( ^ω^)能力バトルのようです
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神は地上に住む者達に能力を与えた。
極一部の者だけにソレは与えられた。
世界はそうなることが当然だったかのように、能力者を賞賛した。
能力を持つ者こそが優秀な者なのだと誰もが言った。
そこに生まれるのは差別と迫害だ。
「能力が欲しい」
誰かが叫んだ。
その声は広がり、研究所が出来た。
時が流れ、研究所で女が術式を受ければ、能力を持った子供を身ごもることができるようになった。
迫害されていた者、そうでない者。
誰もがその術式を受けようとしたが、そう多くの者が受けられるはずもなく、
研究の成果は能力者をわずかに増やしただけだった。
増えた能力持ちの子供のために学校が作られた。
女達はこぞって己の子供をそこに詰め込み、有能な子供になることを願った。
全ては己のために。
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( ^ω^)「おいすー」
ξ゚听)ξ「おはよう」
校門の前で男と女が挨拶を交わす。
標準から見れば太っている方に入るであろう男はブーンという。
校門をくぐった先にある学園に通う生徒の一人だ。
( ^ω^)「ツーン、宿題したかお?」
ξ゚听)ξ「したわよ」
( ^ω^)「じゃあ、ちょっと――」
ξ゚听)ξ「見せないわよ」
(;^ω^)「そ、そこを何とか!」
朝っぱらからブーンに土下座されている女はツン。
金髪の髪と、少しばかりきつそうな青い瞳が印象的だ。
-
('A`)「はいはいはいはーい。
御両人、今日もお仲がよろしいようでー」
ξ;゚听)ξ「ちょっと! あんたの友達でしょ! 何とかしなさいよ!」
( ;ω;)「もうツンしか頼れないんだおおおおお!」
涙目のブーンと焦るツンを横目にチビガリのドクオが通る。
彼ら三人は所謂、幼馴染という間柄だ。
ただし、この学園に通っている生徒で、幼馴染でない者の方が珍しい。
('A`)「どーせまたブーンが宿題忘れたんだろ?」
ξ;゚听)ξ「その通りよ」
('A`)「ブーンは初級学園の頃から変わらねぇなぁ」
ξ;゚听)ξ「成長してないって言うのよ」
-
ツンはため息をついてブーンを睨む。
登校中の生徒達は、またか。と、でも言いた気な顔をしながら通り過ぎていく。
この学園に通う生徒達にとって、ツンとブーンのやり取りは見慣れたものだ。
何せ、ここは完全エスカレーター式の学校であり、
生徒達は物心ついたころから学園の支配下にある場所で暮らしてきている。
幼い頃は家政婦のような者がいる大きな屋敷で。
ある程度成長してからは寮で。
誰もが同年代と前後一歳くらいの者の名前と顔を知っている。
今でも彼らは誰がどの部屋に住んでいるかくらいは把握している。
引越しすることは許されていないし、する必要もない。
-
(´・ω・`)「あのさ、キミ達、邪魔なんだけど」
微笑ましいような、情けないような目で周りがスルーしていく中、一人の少年が声をかけた。
('A`)「あ?」
かけられた声にドクオが眉を寄せる。
声をかけてきた少年に比べれば背が低いドクオだが、彼を睨む力は背丈の差を埋める。
( ^ω^)「おっ……」
周りの生徒達がざわついた。
ブーンは顔を上げ、その様子を不安気に見つめる。
少年はブーン達とは明らかに違っている。
その違いは、この学園にいる限り意味のないモノのはずなのに、誰もがその違いを意識している。
('A`)「何だよ。この獣耳野郎が」
-
少年の頭の上には三角の耳がついている。
制服はきているが、手や顔にはふわふわの毛が生えている。
明らかに人間とは違う。
ξ゚听)ξ「ドクオ」
('A`)「んだよ。朝っぱらから獣耳野郎が文句つけてきやがるから」
止めようとするツンに対し、ドクオは不満気に声を上げる。
(´・ω・`)「ボクが獣族であろうとも、この学園にいる限りは見下される理由にならないんだけど?」
('A`)「何言ってんだよ。
んなもんは建前に決まってんだろ」
(´・ω・`)「建前でもなんでも、そう決まっているんだから、ボクがキミ達に声をかけたっていいでしょ」
二人の間に険悪な空気が流れる。
周りにいる者達も一触即発の空気に息を飲んだ。
-
('A`)「獣族の能力者なんざ、人工的なモンだろ」
(´・ω・`)「それはキミ達だってそうかもしれないだろ」
その昔、能力に目覚めたのは人間だけだった。
それが何故かはわからない。
決まりきっていたことがらのように、人間だけに能力が発現した。
どれだけの子供を産もうとも、獣族の子供に能力が発現することはなかった。
故に、この学園支配下から抜け出せば、獣族には迫害の荒らしが待っている。
('A`)「純粋な能力者も産めないような種族の癖に」
(´・ω・`)「ボクは男だから産めないに決まってるでしょ」
('A`)「文面のままにしか取れないのか。
流石は低脳種族ですね」
-
( ´_ゝ`)「おっとお呼びかな?」
(´<_` )「お呼びではないぞ兄者」
ドクオと、彼と火花を散らせていたショボンの間に一人の男が割り込む。
ショボンよりも濃い青の毛を持つ男の頭にはやはり三角の耳がついている。
彼も獣族だ。
隣に立っている男は双子の弟の弟者だ。
顔立ちこそソックリだが、毛色が違う。
兄とは違い弟の毛色は黄緑だ。
('A`)「あー。獣くせぇんだよ」
吐き捨てるようにドクオが言う。
周りにいる者達が彼の言葉を止めないのは、それを口に出す人間が少なくないからだ。
人間は当然のように受け入れ、獣族は歯を食い縛りながら耐える。
( ^ω^)「ドクオ。止めるお」
('A`)「何だよ」
-
( ^ω^)「ボクは獣族の人とも仲良くしたいお」
('A`)「お前は本当に甘いよなぁ」
( ^ω^)「よく知りもしないで嫌いあいたくないんだお」
( ´_ゝ`)「おー。それはいい心がけだ」
( ^ω^)「おっ」
ブーンは兄者に顔を向ける。
( *^ω^)「そうかお? そう思ってくれるかお?」
嬉しそうに両手を広げ、兄者に抱きつこうとする。
今までにもブーンは同じ主張をしてきたのだが、受け入れてくれる者はほぼいない。
-
(´<_` )「おっと。それ以上近づかないでもらおうか。『人間様』」
(;^ω^)「お……」
兄者に触れる前に、別の物がブーンの鼻先に突きつけられる。
冷たいそれは、向こう側が透けている。
(;´_ゝ`)「おいおい。朝っぱらから血を見るのは勘弁だぞ」
(´<_` )「兄者は血が嫌いだからな」
(;´_ゝ`)「そーいう問題じゃないんだけどなぁ」
困ったような目をして肩をすくめる。
ブーンの鼻先に突きつけられている物並みの冷たさを弟者は持っていた。
ξ#゚听)ξ「ちょっと! その氷を引っ込めなさいよ!」
(´<_` )「じゃあ先に離れてくれないか?」
-
( ^ω^)「わかったお」
('A`)「お前もいい加減わかれよ。あれが獣族の本性なんだって」
ブーンが後ろに下がるのを眺めながらドクオが言う。
( ^ω^)「違うお……。
誰が悪いとか、ないんだお」
五歩ほど下がったところで足を止め、顔を俯ける。
弟者がブーンを嫌っているのは、彼が人間だからだ。
学園内でも迫害されている獣族の弟者は、人間を嫌っている。
双子の兄である兄者はそうでもないようなのだが、弟者は身内に人間が近づくことを許すことすらしない。
( ´_ゝ`)「すまんな」
(´<_` )「兄者。人間様はオレ達みたいなヤツの声は聞かないぞ」
手にしていた氷を溶かし、水に戻す。
弟者の手から落ちた水は地面に落ち、シミを作った。
-
兄者はため息をつき、校門をくぐって行く。
途中、ショボンの肩を軽く叩いて一緒にくるように合図を送った。
('A`)「ッチ」
兄者を筆頭に去って行く獣族をドクオは忌々しげに見ている。
( ^ω^)「ドクオ、わかって欲しいお」
ブーンはドクオの良さを知っている。
体格の差を埋めて余りあるほどの勇気を持っているし、発想の転換も上手い。
捨て猫に対する優しさだって持っている。
だが、獣族に対する態度は見ての通りだ。
一番の友人であるドクオにこそわかって欲しくて、何度も説得を試みているのだが、一向に効果は見られない。
ξ゚听)ξ「大丈夫だった?」
( ^ω^)「おっ。ボクなら大丈夫だお」
-
心配そうなツンに笑顔を見せる。
気の強い性格に反して、心配性でもあるのだ。
ξ゚听)ξ「あのね。私は、ブーンの言いたいこともわかるわよ?
でもね、あまり無茶はしないで。
人間を嫌ってる獣族はたくさんいるから」
( ´ω`)「おー。悲しいお」
弟者が特別なのではない。
獣族の中には人間を嫌っている者が多くいる。
能力者であれば、誰でも入れるこの学園。
物心つく前からここにいたとしても、差別の考えは着々と受け継がれていくのだ。
歴史を学べば古来より能力を授かったのは人間だけだと習い、
迫害を受けた獣族が人工的に能力を授かることのできる技術を開発したと教えられる。
無垢な子供は純粋に考えるのだ。
ならば、人間の方が神に選ばれた存在なのだと。
獣族は、淘汰されるべきなのだと。
-
('A`)「あー。悪かったよ。
お前が獣族好きなことは知ってんだけど……」
気まずげにドクオが言う。
落ち込んでいる友人を見れば先ほどまでわいていた嫌悪感も吹き飛ぶ。
( ^ω^)「いいんだお。でも、仲良くして欲しいお」
('A`)「んー」
ξ゚听)ξ「でも、不思議よね」
( ^ω^)「何がだお?」
ξ゚听)ξ「この学園にいる能力者は全て平等。
そう言われているはずなのに、私達が授業を受ける校舎は違う」
ツンが校門の向こうにある二棟の校舎を見る。
片方が特別ボロイだとか、豪華だということはない。
まるで鏡あわせのようにソックリな校舎だ。
だが、その二つは渡り廊下もなく、繋がっていない。
片方には人間が入り、片方には獣族が入っていく。
差別こそされていないが、区別はされているように感じられる。
-
('A`)「だから、建前なんだって。平等なんて」
( ^ω^)「そんなことはないお!」
ブーンが叫ぶ。
( ^ω^)「今でこそ校舎は違うけど、昔は同じ屋敷に住んでたお。
みんな、仲良しだったはずだお」
ξ゚听)ξ「そうねぇ。私もよく遊んでたような気がするわ」
小さく微笑むツンとは反対に、ドクオはやはり渋い顔をしている。
反論を繰り出したいのだが、悪かったと言ったばかりの口で、ブーンの言葉を潰すような言葉を吐きたくない。
-
川 ゚ -゚)「種族談義も素晴らしいが、そろそろ授業だぞ」
( ^ω^)そ「早く言ってくれお!」
川 ゚ -゚)「私は今きたところだ」
(;'A`)「やべえ! 急げ!」
川 ゚ -゚)「ははは。急げよー」
ξ;゚听)ξ「重力無視なんてずるいわよ!」
川 ゚ -゚)「ずるいも何も、これが私の能力だからな。ははは」
ふわふわと空を駆けながら教室へ向かう黒髪の美女、クーを三人は睨む。
彼らのクラスは校舎の三階。階段を使わなければ行くことができないが、時間がかかりすぎる。
(;^ω^)「走るお!」
ブーンが二人の腕を掴む。
ξ゚听)ξ「え」('A`)
-
ブーンの指が二人の腕に食い込んだ。
女のツンと、筋肉のないドクオにとってそれは非常に痛い。
しかし、それに文句を言う暇などない。
二人は瞬時にこれから己の身に起こることを理解し、ブーンの腕を掴む。
(;^ω^)「うおおおおおお!」
地面を蹴る音。
舞うのは砂埃。
ξ;゚听)ξ「――――っ!」
(;'A`)「――――っ」
ブーンに掴まれ、ブーンを掴んでいる二人は風になびく。
人がなびくほどの風をブーンは生み出していた。
-
( ^ω^)「セーフ!」
ブーンが教室の扉を開けて転がりこむ。
両腕にいた二人も同じように転がりこんだ。
川 ゚ -゚)「おお、流石だな」
( A )「し、死ぬ……」
ξ )ξ「あんた……自分の、速さを……」
振り落とされれば軽傷ではすまない。
二人は必死にブーンの腕に縋りついていたため、息も絶え絶えだ。
(;^ω^)「正直すまんかった」
遅刻を回避するために使ったのは、ブーンの能力だ。
足を強化する能力を持つ彼の通った後には、コゲのような後が残っていることだろう。
lw´‐ _‐ノv「じゃあ、さっさと座ってー」
( ^ω^)「わかりましたお」
担任であるシュールに促され、ブーンは二人を抱えて自分の席へ向かう。
幸い、二人の席はブーンの左右だ。
-
二人を席に座らせ、ブーンも自身の席に座る。
lw´‐ _‐ノv「はい。今日も元気にしていてください。以上」
川 ゚ -゚)「相変わらずの適当具合だな。おい」
クーのツッコミなど聞く耳持たずだ。
シュールは教室を見回し、欠席者が居ないことを確認すると出席簿にチェックを入れる。
lw´‐ _‐ノv「はい。終わり。
一時間目まで自由行動ー」
ゆるいシュールのHRはすぐに終わる。
一時間目までそう時間はないのだが、生徒達は思い思いの方法で時間を潰す。
未だに復帰できていないツンとドクオを心配しながら、ブーンはシュールに近づいた。
lw´‐ _‐ノv「どうしたんだい?」
( ^ω^)「先生。この学園は、平等なんですお?」
lw´‐ _‐ノv「ふむ」
シュールは出席簿に顎を乗せる。
-
lw´‐ _‐ノv「平等か。平等でないか。で言えば、平等じゃないだろうねぇ」
( ^ω^)「え」
lw´‐ _‐ノv「まず教師。
この学園内にいる人はみんな能力者だけど、獣族の能力者は、最年長でもまだ未成年。
なので、人間は人間の教師に教えてもらうが、獣族も人間の教師に教わることになる」
確かに、些か不平等な気がする。
教師とはいえども、獣族を嫌悪している人はいるはずだ。
lw´‐ _‐ノv「そして、教科書。
本来なら、研究所を作り、能力者を生み出すことに成功した獣族だって評価されるべきだ。
でも、そうは書かれない」
神の力を捻じ曲げた者。もしくは、非人道的な者として研究所を作った獣族は描かれる。
悲しげに眉を寄せたブーンにシュールは微笑みかける。
lw´‐ _‐ノv「だが、キミ達の世代から変わっていけばいいさ」
( ^ω^)「……そう、ですかお?」
lw´‐ _‐ノv「楽な道じゃないだろうけどね」
-
シュールはブーンの頭を撫でる。
乱暴に撫でられ、ブーンの髪はくしゃくしゃになってしまう。
(;^ω^)「ちょっ」
lw´‐ _‐ノv「はは。愛い奴め」
ξ゚听)ξ「あ! シュー先生! 何してるんですか!」
ようやく復帰してきたツンが、机を叩き立ち上がる。
慌ててやってきた彼女をシュールは微笑ましそうに見ていた。
( ^ω^)「助かったお」
ξ゚听)ξ「もう。すぐ玩具にされるんだから」
lw´‐ _‐ノv「そういうつもりはないのだがね」
-
( ^ω^)「先生。ボク、頑張りますお」
lw´‐ _‐ノv「そうかい」
シュールは笑う。
彼女自身は獣族に対して、嫌悪感は抱いていない。
正しくは、抱くほどの場所にもいないのだ。
獣族など路傍の石と変わらない。
そして、そんな考えを持っている自分はおかしいのだという自覚もある。
lw´‐ _‐ノv「キミに期待しているよ」
今さら変えることは難しく、自ら動くのは面倒だ。
けれど、次の世代が新しい世界を見せてくれるというならば、シュールはいつまでも待つつもりだ。
待つだけならば誰にも迷惑をかけないし、面倒でも難しいことでもない。
( ^ω^)「そういえば、先生は出席簿とペンしか持っていないけど、
今日の授業はそれでいいのかお?」
沈黙。
lw´‐ _‐ノv「……早く言いたまえよ」
どうやら、うっかりしていただけのようだ。
-
lw´‐ _‐ノv「しかたがない。取ってくるか」
ξ゚听)ξ「早くしてくださいよ」
川 ゚ -゚)「いや、むしろ遅くていい」
('A`)「授業時間削れたらいいな」
( ^ω^)「おはよう。ドクオ」
シュールが教材を取ってくる間は、チャイムが鳴ろうとも休み時間のようなものだ。
クラスメイト達は楽しげに笑っている。
ドクオやクーのような言葉を出す者も多い。
lw´‐ _‐ノv「そんなことばっかり言ってると、休み時間を削って授業しちゃうぞー」
(;'A`)「げっ! それは勘弁します!」
無駄のない動きで土下座をする。
その美しさといったら、今朝ツンに土下座していたブーンなど目じゃない。
-
( ^ω^)そ「そうだお! ツン! 宿題!」
ξ゚听)ξ ツーン
( ^ω^)「Oh……。無視……」
lw´‐ _‐ノv「まあ、ブーンは減点しておくよ」
ξ゚听)ξ「よろしくお願いします」
( ;ω;)「ノオオオオオオオオ!」
悲痛な叫び声を上げているブーンを見てシュールは笑う。
その笑みが崩れぬうちに教室の扉を開く。
lw´*‐ _‐ノv「それでは行ってくるよ。まあ、少しでも写しておくんだね。
私の気分によっては減点の度合いが変わるかもしれないよー」
( ;ω;)「結局、減点はされるんじゃないですかおおおおおお!」
楽しげなシュールが教室を出る。
ブーンは再びツンに土下座を開始した。
ξ゚听)ξ「もー。いくら言っても――」
ツンの言葉を最後まで聞き取ることはできなかった。
彼女の声に、窓ガラスを震わせるほどの爆発音が重なったのだ。
-
(;^ω^)「な、なんだお?!」
川 ゚ -゚)「爆発音だったようだが……」
ξ;゚听)ξ「シュー先生!」
ツンが教室を飛び出す。
彼女に続いて、何人もの生徒が教室から顔を出した。
(;'A`)「こりゃ……」
誰もが言葉を失った。
彼らの耳をつんざいた音はクーの言った通り爆発音だった。
廊下は見るも無残な姿になっている。
近づいて覗けば、下の階が見えるかもしれない。
不幸中の幸いとでもいうのか、教室への被害はなかった。
爆心地と思われる場所の壁は崩れていたが、外の風景が見える程度だ。
( ^ω^)「……シュー先生は?」
ブーンが疑問を投げる。
-
(;'A`)「お、い……あれ……」
ドクオが指を差す。
爆心地とは逆の方向だ。
ξ゚听)ξ「あ……。ま、さか……」
ツンが顔を青白くして崩れ落ちる。
ドクオが指差す先、ツンが見つめる先。
一つの塊がある。
黒焦げで、もう誰かもわからないモノだが、簡単な推測で正体がわかる。
( ^ω^)「シュー、先生……?」
誰のものかもわからぬ悲鳴が上がった。
-
爆発に、死体。
混乱せぬ方が無茶というものだ。
ある者は叫び、ある者は能力を使ってその場からの脱出を計ろうとする。
まさに阿鼻叫喚。
ブーンは呆然とその地獄絵図を眺めていた。
('A`)「誰が、こんなこと……」
ドクオも呆然としている。
能力を使うことも忘れているようだ。
騒ぎの中、誰かが叫ぶ。
その叫び声が誰のものかなど誰も気にしない。
「獣族の奴らに違いない!」
根も葉もない言葉だ。
しかし、混乱に陥っている者達はその言葉に縋った。
理不尽でわけのわからない事態を目の当たりにするくらいならば、
確かな敵のいる異常事態を受け入れる方が張るかにわかりやすい。
-
(;^ω^)「そんな確証、どこにあるんだお!」
ブーンの言葉は届かない。
周りは獣族への怒りを募らせるばかりだ。
能力を発動させ始めている者までいる。
ξ゚听)ξ「ブーン……」
ツンは不安そうな顔をしている。
これから何が起こるのかわからない。
('A`)「どうするよ」
比較的ドクオは冷静だった。
周りが熱くなれば熱くなるほど冷めていくタイプの人間なのだ。
( ^ω^)「どうするって……」
('A`)「獣族と戦いになったら、どうするんだ」
わかりやすく言葉を変えたドクオに、ブーンはハッとする。
このままだと戦うことになるかもしれない。
教師や大人が止めてくれることも考えるが、この非常事態の中、生徒達に手が回るのかわからない。
-
( ^ω^)「ボクは、戦いたくないお」
('A`)「そうか。ならそれでいい」
( ^ω^)「お?」
獣族を嫌っているドクオのことだ。
甘いことを言うなと一喝されるのだとばかり思っていた。
('A`)「迷いながら戦うのが一番危ない。
なら、戦わないと決めて、隠れているほうがよっぽど安心だ」
ドクオは手を伸ばし、手の先からどろりとしたモノを出す。
ソレは黒く、粘着性を持っている。
('A`)「いざとなったら、お前はツンと隠れてろ。
戦いは、オレがする」
( ^ω^)「ボクはドクオにも戦って欲しくないお」
('A`)「そうも言ってらんねぇかもだろ」
二人が言葉を交わしていると、スピーカーから音が聞こえた。
-
『獣族の生徒がこちらの校舎へ押し寄せてきています!
生徒は至急非難してください!』
( ^ω^)「そんな!」
ブーンが窓へ駆け寄り、下を見る。
('A`)「おー。耳、耳、耳。
カラフルな色だなぁ。ありゃ、間違いなく獣族だ」
ξ゚听)ξ「じゃあ、本当に、あの爆発は……」
(;^ω^)「何かの間違いだお」
('A`)「ブーン。現実を見ろよ。
お前の言うとおり、獣族にも良い奴はいるだろうけどな、大勢は悪い奴なのかもしれねぇ。
そうでなくても、一部に悪い奴がいる可能性は十分になる。
それこそ、オレ達人間が全員善人じゃないようにな」
-
( ^ω^)「それは……そうだろうけど……」
('A`)「どっちにしろ、ああやって押し寄せて来てるってことは、敵意がある可能性が高い。
お前とツンはここにいろ」
( ^ω^)「でも」
('A`)「でも。とか、だって。とかはいらねぇよ。
お前は戦力外だし、ツンは防御系の能力だ。
しっかり守ってもらえよ」
本来ならば、男が守ってやるべきなのかもしれないが。と、いう思いは心の内に留めておいた。
その辺りは能力の差であって、ブーンやツンにはどうしようもできない部分だ。
ξ゚听)ξ「ドクオ……」
('A`)「オレなら大丈夫だ」
ξ゚听)ξ「うん。でも、できればでいいから……」
('A`)「お前はブーンの味方だもんなぁ」
ξ*゚听)ξ「そ、そーいうわけじゃないけど!」
-
('A`)「あー。はいはい。お熱いねぇ」
ξ#゚听)ξ「ドクオ!」
ツンが手刀を打とうとしてくるので、その前に教室から飛び出す。
('A`)「んじゃ、行ってくるわー」
駆けだすドクオの背中を見送る。
元々、この学園にいる生徒達は能力を駆使するための授業も受けている。
その中には戦闘訓練も存在していた。ゆえに、戦うことへの恐怖は比較的薄い。
落ち着いて見てみれば、教室には数人程度しか残っていない。
逃げた者もいるのだろうけれど、その殆どはドクオと同じように戦いに向かったのだろう。
ξ゚听)ξ「なんで、こんなことになったんだろ」
( ^ω^)「わからないお……」
二人は身を寄せ合い、遠くから聞こえてくる音を聞いていた。
-
ブーン達から離れたドクオは爆発によってできた穴を飛び降り、二階へ移動した。
通常ならば痛みが伴うような行為だが、ドクオの能力はその負荷を軽減してくれる。
('A`)「ま、見てくれは悪いが、便利だよな」
ドクオの能力は、指先から黒い粘着質な物質を出すものだ。
ソレは動きこそ鈍いが、ドクオの意のままに動く。
高い所から飛び降りるときなどは、ソレを下にためれば立派なクッションになる。
('A`)「さて、獣族の奴らはっと……」
不意打ちを食らうことを避けるために、ドクオは身を隠しながら進んでいく。
周囲から聞こえる怒声と破壊音は、人間と獣族の戦いが行われていることを示している。
「この劣等種族が!」
「貴様らにオレ達の苦しみがわかるのかぁ!」
地面が揺れる。
衝撃系の能力か、肉体強化の能力か。
('A`)「第一、どっちの能力だ」
大概の生徒の名前と顔は知っているが、持っている能力までは知らない。
日常生活で能力を使うことは稀であるし、己の能力を自慢するような気にはなれない。
-
興味の赴くままに足を進め、ドクオは物陰から戦いを覗く。
(,,メД゚) ハアハア
从;゚∀从 ハアハア
対峙している二人には見覚えがある。
片方は獣族であるギコ。もう片方は人間であるハインだ。
('A`)「今の所、両者引けを取らずってところか」
ギコは片目を潰されているが、ハインは右肩をざっくりとやられており、腕が動かせないようだ。
二人は荒れた息を整える間もなく、互いに飛びかかる。
(,,メД゚)「くそっ!」
手にしていた刀を振る。
ハインとの距離は離れていたのだが、彼女は避ける動作をおこない、そのままギコの懐へもぐりこむ。
从 ゚∀从「カマイタチか。ケチな能力だぜ」
ニィと上げられた口角をギコは見た。
-
(,,メД゚)「っく!」
从 ゚∀从「喜べ! あたしのような人間に倒されることを!」
ハインの手がギコの顔を覆う。
ギコは手にしている刀で直接ハインを突き刺そうとするが、距離があまりにも近い。
一度引かなければ刀を振ることはできない。
(,;メД゚)「離せ!」
从 ゚∀从「だが、断る」
顔を掴む手に力が入る。
途端、ギコの体が震え、そのまま力を失くした。
('A`)「……何だ?」
何が起こったのかわからない。
一先ず、獣族が倒されたという事実は揺らぐことがないので、ドクオは物陰から姿を現す。
从 ゚∀从「誰だ……っと、人間か」
('A`)「おう。敵じゃねーぞ」
-
('A`)「お前の能力って何だ?
さっきまで見てたんだけど、何が起こったかさっぱりだ」
从 ゚∀从「何だよ。覗き見かよー。見物料払えー」
戦いをおこなったばかりとは思えない声色だ。
ギコを掴んでいた手、つまりは左手こそふらふらとさせていられるが、右肩はすぐにでも治療が必要だろうに。
从 ゚∀从「簡単なことさ。
あたしの能力は音でね。人には聞こえないような音だけど、波動は確かに存在しているのさ」
('A`)「そいつを思いっきり獣族にぶち込んだのか」
从 ゚∀从「そーいうこと。
こいつら、耳いいからキツイだろうなぁ。動きもいいんだけど、あたしが右肩やられてるから油断したんだろうなぁ」
飄々と言ってのけてはいるが、彼女ほどの傷を負ったまま、己に突っ込んでくるとは中々考えない。
一歩間違えればギコの刀で真っ二つにされていたかもしれない。
('A`)「度胸あるなぁ」
从 ゚∀从「ま、このくらい平気だって。
何せ相手は劣等種族なんだから」
(´・ω・`)「うん。そう思っているといいよ」
从 ゚∀从「え?」
-
ハインが振り返ると、そこには獣族のショボンが立っていた。
本を片手に立っている姿は、人間を襲いにきたようには見えない。
(´・ω・`)「ひるがお」
ショボンがハインを指差して言う。
从 ゚∀从「は?」
疑問符を浮かべると同時に、彼女の足元が盛り上がる。
先ほどの戦闘で荒れているとはいえ、ここは二階だ。とうぜん床はコンクリートでできている。
(;'A`)「ハイン?!」
彼女の足元から無数のツタが生える。
それらはハインに絡みつき、動きを束縛する。
(´・ω・`)「花言葉は、絆・拘束。
強く、強く拘束されて、気絶でもすればいいよ」
-
从 ∀从「うっ……あっぁ……!」
どれほどもがこうとも、ツタはハインを離さない。
ギリギリという音が聞こえてきそうなほどの拘束だ。
(#'A`)「てめぇ! ハインを解放しろ!」
(´・ω・`)「何で怒るのさ。
こっちは、友人がやられてるんだよ?」
(#'A`)「んなもん知るかよ!
第一、そっちがこの校舎に押しかけてきて喧嘩売ってんだろうが!」
怒りをぶちまけるドクオに対し、ショボンは首を横に振る。
(´・ω・`)「心外だなぁ。
しかけたのはそっちでしょ?」
(#'A`)「んだと!」
(´・ω・`)「車百合」
ドクオの口から言葉が出なくなる。
口は動くのだが、発せられるのは息だけだ。
-
(´・ω・`)「花言葉は、純潔と沈黙」
解説などなくてもわかる。
ショボンの能力は花の名前を紡ぎ、能力を発動させたい者を指差せば花言葉にちなんだ事が起こる。
知識がなければ使えぬ能力だが、知識があればその力は無限。
(#'A`)「――――――!」
どれだけ怒りの言葉を紡ごうとも、空気中にそれが出ることはない。
苛立ちのあまり地団駄を踏むが意味はない。
(´・ω・`)「ボク達はずっと我慢してきたんだよ?」
ショボンがドクオを睨む。
負けじとショボンも睨む。
(´・ω・`)「生徒にも蔑まれて、先生にも蔑まれて。
それでも、いつか能力が認められればって……」
('A`)「――――」
言葉を紡ぐショボンは、今にも泣きそうな顔をしていた。
-
(´・ω・`)「なのに、そうまでして、ボク達を踏みにじりたいのかい。
人間様ってやつはさぁ!」
ショボンはドクオを指差す。
('A`)
しかし、彼が言葉を発する前にドクオが動いた。
地団駄を踏みながら地面へ落としていた粘着質な液体を積み上げる。
動きは鈍いが、小柄なドクオの姿を隠すことは容易だった。
(´・ω・`)「ちっ!」
正確な位置がわからなければ能力は発動させられない。
ショボンはドクオが見える位置に移動するために足を動かす。
もとより、人間より身体能力が高い獣族だ。
その脚力は並みではない。
-
(´・ω・`)
ショボンが指を差す。
('A`)
ドクオも指を向けていた。
二人の能力が同時に発動する。
(´・ω・`)「甘野老(あまどころ)!」
('A`)「――!」
ショボンの言葉がドクオを襲う。
ドクオの作り出した壁から分離した粘着質な液の弾丸がショボンを襲う。
-
(´・ω・`)「うっ……!」
粘着質な弾丸は確実な痛みをショボンに届けた。
衝撃で後ろに吹き飛ばされた彼は床に叩きつけられ背を打った。
( A )
対してショボンの攻撃を受けたドクオは、その場に崩れ落ちていた。
目には光を宿しておらずぼんやりと床を眺めている。
(´・ω・`)「……はな、言葉、は元気を、出して。
それと、心の痛みの、分かる人……」
苦痛に顔を歪めながらもショボンは口角を上げた。
してやったり顔とでもいうのだろうか。
(´・ω・`)「ボクの、獣族の、痛みを……知ればいいんだ」
悲しげな呟きを聞く者は誰もいない。
-
( ^ω^)「何だか、あっちこっちからすごい音がしてるお」
ξ゚听)ξ「ドクオは大丈夫かしら……」
ドクオが教室を飛び出してからも、あちらこちらから戦闘音が聞こえ続けている。
切りつけるような音であったり、爆発音であったりする。
死人が出たという叫びは聞かないが、出ていても不思議ではないだろう。
( ^ω^)「……ボク、やっぱり様子を見に行くお」
ξ゚听)ξ「駄目」
(;^ω^)「何でだお」
ξ゚听)ξ「ドクオも言ってたでしょ、戦うつもりのない人間がいても邪魔なだけよ」
(;^ω^)「でも……」
ξ゚听)ξ「もしドクオの戦闘中に割り込んだとして、それでアイツの気がそれちゃったらそれこそ危ないでしょうが」
立ち上がったブーンに対してツンは座ったまま動かない。
-
从'ー'从「そうだよ〜。危ないよ〜」
教室に残っている数少ない生徒である渡辺がゆるい口調で話しかけてきた。
ここが戦場になりかねないことを忘れさせるほどのゆるさだ。
( ^ω^)「お……」
从'ー'从「ちゃーんと待っていれば、人間が勝つんだから。大丈夫だよ〜」
( ^ω^)「ボクは、そういうことを心配しているんじゃないお……」
人間が勝つとか、獣族が勝つとか。そんなことはどうでもいい。
ブーンはみんなが怪我をしていないか、誰かが死んでしまっていないのかが気になっている。
すでに一人は死者が出てしまっている。
これ以上、シュールのような存在を増やしたくない。
从'ー'从「どうせ〜始めの爆発も〜獣族のしわざだよ〜」
ξ゚听)ξ「……まあ、全てが収まったら、ちゃんと始めの爆発も調べてもらいましょ」
( ^ω^)「流石ツンだお! わかってくれてるお!」
( ´_ゝ`)「流石と聞いて」
(´<_` )「だがお呼びじゃないだろうなぁ」
-
ブーンが理解者に喜んだのもつかの間、ここにいるはずのない存在が顔を出した。
( ´_ゝ`)「やあ」
(;^ω^)「何でここに……」
(´<_` )「答える必要があるか?」
手ぶらの兄者と違い、弟者は鋭い氷を手にしている。
刺されれば痛いではすまないだろう。
( ´_ゝ`)「いいじゃないか。
なあブーン。オレ達はな、大切な仲間が殺られたんだ。
誰の仕業か知らないか?
オレ達の校舎に罠がしかけられていたんだ。地味なものが多かったが、大量に」
(´<_` )「兄者。どうせ、こいつら全員が仕組んだことだ。聞くだけ無駄だ」
(;^ω^)「し、知らないお!」
身に覚えのない罪にブーンが叫ぶ。
隣にいるツンも彼らの言葉に驚いている。
-
ξ;゚听)ξ「私達の校舎も何者かに爆発されたの!
ここに来たなら見たでしょ? 廊下の大穴!」
ツンもブーンに加勢して言葉を紡ぐ。
真摯な表情に偽りはないと見たのか、兄者は顎に手を当てて考える素振りを見せる。
( ´_ゝ`)「だとすれば、オレ達の両方を潰そうとしている奴がいるのかもな」
(´<_` )「おい。兄者。人間様の言うことを信じるのか?」
弟者はあからさまに信じない態度を取っている。
双子だというのに、何とも正反対な獣族だ。
(;^ω^)「嘘じゃないお。
シュール先生……。ボクらの担任の先生は、死んじゃったんだお」
( ´_ゝ`)「ああ、廊下に転がっていた」
ξ゚听)ξ「……」
触れることも恐ろしくて、シュールの死体はそのままになっていた。
ツンは死体を放置していることに罪悪感があるのか、顔を俯けてしまう。
-
( ´_ゝ`)「いいじゃないか。信じてやろう。
オレはブーンが獣族を見下していないと知っている」
生徒の数はそれほど多くない。
ブーン程の変わり者の噂はすぐに出回ってしまう。
(´<_` )「しかし……」
( ´_ゝ`)「オレは血が嫌いだし、無理に戦いたくない。
お兄ちゃんの頼みだ。たまには聞け」
兄者は掴みどころのない笑みを浮かべる。
ブーンとツンはその様子を緊張した面持ちで眺めていた。
説得が成功するか否かで、今後の流れは大きく変わる。
(´<_` )「……いつも、聞いてやっている気がするが」
( ´_ゝ`)「そうか? なら今回も聞け」
堂々宣言する兄者に、弟者は肩を落とす。
興が冷めたとでもいう様子だ。
( ´_ゝ`)「ありがとう」
兄者が笑う。
その顔に向かって、何かが投げ飛ばされた。
-
( _ゝ )「うあああああああ!」
(´<_`;)「兄者!」
顔に何かが付着した兄者は背をそらし、床を転げ回る。
慌てた弟者が彼を抱き起こし、慌てて氷を当てた。
(;^ω^)「何が……」
ξ;゚听)ξ「渡辺ちゃん!」
ツンが級友の名前を叫ぶ。
ブーンが渡辺の方を向くと、何かを達成したような顔をしている彼女と目があった。
从'ー'从「えへへ〜。ちゃーんと、当たったよぉ〜」
(;^ω^)「確か、渡辺さんの能力は……」
ブーンは己の脳みその中を必死に探しまわる。
確か、あの性格と容姿に似合わぬ、えげつないものだったような気がする。
ξ )ξ「灼熱……」
(;^ω^)「あっ!」
ツンの言葉で思い出す。
渡辺の能力は、消しゴムを灼熱の溶岩もどきにする。
-
もどきであるから、一瞬で肉や骨が溶けることはないだろうが、重傷は間違いなしだ。
氷を使う能力者である弟者がいたことが幸いしたのか、兄者は暴れることを止めている。
( <_ )「だから、言ったんだ……」
しかし、弟者の様子は明らかにおかしい。
もはや和解の余地など残されていないだろう。
( <_ )「人間なんて、二度と、信じるなって……!」
歯を食いしばる音が聞こえてきそうだ。
弟者は怒りに震えている。
攻撃をおこなった人間に対して、それから守ることができなかった己に対して。
この学園の中で、身内がいるというのは貴重だ。
大抵の者は親からも兄弟からも離される。
彼らが共にいるのは、単純に、二人とも能力者であったからにすぎない。
-
(゚<_゚ )「殺してやる!」
兄者をそっと床に横たわらせ、報復のために能力を発動させようとする。
彼の手に巨大な氷が出現する前に、服の裾が引かれた。
( ´_ゝ:::)「まあ、落ち着け」
(;^ω^)「いや、そりゃ無理な話だと思うお」
弟者の括りからすれば、ブーンも敵になるのだろうけれども、言わずにはいられない。
片目が潰れ、皮膚も爛れているような者が平然としているのだから、ツッコミも入るだろう。
( ´_ゝ:::)「うん。まあ、そうだろうな。
こうなったら弟者は止められんよ。
つーか、止める気にもならん」
(;^ω^)「それは……」
そうだろう。
彼からしてみれば、油断したところを攻撃され重傷を負ったのだ。
今さら仲良くしようと言っても無駄なのだ。
( ´_ゝ:::)「だから、オレも殺る」
( ^ω^)「え」
それでも、まさかこのような発現が飛び出すとは、思っていなかった。
-
( ´_ゝ:::)「弟者、銃だ」
(゚<_゚ )「……把握した」
今まで弟者が出していたのは鋭いていどの氷だったが、今回のものは違う。
形は銃の形をしていた。
( ´_ゝ:::)「どーも」
弟者から氷を受け取った兄者は、冷たい氷を眺める。
( ´_ゝ:::)「なぁ。オレの能力、知ってるか?」
( ^ω^)「知らないお」
( ´_ゝ:::)「そうか。そーだよな。
なら、見ていてくれ」
楽しげに言う兄者を見ながら、ブーンは横目で渡辺を見た。
また余計なことをされては困る。と、思っていたのだが、消しゴムが見つからないらしいので、しばらくは安全だろう。
( ´_ゝ:::)「ほーら」
兄者の手の中にあった氷に色がついた。
それは徐々に、氷の光沢から、金属の光沢を持ち始める。
(;^ω^)「そんな……」
( ´_ゝ:::)「じゃーん! 銃の出来上がり!」
-
楽しげに見せられたモノは、確かに銃だ。
よく漫画で見るような黒塗りの銃。
( ´_ゝ:::)「オレの能力は、形さえ合っていれば本物にできる能力。
大鎌だって、銃だって、剣だって。
何だって本物にできる」
氷で造型することが可能な弟者といれば、彼の能力は非常に使い勝手がいいだろう。
銃を手の中でくるりと回し、すぐに構えて引き金を引く。
ξ;゚听)ξ「危ない!」
ツンが手を前に突き出し、シールドを張る。
彼女の能力は単純きわまりないシールドだが、その分硬さには自信がる。
けれど、単純と、もう一つ欠点がある。
(;^ω^)「ツン! ボクじゃないお! 渡辺さんだお!」
シールドを張れる範囲が、狭いのだ。
-
从;'ー'从「あ、あれれ〜」
目を見開いている渡辺の肩に銃弾が当たる。
頭を狙わなかったのは、ヘッドショットに自信がないからだ。
( ´_ゝ:::)「よーし。次は足、行っちゃうぞー」
(゚<_゚ )
楽しんでいる風な兄者の隣には、未だ怒りを抑え切れていない弟者がいる。
手の中には再び鋭い氷が握られている。
(;^ω^)「ツン!」
ξ;゚听)ξ「分かってるわよ!」
ツンが渡辺に駆け寄り、シールドを張る。
それを目に映すや否や、弟者が床を蹴り、ブーンに飛びかかる。
(;^ω^)「おっと!」
とっさに、足を強化し上へ跳ねる。
-
(゚<_゚ )「逃がすか……!」
弟者が氷の杭を幾つも生み出し、宙にいるブーンへ投げつける。
鋭いそれは掠るだけでも頬を傷つける。
(;^ω^)「うっ……」
小さな傷を負いながらも、ブーンは足を天井へつける。
足場があれば動くことは可能だ。
ブーンは天井を蹴り、弟者に突撃する。
ξ;゚听)ξ「ブーン!」
シールドを張った状態のままツンが叫ぶ。
ブーンが弟者を巻きこんで床に突撃したため、辺りには埃が舞い散っている。
誰も動かない。
攻撃手段があるはずの兄者も動かなかった。
弟のことが気にかかっているのだろうか。
-
( <_ )「くそ……」
(メ^ω^)「弟者、大人しくしてくれお」
埃が再び床に戻ったとき、弟者を組み強いているブーンの姿が現れた。
ツンは安堵の息をもらし、兄者無表情でその光景を見ている。
( <_ )「どうせ、お前も、獣族を馬鹿にしてるんだろ」
(メ^ω^)「ボクはそんなことしないお」
(;<_; )「嘘だ!」
震える声で叫んだ弟者の目からは涙が流れていた。
思いがけぬ光景に、ツンと渡辺は声を失う。
(メ^ω^)「嘘じゃないお」
(;<_; )「そう言った奴も、最後は裏切った!」
(メ^ω^)「お?」
ブーンが首を傾げる。
-
( A )
「獣族なんて能力者に相応しくない」
「神に見捨てられた種のくせに」
「お前らなんて存在している価値もない」
「どこかに隔離してしまえばいいんだ」
「殺してしまえ。動物実験にでも使ってやれ」
「あんた達は親にも捨てられた。いや、道具にされてるんだ」
「家族に会いたいか? 向こうはそうじゃないぞ」
「会いたいのは、有能な子供に。だ」
「家族が欲しけりゃ力をつけろ」
-
( A )
ドクオは深い闇の中で、ろくでもない言葉ばかりを聞いていた。
どれもこれも、人のことなど気にしない言葉だ。
言葉がナイフになることを知らない。
子供にとって、親という存在がどれほど大きいのかも知らない。
柔らかい心がズタズタにされていく。
泣いても、叫んでも、誰も助けてはくれない。
いるのは傷を舐めあうような仲間だけだ。
傷を舐めあっても傷は癒えない。
むしろ、菌が繁殖して膿んでいくだけだ。
膿んだ傷口は痛みと熱を持つ。
その熱の名前をドクオは知っている。
胸の内に宿るその熱は、怒りだ。
-
(;A;)「うっ……うう……」
ドクオは涙を流した。
胸の辺りを握り締め、うずくまる。
(;A;)「いてぇよ……」
(´・ω・`)「……うん。知ってる」
声に反応して顔を上げれば、壁にもたれかかっているショボンが目に入る。
ドクオの放った弾丸のダメージが未だに残っているのだ。
いくら戦闘訓練を受けているとはいえ、漫画の世界ではないのだから、痛みを押して動くことはできない。
(;A;)「これって……」
(´・ω・`)「ボクらの痛みだよ」
ショボンの能力で、ドクオは彼の心の痛みを知ることとなった。
悲しみも、絶望も、怒りも。全てが心を痛める。
(;A;)「息、できねーよ」
(´・ω・`)「うん」
-
心の痛みが、これほど苦しいと知らなかった。
息が詰まる。
足が震える。
(;A;)「オレっ……。ごめっ……」
言葉に嗚咽が混じる。
(´・ω・`)「謝ったって、ボクの心は痛いままなんだ」
膿みが溜まった心は、そう簡単には癒えない。
能力を使わなければ、人間は獣族の痛みなど知らないのだ。
それほど幸せに満ちている彼らが、ショボンは嫌いだ。
(;A;)「うん。ご、め……」
(#´・ω・`)「だから! 謝ったってしかたがないんだ!」
ショボンが怒声を上げる。
弾丸の痛みで能力が切れていたようだが、新たに使うため、ドクオを指差す。
(#´・ω・`)「パセリ」
(;A;)「う……?」
少々場違いに思える単語。
しかし、次の瞬間にドクオは先ほどまでとは別の意味で胸を握る。
(#´・ω・`)「花言葉は、死の前兆」
-
(;A;)「うっあぁぁっ!」
架せられたのは死ではない。
死の前兆だ。
死に至らぬ苦しみだけがじわりじわりとドクオを苦しめる。
酸素は入るが息は苦しい。
心臓は動くが鼓動がゆるい。
意識はあるが朦朧としている。
(;A;)「あ……うぅ……」
(#´・ω・`)「そうだ! 苦しめ!
じっと我慢していたボクらを馬鹿にして!
校舎に、あんな……。罠なんて!」
ショボンの嘆きは、死の淵にいるドクオにもかろうじて届いた。
まともに働かぬ脳となっていたが、それでもドクオは疑問を感じた。
自分達が戦っている原因はどこにある。
人間は校舎を爆破され、獣族が押し寄せてきたから戦っている。
獣族はどうやら校舎に罠をしかけられていたらしい。今までの鬱憤を爆発させるには十分すぎるだろう。
(;A;)「しょ、ぼ……ん……」
ドクオは手を伸ばす。
這い蹲りながらもショボンへ近づく。
-
おかしい。
ドクオは感じていた。
ブーンのように、獣族のことを己と対等に見てようやく訴えかけようと思った。
今までの自分を恥じるのは後にする。
(;A;)「お、か……しい。
なん、で……」
たどたどしくではあったが、ドクオは伝えた。
――何故、大人が誰もいないのだ。
これだけの騒ぎだ。
教師の一人や二人、やってきてもおかしくはないだろう。
(´・ω・`)「それは……」
ショボンも冷静さを取り戻したように表情を変えた。
今までは人間である教師が来ないことを好都合にしか考えていなかったが、いくらなんでもおかしい。
-
(;A;)「ぶぅん、は、おまえ、らが、す、き……だから」
信用していい。
友達になっていい。
笑いあっていい。
どれを伝えればいいのかわからない。
ドクオはそれら全てを視線で訴えた。
声を出すには胸が苦しすぎた。
(´・ω・`)「……ブーンはどこに?」
(;A;)「さん、かい……」
(´・ω・`)「そう」
ショボンは背を向ける。
彼はドクオが嫌いだ。
平気で獣族を見下す。
(;A;)
けれど、ショボンの能力を使ったとはいえ、涙を流してくれたのは彼が始めてだった。
(´・ω・`)
ショボンはうずくまり、肩で息をしているドクオを指差した。
-
(´・ω・`)「野萱草(ノカンゾウ)」
――花言葉は、苦しみからの解放。
-
(;<_; )「いつもそうだ! 人間は! 裏切る!」
(メ^ω^)「ボクは――」
(;<_; )「うるさい!」
涙を流す弟者に気を緩めてしまっていたのか、ブーンはあっけなく突き飛ばされる。
仕返しとばかりにマウントを取り返されたブーンは弟者の目から溢れる涙を顔に受けた。
(メ^ω^)「弟者……」
(;<_; )「昔もそうだった!」
弟者が氷でブーンの肩を突き刺す。
痛みと冷たさで上がる悲鳴にツンが動こうとするが、兄者が持つ銃は未だに渡辺の方向を向いている。
片方を守れば、片方が殺られる。
ツンは動くことができなかった。
-
(;<_; )「優しい顔をして近づいて!」
ブーンに突き刺した氷を回す。
肉がねじられる感覚は、あまり味わいたくない類の痛さだ。
(メ ω )「うあああああああ!」
叫ぶブーンに、泣いている弟者、無表情の兄者。
それを眺めていることしかできないツンと渡辺。
どうにも異常で、脱出の糸口が見つからない空間だ。
(;<_; )「獣族でもいいって! この耳も、毛も、素敵だって! 言ったくせに!」
突き刺した氷から手を離し、弟者は己の耳を掴む。
痛みに耐えながらブーンが目を開けると、弟者の耳の付け根に毛が生えていないことに気づく。
(メ^ω^)「弟者……。耳、切ろうと、したのか、お?」
傷ができて、塞がり、毛が生えなくなってしまったのだ。
ふわふわとした毛がそこにだけない。
(;<_; )「オレが、獣族でなけりゃ……」
( ´_ゝ:::)「弟者、お前がそんな気に病むことじゃないんだぞ」
黙っていた兄者がようやく口を開いた。
-
( ´_ゝ:::)「オレは駄目な兄貴だよなぁ」
兄者は足を動かす。
辺りに散らばっている氷を手にとり、アイスピックへと変化させる。
( ´_ゝ:::)「お前をそこまで追い詰めてさぁ。
それでも、オレは人間を傷つけなくないって」
アイスピックを握った兄者はツンに近づく。
シールドを挟んで彼らは向かいあう。
( ´_ゝ:::)「勝手だったよ。ごめん」
腕が振り上げられる。
シールドにアイスピックの切先が当たる。
ξ゚听)ξ「その程度で私のシールドが壊れるとでも?」
( ´_ゝ:::)「思わないけど、やるよ」
何度も、何度もアイスピックの切先がシールドに当たる。
弾かれて、わずかな痛みすら感じても、兄者は手を止めない。
-
(;<_; )「兄者! 止めろよ……。危ないだろ……」
弟者が立ち上がる。
解放されたブーンは弟者が兄者に近づくのを見ていた。
( ´_ゝ:::)「お前が泣いているのを見てさ、オレは後悔したよ。
もっと、ちゃんとお前を守ってやるべきだったって」
感情が見えない顔で、兄者はアイスピックを振り下ろし続ける。
その腰に弟者が抱きついても動きは止まらない。
(;<_; )「違う……。オレは、守ってもらったから……。
次はオレの番だと……」
(メ^ω^)「兄者?」
何があったのかを問いかけるような口調だ。
兄者は一瞬、腕を止める。
( ´_ゝ:::)「オレ達に優しくしてくれてた人間はさ、
獣族の絶望した顔が好きだったんだってよ」
吐き捨てるように言われた言葉。
そこに感情は宿っていない。
兄者は再びアイスピックを振り下ろす。
-
(;<_; )「ごめん。ごめん。兄者……」
( ´_ゝ:::)「お前は悪くない」
二人に優しくしていた女は、ある日突然その本性を現した。
ナイフを掴み、弟者を刺し殺そうとしたのだ。
「獣族が能力を持つなんて間違っているのよ」
その言葉は、今も二人の耳にこびりついている。
弟者をナイフから救うため、兄者は二人の間に割って入った。
その時、兄者の腹には深々とナイフが刺さった。
兄者が助かって、弟者は心に誓った。
もう二度と、人間は信じない。兄者も近づけさせない。
その一方で、兄者は彼女から与えられた優しさを忘れられないでした。
頭を撫でてもらったことも、優しい声をかけてもらったことも始めてだった。
-
( ´_ゝ:::)「お前が苦しむくらいなら、オレは人間を殺す」
守りたかったのは、唯一無二の家族だ。
( ´_ゝ:::)「オレ達は産みの親すら愛さない。
道具だからだ。優秀じゃなけりゃいらないからだ。
だが、弟者は違う。兄弟は違う。だから、守る」
ξ;゚听)ξ「うっ」
同じところを何度も何度も攻撃され、とうとうシールドにも限界がやってくる。
从;'ー'从「た、助けて〜」
シールドにヒビが入り、渡辺はツンの背に隠れる。
( ´_ゝ:::)「壊してしまえば、しばらくは使えないだろ?」
口角を上げる。
悪魔のような笑みだ。
ξ;゚听)ξ「あ、ああ……」
逃げたいという思いに反して、後ろにいる渡辺がしっかりとツンの制服を握っているし、足腰には力が入らない。
ツンはシールドが壊れていく様子を見ているしかできない。
-
(メ^ω^)「弟者! キミは、それでいいのかお!」
(;<_; )「え?」
ブーンの声に弟者が顔を上げた。
(メ^ω^)「キミの知っている兄者は、どんな奴なんだお!」
(;<_; )「兄者は……」
ツンのシールドが破れた。
ξ;゚听)ξ
( ´_ゝ:::)「まあ、キミは後でいいや」
兄者はツンを押しのけ、渡辺に銃口を突きつける。
どのような下手くそでも、この距離ならば外さない。
从;'ー'从「あの、悪気は……なかったんです……」
( ´_ゝ:::)「これが、悪気の有無でどうにかなるとでも?」
从;'ー'从「ですよね〜」
-
引き金が引かれる。
その、直前。
(;<_; )「兄者!」
弟者が強く兄者の腰を抱き締める。
もはや縋りついているのと同意義だ。
( ´_ゝ:::)「どうした。すぐ終わらせるぞ?」
(;<_; )「違う。違うよ……兄者」
( ´_ゝ:::)「何がだ」
弟者は顔を横に振る。
兄者は首を傾げる。
二人の反応にツンはブーンを見た。
彼は弟者を信じているような顔をしている。
-
(;<_; )「オレは、兄者に傷ついて欲しくない……」
( ´_ゝ:::)「ありがとう」
(;<_; )「兄者は、その女を殺したら、傷つくんじゃないか?」
兄者の目がわずかに見開かれる。
(;<_; )「傷つくならやめてくれ」
( ´_ゝ:::)「傷ついてるのはお前だろ」
(;<_; )「オレは間違っていた。兄者は、人間と、生きたいって、何度も言ってたのに……」
兄者が引き金を引けば、誰も幸せにはなれない。
兄者が傷つけば、弟者も傷つく。渡辺は無論死ぬ。
ならば、渡辺など生かしておけばいい。
それで傷を増やさずにすむのであれば。
( ´_ゝ:::)「オレは、兄思いの弟を持てて幸せだよ」
そう言って、兄者は銃を降ろした。
(;<_; )「兄者……」
弟者も兄者の腰から離れ、立ち上がる。
-
(;<_; )「でもな……」
( ´_ゝ:::)「ああ。言いたいことはわかるぞ。双子だからな」
二人は互いに笑いあう。
片方が泣いており、もう片方が顔面が爛れていて、何ともぎこちない笑みではあったが。
(メ^ω^)「お」
弟者と兄者が渡辺の方を見る。
ツンは慌てた様子だったが、まだシールドを張ることはできない。
从;'ー'从「あれれ〜。和解してくれるんじゃぁ……」
( ´_ゝ:::)「それとこれとは」
(´<_` )「別の話だ」
弟者が渡辺の顔面を殴り、兄者は彼女の腹を蹴り上げた。
絶妙なコンビネーションは個々の技の威力を落とさず、真っ直ぐに渡辺へお届けする。
(´<_` )「兄者の怪我は治らないからな」
( ´_ゝ:::)「不意打ちだったし」
ξ;゚听)ξ「まあ、しかたないかもね」
痛みに呻いてはいるが、生きているのだから文句は言えまい。
-
( ´_ゝ:::)「流石だなオレら」
(´<_` )「ああ、流石だった」
拳を合わせている二人を見て、ブーンは一息ついた。
誰も死ななかった。誰も悲しまなかった。
兄者の目については、非常に残念な結果になってしまうだろうけれど。
(´・ω・`)「ああ、いたいた」
(´<_` )「ショボン」
( ´_ゝ:::)「ちょっと話を聞いてくれ。オレ達はこのブーン達とだな」
やってきたショボンに、ブーン達は敵でない旨を伝えようとする。
ショボンは弟者に並ぶほどの人間嫌いだった。
人間であるブーン達を見れば即座に殺してしまいかねない。
(´・ω・`)「うん。いいんだ。ちょっと、楽になったから」
(´<_` )「え?」
( ´_ゝ:::)「ほう」
何があったかはわからないが、ショボンにも何かあったらしいことを二人は悟った。
-
(´・ω・`)「それはともかく、今回は色々おかしいよ」
( ´_ゝ:::)「それはオレ達も思っていた」
(;´・ω・`)「あ、ちょっと、兄者、布か何かで顔隠さない?」
教室にいた者達は慣れてしまったが、爛れている顔というのはグロテスクだ。
ショボンにしてみれば直視するのは困難なものだった。
(´<_` )「とりあえず、これでも巻いとけ」
弟者が制服の上着を兄者に巻きつける。
( ´_ゝ/)「で、だ」
顔の半分を隠した兄者が仕切りなおす。
全員は円になるように座っている。
( ´_ゝ/)「ブーン、こっちの校舎はどうしたって?」
( ^ω^)「廊下が爆破されて、先生が……一人亡くなったお」
(´・ω・`)「そうか。
ボクらの校舎は槍や毒、落とし穴に鉄球。
地味だけど効果的な罠のバーゲンさ。
何人かの生徒は死んだみたいだ」
-
彼らが経験している戦闘の中で、死亡者は出ていない。
しかし、事件のきっかけから人は死んでいるし、彼らの知らぬところではもっと多くの死人が出ていることだろう。
そのことを考えると、全員の気持ちが沈む。
(´<_` )「しかし、何が本当なんだ」
ξ゚听)ξ「私達は嘘をついていないわ」
( ´_ゝ/)「まあ、死体も穴も空いてるしな」
(´・ω・`)「でも、こっちだって嘘は言っていない」
(メ^ω^)「信じるお」
(´・ω・`)「ドクオが言ってたんだけど、今になっても大人が来ていないのはおかしいって」
(メ^ω^)「ドクオと会ったのかお!」
ブーンが大きな声を出す。
前のめりになっている彼をツンが落ち着かせる。
(´・ω・`)「ああ、言っていなかったか。
ボクは彼に言われてここまで来たんだ」
(メ^ω^)「その、ドクオの状態は……?」
おずおずと聞いたブーンに、ショボンは沈黙を返した。
嫌な予感がブーンの背筋を這い上がる。
-
(´・ω・`)「生きているよ。
……一応、ね」
(メ゚ω゚)「一応?!」
ブーンがショボンを掴み上げようとするのを兄者が止める。
友人がやられているのだ。冷静になると言う方が難しいことはわかっている。
(;´_ゝ/)「だが、今はドクオのためにも事態を究明するのが先じゃないのか!」
兄者の声にブーンが動きを止める。
納得したというよりは、どうにか理性を総動員さしているといった風だ。
(メ^ω^)「……すまんかったお」
(´・ω・`)「いや、ボクも悪かったんだ。すまない」
ξ゚听)ξ「……で、大人がいないのがおかしいって?」
(´<_` )「ああ、確かにそうだな」
獣族としては好き勝手できる機会だが、冷静になればおかしい。
人間である教師が獣族の横行を許すとは思えない。
-
( ´_ゝ/)「オレ達が消えて喜ぶ者、ねぇ」
兄者が悩む。
全員が考え込み、ショボンが言葉を紡ぐ。
(´・ω・`)「……あまり考えたくないんだけどさ」
(´<_` )「ん?
(´・ω・`)「オレ達。と、いうか、獣族を消そうとしていたんじゃない?」
(メ;^ω^)「してないお!」
(´・ω・`)「キミ達を疑っているわけじゃないさ」
ξ゚听)ξ「じゃあ、どういう意味?」
首を傾げる面々に、ショボンは説明を始める。
黒板を使った説明は、まるで授業のようだ。
-
(´・ω・`)「人間の被害は先生一人。それも、偶然だ。
けれど、獣族の被害は甚大だし、一人でも多くを殺そうとしていた」
( ´_ゝ/)「それは確かだ」
(´<_` )「兄者も死にかけてたからな」
さらっと言われたが、中々にヘビーな話だ。
ブーンとツンはいたたまれない気持ちになる。
(´・ω・`)「敵は、明らかに獣族の戦力を削りにかかっていたんだ」
(メ^ω^)「でも、獣族を消す理由がわからないお」
(´・ω・`)「馬鹿だなぁ」
(メ^ω^)「お?」
少しばかりむっときたのだが、周りが全員頷いていたので、反論は止めた。
そんなことをすれば、心が傷つくだけだ。
-
(´・ω・`)「人間の方が素晴らしいと信じているからだよ」
(メ^ω^)
ブーンは自身の時間が止まるのを感じる。
今までも似たような言葉は聞いてきた。
しかし、それを本気で盲信し、彼らを消そうとするような人間がいるというのだろうか。
信じられなかった。
いや、信じたくなかった。同じ人間が、そのような恐ろしいことを企てているなどとは。
( ´_ゝ/)「納得だな」
(´<_` )「学園で起こった事件だ。主催者は学園か?」
ξ--)ξ「そうでしょうね。残念だけれど」
悲しげに瞳を閉じるツンをブーンは眺める。
今日で一番現実味のない話だ。
-
(メ^ω^)「な、んで……」
(´・ω・`)「暴徒と化した獣族を人間の生徒達が鎮圧。
なんとも素晴らしい言葉なんだろうね」
( ´_ゝ/)「獣族に能力を与えない良い口実だ」
(´<_` )「何とも素晴らしい企画に参加させられたんでしょうねぇ」
三人が吐き捨てる。
獣族の彼らからしてみれば、胸糞悪いことこの上ない。
ξ゚听)ξ「敵がはっきりしたなら、行きましょ」
(メ^ω^)「お?」
どこに行くのかわらないらしいブーンの耳を引っ掴む。
ξ#゚听)ξ「校長室よ!」
-
ツンを先頭に、四人は校長室へ向かう。
紅一点であるツンが先頭なのは、彼女の能力がバリアーだからだ。
兄者に壊されたとはいえ、もう殆どが修復できている。多少の攻撃ならそらすことができる。
それに加え、校長室の場所を知っているのはツンだけだったのだ。
( ´_ゝ/)「オレ達は」
(´<_` )「この学校の」
(´・ω・`)「生徒じゃないしー」
(メ^ω^)「すまんお!」
ξ--)ξハァ
ため息をつきながらも、ツンは律儀に彼らを案内していく。
続く先が天国なのか地獄なのかは、案内人であるツンでさえわからない。
-
ξ゚听)ξ「ここよ」
ツンの前にあるのは、木製の扉。
質素な作りではあるが、光沢や質感がただの扉ではない。
(´・ω・`)「さて、何が出るかな」
( ´_ゝ/)「可愛い子だといいなぁ」
(´<_` )「兄者、ふざけてると殴るぞ」
(メ;^ω^)「一応怪我人だお」
(´<_` )「なら、ついてこなけりゃいいんだ」
ξ゚听)ξ「ツンデレは私の専売特許よ。
……一先ず、ノックするわね」
ツンの言葉に全員が頷く。
四人が息を飲んで見守るなか、ツンの手が扉を三度ノックする。
「入ってきなさい」
女の声だ。
五人は顔を見合わせ、戦闘態勢を取ったまま、扉を開ける。
-
(メ^ω^)「――お」
ξ゚听)ξ「あら」
( ´_ゝ/)「ほほう」
(´<_` )「……」
(´・ω・`)「キミが?」
全員違った反応をした。
ブーンは思わず声が零れ、
ツンは呆れたように、
兄者は少しばかり楽しそうで、
弟者は敵意をむき出しに、
ショボンは疑問を投げかけた。
川 ゚ -゚)「ブーン、ツン。獣を入れちゃだめだぞ」
室内にいたのはクーだった。
-
ξ゚听)ξ「どういうことか、説明してくれる?」
川 ゚ -゚)「もちろんだとも。
だが、まず言っておきたい」
クーが人差し指を立てる。
川 ゚ -゚)「シュール先生が死んだのは偶然だ。
故意じゃない」
(メ^ω^)「でも死んだんだお。シュー先生も、獣族の人達も」
川 ゚ -゚)「ははは。ブーン。獣族は匹だよ。
何匹が死んだんだ」
(´<_`# )「てめぇっ!」
( ´_ゝ/)「弟者、今は抑えろ」
-
川 ゚ -゚)「私はね、獣が嫌いなんだよ。
マナーもなっていない。臭い。野蛮」
獣族の三人が顔をしかめる。
それに気づいているのか、気づいていないのか、
おそらくは前者で、わざとやっているのだろうけれど。
クーは獣を貶しながら話す。
川 ゚ -゚)「そんな野蛮な種族が、とうとう人間を脅かそうとしたんだ。
これは駆除だ。
スズメバチが民家にできたら駆除するだろ? それと同じだよ」
(´・ω・`)「ボクらは蜂じゃない!」
川 ゚ -゚)「似たようなもんさ。
花粉を運ばないだけ性質が悪いのは、スズメバチとよく似ている」
(メ^ω^)「クー。本気かお?」
川 ゚ -゚)「本気だとも。獣と心を通わそうとするのは微笑ましく思っていたけどね。
いつか無理だと悟ると思ったのさ。夢はいつまでも見ていられない」
-
クーは肩をすくめる。
川 ゚ -゚)「わかってくれよ。ブーン」
ξ゚听)ξ「クー。私も言うわよ。
あなたは間違っている」
川 ゚ -゚)「キミまで……」
(´・ω・`)「あんたがボクらを嫌うのは勝手だけどね、その勝手の為に殺されるのは我慢ならないよ」
( ´_ゝ/)「まったくだ。生き物は大切にしましょう。って、習っただろ?」
(´<_` )「オレ達だって生きているんだ」
(´・ω・`)「あんたがボクらを獣だと言うなら牙をむけてあげる。
スズメバチだというなら毒の針で刺してあげる」
ショボンがクーを指差す。
(´・ω・`)「ひるがお」
床が盛り上がる。
彼の能力を知らぬツンとブーンは驚いて一歩下がった。
-
(´・ω・`)「花言葉は、絆・束縛。
使い勝手がいい花だよ」
床から延びたツタがクーの体を縛る。
かと、思えた。
川 ゚ -゚)「はは。いいね。ひるがお。
花は好きだよ。キミ達のような獣と違って、教養があるからね」
(メ^ω^)「なっ……」
床から延びたツタは、クーの体に触れることなく落ちた。
ブーンが知る彼女の能力とは違う。
彼女は重力を無視して、空を飛ぶだけの能力だったはずだ。
二つ以上の能力を持つ者など聞いたことがない。
(メ^ω^)「とにかく、ボクが!」
ブーンは己の足に能力を発動させる。
力強く床を蹴り、クーを組み敷くつもりだった。
(メ゚ω゚)「うっ!」
クーにあと少しで届く。そんな距離だ。
川 ゚ -゚)「どうしたブーン。そんなところに這い蹲っても、パンツは見えないぞ?
下に短パンを履いているからな」
-
クーがスカートを上げて短パンを見せる。
普段ならば、その先に見えるのが短パンであろうとも興奮する自信があるが、流石に今の状態では興奮できない。
あるのは困惑ばかりだ。
ξ゚听)ξ「違うわ。ブーン」
ツンが声を上げた。
ξ゚听)ξ「クーの能力は、重力無視。
つまり、本来の重力を無視するのであって、重力を消すだけの能力じゃないのよ」
(´・ω・`)「……だから、ツタが地面についているんだね」
ショボンが目を細める。
彼の能力は花言葉に依存している。
花言葉には精神を表すものが多く、直接相手を傷つける言葉は少ない。
精神的な苦痛ならば重力は関係ないが、クーの様子を見ていると花言葉の威力を上回る精神力を持っていそうだ。
自分には圧倒的に不利。
ショボンは唇を噛む。
-
( ´_ゝ/)「オレ達は物理攻撃が主だが」
(´<_` )「やってみるしかあるまい」
弟者が氷で大鎌を二つ作り出す。
それは兄者の手に渡り、本物の鎌になる。
片方が兄者自身が、もう片方が弟者が持つ。
( ´_ゝ/)「ツン、ショボンを頼む」
ξ゚听)ξ「ええ」
(´<_` )「行くぞ」
弟者の声と同時に、兄者は床を蹴る。
鏡あわせのように走り、クーの左右に立つ。
場所はギリギリ彼女の能力による影響を受けていないところを選んでいる。
( ´_ゝ/)「人間様は神様に選ばれたのかもしれない」
(´<_` )「だが、獣族は自分達の手で道を切り開いてきた」
( ´_ゝ/)「それが劣っているとは言わせない!」(´<_` )
-
鎌を水平に動かす。
本来ならば、クーの体は三等分にされてしまっただろう。
川 ゚ -゚)「馬鹿め」
二人の鎌が彼女の領域に入る。
すると、とてもではないが持っていられないほどの重さが刃にかかった。
(;´_ゝ/)「ちっ!」
(´<_` )「捨てるぞ!」
二人がそろっていれば、武器などいくらでも作ることができる。
弟者は大鎌から手を離し、後ろへ飛びのく。
川 ゚ -゚)「待て。私はいらんぞ」
クーは少しばかり口角を上げ、弟者が落とした大鎌を拾い上げた。
軽々と持っているのか、彼女の能力のおかげなのだろう。
川 ゚ -゚)「返してやろう」
大鎌自体に能力がかけられる。
軽くなった大鎌はクーによって投げられ、元々そうするための武器のように飛ぶ。
大きな刃は避けるには回転が早い。
(´<_`;)「――っ!」
(;´_ゝ/)「弟者あああああ!」
-
兄者が手を伸ばす。しかし届かない。
弟者のもとへ行く最短ルートはクーの横を通ることだ。
しかし、そこは現在、超重力がかかっている。
(;´_ゝ/)「うぁっ!」
足を踏み出した兄者は床に叩きつけられ、ブーンと同じ姿になる。
運が悪いのは、叩きつけられた衝撃で爛れた顔に痛みが走ったことだ。
重力と顔の痛みに兄者は呻く。
川 ゚ -゚)「流石は獣だ。
おぞましい鳴き声をしている」
(´<_`;)「兄者っ!」
寸前のところで身を低くし、大鎌をかわした弟者は兄者に近づこうとする。
ξ゚听)ξ「やめなさい! 二人の二の舞になりたいの!」
ツンの渇が弟者の足を止めた。
しかし、目の前には呻き声を上げている兄がいるのだ。
黙っていることはできない。
-
ξ#゚听)ξ「ちゃんと作戦を練ってから動きなさいって言ってんのよ!」
(´<_`;)「は、把握した」
青筋を浮かべるツンに、弟者は思わず姿勢を正す。
川 ゚ -゚)「ツンはいい獣使いになりそうだ」
ξ゚听)ξ「それ、最大の侮辱よ」
川 ゚ -゚)「賛辞のつもりだったのだが」
困った顔をするクーをツンが睨む。
強い意思を持っている瞳だ。ちょっとやそっとでは揺るがない。
ξ゚听)ξ「私は知ってるの。
彼らが私達と同じように感情があって、動いて、考えるってことを」
川 ゚ -゚)「幻想だよ」
ξ゚听)ξ「彼らのそれを幻想と言うなら、クーに感情があると思うことも、行動すると思うことも、考えるって思うことも、
ぜーんぶ幻想ってことになっちゃうわ」
川 ゚ -゚)「やれやれ。いつまで夢を見ているんだい?」
クーは一歩足を踏み出し、兄者の背中を踏む。
超重力を受けている身で踏まれるのは辛い。
兄者は口にこそ出さなかったが、骨がいくつか折れたのを感じていた。
-
(´<_`# )「き、さ、まぁあああ!」
弟者が氷の杭を幾つもクーに向ける。
しかし、そのうちの一つでも彼女に当たることはなかった。
川 ゚ -゚)「なあ黄緑の獣よ。
私がその気になれば、この青い獣を踏み潰すことだっててきるんだぞ?}
(´<_`# )「っ!」
脅迫だ。
弟者は拳を握り、腕を下げる。
川 ゚ -゚)「そうだ。いい子だ。
ふむ。躾けさえしっかりすれば、使えそうではあるな」
(#´・ω・`)「金盞花(キンセンカ)!」
ショボンがクーを指差して叫ぶ。
(#´・ω・`)「花言葉は、悲しみ、嘆き、寂しさ!
涙を流せ! 胸を痛めろ!」
-
川 ゚ -゚)「……ふむ」
(´・ω・`)「……駄目、か」
川 ゚ -゚)「確かに、胸が痛いな。だが、こんなもの、いつものことだ」
彼女の精神力は花言葉の力を凌駕している。
ショボンは常に持っていた花図鑑を落とした。
(´・ω・`)「……ごめん。兄者。弟者」
ξ゚听)ξ「クー? いつもって、どういうことよ」
ツンが声をかける。
彼女が知っているクーは、感情を表に出さないタイプではあったが、友人も多く、人の中心にいることが多い人間だった。
そんな彼女が、寂しいと、悲しいと、嘆いていたのだろうか。
川 ゚ -゚)「そりゃ、寂しいだろ……」
クーは苛立っているのか、兄者をさらに強く踏みつける。
( _ゝ/)「うっ……ぁぁ……」
(´<_`;)「止めてくれ!」
川 ゚ -゚)「寂しいだろ。親も、家族もいない。
能力が優秀でなけりゃ、一生会えないかもしれない!」
-
川 ゚ -゚)「それでも! 優秀であればいいんだ。
優秀なら、父さんも母さんもきてくれるはずなんだ。
そのために、不必要なものを排除した、綺麗な学び舎が必要なんだ。
学園は認めてくれた。人工的に能力者を生み出した獣族なんて必要ないと。
真に頂点に立てるのは人間だけなのだと!」
表情は崩さず、クーは言いきった。
まるで演説をするかのような声だった。
ξ#゚听)ξ「馬鹿なこと言わないで!」
返すようにツンが怒鳴り声を上げた。
ξ#゚听)ξ「本当はね、能力に優劣なんてないのよ!
私のシールドと、クーの重力無視を比べたって意味ないじゃない!
どっちが優れてるとか、そんなもの、本当はこんな能力できめるべきじゃないのよ!」
全く違うものを比べることはできない。
用途が違う。使う場所が違う。
適材適所という言葉が示すとおり、必要な人材は適切な場所へ置くのが正しい。
一つの能力に特化しているから、全てにおいて優れているなど、ありえない。
-
川 ゚ -゚)「馬鹿だな。それだったら、私達は何のためにここにいるんだ。
能力が優秀であればいい。そうみんなが考えたから、ここにいるんだ」
ξ#゚听)ξ「いつの時代も多数派が強いと思ったら、大間違いよ」
川 ゚ -゚)「はは。でも、戦いは勝った方が正義だ」
クーは兄者から足を降ろし、ツンへ近づく。
彼女を潰してしまえば、わずらわしい声を聞かずにすむ。
重力を操ることのできるクーにはダメージを与えることはできない。
絶対的な防御で、絶対的な攻撃だ。
川 ゚ -゚)「夢から覚めてくれよ」
ξ#゚听)ξ「悪夢なんてどこかに捨てなさいよ」
二人の女が睨みあう。
クーがまた一歩踏み出した。
びちゃり。と、何か、粘着質なものを踏んだ音がする。
-
川 ゚ -゚)「……これは」
足元を見る。
黒く、粘着質な液体があった。
('A`)「オレの能力だよ」
扉の影からドクオあ現れた。
不敵に笑うその表情は、どこか清々しさを感じる。
('A`)「注意引いてくれてサンキュ」
ξ゚听)ξ「もう少し早く動かせないの? アレ」
('A`)「そういうなよ。動きは鈍いが、重力の影響なんて殆ど受けないんだから」
ドクオが出すのは液体だ。
重力によってはじけるが、それでも薄くなる程度。
ゆっくりと動き、気づけばクーの足元にまとわりついている。
川;゚ -゚)「くっ。気持ち悪い!」
('A`)「おいおい。傷つくぜー?」
-
(´・ω・`)「……ありがとう。ドクオ」
('A`)「……謝ったってしかたねぇ。
だから、態度で示す」
ショボンの前に立つドクオは、小さな体だったが不思議と大きく見えた。
獣族の悲しみを直接心に叩きこまれた彼は大きく変わった。
人としての器が大きくなったとでも言うのだろうか。
川;゚ -゚)「離せ!」
('A`)「断る」
川;゚ -゚)「ドクオ! お前まで! 獣と心を通わすことができるなどと、夢を見るのか?!」
ゆっくりと這う黒い液体に抵抗しながら叫ぶ。
まさか自分に攻撃が当たると思っていなかったこそ、怯えが表面に出る。
('A`)「オレは、そんな夢は見ちゃいない」
川 ゚ -゚)「そうだろ! お前ならわかってくれると思ってた!」
(´<_` )「……」
(´・ω・`)「……」
-
('A`)「オレは、皆と普通に生きる未来を見てるんだよ」
川#゚ -゚)「それを……それを幼稚な夢と言うんだあああああ!」
クーが叫び、重力がさらに増す。
まだ彼女が作り出す範囲に入っている兄者とブーンが声にならぬ声を上げる。
ξ;゚听)ξ「あの二人、そろそろ限界よ!」
(´<_`;)「だが近づけない!」
クー自身の体を傷つけるほどの重力は、ドクオの黒い粘着質な液体の動きを止める。
上へ進む力と、下へ落とす力が均衡を保っている。
川#゚ -゚)「馬鹿ばかりだああああああ!
獣がいなければ、人工的に能力者を作り出さなければ、
こんな学園はなかったんだあああああああああ!」
-
重力が増す。
クーも耐え切れないのか、膝を床についた。
黒い液体は弾け飛び、重力の外へ飛ばされる。
ξ;゚听)ξ「クー止めて!」
クーがツン達を潰すことはできない。
何故ならば、彼女自身がもはや歩けない。
だが、今も範囲に入っている二人はどうなる。
(メ ω )「――――!」
( _ゝ/)「 」
川#゚ Д゚)「みんな馬鹿だ!
ブーンも、ツンも、ドクオも、獣も、学校も、父さんも、母さんも!」
-
川 ;Д;)「みんな、みんな、潰れればいいんだああああ!」
とうとうクーの目からは涙が溢れた。
しかし、その美しい雫でさえもすぐにはじけて消える。
(メ ω )「――――」
('A`)「あ?」
ξ゚听)ξ「え? どうしたの?」
不意にドクオが目を細めた。
('A`)「いや、今、ブーンが……」
(´・ω・`)「無理だよ。あんな重力の中」
ξ゚听)ξ「指一本だって動かせやしないわ」
('A`)「いや、動いてる……!」
-
(メ ω^)「――――」
ほんのわずかに上げられた顔。目が見えた。
(;'A`)「ブーン!」
苦しいはずなのに、温和な瞳のままだ。
優しいあの友人のために何かをしてやりたい。
今まで獣族を蔑んでごめん。と、彼にも謝り、行動で示していきたい。
(メ ω^)「――――」
ブーンの眼球が動く。
本当はそれすらも辛いはずなのに。
ξ゚听)ξ「え、何? 何よ?」
('A`)「待て……。そうか」
ドクオはブーンの言いたいことを察したのか、ショボンの腕を掴んだ。
ふわりとした毛は、思っていたよりもずっと温かで柔らかい。
('A`)「ショボン、お前に頼みがある」
(´・ω・`)「え?」
-
('A`)「クーを、助けてやってくれ」
ドクオが言う。
(´<_`# )「あの女を助けてくれ?
その前に助ける奴がいるだろ!」
弟者が吼え、ショボンも困惑した顔をしながら弟者に同意した。
無論、助けることに異論はないのだが、物事には順序というものがある。
('A`)「ちげーよ。
クーを助けることが、ブーンや兄者を助けることになるんだ」
ドクオは床に落ちていた花図鑑を拾い、ショボンに手渡す。
('A`)「お前にしかできないことだ。
んで、せっかく花なんだから、攻撃とか、苦痛とか、そんなものよりも、ずっといい言葉があるんだろ?
それを使ってやってくれ」
(´・ω・`)「……なるほど、わかったよ」
ショボンが花図鑑を開く。
本当は開く必要などない。
幼い頃からずっと一緒にあった本だ。中身は殆ど覚えてしまっている。
-
ショボンはクーを指差す。
(´・ω・`)「花菖蒲(はなしょうぶ)」
川 ;Д;)「うあああああああああ!」
叫ぶクーに届くよう、ショボンは花言葉に願いを託す。
拘束でも、辛い心を分け与えるのでもない。
もっと花に相応しい花言葉。
(´・ω・`)「花言葉は、優しさ、優しい心、あなたを信じる」
-
川 ;Д;)「うわ……ああ……」
ツンはクーの優しさを信じていた。
ドクオはクーの真っ直ぐさを信じていた。
信じる心は優しさを生む。
捻くれて、傷だらけになった心に、優しさは薬となる。
川 ;-;)「うっ……うっ……」
感情が落ち着いたのか、クーが呼び起こしていた重力が軽くなる。
それでもまだ幾分かの重さは感じるが、彼女の範囲から二人を引きずりだすくらいならば十分だ。
(´<_`;)「兄者!」
弟者はすぐさま兄者を回収する。
怪我の具合を確認することも忘れない。
(;'A`)「ブーン!」
ドクオがブーンを回収しようとしたとき、
(メ^ω^)
ブーンは自力で立ち上がった。
重力の中で、骨の一本や二本は折れているだろうに、足の力をフル動員して立っている。
-
(メ^ω^)「クー」
川 ;Д;)「ブーン……」
重力の中、立っているブーンをクーは見上げる。
(メ^ω^)「この重さは、クーの心の重さだお?」
ブーンが笑う。
ボロボロになっているが、彼は笑うことができる。
(メ^ω^)「寂しいとか、辛いとか、ぜーんぶ背負いすぎて、重くなっちゃったんだお」
彼はクーの手を取った。
(メ^ω^)「一人で抱えないで欲しいお。
ボクは、獣族のみんなも、人間のみんなも、仲良くしていて欲しいお。
お父さんやお母さんがいない悲しみも、能力を持った辛さも、ぜーんぶ、一緒に背負うものだお」
川 ;Д;)「ブーンは、一緒に、いてくれる……?」
(メ^ω^)「もちろんだお。でも、三つ、約束して欲しいんだお」
川 ;Д;)「うん……」
-
(メ^ω^)「一つ、ちゃんと、みんなにごめんなさいして、罪は償うお。
クーのしたことで、死んじゃった人も……残念だけど、いるんだお」
川 ;Д;)「うん」
(メ^ω^)「二つ目、苦しいのを誰かのせいにしないで欲しいお。
獣族のみんなだって、望んでここにいるわけじゃないお。
みんな、物心つく前からいて、迫害をなくさないと。とか、クーみたいに両親に会いたいとか、
そんな気持ちを持っている、ボクらと同じ生き物だお」
川 ;Д;)「う、ん……」
(メ^ω^)「じゃあ、最後。
ちゃんと、笑って欲しいお」
川 ;Д;)「え?」
(メ^ω^)「今じゃなくていいお。
クーの罪がちゃーんと許されたとき、笑って欲しいお」
川 ;Д;)「……笑って、いいのかな」
(メ^ω^)「いいお。ボクは、許すお」
-
(´<_` )「……」
(´・ω・`)「きっと、キミは許せないだろうね」
(´<_` )「当たり前だ」
ブーンとクーを遠巻きに眺めながら言葉を交わす。
弟者の足元には横になっている兄者がいる。
顔の傷のこともあって、意識がない。すぐに病院へ連れて行くべきなのだろうが、事態の収束がなされていない間に、
学園内をウロウロしては事情を知らない人間に攻撃されかねない。
(´<_` )「あいつが全部仕組んだんだ。
兄者が怪我をした原因も、あいつにある」
(´・ω・`)「うん。そうだね。友達も死んだ」
('A`)「……オレが言えることじゃないと思うけど、ごめん」
ξ゚听)ξ「私からも……ごめんなさい」
(´<_` )「お前達も先生が死んだんだろ」
ξ--)ξ「ええ」
-
ξ゚听)ξ「だから、クーにはキツイ罰を受けてもらうわ」
(´・ω・`)「でも、計画はあの子だとしても、学園がそれを許可したから……」
(´<_` )「大した罪にはならないだろうな」
むしろ、これを機会に、学園側が大々的な獣族粛清を始める可能性も多いにある。
危険思想を持っているのはクーだけではない。
大本を叩かなければ結局、意味はないのだ。
('A`)「学園がお前らを消そうとするなら、オレは学園と縁を切るわ」
ξ゚听)ξ「あんた、えらく変わったわねぇ」
('A`)「心に響くもんを打ち込まれたからな」
悲しみの連鎖を続けるものではない。
あれほどの痛みを誰かが持っているのだと知れば、人は自然と優しくなれるものだ。
(´<_` )「人間様……。いや、人間と獣族が一緒にいる未来なんて、想像もしてなかった」
-
(´・ω・`)「これからは見れるかもね」
ξ゚听)ξ「そうね。
手始めに、学園の生徒達でもまとめちゃう?」
('A`)「それいいかもな。生徒達全員の能力を使えば、学園に革命を起こせるぜ」
(´<_` )「向こうも能力者はいるぞ。それも熟練の」
(´・ω・`)「数はこちらの方が多いさ」
四人は顔を見合わせる。
想像するだけで楽しいではないか。
人間と獣族が共に並び、同じ旗の元に集う。
(メ^ω^)「みんな、放送室に行くお」
川 ゚ -゚)「みんなに、ごめんなさいを、しないとな」
(´<_`;)「オレは一刻も早く兄者を病院に連れて行きたいのだが」
(´・ω・`)「うーん。応急処置代わりにはなるかなぁ。
虎杖(イタドリ)。花言葉は回復」
ショボンが指を差して言うと、心なしか兄者の呼吸が安定する。
(´<_` )「お前何でもできるんだな! ありがとう!」
-
嬉しそうに兄者を担いだ弟者と共に、面々は放送室へと向かった。
告げられるのはクーの罪の告白。
そして、この学園が望んでいること。
人間は激怒するだろう。
獣族は絶望するだろう。
だからこそ、手と手を取り合って進まなければならない。
得てしまった能力を使い、戦うしかない。
一人で抱えこまず、種族で区別をせず。
互いに分け合うことで、荷物を軽くする。
(メ^ω^)「ボクは、人間も、獣族も、一緒に生きる未来のために、 戦うお!」
( ^ω^)能力バトルのようです 完
-
-
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