( ^ω^) 洗練されたポップ・ストーリーのようです
2 名前: ◆RF0AS80diM :2009/08/22(土) 16:50:41.34 ID:YJG+Y3R20
63.

 夜の闇に沈んだ空を、花畑はその上に漂わせていた。
勿忘草はそれでも儚げに月光を浴びていて、薄ぼんやりした蒼いろはあどけない。
そこは決して華やかではなかった。青年はしかし、それを含めて好んでいた。


 どうせ没するなら、せめてこんな地で眠ってみたいものだ。
足を動かすと、若い草のみずみずしい音がこもった。
慎重に、慎重に、青年は歩を進めた。


 ある程度まで歩いたら、青年はだれかに握手を求めるように手をのばした。
誰もいない。夜風がびゅうとそのとき吹いたばかりで、まったくの孤独だった。


 青年の想像では、自分の目の前に、四人ばかりの少女が立ちどまっているはずだった。
ずっとそれを、頭の中で思い浮かべていた。



 四人の少女が、おれに手招きをしている……
自縛霊みたいなそぶりで、華奢な肩を大きく揺らして俺を求めている……

 

    




4 名前: ◆RF0AS80diM :2009/08/22(土) 16:51:50.79 ID:YJG+Y3R20
62.

 はにかんだような笑顔を張り付けながら、青年は膝をついてむせび泣いた。
涙がカンパリいろのハイビスカスに落下した。
朝露のように垂れたそれは、やがて花片の中に吸い込まれていった。











       ―― 洗練されたポップ・ストーリーのようです ――








      




5 名前: ◆RF0AS80diM :2009/08/22(土) 16:52:57.53 ID:YJG+Y3R20
61.

――セブンイレブンVIP店

( ^ω^)「お疲れさまだおー」

川 ゚ -゚)「お疲れです」

シフトの終わったバイト二人がバックルームに入っていった。
肩を叩きながらタイムカードを押し、椅子に坐りこむと、

( ^ω^)「やー、今日は忙しくなくてよかったお」

川 ゚ -゚)「お盆だから人が少なかったんでしょうね」

( ^ω^)「クーちゃん、敬語やめてお。一年しか年違わないんだし」

川 ゚ -゚)「ん? 大学一年と高校三年じゃ天地の差じゃないですか」

クーと呼ばれた少女はそれでも丁寧腰だった。

(;^ω^)「いやいや、むしろまっとうに勉強してる高三のが偉いお」

川 ゚ -゚)「大学生は勉強しないのですか?」

( ^ω^)「べん……きょう……? しゅっ……せき……?」




6 名前: ◆RF0AS80diM :2009/08/22(土) 16:54:22.74 ID:YJG+Y3R20
60.

( ^ω^)「クーちゃんはどこ受験するの?」

川 ゚ -゚)「801大です。女子大ですけどわかります?」

( ^ω^)「えー……あー……うん、評判くらいなら」

川 ゚ -゚)「ううむ。そんな返答よく貰うんです」

制服を脱ぎながら、

川 ゚ -゚)「内藤さんはどこ大ですっけ」

( ^ω^)「ぷらす大だお。一年前期だけど留年視野に入れてるお!」

川 ゚ -゚)「学部は?」

( ^ω^)「(……)ビジネス・マネジメントだお」

川 ゚ -゚)「じゃあ、経営システム部とは近かったり?」

( ^ω^)「んー、被ってる授業は多いお」

川 ゚ -゚)「じゃあ、鬱田ドクオって人は知ってます?」




7 名前: ◆RF0AS80diM :2009/08/22(土) 16:56:32.06 ID:YJG+Y3R20
59.

( ^ω^)「んー、ごめん。ぜんぜん知らないお」

・・ ・・・

二人は職場のコンビニから出て、駐車場に立った。夜だが夏なので蒸し暑い。

( ^ω^)「うーん……鬱田ドクオ……」

川 ゚ -゚)「やはり知らないですか」

歩くでもなく、二人は店の前立ちどまっていた。

( ^ω^)「その人がどうかしたのかお?」

川 ゚ -゚)「んー、どこから話せばいいのか。その人、失踪したんです」

(;^ω^)「ええ!? マジかお」

川 ゚ -゚)「家族ぐるみの仲だったんで心配で」

(;^ω^)「え、警察には届けたのかお?」

川 ゚ -゚)「いえ、届けないでくれって手紙が来て」




9 名前: ◆RF0AS80diM :2009/08/22(土) 16:58:22.24 ID:YJG+Y3R20
58.

( ^ω^)「そうかお。友達に聞いてみるお」

川 ゚ -゚)「お願いします」

そこで、クーは「あっ」と思い出したふうに声をあげた。

川 ゚ -゚)「妹たちの夕食買わないと」

( ^ω^)「あー、三人いるんだっけ」

川 ゚ -゚)「はい、今頃腹ペコでダダこねているかと」

( ^ω^)「よし! 店長にいって廃棄を貰ってきてあげる 川 ゚ -゚)「いやそれはいいです」

ピシャリと切り捨てて、

川 ゚ -゚)「育ち盛りの娘に不健康なコンビニ飯の、あまつさえ期限切れのものなんか……」

(;^ω^)「そ、そうですNE」

川 ゚ -゚)ノシ「今からスーパー行きます。内藤さんお疲れさまでした」

(;^ω^)ノ「お、お疲れさまー……お」




11 名前: ◆RF0AS80diM :2009/08/22(土) 17:00:34.04 ID:YJG+Y3R20
57.

スーパーで食材を買いこんでから、クーはすんなりと帰宅した。
時刻は9時を回っているところだった。

川 ゚ -゚)「ただいま」


lw´‐ _‐ノv「来たか……食材……!」

o川*゚ー゚)o「おかえりー!」


義務教育中の妹、シューとキュートの二人して出迎えてきた。もう一人の、高校一年の妹は
いまだバイトから帰ってきていないらしい。

川 ゚ -゚)「ヒートはまだなのか」
o川*゚ー゚)o「10時に終わるだってさ」

川 ゚ -゚)「把握した。メシ作るぞメシ」
lw´‐ _‐ノv「すでに炊飯器はセットしておいた」

わーっと散らばると、各々は調理を開始した。といっても、
一人一品作るというわけではなく、たとえばクーが野菜を切り、
シューが食材を監視していたりといった具合の、簡単な役割分担だった。

カニクリームのスパゲティ、水菜のサラダが完成すると、三人は食卓についた。




13 名前: ◆RF0AS80diM :2009/08/22(土) 17:03:02.32 ID:YJG+Y3R20
56.

川 ゚ -゚)「キュート、食べるときくらいはイヤリングを外しなさい」

o川*゚ー゚)o「えー、なんで!? レディーはつけて食べるもんでしょ?」

川 ゚ -゚)「何でもいいから外すんだ。そのイカリングみたいなそれ、見ててイラつく」
o川*゚ー゚)o「もう! いいじゃない! これお兄ちゃんから貰ったものなんだよ!?」

キュートの、「お兄ちゃん」という単語で、食卓は一瞬、しぃんと静寂になった。
水菜をモリモリと食べながら、シューが口火を切った。

lw´‐ _‐ノv「その……モグモグ…お兄ちゃんは……ゴックン……ふう、まだ見つかってないくさいな」

川 ゚ -゚)「行儀悪いぞシュー。あと一年で中学生なんだから、もっと自分を見直しなさい」
lw´‐ _‐ノv「お兄ちゃんはまだ見つかってないらしいわね♪」


皮肉のような口調を受けたが、クーは気にせず、

川 ゚ -゚)「ああ。大学が同じの人に探りを入れてみたが、どうも知らないようだ。
     ……鬱田家のご家族にもそろそろ知らせるべきと思うのだが……」

o川*゚ー゚)o「お兄ちゃんが家族にもオマワリさんにも言うなって言ってたじゃん!」
川 ゚ -゚)「まあ、そうなんだが……やはり心配じゃないか」

o川*゚ー゚)o「もー、お姉ちゃんはお兄ちゃんの凄さ知らないの!?」




14 名前: ◆RF0AS80diM :2009/08/22(土) 17:04:59.30 ID:YJG+Y3R20
55.

川 ゚ -゚)「知らないわけないだろ。お前が生まれる前からの付き合いだ」

o川*゚ー゚)o「付き合い!? お兄ちゃんとお姉ちゃん付き合ってんの!?」

川 ゚ -゚)「ませたこと言うな。……ドクオ兄さんにはそういう感情はなかったな。
     なんというか、ほんと兄妹みたいな感じで」

こうして議論にあがっている「お兄ちゃん」というのは、内藤との会話でも
出てきた鬱田ドクオのことに違いなかった。

素直家と鬱田家は近所だったおかげか、親交が深い。
ドクオとは、クーが幼稚園で色水を作っていた頃からの仲で、
10年以上たった今でも、こうして素直家の娘たちに好かれていた。

そんなドクオ″お兄ちゃん″が、一通の手紙を彼女らに寄越して失踪したのだった。……


o川*゚ー゚)o「ドクオお兄ちゃんは今頃何してるのかな!? 魔法作ってたり?」

lw´‐ _‐ノv「おそらくな。魔術には色々と詳しかったし……私よりも」

川 ゚ -゚)「……(ドクオ兄ちゃん、か)」

妹たちの夢あふれる会話を聞きながら、クーは過去の思い出を蘇らせていった。




15 名前: ◆RF0AS80diM :2009/08/22(土) 17:08:09.14 ID:YJG+Y3R20
54.

・・ ・・・

クーが小学2年、ドクオが3年生のとき、夕刻の砂場にて、

川 ゚ -゚)「兄ちゃんほら。こんなスゴい泥だんごが出来たぞ、どうだ」

('A`)「お、……綺麗だなぁ。でも知ってる? 泥だんごって、光らせることが出来るんだよ」

川 ゚ -゚)「ははっワロス」

('A`)「本当だって。じゃあ今からそのだんごで作ってやろうじゃないか」

そういってドクオはクーの作った泥だんごに、乾いた砂をかけながら指で磨きはじめた。

川 ゚ -゚)ジトー

('A`)「そのジト目やめてよ。あと、光る泥だんごは結構時間かかるんだ」

川 ゚ -゚)「どれくらい? 夕ごはんまでには終わる?」

('A`)「んー……土曜日くらいまでかな」

川 ゚ -゚)「その間に電球仕込むってコンタン?」

(;'A`)「ねーからそういうの!」

         




17 名前: ◆RF0AS80diM :2009/08/22(土) 17:11:29.61 ID:YJG+Y3R20
53.

手を砂まみれにしながら、ドクオは笑顔でこういった。

('∀`)「じゃあいっしょに作ろうよ!」

そうして二人で光る泥だんごを作り出した。クーは、いろんな道具を
使用することに驚いたが、しかし、なにより泥だんごの美しさに見惚れていった。

川 ゚ -゚)「すごい……」

ビーズと遜色ない輝きをしているそれを手にとって、クーは感服したように呟いた。

('A`)「ね。すごいでしょ」

川 ゚ -゚)「参りました。ほんとに出来るなんて」

('A`)「えへへ。まあ、何かあったらなんでも聞いてよ、なんでも答えるから」

川 ゚ -゚)「はー……物知りってスゴいんだなぁ」

・・ ・・・
・・・・

ノパ听)「ただいまー!」

川 ゚ -゚)「……あ、おかえり」

o川*゚ー゚)o「おかえりー!」




19 名前: ◆RF0AS80diM :2009/08/22(土) 17:13:44.54 ID:YJG+Y3R20
52.

ノパ听)「おおっ! この匂いは私の大好きなスパゲッティーだな!」

lw´‐ _‐ノv「残念 これはカニクリーム米だ。バツとしてお姉ちゃんのは私が頂く」

ノパ听)「こらあぁあ!! どこが米っちゅうんだぁああ!」

相変わらず騒がしい次女のヒートと、超然としたシューとのやり取り(食物競争)を
ぼんやりと眺めていたクーだったが、とつぜん、思い出したように、

川 ゚ -゚)「クー。お前は兄さんのことを警察に届けるべきと思うか?」

ノパ听)「必要ないと思うぞぉ! お兄ちゃんなら安心だ!!」

顔中カニクリームだらけにしながら返答すると、

ノパ听)「お兄ちゃんなら世界中どこに行っても安心!!」

lw´‐ _‐ノvモグモグ「うむ。その通り」

ノパ听)「食うなぁあああ!!!」

・・

こうして、騒がしい食卓に片付け、風呂の順番取りなどが展開され、
今日も四姉妹の一日が終わったのであった。




20 名前: ◆RF0AS80diM :2009/08/22(土) 17:15:59.12 ID:YJG+Y3R20
51.

・・ ・・・

(ドクオからの手紙)

 クー、ヒート、シュー、キュート。元気にしているかい。
叔父さんがギックリ腰になったとかで、ご両親は離れているみたいだけど、
ちゃんと無事にやっていけているかな。ぼくは心配です。

 そういう僕は、とても元気にやっています。大学のせいで
四姉妹とは離れてしまったけど、もちろん今でも会いたいさ。

 ……でも、会うことは出来ないかも知れない。
君たちと今まで通り仲良くやっていきたいのは山々なのだけれど……。

 ぼくはしばらく失踪する。飛翔する。この世の誰とも会わないだろう。
でも僕の家族や、警察には決して言わないでくれ。約束は守ってくれる
クーたちがいるから、信頼しているよ。

 また何かあったら、追って連絡する。この夏休みを利用して
君たちと再会したかったのに、非常に残念だ。

 クー。妹たちを任せたよ。受験で忙しいかもしれないけど、要領いいクーなら
やっていけると信じている。

 それでは、元気でね。
 
                  2009/8/7
                   <―――ここまで>




22 名前: ◆RF0AS80diM :2009/08/22(土) 17:18:16.45 ID:YJG+Y3R20
50.

ノパ听)「いらっしゃいませえ! おタバコはお吸いになられますか!?」

ヒートは喫茶店でアルバイトをしている。フロア担当で、日はまだ浅いが
その元気のよさを買われて、仲間にも常連客にも親しまれている。

( ゚∀゚)「はいよミニシロ! 四番さんにお願いね」

ノパ听)「了解でぇっす! あ、長岡さんソフトが倒れてきてるぅう!」

(;゚∀゚)「お、おんぎゃあぁああ!」

・・ ・・・

――休憩室

ノパ听)「長岡さん長岡さん!」

チリドッグにかぶりつきながら、ヒートは対面の長岡に話しかけた。
長岡はというと、先ほどの失敗したソフトクリームをつついている。

( ゚∀゚)「あいよ」

ノパ听)「長岡さんって、レーボス高校出身ですよね」

( ゚∀゚)「そうだよー、懐かしいなー」




23 名前: ◆RF0AS80diM :2009/08/22(土) 17:21:22.30 ID:YJG+Y3R20
49.

ノパ听)「で今、大学一年ですよね!」

( ゚∀゚)「うんうん」

ノパ听)「じゃあ! 鬱田ドクオって人知ってます!?」

(;゚∀゚)「!?」

ドクオの名を聞いたとたん、長岡の表情が硬直した。

ノパ听)「?」

(;゚∀゚)「あ、ああー……居たなあ、たしかに」

ノパ听)「どんな人だったですか!?」

(;゚∀゚)「んーっと、まあ、不思議ちゃん? 陰キャラ? てかヒーちゃん何で鬱田なんか」

ノパ听)「不思議ちゃん! 陰キャラ!?」

(;゚∀゚)「てかそろそろ休憩やばくね!? そろそろ出よまい!」

ノパ听)「んー……うおお! ほんとーだあ!」

同級生だったという長岡から、まともな情報は得られずじまいだった。……




25 名前: ◆RF0AS80diM :2009/08/22(土) 17:24:38.19 ID:YJG+Y3R20
48.

バイトが終わっても、長岡はそそくさと帰ってしまい、
またもチャンスがふいになってしまった。ヒートはウンウン頷きながら帰宅した。
家にはクーが一人で勉強をしていた。日曜なので下の二人は遊びに行ったらしい。

ノパ听)「たどぅあいまぁあ!」

川 ゚ -゚)「なんだその発音は。おかえり」

ダイニングのソファに、二人で腰掛ける。

ノパ听)「お姉ちゃん! なんかバイト先に長岡さんって人が居るんだけどね!」

川 ゚ -゚)「ふんふん」

ノパ听)「お兄ちゃんとおんなじ高校だったんだって!」

川 ゚ -゚)「……へえ」

クーの視線が、参考書からヒートの顔に移された。

ノパ听)「でも全然きけなかった。なんか怖い人扱いなのかな!?」

川 ゚ -゚)「kwsk」




26 名前: ◆RF0AS80diM :2009/08/22(土) 17:28:00.94 ID:YJG+Y3R20
47.

ノパ听)「長岡さんビビってた!? で、不思議ちゃんとか陰キャラって!」

川 ゚ -゚)「………」

クーは黙ってその話を聞いていた。吟味するように顎に手をあてると、

川 ゚ -゚)「……その長岡さんってのは、たぶんビビってはいないんじゃないかな」

ノパ听)「へ!?」

ヒートはポカンとした表情をしていたが、クーには思い当たる節があった。
それは、昨日の内藤の報告。……

( ^ω^)「あ、クーちゃん。経営の友達に鬱田って人のこと聞いたお」

川 ゚ -゚)「本当ですか」

( ^ω^)「んー、なんか。ひとっことも喋ったことないらしいけど、
       その鬱田って人、7月くらいから学校来てないっぽいお」

川 ゚ -゚)「え? 失踪の手紙は8月なのに」

( ^ω^)「それは分からないお。でも、なんだかいつも一人で動いてて、
       友達のいない暗い人ってらしいお」

川 ゚ -゚)「………(友達のいない、暗い人……)」




28 名前: ◆RF0AS80diM :2009/08/22(土) 17:31:04.24 ID:YJG+Y3R20
46.

・・ ・・・

ノパ听)「おねえーちゃーん? おーねえちゃん!!」

川 ゚ -゚)ハッ

川 ゚ -゚)「……ヒート、兄さんってどんなイメージだ?」

ノパ听)「んん!? えっと、優しくてー頼りがいがあってね!
    あととっても頭よくって色々知ってて、人気者みたいな!!」

川 ゚ -゚)「そうか」

ノパ听)「お姉ちゃんはどんなイメージ!?」

川 ゚ -゚)「……ヒートと同じさ。物知りで、優しい……かっこいい兄さんだ」

ノハ*゚听)「だよねっ!!」



その夜、クーはベッドで仰向けになりながら物思いにふけった。
そしてやはり、ドクオについての考え事だった。

川 ゚ -゚)「兄さん……」




29 名前: ◆RF0AS80diM :2009/08/22(土) 17:33:18.50 ID:YJG+Y3R20
45.

('A`)

鬱田ドクオ。
私の心の中では、何でもできるお兄さんって感じだった。
光る泥だんごも作れて、いつだったかタイムマシンの理論も教えてくれた。
少女だった私は、両親よりもドクオ兄さんに頼っていた気がする。

それくらいに大きな存在だった。
家で間違えてボヤを起したときも、泣きそうになりながら兄さんを呼びに行ったものだ。


川 ゚ -゚)「……陰キャラ、不思議ちゃん、か」

自分の中では頼れる兄さんというイメージなのだが、しかし、他人が
そういう風に扱っていたのも理解できないわけではなかった。

川 ゚ -゚)「今のご時世じゃ読書家は……陰キャラか」

そのことを踏まえて、ヒートから聞いた、長岡という人物の反応を推察した。
イヤな想像をしてしまうが、おそらくは……。

クーはかぶりを振った。これ以上詮索するのはよそう。
ドクオの知人からの話を聞くたびに、胸が苦しくなっていく。

自分の中の、お兄ちゃんがお兄ちゃんでなくなってしまう。




31 名前: ◆RF0AS80diM :2009/08/22(土) 17:35:11.84 ID:YJG+Y3R20
44.

ガチャ

川*゚ー゚)「おねえちゃーん……トイレまで一緒にきて…」
川 ゚ -゚)「キュート。シューは?」

クーは壁時計に目をやった。すでに深夜で、小学二年生の起きている時間ではなかった。
シューはキュートとの相部屋なのだが、姿が見えない。

川*゚ー゚)「″私を呼び醒ます者は命を捧げよ″て寝言で……」


川 ゚ -゚)「寝言でそれはないだろ。しょうがないな」

クーはベッドから降りて、キュートに付き添ってトイレまで歩いた。
その道中、眠たげなキュートから、ドクオについての話を聞かされた。


川*゚ー゚)「お兄ちゃんなら……」
川 ゚ -゚)「ん?」

川*゚ー゚)「こんなトイレ、ぜんぜん怖くないんだろうなぁ」

川 ゚ -゚)「だろうな。さ、ついたぞ」

キュートが用を足している間、クーはぼんやり壁を見つめていた。
……この妹には、兄さんの真実を教えたくはない。




32 名前: ◆RF0AS80diM :2009/08/22(土) 17:37:46.58 ID:YJG+Y3R20
43.


・・ ・・・(ノイズでまみれた視界、モノクロ調子の画面)

 「……おい鬱田! お前いい加減にしろよ」

  机を強引に蹴飛ばす音。衝撃で床に突っ伏す鬱田ドクオ。

   「3万持ってこいって言ったよなぁ? ……なに黙ってんだテメェ!」

    複数人の男子がドクオに蹴りを入れる。無言でカメのように縮こまる、ドクオ。

     「おら長岡もっと力込めろよ。3万分蹴り入れなきゃ気がすまねぇだろ?」

      「え……あ、ああ。……鬱田調子くれんなよマジで!」

        ドクオの制服は汚らしい足跡だらけになっていく。

       「何とかいえよ! ごめんなさいはどうした鬱田!」

      「何で3万持ってくることも出来ないわけ!? 使えねえしキモいし、死ねよ!」

     「謝れよ! お前が悪いんだからな!」

    ぼろ雑巾のようなドクオ。だが、それでも、

   「……いやだ…おれは、……おれは悪くな……い」

  「「てめぇ!!」」




35 名前: ◆RF0AS80diM :2009/08/22(土) 17:40:12.68 ID:YJG+Y3R20
42.

川;゚ -゚)「………!」

クーはベッドから跳ね起きた。カーテンの隙間から朝日がもれていて、
すでに夏の暑さが部屋中にこもり始めていた。

久し振りの悪夢だった。兄さんが苛められているという、
ある意味では自分自身が標的になるより辛い夢だ。

クーは部屋を出ながら、イライラげに自分を恥じた。
「兄さんがイジめられていたから、兄さんがリアルでは苦しんでいたから、どうなんだ!!」

失踪を発端に知っていった兄さんの現実。しかし、それが何というのだ。
苛められていたからって、私たちの兄さんには変わりないじゃないか!
むげに扱われていたって、私たちの大切な兄さんなのだ。……


川 ゚ -゚)「兄さんの過去より、今……居場所のが大切だ」

洗面台に向かったクーは、ひとりごちると、歯磨きをしだした。
仕上げのリステリンのあたりで、ヒートが玄関から出ようとするのが
鏡越しに映った。格好からして、バイトに行くらしい。


川 ゚ -゚)「あんまバイトで青春を無駄にするなよ」

ノパ听)「へっへーん! 稼ぎ時だよーだ!! いってきまーす!!」




37 名前: ◆RF0AS80diM :2009/08/22(土) 17:43:18.94 ID:YJG+Y3R20
41.

・・ ・・・

――ヒートの勤め先の、喫茶店。事務室にて。

ノパ听)「おはよーございまーす!」

( ・∀・)「あ、ヒーちゃん。おはよう」

同僚のモララーがそわそわした調子で返してきた。そして、

( ・∀・)「実はさー、今日長岡くん居ないからモーニングけっこう忙しそうなんだ。
      ヒーちゃんそこんとこ覚悟しといて」

ノパ听)「え、長岡さんどうしたんですか!? 夏風邪ひいちゃった!?」

( ・∀・)「それが……車にひかれて、、、今入院してるんだよ」

ノハ;゚听)「ええぇええッ!! 大丈夫なんですか!?!?」

( ・∀・)「幸い命に別状ないらしいが、でもね、けっこう不気味で……」

ノハ;゚听)「ぶ、き、み??」

モララーの話が言い終わらないうちに、社員から「早よきてー」と声がかかった。
長岡の話はしばらくお預けとなった。 




38 名前: ◆RF0AS80diM :2009/08/22(土) 17:46:14.29 ID:YJG+Y3R20
40.

モーニングも終わって昼に入りはじめた、客入りも減少した時間になって、
ようやくヒートはモララーとの会話をすることができた。

ノパ听)「モララーさーん、事故が不気味ってどういうことですか!!?」

野菜の仕込みをしているモララーが、そっちを向いて、

( ・∀・)「なんかねー、交差点前で立ちどまってたらしいんだけど、″押された″って」

ノパ听)「押された……?」

( ・∀・)「うん。背中を押されたって言ってきかないんだ。ダレカに背中を……」

ノハ;゚听) ブルブル

( ・∀・)「怖いよねぇ」

・・・ ・・・・

・・・・ ・・

・・・ ・

・・・

・・
  




40 名前: ◆RF0AS80diM :2009/08/22(土) 17:49:32.29 ID:YJG+Y3R20
39.

ようやく古文がひと段落ついた。

川 ゚ -゚)「ふぅ」

フルーツはじける、三ツ矢のさわやかオレンジを口に含んで休憩をする。
半分ほど飲んだあたりで、シューがふらりとやってきた。

lw´‐ _‐ノv「ずいぶんお疲れのようで」

川 ゚ -゚)「何のこれしき。まだまだ数Bと英語が残っているのだぞ」

lw´‐ _‐ノv「どっひゃ〜って反応すればよろしいか?」

川 ゚ -゚)「何でお前はそう捻くれたことばっか言うんだ」

lw´‐ _‐ノv「常識なぞに囚われたくないのだよキミィ」

川 ゚ -゚)「小学生のうちは常識くらい学んでおけ」

lw´‐ _‐ノv「兄さんにも言われたな、そんなこと」

クーの手が思わず止まった。摘もうとしたポップコーンが、床に落ちる。

lw´‐ _‐ノv「そんな古典的な反応しちゃって」

川 ゚ -゚)「いや、兄さんのこと心配だからな」




42 名前: ◆RF0AS80diM :2009/08/22(土) 17:52:20.47 ID:YJG+Y3R20
38.

lw´‐ _‐ノv「ふうん。にしても」

シューは手に持っていた、ドクオからの手紙を開いて、

lw´‐ _‐ノv「この部分は何じゃろか。わしにはわからん アホじゃけえ」

そういって指さした「ぼくはしばらく失踪する。飛翔する。この世の誰とも会わないだろう」
という一文は、たしかに文面の中でもとりわけ異彩を放っている。
この部分さえなければ、ここまで動かなかったろう。そう思えるほどの文章だった。

川 ゚ -゚)「私にもわからん。飛翔するとは何のことだろうな」

lw´‐ _‐ノv「比喩ってやつか?」

川 ゚ -゚)「かもしれんし、もしかしたらパイロット技能を受けるってことかもな」

lw´‐ _‐ノv「……それは面白い解釈でつね^^」


川 ゚ -゚)イラリ

lw´‐ _‐ノv「魔術的な意味だったらどうする……?」

川 ゚ -゚)「ん? 心当たりでもあるのか?」

lw´‐ _‐ノv「兄さんは物知りだからな。タイムマシンの原理も知ってるくらいだ」




43 名前: ◆RF0AS80diM :2009/08/22(土) 17:54:21.46 ID:YJG+Y3R20
37.

川 ゚ -゚)「(原理なら図解雑学よめば理解できるが)」

lw´‐ _‐ノv「”密室の中で死ぬと完全な翼を手に入れられる”とか言ってた」

川 ゚ -゚)「何だそりゃ。シュレディンガーの猫ってやつか?」

lw´‐ _‐ノv「それはよく分からない。でも、飛翔って部分にイヤなふいんきが漂う」

川 ゚ -゚)「ふむ……」

lw´‐ _‐ノv「じゃあ出かけてくる」

川 ゚ -゚)「ん? どこ行くんだ?」

lw´‐ _‐ノv「ショッピングいったキュートをストーキングしてくるのさ」

川 ゚ -゚)「なるほど、いってらっしゃい」


妹を玄関までおくると、同じタイミングでヒートが帰ってきた。
普段の天真爛漫さとはほど遠い、複雑な表情をしている。


ノパ听)「お姉ちゃん……」




46 名前: ◆RF0AS80diM :2009/08/22(土) 17:56:40.76 ID:YJG+Y3R20
36.

異変を感じたクーは、頷くだけに留まってヒートを中に引き入れた。
サイダーをコップに注ぎ、ヒートに手渡したところでようやく、

川 ゚ -゚)「なんかあったのか?」

ノパ听)「前……話してた、長岡さんって覚えてる…?」

川 ゚ -゚)「ああ」

ノパ听)「その人がね、私にその話をした夜に、事故にあったの」

ヒートはサイダーに口もつけず、うなだれた。

川 ゚ -゚)「偶然だろ」

ノハ;゚听)「でも! 長岡さん誰かに背中押されたって…!」

川 ゚ -゚)「え…」

ノパ听)「私のせいなのかなぁ……」

クーも驚きを隠せなかった。ただの偶然、と片付けたいのは山々だったが
シューとの会話のせいか、なかなか振りきることが出来ない。

川 ゚ -゚)「……とりあえず、ヒートのせいじゃない」




47 名前: ◆RF0AS80diM :2009/08/22(土) 17:58:19.48 ID:YJG+Y3R20
35.

クーはヒートの頭を撫でながら、別なことを考えた。

……ドクオ兄さんのことを言い渋っていた長岡が、その日の夜に、
何者かに背中を押されて事故に巻き込まれた。
ヒートは話の種を持ち出した自分のせいだと言っているが、違う。悪いのは当然、犯人だ。

ならそれは誰か。長岡という人物の交友関係などまったく知らないので、
割り出しは不可能だ。しかし、たった一人……容疑者なら思いつく。

ドクオ兄さん……!


ここまで考えてクーもうなだれかけた。詮索したくないのに、状況が刻一刻と変化する。
少女の頃から築いていた兄さんのヒーロー像が、失踪を皮切りに崩れていっている。

居間全体に重い空気が流れ込んだそのあたりで、クーの携帯電話に着信が入った。
気持ちを切り替えてディスプレイを覗くと、それは内藤からだった。

川 ゚ -゚) 】「はい、もしもし」

( ^ω^)】「おいすー。クーちゃんかお。元気にしてたかお?」

川 ゚ -゚) 】「…まあ、ぼちぼちです」

( ^ω^)】「鬱田って人のこと教えてくれた友達が、なんかまた情報教えてくれたお」

クーは躊躇った。どうせまた、ヒーロー像を崩すような現実だろう。




48 名前: ◆RF0AS80diM :2009/08/22(土) 18:01:24.32 ID:YJG+Y3R20
34.

しかしせっかく電話までしてくれた内藤の、その心遣いをむげには出来ない。

川 ゚ -゚) 】「どんなですか」

( ^ω^)】「なんかその鬱田って人、大検から大学いったらしいお」

川 ゚ -゚) 】「え? でもレーボス高校出身ですよ」

( ^ω^)】「高校は中退したらしいお。なんか、……その、周りについてけなくて」

……イジメか。クーはすぐに察知した。
そうして中退し、大検で大学に入学か。

――わたしたちにはそんな素振り、まったく見せてなかったな。

クーは胸元に下げてあるお守りをギュっと握りしめた。
これもやはり、ドクオからの贈り物である。

川 ゚ -゚) 】「…そうですか。ありがとうございます、色々と」

( ^ω^)】「ぼくもクーちゃんの力になりたいお。
        ……で、ちょっと話変わるけど、いまバイト終わったとこで…
        いっしょにバーグ食いに行かないかお!?」

川 ゚ -゚) 】「ありがとうございました」ピッ

(;^ω^)】「ちょwwwwつれねええwwwww」ツー ツー




51 名前: ◆RF0AS80diM :2009/08/22(土) 18:04:24.14 ID:YJG+Y3R20
33.

ノパ听)「いまのだれ??」

川 ゚ -゚)「ん。バイト先の先輩」

ノパ听)「へえぇえ」

川 ゚ -゚)「……(兄さんのことについては伏せておくか)」

川 ゚ -゚)「食事のお誘いだけさ」

ノパ听)「へえええ!! モッテモテやね!!」

川 ゚ -゚)「ふふふん」

・・ ・・・

同日の21時。

( ^ω^)「くったおおおおおおおおお!!」

クーに軽くいなされたせいで、結局ひとりでハンバーグを食べるはめになった。

( ^ω^)「二人分も喰ったおおおおおおおおお!」




53 名前: ◆RF0AS80diM :2009/08/22(土) 18:06:20.84 ID:YJG+Y3R20
32.

叫びながら伝票を取り、叫びながら会計を済ませた。
叫びながら店内を出てみると、なんと月は見事に夜空を照らしていた。

( ^ω^)「はぁ…クーちゃんと一緒だったら、ムードあったのに…」

熱帯夜だが独り身の寒さを感じつつ、内藤は歩を進めた。
結構な地方都市なのでひと気はあまりなかった。

満腹な胃袋をさすって歩き続ける。
家までそう遠くないが、それでも十分はゆうにかかるので気が重い。

( ^ω^)「……9時なのに深夜みたいだお」


―― ―――

ノハ#゚听)「うおおおおお!! 今日という今日は許さん! シュウウウゥゥゥ!!!」

lw´‐ _‐ノv「待て あわてるな。これは孔明の罠だ」

o川*゚ー゚)o「シューちゃんがヒー姉ちゃんのプリン食べてるの見たよ」

lw´‐ _‐ノv「いやドッペルゲンガーの仕業」

ノハ#゚听)「証人がいるぞおおおお!! 食らえッ! シャイニングウィザードォォオオオ!!」

川#゚ -゚)「うるせえ!」




54 名前: ◆RF0AS80diM :2009/08/22(土) 18:10:02.71 ID:YJG+Y3R20
31.

― ―― ―――

( ^ω^)「………?」

いきなり、ふしぎな予感がした。何だろうか。内藤は首をかしげる。
たとえるなら、複数の団体から尾行されているような感覚だった。
集団ストーカーというのだろうか。内藤は思わず立ちどまった。


おそろしく静かなトンネルを抜けたあたりだった。
オレンジいろのランプが、わずかに顔を照らす。
内藤は動かないまま集中した。トンネル内で音が反響している。

この響いてくる音は、まさしく足音だった。
立ち尽くす内藤の後姿を確認したのか、その足音は次第に間隔が短くなっていく。

コッ………コッ……

コッ……コッ…

コッ…コッ…

そうして、ついには音の主は走り出した。
無防備な内藤の背中めがけて。

        




55 名前: ◆RF0AS80diM :2009/08/22(土) 18:13:26.76 ID:YJG+Y3R20
30.

内藤は意を決した。おもむろに振り向く。

( ^ω^)「誰だお!!」

トンネルの方を向くと、フードを被った小男が、こちら目掛けて走ってくるのが見えた。
深くかぶっている。こんな熱帯夜なのに。内藤はそう思ったが、次の瞬間に戦慄した。

――ナイフを手に持っている。


(;^ω^)「うわっ!」

驚愕すると同時に、右にむかって倒れこんだ。
それがうまい具合に小男との接触を免れたらしく、突っ込んできた
ナイフの一突きは空振りに終わった。

(;^ω^)「うぅ……」

( )「………」

小男はフードを正しながら内藤の方に身体を向ける。
性別が判断できるだけで、年齢はまったくの不詳だ。
よろめくように立ち上がると、内藤は叫んだ。

(;^ω^)「か、金なら持ってないお!」

しかし、小男はまったく意に介さない。
刃先をこちらに向けると、ゆっくりと歩き出す。




59 名前: ◆RF0AS80diM :2009/08/22(土) 18:17:40.80 ID:YJG+Y3R20
29.

(;^ω^)「なんだお! 何が目的だお!!」

( )「……神に……なる……ため」

やはり男の声色だった。しかし内容は内藤には理解できない。
神になる? いったいどういうことだ。

ワケもわからぬうちに、小男はまたも接近してくる。
内藤は悲鳴を上げながら身体をのけ反らせて避けたが、しかし、
左の二の腕を切りつけられてしまった。

燃えるような痛覚は、一気に闘志を萎びさせた。
膝をついて、傷を必死に押さえる。

(; ω )「いッ……いたい……」


(;^ω^)「っつ……助けてくれお……」

小男はとどめの追撃をしてこなかった。丁寧に絹のハンカチで
ナイフの血を拭い去っている。



(;^ω^)「お、お願いだお、、、命は取らないでくらさいお…」

        




60 名前: ◆RF0AS80diM :2009/08/22(土) 18:20:52.00 ID:YJG+Y3R20
28.

( )「ダメだ」

ハンカチをポケットにしまうと、小男は無情な返しをした。
内藤の命乞いをみて余裕をもったのか、すぐに殺そうという気配は見られない。

(;^ω^)「ぼくが何かしたんですかお……?」

( )「………」

(;^ω^)「何か気に障ったなら言ってくれお、改善するお!」

( )「無理だな」

内藤は対面する小男の容貌を覗こうと必死だったが、
夜の暗さ、月の逆光でまったく確認できない。

小男はゆっくりと歩を進める。ナイフを逆手に握っている。
内藤の顔が恐怖に歪む。どうして、こうなった。どうして……。

逆手のナイフを小男はゆっくりとはるか頭上に掲げた。
そうして、適当な位置に立つと、そのナイフを振り降ろそうとする。その間際、

( )「お前は邪魔なんだ」

(;^ω^)「うっ……うっ……」




61 名前: ◆RF0AS80diM :2009/08/22(土) 18:23:40.54 ID:YJG+Y3R20
27.

( )「だから死ね」

振り下ろされるナイフ。眼前に迫ってくる銀の輝き、恐怖、

(;^ω^)「うっうっ……うわぁああぁぁぁぁぁあ!!!」

内藤はあらん限りに吼えた。恐怖が度を超えたのか、身体の動きが俊敏になる。
両腕をめいっぱいに伸ばし、相撲の突き押しのように、男の華奢な身体むけて
二つの掌で衝撃を与える。

予想外の一撃に、小男はもろにダメージを受けた。
体格差も歴然だったので、小男はナイフを落としながら後ろにすっ倒れていった。

(;^ω^)「はぁ……はぁ……はぁ……」

ゆっくりと立ち上がる。アドレナリンが活発なのを身体全体で感じ取る。
裂傷の痛みも気にならないほどだった。小男は呻くばかりで、しばらくはその体勢だろう。

形勢の逆転だ。今度は内藤に余裕が出てきた。急いで地面のナイフを取り上げると、
声高々に、

(;^ω^)「なんでぼくを殺そうとするんだおッ!! 具体的に言えお!!」

( )「………」

男は片手をつきながら姿勢を正す。立ち上がった。

しかし焦りは見られない。




63 名前: ◆RF0AS80diM :2009/08/22(土) 18:27:23.67 ID:YJG+Y3R20
26.

大声を出していくと、だんだん小男への怒りも込み上げてきた。

(♯^ω^)「お前は誰だお! そのフードを外せ!」

小男は身じろぎもしない。

(♯^ω^)「武器はこっちが持ってんだお! 言うこと聞けお!!」

( )「………」

男は苦笑するような仕草を見せると、懐から更にナイフを取り出した。
ポケットナイフだった。刃渡りは内藤の手にしている、ボウイナイフと比べて小さいが、
2本持っている。右手と左手で、それぞれ構えだした。

(;^ω^)「何だお、それ……やる気かお…?」

(;^ω^)「さっきの見て分からないのかお!? こっちのが有r」

言い終わらぬうちに、小男はがむしゃらに突っ込んできた。
刃をもちながら両腕を振りまわしている。素人に違いない動きだったが、
狂気を秘めていた。内藤を殺してやろうという気概が、見てとれた。

(;^ω^)「わっ……や、やめるお!」

「あぁあぁァあぁぁッあああァアアあっぁァアアア!!」

叫びながら内藤に向かっていく。




67 名前: ◆RF0AS80diM :2009/08/22(土) 18:31:46.75 ID:YJG+Y3R20
25.

内藤は逃げた、ものも言わず、ナイフは持ったままで走り出した。
小男は腕をまわすのを止め、内藤を追いかけてくる。

しかしさっきの叫びといい、素人な構えといい、今の追ってくる姿といい、
なんだかそのどれもが弱弱しかった。
暴走したイジめられっ子みたいなふうで、わずかな罪悪感すら芽生えたほどだった。

(;^ω^)「なんなんだおアレ……」

自宅を突き止められないよう、別なルートを選びながら内藤は考える。
ようやく身体が落ち着きを取り戻してきた。持久走なら得意なので、この現状は有利だ。
左腕がジンジンと燃えるように痛いが、構っている暇もない。

内藤は考えに没頭する。
自分でいうのもなんだが、人に好かれる性格で、嫌われたことはほとんどない。
特に自分から悪意も仕掛けないし、そういうのには無縁な人生だった。

喧嘩なんて小学生の頃以来だし、交友関係も上々なのだ。
あの狂人に追いかけられる理由は何なんだ?

(;^ω^)「最近なんかやったかお…?」

特に何もしていないはずだ。金の貸し借りは穏便だ。
麻雀もこの頃は負けっぱなしで、むしろこっちが恨む立場だし。

あるとすれば……鬱田という男を調べた程度か。




68 名前: ◆RF0AS80diM :2009/08/22(土) 18:35:26.38 ID:YJG+Y3R20
24.

(;^ω^)「…鬱田……ドクオ……」

その名前を口にしてみる。クーの依頼で嗅ぎまわった、その男の名前を。

高校時代は苛められ、耐えかねてナイフで暴れまわった男だ。
その後、学校側に無理やり自主退学させられた男だ。
大険を受け、自分と同じ大学に通っている男だ。
しかし、そこでも友達が出来ず、7月からキャンパスに行っていない男だ。

(;^ω^)「…鬱田……ドクオ……!」

確証はない。だが不思議と確信はあった。
内藤はとつぜん立ちどまると、小男のほうへ一気に振りかえった。


(♯^ω^)「鬱田ドクオ!!!」


その名を叫ぶ。
小男はたちまちひるんだ。またもナイフを落としそうになる。
フードの下に隠れているその顔は、やはり鬱田ドクオなのだろうか。

間があった。改めて今日は熱帯夜ということを知らせてくれる間だった。

しかし、脇の方からガヤのような音が聞こえた。うるさい通行人が複数きたらしい。




70 名前: ◆RF0AS80diM :2009/08/22(土) 18:41:04.27 ID:YJG+Y3R20
23.

( )「……くそっ!」

小男は捨てぜりふを吐くと、一目散に逃げだした。

(;^ω^)「ま、待てお!」

しかし、みるみるその距離は離れていく。そうして姿が見えなくなったころ、
通行人が脇からゆらゆらと現れ出した。酔ったサラリーマンたちで、
どうやら内藤の叫びや言動で興味をひかれているらしい。

面倒なことにならないうちに、内藤もさっさとその場を離れた。
「あっ」「ちょっと」と声を出すサラリーマンには目もくれない。

一応、小男が近くに居ないか確認すると、アパートの自室にこもって、鍵とチェーンロックをかけた。

(;^ω^)「はぁ……はぁ……はぁ」

腕の傷を見下ろすと、どうやらすでに血は止まっていた。
そこまで深くかった様子で、このぶんなら血を追って自宅を突き止められる心配もなさそうだ。

(;^ω^)「あれが……鬱田ドクオ?」

自問自答する。本当にあれが鬱田ドクオなのか。
たかが過去をほんの少し知っただけで、ああも斬りかかってくるだろうか……。




71 名前: ◆RF0AS80diM :2009/08/22(土) 18:44:47.24 ID:YJG+Y3R20
22.

次に思い立ったのは、素直家の身の危険だった。
鬱田ドクオと家族のように接してきた彼女たちの様子が、たちまち心配になってきた。
急いでクーに電話をかける。
コール音が長く感じられる。

川 ゚ -゚) 】「はい、どうしました」

(;^ω^)】「あ、、、クーちゃんかお!? 大丈夫かお!?」

内藤の言葉に、訝しんでいる様子が電話越しに伝わる。

川 ゚ -゚) 】「え、……特に異常はないです」

(;^ω^)】「い、妹さんたちは?」

川 ゚ -゚) 】「次女と三女が喧嘩の決着にトランプのSPEEDやってますね。四女が審判です」

(;^ω^)】「……よかったお」

盛大に安堵のためいきをついた。


川 ゚ -゚) 】「何があったんですか?」

(;^ω^)】「暴漢に襲われたんだお! それも、鬱田ドクオと思しき人物で……」




73 名前: ◆RF0AS80diM :2009/08/22(土) 18:47:29.14 ID:YJG+Y3R20
21.

川 ゚ -゚) 】「……ちょっと待ってください。妹たちから離れます」

立ち上がる動作音、衣のこすれる音が聞こえてから、再び、

川 ゚ -゚) 】「どういうことですか。……kwskお願いします」

内藤は先ほどの経緯を、要点を整理して説明した。
ファミレスからの帰り道、とつぜんフードを被ったなぞの男に襲われたこと。
なんとか死なずにすみ、逃げ、ふいに鬱田ドクオとカマをかけたらうろたえたこと。
そうしてそのまま去っていったこと。

(;^ω^)】「……男はやせてて、僕より一回り小さかったお」

川 ゚ -゚) 】「………」

(;^ω^)】「ぼくは鬱田ドクオと面識がないお。でも、彼は僕を分かっていたお…」

川 ゚ -゚) 】「ドクオ…兄さんだとはまだ、断定できないです」

(;^ω^)】「も、もちろんだお。早合点はしてないお、僕だって」

川 ゚ -゚) 】「しかし、今の話を聞くと、、、可能性は高いかもしれません」




74 名前: ◆RF0AS80diM :2009/08/22(土) 18:51:46.97 ID:YJG+Y3R20
20.

沈んだクーのトーンに、内藤はうろたえた。
そうだ。鬱田はクーちゃんと親しい仲なんだお。
それをぼくは、暴漢は彼だと決めつけて話していた。。。

(;^ω^)】「ごめんお。…決め付けなんかしちゃって」

川 ゚ -゚) 】「いえ、状況も状況ですし」

川 ゚ -゚) 】「傷は本当に大丈夫なんですか?」

( ^ω^)】「ぜーんぜん! へっちゃらだお!!」

川 ゚ -゚) 】「それはよかったです。……内藤さんにも知ってほしいことがあるんですが、
       実は、妹の同僚の長岡という人物が、……」

今度はクーが説明をしだした。長岡という、ドクオの同級生が
何者かに背中を押され、交通事故に巻き込まれたということを。

(;^ω^)】「そんなことが……」

川 ゚ -゚) 】「それも妹がドクオ兄さんのことを聞いたその日なんです」

(;^ω^)】「………」

川 ゚ -゚) 】「…ドクオ兄さんの失踪を中心に、不穏な事件が起こっているんです」




75 名前: ◆RF0AS80diM :2009/08/22(土) 18:55:15.06 ID:YJG+Y3R20
19.

そのとき、クーの声の後ろで、妹の「それは反則だぁああああああ!!」という
叫びが聞こえた。さらに幼い声での「アハハハ」という笑いも。
幸せな日常だと内藤は思った。

この日常が、クーの幸せがどんどん崩れていくのか。

( ^ω^)】「ぼくは、全力で手助けするお。何かあったら言ってほしいお」

川 ゚ -゚) 】「ありがとうございます、親も全然帰ってくる気配がなくって…」

( ^ω^)】「親……鬱田ドクオの家族には話したかお?」

川 ゚ -゚) 】「明日話す予定です。解決の糸口が見つかれば、報告します」

( ^ω^)】「了解だお。……それじゃあ」

電話を切ると、内藤は強く決心した。
素直家を守ろうと。巻き込まれた以上、自分も登場人物の一人なのだ。

そして、クーへの恋心も再認識した。
彼女を守ってやりたい。下心なしに、純粋な、男の気概として。

・・ ・・・

      




78 名前: ◆RF0AS80diM :2009/08/22(土) 19:01:05.52 ID:YJG+Y3R20
18.

しかし、クーのそんな詰問も、結局は無駄足となってしまった。
快くクーの来訪を迎えてくれた鬱田家の人々も、ドクオの消息についてはまったく知らないらしい。
部屋にも入らせてもらったが、
本棚に分厚い書物が押し込まれていること以外、目立ったものは見当たらない。

母親にも話を聞いたが、
「ドクオは旅にでもいってるんじゃない」と、要領を得ない回答だけであった。

川 ゚ -゚)「……手がかりゼロか」

自宅に戻り、リセの目薬でリフレッシュしながらつぶやいた。
ドクオは思い返すと、親をそこまで愛していなかったような気もする。

こちらが探りを入れても、まるで手ごたえがない。
しかしそれでも日常は刻々と変化している。悪い方へ。

川 ゚ -゚)「…やはり警察か?」

ただの失踪事件ならいざ知らず、暴漢に扮している可能性
もあるとなっては、警察も本腰をあげないわけにはいかないだろう。

川 ゚ -゚)「だが、警察か……」

しかし一般人のクーにとって、その国家権力の介入にはいささか抵抗があった。
もちろんそんなことを言っている場合ではないことは分かっている。
どうするべきか。内藤に相談するか。




79 名前: ◆RF0AS80diM :2009/08/22(土) 19:06:01.32 ID:YJG+Y3R20
17.

悶々としているうち、玄関の開く音がした。
ダイニングへ向かってくる。振り向くと、珍しく焦った様子のシューがいた。

川 ゚ -゚)「…どうした」

嫌な予感がした。平静を装っても、心臓の鼓動が激しくなる。

lw;´‐ _‐ノv「さっきまで……いつものようにキューを尾行していたんだ」

川;゚ -゚)「………で?」

lw;´‐ _‐ノv「キューが軽自動車に連れ去られた。ナンバーはレンタルだった」

川;゚ -゚)「そんな……! 警察に連絡しなければ」

lw;´‐ _‐ノv「警察はダメ。こんな手紙が落ちていた」

汗に濡れたその白い便箋を、クーは震える手で受け取った。
開くと、こんな文章がパっと目に飛び込んできた。

「 シューへ

  これは警察やら他人には関係のないことだ。
  話してもいいのはお姉さんくらい。

  もしこの約束を破ったらどうなるか分かるよね。
  夜になったら、お姉さんたちと一緒にラウンジ山の三番小屋前に来たまえ。」




81 名前: ◆RF0AS80diM :2009/08/22(土) 19:10:29.86 ID:YJG+Y3R20
16.

川;゚ -゚)「………!」

lw;´‐ _‐ノv「犯人は私がキューを尾行していることを知っていた。そして私の名も」

川;゚ -゚)「なんということだ」

クーはめまいがする思いだった。最悪の展開だ。どうしてキュートが……!
しかし、自分は毅然としなければならない立場なのだ。落ち着くんだ。

妹たちに危険な目はあわせられない。自分だ、自分が、自分こそが。

川 ゚ -゚)「シューは家で待機していてくれ。ヒートが帰ってきたら、このことを」

lw´‐ _‐ノv「クー姉は?」

川 ゚ -゚)「準備をする」

そうして、クーは着替えのため、自室に引きあがった。……


・・ ・・・


同日、21時。

ラウンジ山。 三番小屋にて。




82 名前: ◆RF0AS80diM :2009/08/22(土) 19:14:38.85 ID:YJG+Y3R20
15.

小男は明かりもない小屋の中、だんまりと時が過ぎるのを待っていた。
ベッドに寝かしつけているキュートの艶々した髪を撫でながら、時計を睨んでいる。
薬で寝かせているが、そろそろ切れてもおかしくない頃だった。
そうして眠りから覚めたら、ようやく実行にうつすことが出来る。

木造りの机に視線をやる。様々な量の、薬たちが鞄から顔を覗かせている。
思わず顔をしかめた。自分の人生を呪ってやりたくなる。

こんなことになるなんてな……。小男――ドクオは悲哀のこもったため息をついた。

('A`)「……よし」

キュートの顔を覗きこんだ。まだ寝息はやすらかだった。

すこし躊躇ったが、ドクオはその小さな身体を背負うと、扉を開けて
小屋の裏手に入っていった。

裏手は花畑だった。決して華やかではないが、ドクオはしかし、それを含めて好んでいた。

ワスレナグサの密集地帯で膝をつくと、やわらかな草の上に、キュートをそっと置いた。






84 名前: ◆RF0AS80diM :2009/08/22(土) 19:20:08.17 ID:YJG+Y3R20
14.

今日は、今年一番の熱帯夜。身体がすごく熱い。心はなぜかとても寒かった。
雲にかすれて、今にも見えなくなりそうな満月を眺めていると、
なんだか、心が洗われていくような気もする。

そろそろクーたちが来るのだろう。ポケットから機械を取り出し、耳に当てると
車の運転音ばかり聞こえてくる。

('A`)「………」

ドクオはしばらく逡巡した。急きょ変更した計画だったが、ほんとうにこれでいいのか。

キュートの寝顔をそうっと見下ろす。あどけない表情だった、
けっして攻撃されてはならない、神聖なものにすら思える。

見ているだけで、決心が強固なものになっていった。
棒立ちになりながら、夜風にさらされて、


('A`)「……おれは……おれは……」

('A`)「この娘らの…兄さんじゃないか」

ドクオは膝をついてむせび泣いた。涙がカンパリいろのハイビスカスに落下した。
朝露のように垂れたそれは、やがて花片の中に吸い込まれていった。……




85 名前: ◆RF0AS80diM :2009/08/22(土) 19:25:24.48 ID:YJG+Y3R20
13.

そして。

・・ ・・・

川;゚ -゚)「キュート!」

(;^ω^)「あんま叫ばない方がいいお……!」

クーたちが到着したのはそれから30分後のことであった。
ヒートとシュールには、呼ぶまで出てくるなと言いつけておいた。
運転してくれた内藤とともに、クーは、小屋の中に飛び込んだ。


( ^ω^)「………?」

川;゚ -゚)「誰も…いない」

薄暗かったが、内部は物がごたごたと置かれて乱雑だった。
そんな部屋の中、クーは机の上に二つの手紙が用意されているのを発見する。

川;゚ -゚)「……これは」

ひとつはメッセージカードのようなもので、色ペンがにぎやかだった。

「裏手の花畑は君たちへのプレゼントだ。ドクオ」という一文だった。




90 名前: ◆RF0AS80diM :2009/08/22(土) 19:30:12.52 ID:YJG+Y3R20
12.

( ^ω^)「? ……そっちは封筒かお」

内藤がもう一つのほうを手に取った。そちらには、表にただ「クーへ」
とだけ書かれてい、カードよりも断然に質素だった。

川 ゚ -゚)「…読ませてください」

内藤から貰うと、クーはその封筒を開いて紙面を月明かりに照らした。
黒字でつらつらと長文が載っている。ドクオからのものだった。
内藤がライトを照らす。クーはその文面を読んでいった。
キュートは、ドクオはどこへ行ったのか。はやる気持ちを抑えながら。……

・・ ・・・

 ドクオより。

 クーにしか読ませるつもりはない。というのは、クーがやっぱり
四姉妹の中で一番の年長者であり、保護者でもあるからだ。
だからクーにだけは真実を伝えておきたいと思った。

もう僕はダメだ。でもキュートは無事だから安心しておいてくれ。

 最初に言っておこう。ぼくは神になりたかった。




92 名前: ◆RF0AS80diM :2009/08/22(土) 19:32:33.53 ID:YJG+Y3R20
11.

いや、すこし語弊があるかも知れない。クーには衝撃的というか、意味不明な話なのだろう。
だからこんな手紙をつづった。言葉だけで伝えきれるとは思っていない。

 まずは主張を理解してもらう前提として、ぼくの今までと現状を書き連ねたい。……

 ぼくは一人っ子だった。それも鍵っ子で、小学校に入る前から留守番ばかりさせられていた。
けれども親がさすがに可哀想と思ったのか、ぼくに友達を作ろうとしてくれた。
素直家とは家が近所なこともあって、それなりに付き合いのある近い年の少女、
つまりは君と、なるべく遊んでいるようにと言いつけられたんだ。

はじめは戸惑っていたが、すぐに仲良くなれた。きみはとても冷静沈着だけど
心にはまっすぐな信念をもっている子だった。少女らしくなかったのが、
逆に親しみやすかった。

そのころの思い出はいつまでも色褪せない。泥だんごを作ったり、アジサイで
色水を作ったり、カブトムシを捕まえに近所の山まで探検したり、とにかく楽しかった。

そしてなにより、君はぼくを兄さんと慕ってくれていた。
それが慰めだった。君以外に友達のいないぼくは、ただそれだけを糧に少年時代をすごした。


やがてヒートも生まれ、三人で遊ぶようになった小学校時代。
教室では読書で知識を蓄え、放課後にはそれを二人に披露していた。
「すごい」と美少女に褒められるのは、たといようもなく嬉しいことだった。




97 名前: ◆RF0AS80diM :2009/08/22(土) 20:02:21.44 ID:YJG+Y3R20
10.

 だが、そのから僕はだんだん極端な人間関係を築くことになっていった。
ぼくは前述のとおり、教室では本の虫で、クラスメートとはあまり関わろうとしなかった。

 ぼくにはクーがいる。ヒートがいる。それで充分だと思っていた。

クラスメートは教室の隅で蹲っているような、ダンゴ虫のようなぼくを奇異な目で見ていた。
最初はそんなだったが、やがてはからかいが始まった。

そのからかいはエスカレートして、イジメにまで発展した。
ぼくはクラスメート……いや、素直家以外の人間を必要としていなかった。
たったそれだけの理由で、こんなにも傷つけてくる。ぼくは世間が嫌いになった。

そっとして欲しい。ぼくには放課後のクーとヒートがいるんだ。
でも周りはぼくをぼろ雑巾のように扱った。

苦しかった。学校生活はとても惨めで、死にたくなるくらいだった。
でも僕には君たちが居た。だから頑張れた。君たちがぼくを兄さんと慕ってくれた。

クズのような僕を、君たちだけは人間として扱っていてくれたんだよ。
嬉しかった。生きていける希望だった。

 中学に進学し、それでも苛めは続いていたが、同時に君たちの優しさも続いていた。

やがて僕を軽蔑するんじゃないか、てビクビクしていたけど、そんなことは全然なかった。
ありがとう。ゴミのような僕をずっと慕ってくれて。




101 名前: ◆RF0AS80diM :2009/08/22(土) 20:27:16.57 ID:YJG+Y3R20
9.

 女の子っていうのは、中学に行く頃には恋沙汰とかがあるものだと思っていた。
そうして僕のような人間から離れていくもんだろうと。

けれどクーやヒートは、ぼくから離れないでいてくれた。
実際の恋心だなんてのは僕の知るところではないけど、いいんだ。
ぼくから離れなくてありがとう。ぼくは生き永らえたんだ。

 高校に行っても同じで、男子校だっただけに余計悲惨だった気がする。
パシリに恐喝、肩パンなんてのは日常茶飯事で、相変わらず教師は無視を決め込んでいた。

 シューやキュートも生まれ、君たち姉妹は美しく賑やかになっていった。
本当の家族よりも家族と思っていた。いや、家族以上の存在だった。

 君たちと戯れているのが僕の生きがいだった。
人生とは切っても離せないような存在になっていった。
相変わらず、君たちを驚かせるイリュージョンなんてのにも腐心した。

ぼくは君たちのために生きていこうとすら思っていた。
だからぼくは自分を綺麗に見せたかった。

苛めなんかとは無縁の、華やかな人物像を描いていた。
それが崩壊するのが怖かった。嘘を隠すためにまた嘘をついていった。
そうやって「お兄ちゃん」の虚像を作り上げ、演じていた。

しかし楽しかった気もする。だって君たちの居ない日常に意味なんてなかったから。




102 名前: ◆RF0AS80diM :2009/08/22(土) 20:31:18.57 ID:YJG+Y3R20
8.

 高校中退したのも隠し、大検を受け、まるで大学は現役入学したように振舞った。
普段の暗い暗い素顔にも仮面をし、躍起になって「お兄ちゃん」を演じていた。

 怖かった。
もし僕が普段の日常では人間以下のように扱われているのがバレたら。

そうなればクーたちを失望させてしまう。今までの像が砕けてしまう。
君たちはもう僕とは遊んでくれないのかもしれない。
クーとの読書会が、ヒートとのキャッチボールが、
シュールとの政界議論が、キュートとのシルバニア・ファミリーが、もう出来ないのかと。

だから必死だった。
君たち四姉妹に見放されたら生きていく価値がないんだ!


……そうやって、君たちに固執すれば固執するほど、現実はどうでもよくなった。

 大学は意外なほどにつまらないものだよクー。
会話なんて数えるほどしか、しなかった。
クーならまともなキャンパスライフを過ごせるかも知れない。
でも僕は無理だった。そして半年もたたず中退した。

そう、大学に合格した際、ぼくは一人暮らしを決め込んでいた。
だから君たちとは殆ど会えなかったね。辛かった。




105 名前: ◆RF0AS80diM :2009/08/22(土) 20:35:07.44 ID:YJG+Y3R20
7.

 君たちと少しでも触れ合いたいと思っていた。
だから家を出る前に、君たちにプレゼントを渡したね。
あれは、実は盗聴器が仕掛けられているんだ。

だからクー、そのお守りなんかすぐに捨ててしまうといい。
ヒートやシューにもネックレスとチョーカーを渡した。
キュートには巨大なイヤリングを。

だから、この手紙を読んだのちに、できれば妹たちからそれを取り上げ、
破棄してほしいと思っている。(シューは、ほとんど装着していなかったが)

ぼくが今後、そこから情報を盗み取ることは無いだろうけれども。



 これで分かったろう。ぼくは異常なんだ。異常なほど君たちに依存している。
すでに生きていけない。もう君たちナシじゃ生きていく意味がないんだ。


しかし、これでも均衡状態ではあった。まだこんな凶行……クーは分かっているよね、
そう、あんな暴力事件や誘拐なんかはするハズはなかったんだ。

 全ての崩れた発端は、病気だった。
       




107 名前: ◆RF0AS80diM :2009/08/22(土) 20:39:54.05 ID:YJG+Y3R20
6.

 脳の難病だ。精神障害や、不随意運動の顕著なもので、治療は確立されていない。
それを知っておれは絶望した。投薬である程度は症状を遅延させられるらしいが、
そんなものはただの気休めだ。病院から逃げるようにおれはこの小屋へ隠れた。

 そうして、自分は自殺したくなったんだ。
何で俺にばかり不幸が襲いかかってくるんだ。
友達もいない。世間には嫌われ疎まれ、それでも四姉妹を願って生き続けたのに、
どうしてこんな末路を辿るはめになるんだ。……

 自分の薄幸さに泣けたし、他人には嫉妬した。
おれは結局、ぼろ雑巾のような存在だった。

 人間の規格ではあるが、中身は虫けらにも劣る。

 ただ唯一気がかりだったのは、やはり君たち四姉妹のことだった。
おれは死ぬのか、それならもうそれでいい。

だが、この四姉妹に忘れ去られたらどうしよう。
おれの人生というのは、それこそ四姉妹のために存在した。
それなのに、恋やら結婚やらで一躍過去の人になったら、忘れ去られたら……

 死ぬことよりも恐怖だった。それだけはあってはならない。
何としても、四姉妹には「俺が、お兄ちゃんが生きていた。存在していた」という証を刻みたかった。

現実世界ではクズでも、四姉妹の中では、神になりたかったんだ。……




109 名前: ◆RF0AS80diM :2009/08/22(土) 20:43:58.75 ID:YJG+Y3R20
5.

 しかし神になるというのは、どういうことだろうとは自分でも思った。
自分の病態からいって、失踪する…神隠しに遭うのは前提だった。

 雲を攫むような話だったが、とにかく実行に移した。
まず失踪するとクーたちに手紙で告げ、随時、会話を盗聴して考えを立てた。
盗聴するうちにまたひとつの課題が現れた。おれの真の実態、
学校では苛められ、中退を繰り返している駄目人間だということはひた隠しにすべきだと。

 そのためにおれは動いた。悲しいことに、クーやヒートの周りには、
手がかりになるような人物がたくさん存在していた。
そいつらを片っ端から葬るかとも考えたが、とにかく、暴露しそうな人間は消そうと動いた。

 だが内藤という男の存在はおれもよく分からず、結局、おれの実態がバレてしまった。
八つ当たりのように夜襲をかけ、それでも失敗し、そうやって自分で自分の退路を塞いだ。
笑いたくなるようなことだ。やっぱりおれは人間以下なんだよ。
なにが神が、笑わせるよね。

でも、笑わせるようなことに、神だと思わせることに、おれはただ執着していたんだ。

 躍起になった俺は、とにかく何とかしなければと焦った。
そうして弾みでキュートを拉致し、この山小屋まで連れていったんだ。
警察には知らせないように、他人には関わらせないようにという手紙をシューに残して。

 そこから俺はこの手紙を必死になって書いている。薬を飲みながら、
キュートが目覚めないかと時折ふり向きながら。
                      




111 名前: ◆RF0AS80diM :2009/08/22(土) 20:48:48.90 ID:YJG+Y3R20
4.

 じきに夜の帳がこの街を覆い尽くすだろう。

その間に、これだけは言わせてくれ。

俺は結局、何もできなかった。神になるなんて、大層なことを信念にしたのに
やっぱりすべては無駄だった。

 キュートは当然返す。で、これから俺は、このまま消えてしまおうと思う。
キュートを裏手の花畑に安置し、おれはもうこの世から失せる。
死体が絶対に残らない方法を模索している。

そうして四姉妹に、裏手の花畑を見せて、それでおれの人生はフィナーレにしよう。
あの花畑はいつか紹介したいと思っていたが、こんな形になるとは思ってもみなかった。

見に行ってくれ。いいところなんだ。
それがお兄ちゃんからの最後のプレゼントだと思ってくれ。


 最後に、クー。ひとつおれの人生について言わせてくれ。

ここに書いたように、おれの人生は傍から見れば愚かなものだ。
生きてきた証など、君たちの記憶の中でしか存在しないんだ。




115 名前: ◆RF0AS80diM :2009/08/22(土) 20:53:03.27 ID:YJG+Y3R20
3.

 だが、それでもう良いとすら、いまになって思えてきたんだ。
人は死ぬときに何を考えるのだろう。
自分の為してきたことばかりを走馬灯にして没するのかな。

 違うと思う。人は最後に、他人のことを思って死んでいくんだ。
生きてきた証なんてのは醜い者の欲しているものだ。

 ぼくは今まで、現実世界の四姉妹の心をひたすらに求めていた。
だがこの土壇場になって思う。死者に束縛される人生にいいことはあるのかと。
仮にぼくの計画が成功したとして、四姉妹の人生の未来は輝けるものなのだろうか。

 君たちには僕と違って将来がある。まだ大学にも行っていない。
成人すらしていない。これからどんどん恋をしてくれ。
最愛の人間と結ばれてくれ。そうして、いいお嫁さんになって、
愛する我が子を育て、いいお母さんになってほしい。それがぼくの幸せだ。

だから僕は、現実世界の君たちでなく、
僕の心の中の君たちを大事にして、このまま消え去ろう。

 僕のことは時々でいい。思い出してくれたらありがたい。
こんな重苦しい手紙を贈ってごめん。クー。下の妹には身が重すぎると考えたんだ。

いっそこんな手紙を贈らないというのも手かもしれない。
けれど、事態が事態だし、責任は取らせてください。




116 名前: ◆RF0AS80diM :2009/08/22(土) 20:58:20.26 ID:YJG+Y3R20
2.

 クー。ヒート。シュー。キュート。本当にごめん。
ぼくは決していいお兄ちゃんではなかった。なろうとは務めていたが、結局だめだった。
そして長岡や内藤さんにも申し訳ない。
僕の身勝手な幻想のせいで手ひどい傷を負ってしまった。

 本当にごめん。そしてありがとう。
最後に花畑を紹介し、僕はこの世から立ち去りたい。

 全ての幸せを願って。
                         鬱田ドクオ

・・ ・・・

震えたペン使いで書かれたそれは、用紙にすれば三枚程度だったのに、
ドクオのすべてが込められているようであった。

( ^ω^)「……クー」

川 - )「………」

クーは無言で便せんを胸に抱いていた。言葉が出てこない。
どうしてこんなことになったのだろう。内藤はそれでも心配そうに声をかけた。

そのとき、クーははらはらと涙を溢した。しかし俯きながらも、
足取りは扉のほうへ向かっていった。




119 名前: ◆RF0AS80diM :2009/08/22(土) 21:02:40.29 ID:YJG+Y3R20
1.

( ^ω^)………

一人取り残された内藤は、その後ろ姿を追おうか迷っていたが、
キュートを確認せねばと思い立つと、勢いよく出口を開けた。

( ^ω^)「…クー。ヒーちゃん、シューちゃん」

川 ゚ -゚)「花畑に行きましょう。キューの安否を確かめないと」

いかにも凛々しい様子で、クーは内藤にそういった。
しかし眼光にはどこか哀しさが漂っているし、ドクオの手紙は大事そうに握りこんでいた。

( ^ω^)「……だお。この裏手だお」

ノハ;゚听)「キュウゥゥトォォオオオオ!!!」

耐えかねたヒートが裏手へと駈け出した。シューもそれを追う。
ややあってクーと内藤もそれに続いた。熱帯夜の気だるさが疎ましい。
華やかでない、勿忘草の印象的な花畑で、キュートはヒートに抱えられていた。

川 ゚ -゚)「キュート!」
ノハ;゚听)「おい! おい! 返事をしてくれぇ……返事をしてくれええ!」
lw´‐ _‐ノv「…寝てるだけの予感」

o川つー )o「んっ……んん……?」




121 名前: ◆RF0AS80diM :2009/08/22(土) 21:06:58.64 ID:YJG+Y3R20
0.

ノハ;゚听)「うおおおおおぉおおっ目覚めた!! よかったぁ…!」

lw´‐ _‐ノv「……しかしなぜこんなところに眠っているんだよ」

o川*゚ー゚)o「うーん…わかんない、よく覚えてない…」
lw´‐ _‐ノv「なんだと。そのコブシみたいなイヤリング引っこ抜くぞ」

川 ゚ -゚)「ドクオ兄さんが助けてくれたそうだ」

ノパ听)「さすが兄さん!!」 lw´‐ _‐ノv「………」

クーはこの花畑と夜空を味わうような素振りをみせ、

川 ゚ー゚)「そしてこの場所は兄さんからの、、、プレゼントさ」

( ^ω^)「………」

感嘆の声をあげる下の姉妹たちをよそに、内藤は黙ってクーの様子を見つめていた。
満月を見上げているようだが、表情は月明かりと薄暗さとでよくわからない。
涙を流しているかも知れなかったし、最後のプレゼントを堪能しているのかもしれない。

たった一人、真実を突き付けられ、それを押し隠す役割を背負ったクー。
内藤は、なんとか支えになりたいと勿忘草に願った。いつまでも支えてやりたかった。

今日は今年一番の熱帯夜だった。夜風が強くなってきた。
なびく忘れな草を眺めながら、五人は事件の夜明けを悟っていった。……




122 名前: ◆RF0AS80diM :2009/08/22(土) 21:10:47.11 ID:YJG+Y3R20
01.

事件は内藤も通報しなかったこともあり、結局世間からの介入はされることなく終結した。
ドクオの失踪もついには届けを出したのだが、見つかるとはクーも考えていない。
ヒーローのように去っていったと信じているキュートたちの、哀しい表情を見ているだけで
クーは胸が痛む思いがした。

川 ゚ -゚)「……いつかは、真実を告げねば…」

だが、時がたつにつれてその真実の痛みというものは増大していく。
そう考えてしまうと、真実でなく幻想を護るべきと移り変わっていきたくなる。
どうするべきなのか。
その判断は、まだクーにはつかない。


夏が逝き、親もじきに帰ってくるという9月の週末に、クーは内藤からデートを誘われた。
あの事件以来、急速に二人の仲は発展していた。クーは男としてより、信頼に足る人物、
という見方をしていたのだが、内藤は真剣にクーを愛している。

それは薄々でないくらいに察している、承知した上で、誘いを受けたのだった。

川 ゚ -゚)「ふう、やっぱ目薬はリセに限る」

支度も薄い化粧もし、似合わないフレアスカート姿のクーは、外出前に目を癒していた。
そこへ、妹たちが現れ、

o川*゚ー゚)o「ねえねえ! 内藤さんとデートなんでしょ!? どこ行くのどこ!」
lw´‐ _‐ノv「お子さんの名前は決めましたか」
ノパ听)「内藤さんなら幸せにしてくれると思うぞー!」




123 名前: ◆RF0AS80diM :2009/08/22(土) 21:16:36.96 ID:YJG+Y3R20
02.

川 ゚ -゚)「やかましいぞお前ら」

外では雨が急に降り出した。ふさわしくない天気にため息が漏れる。

o川*゚ー゚)o「やっぱ気になるじゃない! でも雨降っちゃったね」

川 ゚ -゚)「映画だから問題ない。そろそろ行くからな」

ノパ听)「お土産は当然いるぞ!」

lw´‐ _‐ノv「お子さんの名前はシュー・Jrがいい。そうだそうしなさい」

川 ゚ -゚)「じゃかあしいっちゅうんじゃ。行ってくるぞ」

o川*゚ー゚)o「ねえねえ、今日はどこまで行くの?」

川 ゚ -゚)「だから映画館だと(ry」

o川*゚ー゚)o「違うよぉ、ABCのどれ? てこと!」

川;゚ -゚)「――は? な…、お前、、お前、なぜそんな言葉を8歳が…」

lw´‐ _‐ノv「ククク」




127 名前: ◆RF0AS80diM :2009/08/22(土) 21:23:10.43 ID:YJG+Y3R20
03.

川#゚ -゚)「シュー、貴様」

lw´‐ _‐ノv「何かな。聞かれそうな予感がしたから先に答えたまでなんですがね」

川#゚ -゚)「お前が勝手に教えtノパ听)「この季節ならSEAだな! 夏明けのSEAもたまらん!!」

lw´‐ _‐ノv「ああ……Cねぇ。いいねえ」ニヤニヤ o川*゚ー゚)o「いいねえ!」

川;゚ -゚)「お、お前……お前ら……何言ってんだ え?」

ノパ听)「映画館出たら当然SEAだろ!? 夕日が出た頃に行くんだ!!」

川;゚ -゚)「C? イク? お前…ちょっともう……ヒート…お前……」

lw´‐ _‐ノv「さあさあ、時間がないですぞ。ほら傘を持って出てった出てった」ニタニタ

シューに玄関まで押されながらも、クーは、

川;゚ -゚)「おいヒート、どういうことなんだ。もっとkwsk人生について話そうじゃないか」

o川*゚ー゚)o「もー遅れちゃうよ! さあさあ楽しんできてよシーを」

川;゚ -゚)「ちょ、ちょい!」




129 名前: ◆RF0AS80diM :2009/08/22(土) 21:25:48.13 ID:YJG+Y3R20
04.

ノパ听)「SEAのお土産に焼きそば買ってきれくれー! 塩味のね!」

川;゚ -゚)「え、焼きそば? ん……しー……シー…?」

lw´‐ _‐ノv チッ

川 ゚ -゚)「(ディズニーシーのことだったのか!) いや、焼きそばなんてないだろ」

ノパ听)「あー! もう海の家は閉まってるかぁあああ!!」

川 ゚ -゚)「えっ」

・・ ・・・

そんなやり取りをし、無理やり家を閉め出されたクーは、傘を開きながら天を仰いだ。
乳白いろの空からは雨が降りしきっている。この調子では今日中に晴れることはないだろう。

川 ゚ -゚)「まずい。急がないといかん」

飛沫がうっとうしいが、多少は小走りにならざるをえない。
今日は映画を観るという名目の誘いだったが、クーは、例の事件についても相談する予定だった。

やはり、このまま真実はウヤムヤにすべきかという相談事だった。




132 名前: ◆RF0AS80diM :2009/08/22(土) 21:31:45.81 ID:YJG+Y3R20
05.

ふと横に目をやると、そこは鬱田家だった。ひと気がなく、ただ雨に濡れている。
ご家族はどう思っているのだろう。自分の息子の歪みを知っていたのだろうか。

そんなことを思いながらクーは、足をとめてひたすらに鬱田家を眺めていた。
雨音は次第々々に強くなっていく。風もビュウと吹いて、傘では対処しきれないほどだった。

川 ゚ -゚)「……ん?」

そんなとき、クーは門の向こうにひとつの影が落ちていることに気がついた。
その人影は、いかにもドクオの出で立ちだった。

子供のころ、よく工作をしていた縁側の隅で、棒立ちになっている。


('A`)


川 ゚ -゚)「に、兄さん……?」

門に近寄ると、雨も無視して格子を握る。クーは叫ぶ、

川;゚ -゚)「兄さん……あなたは、あなたは……!」

だが、そんな悲痛な声も、届いていないかのように男は反応しない。

目も合わせない。虚ろな視線でどこかを見ている。




133 名前: ◆RF0AS80diM :2009/08/22(土) 21:36:25.40 ID:YJG+Y3R20
006.

雨に打たれながら、クーは食い入るように男を見つめていた。
すると、男は突然に涙を流した。空虚な表情のままで、頬を涙で濡らしている。
声はまったくあげない。鼻をすすろうともしない。

そうして、クーが唖然とするうちに、男の姿は、陽炎のようにすぅっと消えた。

川;゚ -゚)「兄さん……あなたは、生きてるの?」

答えはかえってこない。雨はクーの身体を濡らす。化粧が崩れても、気にしなかった。


川;゚ -゚)「あなたは……何で泣いているの。どうして……」


川;゚ -゚)「あなたは……あなたは……!」


答えはかえってこない。クーもついには声をつまらせる。
落とした傘が倒れた独楽のように、ゆるく回転している。
男の姿はかえってこない。誰だったかのさえ、判別させてくれない。




――あとに残されたのは、鳴りやまない雨音だけなのでした。

                              
                   
                     (洗練されたポップ・ストーリー 終)


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