( ^ω^)達はプロフェッショナルのようです
- 3 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/21(金) 18:27:09.79 ID:vJEDK97i0
- 静けさは時計の音を増長させていた。
一切の乱れも許さず規則的に進み続ける針は、何周も、何十周も回り続ける。
そんな静寂に耐えきれなくなった一人が、ぽつりと呟いた。
( ・∀・)「暇だね」
溜息を吐くのにも飽きてしまったのか、無機質な声だった。
モララーの言葉に便乗するかのようにドクオが言う。
('A`)「寝るのはどうかな」
( ・∀・)「仮にも仕事中だよ」
('A`)「夜を越えても、誰も来ないよ」
( ・∀・)「おやおや、一体いつから君は客の来る時が分かるようになったんだい?」
('A`)「いつからだろう。それはきっと僕にも分からない」
( ・∀・)「私の言葉に対して『しりとりのように』返すのはやめてくれないか?」
('A`)「勘弁してやる。とは中々言い難いな。暇だし」
昼の客足は中々のものだったが、夜間の客は少しも見込めないのがこの店の現状だった。
一か月に一件依頼がくれば上々なのだが、もう二か月程、暇が続いている。
このような有様になってしまうのも、彼らが怠け者だからという訳ではないのだ。
しかし、ドクオとモララーの醜態を我慢出来ない者もいる。
- 5 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/21(金) 18:30:12.84 ID:vJEDK97i0
- 川д川「……死ね。五月蠅い。死ね」
( ・∀・)「おや貞子、今なにか言ったかい?」
川д川「……別に。なにも」
顔が隠れるほどに長い髪の毛を下げている女。
貞子は問いには否定しながらも、机の下で「FUCK!」と中指を立てていた。
この部屋は、真ん中に堂々と大きな丸型の机が置かれている。
それを四つに分断するかのように、四人が椅子に腰かけていた。
入口から見て右上にはモララー。左上にはドクオ。
対面、向かい合う形で右下に貞子。そして最後に左下。
从 -∀从「……グゥ」
( ・∀・)「おいハインリッヒ。起きないかハインリッヒ」
从 ゚∀从「……んぁ?」
( ・∀・)「仕事中だ。今すぐ起きろ」
从 -∀从「冗談はよせよ。休みの日くらいゆっくりさせろって……」
外見だけなら綺麗な女性。ハインリッヒは一向に起きる気配が無かった。
( ・∀・)「ははは、やっぱり起きないか。ならばしょうがないね」
モララーは笑みを浮かべ、懐から鈍く光を反射する物を取り出した。
- 8 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/21(金) 18:32:28.37 ID:vJEDK97i0
- 直後、部屋内に今までのだらりとした雰囲気を吹き飛ばす音。
ドクオと貞子は半ば呆れながら耳を塞ぎ、モララーに視線を送っている。
( ・∀・)「ははは、外しちゃったよ。あははははははははは」
ハインリッヒは椅子から転げ落ちた状態で、後ろの壁を見ていた。
真っ白な壁に、一つの小さなクレーターが出来ている。
振り向き、モララーを見直すと、高笑いしながら硝煙立ち上るピストルを構えていた。
从;゚∀从「ててててて、てめぇええええええ!!あたしを殺すきかぁああああああああ!!」
( ・∀・)「殺す気はなかったよ。頭を打ち抜く気はあったけど」
从;゚∀从「それを殺意と呼ばずして何と呼ぶ!?
もしあたしが狸寝入りじゃなくて、本当に寝てたらどうすんだこの野郎!」
( ・∀・)「なぜ狸寝入りなんてしたんだ。今が仕事中だっていう自覚は?」
从;゚∀从「人の話を聞けぇえええええええ!!」
激昂するハインリッヒを横目に、ドクオと貞子は思った。
('A`)(副所長にだけは逆らいたくない)
川д川(流れ弾を一般人に当てるように仕向けて、副所長を豚箱に送れないかしら)
しかし同じ出来事を目の前にして、二人の考えることは、ほぼま逆だった。
- 9 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/21(金) 18:34:09.88 ID:vJEDK97i0
- その時『チリン』と小さく鐘の音。
入口に設置してあるそれは、扉の開閉と同時に音を鳴らす。
つまり———
(´・_ゝ・`)「今銃声がしたようだが、取り込み中か?」
从 ゚∀从「あ……」
(´・_ゝ・`)「それならば一旦出直そうと思うが、どうなんだ?」
从;゚∀从「え、あ、そのなんだ、えーと……」
久しぶりに来た『客』の対応にハインリッヒが戸惑っていると、
その情けない姿を押し出し、モララーが客の前に躍り出た。
( ・∀・)「いらっしゃいませ。おはようございます。こんにちは。こんばんは。
まずはこちらにどうぞ」
モララーが促す場所には、ドクオが用意した椅子と、貞子が淹れた茶が置かれていた。
客が言われるがままに座ると、モララーはハインリッヒにちらりと視線を送る。
『使えない奴』という意味が込められていた。
( ・∀・)「それではお客様。今日は一体どのようなご用件で?」
全員が元居た椅子に座り直すと、モララーが切り出す。
- 11 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/21(金) 18:36:15.37 ID:vJEDK97i0
- (´・_ゝ・`)「……いや、まず初めに聞きたいのだが、ここが『VIP』で間違いないのか?」
( ・∀・)「はい。都合上、看板などは設置しておりませんが、ここが『VIP』で間違いありません。
ちなみに私は副所長のモララー。どうぞお見知り置きを」
(´・_ゝ・`)「どのような依頼でも完遂させるという噂を聞いてきたんだが……」
そう言って、客は店内及びモララー達一人一人の顔を訝しげに眺め始める。
自らの描いていたイメージとはかけ離れていたのか、強い疑念を抱いているようだった。
( ・∀・)「ははは、私共はお金さえあれば、本当に。なんでも。間違いなく。やり遂げてみせますよ。
大金を頂けるのでしたら今ここで私と貴方以外の者を殺して見せましょう」
モララーは先ほどのピストルを、もう一度ハインリッヒに向ける。
ハインリッヒは無表情だったが、客にとっては後ろのクレーターや先ほどの銃声が気に掛かり、
モララーの言うことが本気であるという結論がついた。
从 -∀从(ま、勿論、殺されそうになったら逆に殺してやるけどな)
(´・_ゝ・`)「ふむ、これはすまない。俺はデミタスだ」
( ・∀・)「デミタス様ですか。改めてお聞き致しますが、今回はどのようなご用件で」
(´・_ゝ・`)「……単刀直入に言おう。親父を殺して欲しい」
『ほう』とモララーが頷くと、デミタスはそのまま言葉を紡いだ。
- 13 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/21(金) 18:38:27.13 ID:vJEDK97i0
- (´・_ゝ・`)「俺の親父は、いわゆる大企業の社長っていう奴でな。
……って言ってもまぁ、はっきり言ってかなりブラックな企業なんだが。
親父が死ぬと莫大な財産が俺に転がり込むんだ」
( ・∀・)「言い方は悪いですが、ならばお父様が亡くなるのを待たれては?」
モララーが聞き返す。
(´・_ゝ・`)「そうしたいとこだが、実は俺にはこれまたかなりの額の借金がある。
親父に言えば肩代わりはしてくれるだろうが、恐らくそのあと勘当されちまうだろう。
借金は消えるが、財産が手に入らない」
( ・∀・)「成程。つまり今すぐお父様が死ねば財産が手に入り、借金を返すことも出来ると」
(´・_ゝ・`)「そういうことだな。だから殺す時は、俺からの依頼だっていうことがばれないようにしてくれ。
しかし俺が金に困っているっていうのは周りにはばれてるし、親父が死んだら俺が疑われるだろう。
偽装工作も含めると相当難しい依頼だ……だから相当に腕が立つというアンタ達を訪ねに来たんだ」
( ・∀・)「それは賢明なご判断かと。私達はお金さえ頂けるなら望み通りの働きを致しましょう」
朗らかに応えるモララーには、依頼が困難なものであること。
それ以前に、汚れた依頼であるということを気に留める様子は一切なかった。
(´・_ゝ・`)「……引き受けてくれるのか?」
( ・∀・)「ええ、もちろん。お金さえ頂けるのなら」
執拗にモララーが求める『金』に、僅かな違和感が芽生えるも、デミタスはそれを無視した。
- 15 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/21(金) 18:40:24.63 ID:vJEDK97i0
- (´・_ゝ・`)「前金で千だ。成功したなら財産から更に九千……足りないか?」
( ・∀・)「私共に金額設定を任せるのでしたら、その十倍は要求しますが?」
(´・_ゝ・`)「馬鹿を言うな。……いや、そうか、ということはこれで良いのだな?」
( ・∀・)「ええ、それでは」
モララーはさらさらとペンを走らせていく。
紙一面を文字で埋め尽くすと、それをデミタスに手渡した。
(´・_ゝ・`)「よし……と、これで良いんだな」
( ・∀・)「契約成立ですね。ありがとうございます」
(´・_ゝ・`)「しかしまぁ、なんだ、本当に大丈夫なのか?」
その言葉に、モララーは片眉をぴくりと動かした。
(´・_ゝ・`)「もしかして、この店はここにいる連中だけなのか?」
( ・∀・)「そうですが、それが何か?」
(´・_ゝ・`)「……はっきり言って、ここにいる連中だけで何とかなるようには思えない。
さっき言った通り、俺の親父の会社はブラックなとこだから、チャカにドスになんでもありだ。
そんな奴ら相手にどうやって———」
- 16 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/21(金) 18:42:53.59 ID:vJEDK97i0
- 『大丈夫だお』
突如聞こえた声に、それまで口を閉ざしていた者たちまでもが『所長』と声を漏らした。
状況を把握できないのはデミタスただ一人。
目の前にある黒い壁から声が聞こえたのだから、その困惑も当然。
『僕たちの辞書に不可能も失敗もないお……あ、死んだ、失敗失敗』
( ・∀・)「所長。またゲームをやってましたか。というかさっそく失敗って言ってますね」
川д川(所長のそんなとこが素敵!)
('A`)「あと僕が貸したゲームいい加減返してくださいよ」
『ハインに渡しておいたお』
从 ゚∀从「あのエロゲーなら焼き捨てておいた」
『なんと』
('A`)
デミタスの机を挟んで向い側にある黒い壁。それの正体は、大きな椅子の背もたれだった。
『所長』は椅子の裏側。つまり背を客に向けて対時していることになる。
おまけに現在進行形で無礼な態度をとりながら。
それに気付いたデミタスが、やや腹を立てて口を開こうとすると。
- 18 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/21(金) 18:45:43.14 ID:vJEDK97i0
- 『例えば!』
(´・_ゝ・`)「ッ!……なんです?」
それを見透かされたかのような所長の叫び声に、言葉を奪われる。
『例えば今、君がショットガンやサブマシンガンを持って僕に襲いかかったとする
そしたら二秒後には君の死体がここに転がっている……それくらいの力の差があるお』
(;´・_ゝ・`)「何を言って」
『更に言うなら、これ以上僕の部下を馬鹿にするような発言をするとしよう。
そうしたなら君は次の瞬間すら感じずに生を終えることになるお』
『馬鹿な』とデミタスは反論しようとした。
しかし口が開かない。
それどころか体が震え、背中には嫌な汗が流れているのに気付く。
説明ようのない拒絶反応のようなものが、デミタスの体には起きていた。
それを体は知っている。ただ心が、記憶が、経験のないそれの正体を掴めないのだ。
基本的には悠々と暮らしてきたデミタスの動物的本能というものは、かなり欠落している。
それでも、所長の発する『殺気』は、デミタスを恐怖の渦中につき落とすには十分過ぎた。
- 20 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/21(金) 18:47:40.16 ID:vJEDK97i0
- 『なんてまぁ、お客様にそんな真似をする気はないから安心してほしいお』
一転、明るい口調で言う所長に、デミタスはほっとした。
そして異常に高鳴っていた心臓に驚くことになった。
『とりあえず僕らに任せて頂ければ大丈夫だお……だって僕らは『プロ』だから』
( ・∀・)「その通りです。お金さえ頂ければ間違いありません。プロですから」
川д川(私は所長になら無料でなんでもしちゃう……)
('A`)
从;゚∀从「おいドクオっ!なんで頭に銃突き付けてんのっ!?」
('A`)
从;゚∀从「二度と手に入らない限定版!?そんなの知るかよ……ってああ!引き金に指をかけるなっ!!」
デミタスが一抹の不安を残しつつも、この店に来たのは正解だったと考えていた。
つまりそれは、モララーたちのことを信用したというのに繋がる。
同時に、心はすでに晴れやかなものだった。
もはやデミタスの瞳には借金を返済し、金に塗れて遊び狂う自分の姿しか見えていない。
財産が手に入るというのは確定した未来なのだ。
実の父を間接的に殺すということに対しての罪悪感は、無かった。
- 22 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/21(金) 18:53:12.46 ID:vJEDK97i0
- 外観は極一般的な商社の、一般的な規模のビルだった。
しかし中に入り、厳重な審査を行うロビーを抜け、仕事場へ向かうとその考えは一変することとなる。
右手には怒鳴り声をまき散らし、脅迫電話を続ける社員。
更に奥には、注射器や小さな入れ物を恍惚とした表情で管理、分配する者。
左手を見れば、休憩所と思わしき場所で愛用の銃を磨く者がいる。
ここはデミタスの父が経営する会社、『ラウンジ』。
常人が見れば卒倒するような仕事場の風景が、この場では普通なのである。
そして最上階最深部の部屋、悪趣味な装飾品に囲まれ、一人の老人が呟く。
/ ,' 3「ここ最近の噂……知っとるか?」
その老人こそ、デミタスの父であり、この会社の主であるアラマキ。
アラマキの問いに、二人の側近が答える。
川 ゚ -゚)「私は存じません」
('、`*川「私もです」
/ ,' 3「そうか……ふむ、ところでお前、こっちに来るが良い」
側近の内の一人が、呼ばれるがままに傍に寄る。
('、`*川「な、なんでしょうか?」
/ ,' 3「……今日はいい天気じゃな」
- 23 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/21(金) 18:55:15.17 ID:vJEDK97i0
- アラマキの言葉にペニサスは当惑した。
その真意がまるで掴めない。
しかし何も言わぬままでいる訳にはいかず、『そうですね』と当たり障りない返事をする。
/ ,' 3「ほれ、窓の外を見るが良い」
('、`*川「え、ああ、はい」
ペニサスが窓から外を覗くと、確かにこれ以上ない晴天だった。
壁一面をそのまま取り換えたかのような窓から見える景色が、一層輝かしくなっている。
感想をアラマキに伝えるべく、振り向こうと思った時、ペニサスの後頭部に硬い感触が伝わった。
('、`;川「え……」
/ ,' 3「ペニサスはのぉ、高所恐怖症だったんじゃ」
/ ,' 3「こんな景色を見ようものなら足が竦み、眩暈を起こすじゃろうて。
それなのに、どうして今日は平気なのか?」
('、`;川「それは、その……」
ペニサスは身体の芯が沸騰するような熱さと、相反するかのような冷たさを同時に味わっていた。
ようやく訪れた体の震えは、高所恐怖症によるものでは決してない。
弁明の言葉を絞り出し、ようやく口に出そうとする。
- 25 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/21(金) 18:57:12.76 ID:vJEDK97i0
- ……しかし、何も言えぬまま、ペニサスは地に伏せることになった。
頭を貫通した弾は防弾ガラスの窓に当たり、「からんころん」と床に転がった。
アラマキは死体に目もくれず、自席に着く。
/ ,' 3「片付けろ」
川 ゚ -゚)「かしこまりました」
もう一人の側近、クーは目の前で起きた惨状にも一切感情を露わにせず、無表情のまま作業に取り掛かる。
クーが死体の顔を引っ張ると、ずるりと皮のようなものが剥ぎとれる。
それはペニサスの顔を模倣したマスクであった。
/ ,' 3「ペニサスは中々仕事が出来る奴だったのじゃが、実に惜しい」
川 ゚ -゚)「いつからだったのでしょうか」
/ ,' 3「今日からじゃろう。ワシに変装の類は通用せん」
川 ゚ -゚)「……そうですか」
クーは黒い袋に死体を詰め込み、それを閉じる。
そしてゴミを扱うように、部屋の外へと投げ捨てた。
- 27 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/21(金) 18:59:41.58 ID:vJEDK97i0
- / ,' 3「さて、先ほどの話じゃが、噂については聞いておるか?」
川 ゚ -゚)「社員たちに出回っている話でしょうか」
/ ,' 3「そうじゃ、なんでも哀れな者共がワシの財産を狙っておるとか。
……実に小賢しい。この会社から、このワシから、金を盗めるとでも思っておるのか」
川 ゚ -゚)「可能性は零に等しいでしょう」
/ ,' 3「先ほど程度の者でどうにか出来ると思って———」
アラマキが言葉を言い終える間もなく、激しい音が部屋中に轟く。
何事かと目をやると、窓が砕け散り、ガラスの破片が飛び散っている。
先ほどよりも鮮明に見えるようになった外の景色に、しばし唖然としてしまう。
そんな状態を現実に引き戻したのは、連なる声である。
( ・∀・)「死ぬかと思ったね。流石に」
('A`)「疲れた」
川д川「……上手く飛べて良かった。本当」
ハンググライダーのような格好をした三人だった。
これも現実離れしていることに変わりはないが、一週回って冷静にならざるを得なかった。
- 28 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/21(金) 19:01:45.24 ID:vJEDK97i0
- / ,' 3「クー、構わん、殺せ」
川 ゚ -゚)「…………」
クーは一切の動きも見せず、ただ震えていた。
/ ,' 3「おい、クー」
川 ゚ ∀゚)「……ぶっ」
/ ,' 3「……なに?」
川 ゚ ∀゚)「ぎゃっはっはっはっはっはっはっ!!
お前らマジ、それはないわ!! 馬鹿すぎるだろ!!」
そして、一転して顔を崩し、その場に転げまわる勢いで笑いだす。
彼女のそのような一面を未だかつて見たことのないアラマキは、当然のように困惑した。
更に一つの疑問が生まれる。
考えたくはなかった。
しかし、今の状況はその考えたくもない事態を明確に表している。
即ち、
/ ,' 3「貴様、まさか……!!」
- 29 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/21(金) 19:04:23.79 ID:vJEDK97i0
- 川 ゚ ∀゚)「よーやく気付いたのか、全くこっちは笑いこらえるのに必死だったんだぞ」
川 ゚ -゚)「ワシに変装の類は通用せん」
川 ゚ ∀゚)「とか言っちゃってるんだもん、腹筋ブレイク5秒前って感じぃ!?」
煮えたぎるような怒りが体の内に芽生えるも、それを言葉にすることが出来ない。
自分の目には確かな信頼を持っていた筈だった。
他人の誤魔化しは容易く見抜ける自信があったし、これまでの実績がそれを証明している。
アラマキは現状が信じられない。そして、それ以上に屈辱的だった。
/ ,' 3「お前、一体いつから……!?」
クーはアラマキに、残酷にも現実を突きつけるかのようにマスクを脱ぐ。
ハインリッヒのにやけ顔が姿を現した。
从 ゚∀从「はっ、もう二週間くらいずっと成り済まさせて貰ってるよ。
ちなみに本物のクーちゃんは監禁中だけど、もしかしたら死んでるかも」
( ・∀・)「大丈夫だよ。ちゃんと水は上げてるから」
从 ゚∀从「……だってよ、安心したかい、お爺ちゃん?」
そんなハインリッヒの兆発に、アラマキはため息をついて返す。
/ ,' 3「よもやこのような小娘に……!」
- 32 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/21(金) 19:07:04.72 ID:vJEDK97i0
- 从 ゚∀从「それはしょうがねぇよ、あたしは『騙し』のプロだからな!」
ハインリッヒは手を広げながら自慢げに言い、貞子が『うぜぇ』とぼそりと呟いた。
从 ゚∀从「お前の言う変装と、あたしがやる変装では、言葉が同じでも意味がまるっきり違う。
容姿や服装を変えるくらいでは全然駄目だ。
まずは相手の性格、言動、思想、趣味嗜好、全てを知った上で完璧になりきる」
さらに、と続け。
从 ゚∀从「騙す相手の思想も知っておくといい。
いくら本人になりきったとしても、騙す相手の印象とずれていたら何の意味もない。
二人の思考を完全に理解した上で、ようやく容姿や声といった五感を騙すことに移る」
いくら説明されようとも、アラマキには本質的な部分での理解が出来なかった。
そのような行いは『不可能』という認識が根底にあり、脳が理解を拒んでいるのだ。
从 ゚∀从「ちなみに俺は声帯をいじくって声を変えることも出来る。
流石にこれは他人には真似できねぇだろ?」
そして『あーそうだ』と何かを思い出したかのように言い、
从 ゚∀从「そうそう、さっき小娘って言ったけど、あたしはれっきとした『男』だ。
……な、あたしが『騙し』のプロだって信じてくれただろ?」
- 33 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/21(金) 19:08:46.20 ID:vJEDK97i0
- ( ・∀・)「さて、今度は私の番ですね」
ハインリッヒの語りが終わると、今度はモララーが言葉を繋ぐ。
( ・∀・)「ここ二週間で、この会社を徹底的にハインリッヒに調査してもらいました。
だけど一つ見つからない場所がある。それはこの会社の金庫です」
アラマキはその言葉に反応を見せたが、それは本当に極僅かなものだった。
アラマキがこの状況下で未だ余裕を見せ続ける理由はそこにある。
/ ,' 3「……ふん、ワシは心配症でな、このような場所に保管しておくにはいかんのだ」
( ・∀・)「そう!問題はそこにあるんです!」
モララーはアラマキをびっと指差し。
( ・∀・)「貴方はとても心配症です。そして同時に酷い自己心酔でもある。
自分以外は誰も心の底から信用しようとはしない。
そんな貴方だからこそ、金は目の届く場所に保管している筈なんです」
ならば、と今度は身を翻し。
( ・∀・)「調査は会社全域を行い、その結果、一つの違和感を発見しました。
この壁の向こうはトイレがあるはずなんですが……場所がある筈なのに小さすぎるのです。
ならば余ったスペース。この社長室とトイレの間の空白の箇所には一体なにが存在するのか?」
- 35 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/21(金) 19:10:51.17 ID:vJEDK97i0
- その場から逃げだしたい気持ちにアラマキは駆られた。
しかし逃げ場など与える気もないと、モララーは間髪入れずに言葉を紡ぐ。
( ・∀・)「その答えは……さぁドクオ、頼むよ」
('A`)「僕の番か……でもさ、これくらい別に僕じゃなくても」
从 ゚∀从「いいから、さっさとやらんと限定版弁償してやらんぞ」
('A`)「なんという傍若無人……僕は間違いなく被害者……」
老人が立ち上がるかのような、ゆったりとした仕草でドクオが立ち上がる。
そしてハンググライダーに括りつけてあった鉄鎚を取り出し、壁を眺める。
('A`)「僕は『破壊』のプロ。そう言われれば乱暴に聞こえるけど、実際はそうじゃない」
すると、幼子に触れるかのように壁を撫で始める。
何かを調べているような、ただ単に愛でているだけのような、優しい手つきだった。
('A`)「僕には物体の声が聞こえる。その物体をよぉく理解出来る。
一番壊れやすい場所を探して、それから物体に壊れてくれるようにお願いする。
後は力は要らない。今までお疲れ様って言って、これで刺激してあげるだけだ」
/ ,' 3「何を……!?」
('A`)「じゃあ……お疲れ様」
- 36 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/21(金) 19:13:44.20 ID:vJEDK97i0
- ドクオはバットのスイングのように鉄鎚を振り、壁に衝突させた。
『ゴ』と鈍い音が響き、静寂が訪れる。
何も起きる気配がなかったのでアラマキは口を開きかけたが、その時変化が訪れた。
壁一面に、鉄鎚が触れた地点から一瞬にして罅が広がった。
幾何学的な模様が描かれたかのような壁面は、どこか美を感じさせる。
しかしそれは崩壊の前の全長に過ぎず、罅の模様は、確かに一瞬のものだった。
轟音。同時に壁が埃を巻き上げて崩れ落ちた。
('A`)「僕は『破壊』のプロ。物を壊すっていうだけならきっと誰よりも上手いと思う。
だけど実はそんな自分が好きじゃない……だって壊しちゃったら全て終わりだもの。
だから本当はずっとゲームして生きてられればなって思うんだ」
崩壊した壁の向こう、無造作に置かれた金塊。
更に札束がぎっしり詰まっているであろうアタッシュケースに、宝石の納められた小箱も多数ある。
紛れもない、アラマキの全財産であった。
('A`)「さっき防弾ガラスを壊したのも僕。銃で何発か撃って壊した。
『防弾』だけあって苦労はしたけど、まぁ僕に出来ない訳もない……って誰も聞いてないか」
その言葉の通り、誰もが目を奪われ、言葉を聞く暇もなかった。
『VIP』のドクオ以外の面々は楽しそうに、アラマキは青ざめた表情で金を見ていたからだ。
- 37 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/21(金) 19:16:19.41 ID:vJEDK97i0
- ( ・∀・)「という訳でアラマキさん、どうでしょう?」
予定通りに事を運んだモララーは、手を備えたお辞儀をしながらそう言った。
紳士のような振る舞いであったが、実際やっていることは、やくざなものだった。
( ・∀・)「そうそう、私は『計画犯罪』のプロ。
と言っても実際は『VIP』の頭脳部分を任されているといった所でしょうか。
他の者は見ての通り、ちょっとネジが外れているようなものばかりでして」
从 ゚∀从「お前も十分ぶっ飛んでるだろーが」
( ・∀・)「おまけに口も悪く、顔も悪けりゃ性格も最悪、ああ嫌だ嫌だ」
从 ゚∀从「おい、てめー今のはあたしのことか、ああん!?」
( ・∀・)「ははっ、来るなら来いよ、カマ野郎」
それは言ってはならんと、ハインリッヒがモララーに飛びかかる。
そんな喧騒にアラマキですら呆れていると、部屋の外も賑やかになってきた。
( ・∀・)「おや、下っ端がやって来るみたいですね」
/ ,' 3「……そ、そうだ、お前らなんぞワシの部下たちが……」
- 38 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/21(金) 19:17:11.41 ID:vJEDK97i0
- 川д川「あの……」
アラマキの背後から恐る恐るという風に、細く白い手が伸びる。
身体をびくりとさせたアラマキが、驚愕の瞳で尋ねる。
/ ,' 3「い、いつからそこに!」
( ・∀・)「そんなことはどうでもいいじゃないですか。
まずは彼女の紹介をしなければ。
彼女は貞子。『工作』のプロ。喋るのが苦手なので私が代弁いたしましょう」
川д川(でしゃばんなよモララー……)
そんな貞子の心中における恨みごとなぞ露知らず。
……いや、見越した上でモララーは語る。
( ・∀・)「私たちの武具や、先ほどのハンググライダーなどは全て彼女の自主制作になっております。
そんじょそこらの工場で作った物では太刀打ちできない機能性ですよ?」
/ ,' 3「馬鹿な……」
とうとう部下たちも痺れを切らしたのか、扉に衝撃が走った。
無理やり突き破ろうとしているのだろう。
しかし貞子は髪の毛の下で、にぃと顔を歪ませた。
- 42 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/21(金) 19:19:04.56 ID:vJEDK97i0
- 川д川「一つ言い忘れてることがあるわよ……」
( ・∀・)「おや、なんだったかな?」
川д川「私がとってもお茶目だってこと」
瞬間、扉が吹き飛んだ。
これは部下たちの体当たりの衝撃によるものではない。
扉がこじ開けられ、そして仕掛けられた『罠』により『爆破』されたのだ。
最前列にいや部下の数名はその爆発に巻き込まれ、重軽傷を負った。
衝撃に壁に叩きつけられた者、皮膚が焼けただれている者、吹き飛ばされた人という弾丸に激突した者。
そのどれもに共通しているのは、何が起きたのかも理解出来ぬまま意識を刈り取られたことだった。
川д川「……さっき、なっがい話をアンタ達がしてたから……その最中に、ね」
从 ゚∀从「にしても、これはお茶目ってレベルじゃねぇだろ……」
川д川「可愛い女の子がやれば許されるのよ……女の子だけに許された特権……」
从#゚∀从「それをあたしに向かって言うか!?ああん!?」
- 43 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/21(金) 19:20:39.46 ID:vJEDK97i0
- 爆発の影響か、天井から幾多の砂や破片が降り注ぐ。
その中において、アラマキはようやく毅然とした態度を取り戻していた。
/ ,' 3「遊びはここまでにしよう」
無傷の部下たちが部屋に押し入る。
社内の全ての人が集結したと思わせるほどの数。軽く三十人はいるだろうか。
そしてモララーたち一人一人を羽交締めにした。
从 ゚∀从「おろ」
('A`)「あちゃあ」
川д川「いたっ」
( ・∀・)「おやおや」
/ ,' 3「……お前たちの目的はこのワシの金じゃろう。
しかし場所を見据えた程度でどうにかなると思うたか?」
( ・∀・)「そう思っています」
/ ,' 3「阿呆が」
モララーの頬にアラマキの唾が飛ぶ。
怪訝そうな顔をしてモララーは睨み返した。……そうすることしか出来なかった。
- 44 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/21(金) 19:22:39.12 ID:vJEDK97i0
- / ,' 3「賊如きが舐めおって」
川д川「……そんなことよりこれ痛い」
/ ,' 3「殺せ」
発言は許さないと言わんばかりにアラマキの名言が下される。
貞子を羽交締めにしていたのとは別の部下の一人が、容赦なく拳銃の引き金を引いた。
乾いた音の後には、頭部から血を流し、だらりとして動かなくなった貞子の姿。
( ・∀・)「……あちゃー」
/ ,' 3「登場の派手さは認めるが、その先は何も考えていなかったのか?」
( ・∀・)「考えてはあったのですが……困りましたね」
/ ,' 3「稚拙な考えではその程度じゃろう」
( ・∀・)「いえ、そういうことではなく……」
- 46 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/21(金) 19:25:09.19 ID:vJEDK97i0
- ( ・∀・)「誤差無し。まさかここまで上手くいくとは」
/ ,' 3「……なに?」
突如、『貞子の死体から』ピンク色の煙が噴き出す。
誰もがうろたえ、訳も分からないうちに、その煙は部屋内に充満してしまった。
視界は完全に塞がれ、嗅覚さえも封じられてしまった。
慌てふためく喧噪のせいで、聴覚さえ使い物にはならない。
手探りで他者に助けを呼ぶのも無駄だと、アラマキには伏せる以外の適切な行動が見当たらなかった。
「な、なんじゃ、一体何が……」
「このタイミングがですね、ベストだったんですよ。
貴方がたが我々を捉え、勝利を確信して油断するこの時が」
「黙れ黙れ黙れ!誰かそいつを……!!」
アラマキの叫び声は、空しく響く。
でかでかとした窓が割れていたせいか、大量に湧き続けた煙も、僅かな時をもって姿を薄めていく。
少しずつ自由になっていく視界の中で、アラマキは不可解な光景を見た。
- 47 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/21(金) 19:27:35.51 ID:vJEDK97i0
- / ,' 3「なん、だ?」
残されたいたのは、モララーとドクオとハインリッヒ。
そしてそれを押さえている数名の部下たち。
それ以外の人間が地面に倒れ、ぴくりとも動こうとはしなかった。
呻き声すら聞こえず、自らそうしている訳でもなさそうだった。
ただ倒れている。恐らくは死んでいる。
三十もの数の人間が、僅か数分の間に肉塊へと変えられていた。
そして放置されたような人の山々の中に、見覚えのない人の姿があった。
( ^ω^)「こんにちは、ですお」
/ ,' 3「は?」
思わず、言葉にもならない声が漏れていた。
その男は人懐こいような笑顔を浮かべ、アラマキに歩み寄る。
無邪気。そんな言葉が自然と思い描かれるような、それほどに柔らかとした雰囲気。
敵意など微塵も感じさせず、このまま抱きつかれようとも疑問はさほど抱かないだろう。
- 48 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/21(金) 19:29:10.68 ID:vJEDK97i0
- そう思っていたはずなのに。
/ ,' 3「近寄るな!」
( ^ω^)「お?」
叫び終わってから、自分が何を言ったのかに気付く。
足は自然とその男と距離をとるように動き、心臓が妙に高ぶる。
体が異常を来したのか。とにかく意味が分からない。アラマキは混乱に陥っていた。
('A`)「所長」
( ^ω^)「ああ、そうか、まずは君たちが先だったお」
『所長』が進路を変え、ドクオの方へと歩く。
アラマキ側にとっては未だ正体不明に変わりなく、部下はドクオを押さえたまま後ずさる。
不気味なものを感じつつも、そのまま壁際へと追い詰められた。
( ^ω^)「お疲れ様だお」
('A`)「ほんと、今回は疲れました」
所長がドクオ越しに、部下の頬を叩く。
『ぱん』と心地良いような音が響き、そして部下の首が百八十度回転した。
- 52 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/21(金) 19:31:55.47 ID:vJEDK97i0
- 「え」と、その他の部下たちは目を丸くした。
あまりに自然だった。
ごとりと崩れ落ちた人の姿が自然過ぎた。
その倒れ様も、首がずれたかのような動きも、まるで人形そのものだった。
しかし、二度、三度と見直す度にそれの異常性を認識していく。
首が本来あるべき方向のま逆を向いている……確認する必要もなく、即死。
たかが平手打ち一発で、即死。
「ああああああああああああああああああああああああああ!!」
残された二人はモララーとハインリッヒを解放し、発狂するように叫ぶ。
次にその無残な姿に変えられるのは自分たちだと予期したのだ。
ピストルを所長に構え、そして。
「死ねッ!死ねッ!死ねッ!!」
躊躇なく引き金を引き、弾を乱射する。
その『死ね』は相手を縮こまらせるような脅しではない。
殺せと自分に言い聞かせる、鼓舞。
あるいは死んでくれと願う、懇願だった。
- 53 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/21(金) 19:33:58.66 ID:vJEDK97i0
- (;^ω^)「ちょっ、おちけつ」
弾丸が嵐のように降り注ぎ、所長の体のすれすれを通り過ぎる。
決して狙いが疎かになっているのではない。紙一重のところで避けられている。
洋服を掠めようとも、その肉体を貫くことは、無い。
「ああああああぁぁあああぁあああああっっ!!」
既に半狂乱。涙を浮かべながら撃ち続ける。
流れ弾や跳弾がアラマキにあたる可能性は思い浮かびもしない。
ただ死にたくないという想いが、体をピストルを撃つ機械にする。
そしてようやく空間に描かれた血飛沫。
安堵の溜息がこぼれ、しかし———
( ^ω^)「落ち着いてって、言ったのに……」
その赤の出所は、二人の部下の腹部。
所長の両の手がそれぞれを貫通していて、拳大の肉片が背後の壁に『びちゃり』と付着する。
血に染まる笑顔が目の前にある。口の端を大きく釣り上げている。
それを最期に、部下二人は完全なる闇に陥ったのだった。
- 54 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/21(金) 19:37:44.63 ID:vJEDK97i0
- ( ・∀・)「所長の手際には惚れぼれ致します」
('A`)「ほんと、人間とは思えない」
从 ゚∀从「ね、気持ち悪いよな」
(;^ω^)「お前らそれはちょっち酷くないかお……」
アラマキは、もはや考えを止めていた。
どうする事も出来ない。そうなる運命なのだ。
そうして達観する他に、するべきことなど見当たらなかった。
( ・∀・)「貞子のお手製自動人形はどうでした?
ちなみに言うならペニサスの偽物も人形だった訳ですね。
流石は工作のプロだと褒めてやってはいかかがです?」
モララーの言葉は、耳に届いていなかった。
/ ,' 3「……殺すのか、ワシを」
( ・∀・)「そうですね。都合上、皆殺しが一番良いと思うので」
/ ,' 3「ワシは……この会社を……息子に……」
アラマキの遺言とも言うべき言葉が紡がれる。
「テンプレ的悪役の死にざまだな」とハインリッヒが毒を吐くと。
- 55 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/21(金) 19:39:45.91 ID:vJEDK97i0
- ( ^ω^)「あ、なんだ、まだ一人いたのかお」
そう言って、所長は拾ったピストルでアラマキを撃ち殺した。
老体は崩れ落ちるとあまりにも小さく、惨めだった。
('A`)「うわーお」
从 ゚∀从「ちょっ、所長、空気読めって」
( ^ω^)「えっ、だって僕の仕事は皆殺しじゃ……」
( ・∀・)「仮にも相手のボスですよ。少しは話くらい聞いておくべきです」
(;^ω^)「そんなぁ。聞いたところでなんの意味が」
( ・∀・)「仁徳です。そんなだからキチガイ言われるんです」
(;^ω^)「ええー……」
从 ゚∀从(実際、キチガイだしな)
死体の海の中で、彼らは談笑する。
一仕事やり終えた開放感か、いますぐに宴会を始めそうな雰囲気すらあった。
- 56 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/21(金) 19:42:13.57 ID:vJEDK97i0
- (´・_ゝ・`)「これは……すげぇな、おい」
そんな時に、一人の来訪者。
デミタスは死臭漂う現場に、鼻をつまみながら足を踏み入れた。
( ・∀・)「おや、デミタス様。どうなされましたか?」
(´・_ゝ・`)「お前たちの仕事っぷりを見に来たんだが……これはたまらん」
デミタスは死体を蹴飛ばし、道を作る。
仏に対する礼儀は一切弁えていない様子だった。
(´・_ゝ・`)「おおおおおお、これだ、この金だ!!
この糞親父、俺にもどこに隠してるか教えてくれなかったんだ!」
从 ゚∀从(うっわー、絵に描いたかのような屑だなぁ)
父の死体を踏みつけ、デミタスは莫大な金を眺めて恍惚とする。
軽く見積もっても、一生を十回以上遊んで暮らせる程の金額はあるだろう。
いかにして使いきってやろうかという妄想が膨らみ、脳内にはアドレナリンが分泌される。
デミタスは興奮状態にあった。
(´・_ゝ・`)「昔から偉そうにふんぞり返って大っ嫌いだったが、こうして金を残してくれる所だけには感謝だな。
有り難く遺産は受け継がせて貰う」
札束の一つを取り出し、軽く口付けをする。
自分のものだという、確約の意味も込めていた。
- 58 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/21(金) 19:44:01.03 ID:vJEDK97i0
- ( ^ω^)「……ねぇモララー、僕はこいつを殺した方がいいんじゃないかお?」
すると、所長が突然言った。
( ^ω^)「ほら、さっき言ってた仁徳がうんたらって奴。
親父さんの最期の想いとは裏腹に、こいつはこんなにも屑なんだし」
从 ゚∀从「おおう、人を殺そうとするのが仁徳なんですか。
ていうかその最期の想いを、思いっきりぶったぎったアンタじゃないですか」
すかさずハインリッヒの突っ込みも入ったが、気にしない。
(´・_ゝ・`)「……なんだこいつは。この前はいなかったぞ」
( ^ω^)「僕はブーンだお。一応『VIP』の所長やってるお」
(´・_ゝ・`)「所長……?ああ、あの時の」
そこで、デミタスはこの男に恐怖を抱いていたことを思い出す。
そうなれば、この惨状を生み出したのも、必然的にブーンであると推測される。
つまり歯向かうのは危険。そう判断した。
(´・_ゝ・`)「これはすまない。失礼な態度を」
( ^ω^)「え、あ、いや、僕はそれについてはいいんだけども」
- 59 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/21(金) 19:45:47.97 ID:vJEDK97i0
- (´・_ゝ・`)「だが、考えを改めるつもりはない。世の中は金だ」
デミタスは両手を大きく広げ、演説をするかのように言う。
(´・_ゝ・`)「飯を食うのにも、家に住むのにも、女をはべらすのにも、必要なのは金だ。
要は生きるのには金が必要だってことだ。
命とは金。世界中の人が裕福なら争いだって起きないだろう?」
そして、と続け。
(´・_ゝ・`)「俺が金を手に入れるには親父を殺すしかなかった。
必然、この結果は必然だった。そうなるべくしてなったんだ。
俺と同じ立場になったら、恐らく誰もが同じような方法に思い至ったはずだ」
(;^ω^)「む、むぅ」
(´・_ゝ・`)「親父だって、きっと金を第一にしていたからこそ、これだけの金を掴めたんだ。
死体に敬愛するより、現実的に金に目をやった方が、親父自身も喜ぶだろうさ」
(;^ω^)「だからといって、死体を踏みつけて良いことには……」
(´・_ゝ・`)「この金に、俺が真の所有者だと見せつけてやるのさ」
(;^ω^)「そ、そういうもんかお」
('A`)(所長、上手く丸めこまれちゃったなぁ)
普段、副所長であるモララーが客の対応を行っているのは、ブーンの口下手が故だった。
- 61 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/21(金) 19:47:49.21 ID:vJEDK97i0
- ( ・∀・)「ええ、ええ!確かに世の中は金ですとも!!」
すると、モララーが喜々として叫ぶ。
从 ゚∀从「そうだな、金だよ。金がなけりゃあ始まらねぇ!」
追従してハインリッヒも高々と言う。
('A`)「僕もお金大好き」
ドクオがうっとりとして、呟く。
川д川「ワタシモ、オカネ、スキ」
壊れかけの貞子人形がのそりと起き上がり、機械音声を漏らした。
( ^ω^)「まぁ、僕もお金好きだお……じゃないとこんな仕事やらないし」
最後に、ブーンが便乗する形で本心を言葉にする。
兎にも角にも金なのだと、『VIP』の面々は言った。
(´・_ゝ・`)「そ、そうか……まぁ頼んだ通りの金はやる、安心しろ」
そんな掛け合いを不気味に思い、早く立ち去ってほしいのか、デミタスにモララーは金を投げやる。
契約金よりも若干多いのは、その想いのせいだった。
- 63 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/21(金) 19:50:01.92 ID:vJEDK97i0
- ( ・∀・)「ひぃふぅみぃ……確かに、依頼完了をここに宣言させて頂きます。
またのご利用をお待ちしております」
「二度と頼むか」とデミタスは思いつつ、ブーンらが去るのを待つ。
しかし、彼らはいっこうにその場から動こうとはしなかった。
(´・_ゝ・`)「……まだ何か用があるのか」
( ・∀・)「いや実はですね、少し前に一通の手紙を貰いまして」
(´・_ゝ・`)「それがどうした」
( ・∀・)「実はですね、依頼状だったんですよ、その手紙。
だから、その依頼も今ここで完遂させておこうかなと」
(´・_ゝ・`)「いったい、何の話……」
デミタスが疑問を投げかけようとすると、ブーン達が一歩、歩み寄る。
まるで逃がさんとばかりに。獲物は逃がさないとでもいうかのように。
この瞬間、ふとデミタスの背筋に、冷やかな衝撃が走った。
- 65 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/21(金) 19:52:44.12 ID:vJEDK97i0
- (;´・_ゝ・`)「まさか……」
( ・∀・)「アラマキ様の依頼でしてね『財産を奪おうとする者を殺して欲しい』と。
実はアラマキ様は贔屓にして貰っている方でしてね。
実際に会ったことはないのですが、手紙や秘書を通して、何度もお仕事をさせて頂いているんですよ」
(;´・_ゝ・`)「俺を、殺そうというのか……?」
( ・∀・)「はい。ただ今を持ってデミタス様の依頼を終了し、アラマキ様の依頼に移らせて頂きます。
アラマキ様は死んでしまいましたが、なんと都合よくそこにアラマキ様の金があるではないですか」
「アラマキを殺したのはお前らだろう」などという言葉は何の意味ももたない。
今はっきりとしているのは、自身が追い詰められているということだけだった。
从 ゚∀从「当然、はいそうですか、ってお前が渡してくれるはずはないよなぁ」
('A`)「じゃあ、方法は簡単」
川д川「コロシテデモ ウバイトル」
( ^ω^)「あっ、そこで僕の出番かお、何も教えてくれないんだから」
愉快愉快という風な口調が、一層デミタスの怒りを増加させた。
(;´・_ゝ・`)「ふっ、ふざけるなよ、誰がこの金を渡すか……」
( ・∀・)「そりゃそうですよ、私たちだってそのつもりはありません」
- 66 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/21(金) 19:54:08.94 ID:vJEDK97i0
- 意外な言葉に、デミタスは耳を疑った。
しかし、その気持ちはすぐに覆されることになる。
( ・∀・)「どうぞ依頼してください。『アラマキ様の依頼をなかったことにしてください』と。
その依頼金はそうですね……そこにあるお金全てで丁度というところでしょうか」
(;´・_ゝ・`)「ばっ、馬鹿なことを言うな!」
( ・∀・)「私は大真面目ですよ。信頼ある我々が依頼を破棄するのですから、それくらいの金が積まれなくては。
そうなされないのでしたら、貴方を殺し、所有権のなくなったその金を私達が頂くことにしましょうか」
(;´・_ゝ・`)「貴様ら……!」
そこで、ブーンが口を挟む。
( ^ω^)「安心してくれお。君が金を選ぶというなら、僕たちは金に手をつけないお」
デミタスは当然のように疑問を抱き、モララー達も「何言ってるんだ」とブーンを責める。
しかしそのなかでブーンはへらへらと笑い、自分の考えを述べ始めた。
( ^ω^)「改めて自己紹介するお。僕は『VIP』の所長のブーン。『殺し』のプロだお。
腕前については御覧の通りだから、保証してくれお」
(´・_ゝ・`)「だから、なんだ?」
- 68 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/21(金) 19:56:48.24 ID:vJEDK97i0
- ( ^ω^)「殺しのプロってことは、殺さない方法も知ってるんだお」
理解しがたい発言に、デミタスは怪訝な顔つきで返事した。
すると、なおも嬉しそうにブーンが言う。
( ^ω^)「つまり、死なない程度に君を甚振れるってことだお。
爪を一枚一枚ゆっくりと剥がすかお?塩酸を粘膜にたっぷりと塗りつけるかお?
目に焼けた鉄棒を突っ込んでとろとろになるまで掻きまわすかお?
……どれもきっと楽しいお!」
きらきらとして瞳で語るのは、どす黒く邪な悪意。
表情とのギャップを、初めは感じていた。
しかし、今となっては笑顔こそがどんな表情より薄気味が悪いのだと、考えを改められていた。
从 ゚∀从「所長の拷問は恐いぞ〜、何しろ楽しそーにニッコニコしながらやるんだから」
('A`)「凌辱エロゲーマニアだしね……」
川д川「ワタシ、ショチョーニナラ、サレタイ」
場を仕切り直すように、モララーが言う。
( ・∀・)「という訳で、どう致しましょうか。
金を失って命を得るか、莫大な金を所持したまま所長に拷問され死ぬか」
モララーが二本指を掲げ、選択を迫る。
- 71 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/21(金) 20:01:01.09 ID:vJEDK97i0
- ( ・∀・)「二つに一つ、どちらを選んでも得る者は同じ価値を持っています。
そうでしょう?だって、『命とは金だ』と先ほど言われましたしね」
(;´・_ゝ・`)「悪魔だ……お前らは……」
( ・∀・)「悪魔ですって?一体何を言うんでしょうか!」
大袈裟なリアクションをとり、モララーは語り出す。
( ・∀・)「私たちは依頼通りに行動するだけです!
アラマキ様を殺したのも、こうして貴方を殺そうとしているのも、全ては依頼の為!
そして今ここで本当に貴方を殺すかどうかも、依頼されるかどうかなのですから!」
つまり、と両手で顔を覆い。
( ・∀・)「私どもは哀れな羊。従順なるままにお客様の命令に従うだけ。
意志などなく、必要とされるのは『プロ』として依頼をこなす技量のみ!!
……あぁ不幸不幸、一度は自由に生きてみたいものです!」
おいおいと泣くような仕草で、言葉は締めくくられた。
- 72 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/21(金) 20:01:41.96 ID:vJEDK97i0
- ('A`)「よくもまぁ、そんなにすらすら言葉が出てくるもんだよ」
( ^ω^)「僕はけっこう自由に生きて」
从 ゚∀从「はい所長ストップー、それ以上言うのはダメー」
川д川「モエ」
そのモララーの挙動のせいか、デミタスは何かの舞台を見ているのではないかという錯覚に陥る。
しかしこれは現実。抗うことの出来ない、現実。
- 74 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/21(金) 20:08:07.17 ID:vJEDK97i0
- (´・_ゝ・`)「分かった……依頼する……。
『親父の依頼を破棄してくれ』……報酬はこの金全部だ……」
( ・∀・)「おお、素晴らしいご決断です」
苦渋の決断。しかし、やはり生きることこそ第一。
結局は言葉だけだった。金よりも何よりも、命が大事だった。
( ^ω^)「これだけの金があれば、なんでも出来るんじゃないかお?」
从 ゚∀从「遊び放題キタコレ!」
('A`)「ヤフオクで限定版も買い放題……」
川д川「アタラシイ、ハツメイ、シチャウ」
( ・∀・)「……とりあえず、今日の夕御飯はジンギスカンで」
( ^ω^)('A`)『賛成!!』川д川从 ゚∀从
何が『私たちは羊だ』と、デミタスが小さく呟いた。
- 75 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/21(金) 20:08:52.81 ID:vJEDK97i0
- ビルとビルとの隙間に出来た影の中に、その店はあった。
『VIP』というこの店。
今日も通常通りに営業中。
从 ゚∀从「客こねー」
( ・∀・)「宣伝してくればいいじゃないか。その美貌で」
从 ゚∀从「おい、いま美貌の後に(笑)付けやがっただろ」
('A`)「りんご。ごりら。らっぱ。ぱんだ。だんす。すり。……りんご」
川д川「一人しりとりとかキモッ……」
('A`)
( ^ω^)「お前ら喧嘩ばっかするなお……」
呆れた果てて言ってはみたが、誰も注意に従おうとはしない。
仕方ないのでブーン自身もゲームを始めてしまい、場の騒がしさは増すばかり。
そして、ブーンがゲーム画面に視線を送ったまま言った。
- 77 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/21(金) 20:10:11.99 ID:vJEDK97i0
- ( ^ω^)「あんだけ稼いだのにまだ働かせてすまんお」
( ・∀・)「……何を言ってるんですか」
('A`)「僕たちが大好きなのはお金」
川д川(と、所長)
从 ゚∀从「何よりも金稼ぎを優先させるに決まってる、だろ」
( ・∀・)「それこそ、命よりもね」
( ^ω^)「……うん、うん!!
その時『チリン』と小さく鐘の音。
入口に設置してあるそれは、扉の開閉と同時に音を鳴らす。
つまり———
- 79 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/21(金) 20:11:05.62 ID:vJEDK97i0
-
『いらっしゃいませ。おはようございます。
こんにちは。こんばんは。
本日は一体どのようなご用件で?』
( ^ω^)達はプロフェッショナルのようです
-
-
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