分も携帯を持っている事を思い出した。

ふと時間が気になりポケットの中の携帯に手を伸ばしすと、
その動きに、反応して女性が顔を上げる。
ディスプレイの明かりに照らされた女性の顔がちょっと怖い。

ξ゚听)ξ「………」
('A`)「………」

何か言われるかと身構えるが、女性は何も言わない。
ドクオの顔をじっと見つめたまま、黙っている。

ξ゚听)ξ「………」
(;'A`)「………」

ξ゚听)ξ「……何よ」

気まずさに勝てず目を逸らすと、女性が口を開いた。
表情の通り声もとても不機嫌そうであり、ドクオはさらに怯えた。




26 名前: ◆UZNB1DvD.M :2009/08/26(水) 00:57:33.59 ID:Pu9TP++R0
携帯の明かりで下から照らされ非常に怖い表情に、低い声。
今にも殺されるんじゃないかとドクオは震える声で返事をした。

(;'A`)「な、なんでもない……で、す」

そう、と短く言って女性はドクオから携帯へと視線を変えた。

(;'A`)(なんだよ、こえぇよ。お化け屋敷みたいだよ。俺のことなんて構わないでくれよ)

ほっと胸を撫で下ろし、止まっていた手を動かす。
開かれた携帯には11:32と表示されている。

寝てしまって居たが、そんなに時間は経っていないようだ。
ついでにメールも確認したが、当然何も来ていない。

('A`)(いつ動くんだろう……、一応連絡しておかないとかな……)

『なんか面接に遅れそうだ』と、それだけをとりあえず伝えるべきだろう。
電話が良いのだろうが、やはり怖いと思ってしまい、
連絡しないよりはマシだろうと、メール作成画面を開く。

ξ゚听)ξ「全然動く様子ないわね、このエレベーター」

メールを書こうとした時、女性が話しかけてきた。
突然の事にびっくりしてドクオは携帯から目を離す。




27 名前: ◆UZNB1DvD.M :2009/08/26(水) 01:05:46.66 ID:Pu9TP++R0
(;'A`)「そ、そう……ですね。あと少しっていうのが、
    10分なのか1時間なのかすらわからないし、待ってるしかないんじゃないですか」

ξ゚听)ξ「うーん……、ねぇ、あなた名前なんて言うの?」

震える声で返事をすれば、そんな声色をまったく気にしない様子で
女性は話しを続けようとしてくる。

('A`)「え……、なんで、な、名前なんて……」

見知らぬ人と話すなんてどれくらいぶりなんだろうか。
しかも女。ドクオは今までに無いくらい動揺した。とてもかっこ悪い。

ξ゚听)ξ「別に、暇だから話し相手になって欲しいだけ。話す時に名前知らないと困るじゃない?」

(;'A`)「は、はぁ……」

ξ゚听)ξ「そうね、あたしが先に名乗るわ。ツンデレよ。イライラして当たっちゃってごめんね」

正直あまり反省しているようには見えないが、
機嫌悪そうにしていられるよりはいくらかマシだとドクオは思った。




28 名前: ◆UZNB1DvD.M :2009/08/26(水) 01:10:00.93 ID:Pu9TP++R0
緊張を誤魔化すように咳払いをし、恐る恐る声を出す。

('A`)「お、俺はドクオです」

ξ゚ー゚)ξ「ドクオ、ね。よろしく。これから何か予定があるの?」

('A`)「い、いや……大した用事はない、です……」

ξ゚听)ξ「ふーん。……服装からして、コンビニとかにちょっとご飯買いにってところかしら?」

目が慣れてきたのか、薄暗い中ツンデレはドクオの服装を眺めながら言う。
それから、腕時計を見るような仕草をし、ため息を吐いた。

ξ゚听)ξ「あたしはこれからデートの予定だったのにこれじゃあ遅刻だわ……」

('A`)「デートかぁ……。ツンデレさんはいっぱい友達いそうですね」

ξ゚听)ξ「どういうこと? 遊んでるような外見って事かしら?」

(;'A`)「へ? い、いや違いますよ!」

褒めたつもりだったのに突然の不機嫌そうな返事。
慌てて、手を振りながら自分の言葉の意味を訂正する。




30 名前: ◆UZNB1DvD.M :2009/08/26(水) 01:17:02.47 ID:Pu9TP++R0
先程の地の底から響くような声で怒られるのは嫌だと思い、ドクオは少し後ろへ逃げた。
しかし、予想に反してツンデレは少し寂しそうな表情を見せた。

ξ゚听)ξ「……でも、前付き合っていた彼氏にも誤解されたりしたわ」

そう呟いて、ツンデレはそのまま黙り込んだ。
ドクオは何か声を掛けるべきかと思ったが、
さっきから話が勝手に進んでしまい、どうすればいいのかがまったくわからない。
結局良い言葉が見つからずドクオもそのまま黙り込んでしまい、エレベータ内は静かになった。

ドクオが開いたままにしていた携帯を閉じる音を合図にしたかのように、
ツンデレがまた口を開く。

ξ゚听)ξ「……今日もデートって言っても女の子の友達と遊ぶだけなのよね。
     ごめんなさいね、初対面の人に見栄なんて張っちゃって」

('A`)「え……」

なんだか勝手に話が進んで言っているようだ。




31 名前: ◆UZNB1DvD.M :2009/08/26(水) 01:19:15.22 ID:Pu9TP++R0
('A`)(あれ、俺何か意見や感想を言ったっけ。いや、言ってない。うん、言って無いよ。
   俺の言葉が引き金にはなってるみたいだけど、勝手に話が進んでいるよ)

ξ゚听)ξ「そういえばさっき誰かにメールしようとしてたみたいだけど、彼女?」

ドクオの思考が追いつく前に、ツンデレは新しい話題を振ってきた。
とりあえず、彼女という単語だけに反応する。

('A`)「いるわけないじゃん……」

ξ゚听)ξ「じゃあ、誰に?」

('A`)「従兄弟です」

ξ゚听)ξ「本当? 彼女居そうなのに」

ドクオは自分を見直す。
筋肉なんて一切無い真っ白い病弱そうな体、ぼさぼさの髪。
いつ買ったかも忘れたパーカーにジーパン。
暗いディスプレイのに毎回写るキモイ顔。

('A`)(突然の暗闇で目がやられたのかな)




32 名前: ◆UZNB1DvD.M :2009/08/26(水) 01:22:10.70 ID:Pu9TP++R0
(;'A`)「もう何年も彼女はいません」

(;'A`)(むしろ居た事ねーよ)

ξ゚ー゚)ξ「ははーん。あたしに気を使ってるんでしょう?
      いいのよ、本当のこと言ってくれて」

(;'A`)「いや……あの……」

ξ゚听)ξ「正直じゃないわねっ! 携帯をちょっと見せなさいよ」

(;'A`)「え? え?」

また勝手に進んでいく話。
強引に携帯を取られて、ドクオは涙目になった。

(;'A`)「や、やめてください……マジで……」

”勝手に触らないで下さい!”と強気で言えば返してくれるかもしれない。
しかし、言う勇気がない。
また怒られたらと思うと怖かった。




33 名前: ◆UZNB1DvD.M :2009/08/26(水) 01:25:21.55 ID:Pu9TP++R0
(;'A`)(どうせジョルジュからのメールしかないんだ。
    引くだろうな……うぇ……。もう逃げたい)

カチカチと携帯のボタンを押す音が響く。

ξ;゚听)ξ「……本当に居ないんだ」

少し申し訳無さそうに、いや心底引いた様子でツンデレは携帯を返した。
普通を装ってはいるものの隠しきれて居ない。

('A`)「ええ、ぼ、僕は引き篭もりですから」

ξ;゚听)ξ「そう……」

その言葉にさらに驚きを露にし、ツンデレは黙り込んだ。
その後も暫く二人は黙り込んだままだった。

(;'A`)(しかし作業員おせぇなぁ。気まず過ぎるだろ)




36 名前: ◆UZNB1DvD.M :2009/08/26(水) 01:28:50.32 ID:Pu9TP++R0
しかし、内容はどうあれドクオに取っては数年ぶりの会話。
自分と話をしてくれている、と思うとドクオは少し嬉しかった。

ξ゚听)ξ「ねぇ」

ドクオが脳内でにやにやしていると、ツンデレが話しかけてきた。
さっきまでとは少し態度が、いや、見方が違うようだ。

ξ゚听)ξ「ジョルジュさんて、お友達?」

ドクオの携帯の中にあるメールは全てジョルジュからのものである。
友達でなければなんだと思うのだろう。

(;'A`)(ま、まさか「お父さんです」とかそういう答えを期待してるのか?
    いや、おホモだちだよ、とかそういう……)

突然の質問に慌てふためきつつ、
ドクオは別にウケを取る必要は無いという事実に気付くと
少しだけ背筋を伸ばし、答えた。

('A`)「そうですよ」




37 名前: ◆UZNB1DvD.M :2009/08/26(水) 01:31:13.12 ID:Pu9TP++R0
('A`)「俺と普通に接し続けてくれている、唯一の人間です」

ξ゚听)ξ「……そう」

ドクオの答えを聞いて、ツンデレは眉をひそめ視線を外した。

 ――なんだよ。友達一人って可笑しいか? 別になんだっていいじゃあないか。

ξ゚听)ξ「もう一つ、良いかしら?」

少し間をおいてツンデレが口を開く。
やはり視線はドクオには向いていない。

('A`)「なんです?」

自分の心臓の音が大きくなった気がした。
きっと、ツンデレは気付いてしまったのだろう。

それでも、掠れた声でドクオが返事をすると、
何か決心したようにツンデレは視線をドクオへと移した。

ξ゚听)ξ「……なんで」




38 名前: ◆UZNB1DvD.M :2009/08/26(水) 01:32:09.13 ID:Pu9TP++R0





ξ゚听)ξ「なんで、メールの最終受信日が去年なの?」









40 名前: ◆UZNB1DvD.M :2009/08/26(水) 01:35:49.07 ID:Pu9TP++R0
聞いてから気まずそうに視線を外した。
やはり言うべきではなかったと言うように眉を寄せ、薄く目を閉じる。

 ――あぁ、なんだそんなことか。

 ――つか、さっきそこまで見たのかよ。すごい観察力だな。

('A`)「いや、別に」

 ――そんなの他人のあんたには関係ないじゃないか。

そう毒づいて、ドクオは心の中で舌打ちをする。
唇を一度ぐっと噛み、怒鳴りたい衝動を抑え、ゆっくりとツンデレを見る。
素っ気無いドクオの態度に驚いたのか、ツンデレはドクオをしっかりと見据えていた。




43 名前: ◆UZNB1DvD.M :2009/08/26(水) 01:38:33.57 ID:Pu9TP++R0
ξ;゚听)ξ「べ、別にって事はないでしょ。親友なんじゃないの?」

('A`)「僕はそう思ってます」

ξ;゚听)ξ「なのになんで去年でメール終わってるのよ。
       去年からはメールは止めて電話とか?」

('A`)「僕は電話や人と話すのは苦手です」

ξ;゚听)ξ「ケンカでもしたの?」

('A`)「してません」

ξ;゚听)ξ「じゃあ、なんで……」

('A`)「別に」

会話を終わらせたくて、ドクオは強めの口調で返事をする。
さっきまで会話するのすら怯えていたが、恐怖を押し殺し毅然と答える。

緊張と若干の恐怖に負けた心臓がドクドクと波打つのを押さえるように、ドクオは胸を押さえた。
ドクオの返事を聞かずとも、ツンデレは核心しているのか、青ざめた顔でドクオを見つめている。




44 名前: ◆UZNB1DvD.M :2009/08/26(水) 01:40:33.27 ID:Pu9TP++R0
 ――俺は、あんまり言いたくない。

 ――認めたくないんだ。

ξ;゚听)ξ「あの、ね。酷く失礼かもしれないんだけど、」

('A`)「……」

ξ;゚听)ξ「もしかしてジョルジュさんは―――」

('A`)「ジョルジュは、去年事故で亡くなりました」

ツンデレの言葉を遮ってドクオは強く言った。
それを聞き、掛ける言葉が見つからないといった様子で口に手を当てたまま黙り込んでしまった。
そんなツンデレから視線を外し、ドクオもこれ以上説明の必要は無いと思い、何も言わなかった。

('A`)(くそ、エレベーターの復旧遅すぎるだろう。もう面接の時間を過ぎるんじゃねーの)

時間を確認しようと、ドクオは携帯を開く。
予想に反して15分くらいしか経っていない現実に驚きつつ、
朝と同じ様にジョルジュのメールを開いた。




45 名前: ◆UZNB1DvD.M :2009/08/26(水) 01:43:50.89 ID:Pu9TP++R0
+++


 ジョルジュは去年、交通事故にあってそのままいなくなった。
 俺が引き篭もるようになってから、初めて面接に行くことになった日に。

 ('A`)「やっぱり俺行くの怖い。やめる」
   _
 ( ゚∀゚)「バカなこといってんじゃねーよwwwwwwwww
      俺が着いてってやるから、行くだけ行こうぜ!」

 ('A`)「やだよ。人怖い。どうせ落ちるし」
   _
 ( ゚∀゚)「やってみないとわからないだろ! ほら、行くぞ!」

 無理やり俺を連れて行ったジョルジュ。
 面接会場の前まで着いて、それでもまだ帰りたいって言ってる俺。
 今思い出してもかっこ悪い。
   _
 ( ゚∀゚)「いいか? お前が中に入るまで俺はここで見てるからな」

 (;'A`)「え……、いいよ帰って」
   _
 ( ゚∀゚)「何言ってんだよwwww
      かわいい俺の弟の初面接を見届けないでどうするんだ」




46 名前: ◆UZNB1DvD.M :2009/08/26(水) 01:45:35.26 ID:Pu9TP++R0
 (;'A`)「うぅ……」
   _
 ( ゚∀゚)「30分くらいで終わるだろ? それまでここで待っててやるよ。
      頑張れ。お前は一人じゃないぜ!」

 (;'A`)「ジョルジュ……」
   _
 ( ゚∀゚)「ばっか、頼もしいお兄さまって呼べよ」

 (;'A`)「確かに頼もしいけど、やっぱ俺怖いよ」
   _
 ( ゚∀゚)「お前本当に男か? しっかりしろよな!
     無事面接が終わってここに戻ってきたら俺のこと兄貴って呼んでいいから頑張れ」

 (;'A`)「別に呼びたくねーよ」
   _
 ( ゚∀゚)「やっべ、ちょっとショック。
     俺はお前のこと弟みたいに可愛がってるのにこの気持ちわからないかよ」

 (;'A`)「……」
   _
 ( ゚∀゚)「引くことないだろwwwww
      無駄話してるうちに面接の時間が迫ってきてるぞ。胸張って言って来い!」




47 名前: ◆UZNB1DvD.M :2009/08/26(水) 01:46:50.51 ID:Pu9TP++R0
 バシッと背中を押されて、俺は渋々歩き始めた。
 会社の中に入ると、ポケットの携帯が震える。

 『面接頑張れよ!』

 たった一行。
 これが、ジョルジュの最後のメール。でも、俺に勇気をくれた大切な一行。

 面接が終わって、会社から出たがジョルジュは居なかった。
 変わりになんか救急車とかパトカーとかが止まってる。

 誰かが担架で運ばれるのが見えた。

 あの服は、ジョルジュだ。
 俺は気がついたら走っていた。担架に走りより声を掛ける。

 (;'A`)「ジョルジュ!? おい! どうしたんだよ!!」

 「知り合いの方ですか?」

 (#'A`)「お、俺の兄貴だよ! 一体どうしたって言うんだ!」

 無我夢中で、話しかけてきた救急隊員に向かって叫んだ。
 「ご同行願えますか?」と言った救急隊員の言葉がやけに冷たく感じた。

 ―――ジョルジュは、病院まで頑張れなかった。


+++




48 名前: ◆UZNB1DvD.M :2009/08/26(水) 01:47:48.35 ID:Pu9TP++R0
(;A;)(あぁ、あれからもう一年経ったんだな……)

ξ゚听)ξ「何、感傷に浸ってるのよ」

(;A;)「別に」

ξ゚听)ξ「涙目になってるわよ。気持ち悪いわね」

(;A;)「う、うるせぇよ。ちょっと思い出しただk……」

ξ゚听)ξ「……変なこと聞いてごめんなさいね。
     まさか本当にその通りだなんて思わなくて」

('A`)「いいですよ。どうせ俺は引き篭もりだし」

ξ゚听)ξ「関係ないじゃない」

キレイに突っ込みを入れられ、会話が途切れる。
何か会話を探そうとしたドクオだったが、特に女の子に振れそうなネタが無かった。




50 名前: ◆UZNB1DvD.M :2009/08/26(水) 01:50:39.95 ID:Pu9TP++R0
('A`)「……もう少し」

ξ゚听)ξ「は?」

(;'A`)「い、いやなんでもないです。ごめんなさい」

ξ゚听)ξ「気になるじゃない。言ってよ」

頭に過ぎった事がつい口から出てしまい、慌てて取り消そうとする。
しっかりと聞かれてしまったその言葉の先をツンデレが急かす。
真っ直ぐな瞳に見つめられ、さっきの恐怖が蘇る。

ξ゚听)ξ「早く」

しつこく急かされ、言うしかないと覚悟を決めたドクオは、
目線を泳がせながら小さい声で話し出す。

('A`)「……もう少し、人の話は聞いた方がいいんじゃないかなって思います」

ξ゚听)ξ「え?」




52 名前: ◆UZNB1DvD.M :2009/08/26(水) 01:54:03.55 ID:Pu9TP++R0
驚いたようにツンデレが声をあげる。
ドクオはもう怒られてもいいや、と言葉を続けた。

('A`)「最初、俺は”友達”と言っただけで、”彼氏”や”男友達”とかそういう風には言ってないんです」

ξ゚听)ξ「え、何が?」

('A`)「遊んでるような外見とかそんな話のときです……」

ξ;゚听)ξ「あ、あら、そうだったかしら」

ツンデレは、さっきの会話など忘れてしまったようで、
慌てた様子で首を傾げた。

('A`)「で、でも、ツンデレさんはどんどん話を進めていってしまうから……」

('A`)「失礼かもしれないんですが、その、彼氏にも誤解とかなんとかって、
   前の彼氏さんの話はちゃんと聞いてあげたんですか……?」

ξ#゚听)ξ「う、うるさいわね! いきなりなんなのよ! 聞いてたわよ!」

(;'A`)「あ、あの……そうですよね、すみませんすいません」

怒られる覚悟はしていたはずなのに、
声を荒げたツンデレにびっくりして膝を抱えた手に力を込める。




53 名前: ◆UZNB1DvD.M :2009/08/26(水) 01:56:38.94 ID:Pu9TP++R0
ツンデレは、もういいと言ったようにドクオから視線を逸らしため息をついた。

ξ゚听)ξ(……とは言ったものの、実際どうだったかしら……)

それからは、二人とも一切口を開かなかった。
気まずい空気が続き、もう死のうかなとドクオが思い始めた頃、
突如エレベーターのドアが叩かれた。

「遅くなってすみません! 大丈夫ですか!」

人の声が聞こえた。
どうやら作業員が到着したようだ。

ξ#゚听)ξ「本当に遅いわよ! まったく!」

ようやく開いたドアの向こうに、人の良さそうな従業員が立っていた。
困ったように眉毛を下げて、すみませんと何度も頭を下げている。

そんな従業員を睨みながら、ツンデレはさっさとエレベーターから出て行った。
ドクオは作業員に頭だけ下げて、よろよろと外に出た。

もう行くの辞めようかな、と思いつつ携帯で時間を確認すると、
外で優雅に食事をする予定を外せば間に合いそうである。




54 名前: ◆UZNB1DvD.M :2009/08/26(水) 02:01:36.01 ID:Pu9TP++R0
('A`)「……がんばってみるかなー」

「何を?」

両腕を上にあげ軽く伸びながら、自分に言い聞かせるために小さく呟いたその言葉にまさかの返事。
振り返ると金色の髪の女性がそこに立っている。

ξ゚听)ξ「別に大した用事がなかったんじゃないの?」

さっさと出て行ったはずなのに後ろに立っているツンデレに
更なる恐怖を覚えつつ、ドクオは小さい声で言う。

('A`)「……これから面接です」

ξ;゚听)ξ「そ、そうなの? じゃあいいわ。
       せっかく知り合ったんだしお茶でもどうかしらと思ったんだけど」

('A`)「え? あ、はい」

ツンデレが息もつかず一気に言った言葉の意味を考えつつ、
じゃあ、また。とだけ言ってドクオは駅に向かって歩き出した。




56 名前: ◆UZNB1DvD.M :2009/08/26(水) 02:05:10.72 ID:Pu9TP++R0
 ――あんな今時っぽい人が俺とお茶飲みたいなんてどうせ幻聴だよな。

('A`)(はっ、待てよ! これがフラグか!!)

少し歩いてからドクオが振り返ると、
ツンデレは背を向けて反対方向に歩いていくところだった。

('A`)「ですよねー」

変な期待をした自分が恥ずかしい、とドクオは首を横に振り、
再度駅へと歩き出した。




57 名前: ◆UZNB1DvD.M :2009/08/26(水) 02:10:11.02 ID:Pu9TP++R0
会社に着いた、ドクオは思わず入り口で立ち止まる。

 ――ここが、ジョルジュの働いていた会社。

ジョルジュからのメールを何度も何度も見直し、
緊張で痛くなってきたお腹を押さえながら、震える足で受付へと向かう。

受付に行き名前と目的を告げると、受付嬢が笑顔で案内をしてくれた。
案内されたのは、社長室。

(;'A`)(え、面接って社長直々なの……)

いきなりラスボスに会わなければいけない緊張に、足が竦み動けない。
それでもポケットに入れた携帯を握り締め、ジョルジュを思い浮かべる事で
なんとかドアに手を伸ばす事が出来た。

(;'A`)「し、つれいしま、す」

情けないほどに震える声。
それでも中に届いたのか、ドアが勝手に開いた。

/ ,' 3「やぁ、始めまして。ドクオくんだね」

笑顔でラスボス、もとい社長が立っていた。




58 名前: ◆UZNB1DvD.M :2009/08/26(水) 02:16:28.46 ID:Pu9TP++R0
/ ,' 3「さ、入って入って」

そう言って背中を押され、部屋に入る。
高級そうな椅子に高級そうな机。
全てが高級そうなその部屋に圧倒されるドクオを見て、
社長は楽しそうに笑った。

/ ,' 3「はははっ、そんなに怯えなくていいんだよ」

恐る恐る顔を見れば、優しそうな顔をしている。
目が合うと安心しなさいというようににっこり笑い、右の方を指差した。

/ ,' 3「いやいや、ごめんね。普通面接は社長室じゃやらないんだが、
    少し話がしたくてね。そこに座ってくれないかな」

ドクオは促された通り、机の右側にあるソファに座る。
高級感溢れる感触が、ドクオをわずかに安心させた。

するとキレイなお姉さんが部屋に入ってくる。

川 ゚ -゚)「始めまして、ジョルジュの上司だったクーと言います」

丁寧にお辞儀をすると、ドクオの対面のソファに座る。
社長もその横に座った。

/ ,' 3「いやあ、緊張しなくて大丈夫だよ」




60 名前: ◆UZNB1DvD.M :2009/08/26(水) 02:20:48.94 ID:Pu9TP++R0
(;'A`)(無理だろ無理だろ、帰りたい、帰らせてくれ、なんで二人なの)

慌てるドクオを他所に、クーが話し始めた。

川 ゚ -゚)「今日は来てくれてありがとう。突然連絡をしてしまって申し訳ない」

(;'A`)「な、んで」

 ――なんで突然面接に呼んだんですか

そう聞こうとして喉が詰まる。
緊張で声が出なかった。

川 ゚ -゚)「別に君の能力に期待して呼んだわけじゃない。緊張しなくていい」

(;'A`)「じゃあ、なんで……」

/ ,' 3「夢をね」

ドクオが聞こうとしたことを見透かしたかのように、
社長が口を挟む。クーも、その単語に頷いた。




61 名前: ◆UZNB1DvD.M :2009/08/26(水) 02:31:22.36 ID:Pu9TP++R0
川 ゚ -゚)「夢を見た。私も社長も、同じ夢を見たんだ」

/ ,' 3「ジョルジュ君が夢に出てきて、頭を下げて言うんだよ。
    ”あいつはこのままじゃダメなんだ”とね」

川 ゚ -゚)「しつこいくらいにな。何度も続くんで、社長に話したら同じ夢を見ていた」

そういって、二人は顔を見合わせて笑った。
一人意味がわからないドクオは二人をきょろきょろと見比べる。

('A`)「え?」

 ――夢? そんな理由で俺ここにいるの?

/ ,' 3「ジョルジュ君はとても頑張ってくれていたし、
    何より何度も夢に見るって事は何かあるのかと思ってね」

川 ゚ -゚)「せめて話だけはしてみようと言う事になったんだ」

('A`)「は、はぁ」

 ―― 一年前受けた面接。あれは面接の内容より何より、ジョルジュのことがショックで。

 ――もう、面接なんて受けないって勝手に決めていた。母親も何も言わず、何も無く過ぎていく日々。

 ――それでも今回、母親が言ってきた会社は「ジョルジュの勤めていた」会社。




63 名前: ◆UZNB1DvD.M :2009/08/26(水) 02:37:22.51 ID:Pu9TP++R0
自分の膝に置いた手を握り締め、決意したようにドクオは
顔を上げ、口を開いた。

('A`)「この会社」

('A`)「ジョルジュの会社って聞いて、何か、ジョルジュに言われている気がして……」

緊張で軽く喉が詰まる。
二人の視線から逃げるように下を向き、それでもドクオは続けた。

('A`)「いま、動かないと俺はずっとダメなんだって、ジョルジュが言ってると思って、
   ずっと、外には出たくなくて、でも」

/ ,' 3「うんうん」

社長が、優しく頷く。
伝わっているか分からないが、聞いて貰えていると思うと、ドクオは少しだけ気が楽になった。

('A`)「こ、これが最後だと勝手に決めて、今日は来たんです。
   ジョルジュが、ジョルジュが俺のことをそんなにも心配してくれてるなんておもわ、なくて」

服も適当で……、と言ったところでドクオの言葉が止まる。




64 名前: ◆UZNB1DvD.M :2009/08/26(水) 02:39:46.76 ID:Pu9TP++R0
 ――落ちていいやなんて、俺は最悪だ。

(;A;)「ジョルジュ」

ドクオは泣いていた。
面接の恐怖でも何でもなく、後悔だった。

/ ,' 3「ふむふむ。まぁ、確かに面接に来る格好じゃないな」

川 ゚ -゚)「正直、採用は難しいぞ」

(;A;)「わ、わかってます」

ドクオは、必死にそれだけ言って、後はずっと泣いてた。




65 名前: ◆UZNB1DvD.M :2009/08/26(水) 02:47:17.07 ID:Pu9TP++R0
そんなことがあってから一ヶ月。
採用は厳しいなんて、辛口の評価を受けたものの、
「頑張って面接に来たんだからいいじゃない」との社長の軽い一言で意外とあっさりと採用されたドクオ。


今日は初出社の日。


川 ゚ -゚)「君の席はここだ。ちなみにジョルジュの席だ」

上司がそう言ってドクオを席に案内すると、
隣に居たのは男が、顔を上げた。

( ^ω^)「おっ。新人さんかお」

それは、どこかで見た顔だった。

( ^ω^)「あれ……」

('A`)「は、はじめまして」

( ^ω^)「思い出したお! ドクオかお? 久しぶりだおー」

その笑った顔とオーバーなリアクションで蘇る学生時代。

('A`)「え……」




66 名前: ◆UZNB1DvD.M :2009/08/26(水) 02:48:13.29 ID:Pu9TP++R0
中学、そして高校の時、ドクオと数回だけだが遊んでくれた、
唯一友人と呼べそうな人物。

( ^ω^)「僕も先月からこの会社に転職したんだお!」

本当に嬉しそうにそういう相手の顔をまじまじと見つめ、
恐る恐るドクオは名前を口にする。

('A`)「内藤だっけ」

( ^ω^)「覚えててくれたのかお! 嬉しいお!!」

どうやら正解だったようで、ほっと胸を撫で下ろす。
席に座りながら、ドクオは携帯を見た。

 ――先月、か

 ――これもきっとジョルジュのお陰なんだろうな。

('A`)「知ってるやつが一人でも居てよかったよ。よろしくな」

 ――知らないやつだらけだと無理かもしれないと我侭を言った、俺のために。





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